「どうしてできるの?『男らしさ』『女らしさ』」[PDFファイル/193KB]

第2回男女共同参画基礎講座
どうしてできるの?「おんならしさ」「おとこらしさ」
日時 平成 19 年 12 月 5 日(水)
場所 梁川農村環境改善センター
講師 福島学院大学 准教授 梅宮れいか
ご紹介いただきました、福島学院大学の梅宮(うめのみや)れいかです。私はあまり大学
の先生らしくないと言われているのです、けばい、と。キャバレーのママみたいとよく思
われ、
「お酒飲むのでしょ?」と言われておりますけれども、実際一滴も飲めません。この、
大学の先生らしくない私がここに来てお話しする内容が「男らしさ」
「女らしさ」というこ
とですけども、前回(第 1 回)のお話とはちょっと色合いが違うかもしれません。物事に
はいろいろな側面があります。例えば、ここの外にサザンカの花が咲いておりました。眺
めていましたが、寒椿によく似ています。けれども花をよく知っている方は寒椿ではなく
サザンカだとわかる。しかしよく知らない人は、同じような赤い花が咲いていると思う。
違うものと読み取れる人は違う特徴なり違う側面から違うものの見方をしている。紅葉と
楓は同じものでしょうか?名前が違うだけかもしれません。このように、名前が違っても
同じ、形がよく似ていても違う、そういうものが世の中にはたくさんあります。そのよう
なもののいろいろな側面を見られなければ一つの物事、考え方に固執して袋小路になって
しまうということがままあります。それはとても悲しいことです。私の意見は前回の意見
とは色合いが全く違います。前回は、人間には男も女もない、でも同じ権利を持って…と
いうものだったかと思います。今日の私のお話は、人間というものは男と女、違うものが
存在する。それは権利が云々というのではなく、違うんだからしょうがないじゃないか、
と。ただ、私の考えも前回の先生の考えも両方お聞きになって、人間の存在というのはこ
ういう違った見方もあって、その違った見方を通して自分はどう考えるか、という風に考
えて欲しいと思います。
ジェンダーは非常にわかりにくいです。男と女は同じですと言われても、違いは一目で
わかるじゃないですか。なのに、同じだと言う。困ります。このごろは男と女は違うもの
じゃなくてつながっているもの、グラデーションですよ、ということがあちらこちらで言
われている。だけど本当にそうなのでしょうか。今日、私はそうではないということを言
わせていただきたい。性はグラデーションだなんてとんでもない。
男と女は一目でわかる。
同じところに並べることなんてできないんですよ。それをなんで同じところに並べようと
するのか、私には理解できません。男と女は何が違うのかということをきちんとお話しし
ようかと思います。それから、ジェンダーという言葉の罠について。ただし、私はジェン
ダーという現在のこの環境や男女共同参画という言葉に対して異議を唱えるつもりはあり
ません。これはこれ、それはそれです。男女共同参画を推進しなくてはならないというの
はわかりますが、あれは言葉が悪い。よくわからないから、もっとわかりやすい言葉にし
たほうがいいと常日頃から思っております。
私は性同一性障害という病の治療で、日本で五本の指に入ります。性同一性障害という
ものを通して男らしさ・女らしさについて考えてみようと思います。
今日、NHKの紅白歌合戦の顔ぶれの発表がありまして、紅組に中村中(あたる)さんの
名前が出ていましたが、彼女は男性です。性同一性障害なんです。戸籍も男性のままです
が、女性として生活をして、女性として紅組にエントリーした。彼女は戸籍も体も男性な
んですけど、女性として社会の中で生きている。彼女を見て実に女らしいなと思う人がた
くさんいる。だけども男なんですよ。彼は女の格好をしている男らしくない人間なんでし
ょうか。彼女は実に女らしい男性なのでしょうか。これから皆さんの頭の中の絡まった糸
をほどいていこうかと思います。
さて、今はやりの言い方ですが、どうして性はグラデーションなのでしょうか。男と女
は、一目瞭然でわかる。私たちの体について医学的・解剖的に男と女がどう違うのかをま
ずは見ていきます。
男と女は外性器・内性器が違う。男性は精巣を持ち、女性は卵巣と子宮を持つ。では、
女性が卵巣や子宮を取ってしまったら女性ではなくなるのでしょうか。そうではありませ
んよね。そのへんが絡まった糸の発端なのです。この外性器・内性器の違いだけに目を向
けると、男と女というものがわからなくなる。もっと細かい視点で見なければならない。
遺伝子です。人には染色体というものがある。これは細胞一つ一つの中に入っている遺伝
子。私たちの体がどのようにつくられているのか書いてある設計図のようなものです。そ
の中には、こういう顔にしなさい、こういう性格にしなさいというところまで含まれてい
