東京大学農学部公開セミナー 第 37 回 生物情報を活用した新しい農学研究 ― インフォマティクスの身近な話題への応用 ― (講演要旨集) ゲノム育種によりトラフグの優良品種作出をめざす 附属水産実験所 教 授 鈴木 譲 植物の環境ストレス応答機構の解明と分子育種への応用 応用生命化学専攻 教 授 篠崎 和子 植物医科学の展開と生物情報の活用 ― 始まった植物医師養成と植物病院ネットワーク構築 ― 生産・環境生物学専攻 教 授 難波 成任 アグリバイオインフォマティクスとは ― 教育研究プログラムの活動について ― 応用生命工学専攻 教 授 日 場 主 共 時 所 催 催 清水 謙多郎 2009 年 11 月 28 日(土)13:30~16:30 東京大学弥生講堂・一条ホール 東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 (財)農学会 目 次 ゲノム育種によりトラフグの優良品種作出をめざす ………… 附属水産実験所 教 授 鈴 木 1 譲 トラフグは英語でも fugu で通用する。Fugu Genome Project により全ゲノム が解読されて一躍有名になったからである。この魚は東アジアにしか生息して おらず、強い毒をもつことから海外ではあまり食用にされないが、日本では高 級魚であり、重要な養殖対象種でもある。そのためゲノム情報を水産研究に活 用できるのはほぼ日本に限られている。しかし継代飼育と遺伝情報の分析の両 方ができる施設は数えるほどしかなく、その先頭を走っているのが水産実験所 である。ここではゲノム情報を利用して有用品種を作り出そうというトラフグ のゲノム育種研究の現状を紹介する。 植物の環境ストレス応答機構の解明と分子育種への応用 …… 応用生命化学専攻 教 授 篠 崎 9 和 子 植物は干ばつや塩害、低温や高温等の劣悪環境状態になると、種々の耐性遺 伝子群を働かせることで環境に適応して生存している。これらの耐性遺伝子群 の働きを調節している転写因子の遺伝子を突き止めた。この遺伝子を改変した 植物は、これまでにない高いレベルの環境ストレス耐性を示した。この技術は 種々の作物に応用できることが示され、地球規模の環境劣化に対応できる作物 の開発への応用が期待される。植物の環境ストレス耐性の獲得機構の解明を目 指した基礎研究とこれらの成果を利用した環境耐性作物開発を目指す応用研究 を紹介する。 植物医科学の展開と生物情報の活用 ― 始まった植物医師養成と植物病院ネットワーク構築 ― ……… 15 生産・環境生物学専攻 教 授 難 波 成 任 植物病によって毎年食糧の1/3が失われており、これは飢餓人口を養う量に匹敵 する。社会経済のグローバル化に伴い、食の安全や食料確保に対する関心は一段 と高まり、増大する輸入農作物と共に流入し、国内生産の障害となる植物病防除 体制の強化・充実が迫られている。植物病の発生源は家庭菜園や市民農園であるこ とも多い。基礎研究に基づく「知」と、臨床現場で求められる「知」の乖離を埋 めるツールとして、生物情報は植物医科学の臨床的展開に欠かせない。先端技術 を駆使して得られた生物情報の活用により、植物病の原因を短時間で判定する技 術開発例のほか、いよいよ始まった植物医師の養成や植物病院ネットワークの展 望について紹介する。 i アグリバイオインフォマティクスとは ― 教育研究プログラムの活動について ― ……………………… 22 応用生命工学専攻 教 授 清 水 謙多郎 アグリバイオインフォマティクスとは、 生命 現象 を解明 する ための 情報 科学で あるバイオインフォマティクスと、農学生命科学(アグリバイオ)の実践的研究の 融合である。農学生命科学研究科では、現在実施されているアグリバイオインフ ォマティクス教育研究プログラムの活動について紹介する。 ii ゲノム育種によりトラフグの優良品種作出をめざす 附属水産実験所 教 授 鈴 木 譲 トラフグ Takifugu ruburipes はフグ目、フグ科に属 す、全長 70cm にもなる大型の魚で、北海道以南の日 本海・太平洋、それに東シナ海、黄海に分布する。フ グ類の多くがテトロドトキシンという強力な毒を持っ ているが、適切な処理により食べられる種類も多く、 中でもトラフグが最高級とされている。肝臓と卵巣は 猛毒だが、精巣は無毒で、白子として高値で取引され る。天然資源が急速に減少する中で、西日本を中心に 養殖も盛んで、年間 4 千トン以上生産される。高級魚 で単価も高いが、中国の大規模施設で養殖されたトラ フグの輸入により、日本の養殖業が圧迫されているという実態もあり、成長が良い、病気に 強いなどの優良は品種に対する期待が大きい。このような水産上極めて重要なトラフグの全 ゲノムが解読された。この願ってもないチャンスを生かし、その情報を利用しつつ新品種作 出をめざそうとしているのが水産実験所なのである。 1.なぜトラフグゲノムなのか ゲノムとはそれぞれの生物が持っている遺伝情報のすべてのことであり、生命の設計図と いうことができる。ゲノムの実態は染色体に含まれる DNA であり、DNA を構成する 4 種類 の塩基、すなわちアデニン(A) 、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)がどのような 順番で並んでいるかでそれぞれの生物特有の体や機能が決定される。そのゲノムの情報をす べて読み解いてしまおうというのがゲノムプロジェクトであり、ヒトに続く 2 番目の脊椎動 物としてトラフグが選ばれ、2002 年に解読結果が公表された。ではなぜトラフグだったのだ ろうか。フグのゲノムサイズが脊椎動物で最小だからである。ゲノムサイズは動物種によっ て大きく異なり、ヒトやマウスでは約 30 億 bp(塩基対) 、ゼブラフィッシュで 17 億 bp、メ ダカで 8 億 bp なのに対し、フグでは 4 億 bp しかない。この中に含まれる遺伝子の数につい ては動物種による違いは大きくないので、遺伝子ではない、どのような意味があるのかよく 分からない配列部分がトラフグでは小さい。そのことからトラフグはモデル生物としてでは なく、モデルゲノムをもつ生物として選ばれ、比較ゲノム研究のためにそのゲノム情報が解 読された。それをありがたく利用させていただいているのが日本の研究者たちである。 遺伝子はタンパク質の設計図であり、ゲノム上に点在している。タンパク質は体を形づく る筋肉の成分だったり、細菌を攻撃する抗体だったり、記憶と関係する伝達物質だったり、 千差万別である。タンパク質は 20 種類のアミノ酸が鎖のように連なって、それが複雑に折り - 1 - たたまれてできている。長さ、形の異なる数万種類にも及ぶタンパク質の設計図を手に入れ たことで、様々な研究分野の発展が期待できるのである。 ゲノムプロジェクト進行中という情報を得て、研究材料としてトラフグを水産実験所に導 入し始めたのは 2001 年初頭であった。現在では、一部で他魚種も用いているが、ほぼトラフ グに集中している。研究内容は大きく分けて 2 つある。免疫学と遺伝育種学である。トラフ グに移行してからの免疫研究の進展は目覚ましく、哺乳類の借り物でブラックボックスだっ た免疫応答の核心部分を明らかにすることができた。一方の遺伝育種研究ではフグでなけれ ばできない新しい分野を切り開くこととなった。ゲノムを解析しつつ世代交代を進めて有用 な品種を作り出す手法、ゲノム育種研究である。 2.トラフグゲノムで飛躍をとげた魚類免疫学 病原生物による攻撃から身を守る防衛システムが免疫系、中でも病原体の種類ごとに特異 的に反応する抗体を作り、2 度目の攻撃にすばやく応答できるための記憶を伴う適応(獲得) 免疫系は、病気の予防のためのワクチンにも結び付く重要なシステムである。ところが、病 原体に特異的な抗体がどのような過程を経て作られるのか、魚類の免疫応答システムはほと んど分かっていなかった。免疫系には多種多様なタンパク質が関わるが、その多くは生体内 にごく微量しか含まれておらず、その研究は困難である。しかし、遺伝子から攻めれば PCR を用いて増幅することができ、その配列を決定、そしてタンパク質の構造を明らかにするこ とができる。哺乳類の免疫関連タンパク質に関する遺伝子と類似の配列をゲノム上から探し 出すことにより、様々な因子を一気に明らかにすることができたのである。 生体が病原細菌の侵入を受けると、マクロファージなどの抗原提示細胞が細菌を取り込み、 菌の断片をヘルパーT 細胞というリンパ球に提示する。これにより活性化したヘルパーT 細 胞が B 細胞を刺激すると、B 細胞はプラズマ細胞へと変化して菌に特異的に結合する抗体を 産生するようになる。病原体がウイルスの場合、ヘルパーT 細胞により刺激を受けた細胞障 害性 T 細胞がウイルスに侵された細胞を攻撃 し、ウイルスの増殖拡散を防ぐ。T 細胞、B 細 胞の一部は記憶細胞として残り、次に同じ病原 体の攻撃を受けた時には素早く応答するよう になる。しかし魚類では T 細胞と B 細胞を区 別することすらできなかったのである。 適応免疫の中で最も中心的な役割を負うヘ ルパーT 細胞はその表面に CD4 と呼ばれるタ ンパク質を発現していることが哺乳類では知 られている。その CD4 遺伝子と似た配列をト 図1 マーカータンパク質の模式図。T 細胞 ラフグゲノムの中から探しだすことにより、魚 の CD3、ヘルパーT 細胞の CD4、細 類で初めてヘルパーT 細胞を明らかにした。T 胞障害性 T 細胞の CD8 のすべてが魚 細胞共通マーカーである CD3、細胞障害性 T 類で初めてトラフグで解明された。 - 2 - 細胞のマーカーである CD8 も明らかにし、さらにはそうしたマーカーをもつ細胞を集めて機 能を解析する手法も確立した(図1) 。 