2002 年度早稲田大学第 28 回寄付講座(2003.1.22) 「地球環境問題における国際環境 NGO の戦略 ―欧州の冷蔵庫市場を変えたグリー ンフリー ズ―」 松本泰子氏 (独立行政法人 藁谷 国立環境研究所 地球温暖化研究プロジェクト フェロー) おは ようござい ます。今日はこの寄付講座の最後の講義になります。はじめに、 松本泰子さんに「地球環境問題における国債環境 NGO の戦略」ということでお話を いただきます。 松本先生は、世界自然保護基金日本委員会を経て、国際環境保護団 体のグリーンピ ース日本支部で地球温暖化問題等の政府間交渉にもオブザーバーとし て参加、あるい は各国政府にロビ−活動を行ったというご経験もお持ちです。その後 、国内において もそうした実際の NPO 活動等を経て、現在は独立行政法人である国立環境研究所にお ける地球温暖化研究プロジェクトのフェローをされています。松本さ んのこうした活 動に対しては 2000(平成 12)年にアメリカ環境保護庁から「オゾン層 保護賞」が贈ら れています。現在そのプロジェクトで活動をされている以外にも、産 業構造審議会科 学バイオ部会等々の審議会委員を務めていらっしゃいます。 われわれはここまで企業の取り組み、行政の取り組み、NGO・NPO の取り組みにつ いて、具体的に講演者の方からお話を伺ってきたのですが、先日のみ なさんとのディ スカッション、みなさんからの要望の中で、個々の企業や、NGO の取 り組みといった ものを、具体的に社会全体の動き 、あるいは地球環境の保全といった大きな流れとし ていくためにはどうすればいいのかということについての質問が寄せられました。ま さに松本さ んはそうした活動を行っていらっしゃいました。つまり、グリーンピース 等々の活動で企業を動かし、あるいは国や国際社会を動かしてきたわけです。したが って、その取り組みとその経過、NGO の役割につい て松本さんから具体的なお話を伺 うことができると思います。 松本さんのほうから、40 分程度お話いただき、その後パネルディスカッションをし たいと思います。それでは松本さんよろしくお願い致します。 脱フロン社会を目指したグリーンフリーズ・キャンペーン 松本 おはようございます。今ご紹介いただきました松本です。今日お話するのは、 13 年間にわたった国際環境保護団体であるグリーンピースの、企業との協力やお互い の批判などを経たキャンペーンのご紹介です。13 年間を 40 分でというのはかなり厳 しいので、省略する部分が多いのはご了承下さい。 私がなぜ冷蔵庫の問題に今でもこだわっているのかというと、私がグリーンピース にいた8年間のうちのほとんどを地球温暖化の問題とオゾン層の問題、そしてその両 方にまたがる問題の解決のために、グリーンピースが自ら企業に委託して開発した冷 蔵庫技術の商業化と普及に使ったからです。私が若いみなさんに、題材としてこの問 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 1 題を是非ご紹介したいという理由が三つあります。 このグリーンフリーズが私に教えてくれたことは、一つは、国際環 境 NGO の非常 にプロフェッショナルな環境保護の戦略の効果、も ちろん多くの課題も残しています が、NGO というものが持っている可能性を教えてくれました。 もう一つが個人、すなわち私たち消費者の 一人ひとりの消費するという行動、選択 が、どれほど大きな変化を企業に与えうるのかということです。常に 影響を与えられ るとは限りませんが、その可能性を持っているのか。 そして最後に、国際協定です。今日お話に出てくるのはモントリオール議定書とい うオゾン層保護のための国際協定と、みなさんご存知の地球温暖化防止のための京都 議定書ですが、世界の主要国がほとんど参加する国際協定が持つ影響 、効果というこ と。この三つを教えてくれたキャンペーンでした。 まずスライドを見て下さい。グリーンフリーズについては後ほどご 紹介しますが、 冷蔵庫というのはもともと冷媒、断熱材の発泡剤としてフロンという オゾン破壊物質 を使っていました。それを、オゾンを破壊しない、温室効果もない物質に替えていこ うとしたキャンペーンです。これは当初、多くの政府と企業が「でき ない」とほぼ断 言していた分野です。自分自身は技術力も何もない環境保護団体が、 技術的な突破口 を自らつくりだして、まずドイツの市場、そしてヨーロッパの市場、 今は日本の市場 までも変えようとしているキャンペーンです。 このキャンペーンは決して市場を変えることだけが目的ではありません。それはあ くまでも戦略で、最終的には国際協定の規制を強化し、最終的には完 全な脱フロン社 会に移行させることを目的とした、非常に戦略的なキャンペーンです 。