る可能性もあると現在言われています。この部分に心臓をつくりなさい、この部分に胃を
つくりなさい、この部分に卵巣をつくりなさい、子宮をつくりなさい、精巣をつくりなさ
い、という細かな体の設計がされている。その設計図を基に私たちの体は緻密に組み立て
られているのです。
男性と女性の違いを分ける位置製図はどこにあるのか?男性は性を決める染色体がXと
Yです。Xは大きい染色体、Yは小さい染色体。女性はXが二つでYが存在しない。この
決定的な違いが男と女の違いなんです。子宮を取っても、精巣を取っても、この遺伝子の
違いは体の全ての細胞の中に残ります。ですから、男と女は細胞の一つ一つまで男と女な
んです。そして、この違いはこういう違いに発展した。男性と呼ばれる個体は妊娠させる
能力を持つ。女性という個体は妊娠する能力を持つ。これは決定的な違いとして存在し、
これを無視することは不可能です。だから男と女は、はっきり男と女なんです。全く違う
存在です。ではそれ以外に何かあるのか、それはインターセックス、間性とも言います。
これは男でも女でもない性。男にも女にもなれません。なぜなら遺伝子が男でも女でもな
いからです。遺伝子が壊れているのです、悲しい話ですが。このような方々は少なくとも
4千から6千人に一人生まれてくる。自分で全く気づかない場合もあります。
どういう方々
か。さっきお話しした、遺伝子が違うんです。何かの原因で、染色体が三つの場合がある。
XXなら女性、XYなら男性ですが、Xが二つにYが一つなんて場合がある。ではYはど
こから来たのか。21番目から飛び込む場合がある。だからこの方はダウン症を持ってい
る。他にもたくさんありますよ。Xが一つだけ、これはターナー症と言います。ではYが
一つだけというのはあるのか。これはありません。致死遺伝子なので死亡します。Yが一
つだけだの個体は死にます。死産です。他にもいろいろな病気がありますけども、これら
はすべて染色体の異常で染色能力を持っていませんので、男でも女でもなく、妊娠させる
こともすることもできない。我々人間の中には妊娠することのできる個体、妊娠させるこ
とのできる個体、妊娠することもさせることもできない個体の三種類が存在します。男と
女とそれ以外。この性別にははっきりとした分け隔てがあって、それを飛び越えることも
混ぜることも一切不可能です。なぜか?遺伝子が違うから。この遺伝子を変える技術を現
在我々は持っていません。ですから生まれたままの性別はいじることも無視することもで
きないわけです。
では、どのようにして遺伝子は体をつくっていくのか。もともと男性のY染色体の中に
はSRY遺伝子という特別なものが入っている。この遺伝子があるかないかで男性か女性
かを決定します。ですから、現在司法的な試験で男性と女性を判断するにはSRY遺伝子
があるかないかで決定がなされます。例えば、生まれてきた子どもが男か女かわからない
とき、SRY遺伝子があるかないかで判断をするという厳密な方法がある。たいていの場
合はそこまでいかないですけどね。
このSRY遺伝子があると男性になる。つまり男性はみんなSRY遺伝子を持っている。
では、どのように作用していくのか。Y染色体の頭にあるSRY遺伝子は、女性のX染色
体には存在しません。Y染色体を持った精子が受精すると、XとYがつながって一つの受
精卵になります。その瞬間からSRY遺伝子が作動する準備が始まります。作動すると、
胎児の精巣が形成される。精巣も卵巣も、もともと同じ組織から形成するのです。これに
SRY遺伝子が働くことによって精巣になる。次にSOX9という遺伝子が精巣を刺激し
て男性ホルモンを分泌する。すると体中に男性ホルモンが作用して男性になっていく。
女性にはSRY遺伝子がないのでWNT4という遺伝子が働きます。するとDAX1と
いう遺伝子が、体の中で精巣以外からテストステロンを出そうとする分泌方式に抑制を加
えて押さえつけ、ほとんど出ない状態にする。体中に男性ホルモンが回らないのでその胎
児は女の子になっていく。そして女の子ができる。この遺伝子の流れは的確に、何週間目
にこの遺伝子が動く、その遺伝子が動いたならば、
それから何時間後にこの遺伝子が動く、
というように、タイマーで区切ったようにぱちりぱちりとスイッチが入っていく。その過
程は止めることができない。最初にスイッチを入れるSRY遺伝子があるかないかで男性
になるか女性になるかが決まる。ですから男と女は受精直後からすべて決まっている。同
じに見ることはできない。分け隔てしなければいけない。
ではこの遺伝子の結果として何が起こったか。脳の形がすっかり変わる。
(画像の)上が
男性、下が女性です。これは脳の真ん中辺りにある、左と右の脳をつなぐ脳梁と言います。
この形が男性は細長く、女性は丸いんです。面積で言うと男性より女性の方があります。
