1 造血器悪性腫瘍 は じめに 造血器悪性腫瘍とは、血液、骨髄、 殖主体にする病気(白血病、多発性骨 髄腫)とリンパ節(リンパ球が存在し、 微生物等の異物除去といった免疫反応 リンパ節が侵されるがんの総称で、白 に重要な役割を果たします)を増殖主 血病、リンパ腫、骨髄腫などがありま 体にする病気(悪性リンパ腫)に分け す。これらの臓器は血流やリンパ流に られます。骨髄が侵されると、正常の よって密に連絡しており、この流れを 血液産生が障害されるため、貧血や血 介して早期から全身に広がる傾向があ 小板減少等の血球減少が認められた ります。この点は胃がんや肺がんが末 り、骨痛が生じたりします。また、リ 期に転移をおこすのと対照的で、悲観 ンパ節が侵されると、リンパ節が腫れ する必要はありません。治療は、血流 てきたりします。上記のような様々な やリンパ流にのって全身の病変にいき 症状や血液検査所見から、造血器悪性 わたる抗がん剤などの薬物療法が主体 腫瘍を疑い、最終的には、骨髄やリン となります。造血器悪性腫瘍は数ある パ節の組織検査を施行することにより がんの中でももっとも抗がん剤や放射 診断を確定します。 線療法が有効で、治癒が期待できる代 表的な疾患です。そのため正確に診断 1.骨髄穿刺・生検 して、一人一人の患者さんに最適な治 原則として腸骨(臀部の骨)、腸骨か 療法を選択していきます。診断を受け らの骨髄穿刺が不可能な場合は胸骨 ると当然ショックですが、私たちは皆 (胸の真中の骨)に局所麻酔をして、骨 様を支援していきますので、悲観せず 髄穿刺針を骨に刺し、骨の内部(骨髄) 希望を持ってやっていきましょう。 まで押し進めます。針先が骨髄に入っ たところで注射器を穿刺針につなぎ、 診断 陰圧をかけて骨髄液を数ミリリットル 吸引します。検査は約10分ほどで終わ 造血器悪性腫瘍には、白血病、悪性 りますが、麻酔をする時、骨髄液を吸 リンパ腫、 多発性骨髄腫などが含まれ、 引する時に痛みがあります。必要に応 大まかに、骨髄(骨の中に存在する柔 じて、骨髄の組織を採取する骨髄生検 組織で、血液細胞を産生します)を増 を腸骨より行います。白血病では、異 2 Hematological Malignancies 常な白血球(白血病細胞)が増加する は、リンパ節以外の臓器(消化管や甲 ため、血液や骨髄液を顕微鏡でみて診 状腺等)に生じることもあり、この場 断します。急性と慢性があり、また、 合も診断のためには、同部位からの組 骨髄性とリンパ性に分けられます。白 織検査が必要になります。 血病はタイプにより、抗癌剤の種類や 効きやすさが違ったりしますので、白 血病細胞の遺伝子や染色体解析等が必 3.その他 骨髄検査やリンパ節生検の検査で、 要になります。多発性骨髄腫は、骨髄 診断が確定すると、病気の広がりを調 で異常な形質細胞(免疫グロブリンを べるために以下の検査を施行します。 産生するリンパ球の一種)の増加を認 全身骨X線写真 め、また採血検査で血清中にM蛋白や 多発性骨髄腫は骨を侵すため全身の フリーライト鎖(骨髄腫細胞が産生す 骨を評価する必要があります。 る免疫グロブリン蛋白の増加)を認め 全身CT検査、PET-CT検査 ることにより、診断されます。 悪性リンパ腫は病変が広範にわたる こ と が あ る た め、全 身 CT 検 査 や 2.リンパ節生検 PET-CT検査で、全身のリンパ節等を リンパ節の腫脹を認めた場合、良悪 検索します。また、骨髄にも病変が及 性の区別は診察のみでは困難なことも ぶことがあるため、骨髄穿刺・生検等 多く、しばしば生検(リンパ節を外科 の検査も施行することがあります。病 的に切除し顕微鏡で調べる検査)が必 変の広がり具合は治療方針に影響する 要になります。悪性リンパ腫は、組織 ため、正確な評価が必要となります。 検査で、低悪性度群や中・高悪性度群、 B細胞性やT細胞性等、種々のタイプ に分類されます。 