核融合プラズマ概論 4 プラズマの加熱

難
核融合プラズマ概論
4
プラズマの加熱
田中茂利*,黒田
勉**,小田島和男***
(京大・理*,名古屋大学プラズマ研**,原研・核融合***)
(1984年5月4日
Hea,ting
Shigetoshi
Kazuo
in
Tanaka
,
受理)
Toroidal
Tsutomu
Plasmas
Kuroda,
a,nd
***
Odajima
(Receive{l
May
4,
1984)
Abstra£t
Introd秘ctory
current
dr蓋ve
metho〔ls
i皿jection
electron
of
exPlanation
i皿toroidal
heating
an−
tke
an{l
and
present
on
plasmas,mainly藍n
tokamak
current
presented,
drive
radio・fre傑uency
cyclotmn,the
status
lower
are
an《I
the
and
plasmas,are
(wave)黙eati皿9.
kybrid
heating
ion
tkεしt
In
the
non・ind皿ctive
described.
All
the
is,
the
neutral
beam
latter
are
included
the
cyc亜otmn
range
of
freguency
heatings.
炉心プラズマを核融合反応が持続する点火温度にまで加熱するためには,高速中性粒子束ある
いは高周波波動をプラズマに入射し,中心部に伝送して,それが吸収され,プラズマのエネルギ
ーとして蓄えられることが必要である。また,その運動量をプラズマ粒子に与えて非誘導駆動電
流を発生し得れば,定常トカマク炉の実現も想定される。
これらのプラズマ加熱法及ぴ電流駆動法の物理機構,研究の概要について述べる。
§1.はじめに
核融合研究は近年,高温プラズマの閉じ込めと加熱が著しく進展し,現在最も研究が進んでいるト
カマク装置では,大型トカマクJT一一60,TFTR及びJ
ETが建設中,
または運転を開始しており,
ここ数年内に臨界プラズマ(加熱入力に等しい出力を核融合反応によって得られるプラズマ)が実現
され,核融合炉φ科学的実証に成功するものと期待されている。
*
Department
**
***
of
Phys重cs,Fa,culty
of
Science,Kyoto
Universit叉,Kyoto606
Institute of P丑asma Pkysics,Nagoya IU皿iversity,Nagoya 460
Ja pan Atomic Energy Research Insti加te,Tokai,Ibara ki319−11
265
核融合研究第51巻第4号
1984年4月
、
第1図には核融合炉条件を実現する
に必要なプラズマのイオン密度n(cm−3)
と閉じ込め時間τE(s)の積(ローソン・
パラメーター)をイオン温度丁(keV)
1
の関数としてプロットし七ある。ここに
核融合炉条件
1d5
0窃
?
Jτ一60(日)
§1ナ
臨界プラズマ
JETぐユ.一ラトム)
コ
TFTR(米)
乞
1981
L977
警Ld3
蓋
1975
研究の歴史的発展の様子も示されている。
1980
1980
1974 1975
ふ
最近,Alcator
CではnτE=(0・6〜
争1d2
口
0.9)×∬4c㎡一3sに達し,臨界プラズマ
1968
のそれをわずかに越えた。閉じ込め実験
条件
1983
ロ
はトカマグ型装置による高温プラズマの
樫ン
INTOR(工AEA)
1971
1d1
1965
の進展に対応してプラズマ加熱の実験も
1♂
急速な進歩をとげてきており(第2図)・
0.1
10
10
100
イオン温度η(keV)
PLTにおいて高速中性粒子D。をプラズ
マ(H+)内に入射加熱し,T㌔=7.2
1
keVの高温プラズマを実現した。これは
第1図
トカマク型装置の閉じ込めと加熱の研究の進展
の
,』
核融合炉のイオン温度領域に達するプラ
ズマ加熱に成功した画期的に重要な成果
5
であった。
さて,
加熱
に先立って核融合炉の
実現に必要なプラズマパラメター(ローソ
ン条件)について言及しておこう。DT
核融合反応が持続するための炉心プラズ
NB1\/
ハ
弐4
!ノ勧
ノ ハ
ピ
/PしT
Σ
と
Q3
タ
o
ユ
リ2
コ
α
c
1
マのエネルギーバランスを考えよう。
T(d,n)4He反応によって生じたα
0
粒子(そのエネルギーQα=3・52MeV)
はプラズマ中に閉じ込められ,プラズマ
q
を加熱する。このα粒子加熱は単位時間,
O
i
☆蹴
1
Pし了
糊あ雌嫡鞠撫
_ECH誌概_
1976
単位体積当りPα=(n/2)2くσv〉Qα
1978
1980
丁一10、PDX.D現,HE
JIPP一l
TO…くンヘ,WT−2,V¢rs
1982
年
で与えられる。ここにD,Tの密度は
第2図
niD=niT=n/2,〈σv〉はDT反応
266
プラズマ加熱研究の年次的進展
1984
講座
プラズマの加熱
田中,黒田,他
の反応率である。一方,閉じ込められたプラズマからのエネルギー損失は電子温度もTiに等しいとし
ノ2・/2
て単位時間当りPb+PLである。ここに制動放射はPb=αn Ti
(〆;定数),プラズマの熱
エネルギーや粒子の磁場を横切る拡散などに基づくプラズマのエネルギー損失は
PL=2(3/2)nTi/τE
(τE;エネルギー閉じ込め時間)である。さて炉心プラズマの自己点
火条件はα粒子加熱によってプラズマのエネルギー損失を補なうという条件,すなわちfレニPb+PL
から求められ,これを第1図にプロットした。この点火条件をみたす核融合炉INTORの概念設計
が1978年以来国際協力で行なわれている。
次に加熱入力PHを付加することによって点火条件がどの程度に緩和されるかをみよう。エネルギ
ーバランスの式はPα+PH=Pb+PLとなるが,とくに加熱入力と等しい核融合エネルギーが得ら
れる臨界プラズマ条件は第1図のようになる。このプラズマは,JT−60などの大型トカマクで実現
されるものと考えられている。ローソンは核融合炉プラズマを保持するために必要なエネルギーは核
融合反応を起こしているプラズマから出てくる総エネルギーのη*倍以下でなければならないとして
次の条件を与えた。Pb十PLニη*(PT+Pb十PL)。ただし,PTはDT反応による出力で
PT=(n2/4)〈σv〉QT・上式を書き直すと
nτE−3Ti{η*(・一η*)一1QT4一・〈σv〉一αノTih−1,ただしQT−22・4MeVはDT
反応から得られる全エネルギーである。ここでη*=1/3としたものがローソン条件であり,自己
点火およぴ臨界プラズマ条件はη*=0・136,0・536
とおいたものと同等である。以上によって核
融合炉のプラズマとして必要なnτE,Tiが求められたが,このような高温度(Ti〜10keV)を
達成するプラズマの加熱についてその方法と物理機構について述べるのが本稿の目的である。さらに
プラズマに入射した高周波波動,または高エネルギー粒子の運動量をプラズマ電子に与えて,電子を
トロィダル磁場に沿って一方向に加速できればプラズマ電流を生成することができる。このような非
誘導電流駆動についても述べる。
§2.卜力マク・プラズマの加熱
①
ジュール加熱
トカマ蝶置では強いト・イダル磁場BJこ沿って強力なプラズマ電流lpを流し・これカ∫作る
ポロィダル磁場B
P
の回転変換によってプラズマの平衡を維持してプラズマを閉じ込めるとともにプ
ラズマの比低抗ηLによるジュール加熱ηLj2(jは電流密度)によってプラズマは加熱されるσこ
の時,電子のエネルギーバランスは次式で与えられる。F
267
核融合研究
第51巻第4号
一1984年4月
曇(音neTe)一ηL」2一著neTe/τEe遷ne(Te−Ti)/τeq
右辺第2項は電子のエネルギー損失を,第3項は電子からイオンヘの熱輸送を示す。高温プラズマの
比低抗はηL一帥ei/ne2一・.65×・・一gZ召n〃(Te/・keV)3緬m)ψeiは電子が
Z価のイオンとクーロン衝突する頻度を表わす。ηLはneに依存せず,Teが高いほど小さくなる
2
−3ρ 2
のがプラズマの著しい特徴である。かくてジュール加熱はηL j㏄Te
Ipとなり温度の上昇と
ともに加熱入力は減少する。一方,プラズマ電流1
は磁気流体的安定性によってその上限が抑えら
P
れ(クルスカル・シャフラノフ限界)無制限には大きくとれない。しかもTeの上昇に伴なって輻射
損失などが増加するので,ジュール加熱のみで達成しうるプラズマ温度はTe盤2keV程度が限度
である。それ故,ローソン条件をみたす高温プラズマを実現するためにはジュール加熱で得られたプ
ラズマをさらに他の方法で追加熱(第2段加熱)することが必要不可欠となる。
(2)第2段加熱
この加熱に要求きれる条件を考えてみよう。(1)まず必要な電力Pはエネルギーバランスの式
dW/dt=P/V−W/宛から求められる。これはプラズマの単位体積当りのエネルギーW=