この面積というのは、神経の通っている本数です。女性の方がたくさんの神経で右と左が
つながっているのです。それがどういう作用をするのかというのはまだわかっていません
が、どうも男の人と女の人の脳の使い方に違いが出ると言われている。みなさんPETと
いう機械をご存知ですか?ポジトロン・エミッション・トモグラフィといって、たくさん
活動しているところがどこかを調べる機械。ガンマは非常にたくさんのエネルギーを消費
します。栄養や酸素も。ですから、PETで調べると、いつもよりものすごく活動してい
る部分が癌細胞の可能性もあるんですね。癌だけでなく、脳を見ると、考えている部分は
栄養をたくさん使うので、考えている部分がわかる。そこでしりとりをやってもらいまし
た。
(画像の)こっちが男性、こっちが女性。赤いところが使っている部分。男性はこっち
側を使っていないんですよ。女性はこっちも使っている。どうやらこの使い方の違いが、
男の人の脳と女の人の脳の違いらしい。女性が脳溢血で倒れる。出血した部分がだめにな
っても女性は反対側を喋ることに使えるので、言葉を蘇らす力が大きい。男性はもにょも
にょ喋る。
「おじいちゃんあんまり口聞けなくなったね」というのはこのせいなんですね。
この脳の違いはどこからくるのかと言うと、子どものときにSRY遺伝子が作動すること
によってテストステロンが全身に回って脳に作用しちゃっているからという。形が違えば
機能も違う。
さて、脳ですけども、神経系の発達は一生続きます。ただし始めのうちは非常に活発に
成長してします。例えば新生児の脳重量は350gありますが7歳には1350gに達し、
成人の脳重量とほとんど同じになってしまう。ですから初期の段階、子どもの段階で脳は
一挙に成長を遂げる。ところがその成長に伴って、脳をどのように使っていくのかってい
うのは、環境によって要因があります。いろいろなことを経験し、いろいろな風景を見て、
いろいろなものを見、いろいろな話を聞き、いろいろな本を読み、いい音楽を聴き、素敵
な人のやさしい笑顔を見、悪いことを悪いと叱られ、こういう経験をして人は成長してい
く。それがなければ脳というものはただボーっとした働きしか持たない。その脳の働きを
より高精度にしていくのが言ってみれば環境です。ですから体は遺伝子によってまず内性
器・外性器が決定され、脳が男の形か女の形かを決定された。そして出来上がったものに
対して学習を通し、さらに高精度な人間の脳に変わっていく。この大変複雑なメカニズム
がトップにあるSRY遺伝子があるかないかで、だーっと流れていく。さて、このときに
学習というところで人間はいろんなことを考える。実はそれがあるからこそ男らしさ、女
らしさが出てくる。ですから男の体、女の体というのは決定的に違っていても、それをい
かに学習させるかで男らしさ・女らしさと言う概念が出てくる。でもこれはジェンダーで
はないんです。これをジェンダーと教えてくださる方もいます。その方々と喧嘩をするつ
もりはありませんが、「わかりづらいね」って言います。
ジェンダーはどこにあるんでしょうか。ジェンダーは社会的な性と言いますね。しかし
社会的な性と言われてもジェンダーの中にはこんなものがある。戸籍、性役割、シンボル、
イメージ、または自分がどう思っているか。でもこれってよくよく見てみたら三つに区切
られる。戸籍は紙です。体には存在していません。戸籍の元になっているものが生まれた
ときの外性器の形です。ですから戸籍は体の外になくて、身体性に連動している。ですか
ら、社会的に作られたものではない。これは法制度が勝手に貼り付けているだけ。性役割
やシンボルやイメージっていうのは、意識の中にあって体の表面にまとっているもの。
「ス
カートを穿いている」
「口紅をつけている」それでいて恥ずかしくない、きれいになったと
思っているような、そういう意識が体の表面、行動面に現れている。そして性のイメージ。
自分は男か女か。考えているのは脳みそです。学習の結果ではなく、これはしっかりと脳
みそに遺伝子的に焼きこまれている。だからこれは脳の中や遺伝子の中にある。
一般的にジェンダーと言うのは、性役割やシンボル、イメージの三つだけで、本来他の
二つは入っていない。ところがこれを交えて話そうとするからわからなくなってしまう。
ジェンダー理論というものの最大の弱点がこの概念の混濁なんです。それをなくせばジェ
ンダーというものは非常にクリアな概念になる。ところがこれを放棄しないからジェンダ
ー理論はよくわからなくなり、人をたぶらかす。私はジェンダー理論が嫌いなんです、わ
からないから。一つは紙。一つは確かにふわっとしたジェンダーというもの。一つは遺伝。
三つは違うもの。ではジェンダーという言葉の代わりに使えるものはあるのか。現在存在