フロン回収と いう方法がありますが、環境破壊物質をつくってしまって 、使ってしまって、出口の ところで排出を少なくしましょうというものです。これも非常に大切な対策ですが、 このキャンペーンは出口(排出)のところで対策をとるのではなく、根本的に環境破 壊の蛇口のほうを止めていこうというものでした。これは環境 NGO が国際協定に取 り組むときに、国際協定の非常に複雑な、様々な側面に対処していか なければならな い、すなわち地球環境問題の複雑な構造を示している例でもあります 。 世界全体の参加を可能にする国際環境協定 グリーンフリーズは、ヨーロッパ、特にドイツ、オランダ、デンマークで非常 に普 及したのですが、このような国から始まったからこそ上手くいったの ではないかと考 えられます。日本では一般的に企業と環境 NGO というのは対立する か協力するかの どちらかなのですが、欧州の環境先進国と呼ばれる国 々で は、企業と協力をすれば批 判はしてはいけないのかというとそうではなく、必要な批判はきちんとする。 「対立と 対話」というものが決して矛盾しないでそこに存在している。そういった市民・NGO と企業・政府との関係が、文化的な背景としてあったと思います。 まず、国際環境保護団体にはどのようなものがあるか。 「世界自然保護基金(WWF)」 というパンダのマークの団体が今一番大きい団体で、世界中に 470 万∼500 万人の会 員がいます。次が「グリーンピース」です。私はこの二つの団体にいたことがあるの ですが、グリーンピースは今約 250 万人の会員です。「地球の友(FoE)」も大きな国 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 2 際環境保護団体です。本部ですが、WWF はスイスのグランという小さな町、下の二 つはオランダのアムステルダムに本部を置いています。 特に WWF とグリーンピースは地球環境問題の解決において、国際 環境協定に非常 に重点をおいてキャンペーンを行っています。法的な拘束力のある国際協定は、なぜ 国際環境保護団体にとって重要なのか。地球環境問題というのは日本 だけが参加して も、アメリカだけが参加しても解決しません。国際協定 であれば多くの国の参加が得 られ、主要国のほとんどがこれによって動く可能性がある。世界全体 が同時に問題解 決に参加することを可能にするメカニズムだからです。 また、国際協定ができると、特に日本のような国はきちんと国内法が整備されます。 そして、問題を解決する国内制度の整備が行われます。そして今日の お話ですが、市 場への政治的なシグナルが出ます。いわゆる「どの物質をいつまで にゼロにしなけれ ばいけない、減らさなければいけない」という直接的な規制だけでは ありません。マ ーケットというのは規制が決まりそうなとき、国際協定やその改定が 合意されそうな 流れをキャッチすると、大きく技術の開発の方向を変えていくことがあります。 国際協定はまた、技術革新へのインセンティブになります。つまり 環境への負荷を 低減する非常にいい技術を持っていても、他の企業が安いコスト(環 境への投資を行 わない)で競争をしてきた場合、な かなか難しいわけです。しかし国際規制があれば 世界全体で、少なくとも先進国は同じ条件で、国際市場で戦えるということになると、 逆に前者の企業が競争力を持てるのです。そういった公平な国際競争の条件を整える ことができる。さらに、環境国際協定では必ずといっていいほど将来 、規制を強化し ていくような仕組みが組み込まれています。 もう一つ最後が、企業だけではなく、自治体、私たち個人個人の市 民へのシグナル を出してくれる。 「こちらの方向に行くのだな。これから二酸化炭素を減らしていく社 会になっていくのだな」というシグナルが出るということです。実は一度、ある大新 聞社の記者の方と気候変動の大きな会議でお話したことがあります。 その方は会議が 終わるときに非常に怒っていらっしゃいました。 「われわれの税金を使 って、2週間経 ってもほとんど何も前に進まない。エネルギーと時間とお金の浪費で ある。それが国 際協定の政府間の交渉なのか」とたいへん怒って、二度と交渉会議にはいらっしゃい ませんでした。地球環境問題の多国間交渉は、実際に時間とエネルギーとコストがか かるプロセスです。ただ、一度合意 されると今申し上げたような効果が得られる可能 性があるのです。もう一つこれに付け加えたいのが、これから途上国 をどのようにし て巻き込んでいくかということが非常に重要だということです。こう いった国際協定 が合 意されると、世界全体として途上国にど のよ うな技術を移転していくのか。その ためにはどのような資金が必要なのか、そのためにはどのような基金が必要なのか、 が議論され、その仕組みづくりが世界全体で行われます。 代替フロンの温室効果は CO 2 の 3300 倍 「なぜ冷蔵庫なのか。