(3/2)n(Ti+Te)の時間変化が加熱電力P/V(プラズマの体積V=2π2a2R,トーラスの大
半径,小半径はR,a)とエネルギー損失W/τEとできまることを意味する。ただしα粒子加熱は考
慮していない。上式はPを印加した時間からWは直線的に増加し,ついには飽和して定常状態に達す
るが・その値は臨=3n
T=τE(P/V)となり・到達したプラズマの温度丁(=Ti=Te)
は単位体積当りの入力P/Vと,エネルギー閉じ込め時間τEに比例する。
加熱に必要な電力は
P/V(MW/m3)駕0・5(n/1014cm『3)2(T/10keV)(nτE/1014c㎡』3s)一1と与えられ・
加熱時閻としてはτH>τEが要求きれる。臨界プラズマ条件で実現を狙うJ
T−60では
n=0・5×1014c㎡曹3・τE=0・5sとしてP=30MWでT=10keVに達する(第1図参照)。
トカマク型核融合炉(INTORクラス)を点火条件(T=10keV,n殆=1014c㎡一3s)の温度に加
熱するためにはP/V㌶0.47W/cm3,P魁80MWかつτH〜10sが必要となる。第2段加熱
としてはこのような巨大電力が入手しうる見込みのあることが,第一に要求される条件である。
②第2段加熱は閉じ込めのよい装置で行なうことが必要であるが,さらに加熱することによってプラ
ズマの閉じ込めを悪くしないことが必要である・τEが減少すれば・加熱電力Pを入射しても・温度
丁が上昇しないことは上式から明らかである。加熱による温度上昇は,定常状態に達したときに
τE(帆a2)が変らないと仮定して△(Ti+Te)(keV)一η(P/MW)/(n/・・13cゴ3)
(R/100cm)と表わせる。ηは加熱効率を表わす係数(Fig.of
268
Merit)であって・いろいろな
講座
プラズマの加熱
田中,黒田,他
加熱法の比較検討に有用なパラメターである(第4〜6図参照)。この加熱の比例則を検証し,ηを
求めることが加熱実験に課せられた重要課題である。(3)炉心プラズマ(半径a〜1m)の中心部にエ
ネルギーを伝送して,プラズマ中心を加熱することが必要である。表面加熱は,ここで発生した高エ
ネルギーイオンが真空容器にぶつかって不純物を叩き出すなどの危険がある。(4)加熱用電源の出力
PGのうちξPGがプラズマ加熱に役立つとすると到達温度はT=τEξPG/(3nV)となる。
効率ξが高く,安価なエネルギー源PGの開発が要求される。
(5)これらの要求をみたす可能性をも
っものとして,現在集中的な研究が行なわれているのは高エネルギー中性粒子束あるいは電磁波をプ
ラズマ内に入射して加熱しようとする,中性粒子入射(NBI)加熱と波動(RF)加熱
とである。以
下これについて述べよう。
§3.中性粒子入射加熱(NBI加熱)
中性粒子は閉じ込め磁場を自由に横切ってプラズマ中に入りイオン化される。プラズマ温度より十
分高いエネルギーをもつ中性粒子束を磁場容器に閉じ込められたプラズマ内に入射し,プラズマによ
るイオン化で高速イオンに変換し,磁場による捕捉,プラズマとの相互作用によるエネルギー損失の
過程を経てそのエネルギーをプラズマの粒子に分配して加熱するのがNBI加熱である。NBI加熱の
効率は入射粒子のこれら諸過程に依存する。中性粒子のエネルギーを標的プラズマの条件に応じて選
択することによってプラズマの中心まで加熱できる。NBI加熱はプラズマ中でのエネルギー損失の
機構が古典的なクーロン衝突であって,加熱機構がよく理解されている効率のよい加熱法である。
(1)高速中性粒子のイオン化と粒子束の減衰
プラズマに入射きれた高速中性粒子がイオン化される過程はプラズマィオンとの荷電交換,衝突電
離,プラズマ電子との衝突電離の3つである。これらの過程でどれが重要になるかは入射粒子のエネル
ルギーWbに依存し,重水素原子についてはWb<80keVで荷電交換が主であり・Wb>80keVで
はプラズマ中のイオン(H+,D+)による衝突電離が主になる。入射された中性粒子束の強度はイオ
ン化によって減衰するのでプラズマ中心にまで入射中性粒子が到達し,プラズマ中心を加熱するため
には,イオン化による平均自由行程が十分大きく,しかもプラズマを貫通して器壁を衝撃しない様に
標的プラズマの密度,入射角等の条件を考慮しつつ,最適な中性粒子エネルギーを選択する必要があ
る。
中性粒子のプラズマ中での平均自由行程
λoは
λず一・.(・){舞σ磯σi+馨吸+く誓vOl〉}
269・
核融合研究
第51巻第4号
1984年4月
と表わされる。σcx,Ol,σR,σeはそれぞれ荷電交換,イオン,不純物イオン,電子による電
離断面積である。イオン化に対する不純物の効果は実効電荷数Zeff=Σ豊Z2k
k
を用いれば
ne
λ。はZeffに依存する。中心密度no[c㎡騨3]・プラズマ半径a[cm]粒子エネルギーWbとす
ると,そのエネルギーの選択条件はn。a=2.2×1014Wb/Zeffで表わされる。例えばZeff=1,
n。a−22×1016cm−2とすれば・Wb−100keVとなる・
(2)高速イオンの閉じ込め
プラズマ中でイオン化された高速中性粒子がそのエネルギーを有効にプラズマ粒子に与えるために
は,プラズマ中に高速イオンとして捕捉され,エネルギー減衰時間に比べて十分長い時間閉じ込めら
れなければならない。高速イオンのプラズマからの損失は,プラズマ粒子との衝突による拡散よりも,
そのイオンが容器壁を横切る軌道を描くために起る損失の方が大きく,その量はイオンの実空間と位
相空間の位置に依存する。トカマクでは高速イオンの軌道が容器壁を横切る割合は,中性粒子の入射
方向がプラズマ電流に対して・平行(co−injection)・反平行(counter−injection)・
垂直
(radia1−injection)の順で増大する。軌道のずれの依存性は4Wb/Ibで,エネルギーが大き
いほど,捕捉率が悪くなるが,プラズマ電流1
が大きくなるにつれて損失は著しく減少する。それ
P
故・大型トカマクではWbが大きいがIpも大きくなって全体として高速粒子の捕捉はよくなると考
えられている。
高速イオンは捕捉後もプラズマ中に存在する低温度の中性粒子との荷電交換によって,再び中性粒
子となって損失するほか,トロィダル磁場Btの不均一性に由来する局所的ミラー磁場に捕捉きれ,
その閻のドリフトによるリップル損失などによっても失なわれる。
(3)高エネルギーイオンの熱化
プラズマ中に捕捉された高エネルギーイオンはプラズマ中のイオン及び電子とのクーロン衝突1とよ
って,そのエネルギーをイオン及び電子に与え,熱化する。高エネルギーイオンの速度Vbが
(需)>Vb>(嘉)の時そのエネルギーの損失は醜/Vbdt一一(覗)一βW1/2
e
i
である.但しα一α,AZ2ΣniZi/Ai・β一β,Z2κ・〃neT53/2,A,Aiは入射粒子・
i
プラズマイオンの原子量、Z,Ziはそれぞれのイオンの荷電!αo,βoは定数である。
第一項は
電子,第二項はイオンによるエネルギー損失を表わす。入射粒子のエネルギーがWc=14・8Teより
大きい時には高エネルギーイオンのエネルギーは電子に多く分配され,Wcより小さい時にはイオンに
より多く分配される。高エネルギーイオンがこの過程で熱化されるに要するエネルギー減衰時間tsは
270
講
田中,黒田,他
プラズマの加熱
座
t、一与4n[・+(叩罵)吻で与えられる・ここに・
窄3畷墨)(芽令%はプ・トンの質量である。
p
i
e
(4)プラズマの加熱
プラズマが中性粒子の入射電力でどれだけ加熱されるかは,プラズマのパワーバランスによって決
3
まる・イオン1こ対するパワ葡バランスは■niTiV/τEi=αipN+pei・pNは帷粒子
入射電力,P
eiは電子からイオンヘ移る電力,Vはプラズマの体積,τEiはイオンのエネルギー閉
じ込め時間,αiは中性ビームのイオン化効率,捕捉率,イオンヘのエネルギー分配率等によって決
3
まる効率を表わす・一方電子鮒するパワ}バランス1㌃neTeV/τEe=P・H+αepN−
1P
eiでPOHはジュール電力,τEeは電子のエネルギー閉じ込め時間,αeは電子へのエネルギー
分配率等で決まる効率を表わす。
⑤
NB
I加熱実験
現在までにTFR,PLT,J
FT−2など,多くの中型トカマク装置で加熱実験が行なわれて来た
(第2図)。実験初期には,加熱効率,パワーバランス・入射方式の有効性の比較などに重点がおか
れた。入射技術の進歩に従って,大電力NBI実験が行なわれたがプラズマ閉じ込めへの悪影響も現
われず,NBI加熱の有効性が実
証きれてきた。最大のNBI電力は
Re。c曳心
HeαtinqEfficiency
PDXにおける7MWの実験で
ユ
ne蟹4×10,cm・Ti=7keV
10
を得た(第3図)。加熱効率はイ
..丼
(Pαrqllel)
〉
オンに対してηi=1.4〜5.8,
電子に対してηe=0・7〜3・5で
o
「
轟
PDX
ト
く
ン・パワーバランス等の検討の結
「一IO
果,古典的クーロン衝突によるも
のであることが理解されるととも
ECH
(△τel
l
I
『
O・1
に,平行,反平行及び垂直入射と
も有効な加熱法であるこ.とが実証
I
(Perp.)