タイプに応じて治療方針が異なるた め、詳細かつ正確な組織検査が必要で 薬 物療法(急性白血病) 1.急性白血病の寛解導入療法 とは? あり、そのため、ある程度の大きさの 急性白血病の場合、全身にがん細胞 リンパ節を丸ごと採取する必要があり が広がっているため、手術や放射線な ます。場合によっては、悪性リンパ腫 どで治すことは困難です。しかし、他 3 造血器悪性腫瘍 のがんに比べ、急性白血病は抗がん剤 り、体内に残存する微小なレベルの白 が効きやすい病気です。進行が早いた 血病細胞(微小残存病変:MRD)の有 め、診断がつきしだい一刻も早く、抗 無を測定することで、治療の方針を決 がん剤治療(化学療法)を開始する必 定することもできるようになりまし 要があります。まず、寛解導入療法を た。急性リンパ性白血病や一部の急性 行います。これは、骨髄中に白血病細 骨髄性白血病では、脳や脊髄(中枢神 胞がいない完全寛解状態(白血病細胞 経)に白血病細胞が浸潤することがあ が5%以下)を目標とした強力な化学 ります。抗がん剤は中枢神経に移行し 療法です。正常の造血が回復するま にくいため、直接抗がん剤を中枢神経 で、約1か月かかります。寛解導入療 系に投与する髄腔内注射や放射線療法 法で完全寛解が得られても、まだ体内 を、寛解後療法中に行うことがありま に多くの白血病細胞が残っています。 す。 白血病の治癒のためには、完全に白血 病細胞を根絶させること(Total cell 3.化学療法の副作用は? kill)が必須とされています。したがっ 抗がん剤共通の副作用である嘔気や て、寛解導入療法後、さらに寛解後療 骨髄抑制が、白血病の治療でも認めら 法(地固め療法、維持療法、あるいは れます。嘔気は、制吐剤により軽減す 造血幹細胞移植)を行います。 ることができます。骨髄抑制とは、抗 がん剤が正常な造血細胞にも障害を与 2.寛解後療法とは? えるため、白血球、赤血球、血小板が 予後良好や中間群の人は、化学療法 減少することをいいます。白血球がゼ を継続して行っていきます。白血病細 ロ近くまで減少するので、感染症を予 胞中に特定の染色体異常が見られた 防するために、しばしば無菌室で治療 り、完全寛解まで時間がかかった場合 が行われます。最近では、G-CSFと には、再発の危険が高いことがわかっ いう薬剤を使って白血球の数を速やか ています。このような予後(治療見通 に回復させることができるようになり し)不良群の人は、地固め療法の段階 ました。赤血球が減少すると動悸や息 で造血幹細胞移植を行います。さら 切れなどが、血小板が減少すると出血 に、分子生物学的な検査法の進歩によ をおこしやすくなるので、赤血球や血 4 Hematological Malignancies 小板輸血を行います。病型(骨髄性か 病に近い状態にある患者さんでは、ア リンパ性か)で違った抗がん剤を使用 ザシチジンという薬が有効なことがわ します。化学療法では、薬剤によって かってきました。これまで抗がん剤と 特徴的な副作用がある数種類の抗がん いえば細胞の染色体(遺伝子DNA)を 剤を併用して使うので、専門医による 切断することが特徴でしたが、このお 十分な管理が必要になります。 薬は、染色体のメチル化という特殊な 修飾を抑えることが主な機序であり、 4.分子標的治療とは? 近年、がん細胞を直接狙った分子標 嘔気や脱毛、血球減少などの副作用が 強くないのが特徴です。海外の報告で 的治療が注目されています。急性白血 は、約半数の患者さんで血球が回復し、 病の治療は、がん治療の中で、その先 4分の1の患者さんに芽球の減少が認 駆けをなしてきました。予後良好であ められています。 る「急性前骨髄球性白血病」では、寛 その他にも多くの新しい薬剤が開発 解導入療法としてレチノイン酸(ビタ されており、白血病の治療は、さらな ミンA)を内服して、白血病細胞を正 る成績の向上を目指して、今後大きく 常な白血球に分化(成熟)させる「分 変わっていくと期待されています。 