千里足下2002 - 幼女オメコ40を超えるものが選考に当たっている。・両

千
里
足
下
2002
成蹊大学法学部政治学科
増山ゼミ学生論文集
論文集の作成にあたって
この論文集は私の演習に参加し、研究の企画を立て、報告書を作成したゼミ生諸君の成
果を公表するためのものである。ここでは論文集を作成する意味について少し敷衍してお
きたい。
演習を通じて期待することは政治的現象についての実証研究や現状改善的な政策研究を
実際にやってもらうことに尽きる。喩えるならば、初めて何かのスポーツをしようという
ときに、ルール・ブックを丹念に読んだり、プロの試合を観たりするのではなく、とりあ
えずやってみるというのが私の演習の基本的方針である。
研究テーマから分析手法まで、それらの選択は演習参加者の完全な自由であり、研究成
果はひとえに参加者の創意工夫に帰属する。参加者には研究成果を論文集にまとめるとい
う目的意識を共有し、独自の研究成果の公表という達成感を味わうとともに、自分の書い
たものが人目に晒されることを意識してもらいたい。
また論文集作成には教育的な目的もある。まず論文集は今後演習に参加する者にとって、
どんな一年が待ちうけているのかを如実に物語るものであろう。私の演習は参加者の意欲
によって成り立っている。参加意欲の高い諸君には得るものも多い演習となるであろうが、
意欲のないものにとって苦痛以外の何物でもないことははっきりしている。
第二の教育的用途は論文集が演習参加者にとって最初に読むべき課題を提供することに
ある。先輩達が取り組んだ方法論的な問題は後輩参加者が追々直面せざるを得ないもので
あり、先輩達の足跡を理解することは後輩達にとって最善の道標となろう。
論文集のタイトル「千里足下」とは「千里行於始足下」
(遠い旅路も足元の第一歩から始
まる)という老子の言に由来する。
増山幹高
1
目次
1.クラブイベントに人を呼ぶには
2.女性の年金問題
3.猛虎がプロ野球を救う
4.検挙率向上をめざして
5.公共工事の年間予算配分の適正化
6.チャイルドソルジャーをなくせ!
〜こどもから民族対立・貧困をなくすには?〜
7.子どもはどこで暮らすべきか
8.不振の GAP に提案する!デザイン性優位の戦略
…低価格競争とは一線を
9.スポーツ選手の熱中症を予防しよう
10.フーリガンの暴動を如何にして止めるか
11.J リーグの発展と外国人の重要性
12.自己表現の場としてのインターネット
〜女性にインターネットを使わせるための研究〜
13.高速道路は地域にとってこれ以上必要なのか
2
p. 3
p. 9
p.15
p.19
p.25
伊藤
木城
高橋
生原
羽根
大佑
みづき
幸太郎
章雄
名奈子
平林
藤木
美香
p.28
佐和子 p.36
門馬 愛佳
山中 美佑貴
横尾 浩一
横山 福
p.41
p.56
p.68
p.73
長嶋
仁科
p.78
p.85
春香
求宏
1. クラブイベントに人を
呼ぶには
伊藤
大佑(2001年度演習Ⅱ)
要旨
クラブイベントに人をたくさん呼ぶにはどうしたらよいかというテーマのもとに自身が
所属するサークルで行ったクラブイベントを通して、その問題の解決を図る。まず第一回
のイベントの結果、総入場者数173人であったところから、第二回にむけてクラブの場
所、時間帯、ゲストダンサーの選択、フライヤーの枚数、客の呼びこみ、の五つの観点か
ら改善策を講じた。そして第二回のイベントでは五つのうち、クラブの場所、時間帯の改
善が功を奏し当日券客が19人増加したのである。
研究の概要
これから、私が所属するダンスサークル JAMZ で行うクラブイベントを通して、実際に
どれだけ集客できたのか、研究成果を見る。2001 年春に行われた第一回 JAMZ イベントの
総入場者数を元に、第二回での集客数増加と、黒字を出すことを目標とし、2001 年夏に行
った第二回 JAMZ イベントにおいて、フライヤーの数を500枚から1000枚にし、集
客力のあるゲストに出演依頼し、場所を池袋から渋谷に変え、集客方法はメンバーが意識
して集客するよう呼びかけ、時間帯を夕方から深夜に移すという対策を講じてみた。そこ
で得られたデータを比較し分析することで、クラブイベントに人を呼ぶにはどうしたらよ
いのか、結論を出す。この研究によって、クラブイベントのオーガナイザーにとって最も
重要である集客の問題に対してひとつの解決策を提示することができる。
調査・分析の結果
第一回 JAMZ イベント
第一回の JAMZ イベントは、3/31(土)17:00〜21:00の間に池袋の BED
という 200 人収容のクラブで行った。そのときのゲストダンサーは、日本のストリートダ
ンスの創成期からシーンを支えている大御所ダンサーの SOUND CREAM STEPPERZ
3
に来てもらえた。フライヤーは、500 枚用意し、1 ヶ月前から配って宣伝を始めた。チケッ
ト代は前売りが¥1500、当日が¥2000で販売した。当日でもフライヤーを持って
くれば、¥1500で入れる。集客は JAMZ のメンバーに協力を呼びかけた。以下の表は、
第一回イベントの収支をまとめたものである。
支出
収入
クラブ箱代 ¥100,000
クラブ機材代 ¥10,000
ドリンクチケット¥69,600
フライヤー代
¥12,900
VJ イベント代 ¥6,000
DV テープ
¥2,919
VJ 代
¥5,000
カラーコピー
¥640
コピー
¥200
イベント諸費
¥66,420
合計
¥273,679
イベント代 1 年 ¥14,000
2年 ¥20,000
3年 ¥12,000
4 年+卒業生 ¥6,000
置きチケ+当日券¥167,000
前売りチケ
¥94,500
合計
¥313,500
+¥39,821
第一回 JAMZ イベントの結果は、総入場者数が 173 人で、収支は¥39821の黒字だっ
た。前売りチケットは 63 枚売れ、置きチケ(前日までに予約しておいて、当日受け渡しす
るチケットで前売りと代金は同じになる。
)は106枚売れた。フライヤーを持ってきた人
はいなかった。JAMZ のメンバーからは一人¥1,000ずつイベント代を徴収した。支出
の中の、クラブを貸し切る料金のクラブ箱代は¥100,000だった。初めてのイベン
トでどれだけ採算がとれるか見当もつかなかったので、クラブを安く借りられる、夕方か
ら夜の時間帯のパーティータイムで行った。総入場者数に JAMZ の人数52人を加えると、
クラブに入っていた人数は225人に達し、黒字も出せて、第一回目としては満足な結果
となった。しかし、収容人数を越えてしまいクラブの中は、自由に踊れないほど人で埋ま
ってしまったという反省点もあった。
第二回に集客を増やすために
私たちは以下の5点において改善策を講じた。
Ⅰ.
クラブ決め
渋谷 VUENOS ¥150,000(約 500 人収容)
4
前回は、収容人数いっぱいに人が入ったので、さらなる集客の増加のためには大きいク
ラブであることが最低条件であった。BED より大きいクラブのない池袋から、クラブのメ
ッカであり若者が集まる街である渋谷にすることでこのイベントを知らなかった当日クラ
ブ好きな人の入場する可能性が大きくなる。さらに、渋谷だとクラブを途中で出ても始発
まで時間をつぶせる場所が多いというメリットがある。
Ⅱ.
時間帯
23:00〜5:00
パーティータイムだと、時間が短いので DJ の時間を十分に楽しめないという点と、
第二回に出演チームを増やすことが難しいという点の指摘や、一般的にクラブイ
ベントは夜中行うものなので、この時間帯にすればいつもクラブに行く人が来る
確率は上がるし、大学のサークルのイベントとはいえ一般のクラブイベント同等
のものにしたかったという希望も満たせた。
Ⅲ.
ゲスト決め
何人かのダンサーにあたってみたが、断られ続けてなかなか決まらなかった。最終
的 に は TV 番 組 に も 出 演 し 、 知 名 度 で は 第 一 回 ゲ ス ト の SOUND
CREAM
STEPPERZ にも負けていない若手実力派チームの LOCKIN’ON に決まった。
Ⅳ.
フライヤー
前回の 500 枚から倍の 1,000 枚に増やしたが、ゲストダンサーがなかなか決まらな
かったためフライヤーを刷るのが遅れ、撒き始められたのがイベントの 1 週間前に
なってしまった。そのため第一回よりも宣伝効果がうすく、入場者の増加に貢献で
きていない可能性が大きい。渋谷のレコード屋を中心に 500 枚程度フライヤーをお
店においてもらった。なお、今回もフライヤーを持ってくれば¥500 引きとした。
Ⅴ.
客呼び
前回と同様 JAMZ の出演者にはノルマは作らず、できるだけ客を呼んでくるよう呼
びかけたので、その成果は前売りや置きチケの結果に反映される。
第二回 JAMZ イベント
第二回の JAMZ イベントは9/6(木)23:00〜5:00の間に渋谷の VUENOS と
いう約 500 人収容のクラブで行った。ゲストダンサーは LOCKIN’ON で、フライヤーは
1,000 枚用意し、チケット代は、前売りが¥2,000、当日が¥2,500で販売した。ク
ラブとの契約はチケット売上から、箱代¥150,000とドリンク代¥500×人数を引いた
ものの 50%がバックされるというものだった。以下がその結果である。
・チケット売上
(当日券)¥2,500×17 人=¥42,500
(置きチケ)¥2,000×79 人=¥158,000
(招待客用)¥1,000×6 人=¥6,000
5
(前売り)¥2,000×90 人=¥180,000
TOTAL
¥386,500
・ドリンク代
192drink×¥500=¥96000
・チャージバック
(チケット売上)¥386,500−(箱代)¥150,000−(ドリンク)¥96,000=¥70,250
VUENOS からチャージバックされた¥70,250 に前回と同じ JAMZ イベント代¥1000×
62 人=¥62000 を足した¥132,250 からゲストダンサーのギャラなどの支出を差し引くと収
益は第一回とほぼ同じくらいの黒字だった。総入場者数は 192 人でフリーゲストと JAMZ
の人数を足すと 277 人になり、クラブの大きさと比べて多くもなく少なくもなく踊るスペ
ースが十分にあった。出演ダンスチームも増えて、来てくれた人たちは満足してくれてい
たようだ。総入場者数を前回と比較すると 19 人増加した。収支も黒字が出て、第一回から
の人数の増加と黒字を出すという今回の目標は達成することができた。
分析結果
入場者の内訳
1 回目
*前売り+置きチケ
2 回目
63+106=169 人
90+79=169 人
*当日券
4人
23 人
*総入場者数
173 人
192 人
第一回と第二回を比較して、照らし合わせて増加の要因を調べる。すると、
「入場者の内
訳」で総入場者数が一回目より、二回目のほうが 19 人増加している。しかしながら、増加
しているのは当日券だけで、前売り+置きチケの数は二回とも同数という結果が得られた。
ではなぜ、二回目は当日券が 19 枚多く売れたのか?その前にこの 19 人の増加の要因を調
べることがどれだけ重要なのかを示したい。この 19 人の増加により¥47500(=¥2500×
19 人)の収入が生まれている。第二回のチャージバックは¥62800 であったから、この
¥47500 がなかったら、チャージバックが¥15300 しかなかったのである。
では、当日券で来たお客さんとはいったいどんな人であるかを考えたい。木曜の深夜に
前売りではなく当日券でクラブに遊びに来る人であるから、この人たちはクラブ好きな人
たちであることは容易に想像できる。なぜなら、普段クラブに行かない人が、このイベン
トに来るのであれば、どう考えても事前にこのイベントのことを誰かから教えてもらい、
その人づたいに前売りチケットを買って来るという形が自然であり、平日の深夜に急に渋
谷の場所もよくわからないクラブに行こうと思うはずがないからである。これについては、
6
一回目の結果からも裏づけができる。一回目に当日券がほとんど売れなかったのは、夕方
から行われたから普段クラブに行く人にとってはまだ早すぎる時間だったからだといえる。
クラブイベントは、基本的に夜に行うものであるからクラブ好きな人も夜にクラブに遊び
に行くものである。ということは、上記の五つの策のなかで、Ⅱ.時間帯を夜中の23:
00〜5:00にしたことが、集客の増加の要因となったといえる。
さらにもう一つ要因に加えたいのが、Ⅰ.クラブ決めである。池袋には、BED の他に有
名なクラブがないが、渋谷には VUENOS 以外にも有名なクラブが何件もあり、間違いなく
クラブ好きな人は池袋よりも渋谷に集まっているからである。つまり、このイベントを当
日に知る可能性が高くなったということになる。
そして、残りの3つについてだが、Ⅲ.ゲスト決めに関しては、第一回と第二回で比較
ができなかった。その訳は、前売り+置きチケの数が同数なので、当日券で比べたかったが、
第一回はパーティータイムであったためクラブ好きな人が当日にこのイベントの存在を知
ることが難しかった。よってもちろんゲストダンサーが誰であるかもわかるはずがないの
である。
Ⅳ.フライヤーは、第二回イベントでは前回の 2 倍の 1000 枚用意した。フライヤーがよ
りたくさん行き渡っていれば、前売りか置きチケ、もしくは、フライヤーを持ってきた人
には当日券の人でも¥2000 で入場できるのでその人の数にその効果が表れるはずである。
しかし当日券で入った客にはフライヤーを持ってきた人はいなかったし、前売り+置きチケ
の人数が同数だったことからあまり効果が無かったといえる。これは第一回のフライヤー
は 1 ヶ月前から配っていたのに対して、第二回は、イベントの 1 週間前に配り始めたのが
影響しているのかもしれない。フライヤーは、イベントを宣伝するためのものであるから
早くから配って、より多くの人にそのイベントを知ってもらうのが役目であるがその効果
を発揮できなかった。よって今回のイベントでのフライヤーは増加の要因にはならない。
最後にⅤ.客呼びに関しては、前売り+置きチケが前回と同数だったことから、増加の要
因がないといえる。
それでは、一回目と二回目のその他の相違点をあげて、他の要因がないかを調べてみよ
う。
1 回目と 2 回目の相違点
1 回目
2 回目
1.場所
池袋
渋谷
2.収容人数
約 200 人
3.曜日
土曜日
木曜日
4.チケット代
¥1500(前売り)
¥2000(前売り)
5.出演チーム(人数)
約 400 人
13(49 人)
17(62 人)
1.場所と2.収容人数は、クラブの属性であり、これは先にⅠ.クラブ決めが増加の
7
要因となったのだと述べている。池袋の BED から渋谷の VUENOS にしたことが増加につ
ながったのだ。3.曜日は平日の木曜よりも、週末の土曜の方が夜遊びする人が多いこと
は明らかであるから増加要因にはならない。4.チケット代は前回よりも¥500上がっ
ている。一般的なクラブイベントのチケット代も¥2000〜¥3000が相場であるの
で、¥1500の第一回のほうが値段的には魅力的である。したがってこれも増加要因と
ならない。そして5.出演チームでは、チーム数が増えたことにより宣伝効果も上がり、
前売りや置きチケの売上に期待されたが、売上は変わらず増加要因とならなかった。
結論
第一回のイベントでの結果から、第二回で集客を増やすために、どこのクラブでやるか、
時間帯はどうするか、ゲストダンサーはだれにするか、フライヤーを何枚にしてどうやっ
て配るか、自分達自身で客はどうやって呼ぶか、の五つの観点から対策を練った。そして
第二回イベントでは当日券客が19人増加した。その増加の要因は五つの対策のうち、ど
れが効果的であったのかを調べたのだが、そのうちのゲストダンサーとフライヤーに関し
ては、二回のイベントの状況があまりにも違う点が多く増加の要因になり得なかった。そ
れでも、前売り+置きチケの数が同数であったため当日券の枚数の違いに絞って分析するこ
とができた。当日券のお客を増やすには、時間帯を23:00〜5:00の夜中にして、
場所はクラブのメッカである渋谷でするほうがよいということがわかった。
ここで改めて、クラブは夜の遊び場として確立されているということもわかった。それ
は平日の深夜でもクラブに人が集まってくることからもわかる。逆に、夕方からのイベン
トにはクラブに人はあまり来ないのである。それでも夕方からイベントをやる場合には、
しっかり宣伝を行い、イベントを早く知らせる必要がある。そして場所についても、その
クラブがどれだけ知名度が高いのかという点に注意する必要があるのだ。
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2.女性の年金問題
木城
みづき(2001年度演習Ⅱ)
要旨
女性の選択の多様化を阻害するものとして筆頭に挙げられるのは年金問題であるとい
えよう。現行の年金税制と改正案とを比較することにより、不平等性を是正した、より良
い制度のありかたを模索する。
今現在施行されている年金税制は 86 年に改正されたものである。しかし時代の流れに伴
って、それらは世情を反映したものでなくなってしまった。とくに女性の年金に関しては
著しい不平等格差が生じており、早急に対応策を打ち出さねばならないところまできてい
る。次期年金制度改正は 2004 年の予定であり、様々な改正案が議論されているが、11 月、
女性の年金検討会(厚生労働省の諮問機関)が新たに報告書案をまとめた。以下のレポー
トは、今現在の女性を取り巻く年金税制と、検討会により提出された報告書案とを比較す
ることによって、税制の不平等格差を是正し、女性の選択の多様化を促そうとするより良
い案を提示しようとするものである。
そもそもなぜ今、女性の年金制度が不平等だといわれているのか?
またなぜそれが女性の選択の多様化に繋がるのか?
