時分割 AWiMA Net におけるデータ通信方式について On

「マルチメディア,分散,協調とモバイル
(DICOMO2008)シンポジウム」平成20年7月
時分割 AWiMA Net におけるデータ通信方式について
†
明石藍子
††
西井龍五
†††
萬代雅希
渡辺尚
††††
本稿では非対称無線マルチホップアクセスネットワーク(AWiMA Net)をベースに,シングルホップ通信とマルチホ
ップ通信それぞれのメリットを活かした時分割非対称無線マルチホップアクセスネットワーク(時分割 AWiMA Net)
を提案する.AP の出力を拡大して端末へ直接データ送信を可能にすることで下りデータ中継が解消され,端末にかか
る中継負荷やデータ中継遅延を抑えることができる.また,出力の大きな AP が端末間の通信を阻害しないようにネ
ットワーク稼動期間を上りデータ処理期間と下りデータ処理期間に分割することでスムーズな通信を行う.以上の提
案方式の基礎評価として,AP1 台と端末 20 台の設置を想定したシミュレーションを行うことで提案方式の有用性を示
す.また,単一 AP での性能を踏まえ,AP を複数台設置した時分割 AWiMA Net において衝突が少ないデータ通信を
行うための AP 協調型スケジューリングを提案する.複数の AP が存在する場合,サービスエリアが重複しているエリ
アにおいてデータ衝突や干渉が多発すると考えられる.スケジューリングを行って隣接 AP が端末情報を共有するこ
とで,重複エリアにある端末に対するデータ送信のタイミングをずらし,衝突を抑えたデータ通信を目指す.
On Data Transmission Method and Scheduling of the Time
Division Asymmetric Wireless Multi-hop Access Network
†
Aiko Akashi
††
†††
Ryugo Nishii
Masaki Bandai
††††
Takashi Watanabe
This paper considers the problem of how to improve throughput in a wireless network. We introduce the Asymmetric Wireless
Network (AWiMA Net). In AWiMA Net, the communication range of access point (AP) and those of nodes are different, so we
adopted two transmission methods for up/down link data. Up link data are transmitted by multi-hop communication, while down
link data transmitted by single-hop communication. In Internet access, the amount of down link data is larger than that of up link
data, so proposed network which down link data are transmitted without relay contributes to data transmission delay decrease and
throughput increase. We evaluate the proposed network by a computer simulator and compare with a conventional multi-hop
network using IEEE 802.11 DCF. The result shows that the proposed network improves data transmission delay and network
throughput. Then, we also propose the cooperative data transmission scheduling for Time Division AWiMA Net with multiple
APs. In the overlap area which is covered by multiple APs, data collision occurs frequently. To reduce collision at overlapped
area, AP shifts data transmission timing by sharing node information between APs.
るエリアに存在するユーザ端末(PC,携帯など)にイ
1. はじめに
ンターネットサービスを提供するもので,ユーザは屋
近年の無線技術の発展やインターネット普及に伴い,
外にいながらにしてインターネットに接続し,E-mail
屋内外様々なシーンに対応したネットワークシステム
やWebブラウジングなどのサービスを利用することが
が開発され,利用されている.特にLANケーブルの配
できる.
線が不要な無線ネットワークシステムはその利便性か
現在のAP の通信エリアは数十m から数百 m 程度と
[2]
ら屋内利用に留まらず,ホットスポット ・Free Spot
あまり大きくないため,広範囲にサービスを提供しよ
と呼ばれる公衆無線LANサービスとして駅や喫茶店
うとした場合には複数の AP を設置する必要がある.
[1]
など屋外での利用も進められている.公衆無線LANサ
ところが,通常 AP には有線 LAN によるネットワーク
ービスは,屋内外の公共(私有)スペースにアクセス
バックボーンが必要であるため,AP の台数が増える
ポイント(以下AP)を設置することでAPがカバーす
ごとにネットワークの柔軟性や拡張性が損なわれたり,
これによりインターネットサービス提供エリア拡大が
†
静岡大学大学院情報学研究科
Graduate School of Informatics, Shizuoka University
††
三菱電機情報技術総合研究所
Information Technology R&D Center, Mitsubishi Electric co.