化誘導療法」を行い、完全寛解を目指 します。化学療法のみでは極めて予後 不良であった「フィラデルフィア染色 5.九州大学病院の特徴は? 急性白血病は、病型や予後によって、 体陽性急性リンパ性白血病」では、白 治療方法が違います。化学療法、分子 血病の原因であるフィラデルフィア染 標的薬、造血幹細胞移植に熟練した専 色体異常に直接作用するイマチニブや 門医師が常時10名前後の体制で診療し ダサチニブという内服薬を化学療法と ており、すべての治療方法に対応可能 併用することで、治療成績が改善して です。適切な時期に、適切な白血病治 います。 療を提供できる体制を整え、治癒を目 骨髄異形成症候群は、血球減少をお 指します。 こし将来急性白血病に移行することを 特徴とする造血器腫瘍です。その中で も芽球という悪い細胞が増加して白血 5 造血器悪性腫瘍 急性白血病の臨床経過と微小残存病変(MRD) 寛解導入療法 強化療法 ことでよくなるタイプ、日単位で急激 に病気が進行し、強力な抗がん剤治療 維持療法 白血病細胞 を速やかに行う必要があるタイプまで (1kg)1012 再発 様々です。九州大学病院では悪性リン (1g)109 形態的寛解 パ腫を治療するうえで、最も重要な組 (10mg)107 分子生物学的 寛解 移植 MRD 治癒 臨床経過 織診断について、リンパ腫に詳しい久 留米大学および九州大学の病理医、臨 床医合同での検討会を定期的に行い、 急性骨髄性白血病の治療の流れ 患者さんの治療を行っています。 寛解導入療法 寛解 非寛解 染色体 良好群 そんな多彩な悪性リンパ腫も、大き くホジキンリンパ腫と非ホジキンリン 中間群 不良群 パ腫の2つに分けられます。病気の場 化学療法 所が体のごく限られた部分にある場合 自家末梢血幹細胞移植 (病期Ⅰ)には、放射線治療を選ぶ場合 同種造血幹細胞移植 急性リンパ性白血病の治療の流れ もありますが、病気が広がっている場 合には抗がん剤治療を選択します。ホ 寛解導入療法 フィラデルフィア染色体陰性 フィラデルフィア染色体陽性 ジキンリンパ腫の代表的な抗がん剤治 強化療法5クール 強化療法2クール以上 療として、ABVD療法(アドリアマイ 同種造血幹細胞移植 シン、ブレオマイシン、ビンブラスチ MRD陰性 維持療法 MRD陰性 維持療法続行 MRD陽性 同種造血幹細胞移植 MRD陽性 同種造血幹細胞移植 ン、ダカルバジン)があります。非ホ ジキンリンパ腫の抗がん剤治療として はCHOP療法(シクロフォスファミ ド、アドリアマイシン、オンコビン、 薬 物治療(悪性リンパ腫) プレドニゾロン)が代表的です。非ホ 悪性リンパ腫には、何十というタイ ジキンリンパ腫にはB細胞系とT細胞 プがあり、患者さんごとに多彩な症状 系があります。B細胞系リンパ腫の場 や経過をとります。無治療でよいも 合は腫瘍細胞の表面にCD20という抗 の、抗生物質で胃のピロリ菌を減らす 原がでている場合にはリツキシマブと 6 Hematological Malignancies いう抗体をCHOP療法とともに用い 以上のように、リンパ腫という名前 ること(R-CHOP)が標準的治療です。 でも、タイプによって治療法が異なり ABVD療法やR-CHOP療法は、初回 ます。また、同じタイプでも病気の広 治療以後、通常は外来で通院しながら がりや年齢、全身状態によって治療法 治療を行います。T細胞リンパ腫の代 の選択も様々です。近年、リツキサン 表は、九州においては、成人T細胞性 のように腫瘍を狙い撃ちするような分 白血病/リンパ腫です。この病気はウ 子標的薬や抗体療法、抗体と放射性物 イルスがT細胞に感染するためにおこ 質を組み合わせたゼヴァリンなど、多 ります。残念ながらこの病気を、抗が くの新薬が治療薬として導入されはじ ん剤のみで治すのは難しいため、全身 めています。