北海道の小規模小学校の特性を生かした 音楽 の教材及び指導方法の開発

北海道の小規模小学校の特性を生かした 音楽 の教材及び指導方法の開発
北海道の小規模小学校の特性を生かした
音楽 の教材及び指導方法の開発
尾
藤
弥
生
佐々木
(北海道教育大学函館校)
.研 究 目 的
大
森
武
治
(北海道鹿部郡森町立森小学校)
.研 究 内 容
児童が自ら考え自ら学ぶ力及び
ることが,平成 年
茂
(北海道教育大学函館校)
生きる力
を育成す
月施行の学習指導要領で一層強調
研究概要
本研究では研究目的を実現するため,以下の
項目に
されている。教育現場では総合的な学習を含め,これら
沿って教材の実践例を設定して実践したいと考え協力校
の力を育成するためのさまざまな実践が行われている。
の折衝を行った。その結果,亀田郡恵山町立尻岸内小学
音楽においても,これらの能力の育成に積極的に取り
校(実践を行った平成 年度,大森武治教頭が勤務して
組むことが求められている。これらの取り組みへ音楽か
いた小学校である)の 年生で実践することとなった。
らのアプローチを考えた時,音,音楽による自己表現力
《教材の実践例の設定内容》
の育成,音,音楽によるコミュニケーション能力の育成
小規模校で
時間で取り組める,音による自
が考えられる。このことを実現するためには,既成の楽
己表現力を育成できる つくって表現する活動
曲を楽譜どおりに演奏する能力だけでなく,児童が楽曲
教材及び指導法の開発
の
に自分の思いを込めた表現ができるようにしたり,既成
音楽の素材である様々な音(サウンド)への興味
の楽曲にとらわれる事なく自由に音を組み合わせて,音
と関心を高め,音の多様な要素の変化を味わえる感
で自由に自己表現できるようにしたりできることが必要
性を育成し,音や音楽を多角的に楽しめる教材及び
である。これらの内容は小学校の学習指導要領では,
指導法の開発
表現
と記され
音楽をつくって表現できるようにする。
つくって表現する活動
として位置付けられ
ている。
地域の音素材や地域の環境から受けたイメージを
基に,
音や音楽の作品を作り上げる自己表現活動の,
教材及び指導法の開発
さらに,この活動は,多くの人数で一曲の合唱曲を仕
上げる充実感とは違う,一人一人の個性や一人一人の考
え方,感じ方を重視しつつ音楽的能力を育成することが
できる活動である。そのため,自己学習力の育成に適し
協力校の実態
恵山町立尻岸内小学校は,一学年一クラス(
名)全校児童
年生は
人の小規模校で,渡島半島南東部の海
ていると共に表 《小規模校の特性について》のメリッ
沿いの漁港地域である。表
からも読み取れるが,地元
トからも,小規模の小学校での音楽の教育活動の実践に
在住の住民がほとんどであるため,子供達は幼稚園の時
大変適していると考えるのである。
から同じメンバーでさまざまな活動や学習を行ってきて
以上の考え方に基づいて本研究では,今日求められて
いる。そのため新しい出会いや学習上での刺激も少なく
いる児童に必要な能力の育成を小規模の小学校の音楽教
おおらかである。また,音楽についても生演奏を聴く機
育の中で実現するための教材及び指導方法を開発するこ
会がほとんどないため,鑑賞を通しての感動や音楽に対
とを目的とする。
するレディネスが少ないため表現に広がりを持たせるこ
とに困難な面がある。これらのことが学習面で不利な点
尾
藤
弥
生・佐々木
茂・大 森 武 治
として働くことがある。
しかし,その反面自然の恵みが豊かなので,その良さ
を生かした学習を展開することができると考える。
協力校の
年生の平成
年度の音楽の年間カリキュラ
ムは,表 のとおりである。
(表 )
《小規模校の特性について》
項
生
目
徒
メリット(よい点)
デメリット(不利な点)
数
・人数が少ないので一人一 ・人間関係が,幼稚園から
人に指導が行き届く。
同じで刺激が少ない。
・男女比が不規則。
音楽の授業
について
・一台の楽器を,小人数で ・大合唱や大合奏がムリ。
扱える。
・ピアノの弾ける子供が少
・小人数アンサンブルが適
ない。
している。
・一人一人の学習状況,理
解状況を十分把握し,個
性を活かしながら授業が
行える。
・空教室やプレイルームを
グループ活動に利用でき
