より理解を深める!アシドーシス・高カリウム血症

05
vol.
2012
第57回(社)
日本透析医学会学術集会・総会 ランチョンセミナー9
2012年6月22日 ロイトン札幌 2階 ハイネス
(第9会場)
より理解を深める! アシドーシス・高カリウム血症
司 会 :平方
秀樹
先生(福岡赤十字病院 副院長)
演題1:透析期CKD患者のアシドーシス・高カリウム血症の診断
柴垣 有吾
先生(聖マリアンナ医科大学病院 腎臓・高血圧内科 准教授)
演題2:保存期腎不全患者への治療
鶴屋 和彦
Hideki HIRAKATA
―アシドーシス・高カリウム血症対策―
先生(九州大学大学院医学研究院 包括的腎不全治療学 准教授)
Yugo SHIBAGAKI
Kazuhiko TSURUYA
慢 性 腎 不 全で は、腎 機 能 低 下 の 進 行 に伴って、高
なる。本 セミナーで は、まず 聖 マリアンナ医 科 大
腎 不 全 治 療 学 准 教 授 の 鶴 屋 和 彦 先 生 に、保 存 期
カリウム(K)血 症・アシドーシスが 問 題となり、保
学 病 院 腎 臓・高 血 圧 内 科 准 教 授 の 柴 垣 有 吾 先 生
の 腎 不 全 治 療 にお けるアシドーシス・高 K 血 症 の
存 期 のうちから十 分 に対 策を講じていく必 要 があ
に、透析期 CKD 患者におけるアシドーシスおよび
対 策 に つ いて、ナトリウム 型 イオン 交 換 樹 脂 製 剤
る。また、慢 性 腎 臓 病(CKD)患 者で は、尿 中 K 排
高 K 血 症 につ いて、その 病 態 や 病 的 意 義、心 臓 突
ケイキサレートの有用性を最新の知見と臨床のご
泄 が 低 下しているた め、K 排 泄 経 路としての 便 中
然 死 のリスクなどをわ かりや すく解 説してい た だ
経験をもとにご講演いただいた。
排泄による効率的な体内の K 除去が重要な課題と
いた。続いて、九州大学大学院医学研究院包括的
演題1 透析期CKD患者のアシドーシス・高カリウム血症の診断
演者:聖マリアンナ医科大学病院 腎臓・高血圧内科 准教授 柴垣
カリウム(K)は高値でも低値でも
死亡率は上昇
日本透析医学会(JSDT)の統計調査によると、透析前
と、全死亡のハザード比は、無調整モデルでは 6.0mEq/L
も約 1.7 を示している
(図 1)。しかし、これを低栄養、炎
図1.血清K値と全死亡のハザード比
血症(K 中毒)による死亡が 3%近く存在することは驚く
べき事実といえる。
わが国における血清 K 値の基準値は 3.3 ∼ 5.0mEq/L と
されており、透析患者における突然死が発生する確率が
最も低いのは約 5.0mEq/L である。それより高値でも低値
でも死亡する確率は上昇するという海外の報告もある 1)。
同様の結果がほかにも報告されており、血清 K 値が
5.5mEq/L を超える高 K 血症は透析患者における死亡リ
2
無調整モデル
調整モデル*
調整モデル*+MIA症候群
で調整したモデル
20000
血液透析患者(新患および既患)
(n=74,219)
15000
1.5
10000
頻
度
高水準と言われる日本の透析医療をもってしても、高 K
Yugo SHIBAGAKI
を超えるとほぼ 1.5 を上回り、4.0mEq/L より低い場合で
全死亡のハザード比
患者の 4 人に 1 人は高 K 血症である。さらに、世界最
先生
スクを著明に上昇させるという報告もある。それによる
の血清 K 濃度が 6.0mEq/L 以上の透析患者は 10%強で、
5.5mEq/L 以上の透析患者は全体の 25% を占め、透析
有吾
5000
1
0.9
<4.0
4.0-4.29 4.3-4.59 4.6-4.99 5.0-5.29 5.3-5.59 5.6-5.99 6.0-6.29
血清K値
0
>=6.3
(mEq/L)
*年齢、性別、人種、民族、糖尿病、透析歴、保険(老人医療保険、医療扶助制度、民間保険ほか)、婚姻状態(既婚、未婚、離婚、
ひとり暮らしほか)、エントリー後四半期における透析施設の標準化死亡比、喫煙、エントリー後四半期における腎予備能、
Kovesdy CP et al.: Clin J Am Soc Nephrol 2; 999, 2007
single pool Kt/vで調整
症、貧血が合併した MIA 症候群の有無で調整した場合、
るが、MIA 症候群合併透析患者の栄養療法開始に伴う低
mEq である。1 回約 4 時間の血液透析(HD)
で体重 1kg
血清 K 値が 4.0mEq/L より低い場合の死亡率上昇の程
K 血症も予後予測因子として理解することができる。この
