特許第3959452号 - 滋賀県東北部工業技術センター

JP 3959452 B2 2007.8.15
(57)【 特 許 請 求 の 範 囲 】
【請求項1】
絹繊維からセリシンを分離して得るセリシンの抽出方法であって、
絹繊維の集合体を準備するステップと、
40℃以上100℃未満の温度の処理水で前記絹繊維の集合体を濡らして、該繊維に含ま
れているセリシンを膨潤させるステップと、
セリシンを膨潤させた該集合体に対して、トラバースガイドを通過するときのしごき、
巻糸体で巻かれることによって生じた圧力による糸条の圧縮、糸条やかせの捩りによる圧
迫による圧縮、又は、糸の塊に対する、プレス機、ニップロール、遠心脱水機から選択さ
れる手段による圧縮、を行うことにより、該セリシンを前記繊維から分離するステップと
10
、
分離された該セリシンを回収するステップと、
分離された該セリシンを乾燥するステップと
を含むことを特徴とするセリシンの抽出方法。
【請求項2】
前記セリシンを膨潤させるステップが、槽に入った前記処理水に前記絹繊維の集合体を
浸漬し、その後該槽から前記絹繊維の集合体を取り出すステップであることを特徴とする
請求項1に記載のセリシンの抽出方法。
【請求項3】
回収された前記セリシン及び水を含む混合物を凍結するステップと、
20
(2)
JP 3959452 B2 2007.8.15
凍結された該混合物を解凍するステップと、
解凍された該混合物中に生成したセリシンの含水凝集物を濾過して分離するステップと
、
分離された該セリシンの含水凝集物を乾燥するステップと
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のセリシンの抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は絹繊維から抽出されたセリシンを抽出する方法に関する。詳しくは、絹繊維に
含まれるセリシンを、過度に分子量を低下させることなく絹繊維から抽出しセリシン粉末
10
を得る方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
絹繊維からセリシンを抽出する方法としては、絹織物をマルセルセッケンやアルカリ液
で常圧又は高圧で煮沸することが行われる。この方法は、絹織物の通常の精錬工程で用い
られるものであり、精錬廃液からセリシンを回収することも行われる。
【0003】
しかし、この方法で回収されたセリシンは、マルセルセッケンやアルカリ液の成分をは
じめ精錬に必要な漂白剤等の不純物を多く含んでおり、食品分野や化粧品分野に用いる場
合には問題となる。また、不純物を除去するためには、限外濾過等の高コストの精製処理
20
が必要となる。
【0004】
一方、特開平11−131318号のように、絹織物を高温高圧水で処理し、セリシン
を抽出する技術が公開されている。この方法は処理のために薬液を使用しなくともよいの
で、得られるセリシンは、通常の精錬工程の廃液から回収されるセリシンに比べて不純物
が少ないが、高温高圧処理によりセリシンの分子量が低下する。又、高温高圧水による処
理には高圧釜等大規模な装置を要し、設備コストが高いという問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、これら課題を解決し、セリシンを分子量の低下が少なく不純物の少ない状態
30
で回収でき、且つ大規模な装置を要せずに効率的に抽出できる方法を提供しようとする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨とするところは、絹繊維からセリシンを分離して得るセリシンの抽出方法
であって、
絹繊維の集合体を準備するステップと、
40℃以上100℃未満の温度の処理水で前記絹繊維の集合体を濡らして、該繊維に含ま
れているセリシンを膨潤させるステップと、
セリシンを膨潤させた該集合体に対して、トラバースガイドを通過するときのしごき、
巻糸体で巻かれることによって生じた圧力による糸条の圧縮、糸条やかせの捩りによる圧
40
迫による圧縮、又は、糸の塊に対する、プレス機、ニップロール、遠心脱水機から選択さ
れる手段による圧縮、を行うことにより、該セリシンを前記繊維から分離するステップと
、
分離された該セリシンを回収するステップと、