T 細胞に敵の情報を提示する抗原提示細胞も B7 というマーカーを利用して明らかにし、 B7 分子が T 細胞活性化に関わっていることを立証できた。こうした細胞間での活性化にはサ イトカインと呼ばれる分子群が関わっている。IL-2、IL-12、IL-15 など、いくつものサイト カインを魚類で初めて明らかにすることができた。まさに、適応免疫の核心部分がトラフグ ゲノム情報により解明されてきたのである。現在、そうした情報を利用しながらワクチン処 理の効率化など、応用も見据えた研究にも発展させている。 3.トラフグゲノム情報の育種研究への活用 ゲノムはタンパク質の設計図としての意味を持つことから、哺乳類での情報をもとにこれ まで明らかになっていなかったタンパク質を探索しようとする研究には確かに有効である。 しかし、それだけではゲノム情報を既知のタンパク質にしか活用することしかできない。何 をやっているのか、どのような意味を持つのか分からない遺伝子はまだ多数残されている。 そうした中には優れた形質を支配するものも含まれているかもしれない。ゲノムは遺伝情報 のすべてなのだから、遺伝学に応用することにより、遺伝子の未知の機能を解明し、有効利 用して行くことにつながるはずである。我々はそのために必須のツールである連鎖地図を作 製するとともに、解析家系としてトラフグとクサフグの交雑第 2 世代を作出することで、有 用形質を支配する遺伝子の特定、そしてその先の新品種作出への道をめざしている。 (1)トラフグ連鎖地図を作る 全ゲノムが解読されているトラフグであるが、実はそのゲノム情報は 7000 もの断片配列 (Scaffold と呼ばれる)の集合である。病気に強い、成長が早いといった優良形質を支配す る遺伝子を探そうにも、4 億にものぼる塩基配列のすべてを個体ごとに比較することは不可 能である。そこで必要となるのは連鎖地図である。作製法の詳細は略すが、各断片配列に目 印となるマーカーを設定し、他のマーカーとの相対的な位置関係を解析することで連鎖地図 を作製した。図2は、卵子形成時の組み換え現象に基づく 1219 マーカーからなる連鎖地図で ある。LG は染色体に相当する連鎖群のことでトラフグの染色体数に一致する 22 の地図があ る。 連鎖群ごとに右にマーカー名、 左に相対的な距離を表してある。 これにより 696 の scaffold の位置を決定することができ、その配列を合計すると全ゲノムの約 86%をカバーするものと なった。この数値は実験魚としてもメダカの 89%にも匹敵し、水産研究には十分な精度をも つものといえる。 各染色体上の遺伝子の分布を、同じくゲノムが解読されているゼブラフィッシュ、メダカ、 ミドリフグと比較することで、魚類における染色体の進化過程が明らかになった。トラフグ とミドリフグとの間では 18 本の染色体が 1 対 1 の関係にあり、進化の過程で良く保存されて いたが、一部の染色体で分裂や染色体同士の融合が起こったものと推定された。メダカとの 間でも染色体構造がかなり保たれていたが、ゼブラフィッシュとではその関係が大きく崩れ、 染色体構造の変化が大きかったことがうかがえた。系統進化的にみると、メダカとフグとの - 3 - 間にはブリ、マダイなど多くの養殖対象魚種がある。優良形質に関するフグでの研究成果を メダカゲノムと参照させると他の養殖魚種へと応用する道が開けるものと考えている。 図 2 卵子形成時の組み換え現象に基づく高密度の連鎖地図 (2)解析のための種間交雑 トラフグは養殖が盛んだが、卵を採る親魚は基本的に天然に依存している。言い換えると、 成長が良い、病気に強いといった家系を作る努力がほとんどなされていないのが実情である。 遺伝学は家系間の交配がスタートとなるので、これは致命的である。そこで考えたのが種間 交雑である。Takifugu 属を掛け合わせた交雑第 1 世代(F1)には生殖能力があり、次世代の 作出が可能なことは長崎県水産試験場の宮木博士により 1990 年ころに明らかにされていた。 そこで、我々は重要水産対象魚種のトラフグと、15cm ほどにしかならず毒性の強いクサフグ とを掛け合わせ、その F1 とトラフグとの戻し交配(BC)世代、F1 同士の交配による F2 世 代を作出し(図3) 、様々な形質の種間差を支配する遺伝子の探索に当たることにした。 - 4 - 図3 トラフグ×クサフグの種間交雑 F1 世代同士の交配による F2 世代の作出 トラフグ、クサフグ間の F2 個体は大きさ、模様がそれぞれトラフグ似、クサフグ似に分か れてくると予想される。F2 で大型個体、F2 で小型個体について、各染色体がトラフグ由来 か、クサフグ由来かを調べた時、ある染色体のある部分がトラフグ由来なら大型、クサフグ 由来なら小型ということが分かったとすると、大きさを決める遺伝子は染色体のそのあたり にあるはずである(図4) 。トラフグの場合、ゲノム情報が分かっているので、その領域にど のような遺伝子が分布しているかが分かる。候補となる遺伝子について、さらに機能を調べ ることで、遺伝子を特定できるはずである。 図4 トラフグとクサフグを掛け合わせた F2 で、ある染色体の矢印部分がトラフグ由来だと 大型、クサフグ由来だと小型なら、その付近に大きさを支配する遺伝子が存在する。 トラフグとクサフグとの違いを表1にまとめた。大きさ以外にも、寄生虫 - 5 - (Heterobothurium okamotoi)に強いかどうか、攻撃性をもつかどうかなど、様々な違いが ある。そしてその中には育種の目標となる形質も含まれているのである。これまでの解析の 結果、体の大きさ、寄生虫の大きさ、付着した寄生虫の成長、さらにはフグの行動様式を支 配する DNA 領域が明らかとなった。行動様式の種間差が遺伝的に支配されていることも分 かっている。各領域に含まれる遺伝子もすでに把握している。現在、さらに絞り込み、育種 の足がかりを得る努力をしているところである。 表1 トラフグとクサフグとの違い (3)性決定遺伝子 トラフグの卵巣は猛毒で、通常は食用にされない。一方、 精巣は極めて美味で珍重される。そのため雄が雌より高値で 取引されるが、外見での雌雄の判別は難しい。雌雄判別がで きれば雄を選択的に養殖することもできるし、雌雄の産み分 けにもつなげることができる。そのため、この魚の性決定機 構を知ることも重要な研究テーマである。 哺乳類の場合、通常の染色体の他に性染色体がある。X 染 色体とそれより小型の Y 染色体である。雌は X を 2 本、雄 は X と Y をもち、精子は X または Y を 1 本もつ。卵はすべ て X だから、受精卵は XX と XY とが半々になり性比はほぼ 1 対 1 となる。一方、魚では哺乳類の性染色体のような形態 的な違いは認められない。そして性決定機構は魚種により異 なり、性転換する魚も珍しくない。性決定遺伝子はメダカで のみ特定されており、DMY という遺伝子をもつのが雄、も たないのが雌となり、遺伝的に性が決定される。 トラフグではどのように性が決定されるのだろうか。優良 形質の場合と同様、雄か雌かという表現系と連鎖するゲノム 図5 トラフグの性決定遺伝 領域を探索した結果、LG19 という染色体の一部に性と極め 子座(SDY)。性決定 て高い相関を示す領域が見出された(図5)。これにより、 遺伝子はこの近傍に ある。 - 6 - 雌親魚、雄親魚におけるその領域の情報が得られればその子供の性は判別できるようになっ た。その領域に存在する遺伝子はゲノム配列情報からすべて把握できている。現在、その中 のどれが性決定に関わっているのか、研究を進めている。そしてそれをすべて雄にする技術 に発展させたいと考えている。もちろん、雄が高価であるからであるが、優良品種を作った 際、雄しか出荷しなければ次の世代を作ることができず、品種の拡散を防ぐことにもつなが るのである。 ゲノムという最も基礎的な生物情報を得ることができたトラフグを使って有用形質を支配 する遺伝子を探索し、育種につなげようという本研究はまだ始まったばかりである。性成熟 に 3 年かかるトラフグだからそう簡単には研究が進まないが、東大ブランドのフグ品種が生 まれる日を夢見て研究を進めている。 - 7 - プロフィール す ず き ゆずる 鈴木 譲 所 属 附属水産実験所 略 歴 1971 年 東 京 大 学 農 学 部 水 産 学 科 1976 年 東 京 大 学 大 学 院 農 学 系 研 究 科 水 産 学 専 門 課 程 (農 学 博 士 ) 1976 年 東 京 大 学 農 学 部 助 手 1989 年 東 京 大 学 農 学 部 助 教 授 2000 年 東 京 大 学 大 学 院 農 学 生 命 科 学 研 究 科 教 授 主な研究活動 大 学 院 生 時 代 か ら 魚 類 免 疫 学 研 究 に 携 わ っ て き た 。体 表 粘 液 中 の 抗 病 性 因 子 、内 分 泌 系 に よ る 免 疫 機 能 の 制 御 、仔 稚 魚 の 防 御 機 構 な ど 、ど ち ら か と い え ば 周 辺 部 か ら 免 疫 に 関 わ っ て い た 。 2000 年 に 水 産 実 験 所 に 異 動 し て か ら は 、全 ゲ ノ ム が 解 読 さ れ た ト ラ フ グ を 材 料 と す る よ う に な り 、免 疫 の 核 心 部 分 に 迫 る 研 究 が で き る よ う に な っ た 。同 時 に 飼 育 設 備・技 術 を 活 用 し て 、ゲ ノム情報を育種に生かす研究にも携わっている。 