ブラジルにおけるダイズさび病菌の宿主

ブラジルにおけるダイズさび病菌の宿主
〔 要 約 〕 アジア型ダイズさび病菌(Phakopsora pachyrhizi)にとって最も感受性の高い宿主はダイズ、ツルマメ、ク
ズで、次いで、Neonotonia wightii、インゲン、ヒメノアズキ、ライマメが高い。これらのうち、ブラジルでは野良生えのダ
イズや冬季潅漑栽培ダイズ、クズおよび N. wightii が本病の伝染源として注意を要する。
所属
国際農林水産業研究センター・生物資源領域
専門
作物病害
対象
連絡先
だいず
029 (838) 6305
分類
研究
[背景・ねらい]
南アメリカでは Phakopsora pachyrhizi によるアジア型のダイズさび病の被害が拡大している。本病はアジアでは古くか
ら発生している病害であるが、南米では2001 年にパラグアイで最初に発生したのに続き、2004 年までにブラジル、アル
ゼンチン、ボリビアなどの南米のダイズ主要栽培地帯全域に広がった。中南米では Phakopsora meibomiae によるさび病
の発生が以前から知られていたが、新たに発生したアジア型のさび病は早期落葉を引き起こし、20%~80%の減収をも
たらすなど、従来のさび病より被害が極めて大きい。P. pachyrhizi は宿主がないと生存できない絶対寄生菌なので、ダ
イズが栽培されない冬季間に宿主を除去することにより、さび病の発生を抑制することが期待できる。現在までに宿主と
して 100 種類以上が報告されているが、それらの感受性程度に関する報告は少ない。このため、ブラジルやパラグアイ
で利用されているマメ科作物、牧草、緑肥作物、雑草等のアジア型ダイズさび病菌に関する感受性を調査し、ダイズ栽
培にとって注意を要する伝染源を明らかにする。
[成果の概要・特徴]
1. ダイズさび病を維持している温室で 31 種のマメ科植物を栽培して感染の程度を調査したところ、19 種で病斑およ
び夏胞子堆の形成がみられる(表1)。病斑、夏胞子堆および夏胞子の形成は、ダイズ(Glycine max)、ツルマメ(Gl
ycine soja)、クズ(Pueraria lobata)上では極めて多く、Neonotonia wightii、インゲン(Phaseolus vulgaris)、ヒメノアズ
キ(Rhynchosia minima)、ライマメ(Phaseolus lunatus)では中程度である(表1、図1)。キマメ(Cajanus cajan)では発
病初期にダイズ以上に多数の病斑が形成されるが、夏胞子堆および夏胞子形成率は低く、また落葉が早いので
伝染源としての可能性は低い(図1)。
2. 病斑を形成しなかった種には、牧草では Arachis pintoi、 Desmosium ovalifolium、 Leucaena leucocephala、 ミヤコ
グサ(Lotus corniculatus)、 ムラサキウマゴヤシ(Medicago sativa)、 Stylosanthes guianensis、 ムラサキツメクサ
(Trifolium pratense)、 トックリツメクサ(Trifolium vesiculosum)、 緑肥ではタチナタマメ(Canavalia ensiformis)、
Crotalaria spectabilis、, ハッショウマメ(Mucuna pruriens)、 雑草ではエビスグサ(Senna obtusifolia)がある。
3. ブラジル南部、パラグアイ南部では、ダイズ、クズ、インゲン、N. wightii、ヒメノアズキの他、Desmodium tortuosum
に夏胞子堆が形成される。
4. 冬季間でも、ブラジル中西部では潅漑栽培のダイズに、ブラジル南部やパラグアイ南部では野良生えのダイズに
さび病の感染が認められる。クズはダイズの生育初期には大きな群落を形成し、病斑が多数形成される。従って、
これらのダイズやクズは伝染源として注意を要する。また、牧草として導入され、雑草化している N. wightii もブラジ
ル南部でダイズの生育初期に夏胞子堆の形成が認められ、伝染源になりうる。
5. ブラジル南部やパラグアイではダイズ、クズおよび N. wightii に冬胞子が形成される。
[成果の活用面・留意点]
1. ダイズ圃場の周辺圃場における栽培作物・牧草の選定、および除去すべきマメ科植物の種類を特定するために活
用できる。
2. 本試験で用いた以外にも感受性の高い植物種、あるいは品種系統が存在する可能性がある。
-1-
[具体的データ]
表1 マメ科植物におけるダイズさび病菌の病斑形成、夏胞子堆形成および夏胞子形成
学名
Glycine max
Glycine soja
Pueraria lobata
Neonotonia wightii
Phaseolus vulgaris
Rhynchosia minima
Phaseolus lunatus
Pueraria phaseoloides
Calopogonium mucunoides
Macroptilium lathyloides
Vigna angularis
Centrosema sp.
