名古屋市 - Humalog.jp

特 集
糖尿病患者への栄養指導のあり方
“生きる”
を支える栄養指導は、
継続指導の質の担保と
良好な関係性構築が不可欠
糖尿病の食事療法は生涯にわたる継続性が求められるものの、患者さん
が適切な食事療法を体得し、それを日々続けることは簡単ではありません。
患者さんとの信頼関係を築き、患者さんが生きる希望をもって食事療法
を継続するには、糖尿病療養指導に携わるメディカルスタッフは、どの
ような指導の質を担保すべきなのでしょうか。CDEJ でもある食事療法
指導のエキスパート、幣憲一郎先生(京都大学医学部附属病院 疾患栄養
京都大学医学部附属病院 疾患栄養治療部 副部長(CDEJ)
治療部 副部長)にお話しいただきました。
幣 憲一郎 先生
継続を大前提とした
京大式栄養指導の
ステップアップ法と主治栄養士制
的に知識を詰め込む講義調になってしまい、患者さ
んの行動変容が望めなくなることが考えられます。
指導する管理栄養士は曜日シフトで患者さんを担当
する京大式の「主治栄養士制」にしています。患者さ
食事摂取量とインスリンの分泌やはたらきが血糖
んは、それぞれ食事療法の知識の習熟度も、動機づ
コントロールに大きな影響を与える糖尿病には、食
けのレベルも違います。食事療法の継続には、主治
事療法は欠かせません。食事療法実施のタイミング
栄養士がじっくりと患者さんに向き合い、実践を阻
は施設によって違いがあるかもしれませんが、京都
害するような問題点や、生活背景の変化の情報など
大学医学部附属病院では通常、薬物療法に入る前に
を聞き出すなどを通して、生涯にわたる良好な関係
食事療法を試みています。
性を確立することが最優先されます。
当院受診の患者さんには、既に他施設で幾度か食
事指導を受けたものの、その指導に物足りなさを感
図1:食事記録の記入例
じ、セカンドオピニオン的によりよい栄養指導を求
めて外来を訪れるケースが増加しています。
従って、各職種からなる CDE は、糖尿病治療にお
ける有資格者ならではの基本をしっかり押さえ、患
者さん一人ひとりに適切な情報を伝えることを心が
けています。特に、当院栄養部では、
「京大式栄養食
事指導ガイド」という患者さんのステージ別に基づ
いた実践的なマニュアルを開発、食事療法の検証や
改良を重ねながら指導を進めています。
栄養指導のポイントは、患者さんの生活レベルに
合わせた適切な食事療法と、その継続にあります。
常に注意しているのは、指導を1回で済ませようと
しないことです。栄養指導を1回にした場合、一方
2
幣憲一郎先生ご提供
表1:変化ステージ別京大式栄養指導ガイド(3回目以降)
京大式栄養指導ガイドの
進め方は共通指導から、
ステップ別指導へ
栄養指導を継続するために、京大では
初回と2回目は共通指導で、初回は栄養
指導を受けたことの有無の確認から始め
ステップ別指導部分
3回目以降の指導
「糖尿病治療のための食事への取り組み」について患者が回答した変化ステージに基づ
いたステップ毎指導
ステップ1
【前熟考期】
「していない、す
るつもりはないで
きない」を選んだ
方
ます。一つ目のポイントは、
「食事療法は、
主人公は患者さん、私たちはそのサポー
ト役です」ということをお伝えします。 二つ目のポイントは、食事記録の必要
性を理解してもらうことです。食事記録
用紙のサンプルを示しながら、記録用紙
に、日常の食事内容を正直に記入するよ
う促します(図1)
。ここでは、食事療法
で困難に思っていることがないかを聞き
出すことを主眼にしています。
2回目の指導時には、食事療法の基礎
知識を提供しながら、初回時の説明内容
を再確認します。再確認する目的は、食
事療法の理解度、偏った考えや思い込み
はないか、きちんと食事療法に取り組ん
でいるか等の把握です。食事療法につい
ては、①食事のタイミング(食事の回数、
間隔、間食など) ②バランスよい食事
・なぜそのように思うのかについて傾聴し、共感できるところを探
して共感を表現
(療養に対するイメージ、受けとめ方を把握)
・食事から一歩下がり、糖尿病治療に対する感情を尋ねる
・先入観や誤った認識に対し、少しずつ正しい情報を伝える
(真正面から否定せず、その考えに至った気持ちを受け止め、訂正)
・代替目標を提案
・質問が出るなど興味・関心が芽生えたと判断できれば、生活改善
への具体的な目標の話し合い
・具体的目標について話し合うことができない段階では、次回も面
談が継続できることを目標に
・合併症の話など「脅迫」の手法は使わない
○意識の変化は容易でないことを理解し、根気よく対応
ステップ2
【熟考期・準備期】
「 し て い な い が、
始めようかとは考
え て い る、 ま だ
迷っている」
・すでに変化が起こっている行動について評価
(できていない部分については強く指摘しない)
・食事療法を行う上でのその患者にとってのメリットとデメリット
の話し合い
(実行への妨げになっている因子について認識促進)
(メリットと捉えられた内容を強化)
・他に」食事療法を躊躇する理由を尋ねる
「 し て い な い が、 ・誤った認識に対し、少しずつ正しい情報を伝える
少しずつ近づけて ・達成可能な具体的目標を立てることを後押し
ゆくつもり」
(実行しようとしている自分をイメージし、生活上困ることが生じ
ないか一緒に検討)
「していないが、す
ぐ に 始 め る つ も ○人が行動に移すかどうかは、実行することで得る「利益」と被る
り」を選んだ方
「負担」のバランスに依るところが大きく、患者が実行後のよいイ
メージを持てるよう支援
ステップ3
【行動期・維持期】
「すでにやってい
