糖尿病クリニカルパス適用において食事指導を行った 7症例

Akita University
(
5
8)
研究報告 :秋 田大学医学部保健学科紀要 1
2(
1
):5
8-6
7
,2
0
0
4
糖尿病 ク リニ カルパ ス適用 において食事指導 を行 った 7症例 の検討
*
*
* *
子鶴
紀
由千
川 谷
谷
長 神
*
* *
子 磨
ヨ
-琢
田 田
岡 成
*
*
** *
子子博
紀 紀 義
橋 藤 沼
高 佐 浅
ヒ
エ
日
要
糖尿病患者 に対 し,教育入院用 ク リニカルパスを作成 し,7例に適用 した. このパスの中での栄養士の果 たす役割
は, アウ トカムを 「
食事療法の必要性が理解で き, ご飯などの秤量がで き,退院後 も継続で きる」 とした.入院期間
4日であり, この間に全例 において,3回栄養指導を行 うことがで きた.入院時に調査 した患者 の食事状況 に
は平均 2
ついては,7例中 6例が間食を していた. また,食事傾向は 7例中 5例が基本量 よりも多 く食べていた. また, 7例
中 2例では食事療法 に対す る家族の協力 は得 られず,問題を抱えていた.
教育入院前後の BodyMa
s
sI
nde
x(
BMI
)は,入院時2
7.
4±4.
8
,退院時2
6.
7±4.
6であった. また,収縮期血圧 は,
4
0±2
6
mmHg, 1
1
7±1
8
mmHgであった.BMI
,収縮期血圧 ともに入院により有意 に改善 した. 血液検査成績 と
各1
して,空腹時血糖,HbAI
cを測定 した.空腹時血糖 は,入院時1
8
2±4
0
mg/
dl
,退院時 1
3
2±5
2
mg/dlで あ った. ま
cは,各l
o.
0±1
.
8%,8.
0±0.
9%であった.空腹時血糖,HbAI
cともに入院により有意 に改善 した.
た,HbAI
退院時 に,食事療法の理解度を調査 した.摂取 エネルギー量や主食 ・主菜 ・副菜の組み合わせの理解は 7例 ともあっ
1部 ある」が 3例であり,「ない」 は 1例 のみであ った. 糖尿病
た. また,食品交換表の理解 は,「ある」が 3例,「
教育入院用 ク リニカルパスを用いて管理栄養士が食事療法 に介入す ることは,計画的に栄養指導 を行 うことができる,
栄養士がチーム医療のなかに積極的に入 ることがで きる等の理由により有意義であると考える.
Ⅰ. は じめ に
院 して きた患 者 に対 して ク リニ カルパ スを作 成 し適 用
わ が 国 の糖 尿 病 患 者 数 は着 実 に増 加 傾 向 にあ り, 糖
した効 果 と意 義 につ いて検討 した ので報 告 す る.
尿 病 の可 能 性 を否 定 で きな い人 を合 わせ る と約 1
6
2
0
万
人 と報 告 され て い る1
)
. この糖 尿 病 の治 療 で は, 医 師
Ⅱ. 対 象 と方 法
を 中心 と して, 看 護 師, 薬 剤 師, 栄養士,心理療法士,
1.当院 の糖尿 病教 育
そ れ に患 者 の家族 な ど多 くの人 々が協 力 して, 患者 を
当院 で は糖 尿病 ク リニ カルパ ス と して教 育 入 院 用 パ
1)
.
支 え て い く必 要 が あ る. と りわ け栄 養士 は糖尿 病 治 療
スを作 成 して お り, これ を示 す (
表
の基 本 で あ る食 事 療 法 2
)を行 うに際 し, 中心 的 な役 割
この 中で栄 養士 の果 たす役 割 は, ア ウ トカ ムを 「食事
を果 た さな けれ ば な らな い. しか し, 当院 にお け る栄
療 法 の必 要 性 が理 解 で き, ご飯 な どの秤 量 が で き, 過
養 士 に よ る指 導 は, 2
0
0
3
年
4月 の ク リニ カルパ ス導 入
院後 も継 続 で き る」 と した. そ して, 栄 養 士 が入 院 時
前 は, 医 師 か ら依 頼 が あ った時 の み の指導 で あ り, 過
お よび退 院時 にお け るベ ッ トサ イ ドで の個 人 栄 養 指 導
院 前 の食 事 指 導 は十分 に行 われ ていない現状で あ った.