あたり 1.5 mEq の K が除去され、便から体重 1kg あたり
度は低下する。つまり、低 K 血症が予後悪化を予測する
ような患者では透析液 K 濃度は高くすべきかもしれない。
1 日 0.3mEq の K が排泄されていることから、透析患者
のは状態の悪い患者に限られるともいえる。
腹膜透析
(PD)
、在宅血液透析
(HHD)
、持続的腎代替療
に勧める一日の K 摂取量は体重 1kg あたり約 1mEq と
法
(CRRT)
では高 K 血症よりむしろ低 K 血症の発生頻度が
なる
(図 3)。とはいえ、透析患者にとってこれは容易で
高く、予後に影響を与える可能性がある。特に今後増加が
はなく、ケイキサレートのような薬剤を使って便からの K
見込まれる HHD では、より低 K 血症のリスクが増大するこ
排泄を促進することが必要になる。
とが予想され、透析液の K 濃度を検討していく必要がある。
腎機能が正常であれば便からの K 排泄は全 K 排泄の
Refeeding症候群の
ハイリスクである透析患者
MIA 症候群のような栄養状態が悪い透析患者では低
K 血症のリスクが問題になることがあるが、プライマリケ
アを中心としたクリニックなどの日常診療では透析前の
5 ∼ 10%程度とされるが、透析患者では 20%を超える。
最も重視すべきは、接合部調律・高度徐脈
したがって、便秘や腸管運動障害では高 K 血症のリスク
が高くなる
(図 4)。
血清 K 値が高い患者が多く、透析液の K 濃度は低いほ
透析患者の高 K 血症は、心電図上の変化としてあらわ
腸管の K 排泄にはアンジオテンシンⅡ受容体タイプ 1
うが死亡率は低下する傾向がある。しかし、大学病院な
れ、血清 K 値が 6.0 mEq/L を超えると約 50% が T 波の
(AT1 受容体)が関与しており、透析患者に対するレニン・
どの基幹病院における入院患者では、低 K 血症を呈す
対称性増高、PR 間隔・QRS の延長など、何らかの変化
アンジオテンシン系(RAS)抑制薬の安全性をめぐって議
る透析患者が少なくなく、透析前の血清 K 値が低い患者
をきたすことが知られている。しかし、実測血清 K 値と
論が繰り広げられているが、現状では無尿透析患者に対
に、K 濃度の低い透析液を使っていると死亡率は上昇す
T 波増高から推測した高 K 血症の一致度を調べた結果、
するアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオ
る傾向があり、注意が必要である。
血清 K 値 7.2 ∼ 9.4mEq/L でも T 波増高から高 K 血症を
テンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の単独あるいは併用投与
また、高度の低栄養状態の患者に、急激にブドウ糖を
予測できなかったとする報告もある 2)。透析患者の T 波
による血清 K 濃度上昇の報告はほとんどない。また、無
与えると、ブドウ糖と一緒に K が細胞内に移行し、急性
増高の判定は難しく、T 波の高さは K 濃度よりカルシウ
尿透析患者に対する抗アルドステロン薬の投与は K 負
の低 K 血症を引き起こすが、これを Refeeding 症候群と
ム
(Ca)濃度に左右されるとも報告されている 3)。
荷後の血清 K 濃度、便中 K 排泄に影響を及ぼさなかっ
いう
(図 2)。Refeeding 症 候 群 は、低リン(P)血 症、低
私は、臨床現場で最も重視すべきは、洞停止に伴う P
たことが報告されている 4)。
マグネシウム(Mg)血症もみられ、不整脈、心不全、乳
波の消失による接合部調律・高度徐脈と捉えている。透
酸アシドーシスなどによる突然死を起こすことがある。
析患者で 30bpm 程度の徐脈を呈する場合、高 K 血症を
古くは豊臣秀吉の鳥取城兵糧攻めで知られる病態であ
疑うべきである。また、高度な高 K 血症ではまれに急性
り、兵糧攻めによって降参した敵陣に、食料を与えたら
四肢麻痺が発生することがあり、脳梗塞などとの鑑別を
次々に死亡したという逸話が残っている。
意識下に置いておくことも必要だろう。
透析患者は Refeeding 症候群のハイリスク患者として、
K、P、Mg などのモニターが必要となる。すなわち、透析
患者で高頻度にみられる高 K 血症は予後悪化因子であ
ブドウ糖の投与によって
高K血症を予防
K の細胞内シフトは高 K 血症の急性調節として重要であ
り、K の細胞内への移動はベースの血清 K 値が高いと効率
便からのK排泄促進が必要
図2.Refeeding症候群とは
Refeeding症候群
高度の低栄養状態の患者に対する
急激なブドウ糖負荷による
