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2013 年 2 月 5 日(火)
(社)日本観光振興協会
第 9 回産学連携オープンセミナー
「ツーリズムイノベーション
~21 世紀のリーディング産業を目指して~」
コーディネーター:山内弘隆(一橋大学大学院
パネリスト:
パネルディスカッション
今井敏行(株式会社 i.JTB
商学研究科
教授)
代表取締役社長)
村瀬茂高(WILLER ALLIANCE 株式会社
代表取締役社長)
西尾忠男(ジェットスター・ジャパン株式会社
徳永清久(株式会社プリンスホテル
常務執行役員)
執行役員)
【テーマの説明】
■山内 弘隆 氏
今日はツーリズムイノベーションの現状とツーリズムの将来という二つのテーマと、三
つ目にこれからの皆さんへの期待を話していただく形にしたい。一昨年の大震災の後、昨
年はいろいろなイベントもあったし、日本の経済もだんだん復興が進んできている。2003
年に小泉首相が観光立国宣言をした後、インバウンドと言われる外国からのお客さんもか
なり増え、日本の観光はずいぶん変化した。去年は中国、韓国との関係で日本に来るお客
さんが少し減ったりもしたが、震災の前の年に戻ってきているのではないか。大きな流れ
としては、新しいイノベーションが起こり、それによってこれからの経済を引っ張ってい
かなければいけない。観光立国宣言から 10 年たち、大きな転機に立ったのが去年だった
と思う。
最初にパネリストの方から、2012 年を振り返って現状をお話ししていただきたい。
セッション 1:2012 年を振り返って
■今井 敏行 氏
2012 年は旅行業界にとっては極めて追い風であった。一つは旅行業界のいろいろなイベ
ントがあった。4 月には、ツーリズム産業の世界大会である WTTC(世界旅行ツーリズム
協議会)グローバルサミットが日本であった。その後、ご存じのロンドンオリンピック。
女子のサッカー。東北観光博。また、領土問題で少しシュリンクしたが、日中国交正常化
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40 周年のいろいろなイベント。それから、今日はジェットスターさんがおられるが、LCC
元年と言われるように LCC がたくさん飛び出した。同時に、オープンスカイといって羽
田空港、成田空港の発着枠の激増。これにより、いろいろな外国の飛行機が来るようにな
った。何よりもスカイツリーが開業し、クルーズ元年と言われるように多くの大型客船が
日本に来た。そして最後は、経済効果だと思うが、円高が進み、海外旅行が得だというよ
うな雰囲気になり、海外旅行をするお客さまが増えた。
一方、今年は、20 年に 1 回の伊勢神宮の式年遷宮、もう一つはディズニーランドの開業
30 周年ぐらいで、あまりイベントのない年になる。したがって、旅行会社自らがイベント
を仕掛けなければいけない。クルーズとか、チャーターとか、旅行会社の実力が発揮され
る年だと思う。
■山内 弘隆 氏
ツーリズムといっても非常に幅が広く、各国で行われるスポーツイベントだけでも大き
な広がりが出てくる。WTTC とは観光関係の世界のトップが集まる会議で、ダボス会議の
観光版と言っていい。そういう大きなイベントが昨年 4 月にあり、何千人という人が日本
にやってきた。それにより、去年はいろいろなことがあった。ただ、これからはそれだけ
では済まないわけで、どうしていくかということになる。
■村瀬 茂高 氏
当社はピンク色の高速バス「WILLER EXPRESS」を全国に走らせている。高速バスと
大きくくくった中には、道路運送法でやっている高速乗合バス(路線バス)と旅行業でや
っている高速ツアーバスの二つがある。高速ツアーバスはこの 5 年間で急成長してきた。
昨年度の利用人員は約 1 億 1000 万人だが、高速バス業界自体はこの 5 年間で、路線バス
で 2000 万人、高速ツアーバスで 600 万人、2600 万人も利用者が増えている。利用者のバ
スに対する価値が変わったことで、より新たな市場ができてきた。まさに今日のテーマで
あるイノベーションの典型的な例ではないか。この 5 年間で何が変わったか。今までは、
例えば東京-大阪といえば新幹線と飛行機しか思い付かなかった。そこに今は高速バスも
ある。「このバスだったら私たちも乗れる」。利用するかしないかは別にして、価値が変わ
ったことがその結果ではないか。