器》繍
ある。加熱機構はシュミレーショ
N
第3図
された。加熱法の確立とともに,
271
I
l
1
暁R(M賜d5cm曙)
プラズマ加熱の効率(PPPL
report)
核融合研究
1984年4月
第51巻第4号
NBI加熱の大電力化並びにそれに伴う諸現象も詳しく調べられるようになった。高電力NBI実験の
結果・平均ベータ値はくβt〉駕3・3%(PDX・D皿)に達した。また高速イオンも入れたプラズ
マのエネルギー閉じ込め時間に関してはτE*㏄1ず
PN『沸がISX−Bで求められるとと翫PDX
眼てもlpの小きい場合・NBI力口熱によってτE*が小さくなること・さらにD皿・JFT−2でも
NBI加熱プラズマの閉じ込めに1が関係することが観測されている。この外にもNBIによって電
P
子密度が抑制されること,粒子の輸送効果に関係して,平行,反平行入射で不純物の蓄積が異なるこ
と,プラズマリングの回転な「ども観測きれている。
一方・トカマクだけでなくステラレータ・ヘリオトロンでもNBI加熱が行われ・ηi=4・4が得
られ,さらにDITEにおいてはNBIによる電流駆動の実験も行われた。
NBI加熱は他の加熱法に比べ実験例が多く,入射電力も大きく,加熱に伴なう種々の物理現象の
解明も一番進んでいる。NBI加熱が将来の核融合炉での有効な加熱法となるためには,さらに大規
模の実験及ぴ入射技術の進歩が不可欠である。TFTR,JT−60,J
ET等の大型トカマクでは10
MW級のNBI実験の準備が進められている(JT−60では20MW)。
⑥
NBI加熱の技術と問題点
高速中性粒子はイオン源から引き出され,必要エネルギーにまで加速されたイオンを,中性気体中
を通過させ,気体粒子どの荷電交換によって高速中性粒子に交換してつくる。大型正イオン源は加速電圧
〜120keVのものが開発され,多孔電極の引き出しによって,イオン電流〜80Aが引き出されてい
るが,加速電圧の増大とともに,引き出し電極での絶縁破壊,冷却などの技術的困難が増大する。一
方正イオンでは申性化の衝突断面積がイオンのエネルギーの増大とともに減少するので中性粒子の生
成効率が低下する。将来の核融合炉で要求される高エネルギー中性粒子(200keV)では,負イオン
を用いることが考えられ,大電流負イオン源の開発が進められている。数アンペァの負イオン源の実
験がすすめられているが,加速方式,発生など技術的問題も多い。
将来の入射装置としては長時間運転が可能であって,より高エネルギーのものが必要とされるが,
技術的間題点としては,1)中性化きれなかったイオンの熱処理,ii)イオン源の熱負荷,iii)イオン
源の長寿命化等がある。核反応プラズマにおけるNBIでは上記の問題に加えて,lV)Tの中性子入射
ポートからの流入のための入射装置の敏射化と保守,維持,管理の問題,V)イオン源等機器の高信
頼性,vi)遠隔操作などが新しい装置技術が問題となろう。
§4.電磁波動加熱(R:F加熱)
①
波動加熱の特徴
272
講座
プラズマの加熱
田中,黒田,他
波動加熱は高周波(RF)を適当な結合系を通してプラズマ内に伝送してプラズマ波動を励起し,
これの吸収によってプラズマを加熱しようとするものである。ここでは数種の周波数帯にわたって加
熱法が考えられ,それぞれが§2(2)の第2段加熱の条件をみたす可能性をもっている。RF加熱は
NBI加熱に比して現象が複雑で不明の点が多いが,その特徴は,装置が比較的簡単で,伝送系を使
うため中性子による損傷をま狙がれうること,プラズマ中心部へR
F電力を伝送するのが容易であり,
特定のエネルギーのイオンあるいは電子を選択的,かつ局所的に加熱しうることであり,多様な適用
に富むことである。
(2)波動加熱の分類
この加熱法ではプラズマ周辺部に励起された波動を中心部まで伝播させなければならない。一般に
プラズマ波動の電場E,fが閉じ込め磁場Bと平行であるときは・その鯛波数がω≦ωP.(電子
プラズマ振動数)であれば,波動は電子によって遮断され伝達できない。しかしErf⊥Bの場合に
は荷電粒子はErf,
Bの両者に垂直に運動し,電場を遮断できず,波は伝播する。一方,高温プラ
ズマでは,荷電粒子の衝突による波動の減衰はほとんど効かないから(Te=1keVのプラズマの比
抵抗はηL=3・3×10一89mとなって室温の銅のそれと同程度である)非衝突減衰を伴なう波動
が有力な候補となる。磁場中のプラズマ波動は数多く存在するが上述の条件をみたす波動の数は多く
はなく,次の3つの加熱法が現在集中的に研究されている。⑤電子サイクロトロン加熱(ECH)1
入射RFの角周波数はω〜、9e(電子サイクロトロン周波数)で,100GHz帯(波長3mm)である。
⑤低域混成加熱(LHH);周波数はω2〜ωLH2一ωpi2(・+ωpe2/ρe2)一1駕ωpi2で・・GHz
帯である。⑤イオンサイクロトロン領域(ICRF)加熱1周波数はω〜興(イオンサイクロトロン周波数)
で,50MHz帯である。さらに低い周波数帯でアルフヴェン波を用いた加熱法もあるが,未だ予備的段階である。
③
波動加熱の物理的過程
波動加熱はエネルギーの流れに従って6つの過程に分けて考えられる。①適当な周波数,電力の高
周波を発生し,(2)伝送線路を通して給電し,(3)適当な結合系を通してプラズマ表面に入射し,プラズ
マ波動を励起する。(4)この波動はプラズマ表面から中心に伝播し,共鳴領域があるときは短波長の波
動にモード変換する。(5)かくて生じた位相速度の遅い波動は,線形無衝突減衰或いは非線形減衰など
適当な機構によってプラズマに吸収されて波は減衰する。⑥ついで特定のプラズマ粒子に輸送された
エネルギーはなんらかの緩和過程を経て有効に熱化されることが必要である。これらの過程で,波動
はプラズマの閉じ込めを悪くせずに熱エネルギーとしてプラズマ内に蓄積されなければならない。こ
れらの過程の具体的問題はそれぞれの加熱法の項において述べるが,ここでは波動の伝播と吸収の一
般論について述べておこう。
273
核融合研究
④
第51巻第4号
1984年4月
波動伝播とモード変換
トカマクプラズマは強いトロイダル磁場内にあって,磁気軸で電子密度は最大である。対象と
するプラズマは,このように密度,磁場が空間的に変化している高温プラズマである。さて結合系を
通してプラズマ表面に励起されたプラズマ波動が不均一プラズマ内を伝播して中心に到達する道筋を
考える。波動方程式k×(k×E)+(ω/c)2KE=0を使って,周波数ω,波数k(磁場に垂
直,平行成分をそれぞれk⊥・k
とする)の波の分散式はG(ω・k)一aぜ+bk⊥2+c一・と
なり,2つのモードの波動が存在することになる(但し冷たいプラズマの近似)。Kは磁気プラズマ
の誘電率テンソル,係数a,b,cは,プラズマ密度,磁場,温度(Ti,Te),衝突周波数,ω,
k
(したがってkとBとの角度)の関数で脅る。不均一プラズマではこれらの係数は空間座標の関
数であり,波動は空間の各点rで局所的な分散式をみたしている。はじめにプラズマの温度は零(冷
たいプラズマ)とし,磁力線方向には一様で,パラメターの変化は垂直方向のみとする。上式で
ピ≦・の遮断領域では波は伝播できなし・・k⊥一・・の鵜領域では波の位相速度は零となってプ
ラズマ粒子との強い相互作用を起こすことになる。プラズマ表面で励起された波が遮断領域に遭遇せ
ず,中心付近の共鳴層にまで伝送されるためには,k
をある臨界値以上に保つ必要がある(近接条
件)。実際に,波動がどのような軌道を通って伝播するかは幾何光学近似のもとで