急性の低K/P/Mg血症
不整脈・心不全・乳酸アシドーシス
などによる突然死
・豊臣秀吉の鳥取城兵糧攻め
・日本の第2次世界大戦捕虜の食事再開後の急激な心不全
Schnitker MA et al.: Ann Intern Med 35; 69, 1951より作図
図3.無尿透析患者のK除去能(摂取可能量)
・透析によるK除去能(4時間HD)
1.5mEq/kg体重/回
(典型的には血清K濃度は透析開始後の最初の1時間で
1mEq/L、次の2時間でもう1mEq/L低下)
が低く、低値であるほど高効率である。このため、日ごろ
からの K 制限が重要である。K が細胞内へ移動する因子
K は 全 体 の 98 % が 細
として、カテコラミンとインスリンが重要な働きをしており、
胞内にあり、細胞外液に
カテコラミンの中でもβ2 受容体刺激によって K は細胞内
分布するのは 2%に過ぎ
に移動するが、近年のβ受容体遮断薬はほとんどがβ1 選
な い。細 胞 外 液 の K 濃
択性の薬剤であり、血清 K の移動はほとんどないといえる。
度 が 高 くな ら な い よう
一方、インスリンは細胞外へ漏れ出る K を細胞内に留
に、通 常、K は 尿 や 便 か
まらせる働きがある。絶食などによってインスリンの分
ら排出されるが、無尿透
泌が抑制されると K は細胞内から細胞外へ移動して K
析患者では透析で排出
濃度が上昇する。腎不全の病態においてはカテコラミ
しなければならない。体
ンのβ作用減弱、インスリン抵抗性によって、それぞれ
重 60kg の無尿透析患者
の作用が弱まっている。そのため、透析患者で手術前
の場合、細胞内液の K 総
など絶食が必要な場合は、インスリン分泌を刺激するブ
量 は 約 3,600mEq で、細
ドウ糖、あるいはインスリンも併せて投与することによっ
胞 外 液 の K 総 量 は 48
て高 K 血症を予防することが必要である。
図4.無尿透析患者における腸管でのK排泄の重要性
無尿透析患者では便K排泄が血清K値維持の生命線
・腎機能正常では便はK排泄の5∼10%程度を担っているのみ。
・透析患者では便はK排泄の∼25%を担っている。
便秘や腸管運動障害(Uremia、DM)では高K血症リスク
・便からのK排泄
0.3mEq/kg体重/日
・腸管でのK排泄にはAT1受容体が関与し、アルドステロンは
Hatch M et al.: Am J Physiol 274; F275, 1998より作図
関与していない?
Hatch M et al.: Pflugers Arch 436; 717, 1998より作図
約1mEq/kg/日
透析患者のRAS抑制薬の安全性は?
状を踏まえ、血清 HCO3‒値を改善するべきか、RCT など
‒
血清重炭酸イオン(HCO3 )値
代謝性アルカローシスも
<18mEq/Lの代謝性アシドーシスは 予後悪化要因
腎不全以外が原因
による検討の必要性があるだろう。
代謝性アシドーシスの病的意義を考えるうえで、骨
腎 不 全 患 者 に お ける代 謝 性アシドーシスは、糸 球
ミネラル 障 害、成 長 障 害、アミロイドーシスなどに加
体 濾 過 量(GFR)が 30mL/ 分 以 下 で 有 意 に 出 現し、
え、近年、筋萎縮、栄養障害などの弊害も注目される
‒
静脈血液ガスによる
血清HCO3‒値測定の有用性
多くは 軽 度 から中 等 度(pH>7.2、血 清 HCO 3 値:12
ようになった(図 6)。さらに、透析前の血清 HCO 3‒値
なお、アシドーシスの評価について、静脈血液ガスと
∼ 20mEq/L)の状態であることが分かっている。透析液
が低い患者ほど冠動脈石灰化が多く認められるという
動脈血液ガスでは血清 HCO3‒値の測定値に差がないこ
中には HCO3‒が 35mEq/L 含まれており、これがアルカリ
報 告 が 注目を集 めている(図 7)。因 果 関 係 につ いて
とを明らかにした研究結果が報告されており
(表)、われ
‒
‒
の供給源となり、透析によって血清 HCO3 値>18mEq/L
は今後の検討が必要だが、透析前の血清 HCO 3 値に
われも静脈血液ガスによる血清 HCO3‒値の測定を行っ
になる。透析患者で血清 HCO3‒値が 18mEq/L を下回る
ついては注意すべきである。透析前の血清 HCO 3‒値と
ている。動脈血液ガスの測定は動脈穿刺によって行わ
ような代謝性アシドーシスは、腎不全以外の原因を考え
死亡リスクの関係について検討した報告によれば、全
れるが、静脈血液ガスの測定はその必要がなく簡便であ
‒
る必要がある
(図 5)。
血液透析患者では、蛋白摂取量の増加、体重増加によ
‒
る体液貯留で透析前の血清 HCO3 値が減少する。体内で