ホジキンリンパ腫や未分 状態がよければ同種造血幹細胞移植を 化大細胞型リンパ腫に対するブレンツ 行っています。さらにモガリツマブと キシマブベドチンという抗体薬も近年 いう、T細胞系リンパ腫の腫瘍細胞表 開発され、治療効果が期待されていま 面にあるCCR4という抗原を標的とし す。今後も様々なリンパ腫のタイプに て、腫瘍を攻撃する抗体治療も期待さ 対し、治療の選択肢が増えていきます。 れています。 主治医の先生と相談しながら、是非最 適の治療をお受けください。 上記の治療によって悪性リンパ腫が 十分にコントロールできない場合や、 病気が再発した場合などは、別の抗が 薬 物治療(多発性骨髄腫) ん剤の組み合わせで治療を行います。 多発性骨髄腫について さらに、年齢が若く(65歳以下) 、心臓 多発性骨髄腫は形質細胞が悪性化し や肺、肝臓、腎臓の機能が問題なければ、 た病気で、M蛋白と呼ばれる異常蛋白 自己造血幹細胞移植(自分の造血幹細 の産生と骨の中での腫瘍細胞増殖を特 胞を保存しておいて、大量の抗がん剤 徴としています。初期は無症状です 治療を行う方法)や、同種造血幹細胞移 が、進行すると骨痛、骨折や、貧血、 植(他人の造血幹細胞を用いる)を行う 腎機能障害が見られるようになりま ことで、病気の治癒をめざします。 す。この症状のある“症候性骨髄腫”に なった際に以下の治療が開始されるの 7 造血器悪性腫瘍 が一般的です。 る有効性が認められ、厳重な避妊管理 のもとで処方されています。単剤内服 65歳以下で臓器機能が保たれて いる場合 られ、デキサメサゾンなどとの併用で 新規薬剤(ボルテゾミブ、レナリド さらに上積み効果が期待されていま マイド、サリドマイド)を組み込んだ す。再発難治例のみでなく、初回治療 寛解導入療法、自家移植療法、地固め や維持療法としても検討されていま 療法、維持療法により長い期間の寛解 す。 で約30%にM蛋白の50%以上減少が見 状態が得られることより、これが現在 の標準治療となっています。効果不十 分な場合、ドナーがいる場合の同種移 植にも取り組んでいます。 レナリドマイド サリドマイド誘導体として催奇形性 を大幅に軽減した薬剤で、デキサメサ ゾンとの併用によりM蛋白の50%以上 66歳以上や臓器障害をもつ場合 自家移植が適応とならない場合は、 減少が36%に見られ、寛解期間の延長 が認められています。サリドマイドや 治療関連毒性を少なくして病勢のコン ボルテゾミブ耐性の症例にも有効性が トロールをつけることを目標としま 認められています。 す。MP療法(メルファラン、プレド ニン)またはCP療法(シクロフォス ボルテゾミブ ファミド、プレドニン)が長く標準療 プロテアソームを阻害する分子標的 法でしたが、新規治療薬(ボルテゾミ 薬で、再発・難治例に使われ、単剤で ブ、レナリドマイド、サリドマイド) もM蛋白の50%以上減少が35%に見ら の登場により、寛解期間の延長も期待 れ、デキサメサゾンとの併用により、 されています。 21%の完全寛解(M蛋白の消失)を含 む66%の奏効が得られています。この 新規治療薬 サリドマイド 催奇形性により一旦販売中止になり ましたが、現在は多発性骨髄腫に対す 8 組み合わせは現在、自家移植前の治療 として標準となっており、また他の薬 剤との併用療法も試されています。 Hematological Malignancies 2.造血幹細胞移植治療とは? 白血病や悪性リンパ腫などの血液悪 性腫瘍は、他の悪性腫瘍と比べ、抗が ん剤で治りやすい病気です。しかし、 M蛋白 抗がん剤のみで根治可能な人は、約半 分です。造血幹細胞移植治療は、強力 な抗がん剤や全身放射線照射(前処置) 当院は、これら新規治療薬を取り入 により、通常の抗がん剤に抵抗する悪 れた様々な共通プロトコールに参加し 性細胞を排除するとともに、その後に 治療成績の向上に努めています。