同じ女性でありながら彼女らの払う年金額は夫の職業に左右されているのである。
独身女性や自営業の夫を持つ女性は、第一号被保険者として自ら年金を納め、老後に年金
を受け取る。しかしサラリーマンの夫を持つ女性は、自らは全く納めていない年金を老後
に受け取ることができる。学生は無収入であるにもかかわらず、国民年金の納付は義務と
されている。しかし同じく無収入である主婦は国民年金の納付を免除されている。これは
一体どういうことだろうか?かつて専業主婦が多数を占めた日本においては、この制度は
うまく機能していたのかもしれない。しかし今はどうだろう。外に活躍の場を見出した女
性たちの反発はもう無視できないものになっている。今現在の年金財政は自ら専業主婦と
いう生き方を選んだ女性にとっては都合の良いものである。しかし主婦を優遇するという
制度は、フルタイム労働を望む女性にとっては不利益なものになってしまう。どちらかが
9
優先されることによりもう片方が不利益を被るという制度はいかがなものであろうか?生
き方の多様化とは、職業選択をするにあたってのスタート地点を平等なものにすることか
ら生まれるものなのではないだろうか。
最初に、報告書案で提示された変更点を列挙し、その変更によりいかなる結果が導き出
されるのかを検証してみる。
(また、これらはいずれも女性の就労拡大を主眼に置いた改正
案であることを付け加えておく。
)
①パートタイマーの厚生年金加入の拡大
(現行)
・・・一般労働者の四分の三以上の労働時間で厚生年金加入
(改革案)
・・一般労働者の二分の一以上の労働時間で厚生年金加入
また年収65万円以上でも厚生年金加入を義務付ける
②遺族給付の見直し
(現行)
・・・妻が働かないほうが年金を多く得られる場合が多い
(改革案)
・・妻が働いた方が年金を多く得られる場合が多い
補足・従来の遺族給付は次の三通りから任意選択
妻の基礎年金+①妻の厚生年金
②夫の厚生年金×四分の三
←これを五分の三に減らす
③夫と妻の厚生年金×二分の一
←これを五分の三に増やす
③年金モデル世帯の変更
(現行)
・・・夫がサラリーマン、妻は就労したことがない専業主婦の家庭
(改革案)
・・夫婦共働き
④離婚時の年金分割
(現行)
(改革案)
専業主婦だった場合・・基礎年金のみ
〃
・・基礎年金+双方合意の上で夫の厚生年金の二分の一
①案、パートタイマーの厚生年金加入拡大について考察してみよう。
この案は就労時間もしくは収入いずれかの条件を満たしたものは必ず厚生年金の加入を
義務付けるというものである。従来、130万円以上の収入のある主婦は厚生年金の加入
が義務付けられており、その結果手取り収入が減ってしまうため、パートタイム労働など、
安価な賃金ではあるが自ら就労時間を調整することが可能な職を選び、結果的にフルタイ
ム就業を抑制するという傾向が見られた。これは女性の就労意欲をそぎ、フルタイムで働く
10
女性の労働環境改善に悪影響をおよぼすという見方があった。この改正によっておよそ 300
万人が新たに厚生年金に加入する、と厚生労働省は試算を出している。年金財政を潤わせ、
また今まで 130 万円の壁に阻まれ就労を抑制していたパートタイマー・主婦たちの労働意欲
を向上させるという点から見ると、これは望ましい改正案であるかのように思われる。し
かしこれにより女性の二極分化が進むと言う見方も否めない。すなわち、より一層働こう
と言う女性が増加するのに比例して、65 万円という狭い枠のために働くことを辞めてしま
う女性もまた増加する、という見方である。したがってこの案は、必ずしも女性の就労拡大
に貢献するとはいえないのではないか。また 65 万円と言う数字の算出法についても、ただ
今までの半額で、というのはあまりにも安易であって、再考が求められるところではある
だろう。
(下の表は、103万、130万の壁を越えることにより生じる世帯収入の変化を表したも
のである)
妻のパート収入に左右される夫と世帯の収入
妻のパート収入 妻の手取り
70 万円
夫の収入 夫の手取り
世帯の手取り収入
70 万円 550 万円 490 万 7000 円
560 万 7000 円
100 万円 99 万 9000 円 550 万円 485 万 7000 円
585 万 6000 円
103 万円 102 万 7500 円 550 万円 485 万 2500 円
588 万円
103 万 1000 円 102 万 8350 円 532 万円 469 万 4100 円
572 万 2450 円
129 万 9000 円 125 万 6150 円 532 万円 466 万 3600 円
591 万 9750 円
130 万円 111 万 1990 円 532 万円 465 万 6100 円
576 万 8090 円
141 万円 120 万 5600 円 532 万円 463 万 6000 円
584 万 1600 円
151 万 6000 円 128 万 5050 円 532 万円 463 万 9600 円
592 万 4650 円
180 万円 149 万 7000 円 532 万円 463 万 9600 円
613 万 6600 円
*全国女性税理士連盟試算。1999 年分で試算。夫の年収は 550 万円で妻、子
ども 2 人、夫の社会保険料は年間 40 万円、生命保険料控除は 10 万円、配偶
者手当は月 1 万 5000 円、妻の収入が 103 万円を超えると配偶者手当てが支
給されないと想定。特別減税は含まない。
次に②案、遺族給付の見直しについて。
この案は専業主婦家庭と共働き家庭との間に発生する不平等格差を是正するためのもの
として提唱されたものである。専業主婦の夫が死亡した場合、妻は夫の受け取るはずだっ
た年金額の 75%をうけとることができる。これが専業主婦でなく共働きの女性であった場
合に問題が生ずる。共働きであっても、今現在では夫のほうが妻よりも収入が多い家庭が
大半を占めているわけであり、選択肢②の妻の基礎年金+夫の厚生年金を選ぶケースが最
も多い。しかしこの場合、共働きであった妻の掛けていた厚生年金部分は受け取れなくなっ
11
てしまい、掛け捨てと言う形になってしまう。これらの事情を鑑み、出されたのがこの案
である。この案について、私は全面的に賛成であるが、もう一つ条項を追加して欲しいと
思う。それは夫にも遺族給付を行う、という条項である。遺族年金は母子家庭に支給され
る、と決まっている。これは(確かに少数ではあろうが)妻が主な収入源として働いてい
た家庭の状況を全く省みないものであり、男女平等の原則に反するものであるから、一刻
も早い改正が望まれる。
③案、年金モデル世帯の変更について。
今現在のモデル世帯は「夫が40年サラリーマンとして働き、妻は会社勤めをしたこと
がない家庭」である。このモデルでは、年金の給付額は現役世帯の収入の六割程度が適当
である、という考え方に基づいて、男性の平均月収40.1万円の約六割に当たる月23.
8万円がモデル年金給付額とされている。内訳を見てみると、夫の基礎年金6.7万円、
夫の報酬比例部分10.4万円、妻の基礎年金6.7万円となっている。しかし現実には
働く女性が多く、2001 年度現在、厚生年金に加入した経験を持つ女性は六割を超えている。
このため一世帯が実際に受け取っている額の平均はモデル年金よりも多くなっていること
から、厚生労働省は過剰給付になっているという判断を下した。モデル世帯を変更する、と
いうことはつまり給付を更に増やすのか、というとそうではなく、現役世帯の収入の六割と
しているモデル年金給付額を六割以下に減らそう、ということである。これによって、単身
世帯を含めた全体の年金給付水準は今現在よりも下がり、低所得層や収入の少ない専業主
婦家庭に打撃を与えるものと見られる。確かにこの変更は世情を踏まえたものではあるが、
これを女性の就労拡大という名でくくってしまうのはあまりにも無理があるのではないか。
この改正案は決して望ましいものとはいえないようである。
次に④案、離婚時の年金分割について。
現行の制度下では、離婚した女性は厚生年金部分を受け取れない仕組みになっている。
したがって、専業主婦の女性が離婚した際には国民年金の基礎年金部分しか受け取れない、
という問題がある。新たに就業する際には、離婚まで年金を支払っていたものとみなされ、
年金の受給権は引き継がれるわけであるが、定年まで働いたとしても、結婚生活を続けてい
たならば得られたであろう夫の年金額よりも、ずっと少ない額しか受け取ることが出来な
い場合が多いため、離婚そのものを踏みとどまってしまうケースが多い、という従来の問
題点を踏まえた望ましい改正案であるといえる。この案は、配偶者を通じて納めた保険料
は共同財産とみなすことが出来るため、離婚した場合にその受給権を失うのは不合理であ
る、という考え方に基づく。また、この改正案では、共働きであった場合の受給額も分割の
対象となる。条項には「双方の同意の上で」分割とされているものの、分割を求めて争っ
12
た裁判で妻の側が勝訴した、という判例がすでに今年でているため、実質的には分割を義務
付けるものであると見てよいだろう。
以上見てきたとおり、今回の改革案は共働きの女性に配慮する一方で専業主婦層にたい
して厳しい姿勢をとったものであるといえる。これは果たして望ましい改革なのであろう
か。また、年金財政という視点から見ても、このままのシステムで年金は機能していくの
であろうか?
結論としてはやはり無理であるといえる。今現在の税制システムで年金を運用しても、
私たちは払う年金より多くの年金をもらえない、という試算がすでに出ている。やはり抜本
的改革ぬきに年金財政は成り立たなくなっているのである。
そこで今注目されているのが、基礎年金部分を消費税で補う、という案である。
これは今現在課されている5%の消費税を8%程度に引き上げ、代わりに今現在月額 13300
円の保険料を免除する、という抜本的改革案である。
最後に、基礎年金の財源を消費税によって賄うことによるメリットおよび今の年金制度
のはらむ問題点について考察する。
☆なぜ消費税でまかなうのか??
消費税は必然的に一人一人が平等に負担せざるをえなくなるため、世代間での不平等性
がなくなる。よって、第一号被保険者と第三号被保険者の間に生じていた保険料負担問題
などがなくなるのである。そもそも国民年金保険料は平等ではない。納税者の収入の多少
に関わらず一律13300円の納税を求めているのであるから、
消費に応じて徴収される消費税と比べるとはるかに逆進的で、公平性を欠いたものなので
ある。消費税でまかなうことによりおよそ年20万円の保険料負担が浮くことになると試
算されている。また、企業の負担していた保険料の大幅な軽減も見込めるわけである。
(年
間3.3兆円減見込み)
報酬比例部分については現行を維持するべきである。(今現在のシステムにおいて、報酬比
例部分の存続に関してはなんら問題を伴わない)
また、国民の反発を押さえるためにも、増税部分の消費税は全て保険料にあてがわれる、と
いうことを明文化しておかねばならないであろう。食料品や介護用品・育児用品などに対す
る税の減免措置も講じる必要がある。
消費税の増税によって年金財政は当面の間危機を免れうるであろう。
13
(まとめ)
今回のレポートで私が痛感したのは行政側の対応の遅さである。女性の問題にしても年
金の問題にしてもその対応の鈍さがうかがえる。年金に関する審議会も四年に一度ではな
く二年に一度程度の割合で行い、世情の変化にいち早く対応すべきである。上で述べたよ
うな消費税による財源確保については、何年も前から学者たちの間で論じられてきたもの
であり、決して新しい意見ではない。厚生労働省としてももっと多くの識者を招き、より広
範な議論を進めていくことが望ましいのではないか。
14
3.猛虎がプロ野球を救う
高橋
幸太郎(2001年度演習Ⅱ)
要旨
現在、日本のプロ野球の人気が低下している。そこで阪神の順位とセ・リーグ全体の観
客動員数の連動性を明らかにし、阪神タイガースの順位が向上すると、プロ野球全体の人
気も向上するという前提の下、どうすれば阪神が強くなるかを検証する。
現在の野球人気の低迷は原因が複数あり、それら低迷の原因自体を直接的に解決すると
いうのは困難であることが予想される。例えば大リーグに挑戦しようとする選手をひきと
めるというのは時代に逆行している、といったものである。それゆえ間接的に現在抱えて
いる問題を解決するか、もしくは全く新しい方法で人気を回復させなくてはならい、とい
うことになる。
では、どのような対策が実際に効果的であると予想されるかについて考えてみると、まず
は、より多くのチームのファンが最後まで楽しめるような混戦、つまりは各チームの実力
が均衡している状態にするということがあげられる。また、思わず注目してしまうような、
斬新な制度を制定するというものも効果が見込めそうである。そして阪神の実力向上によ
る野球界全体の人気向上というものについても考えてみたいと思う。それらの対策候補を
具体的にあらわすと、以下のようになる。
① 実力均衡…ドラフト制度の変更。
…1チームあたりの FA 選手獲得人数の制限。
② 斬新な制度…インターリーグ制度の導入。
…日本シリーズ覇者によるメジャーリーグプレーオフへの参戦。
③
特定球団の実力向上…古豪人気チーム阪神タイガースの復活。
15
①は新戦力を獲得する方法をウェーバー方式(前シーズンの最下位から優先的にドラフト選
手の獲得ができるという方式)に変更することと、金銭的余裕のある球団が FA 選手を大
量に獲得することによって生じる実力の偏重を防ぐことで実力の均衡を目指す。
②はそのとおりインターリーグ(異なるリーグのチーム同士がシーズン中にペナントレース
の試合として戦う制度。メジャーリーグでは導入されている。)や、メジャーリーグのプ
レーオフへの参戦といった今までに無い制度を取り入れることによってファンの目を惹
きつけようというもの。
③は阪神タイガースという常に人気はありながらも低迷をしつづけているチームの実力の
向上を図ることにより更なる爆発的な人気向上と球界全体のカンフル剤的な役割をさせ
るというもの。
①②③の検証
①ドラフト制度について…△
海外の多くのプロスポーツが取り入れている。順位の変動に大きな影響を与えている。
実力均衡に効果あり。が、特定球団による反対などあり制定するのは困難が予想される。
②インターリーグ制度、プレーオフ参戦について…△
大リーグは、1997 年からインターリーグ制採用。どの程度集客に効果があったかは謎。大
変な話題にはなり、注目された。また、日本プロ野球チャンピオンのメジャーへのプレー
オフ参戦についても実現すれば注目されることは間違い無い。メジャープレーオフへの参
戦の実現は困難ではあるが、もし実現すれば注目されると同時にメジャーへ行こうとする
有力選手の流出防止にもなる可能性がある。
③阪神タイガース復活について…○
阪神タイガースの順位が上がると観客動員数は飛躍的にあがる。実力を向上させるという
こと自体は難しいことであるが、しかしもし実現すれば最も直接的に効果が見込めるもの
である。
検証の結果を踏まえて、最も直接的効果が期待される③を取り上げていくことにする。
この場合、まず本当に阪神の実力が向上すると、プロ野球人気が向上するのかということ
を確認する必要がある。そこで過去22年間の阪神の順位とセ・リーグ全体の観客動員数
16
との関連性を見てみることにする。(注)人気回復は全体の観客動員数の変化を基準とする。
※観客動員数は1980年当時の試合数130試合に日数を合わせたものである。順位は
6が 1 位、1が 6 位になっている。年代は1が 1980 年、21が 2001 年になっている
7
16000000
14000000
12000000
10000000
8000000
6000000
4000000
2000000
0
4
3
順位
6
5
動員数
順位
2
1
21
19
17
15
13
11
9
7
5
3
0
1
動員数
過去21年の阪神の順位とセ・リーグ全体の観客動員数の推移
年代
上の表からわかることはまず間違い無く両者に関連があること、そして92年のように過
去数年低迷した後に順位が上昇すると動員数も飛躍的に上昇するということである。
では、両者の関係が確認できたところで、実際にどのようにすれば阪神が強くなるかにつ
いて考えてみたいと思う。
◎阪神タイガースを強くするためにはどのようにすれば良いのか??
チームの実力向上とは抽象的なものでも漠然としたものでもなく、全球団が常に試行錯誤
していることであるため、他球団と同じ事をしているようでは今の状態を脱却することは
不可能である。また、実力向上とは基本的にいかにより良い戦力、つまり選手を獲得でき
るかにかかってくる。そこで阪神1球団だけが実力向上を目指す場合、独自性が要求され
る。では阪神の独自性とは何か??
↓
①ファンの積極性と絶対的な支持
②親会社が小さいこともあり、金銭的余裕が無い。
↓
つまり絶対的なファンの支持を利用したお金のあまりかからない方法が必要となる。
↓
タイガースリーグの設立!!