と, 入 院 中 の集 団指 導 を行 って い る.
そ こで, わ れ わ れ は食 事 指 導 の観 点 か ら, 糖 尿 病 で入
*秋 田大学医学部附属病院
**秋田大学医学部
***秋 田大学医学部
5
8
栄養管理室
Ke
yWor
ds
: 糖尿病
老年科
ク リニカルパス
保健学科
食事指導
秋 田大学 医学部 保健学科紀要
第1
2
巻
第 1号
Akita University
表 1.糖尿病のク リニカルパス
様
。
す
1日目
/
2日目
/
(
月)
3日目
(
火) /
4日目
(
水) /
(
木)
5日目
6日目
/ (
金) /
1日血糖測定があります.食事の前後に
瑚 )2併
検査
入院時の検査とし
心電図、血液 尿 (
てレント
便)の検査が
ゲン、
7日目
9日目
8日目
(
土 ) / (日)
/
(
月)
/
10日日
(
火) /
11日日
(
水) /
(
木)
12日日
1
3日日
/
/ (
土 )/ (
日)
(
金)
合併症精査のため消化管検索や、CTやMRI
による
糖尿病による障害の度合いを
入院中眼科受診し、眼底検査をし
みます○
てもらいます。
】
血糖値を測定し、血糖値の変化をみます○
科長回診
退院おめでと
ございます。う
全身検査をする場合があります.
科長 回診
つ
して内服し
く薬が開始さ
てくださ
れたと
い.
きは医師の指示に
l
薬剤師による薬の説明があL
)
ます○
[
i
薬物
従っ
現在お持ちのお薬は医師の指示に
て注射し
血糖値によ
あり
リンを
ます.
て服用し
使用し
てく
っては変更する
ださ
ている方も
てく
い.
ださい.
指示に従っ
またイ
場合が
ンス
きる○
各、
し
の意義を理解
自の薬物治療
自己管理で
食事
キロカロリ
糖尿病食 (
ーです
)
運動
主治医の指示に従いましょう.
養士による
0
あり
食事説明が
病室でお昼
分前頃に栄
ます. 1
体温
入院時、
日13
.
時半にも測定し
脈拍
身長
.
血圧を測り
.
体重を測り
ます。
ます.
ます○
毎
行動
生活
浴をするこ
医師より
自由です.
指示がなければ病院内は
と
一人で入浴やシャワー
ができます○
説明
看護師が入院生活について説
明をし
医師が治療
し
ますO
ます○.
検査などの説明を
I
l
l
ます○
があり
集団食事指導
栄養士による
に
1
5時か
1階で
ま
ら
行い
す.
1
6
時
す.
栄養士に
よる個別持
串がありま
ご飯などの秤量
性が理解でき、
食事療法の必要
も
ができ、
継続できる○
退院後
を理解
運動療法の必要
行える○
に添った運動が
し、基本
I
詰
観察
歪諾 讐 誓 大切です.病院の給食以外の
ま提窒慧誤
認 琵 望訟
O
l
l毎 日足の観察をしましよう○
I
性が理解でき
る.
足の観察の必要
の説
治療
医師より
あります。
効
明が
果
ビデオ学習をします○わからないところは質問してくださいo
午後に自己
59
指導
教育
医師による治療
の講義 あ .
ヽ
合併症につい
呈色 一よ
院
誓 <
y
,
=
f
S
L
L
モす.扇 面
とこ宛
J
l
1
退院時
I
糖尿病の知識を
た治療の必要性
習得し、継続し
日 計 √ノ
バ妙朝芯職 中耳J f
;7r
RUrj
8赤壁
匿
9 7
)い * )
i
,
-.
j
L敵 遍
諏 l亜
毎
ためていただきます○
あり
7
2
トイレのたびに尿をと
時
1
日血糖値を測定し
時
ますo
、1
、1
(
2
時半
4時、
、1
37
時)
時半、
ます0
って
14日日 患者さ
目標
んの到達
訓諭符≠\滞蔀蔀
巽E
B汁購 圃場碧 蔀藻場葦琵珊
糖尿病で入院 され る皆様下記 のよ うなスケジュール にそっての入院生活 となる予定で
Akita University
(
6
0
)
高橋紀子/糖尿病クリニカルパス適用において食事指導を行った7症例の検討
2.
糖尿病 の食事療法の実際
糖尿病 の食事療法の指導要領 を示す (
表 2)
.