主な著書 (1) Sugamata,R., Suetake,H., Kikuchi,K., and Suzuki,Y. (2009): Teleost B7s expressed on monocytes regulate T cell responses. J. Immunol., 182, 6799-6806. (2) Kikuchi,K., Kai,W., Hosokawa,A., Mizuno,N., Suetake,H., Asahina,K., and Suzuki,Y. (2007): The sex-determining locus in the tiger pufferfish, Takifugu rubripes. Genetics. 175, 2039–2042. (3) Hamuro,K., Suetake,H., Saha,N.R., Kikuchi,K., and Suzuki,Y. (2007): A teleost polymeric Ig receptor exhibiting two Ig-like domains transports tetrameric IgM into the skin. J. Immunol. 178, 5682–5689. (4) Kai,W., Kikuchi,K., Fujita,M., Suetake,H., Yoshiura,Y., Ototake,M., Fujiwara,A., Venkatesh,B., Miyaki,K., and Suzuki,Y. (2005): A genetic linkage map for the tiger pufferfish, Takifugu rubripes. Genetics, 171, 227–238. (5) Suetake,H., Araki,K., and Suzuki,Y. (2004): Cloning, expression, and characterization of fugu CD4, the first ectothermic animal CD4. Immunogentics, 56, 368-374. - 8 - 植物の環境ストレス応答機構の解明と 分子育種への応用 応用生命化学専攻 教 授 篠 崎 和 子 植 物 は 劣 悪 環 境 状 態 に な る と 、多 数 の 耐 性 遺 伝 子 群 を 働 か せ る こ と に よ り 劣 悪 環 境 に 適 応 し て い ま す 。モ デ ル 植 物 の シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ を 用 い て 、こ れ ら の環境耐性遺伝子群の働きを調節している転写因子の遺伝子群を突き止め ました。これらの転写因子の遺伝子をシロイヌナズナ中で過剰発現すると、 得られた遺伝子組換え体はこれまでにない高いレベルの乾燥や凍結等の環 境 ス ト レ ス 耐 性 を 示 し ま し た 。さ ら に 、こ の 技 術 は イ ネ や ダ イ ズ な ど 多 く の 作 物 に 応 用 で き る こ と が 示 さ れ 、世界的環境劣化に対応できる作物開発への応 用が期待されます。 1 . 地球 レベ ルの 環 境劣 化と 環 境ス トレ ス 耐性 作物 の 開発 近年の温暖化等による地球規模の環境劣化や開発途上地域での爆発的な 人 口 増 加 な ど に よ り 、近 い 将 来 、食 料 の 安 定 的 な 供 給 は 人 類 に と っ て 最 も 大 き な 課 題 に な る と 考 え ら れ て い ま す 。こ の た め 、乾 燥 地 帯 や 塩 類 集 積 地 等 の 劣 悪 環 境 で も 多 く の 収 穫 が 望 め る 作 物 の 開 発 は 、食 料 の 安 定 供 給 に 大 き く 貢 献 す る と 考 え ら れ ま す 。 遺 伝 子 組 換 え 技 術 を 用 い た 農 薬耐 性 や病 害虫 耐 性 作 物は、今日までにダイズやトウモロコシを始めとする種々の作物で開発・実用 化され、その作付面積は年々拡大しています。し か し 、干 ば つ 等 の 劣 悪 な 環 境 に 耐 え る 作 物 の 開 発 で は 、植 物 の 持 つ 環 境 ス ト レ ス に 対 す る 耐 性 機 構 が 複 雑 な こ と か ら 開 発 が 遅 れ て い る の が 現 状 で し た 。し か し 、最 近 、種 々 の 植 物 の 遺 伝 子 が ゲ ノ ム レ ベ ル で 明 ら か に な り 、植 物 の 持 つ 環 境 ス ト レ ス 耐 性 機 構 が 分 子 レ ベ ル で 解 明 さ れ る に つ れ て 、種 々 の 環 境 ス ト レ ス 耐 性 作 物 の 開 発 研 究 に画期的な進展がみられるようになりました。 2 . 植物 の環 境ス ト レス 耐性 遺 伝子 群 世 界 の 農 作 物 の 被 害 状 況 を 見 る と 気 象 被 害 が 大 き な 割 合 を 占 め 、そ の 中 で も 干 ば つ に よ る 被 害 が 最 も 大 き く な っ て い ま す 。ダ イ ズ や ト ウ モ ロ コ シ や コ ム ギ 等 で は そ の 世 界 生 産 の 3 0 % 近 く が 、毎 年 干 ば つ に よ っ て 何 ら か の 被 害 を 受 け て い る こ と が 報 告 さ れ て い ま す 。ま た 、灌 漑 農 業 で は 地 中 の 塩 分 が 表 土 に 移 動 す る こ と か ら 塩 害 が 問 題 に な っ て お り 、塩 ス ト レ ス 耐 性 の 改 良 も 重 要 と な っ て い ま す 。さ ら に 、今 後 は 地 球 温 暖 化 に よ る 高 温 に 対 す る 耐 性 の 付 - 9 - 与 も 重 要 に な っ て く る と 考 え ら れ ま す 。我 々 の 研 究 グ ル ー プ で は 、モ デ ル 植 物 の シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ や イ ネ を 用 い て 、植 物 の 乾 燥 ス ト レ ス 耐 性 機 構 で 働 く 遺 伝 子 群 に つ い て 研 究 を 行 い 、マ イ ク ロ ア レ イ 等 の 最 新 の 技 術 に よ っ て 、植 物 ゲ ノ ム 中 に は 3 0 0 種 以 上 の 耐 性 遺 伝 子 群 が 存 在 し 、そ の 遺 伝 子 群 の 機 能 は 非 常 に 多 様 で あ る こ と を 明 ら か に し ま し た 。そ の 遺 伝 子 産 物 に は 水 の 細 胞 内 輸送を行う水チャネルタンパク質や変性タンパク質を再生するシャペロン、 細 胞 中 の 高 分 子 物 質 を 保 護 す る LEA タ ン パ ク 質 、適 合 溶 質 で あ る 糖 や プ ロ リ ン や ベ タ イ ン の 合 成 酵 素 等 多 数 が 挙 げ ら れ ま す (図 1 )。 ド イ ツ や 米 国 に は 、 乾燥に対して特別な耐 性を示す復活植物やア イスプラントを用いて、 乾燥時に働く遺伝子の 研究を行っているグル ー プ が あ り ま す 。こ れ ら の植物を用いた場合も、 シロイヌナズナやイネ と同様の乾燥耐性遺伝 子群が単離されており、 普遍的に高等植物が陸 上化するために獲得し てきた遺伝子群であると考えられます。 こ れ ら の 耐 性 遺 伝 子 を 植 物 に 導 入 し て 耐 性 植 物 を 作 出 す る 研 究 が 、我 々 の 研 究 グ ル ー プ の 他 、米 国 や ス ペ イ ン 、英 国 や ド イ ツ 等 で 行 わ れ ま し た 。適 合 溶質のベタインやプロリン等の生合成の鍵となる酵素の遺伝子をタバコや シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ や イ ネ 等 に 導 入 し て 、乾 燥 や 塩 ス ト レ ス に 対 す る 耐 性 植 物 が 得 ら れ ま し た 。適 合 溶 質 で あ る ト レ ハ ロ ー ス や オ リ ゴ 糖 の 合 成 酵 素 の 遺 伝 子 を用いた研究でも乾燥や低温ストレスに対する耐性の向上が観察されまし た 。こ の 他 、LEA タ ン パ ク 質 の 遺 伝 子 を コ ム ギ や イ ネ に 導 入 し て 乾 燥 耐 性 が 向 上 し た 例 や シ ャ ペ ロ ン の 機 能 を 持 つ HSP 遺 伝 子 を タ バ コ や シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ に 導 入 し て 乾 燥 や 高 温 に 強 く な る こ と も 示 さ れ ま し た 。 しかし、これ ら の 遺伝子組換え植物の耐性度の向上はわずかなものであり、実際に劣悪環境地帯 で栽培可能な耐性度の高い植物を作出するためには、耐性機構に関与する多く の遺伝子の発現を複合的に変化させることが有効であると考えられました。 3 . 環境 スト レス 耐 性遺 伝子 群 の働 きを 制 御す る転 写 因子 植 物 の 乾燥耐性 の 獲得には 多 くの耐性 遺 伝子群が 関 与してお り 、一つの 遺 伝 子を導入 し ただけで は 十分な耐 性 を付与で き ないこと が 明らかに な り、 耐 性 機 構に関与する多くの遺伝子の発現を複合的に変化させることが有効である - 10 - と 考 え ら れ ま し た 。転 写 因 子 は DNA で あ る 遺 伝 子 に 直 接 結 合 し て 、そ の 働 き を 活 性 化 す る 制 御 タ ン パ ク 質 で あ り 、ス ト レ ス 耐 性 を 獲 得 す る た め に 働 く 複 数 の 遺 伝 子 の 働 き を 同 時 に 改 変 す る こ と が で き ま す 。環 境 ス ト レ ス 応 答 で は 3 0 0 以 上 の ス ト レ ス 耐 性 遺 伝 子 の 働 き を 、数 種 の 転 写 因 子 が 制 御 し て い る と 考 え ら れ 、こ れ ら の 転 写 因 子 の 遺 伝 子 は 耐 性 植 物 の 開 発 に 特 に 有 効 で あ る と期待されます。 