る(ただし始めて
6ヶ 月 以 内 で あ
る)」
・自己評価を尋ね、一緒に振り返る
・好意的に評価
(よい点を本人の評価以上に評価し、できていない点に焦らないよ
う、現状維持の価値を説明)
・今後の継続に関しての不安や障害になり得る点を尋ね、解決策や
対応策について話し合う
・一時的に食事管理ができなかった時期があっても投げ出さずに再
「すでにやってい
開する大切さを伝える
る。6ヶ月を越え ・低血糖やシックデイへの対応などの情報を伝える
て続けている」を
選んだ方
○一旦起こされた行動変容は永久的なものではなく、時には後退も
することを理解し、後退が生じてもそのことを批判しない
幣憲一郎先生ご提供
(主食・主菜・副菜)の組み合わせ ③適
切な体重維持可能な食事量や、見合った
運動量、等について、食事記録の結果を
表2:栄養指導ガイドパス
踏まえて、改善点があれば患者さんがそ
れに気づくよう支援します。
患者さんの変化ステージの
「見える化」は
CDE同士の連携強化や
スキルアップにも
3回目以降の指導は、先に実施済みの
アンケートの回答結果から、患者さんの
変化ステージに基づいた各ステップ別指
導を進めていきます(表1)
。
指導は、この「ステップ別指導ガイド」
とスケジュール表「栄養指導ガイドパス」
を示しながら進めますが、このとき体重
幣憲一郎先生ご提供
や血圧などの測定も必ず行います(表2)。
3
体重測定時に
は靴下を脱ぐ
ため、自然に
指導時間の80%は傾聴にあて
気づき促す工夫を探す
浮腫や足の傷
などに注意を
個々の患者さんの“見える化”は、治療中断率の低
払います。そ
下にも役立っています。患者さんが指導スケジュー
の場合、私た
ルを事前に把握できるため、目標が明確化され、継
ち管理栄養士
続の心構えが自然に生じるようです。
も CDE と し
また、変化ステージを活用することによって、患
てフットケア
者さんが現在どのプロセス段階にいて、今後どのよ
の基礎知識は
うにすべきかが客観的に確認できる利点があります。
あ る も の の、
糖尿病の療養指導は、途中で躓いたり足踏み状態
より専門的な
になったとしても、継続受診さえしてもらえれば病
治療やケアを追求できる医師や CDE 看護師を紹介
状安定につながるため、何よりも継続が大切です。
し、橋渡しするようにします。
治療中断の原因には、食事療法における行動変容
このガイドは、食事療法の問題点解決のための大
がうまくいかないことがあげられます。放置すると
切なツールであると同時に、私たち指導者側の栄養
合併症が発症するという知識と、実際の食事の問題
指導項目のチェックにも活用、スキルレベルの標準
点を理解はしていても、その両者がつながらず、気
化にもなります。何でもマニュアル化することがよ
づきにはなかなか到達しないのです。
いわけではありませんが、ある程度のベースの上で、
そんなときには、
「数年先に合併症が起こってしま
アレンジして指導するというスタンスがさまざまな
うと、楽しみなお酒もお菓子も摂れなくなります。お
成果をもたらしています。
酒やお菓子を長く摂り続けるには、今やれることを
また、患者さんが糖尿病を知り得た時点から指導
少しずつやっておいたほうがよいのでは」と、何年
が進められ、患者さんの変化ステージを“見える化”
か先を見据えた計画を最初に話すようにしています。
しつつ、同時に栄養士からも、また看護師からも各
次回受診時の検査で、数値が下がれば、改善を実
ステージ別の視点の違いを打ち出せることから、幅
感してもらえ、それが継続受診の大きな動機づけに
広い情報共有ができるのも利点と考えています。
なります。体重は変化無くても、筋肉量のアップと
たとえば、管理栄養士から患者さんに「食塩量」に
体脂肪の減少で説明できる場合があります。
ついての栄養指導をした場合、電子カルテにその内
間食に問題がある場合、たとえば毎日大福を食べ
容が記載されているため、次の看護師のところで「今
ている人に大福が欠かせない理由を聞きます。単に
日は、食塩量について勉強されたのですね」と確認
口さみしくて食すのか、ある時間帯になると空腹感
できます。それは、患者さんの食塩量についての話
が出るのか等を思い起こしてもらうのです。よくあ
を深められることにつながり、CDE 資格を有してい
る例では、摂取カロリーを抑える意図で昼食の量を
るスタッフ間の連携強化も図れます。
控え過ぎて、空腹で夕食時間までもたないなどの理
また、看護師が生活指導上知り得た情報、たとえ
由が浮き彫りになってくることがあります。
ば薬の飲み忘れが頻繁だという情報を電子カルテに
アルコールも極端に制限したためストレスになっ
記載すれば、管理栄養士も共有することで、食事の
ているような場合には、
「アルコール制限して楽しい
時間帯に合わせ服薬指導することができるなど、連
ですか。少しならアルコールを飲んでも大丈夫だと
携のメリットが生まれます。さらには、患者さんに
思います。その代わり、他に改善できることを一緒
少し改善のきざしが見えた場合、それを入力した管
に探しましょう」と声かけし、ストレス軽減をはか
理栄養士以外の CDE も折りにふれ患者さんを褒める
ることも必要です。
ようにしたところ、患者さんのモチベーションアッ
プにつながったケースもありました。
加齢とともに歯を失ってしまうこともあり、咀嚼
も注目すべき点です。果物などを噛まずにスムー
4
ジーやジュースで摂ると、吸収が早いため血糖値の
に必ず患者さんに話題を振るようにします。すると、
上昇が早くなってしまうことや、同じ素材をゆっく
他の人たちからもいろいろな体験談が出てくるので、