1回 目の個人栄養指導 として,入院 2日目の昼食時
にベ ッ トサイ ドに患者 を訪問 し,指示 エネルギーや昼
食献立 について具体的 に説 明す る. また,患者 の噂好
につ いて聴取 し,牛乳 の噂好 やア レルギー食品等があ
れば特別 に対応す る.集団栄養指導 は,栄養相談室 に
患者 を集 め, ビデオを用 いて糖尿病 における食事療法
の重要性 と食品交換表 の使 い方 を理解 して もらうよう
に している. 2回 目の個人栄養指導 は,入院 2週間 目
の木曜 日に栄養相談室で行 っている.退院後の献立作
成法指導,食事療法全般 についての理解度をチェック
シー ト (
表 3) を用 いて,調査 ・検討 した. また,外
3
.
糖尿病 ク リニカルパ スで食事療法 した症例 の提示
2
0
0
3
年 4月か ら 9月 までの半年間に,糖尿病 ク リニ
カルパ スを用 いて食事指導 を行 ったの は 7例 で あ る
(
表 4).年令 は,平均6
3
才 (
4
7
-7
3才), 性別 は, 男
性 2例 女性 5例,病悩期間 は,平均 1
2
年 (
3ケ月∼
2
7
年)であった.併存疾患 は,高血圧 6例,高脂血症
3例 であ り,他 に慢性腎不全,右祉切断など重症糖尿
病 に起因す る合併症 も各 1例 に認 め られた. なお,今
6日∼4
7日 (
2
4±1
1
回の入院についての入院期間 は, 1
日)であった. また,入院時 に 6例が経 口糖尿病薬 を
服用 してお り, うち 1例 は入院前 よりイ ンス リン注射
を行 っていた.5例では入院後 にイ ンス リン注射 が導
入 された.
来時の栄養指導 の予約 なども行 った.
なお,患者 の情報保護 に関 して は,十分 に配慮 した.
表 2.糖尿病の食事療法指導要領
栄養管理室
指導内容
(
入院 2日目)
個人指導
(ご飯 1
0
0g計量)
1.指示 エネルギーについて説明
1回 目
l
l:
5
0-1
2:
0
5 配膳室か ら食事を ワゴンで運搬
ベ ッ トサイ ド訪問
4
3
2.次回の栄養指導
主食量
患者
牛乳
昼食献立の説明
偏
主食
病院の食事が教材であることを示
の食事
について聴取す
もらう
りのないバ
の噂好
の噂好や卵
.主菜
について,ご飯の量を茶碗で理解
と比較
について
.副菜
ランスのとれた食事
して
る
目について説明
.青身魚等
を組
もらう
み合わせて
ア レルギーの有無
について
とること
し,家庭で
して
2
(
回目
1週 目木曜 日)
1
1
5
.食事療法の重要性
:
0
0
-1
6:
0
0
について
○食事噂好調査票
○一週間の献立
○食事療法
○食事案内カー
のポイ
ド配布
ント
・
・
○ 糖尿病 の食事 につ いて
集団指導
・
食事 の基本 につ いて
○6つの食品 グループ
栄養相談室
2.食品交換表 の使 い方
○ あなたの食生活 は ?
・栄養成分のバ
ビデ オ学習 ランスと食品分類 について
○ 塩分 の控え方
(2週 目木曜 日)
6
0
資料
比較
個人指導
2.改善点 を理解 して もらう
3回 目
1.食生活状況聴取か ら問題点を把握 し病院食 と ○食事記録表
○食生活状況調査票
○外食 の注意点
の配布
秋田大学医学部保健学科紀要
第1
2
巻
第 1号
Akita University
高橋紀子/糖尿病 ク リニカルパス適用において食事指導を行 った 7症例の検討
(
61
)
表 3.チェックシー ト
評
退院時 (
価
*
)外来 (
はい〇 、 ま あま あ △ 、 いいえ ×
) 外来(
) 外来(
)
1.自分の一 日の指示エネルギーまたは指示単位がわかる○
2.1単位が何カロリーかわかるo
3.表 1から表6の食品分類がわかる。
4.ご飯の量が言える○
5.食品の交換ができる.
6.外食の摂り方の注意点がわかるo
7.献立の作成ができる○
8.- 日の食事量 (
単位数)
を表 1から表6ヒ配分できるo
9.主食となる食品が言えるo
10.主菜となる食品が言えるo
ll.副菜となる食品が言える.