阪神タイガースをリーグ化するもしくは言いかえるとするならば、メジャーリーグのよう
17
に1A、2A、3A、メジャーのようにグループを複数作り、ドラフト外の選手や、他球団
で戦力外通告された選手を破格で交渉し、大量に選手を獲得する。それにより可能性を秘
めた新人や、まだ再起できるベテランを見つけ出す。運営は困難になることが予想される
が、選手の年俸を極力抑え、絶対的な支持者であるファンによって運営は可能であると予
想する。92 年の 2 位だったときの中心選手であった亀山選手やかつてミスター・タイガー
スと呼ばれていた掛布選手もドラフト外からのテスト入団選手である。単純に選手層を厚
くすることで第二の掛布を発掘するための土壌を作るのが狙いである。客を集められるス
ター選手の存在するチームが強くなるのはもはや必然である。過去に前例が無いためこれ
によってどの程度阪神が強くなるかはっきり断定することはできないが、観客動員数は阪
神が強くなるのと比例して増えていくだろう。
結論:日本のプロ野球はスター選手の流出などによりメジャーリーグに完全に話題を独占
され、メディアはイチローや新庄などに注目しつづけている。当の日本のプロ野球は特定
球団による主力選手獲得などによりチーム間の実力差の拡大が生じゲーム自体の緊迫感を
失わしている。更に、今年はサッカーのワールドカップが日本でも開催されるため国内に
おける野球に対する関心は更に低下することが予想される。このような状況の中どのよう
にすればプロ野球人気は回復するかについて考えてきた。その中で阪神タイガースの実力
向上ということを取り上げて主に検証してきた。チームの実力向上とは常にどの球団も目
指すことであり、現状を変えるのは非常に困難であることは間違いのないことである。タ
イガースリーグ設立というのも実現するためには恐ろしいほどの難関が立ちはだかること
となるだろう。しかし、もし実現すれば、阪神の実力は向上し、プロ野球人気が再燃する
ことは確実であると考える。
18
4.検挙率向上をめざして
生原 章雄(2001年度演習Ⅱ)
要旨
現在日本における犯罪の検挙率が非常に低くなった、と報じられているが、これまで日本
でおきた犯罪の認知数と検挙率を、調べてみると窃盗犯罪の検挙率は、昭和 63 年から落ち
続けていたことがわかりました。私はこの窃盗犯罪の増加による検挙率の低下に対してこ
れといった政策がとられていなかったために、現在犯罪全体における検挙率の低下が起き
てしまったのではないかと考えました。したがって私はこのレポートで窃盗犯罪の増加を
抑えることによって、検挙率を上げる政策を報告したいと思います。
日本で起きた犯罪の認知数と検挙率を、重要犯罪(殺人、強盗、強姦、放火、誘拐など)
、
重要窃盗犯罪(侵入犯罪、自動車盗み、ひったくり、すりなど)
、そして重要窃盗犯罪のな
かの窃盗犯罪とに分けて過去十年をみてみると、窃盗犯罪の検挙率は昭和 63 年以降落ち続
けていたことがわかりました。(表1)それに対して重要犯罪、重要窃盗犯罪は、2,3 年前
までは非常に高い検挙率を保っていた。つまりこの重要窃盗犯罪と重要犯罪をあわせた全
ての犯罪(刑法犯)の検挙率のみだけをみると、今年に入って急に検挙率が落ちたように
思えてしまうが、実際は、窃盗犯罪の検挙率の低下に加えて、重要犯罪の検挙率が落ちた
ことで、全体の検挙率が低くなってしまったのである。
(重要犯罪総数=平成 10 年 12,725
件、11 年 14,682 件、12 年 18,281 件
それぞれの検挙率は 84.1%、71.5%、60.4%)
この重要犯罪の検挙率までもが落ちてきてしまった最大の原因は、犯罪の増加に警察が
対処しきれなかったことであろう。犯罪が増えるのに対して警察がこれといった効率的な
取り締まりを行うか、または検挙することが可能な程度まで犯罪の発生を抑えるかしなく
ては、検挙率の低下を防ぐことやましてや検挙率を上げることは不可能であろう。
犯罪発生の認知件数は、窃盗犯罪の増加が重要犯罪の増加に比べて比にならないほど著
しい。この増加を止めさえすれば警察も重要犯罪における捜査に時間と人員を充てられる
と私は考える。したがって今回のレポートでは、窃盗犯の増加をいかにして抑え、減少に
向かわせることができるかを考えたいと思う。
19
1
日本の窃盗犯罪発生の現状
まず 63 年とその前後における犯罪の窃盗犯罪の検挙率と認知数を見比べたいと思う。
58 年から 62 年にかけての認知数は、58 年の 1,336,258 件から、59 年+30,000 件、60 年20,000 件、
61 年-10,000 件、
62 年-10,000 件と 1,300,000 件後半を前後しており、
59 年 30,000
件増えた年においても検挙率は 58 年の 55.3 から 56.0 へ上がっており、まだ警察側が対処
で着ていることがわかる。63 年以降になると犯罪の認知数の増加が著しく上がりはじめ、
毎年約 5 万人ずつ増加していった。
(63 年 1,422,355 件、
平成元年 1,483,590 件、
3 年 1,504,257
件、5 年 1,583,993 件、9 年 1,665,543 件、10 年 1,789,049 件,11 年 1,910,393 件、12 年
2,131,164 件)この認知数の増加に対して、検挙件数は下がり続ける。(63 年 253,608 件、平
成元年 195,358 件、3 年 169,981 件、5 年 162,111 件、12 年 162,610 件)
認知数と検挙率
重要窃盗犯
年
年
検挙数
12
11
9年
7年
5年
認知数
3年
58
年
60
年
62
平 年
成
元
年
2500000
2000000
1500000
1000000
500000
0
(ここで全体の検挙率が平成元年にかわってないことを示す)
こうして窃盗犯の検挙率は昭和62年の 60.2%から 55.7%63 年、41.7%平成 1 年、
32.8%3 年、平成 11 年には 29.4%、去年は 19.1%と、20%をきるに至った。認知数は、被
害者届の総数であるから、その未届け分を考慮にいれなければならない。したがって実
際の認知数はさらに低いものであるといえる。
窃盗犯罪で注目すべきは窃盗犯罪で検挙された人の中で20以下の青少年が 57.6%を占
めていることである。学識別には中学生がその 39%を占め、最も多い。青少年犯罪の内、
女子は 27.3%であり、その 91.2%が窃盗であり、81.6%を占める。
以上が、ここ 10 年における重要窃盗犯罪の状況である。昭和 63 年からの認知件数増加
によって、検挙数をキープできずにその数をおとしつづけてきたわけで、警察が犯罪の多
さに対処できないで現在に至ってしまっていることがわかる。ピッキングなど、新しい巧
妙な手口の増加によって、その検挙に難しさが増しているようだが、やはり犯罪が多くな
ればなるほど、それぞれの事件に対する捜査にかける時間、警察官の数も少なくなるわけ
で、それによって検挙できる件数が減ってしまってきているのが、日本の犯罪取締りの現
状であろう。窃盗事件などは時間をかけて捜査したところで、簡単に見つかるものではな
いし、これらの事件をかぎられた警察力で解決しようとしても、それは能率が悪いだけで、
検挙率向上にはつながらないであろう。(例えば現在警察官がよく行っている盗難自転車
の捜査)過去のデータを見ても、犯罪認知件数を 10 年前の 130 万件前後にまで戻せば、そ
20
の検挙率を 60%以上に保つことができることが予想できる。つまり盗犯罪の検挙率を上げ
るには、いかにして犯人を見つけ出すかを考えるよりも、どうすれば年々増加する犯罪件
数を減らすことができることができるかを考えていくべきだと思う。
2
いかにして犯罪増加を抑えるか
窃盗犯罪を減らうえで、念頭におかなければならないのは、その約六割を青少年が占
めているという点であろう。私の考えるに、この青少年による窃盗犯罪は成人の犯行を減
らそうとするよりも意外と簡単に減ると思う。なぜならば犯行をおこなう青少年の多くは
実際それほど金には困っているわけではないのに、イタズラ半分でやっているようにおも
われるからである。これが途上国などの貧国ならわからないが、現在の日本の学生で生活
に本当に困って、盗みを行うなどまず考えられないであろう。なぜ多くの青少年が窃盗と
いう行為に及んでしまうのかを考えると、窃盗があまりにも成功しやすいことと、捕まっ
た際の刑罰への恐れのなさが挙げられると思う。
捕まった際の刑罰への恐れ、危機感を与えることで、彼らの窃盗に対する意識を簡単に
言えば「ばれなければ大丈夫」という意識から「ばれたら一大事」という意識に変える。
このちょっとした意識の変化が青少年の窃盗という行為を踏みとどませる行動の変化に結
びつくと思われる。というのも中学、高校においても、勉強の面での校則は、テストの際
にカンニングを行った場合は、全ての教科の点数が無効になるなど、非常に厳しく、テス
トにおけるルールを守らせているのに対して、学生の生活習慣に関しては、その校則が緩
いように思われる。特に中学生が青少年犯罪の 40%を占めているという現実は、学校教育
が生徒に世間のルールを守る重要性を教えることができていないことの現われであろう。
すなわちまだ世間のルールである法がまだ身近に感じることができない中学、高校生には、
校則を厳しくし、校則が生徒の法(ルール)になることを実感させる必要がある。例えば窃盗
行為など、学校が定めた違反違反行為を行った者は、留年処分にするなど、しっかりとそ
の処分を定め、生徒にそのルールを守らせる。そうした処分があやふやで緩いから生徒の
行動に窃盗などの違法行為が表れてしまうのである。こうした全国共通の校則を国が定め、
それを生徒に守らせることを学校側が指導すれば、自然と青少年犯罪が減ると思われる。
次に、学生によってイタズラ半分に窃盗ができてしまう店の警備の弱さ、警察のこれら
窃盗事件に対する無力さについて考えたいと思う。店の店員は、窃盗犯を現行犯逮捕しな
くてはならず、防犯カメラが設置されていたとしても、盗む側にとって見ればたいした脅
威になっていないのが現状であろう。この現状が、青少年、または他の窃盗犯の犯罪に及
ぶ動機を与えてしまっているのではないだろうか。私は店内のカメラの管理下を警察に置
くことで、窃盗を減らすことを考えたい。店内のカメラを警察の管理下に置くことは、カ
メラで監視することによって犯人を検挙することをその一義的目的とするのではない。店
内の観察を行っているのが警察であることによって、ほかの店においても自分が犯人とし
てマークをされているのではないかといった不安をかりたてさせことを目的とします。日
21
本の大部分の店に防犯カメラがついているにもかかわらず、窃盗犯罪の件数が増えつづけ
てしまっているのは、防犯カメラを監視するのが、それぞれの店で独立してしまっている
ことに一つ原因があると思い、このカメラの観察を行うのが、一つ、警察でなくてもなに
か機関を設置すべきであろうと思います。
現在防犯カメラを公共の場に設置し、警察活動を行っている唯一の国がイギリスであり、
その効果が良い方向に向かっている。このイギリスの状況をみて、カメラ設置の有効性を
示したいと思う。
イギリスでは 1992 年ごろから各地で CCTV(closed circuit television)の設置がはじまっ
た。CCTV は、道路や駐車場、街中や公園など多くの公共の場所に設置された。設置され
たカメラと警察署は常時つながっており、警察署のオペレーターが犯罪の現場を発見する
と警察官が直ちにその現場に直行するという体制がしかれて、顔や車のナンバープレート
の照合をすぐに行えるネットワークができている。
また表1,2をみても犯罪が92年まで増加し続けてきたのにもかかわらず、それ以降は、
徐々にではあるが、確実に毎年減少を続けている。92年から(私が調べた限りでは92
年が一番早く CCTV を設置し始めた年であった。
)CCTV が各地で設置され始めたのだから、
CCTV がイギリスの犯罪増加をとめ、減少することに貢献したと考えてよいだろうと思う。
表1
表1
-6%
1989
表2
+9%
1990
+18% +15% +4%
1991 1992 1993
-4%
1994
-5%
1995
-0.1% -4%
1996 1997
イギリスにおける前年と比べた犯罪発生の増減
22
-8%
1998
-1%
1999
公共の場にビデオカメラを設置することに対してイギリス人はどう感じでいるのか、興
味があったのだが、Glsdgow という市の中心地で三千人に対して行われたアンケート調査
によると、
道に設置されたカメラの効果についてどう思うかどうか聞かれ
72%は犯罪と無秩序になることから守ってくれるとおもっている。
81%は犯人を捕まえるのに効果的であると思っている。
79%はカメラがあることで犯罪の被害者になりにくくなったという感情を持たせ
てくれるようになるのではないかと思っている。
という結果がでており、この一回のアンケートがどれだけイギリス国民の意見を反映さ
せているかを読み取るのは難しいが、このアンケートからはカメラの設置には賛成派が圧
倒的であることが伺える。しかしこれは犯罪発生率が非常に高く(毎年二十世帯に一回の
確立で窃盗、窃盗未遂(これは毎年160万件の窃盗件数する)にあっている。)、犯罪が
自分たちいつ起こってもおかしくないイギリスだからこそ、これだけ高い支持率を得るこ
とができているとも考えられる。
総括
以上イギリスの CCTV 導入の現状をみてきたが、この導入によって上がりつづけていた
犯罪発生率を抑え、そして犯罪発生の減少へと変えることができた成果は、カメラの設置
が犯罪を犯そうとする人の心理に少なからず、影響を与えているといえよう。このイギリ
スのおけるカメラの設置は、一つの組織(イギリスでは警察がその役割を果たしている)
が、この管理をおこなっているからこそ、この CCTV 導入の効果が現れているのであろう
と思うのである。イギリスにおいては、窃盗犯罪のみならず他の重犯罪が多発しているた
め、道路、そして公園などにもカメラの設置を必要としているが、日本においては、窃盗
犯罪を減らすことが、他の犯罪の検挙率向上につながるであろうから、特にカメラを設置
する必要はない。店内のカメラを警察が管理をおこなっていることを国民に伝え、それを
国民に意識させることで、効果を成すと思われるのである。窃盗を重ねれば重ねるほど、
窃盗犯のもしかしたらすでに警察にマークされてしまっているのかもしれないといったそ
の心理を不安にさせる効果がこの管理の統制にはある。現在の状態では、このような窃盗
犯に心理的に追い詰めることができないため窃盗犯罪は増える一方であると思われるので
ある。
現在日本の警察は、窃盗犯罪に関しては検挙率20%という現状をみてもわかるように
まったく機能しておらず、窃盗犯にとっても脅威となっていない。この状況を改善するた
めにも、先に述べたように、店内においては警察が目を光らせているような体制を敷く必
要がある。窃盗犯罪においてその6割を占めている青少年に関しては、その多くが違法行
為をさせないようにする学校教育(前述)と、店内における防犯カメラを警察、または他
の機関が観察下に置くことで、窃盗その他の犯罪を行う際にそのリスクの高さを感じ、そ
の犯行を思いとどまることになるであろう。従ってこの政策によって特に青少年による窃
23
盗犯罪を抑えることが可能となり、窃盗犯罪全体の犯罪増加防止につながると思われる。
窃盗犯罪の増加防止さえ防ぐことが出来さえすれば、10年前の窃盗犯検挙数を60%
台にのせることも可能であろう。窃盗犯に犯罪のリスクを負わせることによって果たして
窃盗犯罪の発生をどれだけ減少できるかはわからないが、今犯罪発生の増加、そして検挙
率の悪化が進む中、警察全体の効率化策は、全くとられていないのが現状である。これか
らさらに景気が不安定な日本で重犯罪の発生の増加も否めない今、なにかしらの警察効率
化は必須であると思われる。
24
5. 公共工事の年間予算配分
の適正化
羽根
名奈子(2001年度演習Ⅱ)
要旨
年末に偏って多い公共工事は果たして妥当な使い方だといえるのだろうか。公共工事が
年間で実際にどのように使われていて、それはどう評価されるのか。予算使用の偏向を是
正し、適正化するためにはどうしたらいいのか。税使用のシステムは、制限がなければな
いほど効率化が働くというロジックを基に、公共工事の年間予算配分を適正化するために
は(現在の予算決算時期に規定される予算使用状況からの脱却)規制緩和の必要性がある
ことを立証した。
概要
毎年、年度末になると役所の仕事は急増する。それは、年度内に予算を処理しなければな
らないという制約が生まれるからである。3 月末までの会計年度で使い切ることができず残
してしまうと、その予算経費は必要度が低いと判断され、次年度の予算額が削減される。
このようなやり方で毎年予算は作られていくわけで、これを予算単年度主義という。問題
となるのは、予算単年度主義と、そこから生じる硬直的な予算処理である。工事の年間予
算配分の適正化のために、予算単年度主義の撤廃もしくは制限の緩和、公共工事主体の出
来る部分の一部民営化が必要であるという観点から、予算使用の問題を考えたい。
公共工事の年間予算配分の効率・適正化をはかることは無駄な予算の是正につながり国の
経済的メリットの発生になるという意義がある。
調査方法:
予算の年間配分額(=実際に行われた工事の評価額)を主体者別に調査し、どのような配
分になっているか検証した。
25
調査は、公平性をとるために 1995‑1999 までそれぞれの項目の平均値を取った。
(億円)
主体者別 工事評価額年間配分(1995-1999)
9000
8000
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
4
5
6
7
8
9 10 11 12 1
2
国
公団・事業団
政府関連企業
都道府県
市区町村
地方公営企業
その他
3
(月)
次に前月に比べ、その項目がどれだけ増えているか検証した。
評価額増加率推移(1995-1999)
各月評価額/4月分評価額
8
7
6
国
公団/事業団
政府関連企業
都道府県
市区町村
地方公営企業
その他
5
4
3
2
1
0
4
5
6
7
8
9 (月)10
11
12
1
2
3
(資料: 建設省建設経済局調査情報課「公共工事着工統計調査年度報」1995‑1999)
備考:公共工事:
国,公団,事業団,政府関連企業,地方公共団体,地方公営企業等が建設業者に
直接発注する建設工事。ただし,1件当たり 500 万円未満の工事は除く。
公団・事業団
都市基盤整備公団等の各公団及び政府関係事業団
26
政府関連企業
郵政・営林関係局,逓信病院,造幣局,印刷局,日本鉄道建設公団, 帝都高速度交
通営団,日本銀行,電源開発株式会社等
地方公営企業
都道府県及び市区町村の公営企業部局(水道局,交通局等)
その他
地方公共団体が設立した組合,地方開発事業団,地方住宅供給公社,
地方道路公社、土地開発公社,土地改良区等
考察:
うえの 2 つのグラフから読み取れることは、
すべての主体者において、2‑3 月の公共工事評価額増加率が他のどの月の前月比増加率より
も上回っているということである。
公共工事評価額増加率が大きい順に政府関連企業、国、地方公営企業、都道府県、市区町
村、公団・事業団と並べることが出来る。この年末の出費は、次年度予算獲得のための予
算使いきり志向からきていると考えられる。その実証は難しいが、他に要因が考えられな
いということである。さらに、このような予算使いきり志向から来る予算処理が不適正な
ものであり、非効率なものであるという実証も難しく、いいデータはえられなかった。し
かし、予算というのは、使うべき支出項目が存在し、使うべき時期があって、はじめて使
われるべきものであると考えられる。このような予算処理は弊害も多いのではないかと思
われる。
その解決策として以下をあげる。
解決策
①.公共工事予算構造の規制緩和
同一主体者ごとの年度別変化割合より分析した結果から、元の予算の大きさの違いと
年末の予算の多用は比例しないことがわかった為、制限は、なければないほど、効率的に
予算は使用されるといえる。そこで規制緩和政策の必要性があげられる。
①単年度主義から複数年度主義へ。
(3 年程度)
②財源基盤および権力基盤の一番大きい、国への財源移転
(権力集中と効率化)
結論:予算単年度主義から派生する年内予算使いきり志向は、制約を加えることによって
配分を統制するのではなく自主的に適正化しないと、本来の節税・必要な時だけ必
要な額をという枠からはずれてしまう。よって予算配分の適正化のためには予算構
造システムの規制緩和が必要である。
27
6.チャイルドソルジャーを
なくせ!
〜こどもから民族対立
・貧困をなくすには?〜
平林
美香(2001年度演習Ⅱ)
要旨
スリランカ(SRI)における民族紛争にチャイルドソルジャー(子ども兵士)が活用されている。
子どもの人権侵害であるチャイルドソルジャーを撲滅するため、チャイルドソルジャーの
発生原因から解決策を提示するとともに、その解決策の効果をイスラエルで実施されてい
るプログラムを挙げ、検証する。
★
チャイルドソルジャー
チャイルドソルジャーとは前線での戦闘行為、後方での物資輸送等をする子ども達を指
す。また女子の場合には成人兵士達の性的搾取の対象とさせられる例もある。大人が子ど
もを活用する理由は彼らを従順な消耗品と見なしているからである。
子どもの権利侵害であるチャイルドソルジャーを国は(表立って)許可していない。それを
具現化したものが1989年11月20日に国連総会において採択され、2001年5月
現在で191の国と地域が締結している「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」の
中の第38条である。ここでは15歳未満の子どもが兵士になる事が禁止されている。
28
第38条
1. 締約国は、武力紛争において自国に適用される国際人道法の規定で児童
に関係を有するものを尊重し及びこれらの規定の尊重を確保すること
を約束する。
2. 締約国は、15 歳未満の者が敵対行為に直接参加しないことを確保するた
めのすべての実行可能な措置をとる。
3. 締約国は、15 歳未満の者を自国の軍隊に採用することを差し控えるもの
とし、また、15 歳以上 18 歳未満の者の中から採用するに当たっては、
最年長者を優先させるよう努める。
4. 締約国は、武力紛争において文民を保護するための国際人道法に基づく
自国の義務に従い、武力紛争の影響を受ける児童の保護及び養護を確保
するためのすべての実行可能な措置をとる。
さらに国連人権委員会作業部会によって2000年1月21日に合意、2000年5月2
5日の国連総会で正式に採択された「子どもの権利条約」選択議定書案によって、強制的
徴兵や戦闘行為への参加の禁止がそれまでの15歳から18歳に引き上げられた。このよ
うに世界的にチャイルドソルジャーは禁止されているにも関わらず兵士となっている子ど
も達は現在世界で30万人以上いると推定され、その数は軽火器の普及などから増え続け
ていると言われている。
★
なぜ?