では、なぜこのようなことが起きたのか。今までの高速バスは時間から時間に間違いな
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く走るというインフラ事業だったのが、実はこの 5 年間にマーケティングが加わった。つ
まり、買ってもらえる仕組みである。「これだったら頼みたい」。お客さんの意向を各社が
いろいろ取り込んだ。インフラ的なことでやると乗ろうと思わなかった。それがこの 5 年
間にマーケティングを取り入れたことにより、市場が大きく成長してきた。
ただし、昨年は関越道の自動車事故が起こり、それまでの高速バスと利用者の方との信
頼関係が崩れてしまった。これにより、実は高速バス業界が伸び悩み、イノベーションと
いうところが若干欠けてしまった。最近、LCC が非常に脚光を浴びているが、今年は 8 月
1 日に新高速になり、路線バスもツアーバスも一つになる。高速バスもよりお客さまに利
用されるよう、新たなイノベーションを起こすところに来ている。
■山内 弘隆 氏
今日ここに来ている人は 3 年生と 4 年生だからイノベーションという言葉は何らかの授
業で聞いていると思う。私がよく授業で言っていることをここでもう 1 回繰り返すと、い
ろいろな人が言っているが、最も有名なのでは経済学者のシュンペーターが五つぐらいの
イノベーションを言っている。一つは、新しい製品をつくること(プロダクト・イノベー
ション)。二つ目が、新しい製品方法をつくること(プロセス・イノベーション)。それに
よってコストが下がったりする。三つ目が、新しい市場開発。いまお話のマーケティング
もイノベーションになる。四つ目が、原料や半製品などを組み合わせて新しい供給源を獲
得する。五つ目が、独占をひっくり返すとか、独占的地位をつくるとか、産業のマーケテ
ィング自体を変えること。
そういう面で今のツアーバスの話などは、残念ながら一部の業者さんのことでマーケッ
トが少し伸びなくなったところがあるが、新しいマーケットをつくるという大きな問題が
あると思う。その意味では西尾さんの LCC も全く同じだと思う。
■西尾 忠男 氏
LCC 元年と言われているが、実は海外では既に 1978 年、アメリカが規制緩和をやった
ところから LCC が始まっている。LCC 自体もイノベーションしてようやくアジアにやっ
てきて、日本で LCC 元年を迎えた。そういう流れがある。そもそもアメリカの航空自由
化のときに第一世代と言って、サウスウエスト航空といったところが最初に始めている。
アメリカには大きな空港と地方空港がいろいろあるが、地方空港同士を結び、首都圏に近
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いところを安く売るという形で第一世代が始まった。
第二世代になると当然、イノベーションというか、オープンスカイなどがヨーロッパに
進んでいき、今度はヨーロッパ域内でも LCC が登場してくる。そうするとまたアメリカ
内でも LCC がどんどん進んでいくから、運賃を安く見せるために、第 2 空港を使うので
はなく、例えば荷物の有料化とか、事前座席の有料化とか、本来当たり前だったサービス
を切り分けして有料化にし、必要なサービスをお客さまが買う形でやる。
第三世代になると、ヨーロッパが完全に自由化され、アメリカの LCC も激化してくる。
前は地方空港を使っていたのが、大きな空港を使って商売しようというところも現れ、大
手航空会社と闘う形で進んできた。
第四世代になると、いよいよアジアにも波及してきて、ジェットスターなどができてく
る。ただ、アジアの場合、ジェットスターもカンタスの子会社だし、大韓航空もジンエア
ー、アシアナ航空もエアプサンを持っている。エアアジアなどを除くと、大手の航空会社
が出資して LCC をつくっている。より安くアジアに合ったものを提供していく形で、LCC
がどんどんイノベーションしていった。
そういったイノベーションを経て、日本は成田、羽田が広がり、外国の航空会社が入っ
てくるようになる。滑走路ができたということだ。4 本目の滑走路ができて成田も本格的
運用を始める。それとアジアでもどんどんオープンスカイになり、政府の関与なしに航空
会社と航空会社で自由に参入できる。これが加速して日本に LCC が誕生した。それが LCC
元年と言われる背景である。
■山内 弘隆 氏
去年の暮れに発表された日本流行語大賞で「LCC」がベスト 10 に入った。それぐらい
LCC はすごいということだ。
■徳永 清久 氏