り噛んで食すると満足度が格段に違うこと等を、1ヵ
一方的にならずにすみます。そうなれば最終的に、
月実践してもらい、よい結果とともに効果を実感し
私たちが専門職としてのジャッジ役をするようにし
てもらうようにします。
ています。
野菜を先に食べたほうが食べ過ぎを防ぐなど、食
当院では教室での座学だけでなく、ときにバイタ
材の食べる順番による効果や、玄米と白米の吸収度
ルチェック後、運動療法で近くの鴨川べり歩きに出
や栄養素の違いなども、図やグラフを作成し説明用
かけることもあります。実際におしゃべりしながら
資材にしています(図2)
。
歩くスピードを体験してもらうと、言葉だけでなく
清涼飲料水も、ノンシュガー表示だからと安心し
有酸素運動の強度も実感してもらえます。インナー
て飲んでいては、相当量の糖質が含まれていること
マッスルも同様に実践体験してもらうと、鍛えるべ
や、成分表の数値が多いのか少ないのかは、他と比
き部位が分かりやすくなります。
較しなければわかりにくいことも念頭におくべきで
しょう。
知識はインターネットなどでも入手できる現在、
ただ知識を投げるだけでは栄養指導の役割は果たせ
ません。患者さんごとのオーダーメイドでキメ細か
図2:患者さん説明用資材
に応じるには、専門職である CDE の力でサポート
し、患者さん自身が判断し目標を決定していくこと
が重要です。それだけに、スタッフには、栄養指導
時間が30分あるとしたら、その80%は患者さんに
話してもらうよう勧めています。まさにカウンセリ
ングに近い位置づけです。
患者さんの気づきによって発言・決定された目標
の実行力は格段に違ってきます。いかに患者さんか
幣憲一郎先生ご提供
集団指導に適している糖尿病教室
参加者同士の発言の場を設けることと
実践による実感を大切に
基本的な療法情報を共有する糖尿病教室の運営に
ら、自主的なひと言を引き出せるよう仕向けるかが
私たち CDE に求められる技術であると思います。次
回の受診時に、維持の状態で目標未到達であっても
維持できた事をほめるようにしています。合併症の
怖さなどを羅列する脅かし言葉や、ダメという言葉
は患者さんには禁句です。
目標を達成できた時は患者さんの喜びだけでなく、
は、集団指導法を活用すべきでしょう。一方的な講
私たちの喜びでもあります。なかでも一番うれしい
義調で終始すると、印象に残らずせっかくの情報が
のは、1~2年も栄養指導を継続し、ほぼ安定してい
身につかないことが少なくありません。そこで、参
る患者さんに「そろそろ指導を終わりましょうか」と
加者同士がお互いに話せるよう、たとえば、30分間
告げた時に、
「これからも継続して栄養指導を受けた
に複数項目の情報を伝えようとする場合、1項目毎
い!」と言ってもらえることです。
平成28年度診療報酬改定では、栄養指導料の増額対応が行われましたが、入院治療完結型ではなく、在宅等を見据
えた外来栄養指導環境の整備が求められ、栄養指導効果のみならず継続性を重視した指導が必要とされています。
CDEのための ディスカッション・ポイント
❶他職種 CDEとの栄養指導レベルの均一化は、はかられているだろうか。
❷他職種 CDE やメディカルスタッフとの連携は、どうすればスムーズにいくのだろうか。
❸患者さんの生活背景を考慮した、オーダーメイドの栄養指導を実現するための信頼関係
づくりは、どう進めればよいのだろうか。
5
回答者
CDE
京都大学医学部附属病院
疾患栄養治療部 副部長
ドクター
東京大学大学院医学系研究科
糖尿病 ・ 代謝内科 教授
幣 憲一郎さん
門脇 孝先生
自炊ができなくなった高齢者(世帯)で、外食、中食の多用に対する指導・
管理について教えてください。
外食や中食をうまく利用できるよう指導することが大切です。
糖尿病患者の独居高齢化がわが国の大きな問
ン店ではメニューにカロリーや食塩量の記載が
題となっています。家庭で調理することが理想
あるものも増えており、コンビニの商品にはきっ
ではありますが、毎日一人分を調理することは
ちりとエネルギーと栄養成分が記載されている
非常に大きな負担となります。一歩外に出ると
ので安心して選ぶことができます。管理栄養士
レストランやファストフード店、弁当店が乱立
と相談し、色々なお店をうまく利用すればより
し、デパ地下の惣菜コーナーも充実しています。
外食や中食を楽しむことができます。
また、コンビニエンスストアでは調理済みの食
特に近年話題となっている高齢糖尿病患者の
品をいつでも買い求めることができます。一人
問題として、不十分な摂取栄養量や偏りによる
暮らしの高齢糖尿病患者には、とてもありがた
「フレイルやサルコペニア」が注目されています。
い状況であると考えてはいかがでしょうか?外
家庭で調理することが困難な場合は、外食や中
食や中食を無視した栄養指導はあまり現実的で
食をうまく活用して、たんぱく質等適切な栄養
は無いと考えても言い過ぎではないと思ってい
素の補給を提案することも重要となります。
一方、中華料理やラーメン、カレーライス、
ます。
一般的な外食の問題点は、高エネルギー(高
うどん定食など外食ランチに多いメニューは、
脂肪)
・高食塩、特にごはんなど糖質の量が多
血糖値が上がりやすいことが多く、決してお薦
く、野菜が少ないのが特徴です。この特徴を理
めはできませんが、食べたい時には「1日の中で
解した上で、普段より多いものは「上手に残す」、
量を調整する(昼に食べたら夜は減らすなど)」
普段より少ないものは「家で野菜料理を追加す
「週に1度と決める」
「食べた後は歩行時間を確保
る」などの工夫で対応できると考えています。ま