我々の研究グループは、乾燥や塩、高温や低温等の多様な環境ストレス 応 答 で 働 く 転 写 因 子 で あ る DREB を 単 離 し ま し た 。DREB に は DREB1 と DREB2 と が あ り 、最 初 DREB1 に 関 し て 多 く の 研 究 が 行 わ れ ま し た 。DREB1 は 植 物 の 低温ストレス耐性機構で働く転写因子であり、植物の低温耐性遺伝子群の 働 き を 活 性 化 し ま す 。DREB1 に よ っ て 活 性 化 さ れ る 耐 性 遺 伝 子 は 乾 燥 や 塩 ス ト レ ス 耐 性 の 向 上 に も 働 く の で 、DREB1 遺 伝 子 を 強 く 働 く よ う に 改 変 す れ ば 、 制御している複数の耐性遺伝子の働きを同時に強化することが可能になり 高 い 耐 性 を 植 物 に 付 与 で き る と 考 え ら れ ま す 。そ こ で 、DREB1 遺 伝 子 を ス ト レス誘導性のプロモーターと組み合わせてシロイヌナズナに導入すると、 得られた遺伝子組換え植物はこれまでにない高いレベルの乾燥、塩、低温 耐性を示しました。マイクロアレイやメタボローム解析法を用いて、得ら れた組換えシロイヌナズナを解析すると、この植物中では、ストレス時に 50種以上の耐性遺伝子群が強く働いていることや適合溶質として耐性の 獲得に働くことが示されている糖やアミノ酸が高いレベルで蓄積されてい る こ と が 明 ら か に な り ま し た 。 植物は進化の過程において陸上化したときに 環境ス トレ スに対 する 耐性機 構を 獲得し たと 考えら れ、 どの陸 上植 物も類 似 し た耐性 機構 を持っ てい ると考 えら れます 。そ こで、 タバ コやイ ネ中 でシロ イ ヌ ナ ズ ナ の DREB 遺 伝 子 を過剰発現さ せてみました。 得られた組換 え植物はシロ イヌナズナと 同様に、乾 燥・塩・低温 ストレスに対 して高い耐性 を獲得してい ました(図2)。 このように、 図 2 転 写 因 子 DREB1 の過 剰 発 現 による植 物 のストレス 耐 性 獲 得 のモデルと DREB 組 換 えイネの乾 燥 耐 性 DREB1 遺 伝 子 - 11 - は、多 くの 種類の 植物 が共通 に保 持する 環境 ストレ スに 応答す る耐 性獲得 系 で あることが明らかになりました。 一 方 、DREB2 は シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の 乾 燥 、塩 、高 温 ス ト レ ス 耐 性 機 構 で 働 く 転 写 因 子 で あ り 、植 物 の 多 く の ス ト レ ス 耐 性 遺 伝 子 の 働 き を 活 性 化 し ま す 。 しかし、この遺伝子を植物中で高発現しても植物には何の変化も起こりま せ ん で し た 。 こ の た め 、 こ の 遺 伝 子 の 耐 性 作 物 開 発 へ の 利 用 は DREB1 の 様 に は 進 み ま せ ん で し た 。し か し 最 近 、DREB2 タ ン パ ク 質 に は 非 活 性 化 領 域 が あ り 、 ス ト レ ス が な い と き は こ の 領 域 が DREB2 の 働 き を 抑 え て い る こ と が 明らかになりました。この非活性化領域はタンパク質の安定化に関与して い る こ と が 示 さ れ た の で 、 こ の 領 域 を 取 り 除 い て DREB2 遺 伝 子 を シ ロ イ ヌ ナズナに導入すると乾燥、塩、高温ストレスに対する高い耐性が観察され ました。この組換え植物中では多くのストレス耐性遺伝子の働きが強めら れ て い ま し た 。 DREB2A は 地 球 温 暖 化 に よ る 干 ば つ や 高 温 ス ト レ ス 環 境 に 対 応した作物の開発に重要な遺伝子と考えられます。 環 境 ス ト レ ス 応 答 で は こ の 他 、数 種 の 転 写 因 子 遺 伝 子 が 働 い て お り 、我 々 の研究グループはこれらの遺伝子に関しても統合的に研究を行っています。 こ の 中 で シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の AREB は ス ト レ ス 下 で 合 成 さ れ る 植 物 ホ ル モ ン の アブシジン酸によって制御されている転写因子であり、シロイヌナズナ中 で強く発現すると乾燥や塩耐性を高めることを明らかにしました。また最 近 、 ABA の 受 容 か ら AREB の 活 性 化 に 至 る シ グ ナ ル 伝 達 機 構 の 研 究 を 行 い 、 その機構を分子レベルで明らかにしました。 4.環境耐性作物の開発のための国際共同研究の推進 DREB 遺 伝 子 に つ い て の 成 果 を 報 告 す る と 、 DREB 遺 伝 子 を 環 境 耐 性 作 物 の 開発に利用したいという共同研究の申し込みが世界中から殺到しました。 現 在 、 こ れ ら の 中 か ら 国 際 農 業 研 究 協 議 グ ル ー プ ( CGIAR) な ど の 研 究 機 関 と10件以上の共同 研究を行っています ( 図 3 )。 こ れ ら の 共 同 研 究 で は 、イ ネ や コ ムギ、トウモロコシ、 マ メ 、イ モ 、牧 草 等 へ の DREB 遺 伝 子 の 導 入 やストレス誘導性プ ロモーターの利用を 試みています。 特 に 、世 界 の 食 糧 を 支えるイネやコムギ - 12 - な ど で は 、 国 際 イ ネ 研 究 所 ( IRRI、 イ ネ : イ ン デ ィ カ ) や 国 際 ト ウ モ ロ コ シ コ ム ギ 改 良 セ ン タ ー( CIMMYT、コ ム ギ )や 国 際 熱 帯 農 業 研 究 セ ン タ ー( CIAT、 南米産イネ)と共同で、それぞれ作物を取り決めて応用研究を行っていま す。これらの機関ではこれまで従来の交配技術等を用いて高収量品種の開 発を行い、単位面積あたりの収穫高を上げることで開発途上地域の食糧増 産 に 寄 与 し て き ま し た 。 DREB 遺 伝 子 を 用 い た 遺 伝 子 組 換 え 技 術 は 、 新 た な 農業技術革新への発展性を秘めていると期待されています。また、マメ科 作物は開発途上地域のタンパク質源として重要な作物であるため、国際半 乾 燥 熱 帯 作 物 研 究 所 ( ICRISAT、 ピ ー ナ ッ ツ 、 ピ ジ ョ ン ピ ー ) や ブ ラ ジ ル 農 牧 研 究 公 社 ( EMBRAPA、 ダ イ ズ ) な ど と の 共 同 で 環 境 ス ト レ ス 耐 性 な マ メ 科 作物の開発を推進しています。これらの共同研究を通じて差し迫った開発 途上国の食糧問題解決への貢献が期待されています。 5. おわ り に 我々は現在、他 の 研 究 グ ル ー プ と 共 同 で シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の DREB 遺 伝 子 を 作 物 に 応 用 し よ う と 研 究 を 推 進 す る 一 方 で 、それぞれの作物の DREB 相同性遺 伝 子 の 探 索 や そ の 作 物 に 応 じ た プ ロ モ ー タ ー の 選 択 な ど も 行 っ て い ま す 。 DREB 遺伝子が様々な植物における強力なストレス耐性獲得機構の中心的役割を担う ものとして期待しています。一 方 、 シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ や イ ネ を 用 い て さ ら に 多 くの植物が持つ環境ストレス耐性の制御機構を明らかにしようと基礎研究 を 続 け て い ま す 。近 年 、様 々 な 植 物 の 全 ゲ ノ ム 配 列 が 着 々 と 決 定 さ れ つ つ あ り 、こ れ ら の 情 報 を も と に 植 物 の 持 つ 環 境 ス ト レ ス 耐 性 機 構 を ゲ ノ ム 全 体 で 解 析 す る こ と が 可 能 に な り 、研 究 の 急 速 な 進 展 が 見 込 ま れ て い ま す 。こうし た研究が人類の食料問題を解決し、地球環境の修復のために役立つことを願っ ています。 - 13 - プロフィール しのざき か ず こ 篠崎 和子 所 属 応用生命化学専攻 略 植物分子生理学研究室 歴 1982 年 国立遺伝学研究所 学術振興会奨励研究員 1984 年 名古屋大学遺伝子実験施設 特別研究員 1987 年 ロ ッ ク フ ェ ラ ー 大 学 (米 国 ) Post Doctoral Fellow 1989 年 理化学研究所 基礎科学特別研究員 1993 年 農林水産省国際農林水産業研究センター生物資源部主任研究官 2000 年 (独)国際農林水産業研究センター生物資源部主任研究官 2004 年 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 主な研究活動 1. 植 物 の 乾 燥 ・ 塩 ス ト レ ス 耐 性 の 分 子 機 構 の 解 明 と 分 子 育 種 へ の 応 用 2. 植 物 ホ ル モ ン ア ブ シ ジ ン 酸 に よ る 制 御 機 構 の 解 明 と バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー への応用 3. 環 境 ス ト レ ス 応 答 に 関 与 す る イ ネ の 転 写 因 子 の 網 羅 的 機 能 解 析 4. 