私の履歴の最後のところに「PRINCE TOKYO MICE CITY PROJECT 推進中」とある。
世界最大の MICE はオリンピックだという話がある。MICE は Meeting、Incentive、
Convention、Exhibition の頭文字を取っているが、震災以降、会議が戻ってきたと思える
ものの中では IMF(国際通貨基金)と世界銀行の総会が東京で行われ、1 万人が集まった。
日本の復興を世界にアピールできたかもしれないが、日本人でもそういうことがきちっと
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できるという意味で、これは観光の中でもビジネス領域ではないかと思う。先ほど産業観
光の話をされたが、そういった面では新しい視点ではないか。同じように大阪では、金融
業界の最大規模の国際会議である Sibos が行われた。少し変わってきた年だったと認識し
ている。
そういう中で、グランドプリンスホテル新高輪の国際館パミールを会場に WTTC が開催
された。したがって、今日お話しする中では私が最後の受け手、つまり、お客さまが実際
にご利用なさる最後のところのポジショニングではないか。そこから見たときの観光とい
うことになると、もちろん観光地の観光もあるが、レジャーの観光からビジネスの部分も
あるわけで、人々が集まったときに MICE の特性を生かせることに気付いた、最初の年だ
ったように思う。
もう一つは、これは後の話にもつながるが、世界の中でツーリズムインダストリーが
GDP に貢献する割合は 9.1%で、将来性があると聞いている。もう一つ、日本観光振興協
会の会長で WTTC の組織委員会の会長でもある西田さんが言われていたが、日本のライフ
スタイルや今まである日本の観光、あるいは日本の文化を輸出するのがこれからの観光産
業ではないか。しかし日本は、今回、世界の競合を WTTC で見てきた中では相当開発途上
にあることが分かった。これはいろいろなところと連携しなければいけない。そういう意
味で去年は、新しいビジネスとしての観光のスタートの年だったのではないか。
■山内 弘隆 氏
西田さんは東芝の会長を務めながら日本観光振興協会の会長でもある。今の話が象徴的
なのは、日本はいろいろな工業製品を輸出して大きな経済をつくってきたが、これからは
文化やツーリズムを輸出して経済を支えていかなければいけない。西田さんが言われたの
はこういうことだと思う。
ツーリズムというと、観光でどこかに行ったり、旅行したりというイメージがあると思
う。それももちろん大事だが、それだけではなく、横の幅が広い。そこにいろいろな意味
でのイノベーションが起きている。今井さんの会社はネットで旅行業をやられている。こ
れはずいぶん長い間のトレンドではあるが、大きな変化が起きていると思う。その辺につ
いて触れていただきたい。
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■今井 敏行 氏
JTB には 2 万 7000 人の社員がいて年間売上が約 1 兆 800 億円だが、インターネットで
の販売は今やっと 12~13%。たぶん 2~3 年のうちには 20%ぐらいになると思う。では旅
行は全部インターネットで終わるかというと、絶対終わらない。どうしても販売員と相談
をしながら買わなければいけない性格のものである。例えば、JTB でやっている「ルック
JTB」という海外のパッケージでは北海道から九州まで 9 万コースを売っているが、その
うちインターネットで売っているのが約 9 割。売っていない 1 割は海外ウェディングだ。
インターネットで海外ウェディングは売れない。例えば、ドレスを何色にするか。ブーケ
をどうするか。ケーキをどうするか。旅行というのは店頭の販売員のコンサル能力がなけ
れば売れない商売であるから、将来性を感じていただいていいと思う。
■山内 弘隆 氏
旅行は全部ネットになってしまうのではないかと言われる方もいるが、いろいろな要素
がある。選択が多すぎてとてもネットではできない。また、何か起こったときの責任問題
もある。そういうことはネットだけでは完結しない。
■今井 敏行 氏
最近、オムニチャネルという方が出てきて、リアルのネットと同じサービスを提供して
いる。JTB の場合、インターネットで「ルック」を申し込んだらそのままオンライン決済
をすることもできるが、インターネットで申し込んで 3 日以内に、自分がいつも行ってい