するなど運動する」などルールを決めた上で、楽
た、単位計算や目分量に慣れておらず外食が不
しめるような指導を考えてみましょう。
安という方は、ファミリーレストランやチェー
日常的に外食や中食を利用する患者への指
い確認が求められます。たとえば外食・中食を
導・管理は、たとえ食事療法への意欲があり、
1日何回利用しているか、生活環境や行動範囲
理解が深い患者さんの場合でも、利用頻度が増
にはどのような利用できる店があるか、食事に
加するに従い、糖尿病が悪化する経過をたどる
かける費用や時間のめやすは、誰と食事してい
ことが多いものです。
るか……などを聴き取ることで、必要に応じて
指導・管理のうえでは、食の利用環境の詳し
6
食行動の改善を支援することができます。
広島県廿日市市の石橋クリニックは、糖尿病・内分泌疾患を専門に診療してい
ます。独自に作成した映像メディアによる教材を使い、糖尿病の患者さんを個
別に教育しているのが特長です。栄養指導を行う管理栄養士の小坂愛子さん
に、映像メディアの活用法やCDEとしての工夫などについてお話をうかがいま
した。
第 30 回
このコーナー「CDEルーム」では、
糖尿病療養指導士(CDE)として
活躍しているメディカルスタッフの
みなさんを紹介しています。
CDEとなり
幅が
療養指導の
大きく
広がりました
石橋クリニック 管理栄養士
小坂愛子 さん
食事以外の患者さんの療養上の 問題点発見が可能に
神経障害の形態学的検査は、全国に先駆
けて無料で開始したものです。これは角
膜の神経の走行を観察する検査で、正常
石橋クリニックには、管理栄養士5名、 者は8~10本/画面の神経がまっすぐ
看護師2名、臨床検査技師8名が所属し
ており 、CDE は4名です。糖尿病の患者
教育は、院長の石橋不可止先生の方針
(2008年CDE資格取得)
切な食べ方や適正量について学ぶ必要の
ある人には、
「主食」
「果物」
「魚」
「大豆」
「肉」
「乳製品」
「野菜」などの切り口
伸びていますが、神経障害が進行すると、 「卵」
から作られているものを使います。動画
本数が減少し蛇行します。
CDE になったことで、こうした検査
は、静止画よりも印象に残りやすく、患
の結果も踏まえて、幅広い視野から栄養
く、1対1の個別指導で行っています。 指導ができるようになりました。
私自身は入職した当時、CDE の資格を
者さんも飽きずに学ぶことができるよう
持っていませんでしたが、個別に栄養指
んに合わせたプリントも活用しています。
で、集団による糖尿病教室形式ではな
教材は、 印象に残りやすい
動画の活用で楽しみながら学べる
導をしていると、食事の話だけでなく、
で好評です。
映像メディアのほかに、個別の患者さ
ある日の食事をサンプルに、どの食べ物
薬剤についても患者さんから相談される
栄養指導では、初診時には、まず20
を何に変更すればよいのか、量をどのく
こともあり、糖尿病の療養についてもっ
~30分かけて患者さんから食事につい
らい減らせばよいのか、なるべく具体的
と幅広い知識が必要だと感じ、CDE の
ての聴き取りを行います。その情報は電
に示す工夫をしています。たとえば、
「あ
資格を取得しました。
子カルテに記載、診察室で医師が参照し
んパン、メロンパン、ヨーグルト」の朝
ます。その後、医師が各種の検査結果を
食 を「 お む す び 2 個 」に 変 更 す る と、
資格を取得した結果、患者さんの話の
中から、食事以外の療養上の問題点を発
含めて総合的に判断し、栄養指導の指示 「896kcal が380kcal になります」と絵
見することができるようになりました。 を出すので、それに基づき栄養士が約30
そして、医師や看護師にそれを伝えるこ
分かけて栄養指導を行います。
で示すわけです。
活動量、BMI、カロリーなどの目標を
とで、より良い患者さんのための療養指
この栄養指導では、スタッフが映像編
数値で示すだけではなく、見てわかる形
導につながるようになってきたのではな
集専門ソフトを使い、個別教育の教材と
にすることが大切だと考えています。摂
いかと思っています。
して制作した画質のきれいなデジタルハ
取カロリーや体重をグラフにして、変化
イビジョンの映像メディアを活用してい
を実感してもらう方法も活用しています。
ます。薬物療法など現在、全部で18編
このほか、
「健康ニュース」もスタッフ
即日判明する各種検査の結果も 栄養指導に活用
石橋クリニックでは、血糖や HbA1c
をはじめとする血液検査、眼底検査、頸
動脈硬化症や神経障害などの検査結果
が30分以内に判明するシステムになっ
あります。1編は短いのは1~2分で、 が手作りしています。ここでも絵や簡単
だいたい5~15分程度です。私は動画
なグラフを多用して、わかりやすく伝え
制作や制作技術の開発と、新人管理栄養
ることに努めています。
士へ動画制作の指導も行っています。
見てもらう教材は一人ひとりの患者さ
ています。検査結果は電子カルテに入力
んの病態や治療によって異なり、治療が
とくに角膜共焦点顕微鏡による糖尿病
という観点から作られたものを選び、適
日本人糖尿病の主な死因は癌ですが、
最近、癌と食事に関する動画を制作した
ところ、患者さんはかってないほどの興
され、スタッフ全員が共有できるので、 進むにつれ、必要なテーマを選びます。 味を示しました。
検査結果を療養指導に活かすことができ 動機付けが必要な人には「太るとどうな
今後とも真に患者さんに役立つ質の高
ます。
るのか、糖尿病になるとどうなるのか」 い動画を制作して、療養指導のレベル
7
アップを目指したいと思います。
チーム力あり !