る。
音楽経験
・生の演奏会を聴く機会が
少ない。
・家庭で音楽を聴くことや
演奏することが少ない。
メディアの
影響
・
地域の特性
・自然環境に恵まれている
のでそれを生かした指導
ができる。
・地域の伝統文化や芸能を
生かし地域住民と一体に
なって取り組める。
様。
に つ い て は 都 会 同 ・その他では都会と違い少
ない。
アンサンブルの楽しみ
・(鑑)滝廉太郎の歌曲
・白い雲
わたしたちの音楽会
げきと音楽
・音楽げき 雨つぶ
・グットバイまた明日
ね
・(器)ピーナッツベン
ダー
・(鑑)歌げき カルメ
ン
詩と音楽
・あめ
卒業式に向けて
日本の音楽めぐり
・(鑑)管弦楽のための
木挽歌
・子もり歌
・(鑑)日本の民謡と子
もり歌
学芸会へ向けて
卒業式に向けて
教材の実践例の設定内容に基づいて開発した
つくって表現する活動
教材
題材名
《言葉のアンサンブルで紹介するわたしの町》
題材設定の理由
本題材は,
と
の《教材の実践例の設定内容》の
を有機的に組み合わせ,
地域の素材を生かした,
自己表現としての音楽学習ができる教材である。
本題材の音楽作りの特徴は,五線譜に記譜されるよ
うな決定的な音程や旋律づくりを目指すものではな
く,言葉の自然な抑揚やイメージに合わせた抑揚に
沿って,
言葉を組み合わせて作品を作るところである。
そのため五線譜が苦手な児童も抵抗なく活動に取り組
める。また,歌唱楽曲の演奏において,正確な音程を
取ることが苦手な児童も自信をもって取り組むことが
できる。
さらに,ここでは表現素材として地域の特産物の名
(表 )
前(尻岸内の場合,海の幸のゴッコ,コンブなど)を
《尻岸内小学校 年音楽年間計画》
ね
ら
い
音楽の美しさを味わい音楽活動しようとする態度を育てる。
音の重なりや和音の聴取と表現に重点をおいて,表現及び鑑
賞の能力を育てる。
音楽経験を生かして,生活を明るく潤いのあるものにする態
度と習慣を育てる。
利用することで,近親感と世界に一つしか無いオリジ
ナリティーのある自分達の作品を作っているという,
充実感と喜びを味わいながら学習することができる。
また,音楽の学習を通して身につけさせたい能力と
して,曲の構成や形式の統一感の把握,リズムの変化
のおもしろさ,テンポ感の意識,音の重なりによる響
月 時数
単元(主題など)名
月 時数
単元(主題など)名
明るい歌声
・きれいなこころの湖
はじめはいつも
・すてきなハーモニー
学芸会へ向けて
情景を歌おう
・こいのぼり
音楽のかたちやしくみ
・茶色の小びん
豊かな表現をめざして
・ハローシャイニング
・
(鑑)
(器)南の風
・( 鑑 )ピ ア ノ 五 重 奏
ます 第 楽章
・ます(歌曲)
・シューベルトの子も
り歌
・スキーの歌
・
(器)星笛
きの良さ,音の強弱による表現効果の違い,音の高低
による表情の違い,など音楽の様々な要素の変化を感
じ取ることがある。そして,アンサンブルなどの演奏
の工夫を通して音楽表現する喜びを味わせたい。これ
らの能力は,既成の楽曲を演奏したり鑑賞するときだ
けでなく,本題材のような学習活動を通しても,十分
身につけさせることができる。
目
標
言葉にもリズムがあること,身の回りの音や自
然の音にもそれぞれリズムがありオノマトペで表
現できることを感じ取り理解する。
北海道の小規模小学校の特性を生かした 音楽 の教材及び指導方法の開発
尻岸内の海の幸の名前を自分達の思いを込めて
・きらきら星(ワイングラス)
言葉のアンサンブル
(恵山町の紹介)
組み合わせ,言葉によるアンサンブル作品を作り
・創作曲
演奏する。
・冬げしき(二部合唱)
様々な音楽の要素の組み合わせ方で,自分が表
現したい表情を表すことができることを体験的に
仲間と協力して,ひとつの作品を作り上げ,演
奏する喜び(アンサンブルの喜び)を味わう。
材
箏
の実技学
後,大森教頭の指導で練習を積み重ねて,発表し
たものである。
児童が調べた恵山町で取れる海産物や魚の名前
地域の特産物の名前。
主教材
協力校の授業実践の中で,和楽器
習を取り入れ実践した成果である。 月の授業の
理解する。
教
・われは海の子(斉唱)
参考鑑賞教材
海で取れるもの
言葉のみで表現されている作品。
世界地図のフーガ(トッホ・エルンスト作曲)