dτ/dt冨_(∂G/∂k)/(∂G/∂ω),dk/d
t=(∂G/∂r)/(∂G/∂ω)を電算機に
よって数値的に解いて求める。
さて・プラズマパラメターは座標に関してゆるやかに変わるとしても・遮断(k⊥→0)及び共
鳴(k⊥→∞)領域ではk⊥(x)は急変するので,.WKB近似は破れ,波動光学の取り扱いが必要と
なる。何れの場合も分散式はbkf+c=0の形に近似されるが(kf→。。の場合は,akf+b;
0),電場に関してフーリエ逆変換するとd2/dx2+ピE=0となる。ただしk⊥2(x)=一c/b。
上式はk⊥→0(c=0)の遮断の近傍では線形転回点方程式d2E/dx2+(x+iε)ンE=0,
並びにk⊥→∞(b→o)の共鳴の近傍では特異転回点方程式d2E/dx2+μE/(x+iε)謡o
と近似き
れる。転回点近傍の解を遠方での漸近解と接続して求めた結果,前者では転回点において波は全部
反射して戻り,後者では転回点において全部が吸収されることが示され為。さらに上記の転回点が接
近して起こる場合がBuddenによって論じられた。この興味ある波動はd2E/dx2+k⊥・・2(1
+∠x/x)E=0と表わされる。
∠xは遮断領域の幅,k上∞は波数の漸近値(x→。oにおける値)である。+x側から入射した波
動は共鳴層を通った後に遮断層をトンネル効果で透過してくるが,透過エネルギーはexp(一πξ),
吸収量は1−exp(一πξ)1と計算される。
逆に(一x)側から入射した波は遮断,共鳴層を通って
274
講
プラズマの加熱
座
田中,黒田,他
exp(一πξ)が透過するが,{1−exp(一πξ)}2が反射するから,吸収量はe一πξ(1−e『πξ)
となる。ここにξ=k上。。∠xである・トカマクプラズマの波動伝播ではBudden問題に遭遇する。
例えば(一x)側入射においてICHではトンネル効果が効くため波は共鳴層に到達できるが,・ECH
ではこの効果が効かなくて入射波は全て反射してしまう。
さて共鳴層ではk⊥2→・。であるが,誘電率テンソルに温度の項を入れると新しいプラズマ波動が
生じ,k⊥→・・の波はこれに接続して有限なk⊥の波にモード変換する。温度の1次の項を考慮する
と分散式はαk⊥6+a
k⊥4+b
k⊥2十c=0となるが,cを無視してフーリエ逆変換すると,
d4E/dx4+px(d2E/dx2)+qE;0となる。E(x)はラプラス積分法,或いは漸近
解をつなげて求めることができ,上述の冷たいプラズマ波動がモード変換されることがわかる。例え
ば低域混成波は共鳴領域付近でk⊥が有限の高温プラズマ波動に変換し,これがイオン・ランダウ減
衰を受けることになる。
⑤
プラズマ波動の吸収
高温プラズマでは粒子間の衝突頻度は少ないので,無衝突減衰,とくに共鳴粒子による波動エネル
ギーの吸収が重要であり,その条件はω一k
v
一n・9=0である。ただしv
の速き・nは整数・皿はサイクロトロン周波数である。n=0ではω/k
=v
は粒子の磁場方向
で共鳴粒子は波動と
一緒に運動してRF電場を直流電場のように感じ,わずかに遅い粒子は加速され,速い粒子は減速き
れるので・粒子の速度分布がマクスウェル分布のときはランダウ減衰[(∂f/∂v).一ω/k
を受けることになる。n;±1の場合はv
で運動する粒子からみる電場の周波数ω一k
v
<・]
(ドッ
プラー変位した周波数)は旋回するサイクロトロン周波数に等しく,粒子は回転する電場によって常
に加速され,垂直エネルギーを増す。これはイオン(或いは電子)サイクロトロン減衰であって,吸
収量は共鳴粒子数に比例する。l
n
l≧2はサイクロトロン高調波減衰を表わすが,その減衰量は次
数(n)が1つ大きくなる毎に(k⊥ρ)2借小さくなる(ρは減衰に関与する粒子のラーマー半径で
通常(k⊥ρ)2<1である)。
さらに高エネルギー粒子(k⊥ρ>1)のみが平均として加速電場
を感ずる統計加熱も起る。
⑥
波動加熱の応用
波動加熱は,①電子またはイオンを加熱すること以外にもさまぎまな応用的使用の可能性が考えられ
る。②電子温度の空間的分布制御によるプラズマの安定化に役立つ。すなわち局所的な電子加熱を行
うことによって,トカマクの電流分布の制御,バンピートーラスの高温電子リングによる安定化,ミ
ラー型プラズマのサーマルバリヤーによる端損失の制御などが可能である。③高周波によってトロィ
ダル方向のプラズマ電流を駆動できる。これは§8に述べる。(4)電子或いはイオンサイクロトロン共
275
核融合研究
第51巻第4号
1984年4月
鳴によってプラズマの生成ができる。それ故トカマク放電の予備電離,ステラレータ装置などにおけ
る無電流プラズマの生成,真空容器の放電洗浄などにも有用な方法となる。次にそれぞれの加熱法に
ついて問題点と現状とを述べよう。
§5.電子サイクロトロン加熱(ECH)
①
加熱方法
トーラス装置の高磁場側,或いは低磁場側からトロイダル磁場に適当な角度で適当な偏波面をもつ
電磁波を入射,伝播させるとき,中心のサイクロトロン共鳴領域(ω=、9e,BT=2Tのとき56
GHz)において電磁波はサィクロトロン吸収され,プラズマ電子は加熱される。正常波では
ω2>ωpe2・高磁場側から伝播する異常波ではω2>ωPぎ/2である限りプラズマ曝断領域は
現われず,電磁波はプラズマ中心部へ伝播可能である。電磁波の吸収率の目安を与える光学的厚さは,
磁場唾直に近い角度で伝播する正常波では恥2×・σ2%(keV)(ωpe2/ρe2)(R/λ・)と
与え弧軽トカマク(Te≧・keV・主半径R〜・m・電磁波の自由空間波長λ。≦・cm)では
r。≧1となり,小半径断面内の1回の横断で電磁波はほとんど全部吸収零れる。異常波では電子と
同方向に旋回する左手系円偏波の成分の大きさが角度に依存するため伝播角θ乞40〜50度が最適で
瞳収率は正常波のそれと同程度である。さらに第2高調波(ω=2、9e)においてもω=、9eのそ
れと同程度の吸収が期待される。ただし,伝播角度の依存性が正,異常波間でω=厨eのときと比べ
て逆になる。
ところで低磁場側から入射した異常波は遮断(サイクロトロン遮断)領域,上側混成
共鳴領域を通って中昼のω=皿eに達するが,この径路はBudden問題で記述される。遮断領塚の
幅が長く,ξが大きいために,
入射エネルギーの大部分は反射する。それ故異常波は高磁場側から
入射する必要がある。このとき,冷たいプラズマ近似の上側混成波は,共鳴層において熱いプラズマ
波動にモード変換し,再び高磁場側に伝播する。これは電子バーンシュタイン波と呼ばれ,電子サィ
クロトロン各高調波近傍に分枝をもつ静電波(縦波である)で強いサイクロトロン減衰を受ける。こ
の上側混成波による共鳴加熱が低温プラズマ,あるいは小型トカマクの電子加熱に効いていると考え
られる。
(2)ECH実験
高電力ミリ波源(ジャイロトロン)の開発とTM−3の実験結果に刺激され,ECHの実験は最近
急激な発展がみられた(第4図)。ISX−Bではトーラスの内側から0とXモードの混合波を入射し
て電子加熱を,J
FT−2では0とXのそれぞれのモードによる加熱と電子密度による遮断の効果が
確認された.T−10では基本波と第2高調波における加熱の差違が比較検討された。60GHz,
276
講座
田中,黒田,他
プラズマの加熱
0.2MWのジャィロトロンが開発され,
PDX,D皿においてECH実験が開始さ
1.5
れた。これらの電子温度の上昇を加熱の
,マ=15
・
ノ
ヌ
//η=5
比例則にプロットするとη二4〜13と
ノ
いう著しく高効率の実験結果が得られて
いる。この電子加熱に伴なって密度が減
ノ
!