リーディングホスピタル
「糖尿病食バイキング」
など多彩な試みで
個別の患者さんに合った療養指導を追求
一般社団法人日本海員掖済会名古屋掖済会病院 (名古屋市)
えきさい
名古屋掖済会病院では、糖尿病の患者さんを対象に、CDEJの資格を持つ看護師や薬剤師が「指導外来」
を開いています。
「糖尿病食バイキング」を採り入れたユニークな栄養指導や、地域の薬剤師との連携など、チーム力を活かした療養指
導にも特徴があります。糖尿病・内分泌内科部長の吉田昌則先生をはじめ、糖尿病の療養指導に取り組むみなさんに
お話をうかがいました。
医師ができることは3割しかない
7割はチーム医療が鍵を握る
不自然であることに気づき、よく調べたところ壊疽の再発が見
つかったことがありました。まさにチーム医療の力だったと思
います」
。
名古屋掖済会病院は、戦後まもなくの1946年に30床で開
患者さん向けの『健康 BOOK』も作成し、入院患者さんと外
院、1978年には東海地方で初めて救命救急センターを開設し
来患者さんに配布しています。食事療法、運動療法、薬物療法
た歴史をもつ、現在662床を有する地域の中核病院です。吉田
など糖尿病の治療に必要なことが網羅されている冊子で、スタッ
先生は1995年から同病院で糖尿病の患者さんの診療に熱心に
フが手作りで作成、年に1、2回内容を改訂し、最新情報を盛
取り組んでいます。同病院の糖尿病・内分泌内科で診療している
り込んでいるとのことです。
糖尿病の患者さんは、1型が約70~80人、2型が約1,500~
豊富なメニューから自分で選び実食 味の濃さや適正量を家族とともに体感
1,600人とのことです。
「糖尿病の診療で医師ができることは、実は3割程度しかあり
名古屋掖済会病院では、12月を除く毎月第4金曜に、医師、
ません」と吉田先生は言います。残りの7割は、多職種が展開す
るチーム医療による療養指導が鍵を握っていることになります。
看護師、栄養士が話をする糖尿病教室を開催しています。この
名古屋掖済会病院では、医師のほか看護師、薬剤師、管理栄
ほか、毎月第1金曜には、栄養士が食事療法について話す栄養
養士、臨床検査技師、理学療法士などが連携して、糖尿病療養
教室も開いています。食事指導については、月に1回、
「糖尿病
指導におけるチーム医療を実践しています。月に1回は各職種
食バイキング」も実施しています。
豊富なメニューから患者さんが主菜や副菜、デザートなどを
の代表が集まる「DM 会」と呼ばれるミーティングを開き、治療
自分で選ぶ体験実食型で、味の濃さや適正量を体感することが
法などについて意見交換しています。
できます。また、選んだメニューを栄養計算表の形で患者さん
「看護外来」
「薬剤師外来」を開催しています。看護師と薬剤師
や家族に見せて、数字でも確認してもらうものです。
という違う職種が外来を行うことで、お互い違う目線で療養指
栄養科の栄養士長を務める管理栄養士の市江美津昭さんは、
導に当たっていることも特徴の一つです。
「糖尿病食バイキング」についてこう説明します。
糖尿病看護認定看護師の立松映子さんは、
「外来の患者さんは
「患者さんだけでなく、ご家族の方、医師をはじめとする医療
最初に採血をして、それから診察まで待ち時間があるので、看
スタッフも参加しています。糖尿病教室だと堅苦しくなるので
護外来はその時間を利用しています」と説明します。
看護外来の役割について「入院でき
すが、バイキングはイベントということもあり、同じ物を食べ
ない患者さん向けに、初期指導をしっ
ながら、患者さんと医療者が気軽に話をしています。自分に合っ
かり行っており、必要なら看護師自身
た食事量を確認していただく機会にもなっていて、同じ糖尿病
の判断で次回の予約をとったり、外来
の患者さんでも、
『隣の人とは違うのだな』とか、ふだんの療養
でのインスリン導入を行っています」
生活では意識していなかったことに気づく場にもなっています」
と吉田先生は説明され、その目に見え
看護師の立松さんは、
「糖尿病食バイキング」を通じて、患者
る成果としては次のような例を挙げま
さん同士が仲良くなっていく姿に着目、
「勉強のイメージが強い
した。
「脚の壊疽で入院していた患者さ
糖尿病教室ではあまりみられない光景ですね」と言います。
入院患者さんは食事療養費に含まれるので参加費は無料、通
んが、快復したので通院となったので
すが、ある時、糖尿病の看護外来の看
護師さんが、その患者さんの歩き方が
院患者さんやご家族の方には500円+消費税の食事代を負担し
糖尿病のための
「健康BOOK」
てもらっているそうです。
8
名古屋掖済会病院
糖尿病・内分泌内科 部長
名古屋掖済会病院
薬剤部 副薬剤部長
名古屋掖済会病院
栄養科 栄養士長
名古屋掖済会病院
看護部 糖尿病看護認定看護師
吉田 昌則先生
中村 敏史さん
市江 美津昭さん
立松 映子さん
デルを使うと患者さんもイメージがしやすいようです」と話し
ます。
地域の薬剤師会とカンファレンスを開催 生活実態に合った服薬指導を目指す
名古屋掖済会病院では、薬剤部が地域の薬剤師会と連携し、
共同で糖尿病についてのカンファレンスを開く試みを2014年
糖尿病栄養教室 バイキ
ングでは、豊富なメニュー
から自身で選択し、実食で
きる。味の濃さ、量も確認
でき好評。
度から始めました。
薬剤部副薬剤部長を務め、 CDEJ の資格も持つ薬剤師の中村
敏史さんは、このカンファレンスについてこう説明します。
「当院の場合はほとんどが院外処方ですから、調剤薬局での服
薬指導と合わせた生活指導が重要になります。このカンファレ
先生やスタッフも一緒に実食でき、
膝を突き合わせて、
話しがはずみ、
気軽に相談もできる。
ンスを通じ、病院内の指導でも、調剤薬局の指導でも抱えてい
る悩みは共通していることがわかりました。患者さんの顔の見
える、生活の見える連携をしていく必要があり、お互い知りえ
た情報を共有する必要があります。そのためには地域の薬剤師
の方たちと顔の見える連携をしていかなければいけません」
吉田先生も、地域の調剤薬局の薬剤師と病院の医師や薬剤師
との良好な関係を築くことが、チーム医療の一つとして大切で
すと強調します。
