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観光学研究 第 5 号 2006年 3 月
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観光開発に於ける地域特性と環境問題
佐々木
宏 茂
はじめに
キーワードとしての観光開発、地域特性、環境問題について言及しておきたい。
課題の観光開発は通常言い慣らされている言葉では少しあいまいな表現である。ここではツーリ
ズム開発のことであり、ツーリズム開発は往還に関わる諸現象を意味することをはじめに明確にし
ておく。
地域特性は観光地における観光の下部構造(地理的、地誌的、人文的構造)によって特徴付けら
れる部
であり、観光における非日常世界を知覚させる部 である。そして環境問題はマクロな視
点とミクロな視点に
ける。マクロな視点は観光を含めたいわゆる自然の基盤をもとに生態的シス
テムを含め、ミクロな部
では観光に関わる部
が持続可能な視点を意味することにする。この三
野にかかわり観光(ツーリズム)によって生じる正、負の問題を意識して出来る限り負の部
を
減じる鳥瞰図を得ることがここでの論点である。
1 観光開発と地域特性の関係
観光に関わらず、開発とは人間が生活をしていく上で必要な手段を得るために必要な資源を切り
開き役立てることであり、わが国において歴
的は遠くは奈良時代に仏教僧、行基が衆生済度のた
めと称して仏教理念を現実の世界に生かして橋を渡し、道を作ることが仏教修行にかなうことで
あった。平安時代の空海も同じように満濃池をつくり農業用貯水池をつくり広く水田を開くに
利
ならしめている。日本的な開発理念は江戸時代において二宮尊徳による疲弊した農村地域の田圃を
て直し開発していくことを意味しており、明治以降の北海道開発の歴
は「拓殖」という文字ど
うり「開拓地殖民」の意味になり開拓と殖民を意味した。明治以降は工業化の波に押し寄せられる
時代の初期であり未だ開拓も農業的視点からは大きく脱却していない時代である。日本語の意味す
る開発は以上のような歴
的陰影によって印象付けられている。一方英語の Development は発展を
意味してその発展は住民の自助努力と経済開発と社会開発が同時に意識されて進展することを意味
東洋大学国際地域学部;Faculty of Regional Development Studies, Toyo University
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している。
以上のように「開発」の意味するものは産業、主とし長く続いた農業経済時代に確立した言葉で
あり、その意味するものは明るく発展的要素を含めたものであり自然に手をいれ自然を調整するこ
とにあった。ややもすると現代において「開発」なる言葉があまりよい印象がもたれなくなった背
景は何故であろうか。
それは工業時代に至り西欧合理主義が工業的生産と結び自然に手を入れて調整するよりも自然を
改造して自然の原理的要素を無視して自然に過重負荷を与え資本主義的利益生産に自然を従わせる
という背景のもとに「開発」なる言葉が
われてからである。
農業時代における開発は自然の原理的基盤をもとに開発したのである。たとえば日本の田圃は明
治時代に来日したベルツはこれは半自然の開発、つまり自然を生かした開発であると賞賛している。
現今、過疎地としての地域社会開発を
慮する場合、開発とはどのようなあり方を意味するのかを
明らかにする必要がある。
1987年に発令されたいわゆる 合保養地域整備法
通称リゾート法> の失敗は土地神話に基づく
開発収入に重点が置かれて失敗したのは事実であるが、その際にリゾートにおける「開発」の意味
を論議した形成はあるものの十 浸透しないまま、あるいは開発規制
特に土地規制> を十
配慮
しないままむしろ規制緩和を促し開発に走ったことが大きな禍根を残すことになった側面がある。
時の為政者の大きな責任であるといえよう。
観光・リゾートの成功は観光地、観光受け入れ住民、観光地訪問客の 3 者の相互肯定と調和の関
係によってなりたつ。
観光の定義は観光訪問客を他の関係と切り離された存在として人間主体に
える傾向にある。い
わく観光とは「光=文化を観る」いわく観光とは「利益にかかわりなく日常圏から非日常圏に往っ
て帰ってくること=非営利原則」というように観光の主体者の行動を中心に語られがちである。観
光の客体という言葉もあるがこれの意味するところは観光の受けれ施設を中心に
えがちである。
