Akita University ( 6 8 ) 症例報告 :秋 田大学医学部保健学科紀要 1 2 ( 1 ):6 8-7 1 ,2 0 0 4 扇平 ・陥没乳頭妊婦 に対す る乳頭保護器 (ブ レス トシェル)使用 の効果 福 井 敦 子* * 島 山 内 朋 子* * 佐 藤 芳 子‥ 櫛 引 美代子 * 田 しのぶ ** ヒ ユ E I 要 扇平乳頭 および陥没乳頭 の妊婦 に対 して妊娠期 に乳頭保護器 (ブレス トシェル) を使用 し,乳頭突出を試 みた. 扇平乳頭 および陥没乳頭 の 2症例 とも分娩後 には直接授乳 に適す る乳頭長 に改善 し,分娩直後 よ り直接晴乳が可能 であ った.退院後 も母乳栄養を継続 し,産 裾 1カ月後の完全母乳 は達成 された. は じめに ことな く,必要 な母乳量 を母親 の乳房 か ら直接 晴乳 で 母乳栄養 の利点 は栄養学 的,母体の子宮復古の促進, きることをい う. 母 子 の コ ミュニ ケ ー シ ョンな ど周 知 の こ とで あ る. 1 9 9 1 年 ユ ニ セ フ と WHOが赤 ち ゃん にや さ しい病 院 乳頭保護器 ( ブ レス トシェル) ( 写真 1) 運動 の基本 と して 「 母乳育児 を成功 させ るための1 0ヵ 条」 の試 みを開始 し1 ) , わが国 にお いて も2 0 0 0 年 「健 やか親子 2 1 」の施策 2)が打 ち出 され, 2 0 0 1 年 か ら2 0 1 0 年 の1 0 年 間で生後 1カ月 の母乳育児 の割合増加 に取 り 組 んで い る現状 で あ る.一般 に も母乳栄養 の利点 は認 識 され るよ うにな り, で きれば完全母乳 に したい と希 望 す る妊婦 は少 な くない.母乳育児成功 のために分娩 表 (マ ウン ト) 裏乳房接触面 ( 妊婦用) 裏乳房接触面 ( 裾婦用) 後3 0 -6 0 分 内の直接授乳,産裾期 の頻 回授乳 な ど,母 ( 文献 3よ り引用,一部改変) 写真 1 ブレス トシェル 親 と看護者 が ともに努 力す るに もかかわ らず,完全母 乳達成 で きない例 が多 々み られ る.退院後 の母乳栄養 挫折 の要 因 と して,扇平乳頭,陥没乳頭 な ど乳頭 の形 態異常 が あ る. )( MEDELA製, USA,商 品 使用 した乳頭保護器3 ・ 4 今回,陥没乳頭 の妊婦 お よび扇平乳頭 の妊婦 に対 し 名 ブ レス トシェル) は, ポ リプ ロ ピレン製, カ ップ状 て,乳頭 の形態改善 を 目的 に妊娠期 に乳頭保護器 (ブ の ドームと呼 ばれ る部分 と乳房 に直接接触す る部分 よ レス トシェル) の使用 を試 みた. いずれの症例 も乳頭 りな る器具 であ る.乳房接触面 は産前用 と産後用 があ の形態 は直接 晴乳 に適 す る状態 に突 出 し, 目的 は達成 り,産前用 は コー ン,産後用 は リングと呼 ばれ る. され たので報告す る. 倫理 的配慮 用語 の定義 ニ プル シェル使用開始 時 に,乳頭 の変化 につ いて学 完全母乳 とは,新生児 に母乳以外 の飲 み物 を与 え る 術上活用す ることに同意 を得 た.併せて,個人 を特定 *秋 田大学医学部保健学科 Ke yWo r ds : 母乳栄養 **秋 田大学医学部附属病院産婦人科 陥没乳頭 ブ レス トシェ ル 6 8 秋田大学医学部保健学科紀要 第1 2 巻 第 1号 Akita University 櫛引美代子/扇平 ・陥没乳頭妊婦に対する乳頭保護器 (ブレス トシェル)使用の効果 ( 6 9 ) 表 1 症例 1の経過 乳頭長 ( mm) 右 左 34週 3 3 硬 ( 上耳介様) 無 痔痛あ り 1時間/日 36週 4 4 軟 ( 小指球様) 不良 痔痛な し 2-3時間/日 37週 4 5 軟 ( 小指球様) 2-3時間/日 38週 5 7 軟 ( 小指球様) 2-3時間/日 妊娠週数 伸展( mm) 乳頭硬度 妊娠 3 8週 5日で女児 自然分娩, 備 考 児 の出生時体重 2 9 8 2g で きないよ うに配慮す ること,写真撮影 は拒否で きる こと,協力拒否が受診上 の不利益 にな らない ことを伝 えた. また,撮影 した写真 は撮影後 に本人が確認 で き るよ うに配慮 した. 