表 4.糖尿病 CPで食事指導 した 7症例の背景
症例
1
71才 ・
女
年令 雌
2
62才 ・
女
入院 日数 栄悪霊導
47日
3回
21日
病悩期間
8年
併存疾患
高血圧
13年
高血圧
高脂血症
抑うつ神経症
高血圧
慢性腎不全
高血圧
高脂血症
高血圧
右 祉切断
3回
3
62才 ・
女
16日
3回
6年
4
73才 ・
女
28日
3回
25年
5
53才 ・
男
19日
3回
8年
6
47才 ・
男
18日
3回
3ケ月
7
70才 ・
女
19日
3回
27年
4.
検討項 目
1) 食事 噂好状況 の把握
入驚
糖
インスリン
+
入院後に開始
+
入院後に開始
+
入院後に開始
+
入院後に開始
入院後に開始
高血圧
高脂血症
+
入院前より使用
4)血圧 の変動
5)血 液検査成績
項 目は, 食事 を規則 的 に して いるか, 間食 は して い
るか, 食事量 はどれ くらいか,外食 はす るか, 味付 け
(
空腹時血糖, HbAI
c
,血清脂質)
6)退 院時 の食事療 法 の理解度
は濃 いか, アル コール は飲 むか につ いて患者 に問診 し
た. また,栄 養士側 の チ ェ ックと して は,食事療法 の
理 解 度 はあ るか, 治療 に対 す る意欲 はあ るか,家族 の
協 力 はあ るか を把握 し記録 した.
5.
統計処理
血 液検査結果 は,平均 ±標準 偏差 で表 した.入院時
と退 院時 との結果 の比較 には, ウ ィル コク ソ ンの符号
2) 投与 カ ロ リー,摂 取 状況,塩分制限 の実施状況
<0
.
0
5を有意差 あ りと した.
順位検定 を用 い, p
3)Bo
dyMa
s
sl
nd
e
x(
BMI) の変動
秋田大学医学部保健学科紀要
第1
2
巻
第1
号
6
1
Akita University
高橋紀子/糖尿病 ク リニカルパ ス適用 において食事指導 を行 った 7症例 の検討
(
62)
Ⅲ.結
果
ている.時間 はかか るが根気強 く継続指導すればよい
か と思 われた.
1.
食事噂好状況 の把握
2.
摂食状況, BMI
,血圧 の変動 (
表 6)
入院期間中 に. 7例すべてで各 3回の食事指導を行 っ
た. まず,入院 2日目に行 った食事噂好 についての問
症例 ごとに,投与 カロ リー,摂食状況,塩分制限を
5).患者 の食事状況 と して は,
示す. また,入院時および退 院 時 の BMIと血 圧 を示
「1日の食事 が規則的である」と答 えてい
す.主治医 よ り患者 ごとに投与 カ ロ リー と塩分制限の
る.「間食」 につ いて は, 7名 車 6名 が食 べ て いた.
指示がある2
)
.入院中の食事摂 食 は全 例 で全 量摂取 し
また,「
食事傾向」 につ いて も, 本来 の基本量 よ り も
ていた. BMIは,退 院時 に 7例 す べ て で改善 が み ら
診 の結果 を示す (
表
患者全員 が
多 く食べてい る事 がわか った. 「味付 け」, 「アル コー
れてお り, これ らの平均 ±標準偏差 を比べて も,入院
ル」 は把握 で きない患者がいた.栄養士側 のチェ ック
7.
4±4.
8
,退 院時 2
6.
7±4.
6で あ り, 退 院 時 に有 意
時2
意欲」
項 目で,「
患者 の理解度」 は 7名中 5名だった.「
に改善 していた (
p-0.
01
7
8
)
.血圧 の変動 については,
につ いて も前項 とほぼ同 じ結果が得 られ た. 「家族 の
拡張期血圧 は, 入 院 時 1
4
0±2
6
mmHg, 退 院時 は1
1
7
協力」は 7例 中 5例 は得 られ るものの,残 り 2例 は,
±1
8
mmHgであ り退院時 に有意 に低下 していた (
p4±9
mmHg, 7
2
0.
0
2
7
7
)
. しか し,拡張期血圧 は,各 7
±1
3
mmHgであ り両者間 に有意差 は認 めなか った (
p
-0.
5
2
8
2
)
.