しないのです。ジェンダーというものはもともとイギリスだったかで初めて使われ、アメ
リカに渡ってそこで有名な男と女の性の分化について細かく研究したジョン・ホプキンス
が医学的な方面で使った。しかし、指導的な概念として使ったので定義が曖昧だった。そ
のまま現在も使っているところにジェンダー理論の弱点がある。ではジェンダーという言
葉以外に何があるのか。そこで私は「らしさ」を使ってみてはいかがかと思う。男らしい・
女らしい、男らしい格好・女らしい格好と言うと、戸籍はどこにも存在しないし、本人も
遺伝子も関係しません。すると、先ほどお話ししたグラデーションが成り立つんです。男
らしい格好、女らしい格好の中には非常に男らしい格好から男と女の中間のような格好ま
で。
みなさんはパンツスタイルですが、昔はパンツなんて穿こうものなら、女らしくない、
何を考えているのだと言われたくらい。
私がパンツ、ズボンのようなものを穿いていると、
何モンペみたいなのを穿いているんだと怒られました。スカートを穿きなさい、と。現在
私がスカートを穿き、スカートが大好きなんですと言うと、
「何考えているんだ、あんな女
の自由を縛るようなもの」と。とんでもない。だって、私の自由はスカートで成り立って
いるんですよ。らしさという言葉は、男と女の区別がなくなっていく、あのグラデーショ
ンの考え方。
ではこのらしさと言う点から男と女について考えていきたいと思います。でもただ考え
るとまたわけがわからなくなる。男と女ははっきりと分かれているから。わけがわからな
くなるので、性同一性障害と言う病気の中かららしさについて考えていきたいと思います。
性同一性障害はどのような病気かと言うと、男性もしくは女性の体を持った人が女性も
しくは男性のように生活すること。男性の体を持っていて、女性のように生活すると社会
から文句を言われるという困ったことが起こる病気です。中村さんは言われていませんよ。
だけど今まで言われたんじゃないかな。彼女はものすごい努力をして今の立場をつかみま
した。歌手になるまで何と言われたんでしょうか。多分、おかま、と。後ろ指差をされた
と思います。馬鹿にされたと思います。悪いときはつばをかけられ、あっちに行けと言わ
れたと思います。そういう苦しみを味わってしまう病気なのです。
この性同一性障害は、一時ではなくて、女になりたいと何十年とずっと思い続ける、そ
のような病気です。男というのは、女・子どもを食わせなければいけない。自分がタバコ
代をけちっても女房・子どもを餓えさせたらアウトです。そうであっても男になりたい、
女性から男性になりたいというものです。
なりたい自分というものがあって、利得が目的ではなく、損をしたってなりたいわけで
す。男性に比べて女性の収入は6割から7割です。収入が減っても女の人になりたいと思
うのが性同一性障害の男性から女性になりたい人たちです。
そういう人たちは社会の中で、
あちこちからいろいろと文句を言われるので、うつ病になってみたり、ひどいときには自
殺を考えてみたり、いろいろなことをします。性同一性障害というのは、自分の体に合っ
た、「らしい」行動ができないために起こる病気なんです。
では、何故それができないのか?それは脳が違うからなんです。脳に遺伝子的に男性ホ
ルモンが降りかかると男性になり、降りかからないと女性になるというときに、たまたま
降りかからなかったり、外部から男性ホルモンが入ってきて脳に降りかかったりした偶然
の事故によって脳が体と違う性別を持ってしまった場合に性同一性障害になってしまう。
脳は、このような「らしさ」をやりたいといっているけれども、それをやると周りから気
持ち悪いといわれる。あっちへ行けといわれてしまう。治す方法は、それらしく見えるよ
うにする以外ありません。脳の性別を変えることはできないですから。遺伝子でつくられ
てしまっていますから。遺伝的な障害はありませんが、一旦作られたものは変えられませ
ん。表面的にひげがあったならば脱毛するとか、骨があったならば手術で切り取ってしま
うとか、そういう方法で救うほかありません。男性から女性を作る場合には、ペニスを取
り除いて、ペニスの皮の部分を使って膣をつくります。ですから、男性と性的な交渉もで
きるような体に変わります。外見上、全く女性の体となります。胸は女性もやっている方
がいますが、豊胸手術を行います。喉仏は削ることができます。声は変えることができま
す。でもこの声を変える手術を受けても女性の声は出ないですよ。この声を変えるのは非
常に難しい技術で、現在日本の中でこの声を変える技術を持っているのは私だけです。私
は、この手術の後に男性の声を女性の滑らかな声に何例も変えてきた。これらの手術を全
部やると大体 1000 万円ぐらいかかります。
他に顔を変える方法もあります。女性的な顔に変える外科的な手術。顔を若くする、40