死亡のハザード比は血清 HCO3 値が 18.0 ∼ 18.9mEq/L
る。また、静脈血液ガスと動脈血液ガスを比較して、二
の場合に最も低い(未調整)
ことが明らかになっている 5)。
酸化炭素分圧が、動脈血液ガスが高い場合は呼吸性ア
し か し、MIA 症 候 群 の 有 無 で 調 整 す る と、血 清
シドーシスであるなど、末梢の循環不全のスクリーニン
‒
の酸の産生過程で、蛋白質以外の栄養素は基本的には炭
HCO 3 値が低い方の死亡リスクが高くなり、透析前の
グも可能となり、その利用価値は高い。
‒
酸ガスと水として呼気中に排出される。しかし、蛋白質の
血 清 HCO 3 値 は 24mEq/L 程 度 に 近 い 方 が い いと示
血液ガス以外の測定法としてアニオンギャップ(AG)
うち不揮発性の硫酸やリン酸は尿中に排出されるため、
唆される。
の観点から、次のような計算式で血清 HCO3‒値を算出す
無尿例では透析中にこれらを排出しなければならない。
一方、MIA 症候群のような栄養状態が悪い透析患者
る方法についても言及しておきたい 6)。
ところで、食事の観点から電解質の摂取形態を現代人と
では動物性蛋白質の摂取ができず、代謝性アルカローシ
‒
・Na−Cl−AG(12±2)=HCO3(AG
正常アシドーシス)
古代人を比較すると興味深い事実が浮かび上がってくる。
スを呈する例がある。代謝性アルカローシスも予後を悪
‒
・Na−Cl−P−7=HCO3(AG
上昇アシドーシス)
ドングリなど木の実を中心に食べていた古代人では、ほと
化させる要因として重要である。
今後、アシドーシス、高 K 血症を早期に、的確に診断
んどが蛋白質とそれに含まれる有機酸 Kというかたちで取
このような 背 景 の な か、各 臨 床ガイドラインで は、
するための検討を進めながら、増え続ける透析患者の
‒
り入れられることが多かった。これに対して、現代人は電
透 析 患 者 の 血 清 HCO 3 値 につ いて次 のように推 奨し
健 康 寿 命を延 ばし、QOL を向 上させるた め の 方 策を
解質としての塩化ナトリウム
(NaCl)
を取り入れている。こ
ている。
探っていくことが肝要である。
ういった違いが現代人と古代人の病気の差として現れてい
・KDOQI-USA:血清総 CO2 値>22mEq/L
ると考えられる。たとえば、ナトリウム
(Na)
の負荷以上に
・UK-Guidelines:
引用文献
1)Pun PH et al.: Kidney Int 79; 218, 2011
2)Montague BT et al.: Clin J Am Soc Nephrol 3; 324, 2008
3)Aslam S et al.: Nephrol Dial Transplant 17; 1639, 2002
4)Menon MK et al.: Nephrol Dial Transplant 16; 2207, 2001
5)Wu DY et al.: Clin J Am Soc Nephrol 1; 70, 2006
6)廣瀬幸恵ほか:透析会誌 43; 919, 2010
‒
血清 HCO3 値:20∼26(HD)/25∼29(PD)mEq/L
クロール
(Cl)
負荷によって血圧が上昇する。食事で塩分を
・CARI-Australia:血清 HCO3‒値>22mEq/L
多く摂るとCl が増加し、体内は酸性に傾く。Cl 濃度の高い
輸液製剤、透析間の体重増加の過多は、腎不全患者にお
JSDT の調査で、わが国では透析前の血清 HCO3‒値は
ける高度の代謝性アシドーシスを考えるうえで重要である。
20 mEq/L 以下が全体の 4 割を超えている。こうした現
図7.血液透析患者における冠動脈石灰化と透析前血清HCO3‒値
透析患者における高度アシドーシスでは
腎不全以外の原因を考える必要がある
5
r=‒0.329
p<0.0009
4.5
4
︵ 1+CACS︶
Log
・GFRが30mL/分以下で有意に出現
・多くは軽度から中等度
pH>7.2、血清HCO3‒値 12∼20mEq/L
・GFRが10を大幅に割り込むまではアニオンギャップは上昇しない
・透析患者では透析液からのアルカリ供給にて血清HCO3‒値>18となる
#
図5.腎不全患者における代謝性アシドーシス
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
12
14
16
18
20
22 (mmol/L)
透析前血清HCO3‒値
図6.慢性代謝性アシドーシスの弊害
#CACS:冠動脈石灰化スコア
Oka M et al.: Ther Apher Dial 16; 267, 2012