施設でなく観光地域社会も観光の客体として観光主体と同時に意識的に包摂し、しかもその観光
地域社会が有する社会的仕組み、構造、それに基づく社会的意識 特に観光開発に関わる参加意識>
を 慮することなく観光開発=Tourism Development を進めることの脆弱さを意識しなければなら
いないであろう。
現今、観光地として成功している例は観光地域住民の意識が高く開発に関して住民参加がなされ
たところが多い。
かって、経済のバブル時代において観光開発をして「環境破壊などはありえない。自然はそんな軟
なものではない」と堂々
言して憚らない意見も散見されたことがある。人間の経済的欲望はいつ
の時代にも経済的欲望達成のために負の方向にフィードバックすることを自覚してマクロな視点か
らみて環境ガバナンスの重要性を自覚してツーリズム開発を地域特性と合わせて
稿の目的である。
察することが本
佐々木:観光開発に於ける地域特性と環境問題
2 観光の構造別
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類に関与して
観光が成立要因は様々であるがここでは地域特性と環境問題に
すいように観光の構造を次の五つの原則に
る故に、これにアプローチしや
けてそれが互いに環境問題とどのように関わるのかを
論じて見たい。
⑴ 観光の下部構造
a )観光地の風土、山、川、海、温泉、等要するに自然を基盤とした観光に関わる資源)
b )インフラ:上下水道、電気、通信
通に関わる手段(道路、鉄道、
、航空)
⑵ 観光の基本構造
a )宿泊施設
飲食施設 生活機能提供施設、ショピング施設
b )レクリエーション施設、観光観覧施設、スポーツ施設
⑶ 観光の上部構造
a )観光情報、観光の
的、私的機関のサービス
b )ゲストリレーションに於ける心情的側面:笑顔、親切、人情、ホスピタリティー
⑷ 以上に関与する 合的観光政策理念
その他に政治、経済、社会の変動を観光構造の中に入れべきかもしれないが課題に応じて適宜論
じてみたい。
⑴∼⑷に関連した仕組みの中では地域特性と環境問題の矛盾点と克服すべき課題が必然的に伴う
ものである。
3 観光下部構造に関与した環境問題
まず、観光の下部構造いついていえば、観光にふさわしい地域特性と環境問題に言及するとなる
とそこに存在する本質的問題は都市問題と切り離して論じることはできない。
地域観光は都市民が訪問する場所であり、都市市民が都会的空間を一時的に離れて非日常空間を
体験する場所である。しかしまた都市市民が異なった都市を観光訪問して非日常空間として異文化
的ふれあいをする観光もある。観光地域特性と環境問題をの両者を
離して
慮すべきであるよう
にみえるが本質は同じ問題を含めている。
産業の
的観点からすれば工業化時代に入ってからは都市の経営には近代資本主義を特徴づける
利潤追求確保とそれを維持継続させる基本原理があった。
その結果として
困、住宅難、水不足、
害、環境問題を起こしていくことになる。しかしなが
らこの工業化に基づく生産性の向上と経済の発展こそが経済可処
所得を可能にしてマスツーリズ
ムを促進させた原動力であった。特に先進国といわれる都市は人口を都市に集中させて経済の発展
をはかり GNP を高め人口を集中させて、近代市民を必然的に育成させた。観光はこうした背景をも
とに発展してきたし、今も発展してきつつある。皮肉なことに世界の後進的な開発観光を発展させ
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ようとする国はある程度の経済発展とそれに伴うインフラ整備を確保しなければ、観光客を誘致し
得ないし、持続的発展はありえない。これは地域の観光による発展は都市的要素を付加させなけれ
ば観光地として発展しないことを意味する。観光とは必然的にこうした側面を持っているが故に地
域観光地の環境問題は都市問題の揺籃期的な問題を抱えつつ発展するものであることを認識しなけ
ればならないであろう。
自然の多く残る地域はリゾート観光地として、それが
岸地域であろうと山岳地域であろうと都
市市民をひきつける。したがって観光と環境問題については資本主義による近代産業が生産性を高
めたのは科学の発達と関連して発展したと同様、ここに存在する環境問題はやはり科学的知見に
よって解決されないかぎり、環境問題は必然的についてまわる。
自然の多く残るところは開発のあり方として自然の許容範囲を自覚しつつ、つまり環境アセスメ
ントによりつつガバナンスを設けて自制、ないし規制が出来るかどうかであるが、この基盤的発想
としてのコンセプトが肝要である。観光地における居住民の生活ができなければこれらの規制や自