る JTB の支店に行ってすることもできる。
あとはエクスペディアが最近、ホノルルに巨大な支店をつくった。それはインターネッ
トで申し込んだ人のサービスのフォローをホノルルでしようというものだ。だから、切っ
ても切れないというか、今後はもっと融合していくような気がする。
■山内 弘隆 氏
信頼性とか、何かあったときの対処はネットだけではできないということだと思う。
去年を振り返ると同時に旅行業界の新しい流れをお話しいただいたが、何か付け加える
ことはないだろうか。
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■今井 敏行 氏
いろいろなデバイスというか、新しい機械が出てきた。もともとは、インターネットは
パソコンだけだったが、ガラケーもあり、そしてスマートフォン、タブレットが出てきた。
最近は特にキンドル・ファイアとか、グーグルのネクサスとか、7 インチの安いタブレッ
トが出てきて、インターネットに接する時間が非常に増えてきた。そういう環境になって
きたので、ますますインターネットの旅行販売が増えると思うが、我々はすべてのデバイ
スに対応しなければいけない。
2 点目は、最近、タレントがうその投稿をしてもめたことがある。インターネットとい
うのはお客さまの判断で買うわけだから、その判断ができるように、例えば点数を付ける
とか、お客さまの加工しない生の声をきちんと載せるとか、そういうことはしっかりやっ
ていかなければいけないと思う。
■山内 弘隆 氏
私が今ここに持っている東芝の「ウルトラブック」という薄いパソコンはとても便利で、
タブレットなりスマホなりいろいろなデバイスが出てきて、皆さんの思考を援助したり記
憶を援助したりすることができるが、その中に販路等が新しく出てくるということだと思
う。
セッション 2:ツーリズムの将来像
■山内 弘隆 氏
お話しいただいたような、いろいろなイノベーションが起きてきている。では将来、ツ
ーリズムが日本経済を引っ張っていくためにはどのような形になっていけばいいのか。今
井さんからスマホ、タブレットの話があったし、Web 上の決済ということもある。村瀬さ
んのところも IT をお使いになってイノベーションを起こしていると聞いているが、将来
像を見ながらその辺についてお話しいただきたい。
■村瀬 茂高 氏
インターネットで売る特性の高いもの、いわゆる親和性のいい商品がたくさんあると思
う。親和性の高いものは何かというと、実は運輸、移動である。検索すれば、どんなデザ
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インのもので、どんなサービスがあり、それは幾らなのか、これを比較して予約できるよ
うにした。これがまさに先ほど言った、高速バスにイノベーションが載った最大の理由だ
ったと思っている。
その中でこれからの移動をどうやっていくかを考えているが、そのときに一次交通と二
次交通があるのではないか。例えば高速バス、LCC、フェリー、新幹線など、都市間を長
距離に移動する一次交通。それから、レンタカーであったり、タクシーであったり、都市
によってはレンタサイクルであったり、降りたときにこんな乗り物が欲しいと思ったとき
に使える二次交通。この一次交通、二次交通の組み合わせが非常に大事ではないか。それ
もツーリズムに焦点を合わせると、観光交通インフラをしっかりと考えないといけない。
今ある交通インフラはもちろん生活路線もあり誰もが使うものだが、観光の方にとても便
利な観光交通インフラを、これから全国につくっていくことが非常に大事ではないかと思
っている。
こういうことは今日明日にできるものではない。では、どうするか。やはり 10 年間と
か、そういったスパンを見ながら毎年整理をしていく。例えば、LCC で行った先ではバス
やレンタカーに乗る。こういうものをつくっていき、観光交通インフラが徐々に日本全国
にできたときに、実は移動スタイルの構造の変化が起こるのではないか。これがまさに世
の中に新たな価値を得て、イノベーションが起こることになるのではないか。ここはある
程度ターゲットを考えたほうがいい。やはり海外から来られる方のインバウンド、それか
らシニア層の方。こういう方々が個人旅行で自由に、簡単便利に価格訴求をもって移動が
できる。このような仕組みをつくっていくことが、これから非常に大事だと考えている。
■山内 弘隆 氏
旅行やツーリズムというのは、家を出て駅に行って電車に乗り、空港で飛行機に乗る。