世界の地名だけを弾むリズムに乗せて語るボイ
・ギンコ
・チカ
・アジ
・ドンコ
・ソイ
・ホッケ
・コンブ
・ヤリイカ・ゴッコ
・ウニ
・カスペ
・ケガニ
・クリガニ・キンキン・サメ
スアンサンブルの作品。楽曲の構成は,フーガの
・カワガニ・カニ
・サンマ
・イーダコ・タコ
手法による。
・カレイ
・タラ
・イカ
・サケ
・スナガレイ・マグロ・アブラコ・マス
・タイ
野菜の気持ち (古谷哲也作曲)
つの野菜の言葉にそれぞれ固有のリズムを設
・サバ
川で取れるもの
定し,それを複雑に組み合わせて作曲された,ボ
・カジカ
イスアンサンブルの作品。
・サクラマス
海 ( 音 を 楽 しむ 音楽 の旅の本より)
班,
・ニジマス・アメマス・ヤマメ
・イワナ
・ゴダッペ
回目の授業記録の一部分
作品の演奏練習,
海の音のオノマトペや海の生き物の名前を組み
児童,
教師
合わせて,リズムに乗せて演奏するボイスアンサ
回通す。
ンブルの作品。
指導計画
評
表
に掲載
次の人が入ったら,少し小さくしてあげるとかす
価
ると,
それぞれの言葉が入ったのがよくわかるよ。
言葉や様々な音にもリズムがあることに気がつ
き,それらのリズムを表現することができたか。
自分達の思いを込めて,言葉のアンサンブル作
音楽の様々な要素を意識し,それらを工夫して
創作することができたか。
やっぱり各自の入りを指で指し示そう。
回で
セットだよね。
前の人が セット言ったら入る,
セットで入る
方がいい?
仲間と協力して,創作作品をアンサンブルする
回で入ろう。
回通す。
(各自の言葉がはっきりしてきた。)
楽しさや喜びを味わうことができたか。
実践結果
私,何回言えばいいの?
年
今回本題材は平成
月に,大学側教官が
回の中で,正味約
展開 分,まとめ
分(およそ導入
分)で実施した。児童
人,女 人)は, つのグループ(男
回
ええと,
“ウニウニ”が 回,
“サケサケ”が
分,
“ホッケ”が
“アワビアワビ”が 回,
名(男
人,男女 人,
男 人)に別れて創作に取り組んだ。児童はここで創
作した作品を
入るタイミングがわからない。
ウニウニ
品を創作することができたか。
分の授業
そして,全員入ったら大きくするとか。
月の学芸発表会に
年生の発表
音楽
でつづる恵山町の四季 の中に取り入れ,世界に一つ
しか無い, 尻岸内小
“ソイソイ”が
コ”が 回,
回,
回,
“ゴッ
回。
何回か通し練習。(お互いの入るタイミングに慣
れる。
)
みんな入ったら大きくしよう。
さらに,何回か通し練習。
年生の音楽 として自信を持っ
本実践での創作作品の楽譜は,表
て演奏していた。
音楽でつづる恵山町の四季
の内容
曲目・春の風(二部合唱)
・さくらさくら(箏三重奏)
・星笛(リコーダー二重奏)
の通りである。
また,学習事後調査を児童に行った所,次のような結
果であった。
尾
藤
弥
生・佐々木
茂・大 森 武 治
(表 )
《指
過 程
学
習
活
導
動
・自分の名前にリズムをつけてリズム
打ちする。
導
・参考曲の鑑賞。
入
計
画》
指 導 内 容
・リズムの付け方の参考例を示し,各 ・言葉にもリズムがあることを理解さ
せる。
自の名前に 分の 拍子 小節分の
・自分でリズムを考える導入として行
リズムを工夫させる。
う。
・全員で 分の 拍子の一定のテンポ ・アンサンブルの導入として,仲間の
リズムをしっかり聴く練習として行
に乗って,各自が考えたリズムを打
う。
つ。
・ 野菜の気持ち 海 世界地図の ・初めて取り組む本題材の創作作品の
仕上がりのイメージを持たせるた
フーガ を鑑賞させ,創作作品の作
り方を理解させる。また,言葉だけ
め。
でも多様なリズムやニュアンスで組 ・作品の演奏発表時の発表方法を理解
み合わせ,構成することで音楽作品
になることを理解させる。
・恵山町で取れる海産物や魚の名前を
調べ発表する。
展
・グループごとに自分達の町を紹介す
る言葉の作品を作る。
開
ま
・ワークシート(表 )を配布し,創 ・自分達で使う言葉や曲の構成を決め
作の手順を説明する。
させることで,
自主的学習力を養う。
・作品のストーリー性を考えると,使 ・この創作活動を通して,様々な音楽
う言葉が決定しやすいことを指導す