環 境 ス ト レ ス に よ っ て 誘 導 さ れ る ト ラ ン ス ポ ー タ ー 遺 伝 子 の 機 能 解 析 主な著書 (1) 溝 井 順 哉 ・ 篠 崎 和 子 (2009) 乾 燥 に も 高 温 に も 強 い 環 境 ス ト レ ス 耐 性 植 物 の 開 発 . 『 第 二 世 代 バ イ オ 燃 料 の 開 発 と 応 用 展 開 』シ ー エ ム シ ー 出 版 . (2) 佐 久 間 洋 ・ 篠 崎 和 子 (2007) 水 分 ・ 温 度 ス ト レ ス に 応 答 し た 転 写 制 御 ネ ットワーク. 蛋 白 質 核 酸 酵 素 52(6), 543-549. (3) 藤 田 泰 成 、篠 崎 和 子 (2006) 乾 燥・塩 ス ト レ ス『 植 物 ホ ル モ ン の 分 子 細 胞 生物学』講談社. (4) Yamaguchi-Shinozaki, K., Shinozaki, K. (2006) Transcriptional regulatory networks in cellular responses and tolerance to dehydration and cold stresses. Annu. Rev. Plant Biol. 57, 781-803. (5) Yamaguchi-Shinozaki, K., Sakuma, Y., Ito, Y. and Shinozaki, K. (2006) The DRE/DREB regulon of gene expression in Arabidopsis and rice in response to drought and cold stress. In Ribaut, J.-M. (ed) Drought Adaptation in Cereals. The Haworth Press, New York, 583-598. - 14 - 植物医科学の展開と生物情報の活用 ━ 始まった植物医師養成と植物病院ネットワーク構築 ━ 生産・環境生物学専攻 教 授 難 波 成 任 1.はじめに 近 年 た て 続 け に 起 こ っ た 食 の 安 全 に 対 す る 信 頼 を 揺 る が す 事 件 に よ り 、食 料 生 産 に 対 す る 関 心 は 一 段 と 高 ま っ た 。ま た 、園 芸 を 通 じ た 癒 し や メ ン タ ル なケアは健康な国民生活を送る上で最近はちょっとしたブームとなってい る 。さ ら に は 、都 市 緑 化 を 通 じ た ヒ ー ト ア イ ラ ン ド 化 の 軽 減 な ど 環 境 保 全 を 目 的 と し た 種 々 の 試 み や 、森 林 浴 な ど 快 適 な 国 民 生 活 の 実 現 に 向 け た 植 物 に よる健康への効能など、いずれも植物に関する「知」の臨床的展開である。 その広範な役割を一つのフィールドテーマにまとめあげて支える科学が求 められている。 近 年 、世 界 経 済 の グ ロ ー バ ル 化 の 進 行 に 伴 い 、国 内 に お い て は 生 産 現 場 の 環 境 や 農 業 施 策 は 大 き く 変 化 し つ つ あ る 。我 が 国 の 食 料 自 給 率 の 向 上 や 食 の 安 全 確 保 、環 境 保 全 型 農 業 の 展 開 に 向 け 、こ れ ら の 変 化 に 柔 軟 に 対 応 し た 取 り 組 み が 急 務 で あ る 。特 に 、増 大 す る 一 方 の 輸 入 農 作 物 と と も に 流 入 す る 病 害 虫 を 取 り 締 ま る 検 疫 強 化 に 向 け 、よ り 一 層 の 力 を 注 ぐ 必 要 が あ る と と も に 、 国 内 の 食 料 生 産 増 強 に 障 害 と な る 病 害 虫 の 防 除 体 制 の 強 化 ・充 実 が 迫 ら れ て いる。 従 っ て 、そ れ に た ず さ わ る 専 門 家 の 人 材 育 成 は 急 務 で あ る 。従 来 は 、植 物 に 発 生 す る 病 害 ・虫 害 ・生 理 障 害 ・雑 草 害 ( 以 下 こ れ ら を 総 称 し て 「 植 物 病 」 と 呼 ぶ )の 原 因 ・発 生 生 態 ・防 除 技 術 に 関 す る 知 識 を 大 学 で 学 ん だ 者 が 、専 門 家 か ら 現 場 を 踏 ま え た 知 識 と 技 術 を 学 び 専 門 家 が 養 成 さ れ た 。し か し 近 年 は 分 子 生 物 学 的 手 法 な ど 先 端 的 技 術 が 導 入 さ れ 、室 内( ラ ボ )実 験 や 試 験 管 内 ( イ ン ・ビ ト ロ ) 実 験 が 主 流 を 占 め る よ う に な っ た 。 この傾向は何も日本に限ったことではなく、米国でも問題となっている。 国 際 的 に 著 明 な 英 文 教 科 書「 植 物 病 理 学 」の 著 者 ア グ リ オ ス が「 植 物 健 康 増 進 」と い う 英 文 誌 に 投 稿 し た 論 文 で 、米 国 に お い て も 学 問 の 専 門 化 、細 分 化 が 進 行 し 、分 子 生 物 学 は 知 っ て い て も 現 場 を 知 ら ず 、植 物 病 の 発 生 す る 圃 場 に 立 ち つ く す 学 生 が 増 え 、植 物 病 を 理 解 す る 人 材 が 少 な く な っ た こ と を 憂 え ている。 こ の よ う な 事 態 を 打 開 す る に は 、「 植 物 病 理 学 ・害 虫 学 ・線 虫 学 ・農 薬 学 ・植 物 生 理 病 学 ・雑 草 学 」 な ど 植 物 病 に 関 わ る あ ら ゆ る 分 野 の 「 知 」 を 結 集 し 、 - 15 - 植 物 病 の「 診 断 ・治 療 ・防 除 ・予 防 」 ( 以 下 こ れ を「 臨 床 」と 呼 ぶ )を 扱 う 科 学 を 新 た に 立 ち 上 げ 、 現 代 ニ ー ズ に 応 え る 教 育 を 行 う と と も に 、「 植 物 医 師 」 を 育 成 し 、「 植 物 病 院 ネ ッ ト ワ ー ク 」 を 構 築 す る 必 要 が あ る 。 以 上 に 述 べ た よ う な い く つ も の 課 題 に 対 処 す る こ と を 目 的 に 、4 年 前 、 「植 物 医 科 学 」 と い う 新 た な 分 野 の 立 ち 上 げ が 本 研 究 科 に 計 画 さ れ 、 翌 春 、「 植 物 医 科 学 研 究 室 」 が 設 置 さ れ た 。「 植 物 医 科 学 」 は 、 大 学 や 試 験 研 究 機 関 で 行 わ れ て い る 教 育 研 究 に 基 づ く「 知 」と 、臨 床 現 場 で 展 開 さ れ る「 知 」と の 間に介在する乖離を埋めることをその目的の一つとする横断融合的教育研 究分野である。 分 子 生 物 学 的 手 法 や 先 端 的 機 器 分 析 手 法 に 加 え 、従 来 の 伝 統 的 な 技 法 を 活 用 し 、臨 床 シ ス テ ム を サ ポ ー ト す る 技 術 の 統 合 化 と 体 系 化 に 取 り 組 む と 共 に 、 新 た な 技 術 開 発 を 行 う 必 要 が あ る 。そ の 成 果 を 基 に 臨 床 シ ス テ ム に 取 り 組 む 現場の拠点をつなぐネットワーク構築を目指すべきである。 ま た 、 種 苗 産 業 や 一 般 農 家 ・植 物 産 業 ・庭 園 や 公 園 ・家 庭 菜 園 な ど で 栽 培 さ れ る 植 物 に 発 生 す る 植 物 病 に 対 応 す る 臨 床 技 術 の 専 門 家「 植 物 医 師 」や そ の 指 導 者 を 養 成 す る 必 要 が あ る 。ま た 、す で に 現 場 で 活 躍 す る 専 門 家 の ス キ ル ア ッ プ( 再 教 育 )も 重 要 な ミ ッ シ ョ ン の 一 つ で あ ろ う 。植 物 病 の 発 生 源 は 有 機栽培や無農薬栽培に関心が高い一般園芸愛好家が集う家庭菜園や市民農 園 で あ る こ と も 多 い 。一 般 市 民 に 対 す る 啓 発 活 動 を 通 じ 、植 物 生 産 に 必 ず つ い て 回 る 植 物 病 発 生 リ ス ク の 重 要 性 に 関 す る 認 識 を 高 め 、植 物 病 の 発 生 や 蔓 延の抑止につなげる必要がある。 2.ゲノム情報を駆使して植物病の原因を突き止める 近 年 の 分 子 生 物 学 の 発 展 に よ り 、あ ら ゆ る 生 物 の ゲ ノ ム 情 報 が 日 々 解 読 さ れ つ つ あ る 。 植 物 病 の 原 因 と な る 菌 類 ・細 菌 ・ウ イ ル ス ・害 虫 な ど も 例 外 で は な く 、そ の ゲ ノ ム 情 報 を 網 羅 し た デ ー タ ベ ー ス が 構 築 さ れ て い る 。こ の よ う に 誰 も が ア ク セ ス 可 能 な デ ー タ ベ ー ス を 応 用 し 、植 物 病 の 原 因 を 判 定 す る こ とが可能である。 原 因 不 明 の 植 物 病 が 発 生 し た 場 合 、植 物 か ら 核 酸( DNA、RNA)を 抽 出 し 、 生 物 が 共 通 し て 有 し て い る ゲ ノ ム 領 域 の 配 列 を 解 読 す る 。こ れ を デ ー タ ベ ー スと照合することにより、植物病の原因を特定できる。 以 前 は こ う し た ゲ ノ ム 情 報 が 利 用 で き な か っ た た め 、長 い 期 間 を か け 、従 来 型 の 手 法 に よ っ て 診 断 し て い た 。