移動をして宿泊し、何かに触れたりして帰る。そういう一つひとつの流れを見ると、今ま
では乗り換えにしても連係にしても少し疎んじられてきた感じがある。総合的に移動を能
率的にすると、もっともっと需要が出てくるのではないか。そのためのイノベーションを
持ちたいというのが今の話で、とても重要な視点だと思う。これから皆さんも社会に出ら
れてこういう世界に就いたときに、そういうところに気を付けられたら非常にいいのでは
ないかと思う。
西尾さんのところは、これから LCC はどうだろうか。
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■西尾 忠男 氏
LCC の場合は、イノベーションもそうだが、まずお客さまに乗ってもらうためのきっか
けづくりが重要になる。きっかけがないと人は絶対に動かない。LCC が日本に定着したこ
とで、
「カネがないから旅行しない」という仮説が吹っ飛んだ。いま福岡は 5000 円で売っ
ているし、沖縄も 7000 円で売っている。あるときは 2500 円で売っている。我々がそうい
う安いものを売る。たぶん、それをきっかけに旅行する。その手段として、日本航空にし
ようか、全日空にしようか、スカイマークにしようか、いや、LCC が安いからジェットス
ターにしよう。交通手段の中の一つとして我々を選択してくれる。
例えば、冬の朝 6 時の成田発。これはまだ利用率が悪い。「安いから買おう」という衝
動買いをしてくれない。毎週金曜日、ジェットスターのメールに登録した場合、時々1500
円とか 2000 円で売っている。前回、2500 円ぐらいで売ったが、完売しなかった。結局、
安いから買おうという、旅行へのモチベーションがない。来週休みができたから、熱海に
行こう、伊豆に行こう、どこに行こうという気軽さの距離感であり、日帰りで福岡に行こ
う、札幌に行こう、沖縄に行こうという心の距離感が、まだ日本人の心の中にイノベーシ
ョンされていない。だから安くしても結局、
「明日、北海道に行こう」とはならない。福岡
は日帰りするものではない。行くのだったら 1 泊しようという形になってくる。
今後、この消費者の心をいかにイノベーションしていくか。これがまさに我々の一番大
きなチャレンジである。休みができた。じゃあ、福岡へ行ってみよう、沖縄へ行ってみよ
う。それも 1 泊ではなく日帰りで行ってみよう。そういう隙間をどんどんつくっていくこ
とが、LCC が日本に定着する一番大きな要素になる。我々がチャレンジと言っているのは
そこで、いかに定着させるか、いかにきっかけづくりをより多く皆さまに提供するか。そ
れが我々の課題だと思っている。
■山内 弘隆 氏
当たり前だが、旅行やツーリズムは必ず時間を使う。しかし、時間はとても貴重だ。ネ
ット上でいろいろ楽しむとか、音楽を聴くとか、さまざまな時間の使い方がある。ツーリ
ズムに使う時間とネットを見ている時間とが競合している。その時間をいかにツーリズム
に持ってくるか。いろいろなインセンティブで人をこちらに寄せてくるのもとても大事な
ことで、それが将来に続いていくということではないか。先ほど村瀬さんから MICE の話
をいただいたが、これからホテルもいろいろ考えられると思う。
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■徳永 清久 氏
最後の受け手というところで、ホテルの立場から述べたい。なぜ MICE をやっているか
というと、やはり左右されるからである。何か事故があると動かなくなる。全部そうかも
しれないが、ホテルは最初に打撃を受けるかと思う。震災があればお客さまは動かなくな
る。リーマン・ショックがあれば法人の利用がなくなる。いろいろあるが、その中で MICE
は、季節の変動が少ない。先予約が決まる。総会であるから 1 年に 1 回は必ずやらなけれ
ばいけないので、先延ばしができない。キャンセルができない。震災の年にも学会はきち
っと行われている。医学系学会は必ず行われる。そういったところの安定と、マーケティ
ングを利かしていきたいということであり、その将来性はこれからまだまだある。新しい
領域だと思っている。
もう一つ、来られたお客さまに最終的に接するのは私たちで、今日ご参集の皆さんも同
じだと思うが、MICE が行われることで心の中にきっと何かが生まれると思う。これから
の就職活動で何かが解決するのではないか。今日も先ほど事前ミーティングをやったが、
信頼関係が生まれるのは事実だ。私たちはフェース・ツー・フェースで、最後はリアルな