骨ミネラル障害
表.静脈血液ガスと動脈血液ガスの比較
アミロイドーシス
成長障害
ABG
pH
慢性代謝性アシドーシス
VBG(CV血)
A-V
7.37
7.34
0.027
2 mmHg)
PCO(
38.4
42.3
-3.8
3 mEq/L)
HCO(
22.4
23.2
-0.80
Treger R et al.: Clin J Am Soc Nephrol 5; 390, 2010改変
栄養障害
耐糖能障害
ABG-VBG(上腕)
pH
筋萎縮
腎障害
0.035
2 mmHg)
PCO(
-6
3 mmol/L)
HCO(
-1.4
Kelly AM: Emerg Med Australas 22; 493, 2010より作図
Kraut JA, Madias NE: Nat Rev Nephrol 6; 274, 2010
VBG:静脈血液ガス ABG:動脈血液ガス
演題2 保存期腎不全患者への治療
―アシドーシス・高カリウム血症対策―
演者:九州大学大学院医学研究院 包括的腎不全治療学 准教授 鶴屋
和彦
先生
Kazuhiko TSURUYA
分布を変える治療。もう 1 つは、体内に蓄積した K を体
には限界がある。ケイキサレートを投与すると、腸管内
外へ排出させる治療である。
の K+ はケイキサレートの Na+ と交換され、ケイキサレー
致死的不整脈の予防など、緊急時の治療としては、ま
トに 吸 着される(図 10a)。吸 着され た K+ は ケイキ サ
体内の K 総量は 3000mEq で、1 日に 25 ∼ 60mEq を
ずグルコン酸カルシウムを静注する。グルコン酸カルシ
レートとともに体外に排出され、腸管内の K+ は減少す
摂取し、尿として 20 ∼ 50mEq、便から 5 ∼ 10mEq を排出
ウムは K の心筋毒性に拮抗し、毒性を減弱する。効果
る。それにより、血液中から大腸内に K+が移動し、血中
する。細胞内 K は 100mEq/L、血清 K 値は 3.5 ∼5.0mEq/L
発現は 1∼5 分と早いが、持続時間も 30 分∼ 2 時間程
K 値が減少する
(図 10b)。ケイキサレートを継続的に投
が正常値である。
度と短いため、一過性の救急処置になる。続いて、細胞
与することにより、大腸内の K+ 排泄が連続的に行われ、
K の体内総量は、腎臓の集合管で調整される。アルド
外液の K を一時的に細胞内に移行させる炭酸水素ナト
高 K 血症が改善する。
ステロンによって血中のカリウムイオン
(K+)が尿中のナ
リウム(NaHCO3)の静脈内投与やグルコースインスリン
トリウムイオン(Na+)
と交換され、集合管へと排出され
(GI)療法がある。効果発現までの時間は、NaHCO3 は
る。また、細胞内外での K+ の分布は、酸塩基平衡のア
約 5 ∼ 10 分、GI 療法は 30 ∼ 60 分かかり、持続時間は
シドーシスによる K+ の排出、インスリンとカテコールア
NaHCO3 で数時間、GI 療法で 6 ∼12 時間とされる。
ミンによる K+ の取り込みにより規定される
(図 8)。
体内の K を除去していく治療として、イオン交換樹脂
ケイキサレートの臨床効果を検討するために、CKD
高 K 血症の病態には、腎不全などで体外への排泄が
の投与がある。経口で投与するが、緊急治療時には注
患者 33 名を対象に、ケイキサレート投与前後の血清
減りK 総量が増えてしまう場合と、K 総量は増えていな
腸投与もできる。約 1g の交換樹脂で 1mEq/L の K が体
K 値 および 血 清 Na、クロー ル(Cl)、リン(P)値 などで
いにもかかわらず、アシドーシスなどにより細胞内から
外へ排泄される。なお、以前はソルビトールで懸濁して
計算される推定血清重炭酸イオン(HCO 3‒)値 6)の変化
細胞外に K が流出する場合がある。たとえば、血液 pH
注腸していたが、近年、ソルビトール併用による腸管壊
を調べ、Wilcoxon の符号順位検定で解析したところ、
が 7.4 のときには血清 K の正常値は 4.0mEq/L だが、も
死が報告されており、注腸・経口にかかわらず、ソルビ
ケイキサレ ート投 与 前 後で、血 清 K 値 は 5.6±0.5 から
し仮に pH7.0 まで下がれば、K 総量が正常であっても血
トールを併用しないよう注意が喚起されている。
4.5±0.5mEq/L(p<0.0001)
と有 意 に 低 下し、推 定 血 清
清 K 値は約 6.8mEq/L まで上昇する
(図 9)。
イオン交換樹脂製剤には、カルシウム(Ca)型イオン
HCO3‒値は 20.9±2.6 から 24.1± 2.7mEq/L