分離された該セリシンを乾燥するステップと
を含むことを特徴とするセリシンの抽出方法であることにある。
【0007】
前記セリシンを膨潤させるステップは、槽に入った前記処理水に前記絹繊維の集合体を
浸漬し、その後該槽から前記絹繊維の集合体を取り出すステップであり得る。
【0008】
50
(3)
JP 3959452 B2 2007.8.15
前記絹繊維の集合体は絹の糸条であり、
セリシンを膨潤させた前記集合体に対して、しごき又は圧縮を行うことにより、該セリ
シンを前記繊維から分離するステップは、
セリシンを膨潤させた前記糸条が管に所定の張力で巻かれたときに、巻糸体内部に生ず
る圧力により、該セリシンを前記繊維から分離するステップであり得る。
【0009】
又、セリシンを膨潤させた前記集合体に対して、しごき又は圧縮を行うことにより、該
セリシンを前記繊維から分離するステップは、
セリシンを膨潤させた前記集合体に対して、プレス機による圧縮を行うことにより、該
セリシンを前記繊維から分離するステップであり得る。
10
【0010】
又、本発明のセリシンの抽出方法は、
回収された前記セリシン及び水を含む混合物を凍結するステップと、
凍結された該混合物を解凍するステップと、
解凍された該混合物中に生成したセリシンの含水凝集物を濾過して分離するステップと
、
分離された該セリシンの含水凝集物を乾燥するステップと
を含み得る。
【0011】
又、本発明により得られるセリシンは、絹繊維から抽出されたセリシンであって、
20
絹繊維の集合体を40℃以上100℃未満の温度の処理水で濡らして、該繊維に含まれ
ているセリシンを膨潤させ、該集合体に対してしごき又は圧縮を行うことにより、該セリ
シンを前記繊維から分離し、分離された該セリシンを乾燥して得られた粉末状のセリシン
であり得る。
【0012】
前記粉末状のセリシンは、水100に対して重量比0.5の比率で混合した混合液を2
分間沸騰させた後の、その混合液の光線(波長800nm)の光路1cm当たりの透過率
が10乃至40%であり得る。
【0013】
【発明の実施の形態】
30
本発明においては、絹繊維に他の物体による圧縮及びまたはそれ自身による圧迫やしご
きの作用を与えることにより、絹繊維に含まれて付着しているセリシンを、絹繊維から分
離することがなされる。これらの圧縮、圧迫を本明細書では圧縮という。このような分離
操作がなされるセリシンは、分子量を殆ど低下させずに、又、不純物の混入が少ない状態
で絹繊維から分離される。この圧縮やしごきの作用を与える本発明の態様を以下に説明す
る。
【0014】
本発明においては、絹の繊維又は糸条は、濡れた状態で圧縮やしごきの作用が与えられ
る。又、繊維又は糸条に圧縮やしごきの作用を与えるときには、セリシンが水等により膨
潤していると、繊維からセリシンが分離しやすくなる。セリシンを膨潤させるステップが
40
、槽に入った処理水に絹の糸条のような絹繊維の集合体を浸漬し、その後その槽からその
絹繊維の集合体を取り出すものであれば、取り出された絹繊維の集合体が水分を含有して
おり、そのまま糸条に圧縮やしごきの作用を与えれば濡れた状態で圧縮やしごきの作用が
与えられるので、セリシンは水とともに分離されるので分離されやすく好ましい。
【0015】
本発明の実施の態様においては、セリシンを糸条から分離することが、下管巻き工程で
行われる。下管巻き工程は、緯糸を撚糸する八丁撚糸機にかけるために下管に巻く工程で
あり、絹繊維が6乃至数十本合糸された糸条を水に濡らした状態で高張力で下管に巻く工
程である。下管巻き工程においては、合糸された糸条を予め枷に巻いて、枷巻きされた糸
条を95℃前後の熱水に浸漬する。この浸漬工程は緯煮き(ぬきたき)工程と称され、こ
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(4)
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の工程で繊維に存在するセリシンが水で膨潤させられる。緯煮き工程を経た枷巻きされた
糸条は、湿潤状態のまま下管巻き工程にかけられる。図1の下管巻き工程の概略説明図に
おいて、枷体(枷巻きされた糸条)2から湿潤状態の糸条4が繰り出され、ガイドロール
6、トラバースガイド7を経て、約100乃至約1000mNの間の所定の張力が与えら