症例 1 3 9 歳, 1妊 1 産.第 1子 は染色体異常の ため吸畷力 不良で直接晴乳困難であ った.今回 は直接授乳 および 写真 2 症例 1産 裾 2日目の授乳 完全母乳 を希望 した. 妊娠 3 4 週時の乳房 の形態 はⅢ型,左右 ともに扇平乳 mm)で,乳頭 ・乳頚部 は硬 く, ほ とん 頭 ( 乳頭長 3 4 週 の健診時 に早産徴候がな ど伸展 しなか った.妊娠3 この時の乳頭長 は左右 いずれ も 7 mm に改善 していた. か ったので,乳頭 マ ッサー ジを試 みたが,触 れ るだけ 産 裾 2日目よ りブ レス トシェルを産裾用 に変更 して, で捧痛 を訴 え, セルフケアは困難 と判断 した. その時 日中のみ産裾 2週間装着 した.退院後 も直接授乳 を継 点 よ り, ブ レス トシェルの使用 を勧 め,装着 を開始 し 続 し,完全母乳 を達成 した. なお,生後 7カ月後 も母 た. 乳晴青 を行 っていると報告 があ った. ブ レス トシェル使用後 の乳頭 の変化 を表 ( 表 1に示 した 1).装着時間 は 1日 1時間 と指導 したが,妊婦 の 症例 2 装着感等 による自己判 断を優先 した. ブ レス トシェル 3 4 歳,0妊 0産,妊娠3 7 週時 に里帰 り分娩 の ため帰 使用開始時 には装着 しただけで乳頭 ・乳輪部 の捧痛が 省 し,以後妊婦健診 を受 けた. これまでに乳房 に関す 2日目は3 0 分 の使用で あ った. 使 用 1週 間 る指導 は受 けていず,乳房ケアは全 く行われていなか っ あ り, 1 , 経過 した頃 よ り捧痛 はな くな り,毎 日 1時間使用 した. た. しか し,用手 的 にセル フマ ッサー ジは困難 であ った. 乳房 の形態 は Ⅱa型,仮性陥没乳頭で用手 的 につ ま 6 週 の妊婦健診 時 には乳 頭長左 右 と も 4 mm, 妊娠 3 mm程度であ った.妊娠3 7 週 健診 時 み出 して乳頭長 3 乳頭の硬度 も小指球様 に軟化 していたが,伸展 は不良 よ りブ レス トシェル装着開始 した.同時 に乳頭 ・乳頚 で あ った. また,妊婦 自身が 「 乳頭が伸 びて きたよ う 部 マ ッサージを指導 し, 1日 1回の頻度 でセルフケア だ」 と自覚 し, 自 ら断続的 に装着 時 間 を 1日 2 -3時 を開始 した. 間 に延長 した.助産師の乳頭 マ ッサージ試行時 に捧痛 ブ レス トシェル使用 による乳頭の変化 を写真 3に示 8 週時 には乳頭長左 6 mm,右 5 mm,伸展 も左 1 2 妊娠 3 した ( 写真 3). 妊娠 3 7 週 時 で は用手 的 に よ うや く 3 mm突 出す るが陥没 した状態 だ った. ブ レス トシェ mm,右 1 0 mm と好転 し,直接授乳が可能な状態になっ ル使用 と乳頭 ・乳頚部 マ ッサー ジのセル フケア継続 に た. よ り,分娩前 日の妊娠4 0 週 を訴 え, セル フマ ッサージは相変わ らず困難であった. 妊娠 3 8 週 5日で 自然分娩 し,分娩直後 の直接授乳で 新生児 の吸畷力 は良好 であ った.産 裾 2日目には,介 助 な しで直接授乳がで きるよ うにな った ( 写真 秋田大学医学部保健学科紀要 第1 2 巻 第 1号 2) . 4日には,両側乳頭が 自然 突 出の状態 にな り,乳頭 マ ッサー ジ後 はさ らに突 出す るよ うにな った.乳頭長 および伸展 の改善 経 過 を蓑 2 に示 す ( 表 2 ) .