胃腸と漢方/胃腸の働きを整えるツボ

 甘草は『神農本草経』では、上薬に分類されています。甘草はわが国で常用される漢方処方
の7割ほどに含まれ、急激にきた症状を緩めたり、いろいろな生薬を調和するとされています。
甘草を単独で用いる処方(甘草湯)もあり、急激にきた咽の痛み、咳、腹痛などに使用したり、
忘憂湯といって、甘草を濃く煎じて、痔、脱肛、 疽(ひょうそ)に湿布として使用することも
あります。肝疾患の治療に使用されているグリチルリチン注射剤は、この甘草由来の成分を主
とする薬です。
西洋薬の本をたどると漢方医学で使用される生薬であることは結構あるのです。
芍薬とあわせた芍薬甘草湯は、こむらがえりに即効をあらわします。また甘麦大棗湯(かんば
くたいそうとう)といって、小麦と大棗と甘草をあわせた処方は、焦燥感が強い例、あくびを
漢方コラム
胃腸と漢方
よくする例に用いて効果的な場合があります。食べ物のような処方なのですが、気分が落ち着
くというのも不思議な気がします。
秋を語る言葉は沢山ありますが、
「食欲の秋」
ます。例えば、胃腸が弱い方で、疲れやすい、か
甘草は、薬としてばかりでなく、食品添加物としても身近なものです。
という言葉はその代表格でしょう。秋は食べ物
ぜをひきやすいというような悩みを持つ方は少
甘草の副作用に、血液中のカリウムという電解質が低下し、血圧が上昇したり、むくみがき
が美味しく感じられる季節であり、自然からの
なくないでしょう。このような方が、胃腸の調
恵みである食物から生命エネルギーを取り込む
子を良くする働きのある漢方薬を服用していく
のに最適な季節といえるのではないでしょう
うちに、胃腸の調子がよくなることはもちろん
か。しかし、胃腸の調子が悪くては、食事を美
のこと、疲れにくくなったり、風邪をひきにく
味しく食べることも、十分な栄養を摂ることも
くなったりします。時には、喘息が軽くなった
難しくなってしまいます。そのような状態が続
り、アトピー性皮膚炎が改善したりすることも
くと、健康を損ねることにもなりかねません。
あります。
東洋医学では胃腸とその働きを含めて「脾
普段から胃腸が弱くて悩んでいらっしゃる方
胃」と呼び、自然から生命エネルギーを取り込
は、是非一度漢方治療を試していただきたいと
む役割をもった臓器として重要視しています。
思います。もちろん、もともとは胃腸が丈夫で
たり、不整脈など心臓への影響や脱力・筋肉痛など筋肉への影響があらわれることがあります。
また利尿剤やグリチルリチン剤を併用するとおこりやすいといわれています。稀な副作用では
ありますが、定期的にカリウムのチェックを行う必要があります。 (担当:佐藤弘)
∼お知らせ∼
※保険証は、毎月、初めのご来院時に拝見させていただきます。
※携帯電話のご使用は、医療機器などに影響を及ぼすことがございます。
院内では電源をお切りくださいます様お願い致します。
「脾胃」の調子を整えることは、単に胃腸の調子
も、ストレスや食べすぎ、飲み過ぎで胃腸を壊
をよくすることだけではなく、体力を向上さ
してしまった方にも、良い薬が沢山ありますの
せ、病気への抵抗力をつけることにもつながり
で、お気軽にご相談下さい。
(担当:久米由美)
※待合室に投書箱を設置致しました。皆様のご意見をお待ちしております。
※膝掛用毛布のご用意がありますので、お使いになりたい方は受付までお申し出ください。
患者様とのコミュニケーション手段の 1 つとして始めた広報誌が、お陰様で第 4 号の発行を迎え
ました。今後、取り上げて欲しいテーマや、質問などがございましたら、お気軽に御意見箱に投函
して下さい。
ご要望には出来る限りお応えします! (担当 木村容子)
発行所:〒 163-0804 東京都新宿区西新宿 2-4-1 新宿NSビル4階 東京女子医科大学 附属東洋医学研究所
TEL 03-3340-0821 http//www.twmu.ac.jp/IOM/index.html (発行責任者)
所長 田中朱美
漢方治療には、現在の症状を抑える治療と根本的な治療があります。例えば、花粉症の治療
をする場合、前者がくしゃみや鼻水を抑えるために花粉が飛散している時期に薬を飲む治療に
相当し、後者が花粉に接触しても症状が起こらないようにする、体質改善を目指す治療になり
ます。鼻水などの症状を治療する対症療法は、西洋薬同様、効果は早くでます。一方、長年伴
にした体質を改善する場合は、時間がかかることもあります。 (担当:木村容子)
“表裏”とは、病気がからだのどの位置にある
表半裏”にあれば、肋骨の下あたりが張る、吐
みなさん、実りの秋がやって参りました。過
かを示す指標です。からだと病気が闘っている
き気がする、口が苦くて粘つくなどの症状が現
ごしやすくなって、ようやく夏バテからも開放
すねの下方から人差し指で向うずねをそっとな
結果としての闘病反応をキャッチして、これを
れます。
知ることができます。
実際の治療では、病気の存在する位置を表す
され、食欲も出てきた頃ではないでしょうか?