なぜフロンなのか」ということですが、まずこの円グラフは 日本の温室効果ガスの排出量を示しています。温室効果ガスというのは、二酸化炭素 (CO 2 )、メタン、一酸化二窒素(N 2 O)と代替フロン(HFC)、六フッ化硫黄(SF 6 )、 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 3 パーフルオロカーボン(PFC)という呼ばれるものがあります。日本 の場合も、排出 量の多くが二酸化炭素で占められています。これは地球温暖化係数と 言いますが、そ れぞれのガスが同重量あたりに持つ温室効果というのは違います。 ですからこの円グ ラフでは、全てのガスが二酸化炭素の温室効果で換算されています。 各温室効果ガスの排出量(基準年ベース) の割合(日本) 一酸化二窒素 (N 2 O) 2% HFC 2% PFC 1% SF6 1% メタン(CH4) 2% 二酸化炭素 (CO2) 92% 今日お話するのは、HFC(代替フロン)と言われている物質です。 今のところ日本 の排出量の2%ですが、日本は世界の中でも非常に大きな排出国です ので2%でもか なりの量です。HFC というのはオゾンを壊さないフロンだということ で、オゾンを壊 すフロンの 替わりに同じフロンメ ー カーが市場に出してきた代替ガスです。みなさん の身近にある冷媒として多く使用されています。一番多くの量が使われているのはカ ーエアコンです。今の車のエアコンのほとんどが HFC134a というガス を冷媒として使 っています。この HFC というのは、オゾン層は壊さないけれども、地 球温暖化への影 響が非常に大き いガスです。国連の専門家パネルの知見によれば、HFC の地球温暖化 係数は二酸化炭素の 1,300∼3,300 倍です。つまり、1kg の冷媒 は、二酸化炭 素 1.3∼ 3.3t分の温室効果があるということです。 HFC の排出は、日本も含め世界で今後大幅に増えると言われています。今後みなさ んが車を廃棄するとき、冷蔵庫を廃棄するとき、大型の空調が廃棄されるときです。 漏れている場合もあります。日本でも HFC だけで 2010 年には 1995 年の約2倍の排出 量になると言われています。これはかなりの対策、今考えられている対策を全て取っ た上での予測です。 世界ではどうかというと、いろいろな予測がありますが、最も低い予測で、2100 年 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 4 には 1990 年の世界全体の二酸化炭素排出量の約5%分を、HFC で出 してしまうだろ うということです。ですから日本一国の二酸化炭素の排出量と同じよう な効果を、HFC だけで持ってしまうということです。た だ、2100 年というのは 100 年後ですので、議 論として適切かどうかということは別問題です。 地球環境問題を解決するための国際協定はいくつかありますが、フ ロンに関わるも のは二つです。まずモントリオール議定書(1987 年採択)です。これ は「人間がつく り出した夢の物質」と言われたフロンを、人間の手でその生産をゼロ にしていくこと を合意した協定ですが、地球の大気の一部であるオゾン層を国際社会の共有物として 認めるという認識のもとにつくられた国際協定です。従来みなさんがフロンと言って いた CFC はカーエアコンや冷蔵庫の冷媒だけでなく、私たちの生活の あらゆるところ に使われていました。断熱発泡、スプレー缶の噴射剤、電子機器・精 密機器等の洗浄 に使われていました。CFC はモントリオール議定書によって 1996 年 1月1日をもっ て、例外用途を除き、先進国では生産してはいけないことになってい ます。モントリ オール議定書で規制したもう一つのガスが HCFC です。これはルームエアコンなどに 入っています。CFC よりオゾン層を破壊する力が小さいということ で、先進国では 2020 年に全廃が決まっています。では、この二つを代替するものとして 何があったの か。フロンメーカー、そして多くの政府が主張していたのが HFC とい う先ほどの温室 効果ガスだったのです。 世界の多くの国々や関連企業は、とにかく CFC と HCFC というオゾン破壊物質を全 廃 す る に は HFC と い う 代 替 フ ロ ン が 不 可 欠 な の だ と い う 主 張 を 繰 り 広 げ ま し た 。 「HFC は解決の一部なのだ」という主張です。しかし、環境保護団体 は、そうではな い。「HFC は問題の一部なのだ」という主張をしました。当時、もち ろんグリーンピ ースはじめ、他の団体も「それでは HFC 以外に何か代替があるか」と言われると、な かなか自分たちで技術の開発力を持っていませんので、具体的な代替を示すことはで きませんでした。 