チャイルドソルジャー撲滅のためには最初になぜ兵士になるのかということを考えねば
ならない。そこで子ども達が兵士となる原因を調べたものが図 1 である。これは検索エン
ジン Yahoo!で チャイルドソルジャー を検索しヒットした37件、 子ども兵士 でヒッ
トした93件、検索エンジン Infoseek の
チャイルドソルジャー
でヒットした16件の
計146件のうち、重複した11件を差し引いた135件のホームページからチャイルド
ソルジャーとなる原因の記述数を調べたものである。原因について述べられていたページ
は27件で、一件のページにつき複数原因が記述してあるものはそれぞれカウントした。
その結果、原因は貧困、誘拐、
憎悪の3種類に分類することが出
原因
誘拐
貧困
憎悪
記述あり
記述なし
合計
来た。
ヒット数
18
12
4
27
108
135
それぞれ、武装集団の成人兵士
によって強制的に連行され兵士と
なることを
誘拐 、家庭の窮乏や
孤児のため兵士になる以外に生活
する術を持たないことによる志願
を
表 1:チャイルドソルジャー発生原因
29
貧困 、敵対勢力への復讐など
による志願を
憎悪
と区分した。その他の記述は皆無であったので、チャイルドソルジ
ャー発生原因はこれら3つが全てであると言ってよいだろう。
以上のことからチャイルドソルジャー撲滅のために必要なことは次の3点である。()内は
SRI にあてはめた場合。
① 誘拐主体の理解(LTTE の理解)
② 貧困からの解放(職業訓練)
③
★
対象者の敵対心の払拭(民族融和)
SRI民族紛争
(1) スリランカ
スリランカとはインドから29km 離れたインド洋上に位置する北海道を一回り小さく
した大きさの島国であるが、現在多数派を形成するシンハラ人(*1)と北・東部州を分離独
立させようとするタミル人(*2)の間で武力衝突が行われている。なお武力衝突の主体はシ
ンハラ人は政府軍であり、タミル人はタミルイーラム解放の虎(LTTE)である。
図1:スリランカ
*1 シンハラ人――SRI 人口の73%を占める。シンハラ語を母語とし、仏教徒である
ことを指標として成り立つ
*2 タミル人――SRI 人口の19%を占める。タミル語を母語とし、ヒンドゥー教徒で
あることを指標として成り立つ
(2)タミルイーラム解放の虎(LTTE)
タミルイーラム解放の虎(LTTE/The Liberation Tigers of Tamil Eelam)は 1976 年に結成
され、北アメリカ、ヨーロッパ、アジアの巨大なタミル人共同体からの資金援助を受けな
がら、スリランカタミル人の独立国家を作るために合法・非合法の財源・武器調達、宣伝
活動を SRI 全土で行っている。北・東部を支配下においた LTTE は 1983 年、政府に対す
30
る武力闘争を開始。ゲリラ戦を主にしているが、戦場での戦闘の他にも政治家、軍幹部を
ターゲットとしたテロを戦略の一部としており、1993年にはプレマサダ大統領も暗殺
している。
6%
8%
シンハラ
8%
7%
スリランカタミ
ル
インドタミル
13%
73%
17%
68%
その他
仏教徒
ヒンドゥー教徒
イスラム教徒
キリスト教徒
(出所:『もっと知りたいスリランカ』杉本良雄編 1987 年)
図2:民族比
図3:宗教別人口比
LTTE には海外に、資金調達、武器調達、宣伝活動を行う支援組織があり、合法的組織に
よる国連や外国政府へのロビー活動等を行っている。また SRI 国内だけでも約1万人の武
装戦闘員がいるが、その中にチャイルドソルジャーが存在するのである。よって SRI でチ
ャイルドソルジャーとなる危険性のある子どもはタミル人である。
★
チャイルドソルジャー撲滅へ向けて
(1) LTTE への理解を求める動き〜ユニセフの取り組み〜
1998年に国連事務総長特別代表として子どもと武力紛争の問題を担当するオララ・
オトゥヌ氏が LTTE から子どもを兵士として徴用しない旨の合意を取りつけたが改善が見
られなかったため、2001年2月にユニセフの事務局次長であるアンドレ・ロバーフロ
アが SRI 北部を訪れ、LTTE 幹部に国連の憂慮を伝えた。LTTE 側は兵士徴用の最低年齢
を広く告知する、学校のなかや近隣で徴用活動を行わない、徴用された子どものこれまで
の報告例をすべて調査する、17 歳以下の兵士は解放するといった内容が含まれているかつ
ての合意の再確認をし、国連が提案する追加的な対策を実施することも了承した。依然大
きな前進はないものの、期待できる兆候を時折見る事ができるようになった。
このようにユニセフが中心の LTTE へ理解を求める活動があるため、今回提案するプラ
ンは貧困層への職業訓練および民族融和への取り組みである。
(2)対象者の摘出
18歳未満の貧困者数を把握する。
SRI 政府の統計部門が社会経済調査をもとに、経済計画担当部門の推奨する最低栄養摂
取基準を満たす食料費支出を算出して求めた貧困線(表2)をもとに貧困率を算出したのが
表3である。貧困率27%を18歳未満人口6163(1000人)(1999年)(*)にかけ
31
て出た数字が18歳未満の貧困者数である。
各国通貨表示貧困線
期種
所得の単位
調査年次
300 スリランカルピー
月
世帯(平均 5,6 人)
1978
表2:貧困線
年
1982 年
貧困率(%)
27
表3:貧困率
貧困者数(100 万人)
4.1
(出所:『アジアにおける所得分配と貧困率の分析』溝口敏行・松田芳郎編 1997 年)
・ 6163000×0.27=1664010人・・・18歳未満貧困者
算出された約166万人の中のタミル人が仕方なくチャイルドソルジャーになっている
か、将来なる危険性のある子ども達ということになるが、撲滅プランはタミル人のみに限
定せずに民族融和の観点からシンハラ人を含むこの166万人を対象者とする。
*3 SRI は経済成長を続けており、1982年時点よりも1999年は貧困率が減少してい
るものと考えられるが1982年より新しい資料が手に入らなかったため使用する
(3)チャイルドソルジャー撲滅プランの提案
SRI チャイルドソルジャー撲滅プランの具体策としてシンハラ人とタミル人貧困層の子
どもを対象とした民族融和的職業訓練学校の設立を提案する。
貧困からチャイルドソルジャーになる事実を考慮すれば、職業訓練の場を設け、就職機
会を貧困層の子どもに与える職業訓練校の設立がチャイルドソルジャー撲滅につながるは
ずである。
また使用言語が異なるためシンハラ人とタミル人は同じ学校に通っていない事が対立感
情を増幅させている。よってプログラムではシンハラ人とタミル人を1つの学校で教育し、
英語(*4)を教授用語にする。共通使用言語を持つことでコミュニケーション能力の向上、
相互理解促進が期待できるためで、このようにタミル人とシンハラ人を同じ環境で教える
事により多民族への偏見、紛争へ荷担する意志の排除が可能となる。
目標に掲げた職業訓練と民族融和のうち前者についてはバックアップ体制を整え就職さ
せれば解決できると予測されるので、後者についてのみ先例を紹介し実現可能であること
を証明する。
32
*4 公教育以外の社会における英語の地位が官公庁を中心に異常と思われるほど高く、SRI
高等教育を受けていなくてもアメリカやイギリスで教育を受けた者は就職が有利で企
業や官庁での昇進が早いばかりでなく、民族的に同質な農村部に対し、都市部では日
常業務において英語の使用頻度がとても高く、民族の混在する都市部では英語の使用
頻度がとても高く、英語能力が必要とされることからも英語能力獲得は重要である。
★
民族融和プログラム事例〜ネーブシャローム/ワハト・アルサラーム〜
イスラエルでは依然として和平反対派によるテロ活
動、及びパレスチナ住民とイスラエル治安部隊との衝
突事件が発生しているが、そのイスラエルにネーブシ
ャローム/ワハト・アルサラーム(平和のオアシス)と
いうユダヤ人とイスラエル国籍を持つパレスチナ人が
共存して暮らす村が存在する。
1970年代初頭にエルサレムとテレアビブの間に
創設され、2000年現在では35世帯が村で生活し
図4:イスラエル
ている。村は民主的に運営され、あらゆる政治的組織・
活動から独立、青少年を中心とした教育活動など様々
な取り組みを行い、
「ユダヤ人とパレスチナ人の共存」の可能性を示している。
・保育園・幼稚園・小学校
ネーブシャローム/ワハト・アルサラームの保育園・幼稚園・小学校は、二つの民族(ユ
ダヤ人・パレスチナ人)のためのイスラエル唯一の完全な二ヶ国語による教育機関である。
ユダヤ人・パレスチナ人の教師は、それぞれの母国語(ヘブライ語・アラビア語)だけを
使う。幼児期から子ども達は自らのアイデンティティー・文化・伝統を自覚しつつ、自分と
は異なる他のアイデンティティー・文化・伝統に対する理解と尊重を持てる環境で教育が
行われている。保育園・幼稚園・小学校は下記の基本理念で運営される。
○ユダヤ人・パレスチナ人の運営者・教師数の完全平等
○二つの民族が毎日顔を合わせることが出来るような体制の提供
○全生徒に対してヘブライ語・アラビア語の両方の言語による教育
○他の文化・伝統の理解と尊重を含む自己の文化・伝統・アイデンティティー確立の教育
1992年に幼稚園、93年に小学校が教育省により認可され、97年には小学校が他
の地域での同様のプロジェクトのための先例として「試験的教育機関」と位置づけられた。
現在では、ネーブシャローム/ワハト・アルサラームの外に住むユダヤ人やパレスチナ人
に対しても学校の門戸が開かれ、幼稚園・小学校に通う250人の児童の90%は、近隣
33
する25地域のアラブ人の村やユダヤ人の村から通学している。
(http://www.nswas.com/index.html)
★
実効性の検証
ネーブシャローム/ワハト・アルサラームと提示プランとの最大の相違点は参加主体の
積極性である。ネーブシャローム/ワハト・アルサラームは方針に共感した人間が自主的
に参加を申し込むのに対し、提示プランは敵意を抱いている子どもも含めて民族融和を促
進するものであり、そこに民族融和への大きな壁がある。しかし、ネーブシャローム/ワ
ハト・アルサラームの教育機関に村外から通学する子には近くで融和プログラムを目の当
たりにして考えを改めた家庭の存在も予測されうる。これら家庭を含む村外通学生が多数
いる点、同小学校が「試験的教育機関」と位置付けられた点は紛争地域において表面的・
潜在的融和賛同者の存在を示唆しており、そのような賛同者によるバックアップによって
子どもを敵対心から解放する事も可能であると考える。また「試験的教育機関」に認定さ
れた事は民族融和の可能性を国家レベルで確認された証拠でもある。以上の事から民族融
和プログラムは実現可能であると判断する。
★
適用可能性の検証
ネーブシャローム/ワハト・アルサラームのようなプランが SRI で適用可能かを検証し
た。表4は Yahoo!エンジンのある国10ヶ国を対象としたイスラエルとスリランカの関
心度を調査したものである。関心度は Yahoo!でキーワード
件数、
Srilanka
Israel
でのヒット
でのヒット件数で示した。
なお英語表記で検索したしたため Yahoo!登録サイト全てを網羅しておらずまた重複な
どにより実際のサイト数は修正が必要ではあるが関心度を調べるための指標であるのでこ
のまま用いる事とする。結果、イスラエルヒット数がスリランカヒット数を上回った国は 3
カ国に過ぎず、よってスリランカの関心度はイスラエルより高いと予想される。
国名
日本
インド
アメリカ
カナダ
イギリス
イスラエル
48
2514
2549
3102
2406
スリランカ
27
4732
6041
6059
4062
国名
ドイツ
フランス
ブラジル
イタリア
デンマーク
イスラエル
1210
144
59
25
192
スリランカ
930
208
125
116
123
表4:Yahoo!検索結果
このような調査をしたのはスリランカへの関心度が学校設立の可能性と比例するからで
34
ある。なぜならネーブシャローム/ワハト・アルサラームに代表されるプログラムは民間
人の援助によって運営されており、運営資金獲得率は海外の問題意識の高さと比例するか
らである。この結果を見る限りにおいて、SRI 民族融和型職業訓練学校への資金調達達成
確立は高い。よって設立は可能であると判断する。
★
結論
チャイルドソルジャーが子どもの人権侵害であるという認識が世界的に広まった現在で
は、国連総会においてもチャイルドソルジャー禁止を確認しているが、「子どもの権利条
約」選択議定書案に罰則規定がない事、さらにはチャイルドソルジャーが国家だけではな
く非合法組織で活用されている事などから実際にはその数は依然増え続けているという現
状がある。
そこでチャイルドソルジャー撲滅への具体的取り組みを提案したのが当研究報告である。
調査の結果からチャイルドソルジャーは誘拐主体の理解、貧困からの解放、対象者の敵対
心の払拭の三点が必要である事がわかった。さらに SRI においては誘拐主体の理解はユニ
セフによって取り組まれているため残りの二点を解決できるプランとして、民族融和型職
業訓練学校の設立を提案したのである。このプランは内容面においてイスラエルの民族融
和プログラムの実績を提示、検証した結果有効であり、また資金面から調査した結果にお
いても十分実現可能性を持つものであると判断された。
35
7.子どもはどこで暮らすべきか
藤木
佐和子(2001年度演習Ⅱ)
要旨
近年児童虐待が増えている。その結果、家庭から離れて暮らす子どもも多くいる。
アメリカやイギリスでもそれは同じだ。ただ、子どもを家庭から離した後どこで養育す
るのかという点では大きく異なっている。日本では家庭から離れたら施設で暮らすことが
多いが、アメリカやイギリスでは里親制度が活用されている。
子どもの福祉を考えた場合、また費用の面でも里親というのは考えるべき問題ではない
のか。
目次
はじめに
1.子どもたちの行方
2.アメリカ合衆国の里親制度
3.日本の里親
4.里親を増やそう
おわりに
はじめに
日本でもアメリカでもイギリスでも、子どもが暮らすべき場所の第一がその子が生まれ
た家庭だという点においては一致するだろう。ただ、アメリカなどでは児童虐待が早くか
ら社会問題として捉えられていた。児童虐待に関する法や制度の整備も日本と比べると格
段に進歩している。里親に関する制度も整備がすすんでいる。
児童虐待における里親というのは日本ではきわめて少ない。アメリカとイギリスの例を
参考に調べてみた。
36
1.こどもたちの行方
40000
35000
30000
件数
25000
日本・児童福祉施設
等
日本・里親委託
20000
15000
10000
5000
0
1989年
1994年
1999年
40000
35000
30000
件数
25000
英国・児童福祉施設
等
英国・里親・養子縁組
20000
15000
10000
5000
0
1
2
3
4
日本とイギリスでは親元から離した子どもをどこで育てるかという姿勢が全く異なって
いるのがわかる。
2.アメリカの里親制度
アメリカ合衆国と言っても州ごとに制度が違う。連邦レベルでの児童虐待予防・処遇法
に基づいて各州が実際の対応に基づいて独自に法を定めている。児童虐待予防・処遇法で
はその基本精神が述べてあり、州はこれを守らないと政府からお金がおりない。基本精神
37
のひとつにこういうものがある。
子どもが家庭から離れなければならない時は、できるだけ短期間に元の家庭に戻るか、
それができない場合は養子縁組で新家庭の一員として育つよう努力する。
なぜこのように定められているかというと、まず「正常な家庭が子どもに与えるもの」
という問題がある。
①
根本的な保護と養育
②
子どもが愛着関係を結ぶことができて、子どもの世話をする大人が決まってい
る。
③
毎日その他の特定な大人と間断ないふれあいがある。
④
一生の間、限られた人数の人々と継続した、しかし変化のある人間関係を持つ
⑤
安全感と安定感
⑥
成長に向かうための刺激とはげまし
⑦
適度な期待
⑧
自分の感情を認識して、表現する機会
⑨
ストレスに面した時の支援
このうち2、3,4については施設ではのぞめないものであろう。施設の職員はあくま
で仕事として子どもの世話をするのである。途中で仕事をやめたり新しい職員が入ってき
たりといったこともある。
子どもの福祉という観点の他に、費用という問題がある。施設養護は高くつくというの
が一般認識なのだ。グループ・ホームという複数の子どもを複数の夫婦が生活一切の面倒
を見るかたちのものがあるが、この形態では施設の約6分の1、里親ホームでは施設の約
半分ですむ。
具体的に里親制度はどんなものになっているのか。ここではミズーリ州の例を参考にす
る。ミズーリ州では家族の再統合を第一目標としているため、日本でも受け入れられやす
い制度ではないかと思うからだ。
ミズーリ州では理想的終結は家族の再統合、養子縁組、親族による養育、一定年齢に達
した場合の子ども自身による自立生活の開始、フォスターケア(里親によるケア)の順で
あげている。里親によるケアは一番最後にくるのだが、それでも子どものニーズに合わせ
て6種類の里親が用意されている。
そのほかに Foster Family Group Care という子どもを集団でケアするフォスターフ
ァミリーがある。兄弟姉妹が複数存在し、その兄弟姉妹を1ヵ所でケアをした方がよいと
判断される児童、児童自身が未婚で妊娠しており、それを守秘する必要や彼女の家族と共
に関連する問題に取り組む必要がある児童などが利用する。
また12歳から20歳までの青少年をケアするグループホームもある。このように、で
きる限り施設以外の場所で養育するためのシステムが確立されている。
38
3.日本の里親
里親の登録者数
7千5百人
実際の里親数
1700人
預けられた児童数
約2100人
(99年度)
里親の実数と登録者数の間に大きな開きが出てきている。これは子どものニーズにふ
さわしい登録者が限られるためだ。日本では法律上も親子となる養子縁組を前提とした里
親が多いのに対し、被虐待児のように親元に戻ることを前提とした期限付きの養育が必要
な子どもがおおくなってきたのだ。親元で育ったことのない乳幼児は引き取り手も多いが、
被虐待児をひきとろうとする家庭はきわめて少ないというのが現状である。
4.里親を増やそう
現在、養護施設はどこもいっぱいである。児童虐待という問題が広く認識されるにつれ
保護を必要とする子どもは今後増えていくだろう。施設を増やすという考えもあるだろう
が、私は里親のように、できるだけ家族に近い形態が望ましいと思う。子どもを「管理」
する必要が最も少ないからだ。
施設を作るにしても、その点でも日本の制度は遅れている。職員の配置だけでも、日本
では小学生以上の子ども6人に対し職員1人である。しかもこれは職員が365日24時
間働くことを前提としたものだ。職員も休まなければいけないので、実際に一人の職員が
見る子どもの数は跳ね上がる。それに対してイギリスでは子ども1人に職員1人が基準で、
子どもの数より職員の数が多いところもあるという手厚さだ。里親ならば1つの家庭で少
数の子どもを見ることができる。子どもが大人を独占できる時間だって里親家庭の方がず
っと恵まれているはずだ。
フォスター・ファミリーという概念自体が全くないところに制度をつくるのだか
らまずは啓発活動から始めるべきなのではないだろうか。フォスター・ファミリーという
ものを世間に理解してもらわないことにはファミリーのなり手も見つからないだろう。あ
わせてフォスター・ファミリーの教育もしなければならない。虐待を受けていた子どもを
どう扱うのか、きちんと理解したファミリーが必要とされている。里親家庭に適応できず
に措置変更になる子どもも多い。1992年に当時の厚生省が行った調査によれば里親委
託された子どものうち、別の里親家庭に措置変更された子どもは3.2パーセント、養護
施設や教護院など、なんらかの施設に変更された子どもは11.4パーセントである。1
4.6パーセントの子どもが措置変更を受けていることになる。専門の教育を受けた里親
をふやさないと児童虐待が増えている現在、措置変更になる子どもが増えるだろう。あち
こちたらい回しになるのは子どものためにもよくない。
39
次回の児童虐待防止法を改正する際にはフォスター・ファミリーに関する条文を入れて
しまうのはどうだろうか。啓発活動、ファミリーへの教育、ファミリーの責任、権利・義
務といったものを定めるのだ。
現在の児童虐待防止法は以前からあった制度を補強する性質のもので、改正を前提とし
て定められたものである。日本は児童虐待に取り組み始めたばかりなので、新しい制度も
必要だと思う。
おわりに
フォスター・ファミリーが普及すれば現在の子どもを保護しようにもどこもいっぱいだ
という問題が解決できる。子どもも普通の家庭で育つことができる。施設で養育するより
も安上がりなので、その分を親への支援にまわすことができるだろう。家族の再統合とい
う点でも有意義であろう。多くのメリットを持つ制度だと思われる。
40
8.不振の GAP に提案する!