!
PDX
△▲H−E
1.0
>
ノ
ノe
ど
/
ヂ
)
w一∬VA
ノ
!φJFT−2(X−M戯)
Φ
論的には予想されていなかった現象も現
/
rO了一驚0 /
1(ω3Ωの!
ハ
Φ
少する(14ne/ne≦・・2)という理
1
!
卜
由D㌔1ぎX.B・T−1・(ω・2Ωも)冊⑩RΦ
ぐO.5
ノ
ノ
ノ
われた。
/
ロJFT−2(O−Mod2)
ノ
ノ
(3)応用
1)
ノ
トーラス装置にマイクロ波を入射す
ると電子サイクロトロン共鳴(ECR)に
ノ
!
/
!●」IPPT
!
O
2
図TM−3
∈)WT−2
O.2
04
Prf/hR(MW/1d5c㎡2)
よって放電が始まり,上側混成波によっ
てプラズマが生成される。WT−2では.
第4図
電子サイクロトロン加熱(ECH)の加熱効率
このECRプラズマを予備電離として,
ジュール電力を印加すると,トカマク放電開始に必要な初期のループ電圧を数分の1に低減でき,逃走電
子の発生も抑制された。このECRプラズマ生成法はトロイダル電流を必要としないステラレーター装
置などのプラズマ生成にはとくに有効であり,ヘリオトロンEでは28GHz,90kWの入射電力で
Te=1keV・Ti=・0・1keV・五e=(L5×1013cm−3のプラズマを発生しえた・2)バンピートー
ラスNBTではECHによってプラズマを生成し,高温電子リングを形成し,プラズマの安定化磁場
を作っている。3)タンデムミラー装置ではECHによってサーマルバリヤー層を作り,中心部プラズ
マの端損失を抑制することが試みられている。ガンマー10では28GHz,100kWのECHによっ
てプラグ部の電位が上昇し,サーマルバリヤーが形成され,プラズマの端損失が減少した。4)トカマ
クではECHによってプラズマ電流の空間分布を制御してピーキングによる不安定性を抑え,或いは
温度分布を拡げてプラズマのβ値を上げることが可能であると期待されている。5)さらにECHによ
って共鳴電子の磁場に垂直方向のエネルギーを増大し,電子のエネルギー分布を抑制することができ
速度空間不安定性を抑制しうる。実際にWT−2では高周波電流駆動に伴う不安定性をECHで安定
化した。6)ECHによるプラズマ電流駆動については§8で述べる。
@)まとめ
ECHの特徴は導波管で伝送した高電力をプラズマ内部に容易に伝送しうることである。しかも不
277
核融合研究
第51巻第4号
1984年4月
純物の影響を受けることもなく電子のみを局所的に加熱し,その機構は簡単で応用面も広い。しかし,
ECHが核融合炉プラズマ(BT蟹5T)に対しても有効であるためには150GHz帯100kWクラス
のジャイロトロンとその伝送回路の開発が緊急かつ不可欠であることを忘れてはならない。近い将来
に予定されているヘリオトロンE,D一皿,およびT−15でのMWクラスのECHとその応用的利用
の有効性が実証され,さらに核融合炉のECHへと発展するものと期待される。
§6.低域混成加熱(LHH)
(1)加熱方法
静磁場と垂直に伝播する静電波(縦波)である低域混成波の周波数ωLHは、9i《ωLH《、9eに
あり,高密度プラズマでの共鳴(ωLH2;皿e・9i)では,この波の1周期の間に電子は多数回ラーマ
ー旋回して,その案内中心が楕円軌道を描くが,イオンは磁場を感ぜずに直線軌道上を振動して両者
が共振すると理解される。直角からわずかに傾いた斜め伝播の場合にはこの波は
N
駆=6。5(ω2/ωLHl−1)で高温プラズマの低域混成波にモード変換し,共鳴イ
オンがランダウ減衰を受けるか,或いは磁場方向の共鳴電子がランダウ減衰を受ける
(5≦N
πが必要)。
したがって,磁場方向の波数k
を適当に選ぶこと
によって,イオン或いは電子を選択的に加熱しうる。プラズマ中心の共鳴領域に低域混成波を外部か
ら伝送するためには近接条件》一c2k〃2/ω2>・+(ωP8/9ざ)ωLH一ωを満たす必要がある
(炉心プラズマでは屈折率彫2≧1・4)ので,磁場方向には光速よりも遅い位相速度の波を伝送し
なければならない。適当な遅波回路によってこのような波動を励起したとき,プラズマ境界にある極
く薄い遮断層(ω
pe
2<ω2)をトンネル効果で透過した波動は共鳴領域で高温プラズマの低域混成波
(正確にはイオンバーンシュタイン波でω=n、9.においてサイクロトロン高周波減衰する。ただし,
1
nは整数で通常20〜30である。)にモード変換し,減衰を受ける。この波動は磁場と平行に進みな
がら高密度領域に進むので,トカマク装置ではトロイダル方向に進むとともにポロイダル方向に振ら
れつつプラズマ中心に進み,共鳴領域に達するという複雑な軌道を描くことが軌道解析で計算されて
いる。この軌道,共鴫層の位置は,波数k
,磁場B,密度ni,したがって不純物イオンの量などに
強く影響を受けることに注意する必要がある。
(2)
LHH実験
LHHの長所は1GHz帯の高電力を導波管によって効率よくプラズマに入射しうることにある。
前述の近接条件を満たす遅波をプラズマに放射するランチャー(結合系)はトロイダル方向に沿って
数個の導波管を並べ,その電場がトロィダル方向を向き,位相が順次遅れるような電磁波を各導波管
278
講
プラズマの加熱
座
田中,黒田,他
に伝送する位相調整きれた導波管列である。これによって核融合プラズマの中心部にまで低域混成波
を伝送する。LHH実験はWEGAなどで行われたが,イオンの加熱量が小さく,不純物の発生,電
子密度の増加などに悩まされ続けてきた。最近JFT−2,WT−2,Alcator
Cなど多くのトカマ
クにおけるLHH実験によって,(1)電子密度が高い(ω/ωLH≦L75)ときはイオン加熱が,(2)電
子密度がやや低いときには電子加熱が起こり,③きらに低密度のプラズマ(ω/ωLH≧2。2)では
高周波駆動によるプラズマ電流の生成が示された。(Alcator
ナ
CにおけるHプラズマの場合)イオ
ン加熱の領域ではプラズマの電子密度が高く,プラズマ中心部に伝播した低域混成波がここでモード
変換し,イオンによるランダウ減衰を受ける(波の位相速度Vph⊥<3。7VTi)。実験で得られた
加熱効率はηi#2・5〜6,9である(Alcator
Cではηi=6・9)。LHHによる電子加熱の実験ではηe=・2〜
10の値が得られ,イオン加熱よりもさらに有効な加熱法と考えられる(Alcater
Cではηe蟹10)。しかし,LH
Hの極だった長所は最近急激な展開をみせている高周波電流駆動であろう(これにっいては§8で述べる),。
ところで低域混成波の伝播及び減衰過程を
含む加熱機構は非線形現象も関与して複雑で
ず
η=17
1
▲A
あり,解明すべき問題点が多い。例えば
LCATOR−C
1
>
Φ
x 1、5
//
F
起こり,電子の熱エネルギーがイオンに輸送
し
されてイオン加熱が起こるとしている・第5
/
や
ぐ
CではLHHによって電子加熱が
!!幅加Driv¢)
ぐ
ρ
Alcator
!/㍗3
F
!
!
/
10
/
図にはLHHによる電子とイオンの温度上昇
!
1
!
1
オ
O
!
/
!
/
!
/
FT
「
1
の和を入射電力に対してプロットしてある。
/
!