歳の人を 20 歳に変えるというような手術もあります。これは女性にもやる手術ですが。こ
ういった手術をすることによって変えることができます。背を小さくする手術というもの
もあるんですよ。肩幅を縮める手術もあります。女の人らしい体の形にすることもできま
す。ここまでやらなくても治療の段階では、女の人らしい体にするのを薦めます。この「ら
しさ」というのは一体何でしょうか?外見ですよね。女の人から男の人になったときは、
この外見は手に入ります。男性ホルモンを注射すると女の人の体は男の人の体っぽくなっ
ていきます。声は変わるし、ひげは生えるし、頭も禿げます。中学生が声変わりをするよ
うなものです。ところが、一旦成熟した女性は、卵巣は男性ホルモンによって駄目になり
ますが、胸などは小さくなりません。それは取るという手術があります。腕の部分の皮膚
を使ってペニスをつくります。これだと外で立っておしっこもできるし、男の人らしいし
ぐさができます。胸は切り取ることができます。そうすると、夏に海水浴に行って海水パ
ンツで泳ぐことができます。これがすごく嬉しいらしいです。胸を隠さなくていいという
のがものすごく嬉しい。
ところが、そのような手術を受けて体の形をつくっても、何故か男性から女性になった
人は、女の人には見えずに、どこか違うような感じがする。女性から男性になった人も、
何か男の人とはちょっと違うのではないの?というような感じになります。女性から男性
になった人は、ひげが生えていたり、声が低かったりするので、ぱっと見はあまり関係な
かったりするんですが、話をしていると、このような考え方を男の人はするかしら?とい
う印象を受けたりもします。男性から女性になった方は、一目瞭然とまではいかないけれ
ども、どことなくちょっと違うのではないの?という感じがします。それが見えない方は
ものすごい治療を受けたか、もしくはとんでもなく能力が高くて、上手に女性になった方
です。
それは何故かというと、外科的な問題ではなくて、生まれながらに女性の集団にいなか
ったので、服装や髪型や化粧や社会的な行動のパターンや心の動き具合を身につける機会
を持っていなかったんです。何千万円、何億とかけて体中をサイボーグ、ロボットのよう
に改造したとしてもどことなくこの人は女の人ではないな、どことなくこの人は男の人で
はないな、という気配するのは、まさにその人の歴史なんです。その歴史の蓄積が「らし
さ」です。ですから、この「らしさ」を否定してしまうと今までの人生の全てを否定して
しまうことになる。この「らしさ」をいかに否定しないか、そして今後この「らしさ」を
自分の中でどのように積み重ねていくのかということが、これからは重要なのではないで
しょうか?
性同一性障害の治療で一番初めに患者さんに「どのような性別であなたは生きたいの?」
と質問します。
「私は●△として生きていきます。」
「私は男として生きていきます。」
「私は
女として生きていきます。
」という言葉があって、そうであればそれになるように治療を始
めようねと言って、治療が始まります。それは外科的な治療もあれば、
「らしく」なるため
の治療もあります。この「らしくなる」というのは、今までの「らしさ」を否定するので
はなく、今まで積み重ねてきたものに一つ一つ更に積み重ねていくことによって求める人
生の一歩一歩を歩んでいくという治療法になります。ですから「ジェンダー」というもの
ではなく、
「男らしく」でも「女らしく」でもよいから、自分が生きやすいということをい
かに考えるか。
「あなたは男だからこうしなければ駄目。女だからこうしなければ駄目」で
はなく、「自分はこうしたいから男らしくする。」「自分の人生は女らしくしたい。
」という
ように自分で決めることによって一歩一歩進んでいくのが、
最も重要なことではないのか。
よくこんなことを言います。
「男と女は同じ生き物で、同じ権利を持っているから同じよう
に扱われなければいけない。」しかし、同じように扱われたら困るんです。女の体は男の体
よりも弱いです。男の体のような扱いを女の体にされたら壊れてしまいます。では、女の
人のような扱いを男の人にしてしまったらというと、男の人が今までの人生の中で積み重
ねてきた財産が悲鳴をあげてしまう。
皆さんこの花をご存知ですか?(画像で)青いけしです。真っ青な花びらを付けるけし
の花なんです。ヒマラヤのごく一部に咲いています。気温が摂氏 10 度を超えると枯れてし
まいます。この青いけし、こんなきれいな花が咲くんですよ。だけども本物ではないよう
に見えるでしょ。いろいろな人の人生があって、それが嘘のような人生かもしれないけれ
ども全部本物なんです。その全ての人生の、本物の人生の存在を認めてあげなければ、男
だ、女だ、という小さなことで騒ぐような、了見の狭い人間になりはしないでしょうか?