制は破られるか、その地域は放棄されるか、どちらかの選択が迫られる。
かっての「リゾート法」は規制緩和をすることにより大資本を観光地に誘致することであったの
は大いなる矛盾である。フランスの観光開発推進策のごとく規制を強めつつ観光地開発がしやすい
ようにすることが本来の道筋であったといえよう。
人類の生活向上は自然の一次的絆からはなれて自然条件に左右されない人工的な都市を造ってき
た。エデンの園で神の掟を破って禁断の木の実を食べたアダムとイブは一生、額に汗して労働に従
事して生活しなければならなくなった。旧約聖書の物語は人類が自然の中に埋没して自然の意思に
従って生活していた食物採取時代の潜在的生活意識を表現したものであるとエーリヒフロムは
析
している。かくして人類は農業により都市国家を、そして近代合理主義による工業時代を迎えて益々
都市機能のあるところに労働効率を求め人口を集中させきた。
わが国についていえば「高度成長化での都市の変貌」=( 田雄孝))と題してし述べている部
を引用してみよう。
「日本の近代化の後期1.950年頃からの経済の高度背長によって都市は一変して、一挙に現代都市
が出現するようになった。日本ではこの時代から、都市への産業。人口が急速に集中するようにな
り、その後20年間はに日本は、工業先進国が19 世紀から 100年以上かけて経験したことを一挙にに成
し遂げた。
この間に都市人口は75%を越え、特に東京などの三大都市圏からさらに地方都市への産業・人口が
集中して流入しており、おそらく全国では4000万人が移動したと推定される、封
時代の都市の名
残はよきにつけ悪しにつけ、まったく払拭された。以前から細々ながら蓄積されていた都市施設は、
生産機能にフルに活用され、加えて、追加的社会資本の投資の70%は生産基盤整備地区として重点的
に配 された。都心部にある都市施設が充実した地域は次第に業務用に占用され、住居地域は都市
施設の未整備な都市の外縁へと押し出されていった。加えて現代都市成立の基礎となった自動車、
通の発達が、大気汚染、騒音、 通災害、都市環境破壊の主役となった」。イギリスではこうした
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産業による被害を防ぐために文化遺産や自然資源を保護するために国民運動として
共財としての
オープンスペスを「入会地保存」という形でボランティア的に運営保存するナショナルトラスト運
動が起こって現今でもこれは世界的に広がりを見せている。わが国もこの影響を受けてナシナルト
ラスト機関があるが産業振興に重点を置いた政策の下ではそれほど長い歴
を有していない。イギ
リスの「入会地保存」が設置されたのは1865年である。ひとつの方向としてより促進すべきであろ
う。この促進の原動力となったのはジョンラスキンの経済哲学において主張した享受価値が経済利
用価値と並列して重要であるとの観点がある。こうした認識は目先の経済的利益を優先する経済政
策からは生じてこない。観光の認識や観光教育にはこうした観点にも力を注ぐべきであろう。
産業政策振興の背景の下に日本は国際収支の黒字を溜め込み、世界から、内需拡大経済政策をせ
まられて
合保養地整備法が立案されたのである。これにより過疎化された地域に重点整備地域を
けその周辺に15万坪の地域をもうけて地域活性化を意図したわけである。その重点地域は基盤整
備と都市的観光施設を設けてリゾート・観光客誘致を図ったのである。
都市と地域社会(農山村漁村)との関係の視点からみれば、これは地域社会の都市化であり、そ
の都市化により不動産の高価販売、開発収入を図ることが目的となり、時の為政者はこれに適切な
歯止めをかけず、失われた10年以上、否15年を経過させた。
地域社会の活性化は程度の差はあれ地域社会の都市化であるとの視点にたった割り切った政策も
一側面として必要であろう。一時的滞在の
流人口の増加もこうした範疇で捉えなおすべきである。
地域社会の人口増加政策は地域的な自然を残しながら一次的自然の絆の中に埋没することのない
地域社会のまちづくりが求められる。これにより環境保全をはかった地域社会の観光の振興につな
げる発想が現代社会においては求められるべきである。
現代における工業化社会と情報化社会にある時代に於いては、こうした観点から巨大都市と小都市
(地域社会―自然環境の豊かなところ)との共存をはかることが求められる。
こうした共存において地域社会の開発に伴う規制や基準が十 にガバナンスされることが重要であ
る。これについては結論で述べたい。