し か し 、専 門 的 な 知 識 や 技 術 を 持 た な い 人 に と っ て は 、原 因 究 明 は ほ ぼ 不 可 能 で あ っ た 。し か し 、ゲ ノ ム 情 報 の 解 読 は 24時 間 以 内 に 可 能 で あ り 、し か も 診 断 結 果 は 黒 白 は っ き り し た も の と し て 出 て く る 。最 小 限 の ゲ ノ ム 情 報 か ら 、植 物 病 の 診 断 か ら 予 防 に 至 る 総 合 的 な 情報を入手できるようになった。 - 16 - 3.ゲノム情報を通じた植物病の理解:現場を見据え抑止に向けて ①ウイルスゲノムの1塩基の違いが発病を決める 植 物 ウ イ ル ス の 多 く は RNA を ゲ ノ ム と し て 持 つ 。ゲ ノ ム に は 複 製・移 行 ・ ウ イ ル ス 粒 子 の 合 成 に 関 わ る 5 つ の タ ン パ ク 質 が 読 み 込 ま れ て い る 。ジ ャ ガ イ モ X ウ イ ル ス は ポ テ ッ ク ス ウ イ ル ス の 仲 間 で 、世 界 中 に 発 生 し ジ ャ ガ イ モ に 大 き な 被 害 を 引 き 起 こ す( 図 1 )。日 本 で も 発 生 し 、異 な る 病 徴 を 引 き 起 こ す 様 々 な 系 統 が 存 在 す る 。病 徴 の 多 様 性 を 制 御 す る メ カ ニ ズ ム を 明 ら か に す る た め 、こ れ ら の ウ イ ル ス の 全 ゲ ノ ム を 解 読 し た 。そ の 結 果 、ゲ ノ ム の 全 領 域 に そ れ ぞ れ の 系 統 に 特 徴 的 な 塩 基 配 列 の 変 異 が 見 出 さ れ た 。そ こ で 、各 系統の変異を遺伝 子工学的に導入し 病 徴 を 観 察 し た 。そ の 結 果 、非 翻 訳 領 域 のたった1塩基の 違いによって病徴 が 変 化 す る ほ か 、複 製酵素のたった一 アミノ酸の変化に よ っ て 、こ れ ら の 病 徴が出るかそれと も隠蔽されるかが 決まることも明ら かになった。 図 1.ウイルスゲノムの1塩 基 の違 いが病 徴 型 を決 める ②ウイルスタンパク質1アミノ酸が全身感染を決める 植物ウイルスは感 染細胞内で複製した の ち 、隣 の 細 胞 へ と 移 行 し 、や が て 全 身 感 染 す る 。従 っ て 、移 行 は 全身感染の前提とな る重要なステップで あ る 。ポ テ ッ ク ス ウ イ ル ス は 、宿 主 範 囲 が 広 く 、様 々 な 植 物 に 感 染 し被害を引き起こす。 ウイルスゲノムにコ ードされる外被タ 図 2.アミノ酸 ひとつがウイルスの全 身 感 染 を決 める - 17 - ン パ ク 質( CP)が 隣 接 細 胞 へ の 移 行 に 必 須 で あ る こ と が わ か っ て い る が 、そ の し く み は 不 明 の ま ま で あ る 。 本 研 究 で は 複 数 ポ テ ッ ク ス ウ イ ル ス の CP 遺 伝 子 を 比 較 し た と こ ろ 、 plantago asiatica mosaic virus ( PlAMV ) の CP 遺 伝 子 が 非 常 に 小 さ い こ と に 着 目 し た 。 PlAMV の CP 遺 伝 子 を ク ラ ゲ の 蛍 光 タ ン パ ク 質 「 GFP 遺 伝 子 」 に 取 替 え 、 ウ イ ル ス の 動 き を 可 視 化 し た 。 そ し て 色 々 な 変 異 を 導 入 し た CP を 同 時 に 発 現 さ せ 、ウ イ ル ス の 動 き を 調 べ た 結 果 、 CP の 3 番 目 の ア ミ ノ 酸 の ロ イ シ ン が ウ イ ル ス 移 行 に 関 わ る こ と を 明 ら か に し た( 図 2 )。こ の 1 ア ミ ノ 酸 は ウ イ ル ス の 複 製 や ウ イ ル ス 粒 子 の 合 成 に は 関 係 な く 、こ の ア ミ ノ 酸 を 他 の ア ミ ノ 酸 に 変 異 さ せ た ウ イ ル ス は 全 身 感 染 で き な い こ と を 確 認 し た 。こ の よ う に ゲ ノ ム 情 報 を 活 用 す る と 、ウ イ ル ス の 活 動 に 重 要 な 因 子 を 特 定 す る な ど 、様 々 な 事 を 明 ら か に す る こ と が 可 能 と な る 。 ③ファイトプラズマは運ばれる昆虫を選り好みする フ ァ イ ト プ ラ ズ マ は 700 種 以 上 の 植 物 に 感 染 す る 植 物 病 原 細 菌 で あ り 、ヨ コ バ イ な ど の 昆 虫 に よ り 媒 介 さ れ る 、動 植 物 の 間 を 水 平 移 動 す る 微 生 物 で あ る 。 感 染 し た 植 物 は 、 黄 化 ・萎 縮 ・叢 生 ・花 の 緑 化 ・葉 化 ・突 き 抜 け 症 状 な ど ユ ニ ー ク な 病 徴 を 引 き 起 こ す 。従 っ て 、そ の 昆 虫 媒 介 メ カ ニ ズ ム や 病 原 性 発 現 の メ カ ニ ズ ム に は 興 味 が 持 た れ て き た 。し か し 、培 養 が 困 難 な た め 、そ の 詳 細な性状はこれまで明らかでなかった。 フ ァ イ ト プ ラ ズ マ は そ の 系 統 に よ り 特 定 の 昆 虫 に よ っ て 媒 介 さ れ 、厳 密 な 昆 虫 宿 主 特 異 性 を 持 っ て い る 。そ の し く み を 明 ら か に す る こ と は フ ァ イ ト プ ラ ズ マ 病 の 防 除 ・予 防 戦 略 上 重 要 で あ る が 、 昆 虫 に よ り 媒 介 さ れ る 微 生 物 の 宿主特異性のしくみやそれに関わる因子の存在は不明であった。 我々は最近、ファイトプラズマの全ゲノム重宝の解読に成功し、昆虫の ゲノム情報と合わせ駆使して、ファイトプラズマの膜タンパク質が、媒介 昆虫のアクチンやミオシンといった細胞骨格と結合することを発見した。 この結合は媒介昆虫でのみ起こり、非媒介昆虫では起こらない。このこと から、ファイトプラズマは昆虫の細胞骨格と結合することにより、内部に 入り込むことが出来、昆虫により運ばれる事が分かった。 こ の 発 見 は 、フ ァ イ ト プ ラ ズ マ が 自 然 界 に お い て 昆 虫 に 適 応 す る 事 に よ り 示 す 生 存 戦 略 の 一 端 を 示 唆 す る も の で あ る 。ま た 、こ の 結 合 を 阻 害 す る 安 全 な物質を発見すれば、殺虫剤を減らしつつ病害予防に繋げることができる。 ④ TENGU 遺 伝 子 が 引 き 起 こ す 天 狗 巣 症 状 植 物 病 原 微 生 物 は 、感 染 す る と 植 物 に 様 々 な 病 徴 を 引 き 起 こ し 、農 作 物 で は 、そ の 収 量 や 品 質 を 大 き く 低 下 さ せ る た め 、発 病 の し く み を 解 明 す る こ と は 、農 学 に お け る 最 重 要 課 題 の 一 つ で あ る 。し か し 、植 物 の 形 態 を 変 化 さ せ る 病 徴 を 引 き 起 こ す メ カ ニ ズ ム に つ い て は 、こ れ ま で 未 解 明 な 部 分 が 多 く 残 - 18 - されていた。 我 々 は 最 近 、フ ァ イ ト プ ラ ズ マ の ゲ ノ ム 情 報 を も と に 、感 染 細 胞 内 で フ ァ イ ト プ ラ ズ マ が 分 泌 す る タ ン パ ク 質 を 探 索 し 、そ の 一 つ が 形 態 変 化 を 引 き 起 こ す 病 原 性 因 子 で あ る こ と を 突 き 止 め た 。こ れ は 、形 態 変 化 を 引 き 起 こ す 病 原 体 由 来 の タ ン パ ク 質 と し て は 世 界 で 初 め て の 例 で あ る 。こ の 因 子 は 、植 物 に 「 天 狗 巣 症 状 ( 萎 縮 ・叢 生 症 状 ) 」 を引き起こすことから(図3)、 「 TENGU」 と 命 名 し た 。 TENGUは わ ず か 38ア ミ ノ 酸 か ら な る 小 さ な タ ン パ ク質であり、ファイトプラズマが感 染している組織から遠く離れた植物 の成長点でも観察された。また、 TENGU遺 伝 子 を 導 入 し た 植 物 で は 、植 物ホルモンの一つであるオーキシン 図 3.TENGU は天 狗 巣 病 の病 原 因 子 (枝分かれの抑制し、植物の伸長を 促 進 す る )に 関 連 し た 遺 伝 子 群 の 発 現 が 際 立 っ て 低 下 し て い た 。こ れ ら の 結 果 は 、TENGUが フ ァ イ ト プ ラ ズ マ か ら 分 泌 さ れ た 後 、周 囲 の 細 胞 へ と 移 行 し 、 オ ー キ シ ン 関 連 の 遺 伝 子 発 現 を 抑 制 し て 植 物 の 形 態 に 影 響 を 与 え 、「 天 狗 巣 症状」を引き起こすことを示している。 TNEGUの 発 見 に よ り 、 こ れ を タ ー ゲ ッ ト と し た 新 規 薬 剤 の 探 索 等 に よ る フ ァ イ ト プ ラ ズ マ の 治 療 ・予 防 法 の 確 立 や 、 栄 養 繁 殖 の 困 難 な 種 苗 の 大 量 増 殖 を 目 的 と し た 植 物 成 長 調 整 剤 と し て の 利 用 等 、農 業 生 産 に お け る 利 用 が 期 待 される。 4.生物情報を利用した現場に役立つ高機能な診断キットの開発 植 物 病 の 診 断 は 、知 識と経験を有する専 門家であってもとき に 困 難 を 伴 い 、慎 重 に 結論を下す必要があ る 。