れ、管8に巻き取られる。糸条4はトラバースガイド7を通過するときにしごかれ、この
とき、セリシンの一部が剥離する。剥離したセリシンは糸条に付着して管8に巻き取られ
る。管8は回転駆動装置10により矢印Aのように回転して糸条4を巻き取る。管8に巻
き取られた糸条4は、巻糸体12を形成する。
【0016】
巻糸体12は糸条4が高い張力で巻かれて形成されているので、巻糸体12の内部には
10
糸条間に圧力が生じている。この圧力により糸条が圧縮され、絹繊維のフィブロインに付
着しているセリシンが剥離して水とともに巻糸体12から滲み出て、受皿14の中に落下
する。トラバースガイドで剥離したセリシンも水とともに巻糸体12から滲み出て受皿1
4の中に落下する。この落下したセリシンと水との混合物16を集めて下管廃液として回
収する。
【0017】
この加圧方法は、集合体を板等で挟んで加圧する場合と違い、セリシンを含む糸条自体
で加圧が行われ、加圧により絞り出され液の沁み出しを妨げる板のような障害物がないの
で効率よくセリシンと水との混合液の回収を行うことが出来る。
【0018】
20
下管巻き工程において発生する廃液(以下、下管廃液と称する)には、絹繊維から剥離
したセリシンが含まれている。下管廃液に含まれるセリシンは平均分子量が高くゲル化し
やすいので下管廃液が下管巻き工程で回収された直後でも廃液が濁っている。
【0019】
下管廃液に含まれるセリシンは一部は水に解け、大部分は水に膨潤した状態で含水凝集
物として下管廃液中に分散している。この状態は、外観上は、水と混じった雪が解けきら
ずに水中にシャーベット状に半透明状態で白濁して漂っている様子に似ている。なお、精
錬廃液、あるいは絹繊維を100℃以上の高温で処理して得た直後の処理水では、セリシ
ンが水に溶解しており、このような半透明状態の白濁の状態は殆どみられない。
【0020】
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下管廃液には、織物の精錬で使用する薬液が含まれていないので、このようにして得ら
れるセリシンを含む下管廃液をそのまま凍結乾燥し、あるいはスプレイドライヤーにかけ
て粉末化して得られるセリシンには、精錬で使用する石鹸、界面活性剤、アルカリ性薬剤
等の精錬剤、助剤、漂白剤などの薬剤を成分とするような不純物が含まれていない。又、
下管廃液から得られるセリシンは、高温高圧水、あるいはセリシンを変性したり分解した
り分子鎖を切断する薬品の作用を受けていないので、繭の状態のもとに天然に存在するセ
リシンに近く、天然に存在するセリシンに比べて分子量の低下も少ない。
【0021】
絹の繊維又は糸条に圧縮やしごきの作用を与える他の態様としては、絹の繊維又は糸条
の塊を湿潤状態でプレス機等により圧縮してセリシンを絞り出す方法が有効である。この
40
方法は、絹の糸条の屑又は絹の繊維の屑にも好適に適用でき、絹の糸条の屑や、屑繭等の
絹の繊維の屑の、有効活用に寄与する。又、糸条に圧迫の作用を与える更に他の態様とし
ては、糸条又はかせ状の糸条に捩りを与えることも有効である。この圧縮や捩りの前に絹
の繊維又は糸条の塊を予め常温乃至100℃の水等のセリシンを膨潤させる液体に濡らし
て、繊維に付着しているセリシンを膨潤させておくことがより好ましい。あるいは繊維又
は糸の塊をスチームで処理して繊維に付着しているセリシンを膨潤させておくことがより
好ましい。圧縮や捩りの前に繊維又は糸条を40℃以上100℃未満の水に浸漬して繊維
に付着しているセリシンを膨潤させておくことが、膨潤を促進させ、且つセリシンにダメ
ージを与えず、又、残留薬品を除去する手間が省けて更に好ましい。水の温度が40℃未
満の場合は、セリシンの膨潤が所定の時間例えば30分以内で充分になされず、圧縮や捩
50
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りによってセリシンが絹繊維から分離する量が極めて少ない。
【0022】
圧縮や捩りの前に75乃至98℃の水に浸漬して繊維に付着しているセリシンを膨潤さ
せておくことが、膨潤を更に促進させ、且つセリシンにダメージを与えず、又、残留薬品
を除去する手間が省けて最も好ましい。圧縮の具体的方法としてはプレス機を用いプレス
する、一対のロールから成る絞りロールにより液を絞り出す、遠心脱水機にかけて繊維又