デザイン性優位の戦略
…低価格競争とは一線を
門馬
愛佳(2001年度演習Ⅱ)
要旨
売り上げ 1.6 兆円を誇り(東洋経済調べ)
、SPA(製造型小売業)という業態を提起し、
その教科書的存在として自ら頂点に君臨してきた感のある GAP が今、苦境に直面している
という。現在では「成功神話」とまで語られるユニクロも、1 つの目標として公式に掲げて
きたカジュアルブランドである。しかし昨秋、既存店売り上げが減収に転じたのをきっか
けに、4半期ベースの業績は6期連続減益となり、1000人を超えるレイオフに追い込
まれている。
(繊研新聞調べ)
ここでは競合というべく同じカジュアルブランドの『成功者』
、ユニクロとの比較分析の
中から、GAPブランドの消費者の中での位置付けや、市場の傾向を把握する。
さらには、GAP ブランドが日本市場での売り上げが減少している要因は顧客数そのもの
の減少にあり(商品の購入点数や 1 人あたりの購入金額ではなく)
、顧客数を増加させるに
は「市場ニーズとGAP商品のズレ」をなくし、
「購入につながる来店の動機付け」が必要
であることを市場調査に主張する。
具体的には、現状のGAPの強みを生かした戦略とは価格における優位性で幅広い消費
者をターゲットにするのではなく、現状の価格で購買力のある層にターゲットを絞り、そ
れらの層が好むデザインと購入につながる、欲しいと思わせる動機付けが必要であると提
案する。
.
研究の概要
GAPの売り上げが落ちている。店頭に立っていても昨年の同じ時期と比較し、明らか
に客数が減っているのが目に見えて分かる。例えば、昨年は会計を行うレジスターはすべ
て使用しても、たくさんの商品を手にした客の行列が 50 メートルほどできるといった状態
であった。
実際、客数の減少だけではなく、客が一人当たり購入する商品の点数も減っている。G
41
APでは、
会計を行うコンピューターにより、
「一人の客が 1 回の会計でいくら購入したか」
ということが記録されるスタイルをとっている。つまり、その記録からは、
『客一人当たり
が購入した金額及び、商品点数の平均値』、『購入をした客数』、『店全体の売り上げ』のそ
れぞれが、はっきりと数値として分かるようになっている。
そのデータによると著しく減少しているのが、
『購入する客数』である。それと比較し、
来店して購入する客の『1 人あたりが購入する金額』
、
『および購入する商品の点数』には余
り変化は見えない。
つまり、言いかえれば購入している客が「1 回の買い物で購入する金額」や「商品数」と
いった点ではなく、「購入する客数そのもの」もしくは、「GAPに来店する来客数そのも
の」が減少していることがGAPの売り上げ全体が減少傾向にある最も大きな要因である
と考えられる。
では、なぜGAPの商品購入客数、さらには来客数も減少しているのであろうか。原因
について以下を挙げてみた。
1、GAPの商品自体に魅力を感じない⇒市場のニーズとGAPの商品が一致していない
2、GAPの店舗に足を運ぼうという動機付けがない⇒GAPというブランド、もしくは特
定の商品を欲しいと感じるきっかけが
これらの 1〜2 の仮説に基付き、GAP商品の購入に結びつく客数の増加を目的として
① 市場のニーズを把握する
② 現在、GAPが市場に出している商品と市場のニーズにズレがないかを検証する
(客数が減少している原因を探る)
③ 現在GAPブランドが持つ特性と市場のニーズを一致させる/購入したいと思う動機
付けをつくる、といった必要と効果を考証する。
■ GAP とユニクロ…なぜGAPとユニクロを比較するのか
↓
消費者から見る 2 つのブランドは非常に似通っている
GAP とは….アメリカ合衆国、サンフランシスコに本社を持つ。「スーパーマーケットが
小売のモデル」という CEO(経営最高責任者)ドレックスラー氏の理念を基に SPA(製造
型小売)という業態を定義したブランド。ユニクロや無印良品をはじめとする日本国内に
も他 SPA 企業が存在するが、GAP は世界展開を行う世界最大の SPA である。1998 年最盛
期にはコカ・コーラに匹敵するブランドになるかもしれない---とまでいわれていた。日本
市場では本国で自社が保有する『バナナ・リパブリック』というブランドのプライスポジ
ションに GAP を位置付けるという高価格政策を採っている。価格は平均で米国の約 1.84
42
倍(商業界/ファッション販売より)となっている。
ユニクロとは….安さと品質を最大の武器に「工業製品/部品としての洋服を売る。ルック
スやライフスタイルは売らない」という柳井社長の理念の基で、世界展開を目指す。ファ
ーストリテイリング社のブランド。日本国民に「ユニクロのフリースを着る」というライ
フスタイルをつくったブランド。2000 年の秋冬におけるユニクロフリースの販売点数は
2600 万枚、エアテックジャケットは 185 万枚という驚異的な数に達した。2001 年 8 月期
の同社の売り上げは 4000 億円、経常利益は 1040 億円をたたき出した。9 月 28 日にはイギ
リス進出を果たし、そこでも GAP と張り合う可能性は高いといえる。
両者の共通点…「老若男女誰もが着ることのできるベーシックで質の良いアイテムを手
頃な価格で提供する」というブランドコンセプトはほぼ共通のものといえる。また商品展
開も非常に似通っている。/図 1 参照
■GAPブランドの現状イメージ
図 1 商品展開比較
ブランド
会社名
アイテム
価格
色
サイズ
素材
原産国
ブランド
会社名
アイテム
価格
色
サイズ
素材
原産国
GAP
ギャップ・ジャパン
長袖クルーネックTシャツ
4400円
5色
XS,S,M,L,XL
綿 100%
韓国
ユニクロ
ファーストリテイリング
長袖クルーネックTシャツ
1000円
12色
S,M,L,XL
綿 100%
中国
GAP
ギャップ・ジャパン
クルーネックセーター
5800円
11色
XS,S,M,L,XL
ウール 100%
スリランカ
ユニクロ
ファーストリテイリング
クルーネックセーター
1900円
12色
S,M,L,XL
ウール 100%
中国
両者を比較したときに、まず感じるのが「価格の高さ」である。
その他の点、サイズ展開/色数/素材等は、示し合わせたように違いは見えない。
43
では、消費者の間ではこの 2 ブランドに認知度の差はあるのであろうか。
カジュアルウエア/普段着の買い物を考え
たとき、思いつくブランドはどこですか?
( 自由回答)
14- 24歳男女
32%
6%
35%
27%
ユニクロ
GAP
ジーンズメイト
その他
図 2 認知度調査
100人
「消費者自身のカジュアルウエア/普段着の買い物について考えたとき、思いつくブランド」
ということで自由に挙げてもらった。自由回答にしたことで、日頃から意識の中にあるブ
ランド名が出てきている可能性は非常に高い。そのような調査において、ユニクロ 35%、
GAP27%と認知度にはユニクロも GAP もほぼ差はないといえる。したがって、
『認知度』
という点では「購入されるブランド」と「購入されないブランド」という構図の要因と捉
えることはできない、ということになる。
では、消費者はどのような点からこの 2 つのブランドを捉え、差別化の要素としている
のであろうか。細かい部分からの消費者意識の把握の行うため、14 歳−24 歳に該当する男
女に市場調査を行った。/図 3
■市場調査
調査は 100 人の男女に行った。調査対象者は 14 歳から 24 歳に該当し、過去 6 ヶ月以内に普
段着/カジュアルウェアを購入した男女である。過去 6 ヶ月以内の衣服購入者に限定した理由は、
できる限り実際の購入につながる調査とするため、購入頻度の比較的高い人物の回答を反映させ
た調査とするためである。割付は 14−17 歳が 40 人、18−24 歳が 60 人とした。これは、衣服の購
入に使える金額の差を考慮し 4 対 6 の割合に設定した。調査の項目は、消費者が商品について差
別化の基準となる 8 項目を中心に、例えば、もし価格が同じであったら…などのようにより追求して
いる調査となっている。調査事態の内容と分析については、文中にて適宜解説する。
調査質問項目/ 品揃え/価格/質/サイズ/デザイン/商品価値/ニーズ/人気の 8 項目からなる
① べーシックなものが揃っている
②手頃な値段と感じる
③洋服の質がよいと感じる
④欲しいときに必要なサイズが揃っている
44
⑤流行に敏感であなたの好みを満たしてくれる
⑥価格にふさわしい価値がある
⑦いつも似合う服が揃っている
⑧人気が出てきていると感じる
2点
大変そう思う
1点
ややそう思う
0点
どちらともいえない
−1 点
ややそう思わない
−2 点
まったくそう思わない
図3
……として項目ごとに評価を数値化した
項目別比較
<14−17 歳
男女
40 人>
質問項目①〜⑧に対する消費者の評価
①
60
⑧
40
20
②
0
-20
⑦
⑥
③
④
⑤
45
GAP
ユニクロ
<18−24歳
男女60人>
質問項目①〜⑥に対する消費者の評価
①
100
⑧
②
50
0
⑦
③
-50
⑥
GAP
ユニクロ
④
⑤
■ 図 3 の解説
まとめると以下のようになる。
GAP
ユニクロ
14−17 歳の層
メリット
*手頃な値段である
*流行に敏感で好みを満たしてくれ
るものがある
*似合う服が揃っている
*価格にふさわしい価値が
*人気が出てきていると感じる
あると感じる
デメリット
*流行に敏感な、好みを
*手頃な値段であるとは全く感じ
満たしてくれるものは
ない
あまりない
*サイズがあまり揃っていない
*似合う服が揃って
いるとは感じない
46
GAP
ユニクロ
18-24 歳の層
メリット
*手頃な値段である
*価格にふさわしい価値がある
*まあベーシックなものが揃っている
と感じる
*人気が出てきていると感じる
*ややサイズが揃っている
*ベーシックなものが揃っている
デメリット
*サイズがあまり揃って
*
価格にふさわしい価値はない
いない
*流行に敏感な、好みを満たして
*人気が出てきているとは感じない
くれるものはない
*似合う服が揃っているとは感じない
*質が良いとはあまり感じない
と、このようになる。ここでは、14−17 歳の層において GAP というブランドはユニ
クロに比べ、
「流行に敏感な、好みを満たしてくれる、似合う服が揃っているブランド」と
位置付けられていることがわかる。しかしながら「手頃な値段である」といった感は全く
ないようだ。つまり、価格という面において GAP はユニクロに優位性は持たないというこ
とになる。まあ、これは図 1 の商品展開比較を見ていただくと分かるとおり GAP の価格は
ユニクロと比較すると、通常約3〜4倍の設定となっており、その点を考えると当たり前
の結果であるともいえる。18−24歳の層においてはどうであろうか。
「ベーシックなも
のが揃っているとはまあ感じるものの、価格にふさわしい価値も、流行に敏感で好みを満
たしてくれるものもない」とやや厳しい見方をされているということがわかる。
では、ユニクロとの比較ではなく GAP というブランドそのもののイメージというものは
どのようなものなのであろうか。14−17歳/18−24歳と世代別に自由回答での調査
を行った。なお、リストに挙げられているのは複数の回答がなされたキーワードのみとな
っている。自由回答において、複数回答がされるキーワードとは調査対象者がある程度、
共通の認識として持っているということを前提とし、分析を進めていくことを先に断って
おく。
47
図 4 GAP ブランドのイメージ調査
(自由回答)
GAP はどのようなブランドであると感じますか
ユニクロより高い
高い/高そうだ
世界に広がってるブランド
シンプル
かっこいい
デザインが良い
カジュアルブランド
GAP はどのようなブランドであると感じますか
子供から大人まで買える
ユニクロより高い
アメリカのブランド
手ごろな値段
アメリカ版ユニクロ
服の種類が豊富
サイズが豊富
シンプル
3
7
3
9
3
5
3
14-17
人
人
人
人
人
人
人
3
9
3
6
6
3
3
4
18-24
人
人
人
人
人
人
人
人
ここで注目すべきは GAP ブランドの価格に対するイメージである。ユニクロという言葉
を出していないにもかかわらず、
「ユニクロより高い」という回答が目立つということは、
この2つのブランドは消費者のなかで《似ているブランド》として捉えられているという
ことが予想できる。しかし、もっと注意深く見ていくと世代によって14−17歳と18
−24歳だとイメージに違いがあることがわかる。14−17歳の層は GAP を「高い/高そ
うだ」と回答しているのに比べ、18−24歳の層は「ユニクロよりは高いが手頃なブラ
ンド」という回答をしている。
デザイン面でも世代によってイメージは異なる。14−17歳は「シンプルだがかっこ
よく、デザインのよいブランド」としている点に比べ、
「種類やサイズは豊富なものの、シ
ンプルだが、特にいいとも悪いともない」といった結果となった。この結果を先ほどの図
3の結果と組み合わせて整理していくとある1つの問題点が見えてくる。
■GAP ブランドの問題点
図 1 によると「素材」や「置いてある商品展開」には差はみられない。また図 2
によるとブランド自体の認知度にもほぼ差は見られない。つまりこれらは、
『GAP ブランド
の商品が売れない』要因とはならない。
しかし図 4 と図 3 を見てみよう。14−17歳の層は GAP に対して「流行に敏感な、好
みを満たしてくれる、似合う服があるブランド」「かっこよく、デザインのよいブランド」
と捉えている。ただし、
「手頃な値段ではなく、むしろ高い」とも捉えている。
48
18−24歳の層は「ユニクロよりは高いものの、手頃なブランド」としながらも、
「価
格にふさわしい価値はあるとはいえず、流行に敏感で好みを満たしてくれるものはない」
としている。
つまり、
14−17歳
GAPは・・・
「かっこよく、デザインもよく、流行に敏感で好みを満たしてくれる、似合う服がある」
≒
「欲しい洋服があるブランド」
↓
しかし、
「高い」≒「買えない/買わないブランド」
18−24歳
GAPは・・・
「手頃な価格のブランド」≒
「買えるブランド」
↓
しかし、
「価格にふさわしい価値があるとは感じず、流行に敏感な好みを満たしてくれるも
のはない」≒欲しい洋服がないブランド
≒
「買いたいものがない/買えるが買わないブランド」
と、なり実際に『GAPブランドの洋服を購入できる層』と『GAPブランドを支持して
買いたいと思っている層』が異なり、さらには『GAPブランドを購入したいと思う層』
には『高くて買いにくい』価格設定となっている。価格設定的に顧客となりえる18−2
4歳層にとっては『GAPブランドの商品自体に魅力がない』といった状態となっており、
買いたいと思う商品がある⇒買うといった消費行動に結びついていないことがGAPブラ
ンドの商品が売れない原因といえるのではないであろうか。
■GAPブランドの売り上げを上げるには
では、このズレを解決していくにはどのような対策をとっていけばよいのであろうか。こ
こでは以下の2つの角度から提案していきたい。
A
既存の価格設定状況で顧客となりうる可能性のある層(18−24歳)のニーズを追
求し、買いたい⇒買う・・という消費行動につなげる
B
新規の顧客層(14−17歳)までターゲットを広げ、消費者層の幅を広げる
買いたかった⇒買える・・という消費行動につなげる
49
図5
<目標>
<基本戦略仮説>
<個別戦略仮説>
かっこよさ、デザ
イン性の追求
A
既存の価
格設定で顧客
となりうる可
購入につながる動
能性の層のニ
機付け/
ーズを追求
身近さ、日本人でも
着こなせるアピー
ル
<A/Bともに
同じ>
GAPの日本市場にお
ける売上増加を目指す
18-24 歳男女
現状のままでデザイ
新規の顧
ン、ブランド評価、
客層までター
質等の評価が高い若
ゲットを広げ、
年層までターゲット
消費者層の幅
を広げる
B
を広げる
購入につながる動機
付け/
身近さ、日本人でも
着こなせるアピール
<A/Bともに同じ>
14-17歳およびそ
の他の価格重視入者
■ 具体的な戦略仮説
戦略A:個別戦略仮説①
デザイン面における日本独自のニーズや流行に対応できる/決定権を持つシステムの構築
同じカジュアルブランドであるユニクロと競合として張り合うということも視野に入
れて考えたとき、価格や品質で勝負をかけるユニクロに対し、GAPが現在の価格のま
まで販売していこうとするのであれば、
『GAPブランドならでは』という独自性を持った
50
強みが必要となってくる。サイズや種類の豊富さという点では現段階においても、やや評
価を受けているといえる。(図3
項目別比較)したがってもっと他の部分--「流行に敏感
な、好みを満たしてくれる洋服がない」といったデザイン面に対する改善が効果的だと思
われる。またこれは、競合ブランドであるユニクロも持ち合わせていない(図 3 項目別比
較)点であり、実現すれば大きな差別化となり顧客獲得の可能性を望める。さらには、現
在の価格を下げずに売上高を伸ばせる可能性が高いということも加えて挙げておく。
<デザイン面での改善>という点から現在のGAPの状況を考えてみよう。現在のGA
P・JAPANはサンフランシスコにあるGAP本社からの決定と指示をうけてその指示
をオペレーションするのみで、決定権を持っていない。もちろん「報告書」という形で提
案や進言することは可能であるが、決定と指示はサンフランシスコの本社に集中されてお
り、GAP・JAPANの日本市場における独特のニーズ変化やユニクロという競合の存
在も、単に世界の中でのローカル問題としての対応しかできていない感がある。
よってデザイン面における日本市場ニーズ/流行等の変化に合わせた対応の取れるシステ
ムを作る必要を提案する。/
デザイン性の追求
:個別戦略仮説②
著名人、有名人に普段着として着てもらう
これはいわば、デザイン性の追求を補強すべきものともいえるかもしれない。GAPの
イメージを大きく定着させる役割を果たしている、GAPの宣伝広告でGAPの洋服を用
しているのは外国人だけである。さまざまな人種が出てくるが、そこに日本人の姿はない。
しかし、ターゲット層に影響力のある著名人・有名人に実際にCMとしてではなく、普段
着として着てもらうことでそのブランドのデザインやブランド性に対する信頼性が生まれ
る。また、日本人でも《かっこよく》着こなせるということを日本人によってアピールで
きる。
EX:ウタダ・ヒカル効果
昨年歌手のウタダ・ヒカルさんがコロンビア大学に初登校した際、GAPのリュックサ
ックを使用しており、マスメディアによってそのことが明らかにされるやいなや問い合わ
せが殺到し、あっという間に品切れとなってしまった。この商品に関しては消費者は非常
に興味を示し、しかもそれが直接購入に結びつくものであったことは注目に値するといえ
るのではないか。
EX:小泉首相のラルフローレン
小泉首相が、アメリカ合衆国訪問でブッシュ大統領と会談した際に着ていたラルフロー
レンのシャツが
こちらもマスメディアにて報道され、全国の百貨店で問い合わせが殺到
し、急遽増産が決定、購入に走る主婦が殺到したという。こちらに関しても、消費者の興
51
味が購入に直接結びつく形であるということが特徴的である。
これらの例から、著名人・有名人にCMではなくマスメディア等に露出する可能性の高
い場において着用をしてもらうということは、場合によってはCM以上に直接購入に結び
つくという点において、購入したいと思わせる動機付けとして効果的であるといえる。こ
の方法は、実は一般に高級ブランドとして知られるルイ・ヴィトンやクリスチャンディオ
ールなどが商品貸し出し/提供という方法で行っている。カジュアルブランドとして販売し
ているGAPにそこまでする必要があるのかという声がきこえてきそうであるが、逆にい
うと、ユニクロをはじめ競合ブランドが定価格に抑える中で、現在の価格で売り上げをあ