4 観光の基本構造かみた地域特性と環環境問題
自然的条件である地域観光地における宿泊施設及び観光施設を地域特性とどのように関連づけて
え、環境問題を
えることがこの項の視点である。大都市的な発想からすれば人工的都市機能に
存在するホテルは都市の中の都市といわれるくらいその機能は巨大であっても十
マーケットを吸
収することが出来るそれは宿泊機能のみでなく、宴会集会機能、飲食機能、ショッピング機能など
人口集中地域に都市の集中機能として機能する。もちろん小規模な宿泊機能を許容しつつ都市的機
能はマーケットを貪欲に吸収する。そしてアーバン観光施設として都市近郊にはレクリエーション
機能や繁華街などを付帯しつつ都市観光客を受けれることが可能である。一方地域社会はこのよう
な大規模施設を設けても本来マーケットを捉えられない宿命を背おわされている。
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リゾート法においてこうした自明の事実が無視され開発収入のマーケットが先行しことはバブル
経済の証左である。平成 5 年には国土庁ないにおいて有識者の審議会にもうけられリゾート開発の
反省がなされているがそうした意見のなかに「リゾートなる意識を国民に植え付ける必要がある」
との意見ある一方で、リゾートの需要喚起においても再度検討すべきであるとの意見も見られた。
こうした
えは開発ガバナンスを 慮しなければ、一歩、方針があやまれば過ちの繰り返しを招く
であろう。
観光立国たるスイス国では国民の人口より多くの観光客を誘致しているが、ベルンやチュウー
リッヒといった都市は大規模ホテルが存在していることは事実であるが、地域の山間村においては
小規模な宿泊施設が点在することによって十
観光客をうけいれている。地域山村に於いてはこう
することにより地域山村の観光地への過剰流入を制限しつつマーケットをとらえて環境保全を結果
的に図っている。
わが国でもようやく、農林水産省の下部組織として都市農村 流機構ができ小規模な農家滞在や、
民宿などによる自然を対象とした農業体験やエコツーリズムなどが政策的に取り入れられている。
こうしたやり方はバブル期においてフランスの大規模リゾートをモデルにして「リゾート法」にし
たがって観光政策を進めた方策が失敗の憂き目をみてようやく地についた方向性を見出すたと言う
うべきであろうか。
こうしたやり方は地域における特性を十
慮した方策でなければ成功しない。地域社会に起こ
る伝統文化、生産様式とあわせて環境アソスメントが配慮されて成り立つ。こうした観光・ツーリ
ズムの意義とか面白さは幼少より観光教育がなされることも重要である。平成 5 年においてなされ
た国土庁主催の有識者の提言の中で、「少なくとも家族連れで 1 週間滞在できるリゾート」
が理想で
あるとの見解がなされている。その実現には余暇政策や滞在費用の問題をどのように解決するか等
を含めているがこうした小規模観光施設が点在する農産漁村地域社会が育成されてきているのは正
しい方向であると判断できよう。都市的なるものと地域社会的なるものとの関係性については、随
筆家の養老
猛氏が適切なる例えをあげている。
「都市と地域社会の関係は、人体にたとえれば都市
は頭脳であり田舎の地域社会は手足でる。頭脳だけで人間は生きていくことができない。手足をの
ばし身体を活性化させる場所として田園地域が求められる」と。したがって地域社会は脳能的都市
機能による観光基本構造ではなく手足的機能が地域社会や過疎地において必要であり、それは都市
機能の基礎と関連した機能である。地域社会の機能は手足的機能であり、それは都市とは異なる機
能に存在価値がある。したがって都市的集約的な拠点でなく、面的に点在する比較的小規模な基本
構造が配慮されなければならない。
地域社会における観光の基本構造における施設のあり方については全国一律的な法規制とは異な
る準則をもってあたるべきであろう。たとえば旅館業法などは地方自治体にまかせてしかるべき規
制や準則を設けて地方の観光基本構造の特徴を出すべきである。しかしながら地域特性と環境保全
に関する開発規制とか開発基準をどこにおくべきかが問題になる。
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5 観光における上部構造と政策環境保全規制:モルディヴの事例
地域に応じた観光基本構造の基準や環境保全をモルディヴの例をあげて論じてみることとする。
モルディヴの観光開発は(WTO=世界観光機関連盟)が指導して成功した事例である。モルディヴ
はインド洋南西に浮かぶモルディヴ共和国であり