O.5
ノ
ド
1
このときの加熱効率はη二3〜17である。
!魯匹TULA−B
し
1WE酬(Eし・H)
、
Alcator
e
P」FT−2
凶丁一2■ ●JIPPτ『2
て,ECHを上回る高効率である。また,低
躍E認(㎞.H)
O
0.2
Prf/5R
第5図
Cにおける効率はη=17であっ
04
域混成波はプラズマ表面においてパラメトリ
0・6
(MW/1σ5cm−2)
ック崩壊し,イオンサイクロトロンを励起す
るので,いくらかの入射電力は表面加熱に費
低域混成加熱(LHH)の加熱効率
されてしまう。一方LHH実験では多くの場
合加熱されたイオンのエネルギー分布は2成分マクスウェル分布として観測された。kρi≧1のイ
オンのみが統計加熱によって加熱され,高エネルギー成分となり,これがクーロン衝突によって,残
りのイオンにエネルギーを分配し加熱されることになると説明される。さらにAlcator
時に与えたk
とは異なったk
Cでは入射
をもつ低域混成波の存在を裏づける実験的事実が見出されている。
279
核融合研究
第51巻第4号
プラズマに入射した低域混成波がトロィダル効果によってk
している乱流による散乱の結果,異なるk
1984年4月
が増大する・また・プラズマ表面に存在
を得,異なった軌道でプラズマ内部に伝播されるという
説明がなされているが,詳細な吟味が必要である・
③
まとめ
LHHの長所はMWクラスの高電力を導波管で伝送し,効率よくプラズマに入射しうること,そし
てイオン或いは電子を選択的に局所的に加熱しうることである。とくに低域混成波電流駆動は定常ト
カマクヘの道を開く可能性をもつものと期待されている。難点は非線形現象がからみ,加熱機構が複
雑で解明が不十分であること,とくにMWクラスの実験データが不足していることである。今後
PLT,ASDEX,Alcator
Cなどの中型トカマク装置でのMWクラスの実験が行われ,さらにJT−
60(高周波電力24MW)などでの高電力実験が計画きれている。
§7.イオンサイクロトロン領域の加熱(ICRF加熱)
(1)加熱方法
磁場と平行に伝搬する横波のイオンサイクロトロン波は,左まわり円偏波の電界成分をもつことか
らω≦ρ.の領域で伝搬し,ω〜、9.で電場の回転がイオンの旋回運動と共鳴し,波のエネルギー
1
1
はプラズマに吸収される。この波を利用する方法は,強磁場側から弱磁場側へ波を励起し,サイクロ
トロン共鳴を起こきせるようにするので磁気ビーチと呼ばれ,Cステラレーター装置で実験きれた。
但し,この方式は磁場強度が磁力線方向に一様な軸対称系トーラス装置では使用し難く,また高い密
度ではこの波はプラズマ中心部まで伝搬しない。そこでトカマク装置では,高い密度領域で伝搬可能
な磁気音波(速波である圧縮性アルフヴェン波)を用いる。ただしこの波は電界が右まわりでイオン
のサイクロトロン減衰が小きいので,プラズマ中心部で静電波のイオン・バーンシュタイン波(IBW)
にモード変換きせ,イオンサイクロトロン減衰,電子のランダウ減衰を利用して高周波のエネルギー
をプラズマに吸収きせる方法がとられる。
2種イオンのプラズマでは2種類のイオンの旋回運動が共鳴する2イオン混成共鳴層が形成される。
この層はそれぞれのイオンのサイクロトロン層の間にあらわれ,2イオン混成遮断層と対になってい,
る。この混成共鳴,遮断層の間は速波は伝搬できないが,IBWヘモード変換が起る。例えば,D+
プラズマに少量のH+が混入しているトカマクプラズマを考える。磁場は大半径方向に減少している
ので,2イオン混成共鳴層は,、9Hと、9D層(ω=・9H,・9DでH÷及びD+のサイクロトロン共鳴
周波数)の間,£H層より少し強い磁場側(トーラスの内側)に混成共鳴層が,この層よりわずかに
弱磁場側に混成遮断層が形成される。弱磁場側(トーラス外側)から速波を励起したとする。速波は
280
講
プラズマの加熱
座
田中,黒田,他
プラズマ表面の低密度の非転搬領域をトンネル効果で通り抜けプラズマ内部に入る。さらに、9H
(=2、9D)層を通過し,混成遮断層に遭遇する。ここで,遮断層の厚みにより,一部の波は反射さ
れ,一部はIBWヘモード変換を起してプラズマに吸収される。さらに一部は遮断層を透過し高磁場
側へ伝搬していく。この反射,透過,吸収はBudden問題に帰着する。
要なパラメーターは
遮断と共鳴の間の遮断層の厚み
ここで各配分比を決める重
∠xであり,∠x。c
R。(nH/nD+βi)
の関係がある・ここにRoはトーラス大半径・nH/nDはD+プラズマ中に混入するH+の割合・
βiはイオンのベータ値である。4xが大きい場合は,弱磁場側から励起した波は遮断層で反射され
有効な加熱は起きない。一方,強磁場側から波を励起する場合は,波は混成共鳴から近づくため,反
射はなく∠xが大きい程モード変換及び吸収がよく起きる。結局,ICRF加熱の重要因子は,少数
イオンの混入量,速波の励起方法(内側或いは外側励起),並びに混成層の位置(nH/nDが大きい
ほどサイクロトロン層より離れる)によって決まる。すなわち,
1)nH/nD≦5%(装置の大きさ等にもよる)の場合=・IBWへのモード変換は起きないが,速
波はIBWの影響を受け,サイクロトロン減衰が起き,主として少数のH+が加熱される。(少数
成分のイオン加熱)
ll)nH/nD≧:20%の場合:モード変換が起きる。外側励起の場合,速波は混成遮断層で反射さ
れ,弱磁場側に大きな定在波が発生し加熱には適さない。一方,内側励起の場合は,速波はほとん
どモード変換される。このとき混成共鳴層はサイクロトロン層より離れるので(混成共鳴層をプラ
ズマ中心付近に置くと,サイクロトロン層はプラズマ領域から外れることもある)主に電子が加速
される。
最後に1種類のイオンからなるプラズマの場合には,4xの式において,β・の項のみがきいてく
1
る。つまり充分高温,高密度のプラズマでは少数イオンがなくても速波はIBWと結合し,有効な加
熱が期待できる。これが純2倍サイクロトロン高調波加熱である。一方,トロィダル方向に高周波電
流を流しプラズマ内にIBWを直接励起してイオン加熱する方法も最近強い関心をもたれている。
(2)
ICRF加熱実験
a)アンテナ:ICRF帯は10MH〜100MH
Z
で,高周波電源,及び伝送系はほぼ既存の技術で間
Z
間に合うが,アンテナに関しては技術開発の必要がある。ICRF実験では,アンテナとしてプラズマ
柱を1/4〜1/2周ポロイダル方向に囲むループアンテナが用いられ,ポロイダル方向に高周波電
流を流しトロィダル方向の磁場成分により速波を励起する。そのとき,トロイダル方向の電界はプラ
ズマ粒子を加速したり,表面を伝搬する波を励起するのでこの成分を遮断する静電遮蔽板(ファラディ
シールド)を取り付ける。DIVA装置では,ファラディシ「一ルドを付加することによってプラズマに
281
核融合研究
第51巻第4号
1984年4月
よる負荷抵抗は4厨から2ρに減少したが,加熱率はη=2。1からη=4。8へと増加した。これはファラデ
ィシールドによりプラズマとの静電的な結合が抑制された結果と解釈される。TFRではアンテナ導体のま
わりを覆っていたセラミックカバーを取り除き,全金属製のアンテナを製作し,高電力を給電できる
ことを示した。これはまたアンテナ自体が炉の第1壁と同じ材料で製作できることを示したものであ
る。さらにループァンテナの負荷抵抗値が,無限空問に速波を励起するモデルによる計算値と一致す
ることが示された(JFT−2,TFR)。一方,ループアンテナに代るものとしてリッジ導波管によ
る速波の励起が提案され,シミュレーション実験が始められた。これはポロイダル方向の電界により
速波を励起するものである(J
FT−2M)。
b)波の励起法と吸収:次に波の励起法(アンテナ位置など)と加熱効果について述べる。弱磁場側
から波を励起し磁場を変化させて共鳴層の位置を変えたとき,サイクロトロン層がプラズマ中心にあ
る場合より2イオン混成層(モード変換層とも呼ぶ)がプラズマ中心にある方が高い加熱率が得られ
ることが示きれた(DIVA)。また弱磁場側励起の場合は,高周波エネルギーはほとんど少数成分の
イオンにサイクロトロン共鳴吸収され,一少数イオンが高エネルギーティルを持つことが示されている。
(PLT,DIVA)。PLTでは少数イオンとしてH+を使った場合はη=4.2であるが,3Heの
場合にはη=7.3で,高い加熱率になる。これは高エネルギーのH+がバナナ軌道からロスコーン
ヘ落ち込むことによると解釈され,これにより約30%の電力が失われると推定している。一方,高
磁場側励起の場合,nH/nD=2〜4%の領域では2倍高調波の重水素に,10%領域では主に水素
に,30%領域では主に電子に高周波のエネルギーが吸収されることが示された(JFT…2)。特に
30%領域では2イオン混成層を中心よりわずかに外側へ移動したときに最適加熱が得られている。
これは,2イオン混成層でモード変換したIBWが強い磁場側へ伝搬しながら電子のランダウ減衰に
よって吸収されていくためであることが波動伝播の軌道解析で示された。TFRでもnH/nD≧30
%の領域で電子加熱が起り,高エネルギー電子が生成されるとともに高周波エネルギーの30〜40%
がイオンに吸収されることが示された。後者の吸収は,IBWが2〜3倍のサイクロトロン高調波共
鳴を持つ不純物,(たとえばFe22+,Fe1『)16+)に吸収され,不純物イオンからD+へのエネル
ギー緩和により重水素が加熱されるとの解釈が提案されている。水素の2培サイクロトロン高調波加
熱実験はPLTで最初に行われた。ここでは水素のエネルギースペクトラ
ムに高エネルギー成分があ
らわれるが,これを含めて平均した等価温度の上昇は少数イオン加熱の場合と同じ程度になることが
示されている。ただしイオン温度の上昇にくらべ(prf=1MWでTieff窟2keV)電子温度は
あまり増加しない(覧=0・6→0・8keV)。一方・J
FT−2MではNBI加熱でイオン温度上昇
を得たプラズマに2倍サイクロトロン高調波加熱を行って,イオンよりも電子の方がよく加熱される
282
講
座
プラズマの加熱
田中,黒田,他
という結果を得た(Prf=520kWで
所
3
Te=1・1→1・6keV・T1=0・9→1・1
ρ(Min3He)
㌍60/
keV)。JIPPT一豆Uでは直接にIBW
ノ
η=2タ
メ
!ノ
△PLT
/
を励起してイオンを加熱する実験が試
,/脚
・△PLT(Minり)
みられた。ここではトロイダル方向に
(
高周波電流を流す配位のアンテナで波
>
Φ
苫
を励起し,小数イオン(3H)の第3
e
イオンサイクロトロン高調波共鳴が
H+プラズマの中心部にあるように設
!