げるにはGAPブランド独自の付加価値というものが必要不可欠なのである。
戦略B:個別戦略仮説①
GAPブランドの商品価格をユニクロと同等レヴェルまで下げる
GAPブランドは誰も買いたいと思っていないわけではない。現状においてもデザイン
や質、ブランド性といった面を評価し、
「買いたい」と考えている層は確実に存在する。
(図
3/図 4 参照)しかし、価格設定が高めなので「買うことができないのである」
。したがって、
これら14−17歳の層に購入が可能である価格設定をし、確実に消費行動に結びつけて
いけばよいのである。
日本市場で販売されているGAPブランドの価格は、米国での販売価格の約 1.84 倍に設
定されている。そしてそれは、現在(2001 年冬)もさほど変化していないようである。し
かし、2000年からのこの1年ほどの間に衣料品の市場価格がユニクロの出現もあり、
2割以上も急落するという価格訂正局面を迎えている(商業界/ファッション販売調べ)と
いう。下の図 6 を見ていただきたい。14−17歳の男女40人に「もしGAPがユニク
ロと同じ価格帯で販売されていたらどの程度購入したいと思うか」という調査に対し 80%
を超える14−17歳が『ぜひ買いたい/まあ買いたい』と回答している。実際にこれらの
消費者を顧客として取り込むことができれば確実に売り上げの増加につながると考えられ
る。
52
図6
もし、「ユニクロ」と同じ価格帯で販売されてい
たら「G AP」からどの程度、洋服を購入したいと
思いますか? 14 歳−17 歳
0%
13%
31%
1 ぜひ買いたい
2 まあ買いたい
1
2
3
4
5
0%
56%
3 どちらともいえない 4 あまり買いたくない
5 まったく買いたくない
:個別戦略仮説②
(戦略A−②で提案したものと同じ)
■戦略Aと戦略Bどちらが最適か
以上の2つの視点から、
『買いたい層が買えず、買える層は買いたくない』といったズレを
消費者がGAPブランドの商品購入までに結びつかない要因として捉え、解決する手段と
して提示した。では、この2つの戦略のうち、最適であると考えられるのはどちらであろ
うか。
戦略B−①であるが、価格を下げるということは非常にその場しのぎ的な解決方法で
あるということである。例えば、仮にGAPを現在のユニクロとどう価格帯まで下げたと
する。フリースを1900円で販売した・・・しかし、ユニクロがフリースを1000円
で販売した場合、価格で顧客の心を惹きつけておこうとするのであれば、さらに同等の価
格帯、もしくはそれ以下まで下げなくてはならないということが予想でき、価格破壊競争
ともなりかねない可能性がある。
また、価格を低価格にすることで、今まで購入しなかった価格第一主義(ブランドやデ
ザインよりも、とにかく安いものを買う)といった層にも購買層が広がる可能性が予想で
きる。そのこと自体は、決して悪いことではないのだが、客層が広がり、デザインやブラ
ンドに「こだわり」を見せない消費者と同じ商品を手にすることを嫌がる、今までのGA
Pのデザインやブランド性を支持していた顧客が離れていく、いわば新たな顧客離れも予
想される。
そして、最も大きなデメリットは図 1 の商品展開比較からも分かるとおり、価格を下げ
ていくことでますますユニクロとの差別化は難しくなっていく。
53
それらのことを踏まえるのであれば、980円のフリースを100枚販売することより
も、
『日本の消費者を意識し、デザインに力をいれたベーシックをライフスタイルやイメー
ジとともにやや手頃な値段を維持しながら販売する』という新しいスタイルのもと、68
00円のフリースを70枚売り上げる方が売上高も上がり、なによりもユニクロとは異な
る、GAPブランドそれ自体の独自性と強みとなるのではないであろうか。
図7
洋服購入の重視点
1デザイン
2 価格
3 素材・質
4 サイズ
5 他の服と合うか
14-17
18-24
1デザイン
2 価格
3 素材・質
4 自分に似合うか
5 ブランド
80%
65%
25%
25%
10%
80%
75%
50%
15%
12,5%
最後に、この戦略はどの程度、市場ニーズに基付くものであるかを裏付ける調査結果を提
示しておく。14−17歳/18−24歳の男女100人に調査を行った洋服購入の際、何
を最も重視するか、という調査である。14−17歳/18−24歳いずれも 80%の人がデ
ザインを最も重視すると答えている。デザイン面を18−24歳といった購買力のある層
の市場ニーズにターゲットを絞って対応していくこと、そして購入したいと思わせる、実
際の購入につながる動機付けが必要であることを強く訴える。
*市場調査・・・14−17歳
18−24歳
40名
60名
計100名の男女に調査を行った。なお、過去6ヶ月以
内に普段着/カジュアルウエアを購入した人の意見のみを有効票として 100 票集めた。 過去6ヶ月以
内に普段着/カジュアルウエアの購入をしてない人物の回答は無効票として、調査の対象には含めてい
ない。年代層を14-17歳と18-24歳に限った点は現実問題として、まとまった数の票を集める
ことが可能な世代に調査範囲を絞ったためである。よって、あくまでこの調査による戦略の提案とい
うこととなる。
○参考文献
・新版
パワーブランドの本質
片平秀貴
・ブランド戦略ビジネスのすすめ方<外資メーカー、クリニークの百貨店ナンバーワン戦略>
・マーケターの仕事
博報堂.小島史彦
54
入江尚弘
・ブランド優位の戦略<顧客を創造するBIの開発と実践>デービット.A.アーカー
・マーケティング革新の時代 3 <ブランド構築>
嶋口充輝
竹内弘高
片平秀貴
石井淳蔵/編
・ブランドビルディングの時代<時例に学ぶブランド構築の知恵>学習院大学教授/青木幸弘、電通ブラン
ドプロジェクトチーム
・繊研新聞
繊研新聞社
・ファッション販売
株式会社商業界
55
9.スポーツ選手の熱中症を
予防しよう
山中
美佑貴(2001年度演習Ⅱ)
要旨
私は現在、成蹊大学体育会女子ラクロス部に所属し、毎年8月中旬から秋にかけて行われ
る関東学生ラクロスリーグ戦にむけて週4・5日の練習を行っている。ラクロスのリーグ
戦は真夏に行われるため夏の暑い時期は特に練習日数・時間共に多く、毎年練習中や試合
中に体調が悪くなり最悪の場合練習や試合を抜けるという事態になってしまい、部の中で
も問題となっていました。そこで部員にアンケートを行い、我が部員達の体調不良の原因
を調査した結果、部員の体力の維持、また更なる向上を図り、その上で適切な水分補給を
行う事で練習・試合時においてプレーができなくなると言う状況をなくせるのではないか
と言う結果に至るまでの過程をここで論文にしました。この研究によって次のリーグ戦で
我が部の勝利に貢献できたら幸いです。
研究の概要
この論文は部員に行ったアンケート調査に基づいています。今回なぜアンケート調査と言
う方法を取ったかと言うと、身体的なデータは集め始めたらきりがなく、身長体重と言っ
た基本的なデータ以外は集めるのが極めて困難であると言うかなり消極的な理由と、ただ
単純に自分の事は自分が一番良くわかっているはずだから聞くのが早いと思った事、睡眠
時間や朝食などアンケート調査によって把握できる事に原因があるのではないかと予想し
ていた事からです。このアンケート調査から練習・試合における部員のコンディションを
把握し、実際体調不良に陥ってしまった部員とそうでなかった部員達のデータを比較し、
それに屋外スポーツには欠かせないであろう天候状況との関連を見て原因を推測し、それ
に対する対策を立て、それによる効果はどんなものになるかをまとめました。
56
1.はじめに〜ラクロスという競技について〜
ラクロスとは 12 人のプレーヤーがクロスと呼ばれるスティックでボールを運び、また相手
のクロスを叩く(チェックと呼ぶ)ことによってボールを落とし奪い合い、最終的には相
手のゴール(ゴールキーパーもいる)にシュートを打って点数を入れあう競技である。フ
ィールド(グラウンド)の大きさはセンターにあるサークル(試合開始とシュート決定後
の試合再開時に行われるドローの際に使う場所、半径9メートル)の大きさとゴールの周り
にあるサークル(ゴールキーパー以外は入ってはいけない場所、半径3メートル)の大き
さと二つのゴール間の距離が82メートルから92メートル、ゴール裏(も使えるのです。
)
の距離が5メートルから9メートルと定められている以外は特にはっきりとした定めはな
く、アウトラインは試合中の審判の笛で判断されます。サッカーのグラウンドの大きさと
ほとんど変わりはありませんが、サッカーとの大きな違いはボールとゴールの大きさが小
さい事と、サッカーではアウトラインから出てしまったボールについては出してしまった
チームの相手方のボールとなりますが、ラクロスでは審判の笛が吹かれた時点でボールの
一番近くにいた人のチームのボールになります。試合時間は各ハーフ25分間でハーフタ
イムは10分間です。
2.熱中症とは何か?
熱中症とは熱い環境下で激しい運動をした時などに生じる障害の総称です。熱中症には熱
疲労・熱痙攣・熱射病という病型があります。
熱疲労・・・脱水や塩分の不足による症状で、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などがみ
られる。
熱痙攣・・・大量に汗をかき水だけを補給して血液の塩分濃度が低下した時に、足、腕、腹部
の筋肉に痛みや痙攣が起こる。
熱射病・・・体温の上昇のため中枢機能に異常をきたした状態で、意識障害(うわごとや、
呼んでもこたえないなど)が起こり死亡率が高い。
実際部内で起こっている熱中症として挙げる症状は頭痛、倦怠感、吐き気、めまい(熱疲労
であると思われる。
)が大半である事から、以下のレポート内で出てくる「体調不良」とは
これらの症状の事であると規定します。
3.我が部の熱中症対策
今年の夏練を迎えるに当たって我が部では以下のことを部員に徹底させました。
* 暑さになれるためと体力維持のために、夏練開始前(8月1日以前)の自主練期間に週
1日は運動をしておくこと。
57
* 練習前30分間に水分を取っておくこと。
* ブレイク(休憩)時には必ず水分を取ること。
* プレー中でものどが渇くようなら自由に水分を取ること。
* 試合時のアップはユニホームで行わないこと。
(濡れた衣服でプレーをしない)
* プレー中に体調が悪くなった者はひどくなる前に申し出て休むこと。
その他スポーツをするに当たって最低限必要な自主管理は各個人に任せました。
4.アンケート調査による現状把握
アンケートは
A.アンケート調査を行った当日の部員各個人の健康状況、体調の詳細
夏練(8月1日〜10月7日)中6回実施
B.去年と今年の夏練での環境や暑さに対する部員各個人の感じ方の比較
夏練終了後1回実施
この二通りのものを我が部の2.3.4年生を対象に行いました。ただしAに関しては、
その日に練習、試合を欠席した人には課せなかったため、その都度人数が違います。
アンケート内容
A
1.今朝の体調
良
普通
悪い
2.睡眠時間
B
3.朝食
とった
とらない
4.水分補給
十分
不十分
5.帽子
した
しない
6.練習後の体調
良
普通
悪い(症状も書く)
1.今年の夏練で練習、試合中・後に体調が悪くなった事がありましたか?
はい
いいえ
2.今年の夏練で練習、試合中に体調が悪くなり途中でぬけたことがありましたか?
はい
いいえ
3.問1,2で「はい」と答えた方はそれは何に原因があると考えますか?
4.今年と去年の夏を比べて、今年は体調が悪くなる事が
増えた
変わらない
減った
5.問4のように思う理由をあげてください。
6.今年と去年の夏を比べて、今年は練習を途中でぬけることが
増えた
変わらない
減った
7.問6のように思う理由をあげてください。
8.去年と比べて気温、湿度、天気等、気象について違うと感じる事がありますか?
58
9.熱中症対策のためには何に気をつけるべきだと考えますか?
10.実際、今年の夏熱中症予防として気をつけたことは何ですか?
5.アンケート結果からの分析
アンケートAの結果グラフ
グラフ1朝の体調:良い、普通、悪いの3つからの選択。下の日にちはアンケートを実施
した日。圧倒的に良い、普通の人数が多い。悪いと答えた人数と体調不
良人数が比例していると思われる。
グラフ1 朝の体調
14
12
7
2
0
0
7日
7
良
普通
悪い
体調不良人数
月
日
16
日
9月
29
日
23
8月
1日
8月
4
2
10
0
8月
9
8
日
4
2
9
8
24
5
10
7
4
3
14
10
10
9月
人数
15
グラフ2睡眠時間:部員には睡眠時間を書いてもらい、それを2時間半の区切り(5時間
ちょうどとかではなく、5時間半といった睡眠時間の人が多かったた
めこうしました。
)を4つの枠に振り分けたもの。3時間から5時間半
の人が一番多く、練習時間が朝のせいかスポーツをしている人にして
低いように思われる。
グラフ2 睡眠時間
20
16
15
12
11
9
43
0
7日
月
24
日
2
0
10
日
3
10
16
29
日
23
8月
8月
1日
4
10
日
4
2
0
0
9月
5
78
9月
10
8月
人数
15
59
10
8
3
0
0〜2.5H
3〜5.5H
6〜8.5H
9H〜
体調不良人数
グラフ3朝食:取ったか取らなかったかの2択。朝食の量は食べる人と食べられる人の差
が大きいと思い調査外とした。取っている人がもちろん圧倒的多数なので
あるが日によっては約5分の1もの人が朝食を取っていない。
グラフ3 朝食
25
15
17
17
4
1
43
16
18
19
4
1
2
0
21
とった
とらない
体調不良人数
10
0
10
月
7日
日
日
日
2
0
9月
24
8月
23
日
8月
1日
0
9月
16
5
8月
29
人数
20
グラフ4水分補給:これも取ったか取らなかったかの2択。ほとんどの人が十分取ったと
答えている。しかしなぜか9月16日だけが十分に取らなかった人数
が多い。
グラフ4 水分補給
20
19
18
17
17
とった
とらない
体調不良人数
7日
24
日
16
日
2
0
10
月
8月
8月
2
10
9月
0
9月
0
7
4
4
1
29
日
4
23
日
5
8月
19
12
10
1日
人数
15
グラフ5帽子:練習中は帽子・サンバイザー・タオル・バンダナ、試合中はバンダナ(バ
ンダナのみ試合中着用可)を着用していたかどうかの2択。プレーの邪魔、
ボールが見にくいなどの理由からあまり着用する人は少ない。
グラフ5 帽子
20
18
12
8
4
11
7
4
10
5
15
15
4
4
2
11
7
0
月
7日
日
24
10
日
16
9月
9月
日
29
8月
日
23
1日
0
8月
8月
人数
15
60
3
0
した
しない
体調不良人数
個人的にはこのアンケートAによって直接の原因が判明する事を期待していたのであるが、
グラフにしてみてどの項目においても顕著に体調不良との関連性が見られるものはなく、
ただ単純に「睡眠が足りなかったから」等の原因だけとは言い切れないと思われる。しかし
個人的にこのグラフの中で注目すべきだと感じたことを2点挙げる。
1.グラフ1の朝の体調が「悪い」と答えた人数と体調不良人数がほぼ比例している。
2.グラフ4で9月16日だけ水分補給が十分でなかったと答えている人数が特に多い。
この注目すべき2点について分析してみる。
分析1.朝の体調が「悪い」と答えた人が全員その後体調が悪くなっているわけではない。
しかし「体調が悪い」と答えた人の中に一人は朝の体調が「悪い」と答えた人が存在する日が
4日間のうち3日あった。
8月1日
8月23日
8月29日
9月16日
9月24日
10月7日
4人中1人
4人中1人
体調不良者なし
4人中1人
2人中0人
体調不良者なし
そしてここで新たに気づいた事はこの計3名の内一人は同一人物、つまり22名もいる部
員の中で2名しか出なかったものの内一名が同じ事を繰り返しているのである。
補)朝の体調が悪くてその後も悪いのは当然かと思われるがこのアンケート上の「その後
の体調」とは練習をしたことによって起こった体調の事を意味している。実際、朝の
体調が悪くてもその後の体調は良いと答えている人複数存在する。
分析1からの推測
体調が悪くなる頻度が高い人や体調が悪くて練習を抜ける人は限られた人なのでは?
分析2.9 月16日だけがなぜ水分補給が不十分であった人が多かったのかについては天候
が大きく関係していると推測する。
この表は成蹊高校の地学研究室の先生による成蹊学園の気象観測のデータで、上はアンケ
ートを取った8月29日とその前3日間、下は同じくアンケートを取った9月16日とそ
61
の前4日間の気温、湿度、天気である。
8月25日
8月26日
8月27日
8月29日
最高気温
31.6
30.7
28.2
29.0
最低気温
23.7
24.4
23.1
22.2
平均温度
27.7
27.6
25.7
25.6
湿度
82%
91%
91%
94%
天気
曇り
曇り
曇り
曇り
9月10日
9月11日
9月13日
9月14日
9月16日
最高気温
26.6
25.4
25.2
25.7
29.3
最低気温
24.6
23.9
21.4
21.3
22.1
平均気温
25.6
24.7
23.3
23.5
25.7
湿度
100%
100%
100%
100%
86%
天気
雨
雨
雨
雨
曇り
まずこの表で見ていただきたいのは、8月29日と9月16日のデータがとてもよく似て
いると言う事である。しかしアンケートAでは8月29日は水分補給不十分者1人、体調
不良者0人であったのに対し、9月16日は水分補給不十分者7人、体調不良者4人とか
なりの差がある。そこでこの表のその前の練習日の天候を見ていただきたい。その前の練
習日だけの最高気温、最低気温、平均気温の各平均でも上は左から30.2度、23.7度、
27度なのに対し、下は25.7度、22.8度、24.2度と気温の高い日が続いていた
8月29日以前と比べ、9月16日以前の気温は低め、しかも台風の影響から4日間雨で
外での練習ができず、湿度こそ高いものの、体育館での練習時間、運動量共に少ない日が
続いた。ここで推測されるのは運動量の少ない練習が続いた事によって水分補給が少なく
てもすむ練習に慣れてしまい、9月16日の気温が高く、水分補給が必要な日でもあまり
取らずにいて水分摂取量が少なくなり結果として体調不良者を出す原因となったのではな
いかと言う事である。実際、9月16日の体調不良者4人中2人が水分補給不十分者であ
る事からもこの推測が考えられる。
分析2からの推測
急な暑さに対して適切な水分摂取ができていないのでは?
分析1.2からの推測をふまえ、アンケートBのグラフを見てください。
62
問1今年の夏練で練習、試合中・後に体調が悪くなった事がありましたか?
はいと答えた人が圧倒的多数。
問1
19
20
人数
15
系列1
10
5
3
0
はい
いいえ
問2今年の夏練で練習、試合中に体調が悪くなり途中で抜けた事がありましたか?
いいえと答えた人が圧倒的多数。
問2
20
17
人数
15
10
系列1
5
5
0
はい
いいえ
問3問1,2で「はい」と答えた方はそれは何に原因があると考えますか?
睡眠不足と答えた人が最も多い。
問3
7
体
力
不
抜
1
足
1
き
良
食
不
調
射
体
63
系列1
2
朝
光
3
日
暑
さ
4
直
不
分
水
睡
眠
不
足
4
足
人数
8
7
6
5
4
3
2
1
0
問5今年と去年の夏を比べて今年は体調が悪くなる事が減った又は変わらないと思う理由
をあげてください。
「体力がついた」と答えた人が最も多い。
7
6
5
4
3
2
1
0
6
3
3
系列1
2
1
1
天
候
着
替
え
水
分
補
給
自
己
管
理
暑
さ
な
れ
睡
眠
1
体
力
人数
問5
問6今年と去年の夏を比べて、今年は練習を途中で抜ける事が増えましたか?変わらない
ですか?減りましたか?
