はじめに "世界の中心で愛をさけぶ"や"赤い疑惑"などドラマや映画で主人公が罹 患してしまう急性白血病、また有名人の方も闘病されておられ、皆さんが よくご存知の血液疾患と思います。急性白血病は数種類の抗癌剤を併用し た化学療法や造血幹細胞移植が開発・進歩するまでは"不治の病"でした。 しかし現在では優れた抗癌剤により白血病細胞が見た目消失した状態(寛 解と言います)に達する症例を多く経験するようになり、その内、再発しや すい症例に対しては造血幹細胞移植によって更に完治する率を上げること ができるようになりました。造血幹細胞には自己の血液を用いる自家移植 と他人の血液を用いる同種移植があります。今回は同種移植について講演 させていただきます。 同種造血幹細胞移植 移植と言えば、皆さんがよく耳にする移植は心臓移植、肝臓移植、腎臓移 植、肺移植などと思います。造血幹細胞移植とこれらの移植の大きく違う 点は移植する臓器が液体であるという点です。従って、レシピエント(患者 様)は手術室に入ることはなく、病室で移植(輸 血)を受けることになります。また他の移植と違 ってレシピエントは移植前に自分の造血機能を 廃絶させるために大量の抗癌剤や放射線療法を 受けます。移植日前後には細菌、ウイルス、カビ類と戦う白血球数は 0 と なっており、移植後は無菌室に収容され、感染症との闘いとなります。 同種造血幹細胞移植で最も重要な細胞は当然の事ですが造血幹細胞です。 造血幹細胞は血管の中を流れる白血球(細菌・ウイルス・カビ類と闘う細胞)、 赤血球(体のすみずみまで酸素を運搬する細胞)、血小板(血液を固める働き を持つ細胞)の元の細胞です。非常に少数の造血幹細胞は日々、白血球、赤 血球、血小板に分化し、血管の中にこれらの血液成分を供給しています。 この造血幹細胞が豊富に含まれるのが骨髄と臍帯血です。末梢血には造血 幹細胞は少ないのですが、ある特殊な方法で造血幹細胞を骨髄から血管の 中に誘導します。この造血幹細胞をレシピエントに移植されると造血幹細 胞を提供したドナー(提供者)に流れる血液成分と全く同じ血液成分がレシ ピエントの体内を流れることになります(これを生着と呼びます)。残念な がら一人のレシピエントに対してすべての方あるいは臍帯血がドナーにな ることはできません。白血球の型である HLA*1 が合わなくては急性移植片対 宿主病*2 という移植後合併症を引き起こしてしまいます。 造血幹細胞移植の種類 1960 年代後半から1970 年台にかけてアメリカのトーマス博士らによって 骨髄移植が確立されました(トーマス博士はこの業績が認められノーベル 賞を授与されました)。この後、末梢血にも造血幹細胞が存在することが見 出され、1980 年代後半からは末梢血幹細胞移植が開始されました。当初は 自家末梢血幹細胞移植が主流でしたが 1990 年台にはドナーから採取した末 梢血幹細胞を患者様に移植する同種末梢血幹細胞移植が確立されました。 臍帯血移植は 1988 年にフランスで行われ(兄弟間:アメリカの小児患者の 兄弟の臍帯血をパリに輸送して行われています)、当初、小児領域で盛んに おこなわれるようになり、2000 年代になるとその適応は成人まで拡大され ています。 1991-2003 年までの造血幹細胞移植数 (日本造血細胞移植学会平成 16 年度報告書より) 骨髄移植 末梢血幹細胞 年度 臍帯血移植 (血縁者/非血縁者) 移植 1991 460 (442/18) 0 0 1992 505 (469/36) 0 0 1993 571 (488/83) 0 0 1994 766 (589/177) 2 1 1995 884 (550/334) 18 4 1996 891 (535/356) 79 7 1997 910 (524/386) 87 13 1998 979 (533/446) 88 51 1999 1065 (529/536) 115 72 2000 1063 (398/665) 302 114 2001 1021 (316/705) 530 125 2002 925 (256/669) 563 103 2003 886 (266/620) 357 238 現在、末梢血幹細胞採取は血縁 者のみに認められております。採 取法が簡便であることより、血縁 者間移植は 2000 年頃より骨髄移 植から末梢血幹細胞移植に移行 してきました。しかしながら末梢 血幹細胞におけるドナー合併症 の報告が増加し、2003 年には骨髄採取を受けたドナーが増加し、末梢血幹 細胞採取を受けたドナーが減少しております。 骨髄血、末梢血、臍帯血はいずれも血縁者、非血縁者に関わらず善意の ドナーからの命の贈り物と言えます。今回の講演の中ではドナーとなった 方がどのような採取法を受けられるのか、骨髄採取法、末梢血幹細胞採取 法、臍帯血採取法について少し詳しく話を進めさせていただきます。
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