コミュニケーションがとれるようなところに将来のチャンスがあると思っている。ネット
という社会がどんどん進んでいけばいくほど、我々のところで MICE をキーワードに変革
していくことが可能だし、必要になってくるのではないか。展望としてはそういう認識で
将来の事業を描いている。これが PRINCE TOKYO MICE の今の姿だ。
■山内 弘隆 氏
とても重要な点だ。航空業界が一番顕著に出るのだが、SARS になったとか、ずっと昔
だと 9.11 とか、何か事が起こると、特に国際の旅客がどんどん減って需要が変動する。し
かし、ホテルもそうだし航空会社もそうだが、供給はそれぞれある。それに対しお客さん
が減ると当然、利益率が下がり、経営的に大変なことになる。こういう特性がある。それ
を例えば MICE とか安定的な需要をつくることにより、経営の安定性をつくっていく。こ
れもこの業界には非常に重要だ。
もう一つは信頼関係。それには日本人が持っているホスピタリティと併せて、我々の国
民性を引き出すということではないか。ネットだけでは信頼関係は生まれない。それをつ
くっていく意味でも重要だと思う。
観光のツーリズムと将来について、本来はもっと議論したいところだが、時間がなくな
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った。皆さんも頭の中でふくらませていただいたらよろしいのではないかと思う。
セッション 3:学生に対するメッセージ
■山内 弘隆 氏
ツーリズム業界を目指す学生さんにどんなメッセージがいいのか、この業界に求められ
ているのはどんな人材なのか、その辺の思いを語っていただきたい。
■徳永 清久 氏
信頼関係という言葉があった。あとはフェース・ツー・フェースという言葉をお伝えし
た。これからは、「いいお部屋があるから泊まってくれる」「いい環境があるから泊まって
くれる」だけでは難しい。サービスがいいのはもちろんだが、同時に信頼関係ができ、そ
の人の思っていることをかなえてあげられる。思いがかなうようなところが必要になる。
そうすると、相手の立場に立って考えるようなところが重要になってくる。それを実現す
るには体験が必要ではないか。
ホスピタリティということで話をすると、私が体験した中で日本というのはすごいと思
ったことがある。私の担当しているエリアに品川プリンスホテルがある。震災の日、宿泊
とレストランのお客さま以外に朝まで 7000 名の方を受け入れた。我々も「大丈夫か?」
という中で受け入れているわけだが、ロビーにも水族館にもどこにもシーツと毛布でみん
なが寝ている。そういう状況の中で明くる日が大変だと思った。掃除も大変だし、回収も
しなければいけない。「7000 人もの方をどうしよう」と言っていた。明くる日になって社
員が回ってみたら、やはり皆さん、ゴミを集めてくださっている。シーツを返すときは畳
んでくれて、
「ありがとう」の一言がある。日本はまだこういうところが残っていて、相手
の立場を思いやって語ることができる。
それは皆さんがこれから体験を増やしていくことによってできるのだと思う。海外を見
ることは大切だし、比較することももちろん大切だが、まず今日発表があった群馬でもい
いと思う。日本のライフスタイル、日本の文化とはどういうものなのか、これからどんど
ん体験していただき、それを自分の感想として人に伝えられるようになっていただきたい。
私も観光学科を出ている。私にとって昔から変わらない一番重要なところはそこだと認識
している。ぜひ体験を増やしていただきたい。
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■西尾 忠男 氏
実は、私は日本航空から出向しており、その前は沖縄支店長だった。いきなり電話がか
かってきて、「おまえは明日からジェットスターだ」と言われた(笑)。翌日行ったら会社
がもぬけの殻で、いるのは外人が 2 人だけ。そういう悲惨なところから今まで経験をして
きている。
よく「国際人」という言葉が出てくる。今日は学生の皆さんがいらっしゃるので、私の
経験をぜひお話ししたい。正直言って、国際人とは何だろうと思った。これから皆さんも
社会に出て外国に行ったり、外国人と交渉したりしなければいけない。英語が話せないと
なかなか国際人とは言えないが、それだけではないと思う。ジェットスターで外人と仕事
をして分かったのは、相手が同じことを考えていると思ったら絶対だめだ。相手は全く違