一人暮 らしで近 くに家族 もいなか った り,家族 が無関
心 だ った りと問題点 を抱 えていた. このチェ ック項 目
の 3点 ともに 「ない」 とチ ェックされた患者が 1名 い
た. しか し,栄養指導 には苦痛 はな くきちん と参加 し
表
5.食事 嘩好状況
a. 患者の噂好状況 (
患者-の問診)
症例
食事
間食
食事傾
外食
規則的…
不規則 する し
ない■
川
●
首r
r
T,
少 な い する 喜
しない 濃味付け
い書
薄い
向
1○ ≡ ○ 】
○!
i
i
i0
○ 壬
○i
i
壬
i
l
0 …○
3
○ ≡
i ○
f
事
Ai
≡
…
○ i
I I
…○
t
i
i
蔓
○ △i
王
; iI
i
辛
△i i
妻 ≡
…
○
○
2
4
○ Ⅰ
至
5
○ i
≡
…
i
ア ル コー ル
飲む 飲 まない
書
○
!○
蔓
書○
】
I
壬
i
b. 栄養士チェ ック表
症例
1
理解 度
ある 書な い
○
○
蔓○
2
62
呈
I
!
意敬
ある 萱
ない
!
妻
≡
家 族 協力
あ
る!ない
≡
蔓○
○ ○Z
…
I
…
i
3
○ l
i
4
△ ‡
蔓
○l
弓
i
5
○
○
○ i
6
○
△
壬
≡
・
○
○ I
○
秋 田大学 医学部保健学科紀要
第1
2巻
第 1号
Akita University
高橋紀子/糖 尿病 ク リニカルパ ス適用 において食事指導 を行 った 7症例 の検討
(
6
3)
表 6.投与力。リー, BMl
,血圧の変動
症例
投与カロリー 摂食状況
(
Kcal
)
塩分制限
BMⅠ
血圧 (mm Hg
)の変動
入院時-退院 時
入院 時-退院時
1
1
2
(
0
8
0
病
-1
日)
36
0
1
0割
-
22.
6-22.
3
1
46/8
0→1
00/6
0
2
1
2
00
1
0割
1
0g
34.
4-33.
1
1
38/88.
-1
34/92
3
1
440
1
0割
-
25.
0-24.
3
1
40/7
0-1
00/6
0
4
1
300
1
0割
7
g
29.
1
-28.
0
1
5
8/7
0-1
40/6
8
5
1
6
00
1
0割
7
g
33.
0-32.
6
11
8/8
0-1
20/8
0
6
1
800
1
0割
-
2
3.
2-22.
7
1
00/65- 96
/6
0
入院時
退院時
AI
cの推移 (
∩-7
)
図 1.空腹時血糖と Hb
3
.
血 液検査成績
表
7.血清脂質の推移
入 院時 お よび退 院時 の空腹時血糖値 と Hb
AI
c値 を
(
平
8
2±4
0
m
g/dl
,
示す (
図 1). 空腹時血糖値 は,入 院時 1
均
±
標
準 偏 差 ,∩ -
7)
入院 時
退院 時
総コ
(
m
レ
ス
g/
テ
d
ロ
l
)
ール
205±32
184±47
中性脂肪
(
mg
/dl
)
183±96
142±74
退 院時 1
3
2±5
2m
g/
dlで あ り, 入 院 時 に比 べ て退 院 時
には有意 に低値 で あ った (
p-0.
01
8
0
). また HbAI
c
値 も,入 院時 1
0.
0±1
.
8%,退 院時8.
0±0.
9%で あ り,
退 院時 には有意 に低値 で あ った (
p-0.
0
1
7
8
)
ち
血清脂質 につ いて は,総 コ レステロール,中性脂肪,
HDLコ レス テ ロー ル, LDLコ レステ ロー ル を示 す
(
表 7)
.LDLコ レステ ロール - (総 コレステロールI
HDLコ レステ ロール) - (中性脂肪 ×0
.
2
)と して算
HDL
(
コ
mレ
g
ス
/d
テ
l
ロ
)
ール 53±1.
3
54:
±15
出 した.総 コ レステ ロール, 中性脂肪 と も,入院時 に
秋田大学医学部保健学科紀要
第1
2
巻
第 1号
6
3
Akita University
(
6
4
)
高橋紀子/糖尿病 ク リニカルパ ス適用 において食事指導 を行 った 7症例の検討
表 8.退院時チェックリス トを用いた食事療法理解度
症例
自分の指示エネル
ギーの認識
ある
ない
食品交換表の理解
一部
ない
ある
○
食事の組み合わせの
主食 .