(p<0.0001)
と
CKD では、高 K 血症はあまり初期からは生じないと考
交換樹脂のポリスチレンスルホン酸カルシウムと、ナト
有意に上昇した(図 11)
。このことから、ケイキサレート
えられる。CKD ステージと高 K 血症の相関について 210
リウム
(Na)型イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸
には副次的にアシドーシスを補正する作用があることが
万人を調べた研究では、高 K 血症(K≧5.5mEq/L)はス
ナトリウム(ケイキサレート)がある。ポリスチレンスル
示唆された。ケイキサレート投与前後の推定血清 HCO3‒
テージ 3 から増加しはじめ、ステージ 4、5 では急増する
ホン酸樹脂に対するイオン親和性は、Na+<K+<カルシ
値と血清 K 値の変化量の相関を調べたところ、推定血清
カリウム(K)代謝と
慢性腎臓病(CKD)の密接な関係
2+
ケイキサレートの副次的な
アシドーシス補正作用
2+
傾向があると報告されている 7)。特に、近年よく用いら
ウムイオン
(Ca )
と Na+ の方が K+、Ca と比べて低いた
れているアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アン
め、ケイキサレートのほうが K+ とイオン交
ジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)などの投与患者で
換しやすく、K+ 交換能が高いと考えられる。
は、高 K 血症の頻度が上昇する。単剤投与はもちろん
同じグラム数であればポリスチレンスルホ
のこと、併用ではさらに上昇するといわれている。一方、
ン酸カルシウムよりもケイキサレートのほう
血清 K 値が同程度の患者同士を比較した場合は、CKD
が K+ との交換効率が高い。
HCO3‒値が上昇するほど血清 K 値は低下することが明ら
図8.細胞内外K分布に変化を生じる機序
アシドーシス
ステージが高いほど相対的な死亡リスクは低くなる。こ
れは、腎不全患者では血清 K 値が高い状態に耐性がで
きているためと考えられる。
インスリン
カテコールアミン
細胞内
H
ケイキサレートの作用機序
+
Na+
H+-K+
exchanger
腎不全患者では、主たる排泄経路であ
Na+-K+
ATPase
る腎臓からの K + 排泄ができないため、大
高K血症の治療
K+
腸 内 へ の K + 排 泄 が 代 償 的 に 亢 進してい
高 K 血症の治療には、大きく2 種類の治療がある。1
る。しかし、大腸での K + 排泄は電気化学
つは、体内の K 総量を変えることなく、細胞内外の K の
的勾配に沿った受動輸送であり、その能力
図9.血清K値、血液pHおよび体内K総量/容量比変化の関係
(mEq/L)
7.0
6.0
血清K値
5.0
4.0
a
b
Na+
Kay
K+
K+
K+
K+
Na+
3.0
Kay
Na+
0
+10
+20(%)
Kay
K欠乏または過剰の百分率
B.H.スクリブナー著、柴垣昌功訳:体液−電解質バランス 臨床教育のために 中外医学社, 1971
Kay
:ケイキサレー
ト
K+
K+
Na+
2.0
Kay
K+
K+
K+
K+
-10
K+
図10.ケイキサレートの作用機序
.0
pH7 .1
7
7.2
7.3
7.4
7.5
7.6
7.7
8.0
1.5
-20
細胞外
K
K+
K+
+
K+
K+
かになった。ケイキサレートのアシドーシス補正機序は、
また、我々が行った検討では、ケイキサレート投与前
効成分量として同等量をクロスオーバー法で 3 ∼ 4 週間
腸管内でケイキサレートから放出された Na+ と 腸管内の
後 で、収 縮 期 血 圧 は 140±21 か ら 138±22mmHg
ずつ投与し、各薬剤投与終了時の臨床検査値を Paired
HCO3 が反応して炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)が発生
(p=0.7073)
、拡 張 期 血 圧 は 75±14 から 76±28mmHg
t-test で解析している。その結果、ケイキサレート ®ドラ
し、この NaHCO3 が腸管から吸収されてアシドーシスを
(p= 0.3847)、体重は 61±12 から 61±12kg
(p=0.6237)
イシロップ群ではポリスチレンスルホン酸カルシウム製
‒
補正しているという仮説が考えられている
(図 12)。さら
と有意な変化は見られなかった。
剤 群 に 比 べ、投 与 終 了 時 の 血 清 K 値 は 4.5±0.1 vs.