「地域の調剤薬局の薬剤師さんは、患者さんと昔なじみで、生
活背景なども把握している場合があります。病院の医師や薬剤
師にはできない、個別の患者さんの生活実態に合った服薬指導
ができる可能性があるので、地域全体の糖尿病の療養指導のレ
ベルを高める観点から、今後も連携を深めていきたいと考えて
バイキングのメニューレシピと
います」と、吉田先生は今後のあり方を話します。
選択したメニューの栄養計算表
名古屋掖済会病院の
糖尿病療養指導にあたるスタッフの皆さん
「患者さんのためのイベントですが、じつは研修医や他科の先
生方に参加していただくことも多く、医療者の側が糖尿病の食
事療法について理解を深める機会にもなっています」と市江さ
んは、
「糖尿病食バイキング」のもう一つの側面を語ります。バ
イキングのあとにはアンケート調査も実施し、患者さんの要望
も採り入れているとのことです。
さらに栄養科では、フードモデル(食品サンプル)を用いた指
導も実施しています。
市江さんは「患者さんからは、よく外食についての質問があ
るので、フードモデルを使って何カロリーになるのかを説明し
ています。ラーメンとチャーハンを1回の食事で口にすると、
1,000kcal を超えますよ、といった話をしています。フードモ
9
まず自分と周囲の人の身の安全を確保、
どんな医療ができるかを考える
大災害が起きたときの第一の鉄則は、まず自分や周囲の
人の身の安全を確保することであり、初期対応として最も
重要です。
わが身の安全が確保されたら次は、家族の安否が気にな
ります。そこで、非常時の対応、とくに電話が繋がらない
ことも想定した連絡方法を日頃から確認しておくことが必
須です。
勤務中の被災の場合は、他のスタッフが出勤できなくな
ることを考慮、現状のスタッフで乗り切るつもりで、勝手
な行動をつつしみ、リーダーの指示に従う姿勢が求められ
ます1)。また、リーダー不在の場合の対応も明確にしてお
くべきでしょう。
同時に看護師は、患者に外傷がないか、低血糖などの症
状変化が起きていないか等のチェックが必要です。栄養士
は、状況に即して適切な食事の提供ができるよう、水や非
常食の確認をします。薬剤師は予備の薬剤の確保はもちろ
ん、インスリンの保管状態などを調査し、これらの情報を
主治医や責任者に報告します1)。各 CDE は、ともにその後
の二次災害防止を未然に防ぐよう努めることが肝要です。
交通機関等に支障があって職場に行けない場合は、避難
所、または災害被害を受けた近くの病医院などに駆けつけ
ましょう。CDE であることを名乗り、現場の責任者の指示
のもとで救援活動に参加すれば、大きな役割を果たせます。
患者には、平常時から「経口血糖降下薬、インスリン製
剤、インスリン自己注射関連機材の予備を確保し、お薬手
帳、糖尿病連携手帳を携帯する」等の災害時に備えた教育
を徹底しておきたいものです。
インスリン製剤、関連備品の常備と在庫の確認
①外傷がない糖尿病患者のトリアージは、第3順位(緑
タッグ)
に2)
多くの傷病者が発生する大規模な災害時には、限られ
た医療資源を最大限に活用するため、その緊急度や重症
度により優先順位が決められています。
糖尿病は、外傷がなければ専門医の治療を必要としな
い保留群(軽症群)の段階とされます。したがって災害時
の現場では、CDE は重要な役割を担っています。
②インスリン注射が必須の1型患者は、
中断を防ぐ対策を
1型の糖尿病患者では、食事や水分等の摂取不足が
あっても、インスリン注射を中断するとケトアシドーシ
スを起こす危険が招くため、災害時であっても、1日たり
とも、インスリン注射を止めないことが必須です。
そのため、患者の所在、連絡先などの把握が大切であ
り、インスリンの供給が途絶えていないか、持ち出せた
インスリンの残量や針の状況について確認することが重
要です。
さらには、1型糖尿病患者がいることを DMAT(災害
派遣医療チーム Disaster Medical Assistance Team)
に報告することも必要です。
3)
10
③2型のインスリン治療者は、安易に内服薬に変更しない
方向を3)
2型糖尿病患者でやむを得ない場合は、インスリンを
中断することもありますが、原則、安易な中止は避けた
いものです。
2型糖尿病患者は、インスリンの種類を記憶していない
場合も多いため、インスリンカラーカタログ製剤写真一
覧表などを有効活用して、すぐ特定できるように備えま
しょう。
関連備品の確保依頼を4)
④製薬会社や救護体制へインスリン、
患者が日頃使っているインスリン、針、消毒綿等を持
ち出せなかった場合は、入手できるインスリンや針で対
応します。そのため、違う種類のインスリンを使う場合
の投与量の調整が必要となります。
針が不足している場合は、複数回の使用も止むを得ま
せんが、その際は毎回、空打ちをしインスリンの出を確
認しましょう。
インスリン製剤、注射に必要な備品の確保を依頼する
ことも重要になります。
⑤プライバシーの確保をし、インスリン注射ができる環境
整備を5)
インスリン、注射器、針などは絶対に他の患者と共有
してはなりません。
避難所などでは、プライバシーの確保が難しく、イン
スリンを打つ環境を整えることも課題となります、理解し
てもらえそうな数人を集めて目隠しになってもらったり、
医療班に相談して場の確保を交渉する必要も出てきます。
また、消毒薬の匂いが周囲に立ち込め気になるとき
は、消毒綿を使わずに打つことも可能です。
日本糖尿病協会HPより
http://www.nittokyo.or.jp/about/insulincare.html
次回は、血糖測定と内服薬に関してのポイントをお届け
いたします。
[参考文献]
1)
日本糖尿病療養指導士認定機構ホームページ/ CDEJのための情報アップデー
ト
「糖尿病療養指導士の災害時心得」
(2005年3月号)より
http://www.cdej.gr.jp/
2)
山本保博監修. トリアージ ハンドブック. 2013; 東京都福祉保健局
3)
日 本糖尿病学会編・著. 糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル.