†††
静岡大学情報学部
Faculty of Information, Shizuoka University
††††静岡大学創造科学技術大学院
Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University
難しくなることで通信可能端末数が限定されるといっ
た問題が発生する.
これらを解決すべく,マルチホップアクセスネット
ワークやマルチホップセルラネットワーク,IEEE
802.11sとして議論が進められているメッシュネット
ワークなどが提案され,研究が進められている[3][4][5][6][7].
マルチホップアクセスネットワークやマルチホップセ
ルラネットワークでは,APと通信端末の間を周辺端末
─ 1135 ─
や固定器でデータ中継することでAP1 台あたりの収容
node 5
端末数・カバーエリアを拡大しており,セルラネット
ワーク・メッシュネットワークではAPを複数設置する
node 4
ことでエリア全体のカバレージを確保している.しか
題が,複数APを利用すると導入コストや有線バックボ
AP
node 2
し,マルチホップ通信を利用するとデータ中継にかか
る遅延や中継端末にかかる負荷が大きくなるという問
node 1
node 3
Fig.1 マルチホップ型無線アクセスネットワーク
ーンの設置によってネットワークの柔軟性欠如などの
問題が発生する.
そこで本研究では,中継端末にかかる負荷やデータ
node 5
node 1
中継遅延を抑え,かつ低コストでカバレージを確保す
ることができるネットワークシステムとして時分割非
node 4
AP
対称無線マルチホップアクセスネットワーク(時分割
node 2
AWiMA Net)を提案する.ネットワークの構成は,関
node 3
連研究として後述するが,非対称無線マルチホップア
クセスネットワーク(AWiMA Net)[8]の構成をベースと
Fig.2 AWiMA Net
している.APのデータ送信電力が端末に比べて大きい
という特徴を活かしてAPから端末への直接データ送
信データを直接受信できるため,下りデータはシング
信を可能し,データ中継数を抑えることで低負荷で低
ルホップ通信による直接送信が可能となる.一方ユー
遅延のネットワークシステムを構成した.
ザ端末は,バッテリーの小型化など電力制限の点から
本論文の構成は次の通りである.第 2 章で関連研究
データ送信電力を従来のまま(あるいは縮小も可能)
として提案方式のベースになっているネットワークに
であるとし,端末はマルチホップ通信によりデータ送
ついて紹介し,続く第 3 章では提案方式として時分割
信を行う.また,AP と直接通信できない距離に存在
AWiMA Net ついて述べる.第 4 章で 1 台の AP で構成
する端末は近隣端末などを中継することで電力消費を
した提案ネットワークの性能評価を行い,第 5 章では
抑えたまま AP との通信が可能となる.このように AP
複数 AP でネットワークを構成した場合の問題点につ
と端末にデータ送信電力に違いを持たせることで,
“上
いて考察し,その解決案として AP 協調型スケジュー
りデータはマルチホップ通信(Fig.2 破線矢印)
・下り
リングを提案する.最後に第 6 章を全体のまとめとす
データはシングルホップ通信(Fig.2 実践矢印)
”とい
る.このうち第 5 章で述べる複数 AP によるネットワ
う,データの送信方向によって異なる通信を行うネッ
ークであるが,本研究の対象は AP とそのカバーエリ
トワークを構成している.
アに存在する端末間の通信であり,AP 間の通信方式
については言及していない.
3. 時分割 AWiMA Net
本章では実際の通信方式について述べる.より詳細
2. 関連研究
な説明については[9]を参考にされたい.
本章では,本研究のベースである,AWiMA Net[8]に
AWIMA Net で実際に通信を行う場合,
従来通りの自
律分散的な通信方式を採用すると上りデータと下りデ
ついて述べる.
非対称無線マルチホップアクセスネットワーク[8]
ータ間で衝突が多発することが考えられる.そこで,
このネットワークの最大の特徴は,AP のデータ送
ネットワーク稼動期間を上りデータ処理期間と下りデ
信電力を拡大したことである.これにより AP1 台あた
ータ処理期間に分割することで AWiMA Net でのデー
りのカバーエリア(管理エリア)が拡張されるため,
タ通信を実現した.