増えたと答えた人はいなかった。そして変わらないと答えた人は全て去年も今年もぬ
ける事はなかったと答えている。
問6
14
12
12
10
人数
10
8
系列1
6
4
2
0
0
増えた
変わらない
64
減った
問7問6のように思う理由をあげてください。
答えてくれた人数は少ないが、「体力がついた」「我慢強くなった」と各3人が答えて
いる。
人数
問7
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
3
3
系列1
1
体力
我慢
水分補給
問1、 問2からまずわかる事は体調が悪くなった事のある人は22人中19人とほぼ全員
であるのに比べ、練習を抜けた事のある人は22人中5人と少数である。しかも問6にお
いて変わらないと答えた人12人はみなその理由として去年も今年も練習を抜ける事はな
かったと答えている。
体調不良で抜ける「人数」が多いのではなく、一人の人が練習を抜ける「回数」が多かった!
次に問5と問7のグラフを見ていただきたい。問7に関しては白紙回答が多かったため数
が少なく参考にはならないかもしれないが、体調不良になったりそれで練習を抜けたりす
る事が去年よりも減った又は変わらないと答えた人の理由として多くあげられているのが
「体力がついた」というものである。つまり逆に考えてみると「体力がない」から体調不良に
なったり、それで練習を抜けたりすると思う人が多いという事がわかる。ここで1.はじ
めにを思い出していただきたいのだが、ここでも述べたようにラクロスと言うスポーツは
サッカーグランドと同じくらいの広さのグランドを端から端まで走り回るとてもハードな
スポーツである。特にリーグ戦が近い夏練ではゲーム形式の練習を重点的に行うためとて
も体力がいる。かなりの体力が必要とされるこの時期に暑さが加わると体力がない人はも
ちろんばてるのも早い。それが急な暑さであったり、それによって水分摂取量が少なくな
ったりしたらなおさらである。実際、練習を抜けた事のある5人のうち4人は2年生でラク
ロス歴が短く、ラクロスによって培われた体力が他の学年よりも少ない人たちである事か
らもわかるのではないだろうか。そしてこれは余談に近いのであるが先日後期の部員の反
省文を読んだ所、1,2年生に「もっと体力をつけたい」と書いた人が多かったのも今年
の夏練での経験からくるものではないかと個人的に感じている。
65
急に暑さによって水分摂取量が足りない時、体力のない人は最悪の場合体調不良に陥る!
6.結論
我が部で考えうる熱中症による体調不良で練習を抜ける原因
・ 基本的な体力がついていない
・ 暑さの変化に水分摂取が対応できていない
・ 体調不良になりやすい人がその事を自覚していない
原因をふまえた対処法
・ 夏練前(春練から前期中)の練習における基礎体力トレーニング徹底(この基礎体
力とは主に筋力・持久力・瞬発力を言う。
)
・ 夏練前の自主練期間中に体力を落とさないためのトレーニングメニューを細かく
考える
・ 自分の体調、体力、天候にあった水分摂取量を考える
・ 自己管理の更なる徹底
・ 試合時はドリンクの本数を試合に出ているプレーヤーの人数分に増やし、タイムア
ウトのような短い時間でも全員が十分な水分を摂取できるようにする
(現在8本
12本)
提案した対処法から期待される効果
体力面
・ 筋力をつけることでダッシュ力や瞬発力がつく。そして持久力をつけることでその
ダッシュ力や瞬発力が時間が経つにつれて衰えていく度合いを減らす事ができる。
つまり、練習や試合中に息が切れて、足も思うように動かなくてフラフラと言った
状況を防ぐ事ができる。
水分補給面
・ 自分にあった水分摂取量を考える事で、自分の汗の量や天候の変化によってドリン
クの量を調節でき、水分の取りすぎで動けなくなったり、逆に水分摂取量が足りな
くてのどがからからの状態でプレーする事がなくなる。
・ 試合時のドリンクについては本数を中でプレーしている人数分そろえることによ
って少ない時間の中で自分の適切な水分量を取る事ができ、試合中にのどが渇く
事がなくなる。
66
自己管理面
・ 日ごろから自己管理をしっかり行い風邪などを未然に防ぐ事によって、練習や試合
になって今までつけてきた力(体力、プレー技術等)を十分に発揮できないと言っ
た事態になる事を防ぐ。
以上の効果を総合すれば練習、試合中に体調不良になる人数は確実に減らす事ができ、体
調不良によって練習、試合を抜ける人はいなくなるはずである。
その他UPやDOWNをしっかり行ったりするなど、試合で勝利を得るために身体、精神
両面において一人一人が十分なケアをしていきましょう。
67
10.フーリガンの暴動を
如何にして止めるか
横尾
浩一(2001年度演習Ⅱ)
要旨
2002 年・日韓共催のワールドカップは目前に迫っている。そこで、このレポートではワ
ールドカップを開催国として成功させるにあたって最も注意を図るべきフーリガンの問題
について、過去に行われたワールドカップ等でのフーリガンによる逮捕者・負傷者の数を参
照し、尚且つ、その時に実施された対策を考慮して、日本側の観点から如何にしてフーリガ
ンの暴動を抑止できるか、その対策としては警備の強化を掲げその効果を示していきたい。
<フーリガンについて>
フーリガンとはサッカーに特有の熱狂的な応援団である。どう熱狂的かというと、スタ
ジアム内で暴れまわったり、街の備品を破壊したりということである。フーリガンは大抵、
試合の前後にスタジアムやその周辺、または街中で、フーリガン同士で争いあうのだが時
には一般市民をも巻き込む。サッカー文化圏の国々では、ことあるごとに問題を起こすフ
ーリガンに大変、頭を悩ましている。
<ワールドカップでのフーリガンによる被害>
逮捕者
負傷者
2002 年ワールドカップ(日本/韓国)
???
???
1998 年ワールドカップ(フランス)
1994 年ワールドカップ(アメリカ)
1990 年ワールドカップ(イタリア)
1100 人
400 人
820 人
61 人
19 人
58 人
上記の表は過去に開催されたワールドカップにおいてのフーリガンの逮捕者とその
被害を受けた負傷者の数である。1980 年代後半からフーリガンの暴動が烈しくなってきた
こと、あまり古い大会でのものでは意味がないであろうということを考慮してここ 10 年間
の大会に絞ってみた。各一試合毎の詳細な区分されたデータが見つからなかったので総体
的なデータから考察するしかないがここから解かることは必ずフーリガンによる被害はで
るということである。これはさらに過去の大会に遡ってみても結果は同じである。しかし、
68
とりわけ 1994 年のアメリカワールドカップではその被害が少ない。その理由をいくつか挙
げてみると熱狂的なフーリガンを抱えるイングランドが予選に敗退したため本大会に参加
できなかったこと、そしてヨーロッパでも南米でもないサッカー後進国のアメリカでワー
ルドカップが開催されたがために訪れたフーリガンの数が絶対的に少なかったことが要因
として思い浮かぶ。後者のサッカー後進国での大会というのはアメリカに限らず日本にも
当てはまり 2002 年の開催国である日本にとってはいいデータといえるであろう。
<過去の大会で実施されたフーリガン対策>
1. 出国拒否・過激なサポーターを抱える国に前歴のある危険人物の出国拒否を申し込む
2. マルチビザ発給停止・W 杯に訪れる観光客に対してマルチビザの発給の見送りを決定
3. 3 度のチェック・競技場の席に着くまでに 3 回のセキュリティーチェックを行う
4. ランク分・場内の警備は試合毎にA・B・Cにランク分け(危険度)
5.、競技場内でのアルコール販売の全面禁止
6.
競技場近くの酒場・パブでのアルコール販売禁止
7 衝突を避けるためサポーターの団体を競技場まで護送車で運ぶ
8 競技場内に双方のサポーターを隔離するためのフェンスを設ける
9 1500 人の機動隊を動員
これらは過去に実際に実施されたフーリガン対策である。ワールドカップにおいてフー
リガンの被害がでなかった例はなく、そういった意味ではこれらの対策は全て効果的で
あるとはいえない。しかし、だからといって、これらの対策を怠ればさらなる被害を被
ることは自明である。これらの対策以外にこれといって真新しい画期的な対策を創造し
ようにも何もないというのが実状である以上、これらの対策の中から最も効果的と思わ
れる対策のさらなる強化によってフーリガンの暴動を抑える他に手立てはないであろう。
<欧州選手権でのフーリガンによる被害>
2000 年欧州選手権(オランダ/ベルギー)
1996 年
(イングランド)
1992 年
(スウェーデン)
逮捕者
1300 人
420 人
760 人
負傷者
73 人
22 人
54 人
ワールドカップのデータだけでは少々物足りないので欧州選手権も調べてみた。欧州選手
権とは一言でいうとワールドカップのヨーロッパ版である。こちらでもワールドカップの
時と変わらぬフーリガン対策を施しているわけだが、フーリガンによる被害はワールドカ
ップと同等、もしくはそれ以上である。しかし、サッカー発祥の地にしてフーリガン発祥
の地でもあるイングランドで行われた 1996 年の欧州選手権は何故か被害の規模は比較的少
ない。下記の表は 2000 年に行われた欧州選手権での逮捕者の内わけであるが、これを見た
69
限りではイングランドのフーリガンがとりわけ大人しくなったということではないらしい。
では何故、イングランドで行われた欧州選手権ではフーリガンによる被害が少なかったの
であろうか。
<2000 年欧州選手権、逮捕者内わけ>
イングランド・・・・・・758 人(58%)
ベルギー・・・・・・・・229 人(17%)
ドイツ・・・・・・・・・157 人(11%)
フランス・・・・・・・・27 人(2%)
ルーマニア/・・・・・・25 人(2%)
<イギリスの国内では>
イギリスの国内リーグ(プレミアリーグ)では 80 年代後半から90年代初頭にかけてフ
ーリガンが猛威を振るいその被害は甚大であり、その危険さから女性や子供はスタジア
ムに足を運ぶことはなかった。しかし90年代後半になるとイギリスでのフーリガンに
よる被害は明らかな減少傾向を辿りはじめ、安全面でも大きく飛躍した。
<何故か>
フーリガンに頭を悩ましていたイギリス政府は至極,単純であるがまず、スタジアムや
その周辺地域の警備を強化した。さらに今までは逮捕できなかった些細なフーリガンの
行為でも容易に逮捕できるようにし、そしてフーリガンの行為に対してより重い刑罰を
与えるように法律の改正を施した。この警備の強化と法の改正という二つの事柄が相乗
効果となってイギリスにおけるフーリガンの被害が軽減したと推測できる。しかしその
反面、国内でのフーリガンの取り締まりが厳しくなったことによって、活躍の場を国外
へと移すフーリガンの数が飛躍的に伸びたということを付け加えておく。
<ここまでのまとめ>
イギリス国内でのフーリガン対策を見た限り、法の改正と警備の強化というのは実践的
な効果を示すことが窺える。2002 年はもうそこにまで迫った未来であり、これから法案
を通し法律を改正するのは実質的に難しい。ならば、ワールドカップ開催国である日本
がすることは警備の強化以外に手立てはない。しかし、本当に警備の強化だけによって
フーリガンの暴動は抑えられるのか。
<9/2 ドイツ代表 VS イングランド代表(ミュンヘン)
・・3000 人の警備体制>
9 月 2 日に行われた 2002 年ワールドカップ最終予選、ドイツとイングランドの試合は両
70
国ともに過激なフーリガンを抱えており、この上なく危険度の高い試合であり、かなり
の被害がでることは必至と予想されたが何事もなく無事に終わった。これはドイツの警
察が今までにない 3000 人という大規模な警備体制を敷いたことが大きな要因となってい
るように思われる。このことから、警備に大幅に人員を動員すればフーリガンの暴動を
抑止できると考えられる。具体的に数字を挙げるのならば 3000 という数を一つの目安と
する。何故 3000 かというとドイツとイングランドというのはサッカーにおいて因縁めい
た関係でありこれ以上に被害を予測できる試合は他にはないということ、後は地理的に
ミュンヘンで行われる試合と日本の地で行われる試合とではフーリガンの数に絶対的な
相違が生まれるのは必至である。よって、2002 年に日本で行うワールドカップでは警備
に 3000 の人員を割けばフーリガンによる被害は確実に最小限に食い止められるからであ
る。
<過去に行った日本の警備体制>
2000 年の沖縄サミット・・20000 人(防衛庁からも派遣)
アメリカでのテロ・・・・4000 人(横田基地のほか米・英・仏など 12 カ国の大使館に)
小泉首相、靖国神社参拝・・・200 人
上記はこれまでの日本における警備体制である。3000 という数字を挙げるには挙げてみ
たが果たして実際、日本という国で 3000 人による警備体制を敷けるのかということを実
証してみた。結果は意外にも警視庁(ワールドカップでのフーリガンの警備は警視庁の
管轄)はかなりの人員を動員できることが解かった。しかし、ワールドカップでは多い
時には一日で 2 試合を別々のスタジアムで行う日程になっており、警視庁が 3000 もの人
員を全ての会場に配置することは難しいのではないだろうか。よって、対戦カードの中
には比較的に穏健な国同士の試合も必ず含まれるはずなので各試合を危険度によってラ
ンク分けし、それを基に的確に人員を割り当てるという方法をとってフーリガンの暴動
に歯止めをかけるのが最善の術といえよう。ところで、日本の警視庁はフーリガンをど
れだけ危惧しているのか、または現時点でフーリガン対策としてどのようなことをして
いるのであろうか。
<ワールドカップに向けての日本の警備>
3/29 警視庁はフーリガン対策として 1100 人の隊員による予備訓練を行った。
11/7 日本代表 VS イタリア代表(埼玉スタジアム)・・・700 人の警備体制
警視庁は先程行われた、日本代表 VS イタリア代表の試合でワールドカップの予備訓練と
いうこともあり普段、国内で行われている J リーグでは考えられない 700 人の警備体制
を敷いた。結果的にはイタリアから日本との親善試合にわざわざ訪れるイタリア人がい
71
なかったということも幸いして何事もなく無事に終わったが、ワールドカップ本番では
700 人の警備というものでどうなのか疑問が残るところである。
先日、12 月 1 日韓国でワールドカップの予選リーグの抽選会が行われた。ここでもし、
過激なフーリガンを擁するイングランドやドイツといった国々の日本への訪問がなくな
ればこのレポートは実践的な効力を証明する場がなくなり、代わりに安全なサッカー観
戦といったものを手にできたわけだが幸か不幸か、前述の 2002 年欧州選手権でその 3 カ
国だけで被害の約 90%をたたき出したイングランド・ドイツ・ベルギーの来日が決定し
た。さらに南米の猛者達を擁するアルゼンチンとイングランドというピッチの中でも外
でも何かと話題を提供してくれそうな対戦カードも決定した。後記が決定した日本での
予選グループリーグである。
E組
ドイツ
アイルランド
カメルーン
サウジアラビア
F組
イングランド
アルゼンチン
スウェーデン
ナイジェリア
G組
イタリア
クロアチア
メキシコ
エクアドル
H組
日本
ベルギー
ロシア
チュニジア
<結論>
フーリガンというのはサッカー先進国における悪しき伝統であり文化である。だから、
サッカーが文化として成立していない国ではフーリガンという存在自体がない。故にフ
ーリガンが暴動を起こすであろう国や試合というものはある程度、予見可能であり、そ
ういった意味では警備を敷きやすい。そこで、考察してみると、ドイツ・アイルランド・
イングランド・アルゼンチン・イタリア・ベルギーといった国が熱狂的なフーリガンを
抱えており、そしてこの予選リーグの中で危険度の高い試合は勿論、イングランド VS ア
ルゼンチンとドイツ VS アイルランドということになる。しかし、この試合は日程が重な
っておらず双方に 3000 人の警備を敷くことは可能である。予選リーグではこの 2 試合以
外で、熱狂的なフーリガンを持つ国同士の対戦がないことから、この 2 試合に重点を置
くことが重要である。決勝リーグからは一日に一試合となっており、警視庁は一試合毎
に万全の警備を敷けるはずであり、対戦カードが決まり次第その都度、適切な人員を配
備すればフーリガンの暴動は最小限に防げることであろう。
72
11.J リーグの発展と外国人
の重要性
横山
福(2001年度演習Ⅱ)
要旨
J リーグは、サッカーのレベルや観客動員数から世界で一流のサッカーリーグとは言えな
い。それを改善するために、有名外国人選手の J リーグ移籍は、今の時点で最良の手段で
ある。それは J 世界最強の J を目指すうえで大きな一歩である。
研究の概要
日本のプロサッカーリーグ「J リーグ」は、今後、どのようにして発展していくべきか。
世界中で一番人気があるとも言われる競技の発展は、わが国のスポーツ振興に良い影響を
与えるものと思う。
世界最高峰といわれるリーグから発展しているサッカーリーグを定義する。そこから J
リーグがそれに足りないものは何か導き出す。そしてそれに対し、日本のサッカーファン
の動向から改善点を提案し、その効果を考える。
まず海外のサッカーリーグの状況から見ていきたい。
世界のサッカーリーグの発展状況
今、一番発展しているリーグはどこの国だろうか?一般に考えて、代表チームが強い国
はリーグの成熟度も高い、と言えるのではないだろうか?何故なら、代表チームが強いと
いう事は、そのスポーツに対して人々の関心が高からである。世界ランクで常に上位に位
置する国としてはヨーロッパではフランス、イングランド、イタリア、スペイン、ドイツ、
オランダなどが上げられる。南米ではアルゼンチン、ブラジルである。ただし南米の2つ
の国は、代表チームに、国内リーグで活躍する選手はほとんどいない。有力選手の多くは、
ヨーロッパのクラブに、高額な移籍金と年俸で引き抜かれるからである。だからリーグの
レベルは世界最高峰といえないだろう。クラブも選手を育て、ヨーロッパに売ることで成
り立っていると言ってもよい。
73
では、ヨーロッパでは、どこの国のリーグが発展しているのだろうか。ヨーロッパには
チャンピオンズリーグというクラブチームナンバ―ワンを決める大会がある。簡単に説明
すると、過去の実績から国ごとに何チームかの出場枠が割り振られ、各国リーグの上位チ
ームから出場の権利が得られる。例えばイタリアなら出場枠が4だからイタリアリーグの
4位までが出場できるというわけである。
(辞退するチームはまずない。出場は大変な名誉
な事だし、テレビの放映権などで大変儲かる。
)その中から一番強いチームが選ばれる。こ
の大会の上位に多くのチームを送り込んでいる国こそレベルの高いリーグといえるのでは
ないか。
今シーズンのチャンピオンズリーグのベスト16は国別に見ると以下の通りである。
イングランド、スペイン3
イタリア、ドイツ、ポルトガル2
フランス、チェコ、ギリ
シア、トルコ1
代表レベルでは世界最強のフランスは1チーム、オランダは1チームも残っていない。
この2つの国のリーグはどうなっているのか。実はこの2つの国のリーグはイマイチ盛り
上がっていないようである。その理由は観客動員数の減少にあるようだ。つまり観客動員
数が減った事によりスポンサーが離れ資金不足になる。今、ヨーロッパは選手の移籍金や
年俸が高騰しているので有力選手は海外に移籍する。チームが弱体化する。というわけで
ある。確かにこの2か国の代表チームにも国内でプレーする選手はほとんどいない。ただ
し、この両国とも選手の育成が上手いから、自国の有望な若手は多く在籍する。また、一
流リーグの国とも地理的に近ため、そういうリーグに移籍を狙うヨーロッパ以外の地域の
選手や、一度在籍し何等かの理由で活躍出来ず放出され、再起を狙う選手なども多数いる。
そのためリーグは世界最高峰とはいえないまでも、それなりに発展しているようである。
これを踏まえ発展しているリーグとは、1、サッカーのレベルが高い事2、多くの観客
を動員している事、である。また、この二つはたがいに比例する。
では J はどうなのだろうか?