一 方 で 、重 要 な 植 物病については迅速 で精確な診断が求め ら れ る 。そ の 場 合 、病 原体のゲノム情報を 活用することにより、 信頼性の高い診断手 法 を 開 発 し 、サ ポ ー ト 図 4.PPV の診 断 キット - 19 - す る こ と が 可 能 で あ る 。例 と し て 挙 げ ら れ る の が 、本 年 4 月 に 日 本 国 内 へ の 侵 入 が 確 認 さ れ た 植 物 ウ イ ル ス 「 ウ メ 輪 紋 ウ イ ル ス ( plum pox virus, PPV) の 診 断 キ ッ ト で あ る 。 PPV は 近 年 世 界 中 で 発 生 し 、 モ モ や ス モ モ ・ア ン ズ な ど の 果 樹 生 産 に 甚 大 な 被 害 を 及 ぼ し て い る パ ン デ ミ ッ ク ウ イ ル ス で あ る 。知 ら れ て い る だ け で も そ の 被 害 は 年 間 500 億 円 に も の ぼ る と 推 定 さ れ て い る 。 PPV の 国 内 で の 蔓 延 を 阻 止 す る た め に 、た だ ち に 国 内 で 発 生 し た PPV の ゲ ノ ム 情 報 を 解 読 し 、 診 断 キ ッ ト が 開 発 さ れ た ( 図 4 )。 そ の 結 果 、 7 月 に は 抗 体 を 利 用 し た イ ム ノ ク ロ マ ト 法 に よ る 診 断 キ ッ ト 、8 月 に は 世 界 初 と な る 遺 伝 子 を 利 用 し た LAMP 法 に よ る 診 断 キ ッ ト が 相 次 い で 製 品 化 さ れ た 。 こ れ ら 2 種 類 の 診 断 キ ッ ト を 用 い る こ と に よ り 、 世 界 で 最 も 迅 速 ・ 簡 便 ・高 感 度 な PPV の 診 断 が 可 能 と な っ た 。キ ッ ト の 特 徴 と し て 、専 門 的 な 技 術 や 装 置 を 必 要 と し な い う え 、屋 外 に お い て も 迅 速 に 診 断 で き る こ と か ら 、臨 床 現 場 で 強 力なサポートとなるものと期待されている。 5.おわりに:生物情報を利用した植物医科学展開の将来展望 昨 春 、 学 内 に 植 物 病 院 ®が 開 設 さ れ 、 同 時 に 法 政 大 で は 生 命 科 学 部 に 植 物 医 科 学 専 修 が 新 設 さ れ 、「 植 物 医 師 」の 養 成 が 始 ま っ た 。い ず れ も 我 が 国 で 初 め て の 取 り 組 み で あ る 。昨 春 、教 育 研 究 体 制 を 強 化 す る た め 、東 大 で は 国 研以外で初めてとなる自治体の東京都農林総合研究センター(前農業試験 場 )と 教 育 研 究 に 関 す る 協 力 協 定 を 締 結 し 、研 究 職 員 を 教 授 や 准 教 授 に 委 嘱 した。 本 学 の 植 物 医 科 学 研 究 室 の 教 員 ら が 執 筆 し た 教 科 書「 植 物 医 科 学 」も 昨 年 7 月 出 版 さ れ た 。ま た 、昨 春 、准 教 授 が 大 学 教 員 と し て は 初 め て「 植 物 医 師 」 と位置付ける国家資格「技術士(植物保護)」の資格を取得した。 植 物 病 に よ っ て 毎 年 食 糧 の 1/3が 失 わ れ て お り 、 こ れ は 飢 餓 人 口 を 養 う 量 に 匹 敵 す る 。人 間 の 医 療 が 様 々 な 診 療 科 に 分 か れ て い る よ う に 、そ れ ぞ れ の 専 門 家 が ネ ッ ト ワ ー ク を 組 み 、一 体 と な っ て 対 処 し て ゆ く 体 制 が 求 め ら れ る 。 東 大 植 物 病 院 ®で は 、一 般 園 芸 愛 好 家 の ほ か 企 業 の 診 断 依 頼 に も 応 じ て い る 。 植 物 病 院 ®は 、 企 業 か ら も ニ ー ズ が あ る の だ 。 「 生 物 情 報 」は「 知 」の 臨 床 的 展 開 に 欠 か せ な い 重 要 な ツ ー ル で あ る 。「 生 物 情 報 」は 基 礎 研 究 成 果 と し て 眠 ら せ て お く の で は な く 、臨 床 的 展 開 に 供 さ れて初めて役に立つ「知」となるのではないだろうか。 - 20 - プロフィール な ん ば しげとう 難波 成任 所 属 生産・環境生物学専攻 略 植物病理学研究室・植物医科学研究室 歴 1982 年 日本学振奨励研究員 1985 年 東京大学農学部助手 1989 年 米国コーネル大学客員研究員 1992 年 東京大学農学部助教授 1995 年 東京大学農学部教授 1996 年 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 1999 年 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授 2004 年 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 2006 年 総長補佐(併任) 2009 年 総長特任補佐(併任) 主な研究活動 専 門 は 「 植 物 病 理 学 」 ・「 植 物 医 科 学 」 。 植 物 病 原 微 生 物 の 宿 主 決 定 ・ 病 原 性 決 定 の 分 子 機 構 、 植 物 病 の 診 断 ・治 療 ・ 防 除 ・予 防 の 科 学 を テ ー マ に 研 究 。 具体的には、ファイトプラズマの全ゲノム解読、昆虫宿主決定の分子機構、 病 原 性 因 子 の 解 明 。ま た 、ウ イ ル ス の 病 原 性 決 定 の 分 子 機 構 、植 物 の 抵 抗 性 の 分 子 機 構 な ど 。 「 植 物 病 理 学 研 究 室 」 は 世 界 で 最 初 に 創 設 さ れ 、 2006年 に 開 設 100年 を 迎 え た 。 ま た 、 同 年 に 寄 附 講 座 「 植 物 医 科 学 研 究 室 」 を 開 設 し た 。植 物 医 師 養 成 と 植 物 病 院 ネ ッ ト ワ ー ク 構 築 を 目 指 し 、昨 年 、植 物 病 院 を学内に開設した。 主な著書 『 植 物 医 科 学 』( 養 賢 堂 ) 、『 植 物 ウ イ ル ス 学 』( 朝 倉 書 店 ) 、『 最 新 植 物 病 理 学 』( 朝 倉 書 店 )、『 植 物 ウ イ ル ス の 分 子 生 物 学 』(学 会 出 版 セ ン タ ー )、 『 農 学・21 世 紀 へ の 挑 戦 』(世 界 文 化 社 )、 『植物ウイルス事典』 ( 朝 倉 書 店 )、 『 植 物 病 理 学 事 典 』( 養 賢 堂 ) 、『 ウ イ ル ス 学 』( 朝 倉 書 店 ) 、『 新 編 農 学 大事典』(養賢堂)ほか - 21 - アグリバイオインフォマティクスとは ― 教育研究プログラムの活動について ― 応用生命工学専攻 教 授 清 水 謙多郎 バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス は 、生 命 現 象 の 解 明 に 、情 報 学( イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス )の 手 法 を 使 っ て ア プ ロ ー チ す る 学 問 で す 。生 物 の ゲ ノ ム 解 析 が 進 展 す る 中 、大 量 の デ ー タ が 生 み 出 さ れ る よ う に な る と と も に 、こ の 分 野 は 急 速 に 発 展 し て き ま し た 。 近 年 は 、 DNA か ら 転 写 さ れ た RNA 分 子 、 そ こ か ら 合 成 さ れ る タ ン パ ク 質 、さ ら に 代 謝 で 生 じ る 物 質( 代 謝 産 物 )を 網 羅 的 に 解 析 す る 研 究( オ ー ム 研 究 )が 進 み 、多 様 な デ ー タ が 生 み 出 さ れ る よ う に な っ て い ま す が 、こ れ ら の 実 験 デ ー タ の 解 析 と 統 合 に バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス は 、必 要 不 可 欠 と な っ て い ま す 。そ も そ も 、生 命 科 学 で は 、生 物 と い う 複 雑 な 対 象 を 研 究 す る の に 、デ ー タ を 蓄 積 し 、そ れ を 解 析 す る こ と で 、体 系 や 規 則 を 抽 出 し て 、新 し い 知 識 を 得 る と い う 手 段 が と ら れ ま す 。バ イ オ イ ン フ ォ マティクスは、こうした必然的ともいえる状況の中で登場した学問であり、 ま さ に 、 20 世 紀 に 飛 躍 的 な 発 展 を 遂 げ た 情 報 学 と 生 物 学 と の 融 合 に よ っ て できた学問であると言えます。 バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス は 、私 た ち の 身 近 な 生 活 に も 関 係 し ま す 。テ イ ラ ー メ ー ド 医 療 や ゲ ノ ム 創 薬 と い っ た 医 薬 の 分 野 も そ う で す が 、食・環 境 な ど の 農 学 の 分 野 に お い て 、バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス は 今 後 ま す ま す 重 要 に な っ て く る と 考 え ら れ ま す 。