2014; 文光堂.
4)
福井トシ子監修/日本糖尿病教育・看護学会ネットワーク委員会編. 災害時の糖
尿病看護マニュアル. 2013;日本糖尿病教育・看護学会
5)
NPO法人西東京臨床糖尿病研究会編・著. 糖尿病災害時サバイバルマニュアル(非
売品)
Lilly Diabetesコーナーでは、糖尿病療養支援の参考に資するために<シリーズ・
高齢糖尿病患者への新たな視点>を4回にわたりお届けします。
超高齢社会においては身体機能、認知機能、生活機能に大きな個人差がみられます。
第16回
こうした高齢者特有の特徴を、各専門の先生方に解説いただきます。
高齢糖尿病患者の療養支援にご活用ください。
シリーズ❷
高齢糖尿病患者へのもう一つの視点
重要性増す「サルコペニア」の診断と対策
監修:横野 浩一 先生
神戸大学名誉教授 北播磨総合医療センター病院長
筋肉量・筋肉・身体機能が低下する病態、サルコペニア
「サルコペニア(sarcopenia)は、ギリシャ語の筋肉(sarx、sarco)
と損失・減少(penia)を合わせた造語で、高齢者の筋肉量の減少が身
体機能を障害するリスクに着目した米国 Irwin Rosenberg 氏によっ
ニア
③薬物使用エネルギーおよびタンパク質の摂取量不足などによる栄養
性サルコペニア て 1997 年に提唱されました。
サルコペニアは、転倒、骨折、寝たきりのリスクを高め、新たな疾
その定義・診断については近年、幅広い議論をへて見解が統一され
患の発症を招くなど悪循環に陥ることになるため、医療介護現場にお
てきたことから、わが国でも日本老年医学会が 2014 年 5 月、Frailty
ける重要課題となっています。日本人の平均寿命と健康寿命との差が
(脆弱さ)が亢進した状態「フレイル」の概念を代表する身体症状とし
約 10 年ありますが、健康ではない期間の問題点としてサルコペニア
てサルコペニアが位置づけられました。
が浮上してきているからです。
サルコペニアの定義には、欧州ワーキンググループ(EWGSOP)
現在、サルコペニアの診断基準には、EWGSOP の提起した診断・
による「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる症候
評価が知られていますが、アジア人向けの診断基準も最近発表され、
群で、身体機能障害、QOL 低下、死のリスクを伴うもの」がよく用い
日本老年医学会などで推奨されています。
られます。65 歳以上の高齢者で、「筋肉量の減少に加え、身体機能の
低下あるいは筋力低下のいずれかを伴う症状」とされます。
原因によって、加齢のみによる原発性(一次性)サルコペニアと、何
らかの原因による二次性サルコペニアに分類されます。
原発性サルコペニアは加齢に伴って起こる病態で、老化の根幹を成
す変化とされますが、これに二次性の要因が重なって起こる例も少な
くありません。
二次性サルコペニアは、次の3つに大別されます。
①寝たきりや運動不足など活動能力低下による身体活動性サルコペニア
表 サルコペニアの診断基準
①歩行速度(下肢筋力)が 1 秒当たり1㍍未満
②握力(上肢筋力)が男性 25 ㎏未満、女性 17 ㎏未満
③ BMI が 18.5 未満
④下腿三頭筋(ふくらはぎ)周囲径 30 ㎝以下
※①に②の両方か、どちらかに加え、③と④があればサルコペニア(筋肉減少
症)と診断されます。
※ 横野浩一(「あすの健康 No.93」
(兵庫県予防医学協会発行)より)
②高度な臓器障害や炎症性疾患、悪性腫瘍などによる疾患性サルコペ
糖尿病と密接なかかわりを持つサルコペニア
サルコペニアは糖尿病と密接な関係にあり、高齢糖尿病患者の10%
るとインスリン抵抗性が高まり、高血糖が続くとサルコペニアが起きや
以上に認められています。高齢糖尿病患者は罹病期間が長く血糖コント
すくなります。一方、サルコペニアが進行すると身体活動の低下により
ロールが不良になりがちなため、サルコペニアの発症頻度が増加するこ
基礎代謝や筋量が低下するため、糖尿病になりやすくなるという悪循環
とが知られています。
に陥ることが考えられます。その他の生活習慣病とサルコペニア、フレ
一方、サルコペニアと体脂肪の増加が重なって発症する「サルコペ
イルとの関連性もあることから、糖尿病治療にサルコペニア対策は欠か
ニック・オベシティ(sarcopenic obesity)
」
(サルコペニア肥満)が糖
せません。
尿病の要因となることも懸念されています。肥満により体組成が変化す
早期に発見し、栄養療法と運動療法の両輪で改善
サルコペニアやフレイルの進行を抑制するにはどんな対策をたてたら
症予防にも有効とされているため、低強度の負荷運動の時間や回数の工
よいのでしょうか。加齢による筋肉の減少は不可避的ですから、できる
夫をし、ややきついと感じる運動を継続することが大切です。
だけ早期に発見し、原因・症状に合わせた適切な栄養療法と運動療法が
薬物療法については、サルコペニアの発症メカニズムが十分に解明さ
重要な対策になります。
れていないことから、現在、承認されている治療薬はありません。ビタ
栄養面では、骨の補強に有効なビタミンD、筋肉の生成維持に不可欠
ミンD投与の有用性は示されていますが、テストステロンなどの男性ホ
なタンパク質、タンパク質の元であるアミノ酸の摂取が必要になりま