いろいろな人の人生があり、いろいろな人の選択があり、それでいいではないですか。そ
ういういろいろな生き方をしている方々と協力をするためには、男と女、体の違いはあっ
て当然、生き方の違いもあって当然、そう思いませんか?そしてその違いがあるからこそ
世の中面白い。違いがあるからこそ自分の能力を発揮する僅かな隙間がいくらでも見つか
るのです。その僅かな隙間で自分の能力を発揮できればそんないい人生はないですよ。そ
うやって自分の人生に自信を持って、自分らしく生きて、そして他の人の他の人らしい人
生も認めてやって、そうすれば豊かになるのではないでしょうか?男らしさ、女らしさと
いう二極的な考え方ではなく、その人らしさという考えで人生を豊かにすること、それが
現代の、この多様な生き方が認められる社会であるからこそ可能になる考えではないでし
ょうか?今日の私の話はこれで終わりです。
●司会者
もう少し先生からお話を聞きたいということがありましたら、手を挙げていただければ
と思います。
●梅宮
私の方から話題を一つ提供いたします。何故男と女という違いのために給料に差がある
のでしょうか?不愉快ですよね。私も出世は男の人に比べて遅いです。7年くらい遅いで
す。私より後に大学に入ってきた男の人は、私よりも早く出世しました。その人の能力が
高いのかもしれませんが、男性だから出世が早いと思えるところも多々ありました。それ
は男だから女だからということ以外にもう一つ理由があります。先ほどお話をした学習と
いうものがあります。男の人は男の人として育てられますから、一家を背負っていかなけ
ればいけないから、稼ぐようにという学習をします。女の人は子どもを生むようにという
学習をします。いくら勉強をしなさいといわれても、男の人みたいに背水の陣で稼がなけ
ればいけないということがないのですね。いざとなったら食わしてもらおうかなという面
がある。そうなると女の人の仕事の仕方や女の人の能力の開発の仕方が男の人よりも若干
甘くなる。つまり、稼ぐ力が男の人よりも低いということです。それでも、男の人と女の
人の給料に4割も差がつくというのはひどい。1割ぐらいにして欲しいと私は思っていま
すが。ただ、男の人と比べて女は稼ぐ力は低い、これは事実なんですよ。それは何故かと
いえば、女という遺伝子を持って生まれたから、男という遺伝子を持って生まれたから、
遺伝子に合った教育のパターンが最初から違っているためです。その教育のパターンが違
うということであって、これは差別されているということではない。
●質問
今日の話とは直接関係がない話かもしれないが、男女共同参画ということで国を挙げて
女性の地位の向上をやっている中で、良くなった面ももちろんあるが、少子化という大変
困った事態となっている。この問題と男女共同参画と先生はどのように考えているか?
●梅宮
男女共同参画とは若干違うのですが、男性と同じことをしようという考え方がありまし
た。その実現の仕方に、男性の仕事をぐっと引き下げて女性と同じにする、女性の仕事を
ぐっと引き上げて男性と同じレベルにしようというものがあります。男性の仕事をぐっと
引き下げる、つまり、お前らは女性をずっと差別してきたのだからその代償を払えという
やり方が1960年代、70年代にはやったウーマンリブです。これははっきりといって
感情論で、ヒステリーな女の人達が騒いだだけで失敗しました。女の人達からあんなみっ
ともないことは許せないと反感をもたれてしまった。次に、男性と同じような地位に引き
上げましょうとしてやったのが男女雇用機会均等法です。男性と同じところに引き上げる
ために、女性を守るためにやっていたいろいろなものを撤廃した。そして、男性と同じよ
うな選択の自由を与えた。言葉はきれいですが、生理休暇はなくなるし、深夜労働は男性
と同じように働かなければならない。
どちらの考え方も男と女という存在を無視している。活動の自由は認められているが、
存在は無視している。女は身ごもれば育児も含めて3年間は活動ができません。その間に
どうすればその女の人達の立場を守れるのか?それを考えないで同じ立場にするとしても
これは失敗するのが目に見えています。子どもは小さくて非常に無力です。子どもたちを
守るために母親が存在するのに、母親は稼がなければならない。どうしますか?保育園か?