の要素の変化により,音楽の表情が
変わることに気がつかせる。
・作品としてのまとまりを表現する方 ・作品のまとまりを出すために曲の盛
法を考えるよう指導する。
り上がりを工夫すること,曲の音量
変化を工夫することが有効であるこ
とに気づかせる。
・グループの中でお互いの音をよく聴 ・アンサンブルの楽しさを体験させ
きながら,共通理解されたテンポや
音の強弱などによって演奏できるよ
うにさせる。
と
め
させるため。
・全員に探してきたものをすべて発表 ・自分達の町の良さを再発見させるた
め。(総合的な学習と関連させるこ
させる。
ともできる。
)
・次の創作の素材とすることを意図し
ている。
る。
・言葉からイメージできる色々な表情
を考えて,言葉の抑揚を工夫するよ
う指導する。
・作品の発表。
指導内容の意図
る。
・自分の演奏する言葉の表情やニュア ・自分の演奏する言葉のイメージを
ンスをイメージに併せて工夫させ
はっきり持ち,表現することができ
る。
る能力を身につけさせる。
・お互いのグループの作品の良さを発
見しながら鑑賞させる。
学習事後調査結果
・まあまあ
人
あなたは,いままで,今回のような創作をしたこと
・むずかしかった
人
がありますか。
・つまらなかった
人
・ある
人
・ない
人
・はじめたいへんだったけれど,
だんだん楽しくなった
今回の創作を行って,感じたことに,いくつでも
印をつけてください。
・楽しかった
・できあがった作品を演奏した時,
やった!
人
人
と満足できた
人
北海道の小規模小学校の特性を生かした 音楽 の教材及び指導方法の開発
言葉のアンサンブルで紹介するわたしの町
の創
もう少し長くやった方がよかったかもしれな
作を体験しての感想を聞かせてください。
い。
はじめてやってとてもおもしろかったです。
声を大きくしたり,小さくしたりするとよかっ
今までこのような歌い方をやったことがなかっ
た。
こんな歌い方があるんだな
たけど,やってみて
大きな声で発表できればよかった。
あ と思いました。
実践の考察
みんなの考えた曲を一つの歌にしてやったらと
本題材は実践の結果からも分かるように,児童に
てもおもしろかったし,学芸会でも是非やりたい
とって初めて取り組む内容であったが,参考曲の鑑賞
と思いました。
や創作方法のアドバイスを参考に,試行錯誤しながら
初めてこういう事をやったから大変だったけ
ど,楽しかった。
最初は
やだな
も積極的に取り組むことができていた。そして,最終
的に自分達で作り上げることができたという充実感と
と少し思ったけどだんだん楽
しくなって,できたときはとてもうれしかったで
す。今度,もう一度やりたいです。
とてもおもしろかったです。でもサンマをやる
のはちょっとむずかしかったです。
初めてこういうのをやってたのしかったです。
ぼくは,いままでこういうのをやったことがな
かったので,勉強になりました。
言葉のアンサンブル
をやってとてもたのし
喜びを味わっていた。創作中の児童の取り組みの様子
を担任の杉本邦雄教諭は
楽しく真剣に取り組んでい
た。後は,この分の力を教室で発揮できると良い。
と評価していたことからも,自発的に熱心に取り組ん
でいたことが伺える。(尻岸内小学校では,
,
年
生の音楽は,担任ではなく専門の大森教頭が担当して
いる。
)
さらに, 学習事後調査結果 の感想から児童が様々
な内容を,学び取っていたことが読み取れる。
の
かったです。なぜなら,私は音楽も好きだし,リ
こんな歌い方もあるんだなあ
という言葉か
ズムをとるのも大好きだからです。これをやって
ら,既成の楽曲を演奏するだけが音楽ではないという
音楽が前より,もっと好きになりました。またや
ことを体験を通して感じ取っていることがわかる。ま
りたいです。
初めてやったとき,むずかしかったけど,今は
た, の児童も,より幅広い音楽を楽しむことができ
るようになったことが分かる。
の感想の男女の班は,自分達の作品に 魚の集会
できるようになってよかった。
むずかしかったけど,たのしくできてよかった
という題名をつけている。この班は言葉を選ぶ段階か
です。最初まちがったけど,演奏の時うまくいっ
ら作品のイメージを考えながら積極的に意見を出し合
てよかったです。
い,一番早く作品がまとまり発表のための練習に入っ