また、 造血幹細胞を移植することで、正常な 上記のような新規治療薬に加え、ポマ 血液がつくられるようにします。造血 リドマイドやパノビノスタットという 幹細胞移植は、抗がん剤のみでは治癒 作用の異なる新規薬剤も開発されてお 困難な人を根治に導く治療といえま り、治療選択肢が増えつつあります。 す。また、再生不良性貧血のように、 低下した骨髄の造血機能を回復させる 造 血幹細胞移植治療 治療としても、威力を発揮します。 1.造血幹細胞とは? 造血幹細胞は、白血球、赤血球、血 3.同種移植と自家移植の違い は? 小板の源になる細胞です。造血幹細胞 造 血 幹細 胞 移 植 の う ち、他 人(ド は、 骨髄の中に通常多く存在しますが、 ナー)から造血幹細胞をもらう方法を 抗がん剤治療やG-CSFという白血球 同種移植といいます。一方、自分の造 を増やす薬を注射した後に、末梢血中 血幹細胞をあらかじめ凍結保存し、前 にも増加してきます。また、臍帯血に 処置後に戻す方法を自家移植といいま も多く含まれています。造血幹細胞を す。同種移植では、ドナー細胞が患者 用いる移植法には、骨髄移植(BM)、 さんの悪性細胞を免疫学的に異物と見 末梢血幹細胞移植(PB)と臍帯血移植 なすことによる抗腫瘍効果(GVL効 (CB)の3種類があることになりま 果)を期待できます。つまり、同種移 す。 植の方が治療効果は強いと考えられて 9 造血器悪性腫瘍 います。自家移植か同種移植かの選択 ます。移植して2〜3か月すると、外 は、病気の種類や拡がりなどを考慮し 来通院が可能になりますが、それ以降 て決定されます。 に見られる慢性GVHDでは、皮膚硬 化、目や口の乾燥症状、肺機能異常や 4.同種移植治療の副作用は? 肝障害など様々な症状がでる可能性が 同種移植は、高い抗腫瘍効果を期待 あります。⑷再発:移植後、残念なが できる一方で、様々な合併症が生じる ら病気が再発してしまうことがありま 可能性があります。⑴前処置:通常の す。様々な合併症を乗り越え、元の病 抗がん剤治療で見られる骨髄抑制(血 気が再発せずに、移植後3〜4年ぐら 球減少)だけでなく、口内炎などの粘 い経過すれば、移植で根治が得られた 膜障害や重要な臓器(肝、腎、心臓) と考えられます。 の障害などの強い副作用が生じること があります。自家移植でも見られる副 5.九州大学病院の特徴は? 作用です。不妊や二次性発癌などの長 前処置を軽減したミニ移植という方 期の合併症にも注意が必要です。⑵感 法も開発され、臓器障害のある人や高 染症:白血球のない移植後3〜4週間 齢の人にも適応可能な治療法として期 は、細菌や真菌(カビ)による感染症 待されています。このような移植法の を生じやすくなります。ドナー白血球 多様化に加え、GVHDに対する新しい が増えてきた後も、免疫回復はまだ不 免疫抑制剤の導入や抗菌薬の登場によ 十分で、サイトメガロウィルスやアス り、移植の副作用は軽減し、多くの人 ペルギルスという真菌など特殊な感染 が移植により恩恵を受けられるように 症にかかりやすい時期が続きます。移 なりました。年々増加する移植に対応 植後約1年は、帯状疱疹なども含めた すべく新設された国内屈指の無菌病棟 感染症に注意が必要です。⑶GVHD では、常時10名前後の熟練した専門医 (移植片対宿主病) :患者さんの体をド 師が、他科の医師、歯科医師、看護師、 ナー白血球が免疫学的に異物とみな 薬剤師、栄養管理士、理学療法士、臨 し、攻撃してしまうことがあります。 床心理士などの数多くのメンバーと協 急性GVHDは、移植後3か月以内に見 力し、万全の体制で診療させていただ られ、皮膚、肝臓、腸などを標的とし いています。さらに、造血幹細胞や移 10 Hematological Malignancies 植免疫の分野における基礎研究でも世 界をリードする成果を発信しており、 放 射線治療 その成果を造血幹細胞移植治療に応用 はじめに すべく、日々邁進しております。