ネットワーク稼動期間の時分割
従来の無線アクセスネットワークに比べて収容端末数
3.1
を増加させることができる.ネットワーク構成比較の
AP と端末のデータ送信範囲が異なる環境で IEEE
ため,従来のマルチホップ型無線アクセスネットワー
802.11 DCF のように各端末が自律分散的に通信を行
クの簡易図を Fig.1 に,AWiMA Net の簡易図を Fig.2
うと,AP が高出力で送信を開始した際に端末間の通
に示す.
信を妨害することが考えられる.これは AP がカバー
AWiMA Net ではカバーエリア内の全端末が AP の送
エリア内全端末の通信をキャリアセンスすることがで
─ 1136 ─
NUL(Notification of Up Link)
Tm-1Up
AP
NUL
Tm-1Down
Time
Up Link Data
AP
Tm Down
Tm Up
node 1
node 1
Up Link Data
node 2
node 2
ACK
Down Link Data
NDL(Notification of Down Link)
NDL
node 3
node 3
Fig.3 通信期間の分割
RTS-CTS-Data-ACK
Fig.4 上りデータ処理期間
きないためである.しかし,例え AP のキャリアセン
ス領域を広げて全端末の通信を認識できるようにした
Network Time
としても,結局 AP は全端末が通信していない(利用
帯域がアイドル状態)期間にしかデータ送信が行えな
AP
node 1
AP
node 1
い.また本研究では提案ネットワークの利用シーンを
node 2
端末から AP を経由したインターネットアクセスであ
ると仮定しているため,端末からの上りデータを正し
node 3
node 3
Multi Hop ACK
く AP まで送信することが重要になる.そこで,デー
タ通信期間を“端末が通信を行っている間 AP からの
node 2
node 4
node 4
RTSR
node 5
Down Link Date
node 5
データ送信を停止する上りデータ処理期間”と“AP
Fig.5 逐次送信
からのデータ送信が行われている間端末の通信を停止
する下りデータ処理期間”に分割することで各送信方
ここで下りデータ通信方式として,シンプルな逐次
向のデータ間で発生する衝突を抑える.Fig.3 に通信期
送信と,更なるデータ通信の効率向上を目指した累積
間の分割を図示する.各処理期間は AP によって管理
送信を提案する.
されており,期間開始時に AP が通知パケットをブロ
3.3.1 逐次送信
ードキャストすることでエリア内の全端末が期間を切
逐次送信は,Fig.5 に示すように,AP が持つ下りデ
り替えてその期間に応じたデータ処理を行う.
3.2
ータをその発生順に端末へ送信し,1 つのデータに対
して 1 つの ACK パケットを転送するという,シンプ
上りデータ処理期間
この期間は“端末がデータを AP へ送信・転送する
ルな通信方式である.
ための期間”とし,AP からのデータ送信を停止する
まずAPはデータの宛て先とACKの中継端末に対し
ことで端末間の通信を保障する.上りデータ処理期間
て RTSR(Route RTS)を送信する.RTSR にはこれか
の通信例を Fig.4 に示す.
ら送信するデータの宛て先端末アドレスと,必要であ
上りデータ処理期間は,各端末が自律分散的に自身
データ通信を行う.各端末の送信電力は AP に比べて
ればACK 中継を行う端末アドレスが記載されている.
これを受信した宛て先端末と中継端末は ACK 転送待
小さいため,直接 AP と通信できない端末が存在する
機状態になる.続いて AP は下りデータをシングルホ
が,これらの端末は近隣端末や固定中継器をマルチホ
ップで宛て先端末に送信し,
端末からのACK を待つ.
ップすることでデータを AP まで転送していく.また,
データを受信した宛て先端末は ACK の送信を開始す
AP が近隣 1 ホップの端末と通信する際の CTS と ACK
るが,直接通信が可能な距離に AP がいない場合,先
送信は,電力制御ができない AP を想定しているため,
の RTSR で指定された中継端末を利用して ACK を AP
高出力で送信される.
まで転送して行く.
これをマルチホップACK と呼ぶ.
3.3
下りデータ処理期間
宛て先端末からマルチホップ ACK を受信すると,
この期間は“AP がカバーエリア内の端末に全ての
AP は他のデータを同様の手順で送信していく.保持
データを送信する期間”であると定義し,各端末は下
している全下りデータを送信すると期間を終了して上
りデータを正しく受信できるように通信を停止して,
りデータ処理期間を開始する.