例 え ば 、環 境 や 病 気 に 耐 性 の あ る 作 物 を 作 り 出 し た り 、健 康 を 維 持 す る た め の 食 品 を 開 発 し た り 、環 境 を 自 然 な 形 で 維 持 ・ 修 復 し た り 、生 物 の 機 能 を 利 用 し て 有 用 な 酵 素 を 設 計 し た り す る 研 究 が 行 わ れ て い ま す 。こ う し た 農 学 で 利 用 さ れ る バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス 、さ ら に は 、農 学 な ら で は の バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス が ア グ リ バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス ( Agricultural Bioinformatics) で す 。 ア グ リ バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス の 特 徴 と し て は 、対 象 が 多 様 で 複 雑 で あ る こ と が 挙 げ ら れ ま す 。医 薬 の 分 野 で は ヒ ト や モ デ ル 生 物 を 主 に 扱 う の に 対 し 、農 学 で は 自 然 界 の あ ら ゆ る 生 物 を 扱 い 、生 態 系 、生 存 圏 を 研 究 の 対 象 と し ま す 。 扱 う 物 質 も 、 タ ン パ ク 質 や RNA だ け で な く 、 天 然 物 、 代 謝 産 物 、 化 合 物 と 幅 広 く 、多 様 な 解 析 手 法 が 必 要 と な り ま す 。生 物 種 間 で ゲ ノ ム 全 体 を 比 較・解 析 す る 比 較 ゲ ノ ム 、代 謝 産 物 を 網 羅 的 に 解 析 す る メ タ ボ ロ ー ム 解 析 、人 為 的 な 培 養 が 困 難 な 環 境 中 の 微 生 物 の ゲ ノ ム を 集 団 と し て 網 羅 的 に 調 べるメタゲノム解析なども重要な役割を果たします。 東 京 大 学 大 学 院 農 学 生 命 科 学 研 究 科 で は 、 平 成 16 年 度 よ り 、 科 学 技 術 振 - 22 - 興 調 整 費 、 平 成 21 年 度 か ら は 文 部 科 学 省 特 別 教 育 研 究 経 費 ( 概 算 要 求 ) に よ り 、ア グ リ バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス の 教 育 研 究 プ ロ グ ラ ム を 実 施 し て い ま す 。農 学 の 研 究 に 携 わ る 大 学 院 生 や 社 会 人 に バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス の 講義と実習を行い、希望者には研究指導を行って、とくに、実験研究者が、 バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス の 知 識 や 技 術 を 身 に つ け 、使 い こ な し 、自 身 の 研 究 に 役 立 た せ る こ と の で き る 、い わ ゆ る 融 合 型 の 人 材 を 養 成 す る こ と を 目 指 しています。 こ の プ ロ グ ラ ム で は 、新 た に 何 名 か の 特 任 教 員 を お 呼 び し 、学 内 の 教 員 は もちろん、他大学、企業、試験研究機関と連携して、教育を実施しています。 とくに企業との連携は、このプログラムの重要な特徴で、企業の研究者に、企 業の現場で行われているバイオインフォマティクスの利用研究や企業が求めて いるバイオインフォマティクス技術を講義やセミナーで紹介していただくとと もに、企業の現場での技術開発と人材養成の経験を生かした研究指導もお願い しています。 こ の プ ロ グ ラ ム で 一 定 の 単 位 を 取 得 し た 受 講 生 ( コ ー ス 1) と バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス を 利 用 し た 研 究 で 修 士・博 士 の 学 位 を 取 得 し た 受 講 生( コ ー ス 2) に 修 了 認 定 書 を 発 行 し て い ま す 。 昨 年 度 ま で の 5 年 間 で 、 コ ー ス 1 は 合 計 91 名 、 コ ー ス 2 は 合 計 28 名 が 修 了 し ま し た ( 両 コ ー ス を 修 了 し た 者 は 21 名 )。 ま た 、プ ロ グ ラ ム で 実 施 し た 講 義 ・ 実 習 を 受 講 し た 人 数 は 、362 名( 延 べ 1181 名 ) に 上 り ま す 。 プ ロ グ ラ ム の 活 動 を 通 し て 30 件 以 上 の 共 同 研 究 が 発 足 し ま した。受講者に対するアンケートの結果によれば、講義が自分の研究に役立っ た と 回 答 し た 人 は 87.1%、ま た 、修 了 認 定 を 受 け た 人 に 対 す る ア ン ケ ー ト で は 、 回 答 し た 73 名 中 66 名 ( 90.4%) が 自 分 の 研 究 あ る い は 仕 事 に 役 立 っ て い る と いう結果が得られています。 平 成 21 年 度 か ら は 、新 た に 、研 究 課 題 ご と に フ ォ ー ラ ム を 作 り 、セ ミ ナ ー 、 シンポジウムの開催から、企業との共同研究、学生への研究指導など、それぞ れの分野において、研究・教育の活性化を重点的に行うことを目指した体制を とっています。現在、微生物インフォマティクス・フォーラム、食品インフォ マ テ ィ ク ス・フ ォ ー ラ ム 、ア グ リ / バ イ オ・セ ン シ ン グ と 空 間 情 報 フ ォ ー ラ ム 、 基盤インフォマティクス・フォーラム、昆虫バイオインフォマティクス・フォ ーラムなどが順次発足しています。今後も、随時フォーラムを立ち上げ、実験 研 究 者( ウ ェ ッ ト )と イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス 研 究 者( ド ラ イ )の 連 携 は も ち ろ ん 、 産学官の連携、国際的な連携を推し進め、バイオインフォマティクスを基盤と して、分野間で真の統合的な研究が行えるよう、努力していきたいと考えてい ます。 アグリバイオインフォマティクス教育研究プログラムの詳細については、以 下のホームページを参照して下さい。 http://www.iu.a.u-tokyo.ac.jp/ - 23 - プロフィール し み ず けんたろう 清水 謙多郎 所 属 応用生命工学専攻 略 生物情報工学研究室 歴 1985 年 東京大学大型計算機センター助手 1986 年 東京大学理学部助手 1992 年 電気通信大学情報工学科助教授 1996 年 東京大学大学院農学生命科学研究科助教授 1998 年 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 2004 年 東京大学大学院情報理工学研究科教授(兼担) 2007 年 東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授(兼担) 主な研究活動 ・タンパク質の機能予測に関する研究 ・タンパク質間相互作用予測・相互作用解析に関する研究 ・タンパク質の構造予測・構造評価に関する研究 ・トランスクリプトーム解析、メタボローム解析のための情報処理技術 主な著書 (1) S. Yamasaki, T. Terada, K. Shimizu, H. Kono, A. Sarai: A Generalized Conformational Energy Function of DNA Derived from Molecular Dynamics Simulations. Nucleic Acids Res. in press (2009). (2) T. Terada, D. Satoh, T. Mikawa, Y. Ito, K. Shimizu: Understanding the roles of amino acid residues in tertiary structure formation of chignolin by using molecular dynamics simulation PROTEINS, 73, 621-631 (2008). (3) M. Morita, S. Nakamura, K. Shimizu: Highly accurate method for ligand-binding site prediction in unbound state (apo) protein structures PROTEINS, 73, 468-479 (2008). (4) 中村周 吾, 清水謙 多郎 : タン パク 質の ab initio 構造 予測 , 遺伝 子医 学, 印刷 中. (5) 清 水 謙 多 郎 , 岸 野 洋 久 , 寺 田 透 , 中 井 雄 治 , 西 田 洋 巳 : ア グ リ バ イ オ イ ン フ ォ マ テ ィ ク ス 人 材 養 成 プ ロ グ ラ ム , 化 学 と 生 物 , 45, 360-363 (2007). (6) 坂 村 健 , 清 水 謙 多 郎 , 越 塚 登 : 高 等 学 校 「 情 報 A」「 情 報 B」「 情 報 C」 教 科 書 , 数 研 出 版 (2003-2009). - 24 -
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