理解
主菜 .
副菜
ある
ない
1
○
○
2
0
3
○
4
○
○
○
5
○
○
○
6
○
7
○
○
○
○
○
比 べて退院時 に低下 している傾向はあるものの有意差
○
○
○
○
握 ・分析 し,患者 には問題点が どこかを気付 かせ る事
は認 め られなか った. また HDL コ レステ ロー ル,
とそれを改善す るよう導 く事が重要 と考える.例えば,
LDL コレステロールについて も, 入院時 と退 院時 の
間 に有意差 は認 め られなか った.
患者の食習慣で,「食事傾向」 と 「間食」 は特 に問題
4.
退院時 の食事療法理解度 (
表 8)
退院時 に,糖尿病 の食事療法全般 についての理解度
杏, チェ ックシー トを用 いて調査 した. 自分 に指示 さ
れた総 エネルギーの認識 と,食事 の際の主食 ・主菜 ・
副菜 の組み合わせの理解 は全例で 「ある」 との回答 を
得 た. また,食品交換表 の理解 は, 「あ る」 が 3例,
ていた ことよ り, 結果 は不 良 で あ った. これ は酒井
体験的に指導す る必要がある.例 えば,主食 の ご飯 に
「1部 ある」 が 3例 あ り,「ない」と回答 したのは 1例
ついては,茶碗 に目測で盛 り付 けた ものを計測 してみ
のみであ った.
た ところ,基本単位 よ り多 く盛 りつ けていた との報告
Ⅳ.考
察
糖尿病 の治療 における食事療法の重要性 は明 らかで
あるが, この食事療法 を十分 に行 うためには,以下 の
如 きい くつかの問題点 が認 め られ る.
①管理栄養士 による指導でなければ食事指導 としての
保険点数 が とれない.
②患者 は自覚症状がな く,かっ食欲 は旺盛であるのに
食事療法 を行 わなければな らない.
③家族全体 の食事内容,食習慣 に も影響 を与える、
.
④食品交換表 の患者の理解が難 しい.退院後 も接導を
継続す る必要 がある.
⑤薬物療法 との併用が重要である.
特 に① について は,管理栄養士のいない病院ではい く
ら時間をか けて指導 してもと
,病院の収入 には反映され
ず,大 きな問題 とな っている.当院 には,管理栄養士
量 より低めに申告す ることが多 い とされ る5
)
. これ ら
となる.今回の問診で も患者 のほとん どが,間食 を し
ら3
)藤本 ら4) も同様 の成績 を報告 してお り, 糖尿病の
ために栄養指導 に参加す る患者 の多 くに共通 してみ ら
れ る問題点である.食事量 に関する指導を進める上で,
まず患者 に視覚での計測が正確 さに欠 くとい うことを
がある5
)
. また,菓子類 は過少見積 りが多 く, 実 際 の
の成績か ら,視覚での計測 に依存する食事量の設定 は,
過食 に陥 りやすいので, われわれは 1回 目個人栄養指
導の際,計測を習慣づ けるように指導 している.
さて,教育入院 して きた糖尿病患者 に このよ うな栄
養指導 を計画的に行 うためには, ク リニカルパ スは極
めて有用 と考え られ る. 当院で はク リニカルパ ス導入
前 は,医師か らの栄養指導 の依頼が 1回であ った り,
過 院す る日が分か らなか ったため退院直前 の指導が実
施 で きなか った等の医療者間の コ ミュニケー ション不
足があった. さ らに,治療や検査のために集団教室 に
参加で きない,次回の教室への参加 を薦 めているうち
に退院 して しまった等 の事例 もあ った. これ らの問題
点 は, ク リニカルパ ス導入後 はすべて解消 され,計画
的 に栄養指導す ることが可能 とな った.′
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が 4人在籍 してお り,十分 な栄 養指導が出来 る体制を
とっている.
士 がかかわ ったパスを導入す ることによ り,計画的な
栄養食事指導 は, まず患者 の食生活 を聴 き取 り,把
介 入が実現 した,
Cと汐栄養士が チーム医療めなか に積
6
4
梗塞急性期 ・慢性期や糖尿病教育入院患者に管理栄養
秋田大学医学部保健学科紀要
第1
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第 1号
Akita University
高橋紀子/糖尿病 ク リニカルパス適用において食事指導を行 った 7症例 の検討
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)
極的 に入 れ るよ うにな った こと,栄養指導件数が増大
視覚 に訴 える事 と必ず一度計量 をす る事 を指導 してい
した こと等が達成 された と報告 している.