AP からのデータ送信に備える.もしもこの期間に端
3.3.2 累積送信
末が通信をしていたとしても,
AP が下りデータを次々
逐次送信が下りデータ 1 つにつき 1 つの RTSR と
と送信するため正しく通信できない可能性が非常に高
ACK を送信したのに対し,累積送信ではこれらをルー
く,端末間の通信を停止することで無駄な再送やパケ
トごと 1 つに集約して通信を行う.そのため RTSR と
ットドロップを抑える.
ACK 集約の事前処理として,AP が期間開始前に送信
─ 1137 ─
りデータ処理期間で送信できるデータは,その期間が
Network Time
AP
node 1
開始する直前までに処理されたデータのみであるため,
AP
node 1
処理期間が開始した後に発生したデータは次回の期間
Down Link Data
に持ち越しになるといったように,発生タイミングに
node 2
node 3
node 2
よってはデータ送信の待ち時間が大きくなるというデ
メリットが考えられる.
node 3
Multi Hop ACK
node 4
一方の逐次送信ではパケット集約による性能向上は
node 4
見込めないものの,AP における事前データ処理が不
RTSR
node 5
node 5
要であり,かつ再送処理が従来のままであるというメ
Fig.6 累積送信
リットがある.
予定の全下りデータを宛て先端末が属するルート別,
AP から宛て先端末までのホップ数別にソートする必
要がある.
4. 基礎評価
計算機シミュレータを用いて提案ネットワークの性
下りデータ処理期間が始まると,AP は宛て先端末
能を評価するため,以下の 3 方式を用意し,スループ
が属するルート群の中から 1 つのルートに着目して
ット・遅延・パケットドロップ率について比較した.
RTSR 送信を開始する.このときの RTSR には,宛て
1.
先アドレスとして最遠の宛て先端末を指定し,AP と
従来方式
上り/下りデータ通信が混在
最遠端末の間の端末を中継端末に指定する.
例として,
上り/下りデータ通信ともにマルチホップ通信
1 つの下りデータ処理期間に宛て先端末が 3 つ(node2,
2.
提案方式(下りデータを逐次送信)
node3, node4)存在するルートを Fig.6 に示す.このル
3.
提案方式(下りデータを累積送信)
ートに送信する RTSR は,
AP から最も遠い node 4 で,
方式 3 ではデータ送信前に事前処理が必要になるが,
ACK 中継端末には node 1~node 3 が指定されている.
本評価ではこれを手作業で行い,純粋にデータ通信期
続いて AP は 3 つのデータを,AP から宛て先までのホ
間のみの性能結果を得た.今回利用したシミュレーシ
ップ数が小さい端末宛てのデータから
(この場合,
node
ョン環境と各種パラメータを Table 1 と Table 2 に,利
2 → node 3 → node 4)順に送信する.これは事前準
用したトポロジと各端末のデータ送信範囲を Fig.7 に
備によりソート済みである.データを受信した node2
示す.
と node3 は RTSR により ACK 中継端末に指定されて
いるため,ACK の送信を延期(ACK ペンディング)
して node4 の ACK 転送を待つ.一方,最遠端末とし
て指定された node 4 はデータを受信後すぐに ACK を
Table 1 シミュレーション環境
QualNet 3.9[9]
Simulator
AP を中心に 4 ルート
端末とルート数
1 ルートに端末が 5 台
送信する.node 3 はこの ACK を転送するが,転送す
る際,今までは“node4 からの ACK”という内容であ
ったパケット情報を“node3 と node4 からの ACK”と
Table 2 シミュレーションパラメータ
評価方式
方式 1
方式 2,3
AP
50m
AP 500m
端末 50m
端末 50m
MAC 層
IEEE 802.11
提案方式
物理層
IEEE 802.11b 2Mbps
ルーチング層
Static Route
変更する.更に node2 は,これを“node2 と node3 と
node4 からの ACK”という情報に変更して node 1 に転
送する.AP はマルチホップ ACK を受信することで
node 2~node 4 が各データを正しく受信できたことを
確認し,他ルートへのデータ処理に移る.
