商法Ⅱ(会社法)レポート課題No.2 設問 京都産業バス株式会社は、個人株主の増加をはかるための方策として、次のような計画を 立てている。なお、バス 運賃は全区間均一料金(220 円)である。 1)毎年 3 月 31 日現在の株主には、一律に 3 千円相当の回数券を1セット贈呈する。 2)毎年 3 月 31 日現在で 1000 株以上保有している株主には、1 ヶ月有効の無料乗車券(記 名者のみ有効)を交付する。 京都産業バス株式会社の上記計画について論じよ。 ※教科書 67p、判例百選 74 事件の解説等を参考にすると良い。 参考答案 法学部2年次 O.Hさん(採点者により段落等レイアウトは調整している) 「個人株主の増加を図る方策として、京都産業バス株式会社が株主に対して回数券や無料 乗車券を贈呈する計画は、贈呈という行為自体が規制されるのではないか、又、株主平等 コメント [M.S.1]: 「無料乗車券 の原則に違反するのではないかという、2 点について考察していく。 の交付が持株数に比例しておら ず」という一言を入れるとなお良 まず、京都産業バス株式会社が贈呈しようとする、回数券や無料乗車券といった無料券 い。 が、配当類似物であると考えられる場合、所定の手続きを経ずにその現物給付を行うこと 自体が違法であると解する。 コメント [M.S.2]: 〜と解する。と このような無料券が会社の配当類似物と看做す事ができるかどうかという点で、設問の いう表現が多い点が気になります。 バス会社という営業の性質上、そのサービスは、複数の顧客に包括的に行われるものであ 結論部分で使うのは構いませんが、 り、無料券を交付する事が、必然的に会社の損失に繋がる訳ではなく、逆に、無料券を交 問題提起の部分では「違法ではな 付しなかったとしても、確実に会社の利益が留保されるわけでもない。この事から、無料 いか、が問題となる。 」といった表 券を配当と同一視する事は困難である。よって、無料券の現物給付自体には、問題は無い 現を使う方が論旨の流れが良くな と解する。 ります。 しかし、無料券の交付自体が規制されないとしても、利益、利息の配当に株主平等の原 コメント [M.S.3]: 単に株主平等 則をとっている商法上の立場からは、株主平等の原則と無料券との関係で問題が残る事に 原則違反が問題となる。とだけ書 なる。 くのではなく、このように平等原 株主平等の原則に関して、直接規定した条文は無いが、利益配当請求権や議決権などに は平等的取り扱いが定められており、例外を明文で規定していることなどは、社団におけ る正義公平の原理の現れであり、一般的に認められている。 厳密に株主平等の原則が機能すれば、京都産業バス株式会社が、1000 株以上の株を保有 している株主を、その事を理由に、1000 株に満たない株を保有している株主よりも優遇す 1 則の趣旨をきちんと書くのは高評 価のポイントです。 コメント [M.S.4]: 「株主平等原 則を厳格に適用すれば、 」という表 現の方がいいでしょう。 れば、株主平等の原則に違反すると解する。 しかし、京都産業バス株式会社には、個人株主の増大という合理的理由が存在し、また、 営業の性質上、自社の無料券を交付する事は、軽微な優待的取り扱いに留まるであると考 えられる。この事から、保有株数に応じて内容が異なる無料券を贈呈する事は、株主平等 の原則に違反するものではなく、有効であると解する。」 解説・講評 株主優待制度と株主平等原則との関係については、「優待制度のような経済的便益の 提供を受けることは株主権の内容になっていないから、平等原則と直接の関係はない」 とする見解、「優待の程度が軽微であれば実質的に株主平等原則違反とはならない」と する見解、「大株主に対してのみ便益を与えるような優待制度であれば平等原則違反で ある」とする見解、などが主張されている。 確かに、利益配当や残余財産の分配ではなく、回数券・無料乗車券などの優待サービ スの提供を要求する権利は株主権(自益権や共益権)の内容ではなく、会社の営業上の サービスや宣伝活動の一環として行われる株主優待は、原則として株主平等原則とは関 係ないとも考えられる。 しかし、株主という資格に基づいて会社が便益を提供する以上、やはり株主平等原則 は及ぶと考えるべきである。会社の経営業績が低迷し、無配(配当可能利益がない、ま たは十分でないため利益配当を行わない)が続いているような場合に、その代替的なも のとして株主優待制度を活用する事例もあり、利益配当そのものではなくとも、株主間 の利益のバランスを図る必要性は利益配当に近いといえるからである。 他方、直接株主に会社の利益を分配するわけではないので、利益配当ほど厳格な平等 原則の適用は必要ないと言える。そこで、持株数に応じた垂直的平等(一株一議決権の ような平等)は要求されないが、緩やかな平等原則の適用はあると考える。すなわち、 優待の程度が軽微とはいえない場合に優待を受けることのできる株主が少数しかいな いとすれば問題があるし、水平的平等(同じ持株数の株主間では同じ取扱がなされる) は要求される。優待サービスの内容により、宣伝や営業政策上の合理性が強く認められ るほど、要求される平等の程度は減少するであろう。 京都産業バス株式会社の計画1)は、上記緩やかな意味での平等原則の要請に反しな いと言える。2)も優待サービスを受ける株主の利益内容としてはそれほど大きくない が、1000 株以上を有する株主の数によっては問題となりうる。単元株制度により一株 の大きさに制限がなくなったため、一律に考えることはできないが、会社の株価によっ ては、個人株主を増加させるという目的に対して、1000 株以上の株主のみにサービス を提供するという手段が相当性を欠き(たとえば楽天のように一株数百万円で売買され ているような会社の場合)計画の合理性に疑いが生じる。もっとも、その場合も優待の 2 コメント [M.S.5]: ことになりそ うである コメント [M.S.6]: この「である」 は不要でしょう。 内容が軽微であれば違法(平等原則違反)とまで言う必要はないであろう。ただし、1 ヶ月ではなく、1 年とした場合など優待サービスの内容と当該サービスを受けうる株主 数との相関関係によっては違法となる場合もありうる。 なお、仮に平等原則に違反する優待制度が実施された場合には、優待を受けられなか った株主が取締役や優待を受けた一部の株主に対していかなる請求ができるか、という 問題も出てくる。 3
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