る.見 た目と実際の量 はかな りの誤差があ り, その差
今回検討 した 7例の検査数値をみ ると, 「
BMI
」と
を認識 させ るようにす る.主食 の ご飯であれば, 自分
「
血圧」の数値 が入院後 に改善 されている. BMIが改
のいっ も使 っている器 に一回量 (
単位ではな く数量で)
善 した理 由 と して,指示 カロ リー以外の食物摂取 をや
を計量 して盛 り付 ける.他 の食材 も数量や個数 ・切 れ
め,食事量 を適切 に し,食事 コン トロール した事がよ
で見 た目の大 きさで説明す る. た とえば, 「一 日, 卵
い結果 につなが ったと考え る. また,血圧が改善 した
は M サイズ ・1個 (1単位 は卵 5
0gl個 で80Kcal
)
のは,①薬剤,②塩分制限 (
料理 の塩分 と塩分含有量
です.豆腐 は 1丁 (
3
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0g) の 1
/3丁 (1単位 は豆腐
の多 い食品の摂取 の制限) を した ことが要因 と考え ら
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)です.」 とい うよ うに, 単位 で話 を
れ る.現在糖尿病患者 においては生命予後 の改善,悼
す ることはほとん どない.各食事 の食品バ ランスは,
性合併症 の発症進展防止 に血圧治療が欠かせないとい
一 日分の蛋 白源の食品の量 を, フー ドモデル ・イラス
う認識が広 ま りつつあ り,種々のガイ ドライ ンで1
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ト・手秤 などで覚 えさせ, それ らを毎食一品,主菜 と
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mmHgを下 回 るよ うな厳 しい推奨 が あ り, 医師 の
して取 り入れ る.野菜 ・きの こ ・海藻類で小鉢物 を作
意識 に血圧 をで きる限 り下 げよ うとす る意図があるの
る. これにご飯 と汁物 を加え ると,一食 にバ ランスよ
も一因 と考 え られ る2
)
.病院の食事 は, 塩分制 限が な
ぐ食品が配分 される事 にな り,単位 とい う言葉が出て
こないので難 しいとい う感覚 を感 じずに主食 ・主菜 ・
0g以下 に抑 え られ
い糖尿病食で も 1日の塩分 は平均1
ている為, 自宅での食事 よ りは減塩食 にな っている.
副菜 ・汁の食事形態を把握す ることができる.さらに,
HbAI
c
」 も改善 されていた. この
「
空腹時血糖」 と 「
食品交換表を上手 に活用す るためには,指導者側が表
要因 としては,① イ ンス リン投与,②適切 なカロ リー
をよ く理解 し, 1単位 の食品の重量 を念頭 にお き患者
摂取,③三食のバ ランスよい食事,④三食 に適切 に配
に指導 しなければな らない. これを適切に行 うために,
分 されたカロ リー (
患者 によっては捕食の対応 も行 う)
,
⑤ 間食がな くな った,⑥運動,があげ られ る. このよ
伊藤 ら11) は,現時点 の摂取量 を把握 し,指示単位 との
cが改善 す るこ
うに,入院 によ り空腹時血糖や HbAI
表 の釈減 を指示すればよいが,多 くの場合摂取量 を下
とは,多 々報告 されている7),8),9).糖尿病患者が入院 し,
方 に修正す ることとなるので, 1回の指導 で は少 しず
教育用 ク リニカルパ スの タイムスケジュールに沿 って,
つ減量 してい くのがよいと考 え られる.いずれにせよ,
差を修正す る方法がよいと述べている.すなわち,各
自己管理 を実践 した後,退院後 もまた自律性を もって
食習慣 を急に変 える事 は難 しいので,最初か ら指示単
治療 を続 けていかなければな らない.食事療法の意義
位 になるよう指導す るのではな く,患者本人 の理解度
と継続性 を理解す るよ う意識づけす る時,今回検討 し
を見なが ら協力 も得なが ら,繰 り返 し指導 していかな
た体重,血糖,血清脂質,血圧 などの数値の改善 は本
ければな らない.患者の食事療法 に対す る理解度が不
人 のや る気 や 目標 になると考える.杉山1
0
)によれば,
十分である場合,患者 自身がセル フケアの主体 として
自信 に裏付 け られた食生活を続行で きるよ うに,指導
米国の糖尿病患者 の平均在院 日数 は 2日間であ り,糖
尿病 の栄養療法 は主 に外来でなされているとい う. そ
法を構築 してい く必要がある.