3.3.3 各送信方法の比較
2 種類の下りデータ送信方法について述べたが,そ
送信範囲(半径)
データサイズ
れぞれにメリットとデメリットが挙げられる.
まず,累積送信を行うことで RTSR と ACK の送信
数を各ルートに対して 1 つずつに集約することができ,
通信時間短縮,性能向上が見込める.しかし各パケッ
トの集約を行うために事前にデータソートを行わなけ
ればならず,AP での処理数が増える.また,次の下
上りデータ 512byte,
下りデータ 1460byte
AP と各端末は 50m 間隔で設置し,端末と方式 1 の
AP は隣接端末(AP)とだけ通信ができるように電力
設定をした.一方,方式 2 と方式 3 の AP は空間内に
ある全端末に直接データ送信ができるように出力をあ
─ 1138 ─
1.2
50m
nodes
50m
conventional
proposed ( sequential )
proposed ( accumulative )
1
Delay [s]
AP
AP
500m
50m
0.8
0.6
0.4
0.2
Fig.7 トポロジと送信範囲
0
(右:方式 1,左:方式 2,3)
1
5
9
13
17
21
Num of Active Nodes
げている.
Fig.8 遅延時間
評価では,
“全体で 20 台のうちからランダムに端末
を選出(これを active node と呼ぶ)してデータを 1 つ
800
データを受信する.
”というシナリオを想定する.提案
700
方式では期間長を固定にしておらず,各期間を“全て
の上りデータが AP に届くまで”と,
“全ての下りデー
タが宛て先に届くまで”としている.実際のネットワ
Throughput [kbps]
発生させ,AP まで送信し,その応答として AP からの
600
500
400
300
conventional
200
proposed ( sequential )
め 1 つの期間が終了するまで逆方向のデータ送信を待
100
proposed ( accumulative )
たなければならず,今回の評価で得られた数値よりも
0
ーク運用では期間長を固定にすることを考えているた
1
6
遅延・スループットは低くなると考えられる.今後期
間の長さについては考察していく必要があり,今回の
16
21
Fig.9 スループット
評価は理想的な性能として参考にしていく予定である.
4.1
11
Num of Active Nodes
遅延
90
上り/下りリンクデータ両方にマルチホップ通信を
採用した従来方式は active node 数の増加に従って遅延
時間が大きく増加する傾向が見られた.提案方式でも
active node 数によって遅延増加があるものの,従来方
式ほどの大きな変化が見られない.全体を通して 2.2
倍以上の差が見られ,active node 数が増えるごとに差
Packet Drop Rate [%]
Fig.8 に遅延時間の結果を示す.
conventional
proposed ( sequential )
proposed ( accumulative )
80
70
60
50
40
30
20
10
0
が広がっている.これはデータ転送数が多い従来方式
5 6
7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
においてパケットの衝突が多発し再送などの処理が行
Num of Active Nodes
われたことが原因の一つであると考える.
Fig.10 パケットドロップ率
また提案方式のうち,累積送信を採用した方式 3 の
ほうが逐次送信を採用した方式 2 より若干ではあるが
来方式には active node 数に応じて性能が低下する傾向
性能が改善されたことが確認できた.この差は RTSR
が出たと考えられる.提案方式でもスループットは頭
と ACK の送信数を削減して短縮された通信時間であ
打ちになりはするものの,従来方式のような性能低下
ると考えられる.
はみられなかった.
4.2
スループット
4.3
パケットドロップ
Fig.10 にパケットドロップ率を示す.
Fig.9 にスループットの結果を示す.
従来方式を基準とした場合,全体を通して提案方式に
先の 2 つの結果と同様,従来方式では active node 数
1.2~2 倍程度の改善が見られた.遅延時間と同様に
が増えるに従ってドロップ数が非常に大きくなってい
active node が増加していくことでネットワーク上に流
るが,提案方式ではその伸びが小さいことが確認でき
出するデータ数が増加するため,データ転送の多い従
る.また提案方式において実際にパケットドロップが
─ 1139 ─
Fig.11 重複エリアのない AP 設置
Fig.12 重複エリアのある AP 設置
発生したのは上りデータ処理中のみであり,下りデー
エリアで衝突を抑えた通信を実現するためのデータ送
タ処理期間中には発生しなかった.AP がデータを直
信スケジューリングを提案する.以下,複数のサービ
接端末まで送信するため,提案方式ではデータ転送中
スエリアが重複しているエリアをオーバーラップエリ
のドロップが起こりにくい.このような結果から,時
ア,オーバーラップエリアにある端末をオーバーラッ
分割 AWiMA Net では従来方式に比べ信頼性の高い通
プノードと定義する.