自分達の作品のどんなところに満足しましたか。
恵山のことを歌えた。
ていた。
発表のための練習の中では,全員でテンポを合わせ
大きな声で歌えてとってもよかったです。
ることや曲全体の強弱の変化を考えて聴く人に表現し
自分達で曲を考えられるのが,とてもよかった
たいことを伝えられるよう工夫していた。このように
です。
一人一人が入って最後らへんに声が大きくなっ
試行錯誤し工夫して作り上げた充実感が,
文章に現れている。
の児童は,自分達で作った作品だから自主的に何
て,小さくなったのが,満足しました。
最初はバラバラだったけど,最後はきちんと
あっててとてもよかったです。
みんなが間違えないで,しっかりできたことで
す。
失敗しないでできてよかったです。
自分達の作品で,もう少し工夫したかったことがあ
れば,書いてください。
の感想の
回も繰り返し練習して発表に臨んだことが理解でき
る。
質問事項の 満足している点 や 工夫すれば良かっ
た点 からは,音楽の様々な要素に対する気づきが多
くみられる。
は,音程変化の工夫に対する気づきをしている。
は,曲の長さ,つまり曲の構成に対する気づきをし
大きい声を出したかった。
ている。 , , , は,声の大きさや強弱の変化,
自分でやろうと思ったことができなかった。
に対する気づきをしている。この他
音程を上げたり下げたりしてもっと細かくやっ
自分達の町のことを歌えたことや自分達で作品を作り
てみたかったです。
, の文からは,
上げた喜びと充実感が伝わってくる。
尾
藤
弥
生・佐々木
茂・大 森 武 治
授業計画の展開の始めに,恵山町で取れる海産物や
題材設定の理由
魚の名前を児童が発表する時,実に生き生きと自信を
本題材は,
の《教材の実践例の設定内容》の
を基に教材化するものである。音楽の素材である
もって発表していた。自分の町について語ることは,
こんなにも子供を生き生きとさせるものかと思わされ
様々な音の美しさ,すばらしさ,不思議さを再発見し,
る一場面であった。
そこで感じたこと,学んだことを,音楽の表現活動や
次は,表
の各班の作品についての分析,まず出来
鑑賞活動に生かしてゆきたいと考えている。ここで述
上がった作品を考察すると,曲のかたち については,
べる 音
ワークシート(表 )の
回りに存在するすべての音(自然の音も含む)のこと
の形の班が一つ,
の形の
班が二つである。どちらの曲の形も一パートずつ追加
である。
されてパートが増えて行く曲の形であったことは,始
めに参考曲として演奏した 海 の曲の形(
の影響であると思われる。これは,
の形)
とは,楽器の音だけではなく,我々の身の
学習者は,音楽の素材であり,音楽の原点であると
ころの,日頃何気なく聞き過ごしている身の回りの
の協力校の
音
を,集中して聴くことで,その音の音色の美し
実態でも説明した通り,音楽を鑑賞する機会が少ない
さ,リズムのおもしろさ,音程変化の複雑さなど,そ
ため,鑑賞曲の影響を受けたためと考えられる。
の音の魅力と様々な構成要素に気づき,その音の良さ
今回は,一応できあがった各班の作品をよりバー
を再発見することができる。
ジョンアップするために,
児童にアドバイスを与えて,
さらに,これらの音にはそれぞれ個性があり,我々
十分考えさせる時間が取れなかったため, 班などは,
に多様な場面や風景,イメージを想像させてくれるこ
,
拍に言葉が片寄ってしまい,言葉がぶつかり過
とに気がつく。そして,それらの音を組み合わせるこ
ぎて,多少聞き取りにくい面があったことが気になる。
とでひとつの音楽作品ができることにも気づかせてく
また, アワビ
れる。
は,恵山で取れる海産物を発表させ
た時登場していない言葉であるが,児童の意志を尊重
してあえて言葉を変更することはさせなかった。
尚,この題材は,一度にまとめて学習するより,毎
回
分ずつ学習を積み重ねることで,新しい音との出
次に,作品の演奏の仕上がりについてである。少な
会いや発見をすることができるので,このことを考慮
い時間の中ではあったが,どの班にも作った作品を演
に入れて実践すると良い。また,この活動は,音楽の
奏する時に,曲の音量変化を工夫すること,曲の盛り
時間だけにこだわることなく,朝の読書タイムのよう