面積85平方メートル(陸海の面積合わせて)の
島嶼国である。陸地のみの面積は298平方キロメートル島の数190島そのうちリゾ−トを含む島は178
島、人口は26,200人女性の比率は48%の小さな共和国である。この島は観光で立国している。宗教は
イスラム教でかなり戒律は厳格である。気候は亜熱帯性気候ゾーンに属する。ここでは観光大臣が
置かれて環境保全に関する規制事項を国の法律として義務づけている。そしてこれらを遵守するべ
き係員に多大な権限をあたえている。
規制関連事項を羅列してみると次のようになる。
○環境保全のための施設基準(基本構造)ガイドライン
・汚水処理施設は観光施設の大きさに応じて設置すること。
・プラスティクのゴミは海に決して捨てないこと。
・リサイクルできる廃棄物は外国に
で輸送する。
・海洋生物の生態系保護については
瑚の採取、貝の採取、海岸の岩石採取の禁止。
・海亀やロブスターは一定の大きさもの以外は一切採取を禁止。
・
造物は亜熱帯気候に適応した現地の草葺屋根、壁は 瑚岩を用いる。
・但し現地の
瑚は過剰採取されたので環境に影響する故にコストは高くつくが輸入した
瑚
岩を用いる。
・景観保持のためにホテルは 2 階以下に制限した。
・海辺の
造物は水際より 5 メートル以上離して景観と 岸の植栽を保護した。
・ボートの係留、着岸には極力、削岩をしないで桟橋を設けた。こうすることにより
・潮の流れを自然に任せて自然の岩礁を保護した。
以上は直接自然を保全する禁止事項であるがその他に観光客の行動を島の社会文化資源を守るため
の行動基準を決めている。
こうした禁止規制事項があるがためにモルディヴの観光客は島の美しさや自然のすばらしさを愛
でるのである。こうした事例を挙げるのは、観光地は自然保護のためによく統制管理されなければ
ならないことを示唆しているが故である。モルディヴの観光開発は環境の保護や観光による文化的
弊害の防止、経済的側面の効果を含めて良好な結果をもたらしている。これは単に WTO が指導した
優れた観光計画によるのではなく政府の指導のもとにモルディヴの島嶼の観光のと特性を生かした
開発が効果をあげたのである。また、あるいはイスラムの戒律的宗教姿勢がこうした規制をうけい
れるためにプラスしているのかもしれない。しかもこうした禁止事項や規制が守られるためのモニ
タリング制度が確立しているといわれる。なを、モルディヴでは観光大臣が観光教育に力を入れて
観光の経済効果や観光環境の保持の重要性を学
教育のみでなく他の一般のラジオその他のメディ
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アをとうして教育している。ひるがえって観光の上部構造の良好なあり方は観光地全体に浸透して
初めて有効になるのである。わが国においても比較的観光地として成功しているところはこうした
地域住民の意識と行政、観光事業者のトータルな協力体制が大都市観光とはことなる地域特性と観
光振興を促すことになるのである。将来の観光(ツーリズム)の開発は国民の生活向上や地域性を
探訪する傾向となるであろう。こうした傾向の中であわせて魅力的な地域観光開発は、地域の個性
的な価値をどのように引き出し演出するのかが問われる。このような視点に立つとき地域特性を維
持管理し。環境保全を図りしかもインフラ整備を導入しなら、自然の原理に従った都市的機能をど
のように組み込むかが問われよう。
1915年、世界観光大臣の
会が大阪で行われた際、モルディヴの代表者が地球温暖化により海水
面があがると、わが国は海に埋没してしまうと訴えていたことが印象にのこる。
観光と環境問題を論じる場合もグローバルな視点から環境問題について眼をそらすことはできな
い。
「環境危機時計」を旭日ガラス財団では仮説して内外の識者4,000人のアンケートに基づいて12時
を人類存亡の運命の時間を定めたところ、2001年は「9 時 8
」となった言う。自動車の排気ガスに
よる 2 酸化炭素の増加、産業廃棄物やフロンガスによるオゾン層の破壊など地球環境を破壊する要
因は多くある。人類の生活向上のための経済開発問題は、環境問題であるとの認識は避けることが
できない時代を迎えている。観光開発に伴う環境問題もこの問題からはなれて存在しえない。
参
文献
佐々木宏茂著
ホテル産業要論」プラザ出版 1992年
大日本百貨辞典
東京大学 開講座
環境の部」小学館 2005年
人間と環境」東京大学出版会 1983年
古川 彰・ 田素二編
津幡修一
観光と環境の社会学」新潮社 2003年
現代ヨーロッパ 農村休暇事情」はる書房 1996年