J のサッカーレベル
今の日本代表はほとんどの選手が J リーグに所属している。つまり J のレベルは代表に
還元されているといってよい。日本代表は J リーグ創設前より確実に強くなっている。9
8年には初のワールドカップ出場も果たした。若い世代も2000年のシドニーオリンピ
ックではベスト16と好成績を残している。
スポーツのレベルとその国のプロリーグの歴史は切り離せない。W 杯常連のイタリアや
イングランド、スペインなどのクラブには、百年もの歴史を持っているものもある。この
前、初めて W 杯本戦に出場した日本は、リーグ開幕 10 年足らずである。サッカーレベル
は、向上は順調だが、高いとはいえないと思う。
74
J の観客動員数
一試合平均の観客動員数の年度
20000
ごとの変化のグラフである。図を
見てもらって解るとおり減少傾
15000
一試合平均の
観客動員数
10000
5000
0
93年
向にある。94年には約2万人近
くだったものが2000年には
1万1千人足らずである。たった
96年
6年で約半分である。
99年
此処に J リーグの問題がある。以前は2万人入っていたものが1万1千人ということは、
すごく廃れている感じがする。どうすれば観客がたくさん入りリーグが盛り上がるのだろ
うか?
日本のサッカーファンの傾向と J リーグ離れ
最近のサッカーファンの興味はどこに向いているのだろうか。雑誌の売上から、ある程
度考えられるのではないだろうか。日本で一番有名なサッカー雑誌といえば週刊サッカー
マガジンと週刊サッカーダイジェストである。両誌とも発行部数 43 万部でサッカー雑誌と
してはトップである。内容は、サッカー全般に関する事で世界から日本の高校の事までと
幅広い。
これに対し、海外の情報ばかりを扱うのが、ワールドサッカーマガジンとワールドサッ
カーダイジェストである。発行部数は 32 万部と 34 万部である。これは、かなりのサッカ
ーファンの関心が海外に向いているという事が言えるのではないだろうか。(発行部数は日
本雑誌協会のホームページより)
なぜ海外か?
93 年に J リーグが始まったことや、またドーハの悲劇と呼ばれる劇的なW杯予選敗退に
より、サッカーに対する関心が高まった。これはJ元年の観客動員からも明らかである。
その流れで 94 年のアメリカW杯は、日本が出場していないのに、多くの人が興味を持った。
また、当時の日本のエースである三浦知良が、この年、世界一のリーグと言われたイタリ
アのセリエAに移籍した。これにより世界レベルのプレーを見る機会が増え、また、海外
の情報が増加した。それ以降、95 年にはイングランド、ブラジル、など一流国とインター
ナショナルチャレンジで対戦、96 年アトランタオリンピックでブラジルを破る、97 年悲願
のW杯予選を突破、98 年フランスW杯に初出場、また中田英俊がセリエAで活躍、99 年な
ぜか南米選手権にゲスト国として出場、2000年シドニーオリンピック予選リーグ突破
など、近年、サッカーファンの目を海外に向けるような出来事がたくさんあった。93年
75
に J リーグが開幕する以前の、世界の強豪との対戦は92年アルゼンチン戦で、それ以前
は国際試合といえばサッカー後進地域のアジアとの対戦ばかりで、85年まで遡って調べ
たが一試合も出てこなかった。
また、最大の要因として、スカイパーフェク TV などで海外リーグ試合を放送するように
なった事があげられる。これによりファンは家にいながらにして、いつでも世界最高峰の
試合を見る事が出来ることになった。
ではどうすれば J リーグに客が来るか?
ファンは高いレベルのサッカーを求めているのだから、J リーグのサッカーの質を向上さ
せれば良い。これは時間をかけてやるしかない。そして順調に進んでいる。しかし、今の
ところあまり集客効果には結びついていない。ここで疑問が出てくる。サッカーの質は向
上したのに観客は離れていったのは何故か、ということである。
これはリーグのレベルは一歩進んだが、ファンはもう二三歩先にいたという事だろう。
このギャップを埋めるには地道に全体のサッカーのレベルを上げるしかない。
しかし今はリーグを盛り上げる絶好機である。2002年は韓日で W 杯を共催する。こ
の先、自国で、この世界最高の名誉をかけた大会が行われる事は二度とないかもしれない。
マスコミは大騒ぎしている。昨日まで知らなかった者でも、知った瞬間から常識である。
サッカーは確実に注目されている。
そこで僕は有名外国人選手の補強を提案する。現役のトッププレーアーは無理だろう
が知名度は高いが年齢やケガなどの影響でヨーロッパの一流リーグでプレーできない選手
を連れてくるのである。J リーグは他国のリーグに比べて体のあたり激しくないという。そ
れはプレーする多くの日本人の筋力の問題でもあるし、ファールの判定が厳しいという事
もある。それならばまだ活躍出来る選手もいるのではないだろうか。
集客効果も期待できる。集客効果を期待できない外国人は呼んでも意味がない。最初は
その選手目当てでスタジアムにいっていても、何回か足を運んでいるうちにそのチームを
応援するようになるということは考えられる。また、大勢の観客の一種異様なムードとい
う者はスタジアムで観戦するうえでの大きな魅力のひとつになるからだ。
90年代中盤から後半にかけての J リーグは多くの有名外国人選手が在籍していた。た
だしその頃はそれらの選手の情報が少なかったため成功しなかった例も多かったのではな
いか。今はたくさんの情報がある。選手のありがたみもわかり易い。つまり集客効果は高
いと思われる。
まとめ
発展しているサッカーリーグとは、プレーの質が高いことと、多くの観衆がいることで
76
ある。今の J リーグはそのどちらもファンの期待しているほどではない。急激なレベルア
ップは不可能だが、観客動員数を増加させることは可能である。手段として有名選手の補
強を考えることが出来る。ファンの興味の方向や、2002年韓日 W 杯に伴うサッカーへ
の関心の高まりから今現在 J 発展する上で最良の方法といえるだろう。
77
12.自己表現の場としての
インターネット
〜女性にインターネットを
使わせるための研究〜
長嶋
春香(2001年度演習Ⅰ)
要旨
現在、インターネットは普及の一手を見せて、急激に全世界へと広まっている。
しかし、インターネットはただのデータベースではなく、「自己表現が出来る場」であ
る。そして、一見したところ、私にはインターネットを「自己表現」が目的で使用してい
るのは女性より男性の方が多いのではないかという用に感じられた。なぜ男性の方がイン
ターネットになじんでいる理由とともに、女性に足りないものは何か?分析を試みた。
研究の概要
インターネットは、様々な用途が存在する。交流、、データベース、趣味、ビジネス。
数え上げればきりがないが、私はその中であえて重要な要因として、「自由に自己表現が
出来る場」であることをあげたい。
そして、インターネットを「自己表現の場」として利用している人々には、男女どちら
が多いのかと考えた時、身の回りの体験から、私は女性より男性の方がインターネットに
なじんでいると感じた。
男性が、様々な理由からパソコンに慣れやすい、という要因。しかし、私は多くの女性
たちにも、インターネットを自己表現の場として利用してほしいと考えた。
そして、なぜ女性はインターネットをしようとしないのかを確かめる。これをこの研究の
テーマとしている。
この作業により、私は女性がインターネットを利用しにくい原因を突き止め、利用しや
すくするようにしたい。女性であることに誇りを持っている私にとり、女性がそう言った
78
ものを「使わない・使えない」今の状況が大いに不安である。この女性がインターネット
を利用した「自己表現が出来ない」のではないか、という社会現象を検証してみた。
分析方法であるが、まず男女別のパソコン自体の利用率を調査した。これにより、男女
の違いでパソコン自体にはあまり密接な関係はないことが判明したが、いざ目的である、
インターネットを自己表現の場として利用することについての検証にはつながらない。
そして、自己表現の場として使用する一つの手段として、「ホームページ」を持っている
かどうかを基準とし、その男女比を比べあった。明確な違いがでていることから、その男
女比がでてしまう理由についても検証した。
なお、この論文を書くに当たり、東京大学社会情報研究所による日本人の情報行動 2000」
および、上記中の「インターネット利用者調査」に関する分析の報告を参考にさせていた
だいた。
東京大学社会情報研究所による「日本人の情報行動 2000」および、上記中の「インター
ネット利用者調査」に関する分析の報告
調査対象
全国満 13 歳以上 70 歳未満の男女
回収率 67.2 パーセント
2017 票
調査実施日 2000 年 3 月 13 日・4 日
調査方法は無作為抽出(全国 200 地点)
インターネット利用者調査
情報行動調査回答者 2017 サンプル中・現在インターネットを利用していると答えて
人 493 人に配布、271 票
以下、この調査を「インターネット利用者調査」と呼称する。
この論文の分析は、すべてこの調査に基づくものである。
調査結果
1
女性とインターネット
インターネットとは、何か。
情報交換の場。データベース。ビジネス。いろいろなものがインターネットには内包さ
れ、託され、そして様々な人がそれを利用している。
今現在は情報化の時代である。これからパソコンを使う場はどんどん増えてゆくだろう。
「できればいい」などという問題ではなく、技術的な側面から言っても必須事項になって
79
くるのは明白である。
システムエンジニアはサポートセンターの夜を惜しまぬ盛況ぶり、ITはその現象を革
命とまで言わしめ、ビジネスを 180 度換え、パソコンは「職場に 1 台」の時代から「職員
1人1台」、「家庭に1台」の時代になってきた。いまや、パソコンの技術・インターネ
ットの技術は必要条件なのである。
まずは、どのくらいの人間がインターネットになじんでいるのか、少なくとも触れたこ
とがあるのか、という点に着目するために、「インターネット利用率」について、例を示
してみたい。
以下に示すのは、「インターネット利用者調査」による、男女別のインターネット利用
比率である。
80
見たところ、女性の方が、現在利用している比率としては高いように見える。
しかし、現在利用をしていたとしても、その内容は男女ともに全く違ってくる。
上部の利用頻度を突き当たりの回数に換算して変数化して分析した場合、
月当たりの平均インターネット利用日数
男性 24・9日
女性 14・4日
という結果がでた。
男性の方が女性よりも圧倒的に利用日数が多く、男性は女性の倍近い利用頻度になって
いる。すなわち、これは男性の方が女性よりもインターネットの方に深く関係している場
合が多いということを示している。
そして、私が最もインターネットを有意義に使う目的として、一番にあげたいのは、「自
己表現」である。
ただデータベースなどとして利用するのではなく、もっと深く、自分を表す場としてイ
ンターネットを使ってほしい。
インターネットは、今私たちに与えられた、最も簡単な「自己表現の場」としての要素
であると言うことが出来る。
自分が作成したもの、自分が作り上げたもの。それを最も簡単に表すことが出来るとし
て、インターネットの世界は私たちの前に広がっているのだ。
今までは、たとえば自分の考えた文章、自分の書いた作品を人目にさらす場合は、見て
ほしい人に直接送るという方法は出来ても、不特定多数、もっと多くの人に見てもらいた
いという目的のなかでは、文章だとすれば出版、絵画だとすれば展覧会を開くなど、いず
れにせよ膨大な準備と資金問題に頭を悩ませねばならなかった。
81
しかし、インターネットという場が出来たことでその常識は覆された。
そこのスペースに簡単に、しかも望めば無料で場所を確保し、小難しい手続きはほとん
どいらず、自らの作品をさらすことが出来る。まさに、自分の世界の構築である。
ホームページの場所を教えれば、自分がどんな人間かを口で説明するよりも明確に相手に
理解してもらえる場合が多い。なぜならばそこは自分で作り出す場なのであるから。どの
ような技術を持ち、どのような文章を書き、どのようなことに興味があり、どのようなこ
とを作り出すことが出来るのか。
それをごく簡単な手段で示すことが出来るというのに、それに気づかぬまま、自らを示
す方法を知らぬままに生きている人があまりにも多く、それは女性に顕著に見られるので
はあるまいか。
さて、そのウェブを利用している中で、「ホームページを所有している」人間はどのく
らいいるのだろうか?
これについても、「インターネット利用者調査」は、データを明確にしている。
インターネット利用者全体を母数としたホームページ所有者の比率
全体 6.3%(17人)
性別 男性4・1%(11人) 女性2.2%(「4人」
見ての通り、ホームページを持っている人間は、たった6・3%しかいず、まだ現状で
は自分のホームページを持つ人は全体から見れば少数派であるといえる。17人がどうい
う人たちであるか属性別の内訳を見ると、性別では男性11人、女性6人と、圧倒的に男
性が多い。
この差はどこから来ているのだろうか。
これは、インターネットの利用開始動機に鍵が隠されていた。
仕事ではなく、自宅利用開始動機に絞って、すなわち「自発的に」開始した動機について
質問した回答分布を示したのが以下の表である。
82
このうち、性差のあったものは以下の通りである。
男性>女性
仕事上の理由 会社や学校で使ってみて興味を持った これからの時代には必要だと思った
女性>男性
家族が利用していた
見てわかるとおり、「興味を持った」「必要だと思った」などと、男性の方が積極的な理
由により、インターネットを必要だとしている。それに対して女性が男性より唯一勝って
いるのは、「家族が利用していた」との一点のみでしかなく、あまり積極性が見られると
は思えない。
結論
インターネットを自己表現の場として利用するのに、性差があると感じ、調べた結果、
こういった結論がでた。
すなわち、男性と女性の差異は、その「積極性」にあるということが、結論として導き
出される。
そして、当初あげていた目的に振り返ってみよう。
83
インターネットを自己表現の場として使う。これは、積極性が不可欠である。自己表現
の場として提供されているとは言っても、それにはやはり多少なりとも勉強を必要とし、
ただ漠然とネットの世界を旅していたのではその技術は得られない。
女性が自己表現の場としてホームページを立ち上げるために、足りないものは「積極性」
である。
積極性とは、すなわち意欲である。勉強する意欲、自分のことを表現したいと望む意欲。
それらが女性には足りていないのだという、女性の立場としては不本意な結論がでてしま
った。
これでは、「自己表現の場」としてホームページを使うことに男女差がでてしまうこと
も当たり前である。女性の方には、積極性が足りない人が多い、ということなのだから。
「自己表現の場」として、ホームページを使う。そのためには技術が不可欠である。技術
も積極性により身に付くものであることに他ならぬ。
はなはだ残念な結論がでてしまったが、ここでは、第一目的である、「インターネット
を自己表現の場として利用するのに男女比があるのはなぜか」という問いの分析を達成し
たところで、筆を置こうと思う。
84
13.高速道路は地域にとって
これ以上必要なのか
仁科
目的
求宏(2001年度演習Ⅰ)
高速道路をこれ以上建設し続けるのは国民にとって必要なことかを考える。
原因
高速道路の建設
結果
周りの地域
関係
道路建設による地域への効果が少ない。
※地域への見返りは公共事業へ投資した額とそれの利用者数の比較によって判断する。
分析の方法
同じ地域において高速道路に投資した場合とそれ以外のものに投資した場合の地域変
化の違いを考察する。ここではある地域に高速道路を建設する場合と整備新幹線の建設
へ投資したときの地域変化の違いを考えてみる。
※比較対象として新幹線を選んだのは地域と地域を結ぶネットワークとしての類似点が
多いと思われるからである。
研究の意義
借金で苦しんでいる日本にとって高速道路を建設することはとても大きな事業である。
高速道路への投資が他の公共事業と比べてそれに見合った効果を出しているか調べること
により高速道路をこれからも造り続けるべきかを正しく判断することが出来る。
分析結果
まず高速道路の建設費がどれくらいあるのかを挙げていく。図1は 2000 年度における国
の予算における公共事業費の内訳である。
85
図1
公共事業予算費 2000年度
26.8
34.1
0.8
道路整備
下水道
住宅
治水
空港
整備新幹線
その他
18
1.7
15.6
16.1
この図から分かる通り、道路への内訳が 26.8%に比べて整備新幹線は 0.8%となってお
り現在の予算の割合は 3 倍以上の開きがある。さらにより具体的な公共事業の建設額を
図 2 に挙げてみた。
図 2 最近の主な公共事業建設費
東京都庁
明石海峡大橋
九州新幹線
東京湾アクアライン
近畿自動車道
:資料
国土交通省
約 0.15 兆円
約 0.5 兆円
約 1.3 兆円
約 1.4 兆円
約 3.8 兆円
この図から見て分かるように高速道路の建設は他の公共事業と比べても費用が高くつ
いているといえる。では高速道路はそれに見合った使われ方をされているのか。次に実
際の投資効果について東京を例をとって考えてみる。
まず、東京湾アクアラインを建設しなかった場合、建設費 1.4 兆円を新幹線建設に投資
したらどうなるかという仮説を立てる。国土交通省によれば新幹線を1キロ建設するの
に 70 億円かかるという。このことからもし新幹線を建設するとしたら東京から 200 キロ
圏内まで新たに建設することができる。
86
では1.4兆円を新幹線建設と東京湾アクアラインどちらに投資したほうが地域のため
に役に立つのかを考察してみる。東京から始発している新幹線と東京湾アクアラインの
利用者数を図 3 に挙げてみた。
図3
東京が始発の主な新幹線の利用者数<1日>
東海道山陽新幹線
約51万人
東北新幹線
約22万人
上越新幹線
約 8万人
長野新幹線
約 4万人
東京湾アクアラインの利用台数<1日>
約1万2500台
JRと日本道路公団の資料より作成
この表をみると東京湾アクアラインの利用台数は1日約 1 万2500 台である。一方新幹線
は、人口の少ない地方に向けて運行している長野新幹線をみても 1 日4万人の利用者がい
る。従って東京湾アクアラインよりも新幹線に投資したほうがより多くの人に利用される
ということの仮定の裏付けとなる。
考察と結論
以上のような例は高速道路よりもほかのものへ投資したほうがより効率が高いといえる
ひとつの例を示しているといえる。このように高速道路へ投資するよりも新幹線に投資し
たほうがはるかに多くの人に利用される可能性があることが言える。だが図 1 を見る通り
新幹線の予算の配分はとても少ない。このような結果から、これ以上の高速道路の建設は
巨額の投資にもかかわらず、地域の住民にあまり利用されない可能性が高い。従って地域
の活性化にはつながらない恐れが大きいためこれ以上の道路建設は見直した方がいいと思
う。
87
千里足下 2002
無断転用転載を禁ずる
2002 年 2 月発行
成蹊大学法学部政治学科
増山幹高研究室
〒180-8633 武蔵野市吉祥寺北町 3-3-1
Phone: (0422) 37-3958
Fax: (0422) 37-3876
[email protected]
http://uno.law.seikei.ac.jp/~masuyama/seminar
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