うものだと思わなければいけない。そう思わないと大変なことになる。
もう一つは、自分の考え、自分の意見を必ず持っていただきたい。外国人は何でも Why、
Why と突っ込んでくる。「What do you think?」と必ず人に意見を求める。自分の意見、
考えをきちんと持っていないと、相手と対等にコミュニケーションをとることができない。
日本語でも何でもいい。自分の意見を必ず持つようにしてほしい。しかし、自分の意見は
持っていても、なかなか口で人に発せられない。
「俺はこのように思っていたが、緊張して
なかなか言えなかった」ということもあるが、自分の意見をきちんと相手に伝えることも
コミュニケーションの一つである。応用編の上級は、相手を説得すること。これが外国人
とのビジネスでは一番必要で、これができるのが国際人だと思っている。
石原慎太郎とソニーの盛田さんが『「NO」と言える日本』を共同執筆している。私の考
える「国際人」の定義は「『NO』を説得する日本人」。相手に対し「黙れ!」というぐら
い、英語で論理的に説明できるようになっていただければいいと思っている。
■村瀬 茂高 氏
今の話には全く同感だ。実は、我々のツーリズム産業自体が日本の中で非常に重要だと
思っている。これからも日本の産業構造の中でツーリズム産業が伸びていかなければ、そ
こに関わるほかの産業の製造も衰えていくのではないか。そういう意味で重要な産業だ。
その中で、やはり日本のツーリズム産業のグローバル化が必要だろう。地球規模でヒト・
モノ・カネが動いていく中で、世界全体を見ながら、皆さんにはぜひツーリズム産業の日
本のリーダーを目指していただきたい。
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今回のテーマの「イノベーション」は、私の大好きな言葉だ。ツーリズム産業に入った
ら、今あるものを増やすだけではなく、今までになかったもの、かつてなかった価値観を
自分たちがつくり出す。このような意識でやっていただければ非常にいいと思っている。
■今井 敏行 氏
たくさんあるが、二つだけ述べたい。私が学生さんや新入社員に求めるのは、一つは豊
かな発想力と、それを具現化する行動力。豊かな発想力はどうしたら生まれるのか。豊富
で幅広く、深い知識がその源だと思う。では、その知識はどうやって得られるのか。学校
の授業かもしれないし、趣味の探求かもしれない。アルバイトやサークル活動、あるいは
人脈かもしれない。いろいろなことに興味を持ち、幅広く知識を吸収していただきたい。
もう一つは、書く習慣を付けていただきたい。私は IT 系にいるから、デスクトップも
使うし、ノートも使うし、スマホもタブレットも使うが、同時にいつもノートを 7 冊持っ
ている。一つはシステム手帳で、単なるスケジュール帳。2 冊目は会社の営業成績を事細
かく書くもの。3 冊目は会議に使うもの。4 冊目は面白そうだと思う新聞の切り抜きを貼
っておくもの。5 冊目は、紹介された IT 系の技術を切り取っておくもの。6 冊目は小さな
メモ帳。これは中づり広告を見てネタに使えそうものを書くため、いつもポケットに入れ
ている。7 冊目は、お客さまの紹介や接待もあるので、外国人のお客さまに喜ばれそうな
お店などを調べて書いておくもの。書くことでまず、情報が記憶される。記憶されると整
理される。だから、引き出すのが非常に容易になる。IT 系でも、書くという習慣をぜひ付
けていただきたい。
【学生からの質問・意見】
■山内 弘隆 氏
ここでフロアの諸君から質問や意見を伺いたい。
■質問者 1(学生)
感想と質問を述べたい。国際人の前提として「英語を話せる」があった。英語学科の学
生と話していて思うのは、英語を使って何かを研究するのであれば大学で英語を学べると
思うが、英語習得を大学におけるゴールとしている学生がけっこう多いと実感している。
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私は観光を専門に修めている者ではないが、英語を手段として持つということを改めて考
えるべきだと思った。
いま西日本には、今のところ京都、奈良など、さまざまな観光資源がある。ただ、東日
本を考えると、あまり目ぼしい観光資源はないように感じられる。これから戦略を立てて
いくとしたら、そちらについて何か考えはあるのだろうか。
■山内 弘隆 氏
東日本の観光資源をどのように生かしていくかについて、お考えをお持ちの方はおられ
るだろうか。
■今井 敏行 氏