2
QTFR
(MODE
!
/
ノ
CONV.)
ノ
ノ
ノ
/
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)
1
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ρ
ぐ
◆
ρ
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ノ
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1
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■
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ノ
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ノ
ぐ
ノ
!JFT−2(ION
HEAT!NG)
IBW)ロ●」1叩丁鱒唄MinH)
定された(H+の第1,第2サイクロ
驚D瓢MODECON猛)
ノ(Min3He)
ゲ
トロン共鳴層は存在しない)。実験で
0
得られたイオンの加熱率はη=9で上
0・2
04
σ6
0・8
1・0
Prf冷R(MW/1d5cm−2)
述のイオン加熱のそれの約2倍という
第6図
著しく高い値であり,今後の高電力入
イオンサイクロトロン領域の加熱
(ICRF加熱)の加熱効率
射実験の結果が注目されている
(第6図)。
c)加熱と不純物:ICRF加熱の現在
の到達レベルは・PLTにおいて①3He少数イオン加熱でprf=1・3MW入射にてTi=0・7keV
→2・8keV・②2倍サィク・ト・ン高調波加熱で3MW入射にてTieff−3keVが達成されてい
る(第3及び6図)。またTFRにおいては2.3MW入射にて∠Td=1.2keV,∠T=0.6keV
e
が達成された。しかし多量の金属不純物(おもにN・でインコネルの材料による)の存在により電子
1
温度の上昇が抑制されている。かくて最近のI CRF加熱は,高電力化によって顕著になってきた加熱
時の不純物の混入について研究が行われている。特にファラディシールド材料の混入が問題となって
いるが,現時点では決定的な原因について結論がでておらず,ファラディシールド材の軽元素化が行
われている。
(3)まとめ
ICRF加熱は,数年前から急速な進歩をとげ,有効な加熱法であることを実証するとともに,その
加熱機構を明確にしてきた。その成果によりNBI加熱法に代ってINTORの設計では主な加熱法と
して採用されている。また,全金属製のループァンテナの開発,リッジ導波管結合器の開発などによ
って核融合炉への適用の道を拡げている。今後のICRF加熱研究の課題は以下のようにまとめられる。
283
核融合研究
第51巻第4号
1984年4月
①アンテナの最適化(不純物の発生,電圧の低下)
②加熱機構の理解(高周波エネルギーの各粒子への分配,吸収プロファイルの理論と実験の対応)
③ICRF加熱時の閉じ込め特性(加熱による高ベータプラズマの達成)
④不純物の発生原因と対策など
現在,世界のほとんどの中型装置でICRF加熱の実験計画が予定されている(3−5MW,PLT,
TEXTOR,ASDEX,JFT−2M,D皿)。その成果に基づいて大型トカマクにおけるICRF加熱
計画(30MW,TFTR及びJET6MW,JT−60,)が予定されている。
§8・
トカマクにおける非誘導電流駆動
(1)電流駆動の目的と方法
トカマクプラズマを保持するためにはプラズマ電流が必要,不可欠である。このプラズマ電流は変
流器の誘導電流によって発生するので,トカマク型核融合炉は原理的にパルス炉であり,次のような
難点がある。U)熱サイクルに基づく炉壁材料の疲労効果が大きい。②炉の起動と停止に巨大なエネル
ギーの断続と制御の必要があり,発電効率が低下する。③時間的に変動する磁場による超伝導コイル
の渦電流損失が大きい。㈲パルス的電気出力のためエネルギー蓄積系が必要となる。(5)大型ジュール
変流器が必要なため,装置は複雑でかつアスペクト比を小さくできない。などである。パルス炉に起
因するこれらの難点は定常運転が可能となれば解消される。それ故,定常な非誘導電流によりプラズ
マ電流を駆動して,定常運転トカマク炉の実現をはかる試みが,最近多く行われている。
通常のトカマク装置では変流器の2次コイルに相当するプラズマに直流電場を誘起し,電子を加速
してプラズマ電流を発生する。これに対して,非誘導電流駆動法については以下のような可能性が考
えられている。
①
高周波電流駆動(波動の運動量輸送による電子流の形成):磁力線に沿って一方向に進む進行
波の運動量を電子に与えて,その方向の電子流,すなわち電流を生成する。現在多くの実験が行われ
ている低域混成波電流駆動はこの例である。
②
高周波電流駆動(波動加熱による非対称分布関数の形成):磁力線に沿って進む進行波との共
鳴によって電子あるいはイオン中垂直方向エネルギーを増大して,磁力線方向に非対称な速度分布関
数を形成すれば,電流を発生しうる。ECHによる電流駆動はこの例である。
③粒子ビーム電流駆動:プラズマ内に入射した中性粒子束或いは重イオンビームの運動量をプラ
ズマ粒子に与え,一方向の荷電粒子流によって電流を形成する。さらに高周波を重畳して電流駆動の
効率を高める可能性もある。
284
講
田中,黒田,他
プラズマの加熱
座
④その他:核融合プラズマ自身からの強力なシンク・ト・ン輻射の運動量を電子に与えて電流を
形成できるという理論もある。
きて上記①の波動の運動量輸送による電子流形成の問題を簡単に考える。進行波(周波数ω,磁
力線方向の波数kz)のエネルギー密度をWとすると単位体積あたりの運動量は(k/ω)Wと表わ
される。この運動量は波と電子との共鳴相互作用(ランダウ減衰過程)を通して電子に与えられる。
一方,この共鳴電子は,イオン及び背景の電子とのクーロン衝突(衝突周波数レc)によってz方向の
運動量(mVd)を失う。定常状態では両者がバランスして,
一nemvdレc+(kz/ω)(dW/dt)一〇
ここで・電流密度はJ=e
neVd・
プラズマに吸収される単位体積あたりの高周波電力は
PD=dW/dtであるから・
」/PD一(e/mンc)(kz/ω)
となる。厳密な表式は準線形理論によって求められる。このとき,共鳴相互作用の結果,電子の速度
分布関数にプラトーが形成されるが,これから」,及びPDが計算される。さらにJ,PDを,
」一j(一envTe)・pD−PD(nmvTe3ンc)
と規格化して・トロィダルプラズマ電流をI
p・プラズマに吸収される高周波電力をPRFとすると
電流駆動の効率を表わす式として,
叢,一畿、壽需藷PD)(篶)
が得られる。」/PDは前記
①〜③の種々の電流駆動法に対して波の位相速度・
或いは入射粒
子の速度の関数として計算されているが,おおよそ10〜30である(クーβン対数4n」磐15)。
この値は変流器の誘導電流の1/10程度である。
(2)電流駆動実験
i)
トカマクにおける非誘導電流の発生を目的として高周波駆動によるトロイダル電流を初めて検出し
た実験が,シンクロマック装置(名大プラ研)で行われた(1971年)。その後(1980年)J
2で低域混成波(LH)駆動電流の生成に成功して以来,J
FT−
IPPT−Hなど多くのトカマク装置で実
験が行われた(第7図参照)。初期の実験ではジュール加熱プラズマにLHWを入射した時,プラズ
マ電流は一定であるが,ループ電圧が著しく低下するという結果であった。これは,発生したLH駆
動電流の分だけジュール電流が減少し,ループ電圧が低下すると解釈された。
285
核融合研究
第51巻第4号
1984年4月
li)次の段階では全プラズマ電流をLH
駆動電流で置き換えて,トカマクプラズ
R=1.2
1
0.4
!