では保育園はどうなりますか?エンゼルプランというものがありましたが、これも未完成
です。男と女は決定的に違います。男は30キロの荷物を持ち上げることができる。女は
持ち上げられません。その違いが無視されているんですよ。その違いをきちんと理解した
うえで、その違いを是正するような何か、例えば100キロでは人間は走ることができま
せんが、車なら100キロ出せます。新幹線で移動すれば東京までは1時間 40 分です。昔
は、こんな時間では移動できませんでした。このように何がしかの技術、何がしかの考え
方、何がしかの制度によってその人の能力が補われれば、問題はないはずなんです。しか
し、それが補われなかった。また、補うということに対して女性も求めなかった。子ども
を育てることはだめなこと、外に行って稼ぐことがいいことという文化がありました。そ
のような文化を普通にしてしまったことに、今の少子化の問題があります。子供を育てる
ことだって立派な仕事です。ただし、子供を育てて家の中で家庭をキーピングした上で文
化的に豊かな生活ができるほど男の人は稼げないんですよ。稼げる社会にしなければいけ
ない。稼げる社会ではないから、女の人も一緒に稼ぐしかないんです。だから必然的に子
どもは少ないんです。この社会の、いってみれば格差社会の制度的な側面に対して何がし
かの変革がない限り、女の人が安心して子どもを産んで安心して次の子孫に文化を託すと
いうことが難しいと私は考えます。ですからこそ、私はジェンダーではなくて、男と女は
違いがあり、違いがあったうえで何をするかを自分で決めてもらい、それを認めましょう。
私は子供を産みたい、働きたくないと思う方がおかしいのではなくて、それも素敵なこと
だと認めるような社会のシステムや文化がなければ駄目だと考えています。
これを大きな流れとして国に反映させるためには、まずは同じ意見を持つ方がたくさん
集まって、そして声を上げることです。それが一番大事です。女性が一番危機感を持って
いるはずなんです。子どもを、次の世代をつくれない。次の世代をつくれなかったらもう
駄目なんですよ。その次の世代をつくっていく最大の能力を持っている女性が、次の世代
をいかにつくっていくのかということに対してある程度の見識を持ち、将来を構想できる、
感情論ではなく、理論的な将来構想を持ち、そしてそれを発言していく、そのような形に
なっていくといいですね。私ができる範囲は非常に微々たるものです。皆様にお願いする
だけです。皆様やってくださいませんか?
新聞にいじめの問題なども書かせてもらいました。いじめというのは次の世代を潰す行
為です。その行為は、楽をして得をしようとする今の大人社会に原因があると思っていま
す。悪いことは悪い、楽をするよりも一所懸命働く方が得、という考え方に大人社会がな
らない限り、いじめはなくならない。子どもがいじめをしたときに、お前は犯罪者だとい
う大人がいなければ駄目。このような考え方に賛同してくれている方もいると思います。
●質問
いじめた人よりもいじめられた人の方が人の痛みが分かっていて、強い人間になるので
はないか?
●梅宮
私はそうは思わない。いじめられるということは本人には責任はありません。それで強
くなるかならないかは本人の問題ではありますが、強くするためにいじめるということは
決してありません。いじめた人間がその人を強くするためにいじめたと言ったならば、そ
れは欺瞞です。いじめは絶対あってはいけません。そして、いじめられたからといって強
くなるとは限りません。駄目になっていく方が大半です。たまたま表面に出てくる方は強
くなります。しかし、9割は駄目になっていきます。1割の方を見てはいけません。声に
なっていないのですよ。私のようにキャーキャーいう人間は確かに目立ちます。だけど、
女の人全体は私のように発言はしません。だけど発言をしない女の人の方が現実に嫌な思
いもしているし、大変な思いをしながら生きているはずです。その生きている方たちを無
視して、私のように発言をする人間の意見を聴いてはいけません。
●質問
何年か前にベストセラーになった本に「話を聴かない男、地図が読めない女」という本
があって、あなたは男脳か、女脳か、という判断をする質問があって、丸の数で男脳、女
脳と判断する部分があった。私の場合は、男脳だった。
私は仕事の中で、講師として一方的に話をする仕事もしており、一方的に話をするのは
慣れているのだが、会話をする能力というか、苦手な部分がありまして、そういったとこ
ろは、どちらかというと男の方が得意だとか、女の方が得意だとか、そのようなことがあ
るのかどうか?あるいはそれとは関係がないのか?それをお伺いしたい。
●梅宮
男性の脳は、地図を読めるどころではなくて、空間理解、例えばサイコロの裏や、サイ
コロを回せばどのような形になっているのか?とか、そのような空間理解の能力に長けて