妊 娠 3 9 週 時 に は乳頭長左 4 mm, 右 6 9 Akita University ( 7 0 ) 櫛引美代子/扇平 ・陥没乳頭妊婦に対する乳頭保護器 (ブレス トシェル)使用の効果 表 2 症例 2の経過 妊娠週数 乳頭 長 ( mm) 伸展 ( mm) 乳頭硬 度 右 左 37週 3 3 硬 ( 上 耳介様) 無 39週 5 4 軟 ( 小指球様 ) 8 備 考 用手 的 に突 出 陥没乳頭 2時間/日 京平 ・陥没 乳頭 2-3時間/日 40週 4 5 軟 ( 小指球様 ) 1 5 仮性 陥没 乳頭 2-3時間/日 妊娠 4 0週 5日で女児 自然分娩, 児 の出生時体重 3 0 4 4g の唇 に乳頭 を触れさせ ることが必要である. また,晴 乳 は乳頭のみを吸畷す るのでな く,乳管,乳管洞内の 乳汁を吸引す るために乳房を吸綴す ることである. し か し,探索反射を促す乳頭長が不十分 だ った り,新生 妊娠4 0遇 マ ッサージ前 児が上手 に舌 を使 って十分 に乳房を吸畷で きるよ うに な るまで吸い付 く部分 としての乳頭長 と乳頭 の伸展が 不良の場合,直接晴乳困難 とな る.直接晴乳 には乳頭 0 -2 0 mm が望 ま しいが, 乳 頭長 1 0 mm 以下 で も 長1 乳頭の伸展 が良好 で あれば乳頭長 8mm で直接 晴乳 妊娠 37適時 可能である8).今回の 2症例 は乳 頭長 の矯正 と乳頭 ・ 乳頚部の伸展が改善 された ことによって,乳頭長 1 0 妊娠40 遇 マッサージ後 写真 3 ブレス トシェル使用後の乳頭の変化 2 0 mm に類似 した状態 にな り, 出生 直後 の直接 晒乳 が容易 にな った と考え られる. また,症例 1のよ うな 痔痛のためにセルフケア困難 な場合で も, Ⅲ型 の洋 ナ シ形態 は乳房の重みが装着 した ブレス トシェルに加 わ 5 mm に突 出 し,伸展 は左右 とも 8 mm に変化 した. り,乳房が動 くことによって緩徐 なマ ッサージ効果が 乳頭 ・乳輪部 の硬度 は小指球様 に軟化が認 め られた. あ った と考え られ る。 さらに,乳房緊満 を きたす以前 4 0 週 4日の分娩前 日には乳頭長左 5 mm, 右 6 mm, 5 mm と好転 した. 伸展 は左右 とも1 0 週 5日で 自然分娩 し,分娩直後 より直接晴乳 妊娠4 が ほぼ確立 で きた ことは, その後の母乳晴育継続 に対 す る大 きな要因 とあった. その結果,母親 の母乳 に対 は良好で,産裾期 はニプルシェルを使用す ることな く す る意欲 と自信 に繋が り,完全母乳を達成で きた と考 に母親 の直接授乳 の自立,な らびに新生児 の直接晴乳 直接晴乳 を継続 し,入院中に完全母乳 とな った.その え られる. また,入院中に母親 の直接授乳の確立 と新 後,産 裾 1カ月健診時 も完全母乳であ った. 生児の直接晴乳の確立 は,入院中母乳分泌量が不足 し ていて も退院後の完全母乳を十分期待で きる. 考 察 母乳晴青 の確立要因 には新生児および母親の両側面 があ り,児 の吸畷力,母親 の意欲,早期授乳,授乳姿 勢 や乳頭の形態 と母乳 の分泌などの要因が複合 してい 今回,乳頭の形態上 の問題で直接晴乳困難 が予測 さ れた 2症例 は,直接哨乳確立 のために妊娠中の乳頭 ケ アが有効であった. 今回の 2例の経験 をまとめると, ることが多 い.中で も乳頭の形態上 の授乳困難 は母乳 1.母乳晴青 に意欲的であ った こともあ り,扇平 ・陥 晴青 の意欲が害われ,退院後 の直接授乳困難 により母 乳晴青 を挫折す ることが しば しばみ られ る. そのよ う 没乳頭の改善 に対す るブレス トシェルの効果が認 め られた. な リスクを有す る妊婦 に対 して,分娩前 に問題解決 を 2.ブレス トシェルの使用期間が 3週間 とい う短期間 図 ることは産裾期の母乳哨育達成 のみな らず,妊娠期 で も乳頭 ケアと併用す ることによって十分効果が か ら育児 に対す る意欲高揚 の効果 も期待で きる. 得 られ ることが確認で きた. 新生児 の晴乳行動 は探索反射,吸畷反射 に続 いて吸 3.乳頭 ・乳頚部 の捧痛 のため,用手的にマ ッサージ 畷を始 め る5-7).