上がりをつけること,自分の演奏する言葉の表情,
ニュ
な取り入れ方も可能であると思う。
アンスを工夫すること(たとえば,その魚を食べる時
目
標
自分達の身の回りには,多様な音が存在してい
のおいしさをイメージしながら表現すること)などを
アドバイスした。児童はそれらを自分の表現として身
ることを,耳を通して意識する。
我々の回りに存在する音には,ふたつとして同
につけ,ある程度表現することができていたと思われ
る。また, 魚の集会
の班は自主的にテンポや各言
じ音は存在せず,音はそれぞれ違うリズム,音程,
葉の入りを合わせる工夫をし,さらに表情をつけよう
強弱,音色などをもっていることを発見すると共
と熱心に練習していたのが,印象的であった。
に,それぞれの音のすばらしさに気づく。
音にじっくり耳を傾け,自分の聴いた音を聞こ
各班それぞれの作品は短いものであったが,それを
つなげることで,尻岸内小
年生の大きな作品
我が
町恵山町 として,まとめることができると考え,
(
班),
(
班),
曲の構成を考え,
(
班),
の部分表
えたまま擬音(オノマトペ)で表現できるように
する。
(全員)という
のコーダの部分を指
音から受けた印象を言葉や絵などで表現する。
教
材
身の回りのすべての
導者側で作り,最後に全部を通して演奏した。この結
果, の児童の感想文からも読み取れるように,児童
指導計画
は創作したことの一層の充実感を味わうことができて
評
音
表 に掲載
価
自分達の身の回りに多様な音が存在しているこ
いた。
とを,意識できたか。
教材の実践例の設定内容に基づいて開発した
音楽の原点を再確認する活動
教材
題材名
《 音
の不思議発見!》
それぞれの音の特徴を発見すると共に音のすば
らしさに気づくことができたか。
自分が聴いた音をオノマトペや言葉や絵で表現
できたか。
北海道の小規模小学校の特性を生かした 音楽 の教材及び指導方法の開発
(表 )
《指
指
導
内
導
計
画》
容
指 導 内 容 の 意 図
・目を閉じて耳に神経を集中して,身の回りの音
を聴く。
( 分)
・日頃何気なく聴いている音を再認識する。
・音に集中することで,
いつも意識していなかった音の良さを発見させる。
・音には,それぞれ固有のリズム,音程,強弱,音色があることに気づか
せる。
・耳だけで音を聴くことにより,その音に対する固定観念を取り払って自
由にイメージしながら聴くことができる。
・教室の外の音がよく聴こえるように,窓をあけて行うと良い。
・聴こえた音をワークシートに記入する。
・音の記録方法としてのオノマトペの書き方を説
・その音の固定的なオノマトペにこだわる事なく,その時自分に聴こえた
とおり,素直にオノマトペにして記入させる。
・同じ波の音でも,その日の天候や風などにより,音が違い同じ音でない
明する。
・聴こえた音から受けたイメージや感じたこと,
想像した景色などについて記入する。
ことを,意識させる。
・音から想像力を広げ,音に対して様々なイメージを持てるようにする。
そして,それらの能力を創作活動の時に生かすようにする。
さん
実践結果
ひとりの児童の学習の変化
聴 こ え た 音
さん
聴 こ え た 音
音を聴いた感想
波の音(ザザー)
回 鈴虫のなき声(リリーン)
目 隣の教室の人の声
・なにげなくいつも聴いていた
音が,ちょっと違うように思
えた。
雨が葉っぱにあたる音
風の音
回
グロッケンか風鈴の音
目
机に何かがぶつかる音
・梅雨期のような感じでした。
ベル(リーリリリーン)
葉っぱの音(サーサ )
回
子供がさわいでいる音
目
スリッパの音(パタッ)
・真夏の時のようだったような
感じでした。
音を聴いた感想
鈴虫の音(リ ンリンリン)
海の音(ザ ザブ ン)
回
人の声(いいです)
目
車の音(ウィ ン)
グロッケンの音
(リンリンリリン)
回 葉っぱの音(ガサガサ)
目
・グロッケンに似た音は鈴虫が
鳴いているように思いまし
た。
・葉っぱはあまり想像つかな
かったです。
風鈴(リーンリンリン)
葉っぱ(カサササ)
回
車(ヴーーンンン)
目
足音(パタ)
・夏に風鈴がなってて車が走っ
てるみたい。
・春に葉っぱがかさかさなって
て人が歩いているみたい。
君
さん