は糸条の塊を圧縮して液を絞り出すこと等が有効である。圧縮時に予め水等の液状体を繊
維又は糸条の塊に加えておいて、セリシンの滲み出しを助長することも出来る。
【0023】
又、湿潤状態の糸条又は糸条の塊をニップロールで加圧ニップすることも圧縮の手段と
10
して有効である。
【0024】
これら絹の繊維又は糸条の塊を湿潤状態で圧縮してセリシンを絞り出す方法は、くず繭
やくず糸からセリシンを回収する方法として好適である。
このようにして絹の繊維又は糸条に圧縮やしごきの作用を与えて得られる、セリシンを
分散状態で含む分散液(以下セリシン分散液と称する)は、そのまま凍結乾燥、あるいは
スプレイドライヤーによって水分を除去しセリシン粉末とすることが出来るが、更に効率
よく水分を分離除去することが出来る。以下にこの態様を説明する。
【0025】
即ち、本発明に係るセリシン抽出方法の好ましい態様においては、セリシン分散液を凍
20
結し、その凍結したセリシン分散液を解凍する。この解凍により、セリシン分散液が、セ
リシンの高濃度のゲル状の含水凝集物と水とに分離する。この解凍物を濾過して、この高
濃度のゲル状の含水凝集物を取り出すことが出来る。このセリシンの高濃度のゲル状の含
水凝集物は、もとのセリシン分散液に比べて高濃度のセリシンを含有しており、乾燥する
ことにより効率よく水分を分離除去することが出来る。
【0026】
なお、精錬廃液など、セリシンが水に溶解した水溶液についても、この水溶液を凍結し
、解凍してゲル状にし、次いで濾過して水分を分離することが出来るが、本発明により得
られたセリシンの分散液に比べると、濾過時に水分が濾材を通過しにくく、濾過後のゲル
状物に含まれるセリシンの濃度が低く、乾燥の効率が悪い。
30
【0027】
上述のように、このようにして乾燥して得られたセリシンは、粉末状であり、不純物が
少なく、平均分子量が大きくて性状が安定しており、化粧品の原料や食品添加物としても
好適に用いることが出来る。
【0028】
更に、このようにして乾燥して得られたセリシンは、水と混合して、その混合物を10
0℃に加熱しても完全に溶解することはなく、これにより平均分子量が大きくて性状が安
定していることが裏付けられる。即ち、このセリシンは水100に対して重量比0.5の
比率で混合した混合液を、2分間沸騰させた後、その混合液の光線(波長800nm)の
光路1cm当たりの透過率が10乃至40%である。一方、従来の精錬廃液から乾燥して
40
得られたセリシン粉末は、同様の処理により得られた混合液の、光線(波長800nm)
の光路1cm当たりの透過率が70∼90%程であり、殆どが水に溶解した状態である。
このために、化粧品や食品添加物として加工する際に水に溶出して、工程の途上で水もし
くは水を含む副生物とともに廃棄される量が多くなるおそれがある。
【0029】
以下に本発明の実施例を示す。
[実施例]
(実施例1)
12本の繭糸を引きそろえた糸条を木枠に巻き取った。この木枠に巻き取った糸条を木
枠に巻かれたまま95℃の水に30分間浸漬し、引き揚げた。その後、図1に示すように
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、木枠2に巻かれ濡れたままの糸条4を引き出して、ガイドロール6を経て、トラバース
ガイド7でトラバースしながら下管ボビン8に巻き取る。符号12は巻き取られた巻糸体
であり、符号10は下管ボビン8を回転させる駆動装置である。巻き取りの糸速は平均4
0 m / m i n で あ り 、 巻 き 取 り の 糸 張 力 は 平 均 1 . 1 Nで あ っ た 。 こ の 糸 張 力 に よ り 、 糸
条4はトラバースガイド7でしごかれ、又、巻糸体8を構成する糸条には隣接の糸の張力
による圧力が生じ、繊維に付着しているセリシンが水とともに絞りだされ受け樋14の中
に落下した。この落下したセリシンと水との混合物(下管廃液)を各錘から集めて回収し
た。回収した下管廃液はセリシンの含水凝集物で白濁しており、セリシン濃度は0.7重
量%であった。
【0030】
10
この下管廃液300ccを1リットル入りのビーカーに入れて−10℃の雰囲気に8時
間放置して凍結させ、その後直ちに解凍した。解凍された下管廃液はセリシンが水と分離
してゲル状の含水凝集物として析出しており、解凍された下管廃液を不織布(1.65d
