第2章 災害基本想定

第2章 災害基本想定
特別防災区域では、大量の石油類、高圧ガス、毒物・劇物その他の危険性物質が、種々の装置、設備、
施設等で貯蔵、取扱い、処理されているため、火災、爆発、漏洩若しくは流出又は地震、津波その他の
異常な現象により重大かつ特殊な災害が発生するおそれがある。このため、災害の発生及び拡大の防止
のため各種の施策が総合的に講じられている。これらの施策が、災害の拡大防止に有効かつ的確に対応
できるものとするため、あらかじめ災害の想定を行い、これに対応する体制の整備を図ることは、重要
かつ不可欠なものである。
したがって、関係防災機関又は特定事業所は、コンビナート施設に対して、個々の特性に応じた災害
想定(起こりうる最大規模の災害)を行うとともに、防災体制、防災資機材、応急措置等の施策を適宜
見直し・整備を図るものとする。
第1項 災害想定の考え方
特別防災地域等の災害想定は、原則としてコンビナート施設における最終的な災害態様(火災、
爆発、漏洩、流出、破損、異常反応等)について行えば足りるものとし、同一地区(特定事業所)
での同時多発はないことを前提とする。しかしながら、地震、津波等の自然現象によって生じる災
害は、同時多発も予想されることから、個々の特別防災区域の実態にかんがみ、必要に応じて災害
想定を行うものとする。
また、コンビナート施設に係る災害想定は、個々の施設が個別法令等により保安規制が実施され
ていることから、所要の安全水準が確保されていることを前提として、そのコンビナート施設にお
いて可能性のある災害を想定し、ETA(Event Tree Analysis)法等を採用するなどにより、
確率的な概念を導入して社会的な要求を満たせるような安全水準(災害の発生頻度)を基に災害想
定を行うことが適当である。
第2項 想定される災害
1 通常時に想定される災害
コンビナート施設において想定される災害には、次の(1)∼(8)に掲げる事象が考えられ
るが、これらは一般的なものであり、個々のコンビナート施設で災害想定を行う場合は、取扱う
物質、貯蔵・取扱・処理方法、運転形態等により異なるものであるから、それぞれの施設の実態
に即した想定を行う必要がある。
(1) 石油精製プラント
プラントは、十分な強度設計がなされ、かつ、緊急遮断装置、インターロック装置等
種々の安全対策が施されていることにより、プラント本体が損傷する可能性はほとんどな
いため、一般的には、石油等及び可燃性ガスの少量漏洩による火災又は爆発が想定される。
プラントによっては、毒性ガスの漏洩又は爆風圧の影響が問題となるような爆発やファイ
ヤーボールが発生する可能性も考慮する必要がある。
(2) 石油化学プラント
石油精製プラントと同様な安全対策が施されているため、一般的には、可燃性ガスの少
量漏洩(拡散)による火災又は爆発が想定される。しかし、プラントで処理する危険物の
種類、量処理状況等によっては、爆風圧の影響が問題となるような爆発やファイヤーボー
ルの可能性も考慮する必要がある。また、プラントの種類によっては石油等の漏洩火災や
毒性ガスの漏洩も考えられるので、個々のプラントの特性を考慮する必要がある。
(3) 石油タンク
フローティングルーフタンクでは、浮屋根シール部で漏洩が発生し、何らかの発火源に
よりタンク火災となる場合や、底板、配管等の損傷により漏洩が発生し、防油堤(仕切
堤)内で火災となる場合が想定される。
コーンルーフタンク(含:ドームルーフタンク)では、底板や配管等の損傷による漏洩
火災の他に、内部圧力の増加により屋根が破壊されてタンク火災になることも予想される。
また、石油タンクやその附属設備から石油類が漏洩した場合、外部への流出は極力阻止
できる対策が講じられているが、流出の形態によっては、海域等への流出・拡散も予想さ
れる。
なお、火災に至る可能性については、タンク内容物(危険物)の性状等により異なり引
火点の高い物質は、漏洩しても火災となる危険性は少ないことが予想される。
(4) 可燃性ガスタンク
タンク本体の強度はもとより、各種の安全対策が講じられているため、想定される災害
としては、可燃性ガスの少量漏洩(拡散)による火災又は爆発となる。低温で貯蔵してい
るタンクの場合は、タンク火災や流出火災のような液面火災も想定される。
(5) 毒性ガスタンク
タンク本体の強度はもとより、各種の安全対策が講じられているため、一般的には、配
管の損傷や弁の誤操作などによる少量の漏洩、拡散が予想される。
(6) 移送、輸送施設
石油類、可燃性ガス等の移送、輸送施設(パイプライン、タンク車積場、タンクローリ
積場等)では、取扱物質によって、可燃性液体又は可燃性ガスの漏洩(拡散)による火災
が想定される。また、地下埋設のパイプラインでは、接続部への損傷等により地中への漏
洩、拡散が予想される。
(7) タンクローリ、タンク車等
交通事故等によるタンク破損等による漏洩、火災又は爆発が想定される。
(8) タンカー等の船舶
主として桟橋へ着桟し、荷降し中又は荷積み中における石油の漏洩、さらに火災が想定
される。
2 地震時に想定される災害
コンビナート地域内に所在する危険物や高圧ガス等の重要な設備には、所要の安全設計及び対
策が施されているため、岩国・大竹地区で発生するであろう一般的な地震動(施設等の共用期間
中に1∼2度程度発生する確率をもつ地震動)では、重大な被害が生じることは考えにくい。し
たがって、ここでは、過去の事故事例からコンビナート区域内に被害が生じる可能性がある震度
5以上の地震の発生確率で災害を想定することとする。しかしながら、発生率は低いものの直下
型地震又は海溝型巨大地震のような高レベルの地震動をも併せて考慮するため、災害の発生確率
は、阪神・淡路大震災の被害状況を参考に想定するものとする。
地震時に想定される災害は、最終的には漏洩、火災、爆発等であり、前記(1)∼(8)の事
象が想定されるが、その経過において特徴的なものとしては、次の事項が考えられるほか、地震
によりプラントに設置されている各種の安全装置や設備の機能が部分的に損なわれていることも
想定する必要がある。
(1) 地震動による災害
地震時の強烈な揺れにより、プラント等が部分的に損傷し、損傷箇所からの漏洩や火災
等の発生が想定される。例えば、危険物屋外タンク貯蔵所のフローティングルーフタンク
においては、地震動によるスロッシング(液面揺動)のため、浮屋根シール部で漏洩が発
生し浮屋根と側板との接触(衝撃)によりタンク火災となる場合や、タンク上部から石油
類が溢流し、何らかの点火源により防液堤内での火災も想定される。
更に、桟橋に接岸中の船舶においては、地震動による船舶と桟橋の接触により船舶の一
部が損傷し、石油類の漏洩、さらには火災が想定される。
(2) 液状化による災害
海岸埋立地に形成されているコンビナートや、これと類似する地盤に設置されているプ
ラント等においては、地震時に発生する地盤の液状化により、タンク等の傾きや変形等が
発生し、これがもとで配管等から危険物等が漏洩し、何らかの発火源により火災となるこ
とが想定される。また、危険物タンクや高圧ガスタンクの防油堤(防液堤)に亀裂が発生
し外部への危険物等の漏洩も考慮する必要がある。
なお、災害想定を行う場合は、
「石油コンビナートの防災アセスメント策定指針」
(平成 13 年 3 月消
防庁特殊災害室)を参考として実施することが望ましいが、この指針以外にも同等以上の手法等があれ
ば、それを活用してもさしつかえないものとする。