ルモン、各種の抗酸化物質、ACE 阻害薬などは、有用性は示唆される
す。これらの成分は高齢者に不足しがちなため、適切な管理が求められ
ものの、いまだエビデンスが確立していません。
ます。肉、魚などは予防の上でも積極的に摂取したい食物です。
わが国のサルコペニアの潜在患者は、75 歳以上の高齢者の2割以上
サルコペニアの予防と治療には、筋肉に負荷をかけるレジスタンス運
を占めるともいわれ、医療現場での早期発見が非常に重要です。治療は
動(筋力をつけるスクワットや腕立て伏せ、チューブ運動など)
、いわ
栄養療法と運動療法が中心となるため、CDE の皆さんの役割は今後非
ゆる筋トレが筋肉量の増加に効果があります。ただし、激しい筋トレは、
常に大きくなると期待されます。サルコペニアへの理解を深め、多くの
高齢者のなかには循環器や運動器に危険をもたらす可能性があるため
患者さんの実践に生かしていただきたいと思います。
注意が必要です。ウォーキングなどの有酸素運動は ADL を高め、認知
11
「第3回 日本糖尿病協会療養指導学術集会」レポート
のための
学会レポート
2015年7月25日~26日、国立京都国際会館(京都市)で「第3回 日本糖尿病協会療養指導学術集会」
(会長:横
浜市立大学大学院医学研究科分子内分泌・糖尿病内科学教授・寺内康夫先生)が、
“チーム医療 今までと変わること 変わらないこと”をメインテーマに開催されました。その中から、教育講演①「CDE の将来」
(日本糖尿病療養指導士
認定機構理事長・和歌山ろうさい病院病院長 南條輝志男先生)と、Meet the Expert ⑥(進行役:国立がん研究セ
ンター中央病院 総合内科科長 大橋健先生)での模様をご紹介します。
精進を重ね、質の向上を図り、社会における
CDEの認知向上を目指そう
進、④関連団体との連携強化を図る、などが必須とされ、各
わが国では急速な高齢化の進行により、2013年には75
コーチングでエンパワーメント 歳以上の後期高齢糖尿病患者が全患者の30%余を占めてい
参加型プログラムを目玉企画としている当学会では、従来
ます。高齢糖尿病患者は、身体能力、認知能力、長年の生活
の「スモールグループディスカッション」
(9つの小グループ
習慣、糖尿病の罹患期間、他の疾患の合併頻度、合併症の程
に分け、設定したテーマに対するグループ討論)、
「CDEL 報
度、そして地域や家庭での支援体制等が多様であるため、よ
告交流会」
(各地の CDEL からの報告と情報交換)に加えて、
りきめ細かな療養指導・支援が求められています。
今学会から「Meet the Expert」が初登場した。このプログ
また療養指導には、適切な治療目標設定・指導効果評価が
ラムは、6名の Expert による最新情報を間近に聴ける定員
求められ、医療スタッフ間での円滑な意思疎通のための情報
50名以内の少人数制で展開。中でも CDEJ から注目を集め
共有が留意されなければならないでしょう。
たのは大橋健先生の演題で、患者さんの行動変容を促す糖尿
加えて糖尿病の予防はわが国の国家的課題でもあり、一次
病療養指導に、企業で活用されている部下のやる気や自発的
(発症)予防、二次(合併症)予防、三次(重症化)予防の各ス
行動を促すコーチングのスキルが、医者・患者関係に利用で
テップにおいては、CDEJ をはじめとする糖尿病関連の医療
きると投げかけました。行動変容に活かせるとの考えに至っ
スタッフの活躍が期待されています。また、糖尿病透析予防
た自身のプロセスからの話も高い関心を呼びました。
指導管理料という診療報酬による公的な評価を得たこともあ
コーチングスキルの基本は、①積極的な傾聴、②効果的な
CDEJ のいっそうの精進が期待されています。
(表)
。
り、CDEJ に対する行政の認知、評価は高まってきています。 質問、③承認(アクノリッジ)
、④目標設定、⑤提案、⑥タイ
今後は、地域包括型といわれる医療・介護の連携を見据え
プ分けなどがあります。大橋先生は、最初からダメな患者も
た、地域における糖尿病療養指導体制の構築をめざした
おらず、ダメな指導者もいないとすれば、
“何をどう話すか”
CDEJ と CDEL のより緊密な連携が急務となります。
よりも“どう聴くか”が大きな比重を占めることに気づかされ
日本糖尿病療養指導士認定機構では、さらなる CDEJ の
たといいます。また患者さんと向き合う場を設定することも
認知と地位の向上のため、①より高度で良質な CDEJ の育
大切であり、機会があればコーチングスキルにも興味をもち、
成、② CDEJ 資格の更新率の改善、③ CDEL との協働の推
糖尿病のエンパワーメントに活かしてほしいと結びました。
CDE の将来
①一次予防(発症予防)活動への積極的な参画
②医療・介護連携を見据えた地域包括型の 療養指導体制構築の主役としての活動
③教育者としての視点・技能の獲得による 質の向上
④1型糖尿病の療養指導力の向上
●DM Trend Journalのバックナンバーは、日本イーライリリー株式会社のWEBからも閲覧可能です。 ⇨ http://www.humalog.jp/
■編集 ・ 発行 (株 ) 真 和 ■ 提 供 日 本 イ ー ラ イ リ リ ー 株 式 会 社
LLD-P047(R0)
2016.05