texポリエステル/レーヨン使い:厚さ0.33mm、目付35g/m2)にて吸引濾
過して水を通過させた残物として、154gのゲル状の含水凝集物のセリシンを得た。こ
のゲル状の含水凝集物のセリシン中のセリシン濃度は1.0%であり、下管廃液に比べて
セリシン濃度が増加していた。このゲル状の含水凝集物のセリシンを乾燥して1.6gの
乾燥セリシンを得た。下管廃液中のセリシンからの回収率は76%であった。得られた乾
燥セリシンからは、マルセルセッケンの成分やアルカリ液の成分や漂白剤が検出されず、
食品分野や化粧品分野に好適に用いることが出来るものであった。得られた乾燥セリシン
20
を、水100に対して重量比0.5の比率で混合した混合液を、2分間沸騰させた後、そ
の混合液の光路1cm当たりの光線(波長800nm)の透過率が20%であった。
【0031】
(実施例2)
実施例1と同様して得られた下管廃液300ccを1リットル入りのビーカーに入れて
−25℃の雰囲気に4時間放置して凍結させ、その後直ちに解凍した。解凍された下管廃
液を実施例1と同様に吸引濾過して水を通過させた残物として、150gのゲル状の含水
凝集物のセリシンを得た。このゲル状の含水凝集物のセリシン中のセリシン濃度は1.1
%であり、下管廃液に比べてセリシン濃度が増加していた。このゲル状の含水凝集物のセ
リシンを乾燥して1.6gの乾燥セリシンを得た。下管廃液中のセリシンからの回収率は
30
76%であった。得られた乾燥セリシンからは、マルセルセッケンの成分やアルカリ液の
成分や漂白剤が検出されず、食品分野や化粧品分野に好適に用いることが出来るものであ
った。
【0032】
(実施例3)
実施例1と同様にして得られた下管廃液300ccを1リットル入りのビーカーに入れ
て−20℃の雰囲気に5時間放置して凍結させ、その後直ちに解凍した。解凍された下管
廃液を実施例1と同様に吸引濾過して水を通過させた残物として、149gのゲル状の含
水凝集物のセリシンを得た。このゲル状の含水凝集物のセリシン中のセリシン濃度は1.
1%であり、下管廃液に比べてセリシン濃度が大幅に増加していた。このゲル状の含水凝
40
集物のセリシンを乾燥して1.6gの乾燥セリシンを得た。下管廃液中のセリシンからの
回収率は76%であった。得られた乾燥セリシンからは、マルセルセッケンの成分やアル
カリ液の成分や漂白剤が検出されず、食品分野や化粧品分野に好適に用いることが出来る
ものであった。
【0033】
(実施例4)
木枠に巻き取った糸条を木枠に巻かれたまま70℃の水に100分間浸漬した他は、実
施例1と同様にして下管廃液を得た。得られた下管廃液を実施例3と同様に凍結、解凍し
て濾過し、得られたゲル状の含水凝集物のセリシンを乾燥して1.5gの乾燥セリシンを
得た。下管廃液中のセリシンからの回収率は71%であった。得られた乾燥セリシンから
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は、マルセルセッケンの成分やアルカリ液の成分や漂白剤が検出されず、食品分野や化粧
品分野に好適に用いることが出来るものであった。
【0034】
(実施例5)
木枠に巻き取った糸条を木枠に巻かれたまま95℃の水に20分間浸漬した他は、実施
例1と同様にして下管廃液を得た。得られた下管廃液を実施例3と同様に凍結、解凍して
濾過し、得られたゲル状の含水凝集物のセリシンを乾燥して1.4gの乾燥セリシンを得
た。下管廃液中のセリシンからの回収率は67%であった。得られた乾燥セリシンからは
、マルセルセッケンの成分やアルカリ液の成分や漂白剤が検出されず、食品分野や化粧品
分野に好適に用いることが出来るものであった。
10
【0035】
(実施例6)
絹のくず糸の塊500gを80℃の水に30分浸漬し、引き揚げてプレス機にて10k
Nの荷重でプレスし、セリシンを含有した絞り液を回収した。絞り液中のセリシン濃度は
、0.9重量%であった。この絞り液300ccを1ットル入りのビーカーに入れて−2
5℃の雰囲気で4時間放置して凍結させ、その後直ちに解凍した。解凍された下管廃液を
実施例1と同様に吸引濾過して水を通過させた残物として、155gのゲル状の含水凝集
物のセリシンを得た。このゲル状の含水凝集物のセリシン中のセリシン濃度は1.2%で
あり、絞り液に比べてセリシン濃度が大幅に増加していた。このゲル状のセリシンを乾燥