原爆ドームのような歴史的な建造物は圧倒的に西のほうに多い。例えば、日本秘湯を守
る会があり、90 ぐらいの秘湯が登録されているが、その 7 割が東日本にある。東日本には
平泉のような歴史の町もあるが、やはり自然が豊富だし、自然に伴う風光明媚なところも
あれば、いい温泉もある。それは一つの売りだと思う。
■徳永 清久 氏
未開拓ゾーンなので、これから仕事としてやるには一番いいところという認識のほうが
強いと思う。
■質問者 1(学生)
実は、私自身が岩手県出身なので、東日本に思い入れが強いところもある。
■山内 弘隆 氏
私も岩手県だ。岩手県のリアス海岸などはものすごい天然資源、観光資源だと思う。あ
あいうところをいかに売り込んでいくか。ああいうところは、まだまだ理解されるべきで
はないか。
■質問者 2(学生)
感想と、質問が 1 点ある。徳永さまからフェース・ツー・フェースのコミュニケーショ
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ンが重要になってくるという話があった。私も観光や人が好きなのでそのようになってく
るのではないかと思っている反面、そうではないのではないかと思っている部分もある。
昨日、群馬の伊香保温泉に行ってきた。私は初対面の人と話すのが好きだが、温泉でおば
ちゃんが話しかけてきたら一緒に行った友達はふだんと違いよそよそしく、あまりずかず
か入ってきてほしくないというような雰囲気を出していた。自分の意見と周りの反応を見
ていて、日本人はどういう観光を求めていくのか疑問に思った。
近い距離でのおもてなしが本当にこれから求められることなのか。インターネットがど
んどん活発になってくると、直接会ってのコミュニケーションが減ってくる。そういうの
を苦手とする人もいるので、フェース・ツー・フェースというのが受け入れられるのかど
うか。
■徳永 清久 氏
一元的に全部そうなるというわけではない。私はそういう分野のほうが強くなると思っ
ており、MICE というビジネスで人々が集まることに力を入れている。その温泉地で体験
したことがツーリズムインダストリーの基本なのだと思う。そういうところでも気軽に声
をかけて話すというのが今までのライフスタイルだったが、日本の中にもよそよそしいと
いうライフスタイルが出てきた。その体験したことが湧出されることがこれからの観光事
業として大切で、その基本はフェース・ツー・フェースからでなければ生まれないと思う。
■西尾 忠男 氏
フェース・ツー・フェースというのは航空業界でも言われている。私は日本航空で国内
線をやっていたが、テレビ会議が進んだら出張で航空機を利用する人がいなくなるのでは
ないか、昨今の不景気でヨーロッパに出張する人が減るのではないかと不安だった。しか
し、実はヨーロッパ線などの国際線にはビジネスマンが乗っている。電機業界は景気が悪
いのになぜ乗っているのか。やはり相手のクライアントに会って直接話して、日ごろのリ
レーションシップを図って戻ってくる。どうしてもテレビ電話には代えられない。ヒュー
マン・ツー・ヒューマンで話し合いながらやれば、ある程度話した段階で非常に大きな課
題が解決できるということがある。国際ビジネス路線が好調なのはそういう、人と会って
商談するという、昔のアナログ的なところが支えているのではないか。
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2013 年 2 月 5 日(火)
■徳永 清久 氏
実は MICE の中で Incentive、Conference は少し横ばい。Exhibition は落ちたが、
Meeting ビジネスだけは落ちずに逆に上がっていった。そういうときだからこそフェー
ス・ツー・フェースは絶対必要だ。
総括:コメンテーターのまとめ
■山内 弘隆 氏
壇上のパネリストの方々が質問に対しどんどん発言された。これが大事だ。リーダーの
方だからもちろんすばらしい方ばかりだが、皆さんにはこれを学び取ってもらいたいと思
う。相手の立場に立つためには体験が必要であるということ。真の国際人たれという話。
あるいは日本のリーダー、イノベーターになれということ。発想力を豊かにし、深く考え
る人になってもらいたい。こういうことが皆さんに対する要望になる。大きな要求ではあ
るが、このうちの一つでもいいからぜひ身に付けて帰っていただきたい。
これでパネルディスカッションを終わりたい。
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