これだけは知っておきたい! 国際財務報告基準Q&A

これだけは知っておきたい! 国際財務報告基準Q&A
KeyWord9 投資不動産の範囲と評価
Q 投資不動産の会計処理の特徴は何ですか。日本にはこのような基準はあるのですか。
A
1.「投資不動産」の範囲
不動産を含む有形固定資産については IAS16 号「固定資産」で扱われていますが,投資不動
産については IAS40 号「投資不動産」において特別な取扱いが規定されています。ここでいう投
資不動産とは,賃貸収益若しくは資本増価又はその両方を目的として保有する不動産を指して
おり,企業によって保有されるその他の資産とはかなりの程度独立したキャッシュ・フローを生
み出すものとされています。したがって,物品の製造あるいは販売又はサービスの提供,ある
いは経営管理目的のために使用される自己使用の不動産,通常の営業過程において販売目
的で保有される不動産以外の不動産ということになります。
投資不動産の対象として,具体的には,以下の例が挙げられています。
投資不動産の例
① 短期間の販売目的ではなく,長期的な資本増価のために保有される土地
② 将来の用途を現在未定のまま保有する土地
③ オペレーティング・リースにより,リースするために保有される土地
④ 現在は借り手がないが,オペレーティング・リースにより,リースするために保有される土地
ただし,以下は投資不動産ではないものとして例示されています。
投資不動産に含まれない例
① 通常の営業過程における販売のため保有している,又はそのような販売を目的として建設中,若
しくは開発中の不動産
② 第三者のために建設中又は開発中の不動産
③ 自己使用不動産で,自己使用不動産として将来も使用するために保有する不動産
④ 将来に投資不動産として使用する目的で建設中又は開発中の不動産
⑤ ファイナンス・リースの下で他の企業にリースされる不動産
一般的には,賃貸目的で保有するオフィスビル等は投資不動産に該当し,IAS40 号が適用され
ることになります。しかし,自社で所有し運営するホテル等は,顧客に対するサービスが取引の
全体のなかで重要な割合を占めるため,自己使用不動産と判断されるため,IAS40 号の対象と
はなりません。
2.「投資不動産」の会計処理
IAS40 号においては,このような投資不動産は,認識時点ではその取得原価によって測定され
ます。取引費用も当初の測定に含められます。
しかし,当初の認識後においては,企業は「公正価値モデル」もしくは「原価モデル」のどちらか
を会計方針として選択し,投資不動産の全てに適用しなくてはなりません。ここで「公正価値」と
は,取引の知識のある自発的な当事者の間で独立の第三者間取引条件により資産が交換さ
れる価額を言います。日本における不動産取引においてこれに該当するものは不動産鑑定士
による鑑定評価額,近傍類地における直近の取引価額,等があると考えられます。
企業が「公正価値モデル」を選択した場合には,所有する全ての投資不動産を公正価値で評
価しなくてはなりません。公正価値の変動から生ずる差損益は,発生した期の損益に含められ
ます。この際に使用される公正価値は貸借対照表日現在の市場の状況を反映するものでなく
てはなりません。
一方,「原価モデル」を選択した場合には,所有する投資不動産の全てを IAS 第 16 号「有形固
定資産」に従って,取得原価から減価償却累計額及び減損損累計額を控除した価額で測定し
なければなりません。しかし,「原価モデル」を採用した場合にも,投資不動産の公正価値を注
記する必要があります。
IAS40 号においては,一度,選択適用した後のモデルの変更については,その変更が企業の
財務諸表に,取引,その他の事象又は状況のより適切な表示をもたらす場合のみに行わなけ
ればなりません。一般に「公正価値モデル」から「原価モデル」への変更がより適切な表示をも
たらす可能性は非常に低いとされています。
投資不動産の会計処理
原価モデル
公正価値モデル
認識時の測定
取得原価
取得原価
認識後の測定及
取得原価から減価償却累計額及び減損損累計
公正価値により評価し,差額
び評価
額を控除した価額
は損益計上
3.日本基準での取扱い
日本基準においては,財務諸表規則第 33 条に,「投資不動産」は「投資の目的で所有する土
地,建物その他の不動産をいう。」とされ,投資その他の資産の部において表示することになっ
ています。ここでは,投資不動産について具体的な例が示されていませんが,一般的には,会
社の主たる事業目的以外で,賃貸収益若しくは資本増価などを目的として長期に保有される不
動産などが含まれると考えられます。
なお,このような投資不動産については,企業会計審議会が「固定資産の減損に係る会計基
準の設定に関する意見書」(2002 年8月9日)において検討を行ったものの,他の固定資産と同
様に処理をすることが適当であるとしましたので,IAS40 号における「原価モデル」と同様に,取
得原価から減価償却累計額及び減損損累計額を控除した価額で測定されます。また,公正価
額の注記についても,同意見書においては議論の要点を示すに止め,今後の課題とすることと
したため,IAS40 号のように公正価額の注記は要求されていません。
しかしながら,その後,企業会計基準委員会(ASBJ)が「投資不動産専門委員会」を設置し,投
資不動産の会計上の取り扱いについてコンバージェンスの観点から検討を始めました。2008
年前半に会計基準の公開草案を公表,同年末ごろに会計基準を公表する予定となっていま
す。
この Q&A は、『週刊 経営財務』 2863 号(2008 年 03 月 31 日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した
ものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、
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