セキュアード・クレジット戦略: 優先性と安全性を割安に確保できる資産クラス 2016 年 12 月 セキュアード・クレジットは、優先性と安全性という利点を持ちながら、非投資適格債券の 投資家から十分に評価されていないことが分析で明らかとなりました。また投資適格 ABS については、同等格付けの社債と比べてバリュエーション妙味があるとの判断にも至りまし た。 更に、現在注目を集めている米国サブプライム自動車ローン・セクターについて分析した 結果、米国の ABS 市場が危機に陥る要素はないと判断致しました。 欧州バンクローンを選好 ヘンダーソンでは長期にわたり、独立した資産として、或いはマルチ・セクター債券系ポ ートフォリオの構成資産として、欧州バンクローンへの資産配分を実践してきました。本稿 では、なぜ欧州バンクローンが現在もなお魅力的な投資対象であるのかについて、説明を 行います。 世界の中央銀行は、引き続き、非常に大規模な金融緩和を継続しています。その影響 が特に顕著なのが欧州で、マイナス金利や資産購入プログラムの導入によって、欧州各国 の債券利回りは過去最低水準まで低下しています。また、こうした施策を背景に、非投資 適格債券のデフォルト率も低水準に留まっています。デフォルト率は引き続き低位安定す ると見られ、高利回り資産に対する投資家の人気も根強いことから、バンクローンに対して は今後も旺盛な需要が続く見通しです。 伝統的な債券よりもバンクローンを選好 図 1 に示す通り、欧州バンクローンは過去数年、優れたリスク調整後リターンを投資家 に提供してきました。ヘンダーソンでは今後もこの傾向が続くと見ており、優先性や安全性 といったバンクローンの利点を踏まえ、ハイイールド債と比べて安定的なリターンが得られ ると考えています。 図 1: シャープ・レシオ:欧州バンクローン vs. 欧州ハイイールド債 シャープ・レシオ 3.0 2.5 欧州ハイイールド債 欧州バンクローン 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 1年 3年 5年 出所:クレディ・スイス、BofA メリルリンチ、2016 年 9 月 30 日現在、無リスク資産は1ヵ月 LIBOR を利用 欧州バンクローン:Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI) 欧州ハイイールド債:BofA Merrill Lynch European Currency Non-Financial High Yield 2% Constrained Index (HPIC) 1 一方で、図 2 に示す通り、欧州バンクローンのスプレッドは同等格付けの欧州ハイイールド債よりも高水準 で推移しており、投資家は優先性や安全性の恩恵を、割安に受けることができる市場環境となっています。 図 2: 現状のクレジット・スプレッド水準は、「シニア担保付」というバンクローンの特性を過小評価 クレジット・スプレッド (bps) 700 欧州ハイイールド債 650 欧州バンクローン 600 550 500 450 400 350 300 13年01月 13年06月 13年11月 14年04月 14年09月 15年02月 15年07月 15年12月 16年05月 16年10月 出所:クレディ・スイス、BofA メリルリンチ、2016 年 11 月 10 日現在 欧州バンクローン:Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、3 年での返済を想定 欧州ハイイールド債:BofA Merrill Lynch single B high yield (HE20) index 図 3 は、発行体が同一で弁済順位も同じシニア・バンクローンと担保付シニア・ハイイールド債の利回りを比 較したものです。同社のバンクローンは最近の条件修正によりクーポン(利率)が低下したにも関わらず、同じ 信用リスクのハイイールド債よりも高い利回りを提供しています。バンクローンとハイイールド債の投資妙味を 比較した上で、引き続きバンクローンを選好しています。 図 3: バンクローンの方が相対的に高い利回り 利回り/スプレッド (%) 7 6 4.25 5 4 3 ハイイールド債(利回り) 2 2.42 バンクローン(スプレッド) 1 0 15年06月 15年08月 15年10月 15年12月 16年02月 16年04月 16年06月 16年08月 16年10月 出所:ヘンダーソン(英)、ブルームバーグ、クレディ・スイス、2016 年 10 月 31 日現在 ドイツの香水・化粧品販売会社、ダグラス(Douglas)のシニア担保付ハイイールド債最終利回り(YTW)、3 年での返済を想定した場合の バンクローンスプレッド 注: 上記は例示のみを目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではあリません。また、将来の運用成果等を保証するものでは あり ません。 