に、蛋白質の分解で生じたアンモニア
(NH3)は水素イオ
福岡赤十字病院の満生先生らは、保存期腎不全患者
4.8±0.1mEq/L(p<0.05、n=19)
と有 意 に 低 値 で あり、
ン(H+)
と反応してアンモニウムイオン(NH4+)になり、ケ
28 例を対象にポリスチレンスルホン酸ナトリウム製剤
血清 HCO3‒値は 24.8±0.8 vs. 21.7±1.0mEq/L
(p<0.001、
イキサレートに吸着されて体外へ排泄されていると考え
(ドライシロップ剤:ケイキサレート ®ドライシロップ)
と
n=18)
と有 意 に 高 値 で あった。ま た、収 縮 期 血 圧 は
ポリスチレンスルホン酸カルシウム製剤(ゼリー剤)
を有
135.6±3.8 vs. 133.9± 4.5mmHg(n=16)、拡張期血圧
られる。
は 75.1±3.2 vs. 70.8± 3.6mmHg
(n=16)
、体重は 55.9±2.2
‒
図11.ケイキサレートの投与前後の血清K値と推定血清HCO3 値の変化
推定血清HCO3‒値(mean±SD)※
血清K値(mean±SD)
(mEq/L)
7.0
*
5.6±0.5
vs. 55.7± 2.2 kg
(n=14)
と有意差は認められなかった。
(mEq/L)
32
4.5±0.5
*
24.1±2.7
20.9±2.6
Na型イオン交換樹脂製剤は
浸透圧に影響しない
6.5
30
6.0
28
5.5
26
5.0
24
製剤または Na 量として同量の塩化ナトリウム(NaCl)や
4.5
22
NaHCO3 を加え、リンゲル液の K 濃度、浸透圧の変化を
4.0
20
比較検討されている。その結果、Na 型イオン交換樹脂
3.5
18
製剤を加えると添加量に応じて K 濃度が低下し、浸透圧
3.0
鳥居薬品研究所で Na 型イオン交換樹脂製剤と浸透
圧の関係について、リンゲル液に Na 型イオン交換樹脂
に変化は認められていない。一方、NaCl や NaHCO3 を
16
投与前
投与後
(n=33)
投与前
*:p<0.0001
(Wilcoxonの符号順位検定)
投与後
(n=33)
加えた場合は、K 濃度は変化せず、浸透圧は添加量に応
※:血清Na値−血清Cl値−血清P値−7
じて有意に上昇している
(図 13)。このことから、Na 型
イオン交換樹脂製剤であるケイキサレートは浸透圧に影
図12.ケイキサレートによるアシドーシス補正作用の想定機序
響しないと推察される。
我々の検討や満生先生の報告で、ケイキサレートは、
タンパク質
(消化管)
分解
(上部∼小腸)
(肝臓)
NH3
H2O+CO2
CA
NH4+
ケイキサレート
(Na-resin)
尿素回路
2NH3
+H+
HCO3
H+ + HCO3
‒
尿素
‒
H2N
O
C
NH2
+2H20
Na+
NaHCO3
アシドーシス補正
収縮期血圧や拡張期血圧、体重変化に影響を与えな
かったが、NaCl や NaHCO3 と異なり、ケイキサレートは
浸透圧に影響を与えないことが、このような結果に繋
がったと示唆される。
また、塩酸試液(pH=2)に Na 型イオン交換樹脂製剤、
または Na 量として同量の NaCl や NaHCO3 を加え、塩酸
(大腸∼)
試液の pH の変化を比較した同様の研究では、Na 型イ
オン交換樹脂製剤は NaCl を添加したときに比べ、有意
に pH が上昇した。これは、Na 型イオン交換樹脂製剤で
NH4-resin 排泄
CA:carbonic anhydrase(炭酸脱水酵素)
監修:医療法人社団望星会 望星病院 院長 北岡 建樹先生
あるケイキサレートの副次的なアシドーシス補正作用を
示唆するものであり、今後、さらなる解明が求められる。
図13.Na型イオン交換樹脂製剤の電解質・浸透圧への影響(
(mEq/L)7.5
6.83
6.94
6.88
6.97
6.72
350
**
6.05
Na-resin
***
5.79
ケイキサレート
*:p<0.05 **:p<0.01
***:p<0.001
vs. Na添加量 0mg/mL
paired t-test
***
5.16
NaCl
330
***
317.3
320
0.1
0.2
0.4
0.6
Na添加量(n=6)
Na-resin:Na型イオン交換樹脂製剤
0.8
(mg/mL)
***
345.7
***
330.8
NaHCO3
***
315.7
***
*** 301.2
293.3
*** Na-resin
***
300