1
1!
ノ
ノ
!
!
!1
がWT−2で行われた(1981年)。
O.3
そこでは最初ジュール電流によってトカ
マクプラズマ(R=40cm,a=9cm,
(
く
!1
ノ
1
!
ド
!
ノ
…
プラズマ電流1=15kA,ループ電圧
P
ノ
▲ALCATOR−C
∫LO・2
!
ノ
VL=2V)を発生した後,ジュール加
η=0・32/
1
/!
ノ
図PETURA−6
熱電力が消費し尽くされ,(またはジュ
!
!
!
/
/
/
1
O.1
ール変流器の1次コイルを短絡して)ジ
1
!
!
/
寵GA
HWを入
!
/
!
ノ
ュール電流が消滅する直前にL
△PLT
1
マを高周波駆動電流のみで保持する実験
//
ノ
口JFT−2
1■●」IPPT一口
ΦDl正
eVERSATOR
ノ
射すると,プラズマ電流(1駕10kA)
P
10WT−2
0
は消滅しないで流れ続ける。しかも,ル
ープ電圧VL=0・従ってジュール電流
TOsCA(ECH)
0・2
0・4
(NBD
0.6
Prヅ【R(MW/1d5c㎡2)
第7図
非誘導電流駆動における電流生成の効率
は零であって,全プラズマ電流1は
P
LH駆動によって生成されている。この
LH駆動電流は,トーラスプラズマの時
定数よりずっと長く,
LHが印加されている限り(10ms程度)流れ続けている。このL
H駆動電流
で保持されたプラズマの電子密度(ne繋2X・・12cゴ3)・電子温度(Te型3・eV.)は・初期の
ジュール加熱プラズマのそれ(n
e
電流はL
盤5×1012cm晩丁蟹200eV)に比して小さい。プラズマ
e
H波との共鳴相互作用で生成された数10keVの高エネルギー電子が荷っている。ついで,
PLT(良=1.32m,a;0.4m)において行われた実験ではジュール変流器電源を短絡した後3.5
秒の長時間に枇って・プラズマの電流lp一・65kAがLHW(prl蟹7・kW)のみで保持され・
L
Hが入射されている限り一定値を保っている。プラズマの電子温度Te蟹1keV・密度ne=4×
1012cnr3で
ジュール加熱プラズマのそれと同程度であるが,空間的分布はやや鋭い。このバルク
電子に加えて,100keVの高エネルギー成分の電子があり,これがプラズマ電流を荷っている。
lll)第3の段階として電子サィクロトロン共鳴(ECR)でトーラス型プラズマを発生し,LH駆動によってプラズ
マ電流を立ち上げ,維持して,トカマク型プラズマを高周波のみで生成,保持する実験がWT−2で行われた
(ig83年)。
ここではジュール加熱電力は全く使用していない。初め,高電力ミリ波の電子サイク
ロトロン共鳴によって密度ne蟹2×1012c㎡日,Te蟹20eVのトロイダルプラズマを発生する。
286
講座
プラズマの加熱
田中,黒田,他
これにLHWを入射するとプラズマ電流は立ち上り・増大してIp蟹6kAに達する。この間・高
エネルギー電子はループ電圧VL一一Lp(dlp/dt)1こよって灘1されるとともに・LHとの共
鳴相互作用によって加速され,プラズマ電流を形成している。このプラズマの電子エネルギー分布は
バルクの電子がTe乞20eV・n
e蟹2×1012cm−3,高エネルギー成分は数10keV,nb蟹1010
cm『3で,前記のLHWで保持されたプラズマのそれに類似している。かくて高周波のみによってト
カマク配位のプラズマが形成され(高周波トカマクと仮称),現在までに得られた最小のq値はqa
=9である。ついで中型トカマクJIPPT一豆Uでは1
P
ラズマ電流を高周波のみで立ち上げることができた。
さて,前記のL
=20kA,PLTでは王
P
=100kAまでプ
H駆動電流は電子密度が高くなると1/neで減少し,ある限界密度以上では,生成し
えなくなる。それ故低密度プラズマ(ne≦1013c㎡P3)で有効であったこの方法が,核融合プラズマでも適
用できるか否かが重要問題の一つである。Alcator
Cでは高い周波数(4.6GHz)のRFを印加して,
LH駆動電流によって高密度プラズマ(ne≦1014cm−3)を保持する実験を行い,密度限界はないと
主張している。今後さらに,LH駆動電流の発生機構,特に高エネルギー電子の生成とそのエネルギー
分布について解明する必要がある。なお,DITEではNBIによって,TOSCAでは電子サイクロ
トロン波によってプラズマ電流の一部が生成されたとしている。
③
まとめ
今日までの非誘導電流駆動の実験は大部分がLHWによるものであるが,それ以外にも多くの方法
が提唱されている。それぞれの方法について実験的検討を行い,電流発生の効率を求め,トカマク型
核融合炉の定常化へ適用しうるか否か,そしてどの方法が最適かを検討しなければならない。さらに
高周波トカマク炉が実現すれば,ジュール変流器が不要となって炉の構成は簡単化されるであろう。
一方,高効率であるジュール加熱で電流駆動を行い,変流器の
再充電
の間だけ高周波電流駆動を
行って,準定常トカマクを実現しようというアィディアもある。
最後にINTORトカマク炉(R=5.2m,a=L52m,ne=1・4×1014c㎡一3,Ti=覧=10
keV)を非誘導電流で定常運転できると仮定して,必要な高周波電力PRFと,Q値を試算してみよ
う。このプラズマ電流1で作られるポ・イダルβ値がβ
P
P
=R/aとなるものとする。・このとき
Ip−4・37MA・従って前述の式からpRF=104MWを得る・一方核融合炉出力はpF=836
MWであるから・Q=pF/pRF=8・05となる・
§9.おわりに
プラズマの加熱法として集中的な研究が行なわれている中性粒子入射加熱と波動加熱について,加
287
核融合研究第51巻第4号
1984年4月
熱の物理的過程と現状とについて述べてきた.加熱研究の目的の一つは入射エネルギー♪に対する温
度上昇4Tを求め,加熱の比例則を確立することである(第3−6図)。すでに述べたようにNB
I
では∠T㏄Pbが入射電力7MWに至るまで確かめられており,得られたTi=7keVは炉心プラズ
マのそれに近い値に達した(PDX)。さらに大型トカマクにおけるNBI実験も着々と準備が進め
られている。波動加熱の実験では現時点の最大入力は3MW(ICRF),1MW(LHH)および0.5
MW(ECH)であるが,これらの入力電力の範囲では加熱効率はNBIのそれと比肩しうる値が得ら
1れ,INTORではICRF加熱が主な加熱手段として検討されるに至った。さらに大電力での波動加
熱実験は例えばICRFでは5MW(PLT),LHHでは4MW(ALCATOR−C),またECHで
は2MW(D皿)などいくつかの装置で実験計画が進行中であり,近いうちにMWに至る波動加熱の
比例則が確立されることが期待されよう。かくて大型トカマク(〜10MW)さらに核融合炉(〜100
MW)における波動加熱実験へと発展きせることが核融合の実現に必要,不可欠な研究開発の過程で
あろう。
また,低域混成駆動電流によるトカマクプラズマ形成の成功は準定常トカマク実現に大きな可能性を与
えた。今後,非誘導電流駆動の研究は物理的機構の解明と中型装置での実験を経て,大型トカマク実験
へと発展するであろう。一方,超電導電磁石と組合わせて,長パルスまたは準定常トカマクを目指す
TORE−SUPRA,Alcator
DCT,及びTFCXなどが計画されている。
以上にプラズマ加熱の研究をトカマクプラズマを対象として述べたが,ステラレータ,バンピート
ーラスなどの非軸対称トーラス装置,並びにタンデムミラー装置などにおいても・プラズマ加熱の実
験が強力に進められていることのみを附記し,その内容は割愛する。なお,添付図の作成にあたって
は
前川
孝君の助力を得た。なお,本稿の§3NBI加熱は黒田が,§71CRF加熱は小田島が,
他は田中が担当した。
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