2014 放射線治療は造血器腫瘍の治療にお 年には当科では61症例の造血幹細胞移 いて、いろいろな場面で用いられてい 植を施行し、2012年12月で造血幹細胞 ます。例えば、悪性リンパ腫では化学 移植総症例数1,000症例を超え、国内 療法と一緒に用いることで良好な成績 でも有数の移植チームであり、厚生労 が期待できます。また、白血病では、 働省より造血幹細胞移植推進拠点病院 移植の前の処置として全身照射が用い に認定されています。 られることがあります。以下、放射線 九大病院 北11階無菌治療部 治療が用いられる代表的な疾患と全身 照射:Total body irradiation(TBI) について記述します。 放射線治療が用いられる疾患 〈悪性リンパ腫〉 ◎ホジキンリンパ腫:化学療法の後に 病棟全体がクラス10,000以下に維持されています 放射線治療が用いられることがありま す。また、放射線治療のみで治療する こともあります。 ◎非ホジキンリンパ腫:病変が限局し た低〜中悪性度リンパ腫、NK/T細胞 リンパ腫や中枢神経系の悪性リンパ腫 に放射線治療が用いられます。 ・低悪性度リンパ腫:濾胞性リンパ腫や MALT(mucosa associated お部屋は、通常の個室と同じです lymphoid tissue)リンパ腫な どが挙げられます。病変が限局 している場合、病変のあるリン 11 造血器悪性腫瘍 パ節領域に30〜36Gyの放射線 ある骨全体に放射線を当てることが多 治療が行われます。 いですが、範囲が広すぎる場合には、 ・中悪性度リンパ腫:びまん性大細胞 病変に適当なマージンを加えた範囲で 型リンパ腫のうち病変が限局し 治 療 を 行 い ま す。 線 量 は、 ているものは、短期間の化学療 20〜30Gy/10〜15Fr. が 用 い ら れ ま 法と放射線治療が行われます。 す。 化学療法はCHOP療法もしく サン(R)を含めたR-CHOP療 全身照射: Total body irradiation(TBI) 法 が 行 わ れ ま す。放 射 線 治 療 全身照射とは、移殖の前の処置とし は、病変のあるリンパ節領域に て、放射線を全身に照射する治療です。 対して行われ、30〜40Gy程度 治療の目的は、患者さんの体の中にあ の線量が用いられます。 る腫瘍細胞のコントロールと移殖の時 ・NK/T細胞リンパ腫:鼻腔から出た の拒絶反応を抑えることです。この治 NK/T細胞リンパ腫は、化学療 療が用いられる病気としては、白血病 法としてDeVIC療法と鼻腔・上 な ど が 挙 げ ら れ ま す。全 身 照 射 は、 咽頭を含んだ領域の放射線治療 12Gy/6Fr./3日の線量が用いられま を同時に行います。放射線の線 す。最近は、ミニ移殖の際に用いられ 量は50Gy以上が用いられます。 る こ と が 多 く、そ の 場 合 に は、 はCD20陽性の場合は、リツキ ・中枢神経系悪性リンパ腫:脳から出 た悪性リンパ腫は、化学療法を 2〜4Gy/1〜2Fr./1日などの線量が 用いられます。 行った後に放射線治療が行われ ます。放射線治療は、まず脳全 体に30Gyを投与し、その後病 変部に放射線の当てる範囲を 絞って20Gyを追加します。 〈骨髄腫〉 臨 床研究・治験 当科では造血器腫瘍に対する新規薬 剤開発や標準的治療の確立を目指し て、積極的に臨床治験や医師主導の臨 多発性骨髄腫:症状をやわらげるため 床試験、多施設共同試験に取り組んで に放射線治療が用いられます。病変の います。また当科は、JSCT(日本細 12 Hematological Malignancies 胞移植研究会)あるいはFBMTG(福 岡造血細胞移植研究グループ)の中核 的な施設であり、プロトコールの治療 計画の立案から指導的役割を果たして おります。 