信が可能であるといえる.
5.2
AP の協調
複数APを利用するネットワークの例として,
(マル
5. 複数 AP による時分割 AWiMA Net
チホップ)セルラネットワーク[3][4][5]やメッシュネット
時分割 AWiMA Net を利用することで AP1 台がカバ
ワーク[6][7]が挙げられる.特にメッシュネットワークで
ーできるエリアが従来のより拡大することができた.
はAP同士を接続することで,全APを直接インターネ
ここで,更なるサービスエリアの拡大を目指すために
ットに接続することなくバックボーンを拡大すること
AP を複数台設置することを考える.複数 AP を設置す
ができる.また,AP間が無線接続されているためケー
ることで,カバーエリアの拡大や連続的なエリアカバ
ブル設置などの手間が不要で初期投資や保守が容易で
ーを実現することができ,これにより利用者端末の移
あるというメリットを持っている.
本研究でも AP は互いに有線もしくは無線で接続さ
動性への対応が可能になる.
5.1
れているとし,オーバーラップエリアの情報を共有し
オーバーラップエリア
AP を複数設置すると,各サービスエリアの重複の
てデータ送信タイミングを調整する.AP 間の接続が
仕方によってそれに応じたメリットとデメリットが発
無線の場合はメッシュネットワークと同様,端末間の
生する.Fig.11 のようにサービスエリアの重複を作ら
通信で使われる周波数帯と AP 間の通信で使われる周
ないように AP を設置すると,エリア間のデータ衝突
波数帯が異なるとし,互いの通信を阻害しない.
データ送信タイミングのスケジューリング
が抑えられる一方,端末が通信できないデッドスポッ
5.3
トが発生する.Fig.12 のようにサービスエリアの重複
オーバーラップエリアにおいて特に衝突が発生しや
を作る設置では連続的なサービス提供が可能になり,
すいのは AP がデータ送信を行う下りリンク期間であ
将来的に端末の移動にも対応できる.しかし重複エリ
ると考えられる.全端末が小さな送信半径で通信する
アには隣接した複数の AP からデータが届くため,デ
ため各通信が影響を及ぼす範囲が小さい上りリンク期
ータの衝突・干渉が発生しやすいと考えられる.この
間に比べ,下りリンク期間では大きな送信半径を持つ
ような設置では再送処理やパケットドロップが発生し
AP がデータ送信を行うためオーバーラップエリアに
てネットワーク性能が低下するため,重複エリアを極
与える影響が大きい.そこで下りデータ期間を AP 協
力小さくする必要がある.
調処理期間と非協調処理期間の 2 つに分割することで
各設置方法に対し,マルチホップ通信によってデッ
オーバーラップエリアでのデータ衝突を抑える.また
ドスポットを解消するネットワークや,電力制御可能
AP が協調動作をするための準備として,データ送信
な AP を利用してデータ衝突の少ないネットワークを
を行う前にカバーエリア内の端末情報を収集・隣接 AP
構築する研究などが進められている.しかしマルチホ
と共有してオーバーラップノードを選定するための期
ップ通信を利用すると中継遅延などでネットワークの
間を設ける必要がある.
性能が低下し,また,電力制御機能や指向性アンテナ
以上を踏まえ,複数 AP による時分割 AWiMA Net
を搭載した AP を利用した場合でも装置規模やコスト
では以下 4 種類の期間を繰り返すことで運用していく.
といった点で問題が残る.
期間遷移を図示したものを Fig.13 に示す.このうちル
そこで単一APによる時分割AWiMA Netと同様に無
ート構築期間は一定期間ごと実行する.定期的に端末
指向性で電力制御を行わない固定 AP を想定し,重複
の情報を収集してルートを再構築することでルートメ
─ 1140 ─
One Route Conservation
time
1
2
3
4
2
3
4
2
3
4
Collision
1
N
Fig.13 非対称無線ネットワークの運用
AP1
ンテナンスとしての役割も果たす期間である.