であげると、骨に引っかかって指が止まる。そ
バームクーヘンのように人間のからだを輪切
表裏と、病気の性質や状態を表す虚実や寒熱と
しかしながら、「春先や秋口は胃腸の調子が優
こから 2 ∼ 3 センチ外側で、足先にビーンと響
りにしたものを想像してみて下さい。これを外
のコンビネーションで考えます。ゾクゾクとし
れない、胸が焼ける」などという訴えをなさる
くところ。
から中へ3つの部分に分け、一番外側を“表
た悪寒は体表面が冷えた“表寒”の状態ですか
方も多く見うけられます。季節の変わり目は、
(ひょう)
”
、中心部を“裏(り)
”
、その間を“半
ら、表を温める桂枝湯などを用い、慢性下痢の
胃腸の働きを整える自律神経のバランスが乱れ
ら指一本分下。
表半裏(はんぴょうはんり)”として区別しま
ように消化管が冷えて機能が低下ものは“裏
がちです。そこで今回は、胃腸の調子を整える
足三里は胃液の分泌を促進し、陽陵泉は抑制
す。具体的には、
“表”はからだの表面、つまり
寒”と考え、乾姜などの温める作用が強い生薬
皮膚、皮下組織、体表に近い部分の筋肉、頭部、
が配合された人参湯などを考えます。また、腹
ツボの紹介をしたいと思います。お灸をすえた
すると言われています。胃酸過多気味の方は陽
咽喉頭、四肢、関節などをさし、
“裏”はからだ
が張って便秘したり、口渇が強くて冷水を欲す
り、指圧をしてみてはいかがでしょうか?
陵泉を使うと良いでしょう。
の深部で主に消化管が相当します。また、
“半表
る場合には、消化管に熱がこもった“裏熱”の
半裏”とはその中間に位置するもので、解剖学
状態ですから、承気湯で大便を下したり、白虎
的には横隔膜周辺だと言われています。
湯で熱をさますなどの治療が必要になります。
たとえば、感冒初期でゾクゾクと悪寒がして
第1回から4回まで、陰陽、虚実、寒熱、表
喉が痛み、頭痛や関節痛があるとすれば、闘病
裏という漢方の診断治療体系の基本となる概念
反応の場が“表”にあると考えます。これらの
を説明しました。漢方診療を行うには、このよ
症状は病気が表にある証であるため、
“表証”と
うな尺度を用いて体質や病態を把握し、適切と
呼ばれます。また、腹が痛んで下痢をする、便
思われる処方を絞り込んでいくのです。
秘して腹が張るなどの症状は、闘病反応の場は
指先で臍からみぞおちの方へなで上げて
座って膝を立てて足先の力を抜く。
膝の外側下方に飛び出した小さな骨か
(担当:細江久実子)
いくと突き当たる骨と臍を結ぶ線の真中。
(担当:新井信)
“裏”にあると考えられます。さらに、病気が“半
表
皮膚、皮下組織、体表に近い部分の筋肉、
頭部、咽喉頭、四肢、関節など
表証 悪寒、発熱、頭痛、咽頭痛、
鼻汁、項背部のこわばりと痛み、
四肢の関節痛や筋肉痛など
半 表と裏の中間(横隔膜付近)
表 半表半裏証 咳嗽・胸内苦悶感などの胸郭内症状
半 悪心・季肋部痛など上部消化管症状
裏
裏
消化管
裏証 腹満・下痢・便秘などの消化管症状
身体深部の熱感、高熱持続、うわ言など
甘草