1.臍帯血移植レシピエントに おけるHHV-6脳炎の予防を 目的としたホスカルネット 90mg/kg/日投与 非血縁者間同種臍帯血移植後の合併 3.未治療多発性骨髄腫に対す る治療強度を高めた寛解導 入療法、自家末梢血幹細胞移 植、地固め・維持療法の有効 性と安全性を確認する第Ⅱ 相臨床研究 65歳以下の初発症候性多発性骨髄腫 に対して新規薬剤を用いて従来よりも 治療強度を高めた寛解導入療法、自家 移植、地固め療法、維持療法を施行し、 その有効性と安全性を検討します。 症であるHHV-6脳炎の予防のために ホスカルネット90mg/kg/日の安全性 を評価します。 2.高齢者多発性骨髄腫に対す る自己末梢血造血幹細胞移 植の安全性・有効性を確認す る臨床研究 4.再発または難治性の多発性 骨髄腫に対する皮下注射ボ ルテゾミブ、レナリドミド、 デキサメタゾン併用療法 (sVRd療法)安全性と有効 性を確認する臨床第Ⅰ/Ⅱ相 試験 比較的高齢発症の初発症候性多発性 再発または難治性の多発性骨髄腫に 骨髄腫に対して新規薬剤を用いて寛解 対する新規薬剤の組み合わせである 導入療法、自家移植、地固め療法、維 sVRd療法の安全性と有効性を検討し 持療法を施行し、その有効性と安全性 ます。 を検討します。 5.成人急性リンパ性白血病に 対する治療プロトコール 成人急性リンパ性白血病の治療成績 は、寛解例のMRDの有無を指標にリ スク別の寛解後療法を行うことによっ 13 造血器悪性腫瘍 生存率および完全寛解率、プロトコー 7.びまん性大細胞型B細胞リン パ腫に対する治療早期の FDG-PET を 用 い た、 rituximab併用の大量化学 療法+自家末梢血幹細胞移 植、およびR-CHOP療法へ の層別化治療法の検討 ル完遂率、治療関連合併症とします。 初発の高リスクCD20陽性びまん性 て改善すると想定し、寛解導入療法、 強化療法、維持療法を行います。強化 療法2クール目終了以後のリスクに応 じた同種造血幹細胞移植適応の確立を 図ります。主要評価項目は、3年無病 生存率、副次的評価項目は、5年無病 大細胞型B細胞性リンパ腫に対して、 6.急性前骨髄球性白血病に対 する治療プロトコール 後のPET-CTにより治療奏効を判断 急性前骨髄球性白血病の治療成績 し、R-CHOP療法継続群と自家末梢 が、アントラサイクリン系抗がん剤に 血幹細胞移植療法施行群に分けて、本 よる寛解導入療法および地固め療法 治療法の有効性および安全性を検討し に、初診時白血球数が多い高リスク群 ます。 Rituximab併用CHOP療法2コース でCytarabine大量療法および髄注化 学療法を加えることで改善すると想定 8.初発フィラデルフィア染色 し、リスク群別に層別化した寛解導入 地固め療法後に、微小残存病変を経時 体陽性慢性期慢性骨髄性白 血病患者に対するニロチニ ブとダサチニブの分子遺伝 学的完全寛解達成率の多施 設共同ランダム化比較試験 的に観察し予後への影響も評価しま 初発の慢性期慢性骨髄性白血病患者 療法、地固め療法を行い、リスクに応 じた治療法の確立を図ります。また、 寛解導入療法終了時と、1〜3回目の す。 におけるニロチニブとダサチニブによ るランダム化比較試験を行い、分子遺 伝学的効果を比較検討します。 14 Hematological Malignancies 9.低悪性度B細胞性非ホジキン リンパ腫患者の治療法およ び予後に関する調査研究 本調査研究の目的は、九州大学病院 および周辺施設で治療を受ける初発低 悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫患 者の組織分類・病期と治療法および治 療効果、予後を把握します。 15 16 2016年3月
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