Lablab purpureus
Desmodium tortuosum
Pisum sativum
Cajanus cajan
Macroptilium atropurpureum
Vigna unguiculata
Crotalaria juncea
和名
利用種別
ダイズ
ツルマメ
クズ
食用
---
病斑面積率
(%) a)
夏胞子を形成し
た病斑の割合 b)
100
100
0-70
15-30
5-50
10-40
10-15
50-60
30-50
3-8
0-20
0-40
30-60
1-15
10
50-60
30-80
0-10
1
3
3
3
3
3
3
2-3
0-3
2
2
1-2
1-2
1-2
0-2
1
1
1
1
1
雑草
牧草・緑肥
食用
雑草
食用
緑肥
牧草・緑肥
雑草
食用
牧草
緑肥
雑草
食用・緑肥
緑肥
牧草・緑肥
作物
緑肥
インゲン
ヒメノアズキ
ライマメ
クズインゲン
クズモドキ
ナンバンアカアズキ
アズキ
フジマメ
エンドウ
キマメ
クロバナツルアズキ
ササゲ
クロタラリア
病原性 c)
+
試験せず
+
+
+
+
試験せず
+
+
試験せず
+
試験せず
+
+
+
+
試験せず
試験せず
+
a) 1鉢の中で最も罹病していた葉の病斑面積率の範囲 (ダイズさび病の発生している温室内に 19 日~75 日間曝露)
b) 0: 0%; 1: 10%未満; 2: 10~50%; 3: 50%.以上 c) 病斑上に形成された夏胞子のダイズに対する病原性
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14日後
28日後
マメ科植物種
マメ科植物種
図1
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
夏胞子形成病斑率
14日後
28日後
イ
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B
(B
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ク
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os
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病斑密度〔/cm 2 〕
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
各種マメ科植物のダイズさび病菌に対する感受性(ダイズさび病の発生している温室内に 14 日間または 28 日
間曝露、縦棒は標準偏差)
[その他]
研 究 課 題:
中課題番号:
予 算 区 分:
研 究 期 間:
研究担当者:
南米における大豆さび病に安定的な抵抗性の同定
A-1) - (3)
交付金 〔大豆さび病〕
2006 年度(2006~2010 年度)
加藤雅康・José Tadashi Yorinori (ブラジル農牧研究公社大豆研究センター)・Wilfrido Morel Paiva
(パラグアイ地域農業研究センター)・山岡裕一(筑波大学大学院)
発表論文等:
1) Kato, M., Morel Paiva, W., Yamaoka,Y. and Yorinori, J.T. (2005). Situation of soybean rust (Phakopsora pachyrhizi)
during winter of 2004 in southern Brazil and Paraguay. 13th Congreso Latinoamericano de Fitopatología – 3th Taller de la
Asociación Argentina de Fitopatólogos. Libro de Resumenes. 360.
2) Kato, M. and Yorinori, J.T. (2005). Variation in productivity of lesions, uredinia and urediniospores of Phakopsora
pachyrhizi among leguminous plants. Proceedings of the National Soybean Rust Symposium.
(http://www.plantmanagementnetwork.org/infocenter/topic/soybeanrust/symposium/posters/1.pdf).
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