いるといわれています。女性は、シュチュエーション理解、文脈の流れでもって物事を理
解する。だから、男の人は直感的な写真に反応し、女の人は文章に反応する、といわれて
いる。
男の脳と女の脳の違いですが、人間の脳というのは、男の脳、女の脳ときっちりと分け
ることは遺伝子的にはできるのですが、使われ方はいろいろな環境の中で構築されていき
ますから、解剖学的な違いはしっかりとあったとしても、それをどう使うかという部分に
おいては、男性的な使い方が得意な方とそうでない方が女性にも出てきてしまう。皆さん
の中にコンピューターを自分で組み立ててみた方はいますか?私は1時間で組み立てます。
女らしくないですよね。以前車をバラバラにして自分で直しました。結構簡単です。こう
いうと驚くでしょ。何故このようなことができるようになったかというと、子どもの頃の
生活環境にあったと思うのです。男っぽいようなことがより簡単にできるような環境に育
ってきたんです。私は料理が苦手です。妹は料理がすごく得意なんですよ。これは何故か
というと、妹は私よりも食いしん坊だったんです。おいしいものが食べたい、そのために
おいしいものを作りたいと言って、自分で本を買ってきてそれを片っ端から作った。学習
の結果です。そのような学習の結果で身に着けていく。妹は口下手で私よりも人とお話し
をするのが下手です。人前で話をするのが下手です。人間の脳は一つの機能しかもってい
ないわけではないですから、いろいろな機能を学習によって身につけていきます。ちょう
どコンピューターにいろいろなプログラムを入れるように。
お話をする能力が低いと思っているようですが、多分お話をする機会が少ないのではな
いですか?話のキャッチボールというのは、相手の話を聴いてあげることで勝手にできま
す。だからこちらが話さないとうまくいくんです。つまり、男脳とか、女脳とかは、関係
ないんですよ。言葉のキャッチボールをするのが苦手だと感じているならば、多分あなた
はしゃべりすぎ。聴けばいい。聴き上手になると会話が弾みます。
●質問
男らしさ・女らしさよりもあなたらしさ・自分らしさ、全く同感なのですが、モデルが
ない時代だと思います。
男らしくあり、あるいは女らしくあることが一つの規範であって、
それを見習うことで自分の暮らしを成り立たせてきたのがこれまでだとすると、これから
大変だという感じがするのですが、今日の話を聴いて、確かにそうだとは思うけれども、
ではどうしていったらよいのか?と悩む方が増えるのかもしれないと思いました。では、
自分らしさというのはどうやってつくっていったらよいのか?アドバイスをいただきたい。
●梅宮
私のような若輩者がいうのは僭越なのですが、真面目に一所懸命に生きればいいだけだ
と思っています。真面目に一所懸命に正直に稼ぐことだけやれば、後はいいと思います。
後は男らしかろうが、女らしかろうが自由にしていればいいのです。真面目に一所懸命に
生きること、これだけやれば自分らしく生きていることと私は信じています。どんな人で
も。
●質問
先ほど、脳の話の中で、新生児で 350 ミリグラム、7 歳児で 1300 ミリグラムだいたい成
人と同じになる。あとは環境によって違うだろうという感じはあるのですが。男の脳の重
さと女の脳の重さが違うという話をよく聴いたり、その間にどのような育ち方をしたのか
によってその人の脳も違うとかという話も聞いたりします。その辺についてお聞かせくだ
さい。
●梅宮
男の脳と女の脳の違いというのは、男の体と女の体の大きさの違いだと思ってください。
つまり、男の体は大きい、女の体は小さいんです。男と女の違いは何か?といえば純粋に
大きさです。解剖学的に言うと、女の骨の重量は、男よりもはるかに軽いです。私みたい
にでかいのもいますよ。だけど、私と比べても男の人は大きいです。これは並んでみると
分かります。女と男の違いは純粋に大きさです。これが一番どこに反映されているかとい
うと、頭蓋骨になります。頭蓋骨はいくつかの骨がしっかりと組み合わさった形でできて
います。これは脳の成長を妨げるものでもあります。その脳がそれ以上大きくなれないと
いうのは、頭蓋骨があるからです。女の頭蓋骨は小さいです。その小さい頭蓋骨の中に入
っているから、女の脳は小さい。それは機能が劣っているわけではなくて、純粋に小さい
だけなんです。男の脳も女の脳も同じだけの神経を持っていて同じように活動をしていま
す。強いて言えば神経の長さが違うだけ。
それから環境の問題。三つ子の魂百までもといいます。ところが、小さいときに男の子
が女の子のように育てられても、途中で男だというのですよ。何故かといえば、脳に遺伝
子的に男だと刻み込まれているからです。だから「三つ子の魂百までも」というのは、脳
の使い方の問題であって、もともとの形の問題ではありません。環境の違いというのは、
脳をどのように使うかというところに働きますが、その脳の形には影響しません。