2 旺盛な需要 欧州バンクローンは今後、次の 3 つの投資家層から、継続的な需要が見込まれます。 ・ 利回りを渇望する欧州の投資家・・・欧州の機関投資家は現在、利回り確保の観点から、バンクローンなど の非伝統的債券に目を向けています。その背景として、多くの機関投資家にとって、国債や投資適格社債 のみを投資対象とする金融商品では、必要な収益確保の保証が難しいという現状があります。 ・ ローン担保証券(CLO)・・・多くの場合、CLO の裏付資産の 60~70%は、弁済順位が最も高い AAA 格の ローンで構成されています。図 4 に示す通り、CLO の発行コストは 2016 年を通して低下しました。そのた め、今後 CLO の新規発行が拡大し、バンクローンの重要な受け皿になると見られます。最近の実例として、 シニア債を中心に組成される CLO の新規発行案件において、金融危機後では初めてスプレッドが 1%未 満となりました。 図 4: CLO の発行コストは、金融危機以降で最低水準まで低下 ベーシス(bps) 180 ユーロCLO AAAスプレッド 170 160 150 140 130 120 110 100 13年03月 13年09月 14年03月 14年09月 15年03月 15年09月 16年03月 16年09月 出所:Citi、2016 年 11 月 9 日現在 ・ 欧州市場での投資機会を追求する米国の投資家・・・ 米ドル建て投資家は、ユーロ建て資産を購入し、米 ドル・ヘッジを行うことで、高水準の利回りを獲得することができます。現在の状況が続く限り、今後、この 機会を活用する米国投資家の増加が予想され、欧州バンクローンの需要を拡大させるでしょう。 市場金利の変動に対するバンクローンの耐性 ここ最近、米国大統領選におけるトランプ氏の予想外の勝利、欧州中央銀行(ECB)の量的緩和縮小の可能 性に関する様々な報道や憶測(ECB は 11 月の理事会で量的緩和の規模縮小と期間延長を決定)、財政出動 機運の高まりなどを背景に、国債市場では度々ボラティリティが急上昇しています。結果として、投資家の間で は、利回り上昇局面が長期化するとの観測が再び強まっています。そこで、直近数年間で発生した 2 度の国 債急落(金利上昇)局面の各種資産クラスのリターンを見てみると、図 5 に示す通り、欧州のバンクローンは他 の債券資産と比べて底堅いリターンを上げました。 3 図 5: 欧州バンクローン:国債急落(金利上昇)局面で、下落リスクを抑制 % 2015 年 4 月~6 月 「ドイツ国債急落」時 2013 年 4 月~6 月 「テーパー・タントラム」時 2.5 1.3 1.3 1.5 0.0 0.5 -0.5 -0.5 -1.5 -2.5 -3.5 欧州バンクローン 投資適格社債 英国債 ハイイールド社債 -4.5 -2.9 -3.4 -3.8 -3.9 出所:ヘンダーソン(英)、ブルームバーグ、2016 年 12 月現在 以下の指数におけるトータル・リターンに基づき算出、リターンは全て英ポンドヘッジベース 欧州バンクローン:Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、投資適格社債:iBoxx £ non-gilts (IXBW) 、英国債:FTSE Actuaries UK Gilts All Stocks (FTFIBGT)、ハイイールド社債:BofA Merrill Lynch European Currency Non Financial High Yield 2% Constrained Index (HPIC) 資産担保証券(ABS) 信用リスクを抑えながら比較的高いスプレッドを提供 伝統的な社債と比較した資産担保証券(ABS)のバリュエーション妙味については、これまでにも言及してき ました。キャッシュフロー創出力の高い資産を追求する投資家にとって、ABS はスプレッド(クーポン)が高水準 であるのみならず、償還も定期的に行われるという点で、魅力的な資産クラスとなっています。 図 6 では、シングル A 格英ポンド建て社債の年限別のスプレッドをプロットした曲線(クレジット・スプレッドカ ーブ)と、各種 ABS のスプレッドを比較しました。ABS については、社債よりも格付けの高い銘柄を比較対象と しています。この図から、特に年限の短いセクターにおいて、ABS の相対的な投資妙味が高いことが明らかと なりました。ここでは、質の高いローンであっても高いスプレッドが十分得られることを明確化する観点から、敢 えて高格付けの ABS を例に取りました。 