聴 こ え た 音
聴 こ え た 音
音を聴いた感想
鈴虫が鳴いている音
(チリチリ)
回 波の音(ザボー)
,人の声
目 上山先生の声( の次は)
鈴の音(チリリリリ)
回 葉っぱのゆれた時の音
目 (ザサザザザァー)
・鈴の音や葉っぱのゆれた時の
音がとても気持ちよい時みた
いにきこえた。
ふうりん(チリリンー)
回 葉のゆれている音
目 (サァーサァー)
・ふうりんの音がとてもきれい
だった。それとこの前より涼
しそうだった。
鈴虫の音(リリリリリーン)
回 波の音(サーザーザボーン)
目 先生の声
音を聴いた感想
・波の音が洪水の音に感じた。
風の音(ザーザー)
・砂浜にいるみたいでした。
回 葉っぱがゆれる音(パラパラ)
目
波の音(ザボーン)
・住宅街にいるような感じだ。
車の音(ブルルルー)
草刈り機の音(バタバタバタ)
回
風の音(ヒューヒュー)
目 自転車のベルの音
(リンリーンリリーン)
尾
藤
弥
生・佐々木
(表 )
茂・大 森 武 治
のように激しい感じを表す言葉となる。
《児童が表現した様々な音のオノマトペ》
ザブーンの系列のオノマトペは
り,児童一人一人が自分の聴こえ方を的確に表現して
波の音
・ザーザブーン
・ザーザブン
・ザザー
・ザーザーザーボーン ・ボワー
・ザーザー
・ザボーン
・ゾーゾー
・ザボン
・ザブンザブン
・ザーザブー
・ザブーンザブーン
・ザッブーン
・ザーザーザドーン ・ザーザーザボン
鈴虫の音
・リーンリーン
・リーリーリー
・リリーン
・リリーンリーン
葉っぱが揺れる音
・ザーサラサラ ・パラパラ
・バラバラ
・ザーザーザー
・ガサガサ
・サァーサァー
・サラララララララサラー
いることが分かる。また,荒い波にも
・ヒューヒュー
種類の表現が
あり,特に印象的であったのは,ザドーンの表現であ
る。さまざまな波の表情を知らない人には理解できに
くい表現であるが,児童は 家の窓のすぐ外で聞こえ
た音 と説明していた。確かに海岸沿いの道路や海岸
・リリリリリーン
・リリーンリリーン
にある道の駅(なとわえさん)の展望台で波の音を聴
くとザブーンではなくザドーンという言葉のように聴
・ザーザ
・サーサー
・ザザザザザァー
・サーサラーサーサー
こえる。
このように,波の音ひとつでも,音に集中して素直
に耳を傾けると,
このように多様な表現が可能になる。
雨の音
・ザザーザー ・サーサーサー ・ザーン
・ザザザー
・雨が葉にあたった音(ポタ…ポタポタポタ)
風の音
・ザーザー
・サーサー
種類の表現があ
教師は固定したオノマトペで児童を型にはめてしまう
のではなく,児童の答えをしっかり受け止め,教師自
身の耳で確認し理解した上で,認めて行ける幅広い視
野と感性が必要であると思う。
・サー
この他の音についても同様のことが言える。鈴虫な
どは,一種類の鳴き方をするわけではなく,その時々
実践の考察
違うリズムで鳴く。
まず,この活動を行っての一人一人の児童の変容を
以上考察の通り,繰り返し実践することで児童の音
さんは,耳だけで音を聴くことで,固
を聴き分ける耳がある程度育成されたといえる。しか
定観念にとらわれない自由な発想で音を楽しむことが
し,もっと長い期間実践することで,他の音楽活動へ
分析すると,
できるようになった。
と感じ,
回目は
回目は
何かいつもと違う
梅雨の時のよう
と感じ,
回目
の学習成果の還元が見られると考える。
さらに,この
音
を聴くという活動を,地域理解
は 真夏のよう と感じ,毎回音から自分なりのイメー
に関する総合的学習と結びつけて展開して行く方法,
ジを広げることができるようになっていった。また,
また,音楽の つくって表現する活動
遠くの音やささやかな音まで,鋭く聴き取っていた。
実践する方法なども考えられる。
さんは,
回目は音からイメージを広げることが
できなかったが,
い
回目は
回目は
とても気持ちよい時みた
とても涼しそう
と,音からイメージ
を広げることができるようになった。 さんも同様で,
回目は
と結びつけて
グロッケンに似た音が鈴虫が鳴いているよ
本研究により開発した
材及び児童が自ら 音
つくって表現する活動
の教
と主体的に関わる教材は,児童
回目は,風鈴と車の音から夏を
一人一人が音楽と主体的に関わりながら学習できる内容