ケイキサレート
293.2
301.0
289.7
286.5
288.3
290
310
289.2
286.8 287.5
280
5.0
0
***
349.5
***
334.0
340
浸透圧
K濃度
*
6.41
***:p<0.001
vs. Na-resin(同Na添加量)
paired t-test
6.94
NaHCO3
6.57
6.0
7.02
6.96
6.91 6.92
6.69
6.5
5.5
腎不全進展阻止について
(mOsm)360
NaCl
7.0
)
0
0.1
0.2
0.4
0.6
Na添加量(n=6)
0.8
(mg/mL)
鳥居薬品株式会社 社内資料
近年、NaHCO3 の投与が腎機能障害の進展を抑制す
ることが注目されている。CKD ステージ 4、5 の CKD 患
者 134 名 に 対し NaHCO3 投 与 に より血 清 HCO3‒値 を
23mEq/L に補正した群と補正しなかった群で 2 年間経
過を追ったところ、非補正群では 12 ヵ月経過したころか
ら経時的にクレアチニン・クリアランス
(Ccr)が低下した
のに対し、補正群では Ccr の低下が緩やかで、非補正群
と比べ 18 ヵ月後、24 ヵ月後に有意差が認められた 8)。
さらに、補正群では非補正群に比べ、透析導入の割合
が減少した。NaHCO3 投与によるアシドーシスの改善
が、腎不全の進展予防になったと考えられる。
CKD 患者の血清 HCO3‒値と予後の関係を検討した研
究では、血清 HCO3‒値が高いほど死亡、透析導入、糸球
体濾過量
(GFR)
低下の複合エンドポイントが経年的に低下
することが明らかになっている
(図 14)
。これらの報告から、
イキサレート投与前後の eGFR の変化を調査した
(図 15)
。
CKD 患者においてアシドーシス改善による予後改善効果
CKD 患者のアシドーシスは改善すべき病態と考えられる。
その結果、ケイキサレート投与後には、eGFR の変化量
が明らかにされている。そのため、高い血清 K 低下作用
我々は、ケイキサレート投与を開始するまでの 6 ヵ月間
は 0 近 くに ま で 有 意 差(Wilcoxon 符 号 順 位 検 定:
や副次的にアシドーシス補正作用を有するケイキサレート
で、CKD の 進 行 速 度を示 す 推 定 GFR(eGFR)の 低 下 が
p<0.01)
を持って改善した。
は、CKD 患者の診療において有用な薬剤だと考えられる。
2.0mL/ 分 /1.73m2 以上の CKD 患者 7 症例について、ケ
CKD 患者では K の管理がきわめて重要である。近年、
引用文献
図14.CKD患者における血清HCO3‒値と予後の関係
死亡・透析・GFR低下の複合エンドポイント
1.00
透析・GFR低下の複合エンドポイント
6)廣瀬幸恵ほか:透析会誌 43; 919, 2010
7)Einhorn JM et al.: Arch Intern Med 169; 1156, 2009
8)Brito-Ashurst LD et al.: J Am Soc Nephrol 20; 2075, 2009
1.00
血清HCO3‒値(<20mmol/L)
(n=47)
血清HCO3‒値(20-24.9mmol/L)
(n=388)
血清HCO3‒値(25-29.9mmol/L)
(n=599)
血清HCO3‒値(>29.9mmol/L)
(n=60)
0.75
血清HCO3‒値(<20mmol/L)
(n=47)
血清HCO3‒値(20-24.9mmol/L)
(n=388)
血清HCO3‒値(25-29.9mmol/L)
(n=599)
血清HCO3‒値(>29.9mmol/L)
(n=60)
0.75
Log-rank test p≦0.001
Log-rank test p≦0.001
0.50
図15.ケイキサレート投与前後のeGFR変化量の変化
(mL/min/1.73m2)
4.0
2.0
0.50
p=0.0078
(Wilcoxonの
符号順位検定)
n=7
0.0
-2.0
0.25
0.25
0.00
0.00
-4.0
-6.0
0
1
2
経過
3
4
(年)
0
1
2
経過
3
4
(年)
Raphael KL et al. Kidney Int 79; 356, 2011
-8.0
-10.0
開始前
開始後
注意:本剤2包
(3.27g/包×2)
はケイキサレート散1包
(5g)
に相当する。
2012年10月作成
IF20-1210P
KAY TJ005A