図 6: ABS は社債よりも魅力的なスプレッド水準 クレジット・スプレッド(bps) 140 120 100 80 AAA 自動車ローン AAA クレジットカード 60 AAA ノン・コンフォーミングRMBS 40 AAA プライムRMBS AA ノン・コンフォーミングRMBS 20 社債(A格)英ポンド建て 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 残存期間/ 加重平均残存期間(WAL) 出所:ヘンダーソン(英)、JP モルガン、BofA メリルリンチ、ブルームバーグ、2016 年 11 月 16 日現在 ABS のスプレッドはヘンダーソン(英)推計値、社債(A 格)英ボンド建てのスプレッドは BofA Merrill Lynch Sterling Corporate Index (UR00) 4 キャッシュフロー創出の有効な手段 図 7 では、徐々に元本が償還される ABS の元本残高をグレーで表しました。伝統的な債券投資では、クー ポン収入が定期的に獲得できるものの、元本は満期時に一括償還されます。一方、徐々に償還が行われる ABS は、投資期間中、元本返済も定期的に行われる点で伝統的な債券の仕組みと大きく異なります。図 7 で は、この種の債券が実際どのようなペースで償還されるのかの一例として、加重平均残存期間(WAL)約 6 年 の英国のノン・コンフォーミング(非適格)住宅ローン担保証券(RMBS)を取り上げました(グレー部分が元本残 高)。 図 7: 償還(アモチゼーション):ABS のキャッシュフロー特性 100% 残高 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 16年05月 18年05月 20年05月 22年05月 24年05月 26年05月 28年05月 30年05月 32年05月 出所:ヘンダーソン(英)、2016 年 11 月 30 日現在 英国ノンコンフォーミング RMBS:RMAC 2004-NS3X(変動金利) の予定償還スケジュールに沿った残高推移 このように、徐々に償還が行われる ABS では投資の初期段階から、キャッシュを得ることができます。ABS は有効なキャッシュフロー創出資産であり、ポートフォリオの分散に寄与するほか、同等格付けの社債と比べ て魅力的なスプレッドが得られるとヘンダーソンは考えます。 ABS のデフォルトリスクは本当に高いのか? 「金融危機の代名詞」という烙印を押された 2007 年の危機においても、欧州等の ABS は持ちこたえました。 米国市場の一部では、緩い引受基準と複雑な仕組みの代償として、デフォルト率が跳ね上がった結果、投資 家は相当な損失を被りましたが、欧州市場の状況は大きく異なっていたと言えます。欧州の住宅ローン担保証 券(RMBS)や他の消費者ローン ABS のデフォルトは低水準に留まり、2007 年中盤から 2015 年 12 月 31 日の 累積デフォルト率は、RMBS が 0.2%、消費者ローン ABS が 0.4%となっています。 これに対して、同時期における世界の投資適格社債の累積デフォルト率は、およそ 2.6%でした。 米国のサブプライム自動車ローン:「ビッグ・ショート」の次なる標的とは見られず ここ最近、米国の自動車ローン証券化市場が大きな注目を集め、その裾野も飛躍的に広がっています。高 水準の新車販売台数やローンでの自動車購入の増加に後押しを受け、新たな貸し手がこの活発な市場に参 入している一方、与信の拡大に伴い、融資基準が緩和され、裏付資産であるローンのデフォルト率は上昇し、 差し押さえも増えています。ヘンダーソンではこの現状を把握してはいるものの、今後市場がパニックに陥り、 自動車ローン証券が住宅ローン証券に次ぐ「ビッグ・ショート(大規模な空売り)」 の標的になるとは想定してい ません。確かに、サブプライム・セクターで融資基準が過度に緩和された可能性があるものの、自動車ローン 全体に占めるサブプライム・ローンの割合自体はここ数年、概ね安定しています(図 8)。 5 図 8: 米自動車ローン市場の構成比率(信用力別) 80% 70% プライム層 ノンプライム層 サブプライム層 64% 64% 63% 60% 50% 40% 30% 20% 18% 19% 18% 19% 18% 19% 10% 0% Q1 14 Q1 15 Q1 16 出所: Expedia、ヘンダーソン(英)、2016 年 3 月現在 裏付資産であるローンのパフォーマンスは悪化しており、60 日超返済が遅延している自動車ローンの割合 は、プライム・セクターとサブプライム・セクターの両方で約 20%ずつ増加しました(プライム:0.40%から 0.48%、 サブプライム:3.6%から 4.2%)。ファンダメンタルズ悪化の最大の要因は、自動車ローン市場に新たに参入し た貸し手にあり、これら貸し手は高いリターンの得られるローンを継続的に組成できるよう、信用力の低いセク ターに軸足を移しています。 しかし、2007 年~2008 年のサブプライム住宅ローン危機と結びつけるのは行き過ぎと考えます。その崩壊 がクレジット市場、金融システム全体、世界経済全体の混乱につながる住宅ローン市場と比べて、自動車ロー ン市場の規模ははるかに小規模です。米国では、サブプライム自動車ローン ABS 市場の規模は 2007 年以降、 ほぼ拡大しておらず、ABS 市場全体の 5%程度(430 億米ドル)に過ぎません。