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Title
ニューラルネットを用いたマイクロ弾性ロボットアーム制
御システムの開発( はしがき )
Author(s)
佐々木, 実
Report No.
平成5年度-平成6年度科学研究費補助金 (試験研究(B)(1) 課
題番号05555071) 研究成果報告書
Issue Date
1994
Type
研究報告書
Version
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/37
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
まえカヾき
機械の小型化は長い間の人類の夢であった.これが可能となれば,血管内のような狭い場所に潜り
込んで仕事をしたり,分子から原子に至る極微小の対象を取り扱ったり,その社会的貢献は計り知れ
ない.その中でもマイクロマニピュレータの基礎研究は非常に重要であり,ミクロの世界で物体の運
動を制御できれば,医学,工学,その他の分野での可能性は無限である.そこで,本研究においては,
弾性的な柔らかさを持ち,衝撃にも強く,水や人体とのインピーダンス整合が図り易いなどの特徴を
備えている高分子圧電材料をアクチュエータと本体両方に用いてマイクロマニピュレータを実現する
方法を提案する.また,マニピュレータの先端軌道を制御する方法としては種々の制御アルゴリズム
が提案されているが,その目的は
(1)フィードバックシステムを安定にする.
(2)目標値に関する追従特性として,偏差をできるだけ小さくする.
(3)外乱の影響や,システムパラメータの変動が,出力に出ないようにする.
などがあげられるが,現実のシステムにおいては様々なタイプの外乱が考えられ
これを補償するの
は容易ではない.そこで,本研究においては,この特徴ある高分子圧電材料を用いてマイクロロボッ
トを作製し,自己組織化による学習能力が注目され,各技術分野で活発に応用が検討されているニュ
ーラルネットを用いて,非線形な制御対象に対してロバストな制御系を実現し,パラメータ同定など
の適応能力を越えた高度な学習能力獲得ができるマイクロ弾性ロボットアーム制御システムを開発す
ることを目的とする.
マイクロマシンの研究は最終的には昆虫を人工的に作って微小な連動や作業をさせようというもの
であり,昆虫の複眼や触覚に対応する各種のセンサや脳や神経系に対応する論理回路,さらに手足や
大顎に対応するマイクロメカニズム,それを動かす筋肉に当たるマイクロアクチュエータを一体化し
たシステムを作り上げることが必要である.これらの要素のうち,もっとも重要な役割を担うのは動
力源であるアクチュエータである.このようなアクチュエータの中でも高分子圧電素子PVDFは,力を
加えて歪ませると電圧を発生し,逆に電圧を加えると伸縮する性質があるが,固体アクチュエータな
ので,アクチュエータと支持材を兼ねることが可能であり,摩擦の問題もない.また,発生力は小さ
いが,動作範囲は他の圧電材料に比較して大きく,成形加工性はセラミック系に比べて容易であり,
弾性的な柔らかさを持ち,衝撃にも強く,音響インピーダンスが固体と液体との中間のために,水や
人体とのインピーダンス整合が取り易いという特徴を備え,医療用の応用も考え易い.従来,PVDFは
本質的に圧電定数が小さいために,アクチュエータとしての使用には困難があると考えられてきたが,
マイクロマニピュレータの場合,スケーリング別により余り問題とはならない.また,駆動電圧もセ
ラミック系に比べて1/10-1/100程度と消費電力が少ないという特徴を有している.また,
-1一
ニューラルネットを用いた制御システムは,非線形関数を含むネットワーク構造を採用しているので,
非線形写像能力を有し,現実の非線形プラントに対してロバストな制御系を実現できる可能性を有し
ている.また,学習に際して,評価関数を用いたオフラインタイプのゆっくりした学習が可能であり,
プラントのパラメータ同定などの適応能力を越えた高度な学習能力獲得の可能性を有しているなどの
特色がある.本研究では,制御コントローラにシステムの正確な数式モデルを必要としないニューラ
ルネットワークに着目し,マニピュレータの先端位置追従制御の高精度化の実現のために目標値補正
型ニューラルネットを提案し,また,ニューラルネットの学習法に「適応学習率を用いた高速逆伝播
法」と「Levenberg-Marquardt法」を適用し,学習の高速化を図った.本研究で得られた内容と成果を
要約すれば以下の通りである.
(1)高分子圧電素子を用いたマイクロマニピュレータの構造と動作原理より,数式モデルを導出し,
実験データとのパラメータマッチングを行うことにより,良好なマニピュレータの数式モデル
を得た.また,数値シミュレーションと実験結果の比較検討により,アクチュエータの基本動
特性を明らかにした.
(2)従来型のモーメント法を用いた誤差逆伝播法のニューラルネットコントローラの数値シミュレ
ーションを行い良好な結果を得たが,実験システムのコントローラをDSPに実装する段階で,演
算処理時間の問題によりコントローラをDSPに実装することが不可能であった.
(3)(2)の問題点を解決するために,一括修正型である「適応学習率を用いた高速遺伝播法」と
「Levenberg-Marquardt法」の学習法を目標値補正型ニューラルネットに適用することによって,
演算時間の問題を克服し,同時に,数値シミュレーションと実験の両面から本コントローラの
有効性を検証した.また,本制御法はマニピュレータの特性変化にも対応できることを明らか
にし,ニューラルネットの学習の収束性は学習開始時に与える荷重係数
バイアスに大きく依
存することを明らかにした.
以上
本研究はニューラルネットワークを用いたマイクロ弾性ロボットアーム制御システムを実現
するためのコントローラの開発の手法や過程を構築した.この研究成果の蓄積を踏まえて,更に研究
を発展させ,この研究の成果がニューラルネットを用いたマイクロ弾性ロボットアーム制御システム
の実用化への一助となれば幸いである.
平成7年3月
岐阜大学工学部機械工学科助教授
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佐々木
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実