1.
ルート構築期間
2.
上りデータ処理期間
3.
下りデータ処理期間 AP 非協調処理期間
4.
下りデータ処理期間 AP 協調処理期間
AP2
Up-Link Phase
Down-Link Phase
Fig.14 異なる期間実行によるデータ衝突
5.3.1 隣接サービスエリアの期間実行タイミング
各期間のうちルート構築期間は AP 間でデータ共有
を行って所属端末の調整を行うため隣接サービスエリ
AP1
アが同じタイミングで実行しなければならないが,上
N
AP2
りデータ処理期間と下りデータ処理期間についてはそ
の限りではない.例えば Fig.14 のような構成を持つ複
Fig.15 オーバーラップノードの所属
数 AP による時分割 AWiMA Net において,
AP1 が上り
データ処理期間を実行中に AP2 が下りデータ処理期
などの要素を比較して適した AP に分配,といった方
間を実行することができる.ところが,このように隣
法が考えられる.もちろんオーバーラップノードを全
接するサービスエリアで実行する期間が異なる場合,
て分配せず複数の AP と接続できる状態にしておくこ
オーバーラップノード(N)が AP1 に対して上りデー
とも可能である.例えば Fig.15 中の枝分かれルートの
タを送信しようとしたタイミングで AP2 が下りデー
根元になっているオーバーラップノード(N)をどち
タ送信を開始することが考えられる.このような現象
らの AP とも接続できる状態にすると,AP にかかる負
が起こると N の送信データと AP2 の送信データが衝
荷に応じて接続先を切り替えることができる.しかし
突し,N は再送処理行うことになる.しかし下りデー
本稿では問題の簡素化のため,
全ての端末を両方の AP
タ処理期間中の AP2 は次々とデータを送信し続ける
に振り分けてスケジューリングを行う.オーバーラッ
ため,N のデータ再送中に続けてデータ衝突が起こる
プノードはそのホップ数(電力強度)に応じていずれ
可能性がある.このような理由から,提案ネットワー
か 1 台の AP に属することとした.
クでは隣接するサービスエリアでは同じ期間が実行さ
オーバーラップノードの分配が終了したら,AP は
れているとする.各期間の移り変わりは隣接 AP が情
カバーエリア内の全端末のルートを構築してエリア内
報共有によって調整すると考える.
に配布する.
5.3.2 ルート構築期間
5.3.3 上りデータ処理期間
この期間は“AP がカバーエリアの情報を取得し,
上りデータ期間は単一 AP のときと同様に各端末が
オーバーラップノードの選定およびルートの構築を行
自身の属する AP に向けて自律分散的にデータ通信を
う期間”とする.
行う.このときに利用するルートは先ほどルート構築
まず AP がカバーエリア内ノードに対して自身の存
期間の最後に AP から配布されたルートである.
在を通知する.これにより端末は自身がどの AP のカ
5.3.4 下りデータ処理期間
バーエリアに属しているかを把握し,その AP に対し
下りデータ処理期間も単一 AP のときと同様に,端
てルート構築要求を送信する.ルート構築要求のパケ
末は AP からシングルホップでデータを受信して AP
ットには端末 ID を含んでおり,これを受信した AP は
に対してマルチホップ ACK を送信する.
隣接 AP 間で端末情報を共有することで重複する端末
下りデータ処理期間中のオーバーラップエリアにお
ける衝突を減らすため,この期間を各 AP が管理する
ID を検出する.
検出された ID をオーバーラップノード ID とし,次
オーバーラップノード以外の端末に対してデータを送
にオーバーラップノードを分配する.分配の方法とし
信する非協調処理期間とオーバーラップノードに対し
て,どちらかの AP に一括集約,ホップ数・電力強度
て交互にデータを送信する協調処理期間に分割した.
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察を行った.複数 AP からデータが届くオーバーラッ
プエリアでは衝突が頻繁に発生することが考えられ,
Overlapped nodes
この解決案として AP 協調型データ送信スケジューリ
Other nodes
Other nodes
AP1
ングを提案した.