して1.8gの乾燥セリシンを得た。得られた乾燥セリシンからは、マルセルセッケンの
20
成分やアルカリ液の成分や漂白剤が検出されず、食品分野や化粧品分野に好適に用いるこ
とが出来るものであった。
【0036】
(比較例1)
絹織物を120℃の高温高圧水で処理した処理液(セリシンの濃度:0.7重量%)3
00ccを1リットル入りのビーカーに入れて−20℃雰囲気で5時間放置して凍結させ
、その後直ちに解凍した。解凍された処理液はセリシンが水と分離してゲル状に析出して
おり、解凍された処理液を実施例1で用いたと同様の不織布にて吸引濾過して水を通過さ
せた残物として、180gのゲル状のセリシンを得た。このゲル状のセリシンを乾燥して
1.6gの乾燥セリシンを得た。このゲル状のセリシン中のセリシン濃度は0.9%であ
30
り、処理液に比べてセリシン濃度は僅かに増加していただけであった。処理液中のセリシ
ンからの回収率は76%であった。得られた乾燥セリシンを、水100に対して重量比0
.5の比率で混合した混合液を、2分間沸騰させた後、その混合液の光路1cmの光線(
波長800nm)の透過率が80% であった。
【0037】
(比較例2)
絹織物を120℃の高温高圧水で処理した精錬廃液を回収し、300ccを1リットル
入りのビーカーに入れて−20℃の雰囲気で5時間放置して凍結させ、その後直ちに解凍
した。解凍された精錬廃液はセリシンが水と分離せず溶液の状態であった。この解凍され
た精錬廃液を実施例1で用いたと同様の不織布にて吸引濾過したが、精錬廃液は殆どこの
40
濾布を通過し、ゲル状物が残物として濾布に残らなかった。又、この精錬廃液を乾燥して
得られた乾燥セリシンからは、マルセルセッケンの成分や漂白剤が検出され、食品分野や
化粧品分野に用いることは問題であった。
【0038】
【発明の効果】
本発明のセリシンの抽出方法によりセリシンを分子量の低下が少なく不純物の少ない状
態で効率よく且つ高圧釜等の大掛かりな装置を用いずに回収出来る。
又、この方法で得られたセリシンは抽出による分子量の低下が少ないものであり、性状
が安定しており、食品分野や化粧品分野に好適に用いることが出来る。更に、沸騰水にも
完全に溶出することがなく、最終用途に加工される工程で水に溶出して廃棄されてロスと
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なる率が少ない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の態様における、下管巻き工程の説明図である。
【符号の説明】
2:木枠
4:糸条
6:ガイドロール
7:トラバースガイド
8:下管ボビン
10:駆動装置
12:巻糸体
14:受け樋
16:混合物
【図1】
10
(9)
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フロントページの続き
(72)発明者 脇坂 博之
滋賀県長浜市三ツ矢元町27−39 滋賀県東北部工業技術センター内
審査官 清水 晋治
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尾崎準一 他,セリシン,フイブロインの本質的研究,東京高等蠶絲學校研究報告 第三卷,東
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平塚英吉,絹絲の形成に就て,蠶業試驗場報告,農商務省蠶業試驗場,大正5年1月31日,第
1卷,第3號,p.181−206
(58)調査した分野(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C08H 1/00-1/06
D01C 3/00-3/02
A23J 1/00-1/22
C08J 3/12-3/16
C08L 89/00-89/06
D01B 7/00-7/06
D21H 15/10
PubMed
JSTPlus(JDream2)
JST7580(JDream2)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
CA(STN)
JICST-EPLUS(STN)
SCISEARCH(STN)
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