これに対して、住宅ローンを裏 付けとする RMBS の規模は 2007 年のピーク時には、3 兆米ドル前後に達していました。 加えて、現在、資本構成の最上位に位置する投資家は(機関投資家の大半もここに含まれます)、非常に高 い信用補完水準から恩恵を享受しており、広範な市場に危機が波及するリスクは見受けられません。 終わりに セキュアード・クレジット市場には、長期投資家と短期投資家の両者にとって魅力的な投資機会がなお存在 しています。一方、セキュアード・クレジットが有する優先性や安全性といったメリットについては、非投資適格 債券の投資家の間で過小評価されている感があります。米国自動車ローン市場における緊張の高まりは、同 市場や経済全体が下降局面を迎える予兆とは考えられず、ABS は今後も同等格付けの社債と比べて、魅力 的なリターンを提供できる見通しです。短期的な運用目標の達成に向け、手元キャッシュを活用しリターン拡大 を図る投資家にとって、元本が定期的に償還される ABS は、キャッシュフローを獲得する上で有効な投資先と なると期待できます。 6 当資料をお読みいただくにあたって 当資料は、ヘンダーソン・グローバル・インベスターズ・ジャパン株式会社が運用手法や業界動向等に関する 一般的な情報提供を目的として作成したもので、有価証券ならびに投資一任契約に係る業務等の勧誘を目的 としたものではありません。当資料に掲載される図表、数値、コメント等は出所が明らかな情報に基づき作成さ れていますが、当社がその正確性及び信頼性を保証するものではなく、また将来の投資成果等を示唆あるい は保証するものではありません。当資料の無断転写・複製等はご遠慮ください。 リスクについて 当資料に記載された商品、戦略には、その直接又は投資先ファンドを通じた間接的な投資対象(以下、「投資 対象資産」といいます。)により、主として以下のようなリスクがあります。 主として株式、債券等の値動きのある有価証券を投資対象としているため、投資対象資産の市場にお ける取引価格の変動により投資対象資産の価格が下落し、損失を被ることがあります。外貨建て資産 に投資をする場合、外貨建資産の価格は、市場環境の変化等による為替の変動等により上下します ので、これにより損失を被ることがあります。 投資対象資産の発行会社の財務状況の悪化等の影響により損失を被ることがあります。また、投資先 ファンドは、オプション・先物取引等のデリバティブ取引を使用することがあるため、当該取引の相手方 の財務状況の悪化等の影響により損失を被ることがあります。投資先ファンドの投資対象資産の保管 等に関わるカストディアンやプライム・ブローカー等が支払不能に陥った場合には、投資先ファンドは投 資対象資産を完全に回収できない可能性があります。 上述のリスク等を要因として、投資対象資産の流動性が制限されることがあり、これに伴い、投資先フ ァンドの流動性が制限されることがあります。 これらの要因により当社が行う運用(投資先ファンドの組入れを含みます。)には投資元本を割り込むリ スクがあります。 投資先ファンドには、以下の制約がかかる場合があります。即ち、純資産総額に対して一定の割合を 超える解約が一取引日に申し込まれた場合、買戻金額を制限し(その場合、各投資家の解約申込金額 に応じて支払いが按分されます)、残額については翌取引日以降に買戻しが持ち越される可能性があ ります。 実際の取引に先立って、各商品等の契約締結前書面やお客様向け資料等をよくお読みください。 報酬等について 当資料に記載された商品、戦略等に関して、お客様が当社に支払う報酬並びに売買等に関する手数料や保 管費用等の諸費用が掛かる場合がありますが、それらは、具体的な商品や契約形態によって異なりますので、 予めその金額、料率、計算方法やそれらの上限等を個別に表示することができません。実際の取引に先立っ て、各商品等の契約締結前書面やお客様向け資料等をよくお読みください。 商号: ヘンダーソン・グローバル・インベスターズ・ジャパン株式会社 登録番号: 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第 57 号 所在地: 〒100-0005 東京都千代田区丸の内一丁目 6 番 5 号 丸の内北口ビル 27 階 設立: 1996 年2月(被合併会社であるガートモア投資顧問は 1986 年3月設立) 資本金: 350 百万円 主な業務: 金融商品取引業 加入協会: 一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会 連絡先: 電話 03-5219-8000、Fax 03-5219-8001 ホームページ: www.henderson.com/japan (グローバル・サイト: www.henderson.com) 7
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