今後は AP 協調型スケジューリングの問題点や改善
AP2
点について更に考察を重ね,明確な提案方式として確
Overlapped nodes
Other nodes
Other nodes
AP1
AP2
立していく.更に性能評価を行うことで本提案に有用
性があるのかないのか,どのような場合に有用である
AP非協調処理期間
のか,効果をあげるにはどのような条件が必要になる
のかといった点について考察していく.
また,現在上りデータ処理期間ではIEEE 802.11 DCF
AP協調処理期間
Time
による通信を採用しているが,既存の研究[8][9]でこの方
式はマルチホップ通信に適さないことがわかっている
ため,更なるネットワークの性能向上を目指して上り
Fig.16 下りデータ処理期間の分割
データ処理期間の通信方式についても検討していく必
AP非協調処理期間はAPが自律的にデータを送信す
要がある.
る期間であるとし,オーバーラップエリアを考慮しな
参考文献
い.この期間送信されるデータはオーバーラップノー
ド群宛てのでなく,衝突が発生しても影響はないため
である.その後改めてオーバーラップノードに対して
データ送信を行う AP 協調処理期間を設けることで全
ての端末にデタを送信する.Fig.16 に下りデータ処理
期間の簡易シーケンス図を示す.
このような期間切り替えを行うため,AP は下りデ
ータ処理期間に入る前に送信予定データ数・サイズ等
の情報を隣接 AP で共有して各期間長を決定する必要
がある.それぞれの期間の開始タイミングをそろえる
ことで隣接サービスエリアに与える影響を抑えた通信
を可能にする.
6. まとめ
本稿では非対称無線マルチホップアクセスネットワ
ーク(AWiMA Net)をベースに,上りデータと下りデ
ータの通信方式が異なる時分割 AWiMA Net を提案し
た.AP と端末のデータ送信範囲に差を持たせること
で上りデータはマルチホップ通信,下りデータはシン
グルホップ通信を採用し,端末にかかるデータ中継負
荷やデータ中継遅延を抑えた.インターネットアクセ
スを想定したコンピュータシミュレーションにより評
価を行い,遅延時間・スループット・パケットドロッ
プの 3 点について性能比較を行った.これにより,上
り/下り両データにマルチホップ通信を採用した従来
のマルチホップ無線アクセスネットワークに比べて時
分割 AWiMA Net で性能が改善されたことを確認した.
また複数APによる時分割AWiMA Netにおいて発生
しうる問題として,オーバーラップエリアを挙げて考
1) HOT SPOT, http://www.hotspot.ne.jp/
2) Free Spot, http://www.freespot.com/
3) Yasushi Yamamoto et al, “Multi-hop Radio Access
Cellular Concept for Fourth-Generation Mobile
Communications System”, PIMRC, 2002
4) Takeo Ohseki et al, “MULTIHOP MOBILE
COMMUNICATIONS SYSTEM ADOPTING FIXED
RELAY STATIONS AND ITS TIME SLOT
ALLOCATION SCHEMES”, PIMRC, 2006
5) Long Le et al, “Multi-hop Cellular Networks: Potential
Gains, Research Challenges, and a Resource Allocation
Framework”, IEEE Communication Magazine, September
2007, pp.66-73
6) Ian F. Akyildiz et al, “A Survey on Wireless Mesh
Networks”, IEEE Radio Communications, September 2005
7) John Bicket et al, “Architecture and Evaluation of an
Unplanned 802.11b Mesh Network”, MobiCom, 2005
8) Ryugo Nishii et al, ”A Study of Mesh-Network with
Zone Structure using Distance between Access Points and
Mobile Nodes,” IPSJ Technical report, MBL-36, pp.77-84,
Feb., 2006
9) Aiko Akashi et al, “TDD Introduction and Effect to an
Asymmetrical Wireless Multi-Hop Network”, DICOMO,
2007
10) Scalable
Network
Technologies,
http://www.qualnet.com/
11) Shugong Xu et al, ”Does the IEEE 802.11 MAC
protocol Work Well in Multihop Wireless Ad Hoc
Network?”, IEEE Communication Magazine, 2001,
pp.130-137
12) Saikat Ray et al, “RTS/CTS included Congestion in
Ad-Hoc Wireless LANs”, IEEE WCNC, 2003
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