食事療法 は,患者本人 は もとより周 りの家族 も巻 き
の際 に用 い られているク リニカルパ スにおいて も治療
上 のアウ トカムとして,血液生化学的パ ラメーターや
込んで進 めてい く必要があ り,家族 も含めた栄養指導
身体測定値が理想/ ゴール値 として示 されている.
が必要である. また入院中の病院の食事 は絶好 の指導
退院後 のチェ ック リス トの 「
食品交換表 の理解度」
媒体であ り,患者の視覚 に残 るものである. われわれ
については,食事療法 をす る上で 「
食品交換表」 を理
は, この食事 を使 い指示 エネルギーの三食への配分や,
解 し使 い こなせ ることが重要であることは当然である.
食品の基本量の把握 ・実際 の料理への展開 ・1食 ごと
しか し,現実 には患者 には高齢者が多 く,食品交換表
の食事 のバ ランスなど献立 も示 しなが ら,継続指導 に
が難 しす ぎて理解で きず活用 もで きないことも少 な く
使用 している2
)
.今後,記録 と しての指導媒体 に して
ない.今回検討 した 7例 における退院時の食品交換表
の理解度 は,「ある」「
1部 ある」が合わせて 6名 であ
いきたいと考えている.
退院後の継続指導 について は,患者本人 の興味 ・積
り,「ない」は 1例 のみであ ったので, 概 ね理解 して
極性や,管理栄養士戯抵導に魅力があるか ど うか とい
もらうことがで きた と考えている. しか し, 「ない」
うことがポイ ン トになる. また退院後 は, よ り具体的
と回答 した症例 に対 しどう対応すべ きか重要 な問題で
で 日常生活 に即 した食事計画を,患者 は求 め る10). そ
あ る. そのよ うな症例 に対 してほ, われわれは特 に食
の要求 に応えなが ら,各患者 の指示栄養を守 るよ うに
品交換表 には執着せず に指導 している. まず,患者の
導かなければな らない. また,長期 にわたる食事療法
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Akita University
(
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)
高橋紀子/糖尿病 ク リニカルパ ス適用 において食事指導を行 った 7症例の検討
のため,途中で挫折や中断す るケースもみ られる. こ
れ らの防止 の意味か らも,外来受診時 には患者 にも働
きかけ,栄養指導 を継続 していきたい. また,主治医
や看護師 との連携 を図 り,患者 の情報 を逃 さないよう
こち らか ら積極的にコ ミュニケーシ ョンを とっていき
たいと考 えている.
診断 と治療社,東京. 2
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.羽倉稜子,菅沼香織,島田薫 :糖尿病 の食事療法 :臨
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.小口充康 :当院の栄養パ スの実際,聖隷 浜松病 院. 臨
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床栄養9
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.貞虞克彦,北野朝子,木村雅子 :糖 尿病 チー ム医療 を
重視 した新 たな教育入院 ク リニカルパ スが有効であ っ
文
献
1
.厚生労働省,健康局総務課生活習慣病対策室 :平成 1
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た高齢患者 の 1例.糖尿病 の療養指導.診断 と治療社,
東京. 2
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年 糖尿病実態調査 (
速報)
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.八木弘敬 :ク リニカルパ スにおける臨床検査技師の関
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.岩本安彦 :厳格 な血糖 コン トロールの指標 としての食
2
.成 田琢磨,越村淳,伊藤正毅 :高齢者糖尿病の治療上
の問題,食事療法指導上 の注意点.
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3(
3):341
346.
2002.
cの動 向. 檀
3
.酒井 由紀恵 :当院通院中における HbAI
山人間栄養研究 セ ンター第 1
1
回 フォー ラム.2
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後血糖値の重要性. プラクテ ィス.1
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.杉山みち子 :ク リニカルパ スと栄養士 の役割.臨床栄
養.9
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):1
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,2
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.
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.伊藤千賀子 : 「
糖尿病食事療法のための食品交換表」
第 6版をめ ぐって,第 6版改訂 の概要 と運用のポイ ン
ト,医師の立場か ら. 臨床栄 養. 1
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入院 した肥満 を伴 う糖尿病の 1例.糖尿病の療養指導.
6
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高橋紀子/糖尿病 ク リニカルパ ス適用 において食事指導を行 った 7症例の検討
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