イメージし,葉っぱの音から春をイメージできるよう
であるという知見を得た。また,児童はこのような自ら
う
とイメージし,
.まとめと今後の課題
になった。また,
君は, 波の音が洪水のよう
と
自分の感じたことを的確に表現できていた。
音に集中して聴くことを繰り返すことにより,児童
は多くの音に気づくことができ,音からイメージを広
げられるようになった。
の力で作り上げる活動において,既成の楽曲を演奏する
時とは違う充実感とやり甲斐を感じて,積極的に楽しみ
ながら取り組むという知見も得た。
さらに,
このような活動では,
一人一人または各グルー
プに対して,きめ細かい支援や指導が必要であることが
次に,児童が表現したオノマトペについての分析で
わかった。これらに対して小規模校では,人数の少ない
ある。尻岸内小学校は,校庭の端の防風林のすぐ向こ
利点を生かして,きめ細かく指導することが可能である
うが海なので波の音はよく聞こえる。また,海のすぐ
という知見も得た。
そばに家がある児童もいる。波の音は生活の一部とも
児童はこれらの活動を通して,音楽の様々な要素(リ
いえる。同じ波の音でも,天候がよく,穏やかで静か
ズム,旋律,音の重なり,音色,強弱,テンポ,形式)
な日は,ザザー,ザブーンであり,雨や風が強くて海
の変化に無意識に気づいている。これらを意識化させる
が荒れている日は,波も荒くザボーン,ザドーンなど
ことで,今後の音楽表現の幅を広げ,音楽鑑賞能力の深
北海道の小規模小学校の特性を生かした 音楽 の教材及び指導方法の開発
化を図ることができると考える。
今回は, 回という限られた状況での実践であったが,
今後,長期スパンでこれらの学習を,年間計画に位置付
《各班の発表風景》
・ 班
け,日頃の授業として積み重ねることで,小規模校の音
楽活動に幅と内容的な深まりを生み出し,児童の音楽能
力の成長を図ることができると考える。
最後になるが,都市部の児童に比較して,生演奏を鑑
賞する機会や音楽に接する機会,音楽と関わる機会が少
ない児童が多いため,学習に先立つ音楽的レディネスが
やや少ないので,今後これらを改善する方法を学校単位,
町村単位,地域ぐるみ,道全体として考えていく必要が
あると強く感じた。このような不利な点はあるが,都市
部にはない,その地域独特の素材や多様な自然の恵みを
生かして,生活の一部として音楽に関わり,音楽活動を
・ 班
広げてゆけると良いと考える。
《参考文献》
・ヨイサの会著
音 を 楽 しむ 音楽 の旅
音楽之友社
年
・古谷哲也作曲
野菜の気持ち
音楽之友社
・トッホ・エルンスト作曲
ンビア
高校生の音楽
年
世界地図のフーガ
年
・全体通しての発表
コロ
・ 班
尾
藤
弥
生・佐々木
茂・大 森 武 治
(表 )
《言葉のアンサンブルで紹介する私たちの町》の児童作品
班(男子 名)
曲のかたち
コーダ部分(全員が パートに別れて合唱する)
曲のかたち
北海道の小規模小学校の特性を生かした 音楽 の教材及び指導方法の開発
班(男子 名)
曲の題名
曲のかたち
魚の集会
班(男子 名)
曲のかたち
尾
藤
弥
生・佐々木
茂・大 森 武 治
(表 )
《ことばのアンサンブルで紹介するわたしの町》
声って不思議!
おしゃべりやお話だって音楽になるよ。ことばにもリズムがあるし。
大切なのは,自分の声で,自分の考えで,自分のことばで,表現しよう!
・素
材
・この町の自然の音をことばやオノマトペで表現したもの
(たとえば,波のザブーン)
・この町の海の幸の名前(たとえば,コンブ,ウニ)
・活動の手順
グループを作る( 人, 人, 人の グループ)
曲で表現するテーマを決める。例えば海,海岸,浜辺,港など最終的には,曲目を決める
作品で使うことばを決める
曲のかたち を決める
曲の拍子を決める
最低メンバーの人数分はことばが必要
下の 曲のかたち の表を参考にしよう
拍子又は 拍子
決めた 曲のかたち に沿って構成を考え,テーマに沿って工夫しながら曲をつくる
(例)・テンポをかえたり・強弱をつけたり・ソロを入れたり・声の高さをかえたり
・声の色を変えたり・全員で同じことばをそろえるところを入れたり
・お休みを入れたり
注 上記の 曲のかたち は, 音 を 楽 しむ 音楽 の旅 より