式辞 国上山に住した僧良寛が、 鳥は鳴く 四方の山辺に 花は咲く 春の心

式辞
国上山に住した僧良寛が、
鳥は鳴く 四方の山辺に 花は咲く 春の心ぞ 置き所なき
と詠んで待ちわびた春が、ここ西蒲・巻の地にもめぐってまいりました。
本日ここに、県議会議員 重川隆廣様、PTA会長 棚邊 健様、同窓会長 石田三夫様を始め、来
賓各位並びに多数の保護者の皆様方の御臨席を賜り、平成28年度入学式を挙行できますことは、ま
ことに大きな喜びであり、厚く御礼申し上げます。
今日の良き日に入学を許可いたしました321名の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。
私たち教職員一同、皆さんの入学を心から歓迎いたします。そして、保護者の皆様、お子様の御入学
をお祝い申し上げます。
さて、巻高校は本年度、創立110年の節目を迎える伝統校です。校訓として「勤労・廉直・恭敬」
を掲げ、教育に当たっています。この校訓には、自ら率先して汗を流し、正直な気持ちで互いを敬う
有為な人材を育成する、という思いが込められています。
この校訓を胸に、本校の教職員は一丸となって、心身ともに健全で豊かな人間性の育成、伝統の「文
武両道」へのさらなる研鑽、進路希望実現に向けた自立心・探究心の育成に心血を注いでおります。
その結果、学業面においても、運動部及び文化部の活動においても、輝かしい成果を上げています。
本校は平成23年7月に新校舎が完成し、充実した環境の下で生徒は自らの可能性に挑戦していま
す。また、平成24年度からは、本県の県立高校で初となる進学重視型単位制に改組し、これまで以
上に生徒一人ひとりの進路希望の実現や目標の達成に応える体制を整えています。
本日入学された皆さんは、単位制の5期生ということになります。この春卒業した単位制2期生は、
学業面では国公立大学合格者数が1期生に次ぐ巻高史上2位の実績を上げ、部活動でも男子ソフトテ
ニス部の3年ぶりの県総体優勝、男子ホッケー部の3年連続の県総体優勝、文芸部の9年ぶり2回目
の俳句甲子園出場などをはじめ、文武両道を実践してくれました。皆さんには、こうした本校の強み
を存分に生かして、先輩の後に続き、先輩を超えてほしいと思います。
入学式に当たり、佐藤一斎という人の言葉を紹介します。佐藤一斎は、江戸時代後期の儒学者です。
この人は、幕府の学問所である昌平黌の儒官をつとめました。この役職は、今で言えば東京大学の総
長に当たります。門下生は、佐久間象山など3千名を数え、勝海舟・坂本龍馬・吉田松陰・西郷隆盛
らに大きな影響を与えました。
この人の著書に『言志四録』という本があります。西郷隆盛は、この本を自己の座右の書として、
人生の指針にしていました。佐藤一斎は、この『言志四録』の中で、次のように言っています。
「学
問をするには、まず志を立てる必要がある。学問をする意義は、人たる道をわきまえ、立派な人間に
なることにある。その際に、志を持っていなければ、どんなにたくさんの本を読んだとしても勉強し
たということにはならない。これは、芸術や技術を身につけるうえでも同様である」
。
そして、
「志は、他人から強制されるものではなく、自分自身で決めるものである」と言っていま
す。志を立てるのは、最初の一歩に過ぎません。志を立てたからには、それを実行に移すことが大切
です。そしてさらに、成功するまで継続していく必要があります。
次に、
『言志四録』の中で特に有名な3つの言葉を紹介します。1つめは、
「少にして学べば、則ち
壮にして為すこと有り。壮にして学べば、則ち老いて衰えず。老いて学べば、則ち死して朽ちず」と
いう言葉です。少年の時に学んでおけば、壮年になった時に役に立つ。壮年の時に学んでおけば、老
年になっても衰えることがない。老年になっても学んでいれば、死んでもその名が朽ちることはない、
ということです。学問の大切さを述べています。
2つめは、
「一燈を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うることなかれ。ただ一燈を頼め」という言葉で
す。暗い夜道を歩く時に、提灯を提げて行くならば、どんなに暗くても心配するな。ただその一つの
提灯の明かりを頼りにすればよい、ということです。ここで言う「暗夜」とは人生行路のことを指し、
「一燈」には、いろいろな考え方がありますが、私は信ずるに足る自分自身、と解釈しています。自
分の力を磨き、その自分を信じて人生を歩め、という意味にとらえています。
3つめは、
「春風(しゅんぷう)を以って人に接し、秋霜(しゅうそう)を以って自ら粛(つつし)
む」という言葉です。春風のような暖かさをもって人に接し、秋の霜のような厳しさをもって自らを
正せ、ということです。他人には優しく、自分には厳しく、ということです。はじめに紹介した「志
を立て、実行に移すこと」とともに、これら3つの心得を頭に入れ、日々努力し、充実した高校生活
を送ってほしいと思います。
本校には、熱意あふれ、親身になって皆さんを支える教職員が揃っています。皆さんもこれに応え
るべく、日々の学習や部活動などに積極的に取り組んでください。
最後になりましたが、私たち教職員一同、本校の教育方針に則り、誠心誠意全力を尽くして教育に
当たらせていただくことをお誓い申し上げ、式辞といたします。
平成28年4月6日
新潟県立巻高等学校長
本田雄二