探索反射 を誘発す る効果 には,新生児 困難な例 において, ブレス トシェル装着 によって 7 0 秋田大学医学部保健学科紀要 第1 2 巻 第 1号 Akita University 櫛引美代子/扇平 ・陥没乳頭妊婦 に対す る乳頭保護器 (ブレス トシェル)使用の効果 ( 71 ) 緩徐 なマ ッサージ効果があ り,捧痛緩和効果を得 3 .櫛 引美代子 :カ ラー写真 で学 ぶ妊産裾婦 のケア, 医歯 られた ことが示唆 された. 0 01,p. 1 3 薬 出版株式会社 ,2 4 .UNI CEF/ WHO, 橋 本 武 夫 監 訳 :母 乳 育 児 支 援 ガ イ おわ リに ド, 医学書 院,2 0 0 3 ,p. 4 7 いずれにおいて も,妊婦 自身が母乳晴青 を希望す る ことが前提であ ることはい うまで もない. しか し,母 乳晴青 の意欲 は助産師等 の妊婦 ・裾婦 に対す る関 り方 が左右す ることを常 に念頭 において看護 しなければな らない. 5 .UNI CEF/ WHO, 橋 本武 夫 監 訳 :母 乳 育 児 支 援 ガ イ 0 0 3 ,pp. 3 8 41 ド, 医学書 院,2 6 .岩 山和子 :赤 ち ゃんの哨乳行動, 日本小児医事 出版社, 1 9 9 4 ,pp. 2 5 31 t . :Myl e s 7 .Di aneM. Fr a s e r ,Mar gar e tA. Coope rEdi , Chur c hi l lLi vi ngs t one , Te xt book f orMi dwi ve s 文 London,2003, pp. 755759 献 1 .N. BAUMSLAGandD. LMI CHELS,橋本武夫監訳 : 母乳育児 の文化 と真実 ,1 9 9 9 ,pp. 2 4 2 2 4 3 8 .櫛 引美代子 :カ ラー写真 で学 ぶ妊産裾婦 のケア, 医歯 薬 出版株式会社 ,2 0 01,p. 1 2 0 0 3 ,p. 9 8 2 .国民衛生 の動 向 :厚生統計協会 ,2 Ef f e ctofNi ppl eShi e l d( BREASTSHELLS)i nRe t r ac t e dNi ppl ePr e gnanc i e s Mi yokoKUsHI BI KI *At sukoFuKUI **Shi nobuSHI MADA** TomokoYAMAUCHI **Yoshi koSATOH *Cour s eofNur s i ng,Sc hoolofHe a l t hSc i e nc e s ,Aki t aUni ve r s i t y * *DepartmentofNursing,AkitaUniversityHospital Weus e dni ppl es hi e l d( BREASTSHELLS)t ot r e atr e t r a c t e dni ppl e sa ndf l atni ppl e sdur i ngpr e gnanc yi n or de rt oac hi e vepr ot r us i onofni ppl e . Us i ngBREASTSHELLShadane f f e c t i ver e s ul ti nt hatni ppl ee xt e ns i onwa si mpr ove d, andbr e a s t f e e di ng waspos s i bl edi r e c t l ya f t e rde l i ve r y.Br e a s t f e e di ngc ont i nue da f t e rhos pi t aldi s c ha r gea ndf ul lbr e a s t f e e di ng f oronemont hf ol l owl ngpue r pe r i um ac hi e ve d. 秋 田大学医学部保健学科紀要 第1 2巻 第 1号 7 1
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