ドイツの医薬品メーカーでもあり、多国籍企業のフロンメーカーで もあるヘキスト (Hoechst A.G.)社が、リーフレットを約 500 万枚配って「グリーンピ ースは HFC の 使用に反対することによって、世界の子供たちの命と健康を脅かしている」というキ ャンペーンをやりました。それはなぜかというと、CFC、HCFC というのは大きな冷 蔵庫、小さな冷蔵庫、空調機器などに使われてきた、または使われる予定の物質でし た。例えばアフリカなどの国々 では冷蔵庫は健康と命を守るために必要なのですが、 グリーンピースは HFC の生産、使用に反対することで、「冷蔵技術を 使えなくして世 界の子供の命を脅かすということをやっている」という宣伝をしました。今までグリ ーンピースも他の団体も技術を開発するということはなかったのですが、その時初め て技術的ブレークスルーの創出そのものに取り組むことを組織の中で決意したわけで す。 非暴力直接行動で国際協定に影響力 これまでも現在も、グリーンピースはどのような活動をしてきたかというと、①ロ ビー活動といって、直接的に政府や国連や政府間機関などにデータや資料を示して環 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 5 境保全のための行動を要請していく。②調査、報告書の作成。モント リオール議定書 などでは、グリーンピースのような環境保護団体は政府と同じレベル ではありません が、報告書や意見を提出することができ、それが正式な書類に記載さ れて各国に配布 されることがあります。交渉会議での発言も議長の裁量によって政府代表団の前で、 環境保護団体が議論されていることに関してコメントすることが許さ れることがあり ます。③マスコミへの働きかけです。これは非常に重要です。例えば 全国紙の新聞に ちょっとした宣伝を出そうと思うと、何百万円もかかってしまう。も っと大きければ 何千万円もかかってしまう。単純にお金に換算してはいけませんが、活動や主張が記 事になるということは、そのくらい大きなメッセージの伝達力に匹敵するということ です。そして、④非暴力直接行動です。非暴力直接行動によって「問 題の所在はここ です」ということを視覚的に、誰にでもわかりやすいように非暴力的 な手段で示しま す。 直接行動で文字などでは伝わらない問題の大きさと、例えば「ここ が問題だ。この ようなところでフロンという物質が使われている、つくられている、そして運ばれて いる」ということを伝えるために使われます。また、そうした行動をマスコミに写真 を撮ってもらい、それが世界、国内に流されることによって非常にパワフルなメッセ ージを発信できるのです。 オゾン破壊物質 冷媒:HFC 冷蔵 庫 代替フロン 温室効果ガス 発泡剤:HCFC グリーンフリーズ 従来の冷蔵庫 冷媒:CFC 発泡剤:CFC 冷媒:HC (炭化水素) 発泡剤:HC 上図が冷蔵庫ですが、先ほど申し上げましたように日本でも冷媒にはオゾン層破壊 物質(CFC)、これは温室効果ガスでもあります。そして発泡剤にも CFC を使用して いました。囲み内の上と左の丸がオゾン破壊、下と右の丸が温暖化です。ほとんどの メーカーが先進国では代替フロン冷蔵庫に 1993 年頃から移っていきます。今みなさん がマーケットでお買いになる多くの冷蔵庫がまだ上の冷蔵庫です。冷媒は、オゾンは 壊さないけれども強い温室効果を持っている HFC。発泡剤の方は弱いけれどもやはり オゾンを破壊する規制物質が使われていました。グリーンピースがやろうとしたのは、 両方を使わないということです。炭化水素(HC)を、これはたまたま炭化水素だった わけですが、冷媒と発泡剤に使う冷蔵庫を企業に委託して開発したのです。 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 6 炭化水素は 1930 年代まで(フロンが使われる前まで)アメリカなど では冷蔵庫の冷 媒としてたくさん使われていた物質です。非常に効率のい い冷却効果を持つ物質です が、可燃性 という問題があったため便利なフロンに移っていきました。 政府間合意へのNGOの戦略 国際協定 専門家パネル 世界銀行 各国政府 市民 マスコミ 企業 NGO 上の図は、NGO がどのように環境協定の交渉内容に影響を与えてい くかを表わした ものです。必ずしも各国の政府だけに話をしていればいいわけではな く、市民、マス コミ、企業への働きかけも不可欠です。促進しようとする環境保全の技術を市場に出 そうとする企業への働きかけと同時に、そうでない企業に対する働きかけも必要です。 また、この問題の場合、世界銀行も重要なプレイヤーでした。途上国 に問題解決のた めにどのような技術を移転していくのか。実は今でもそうですが、当 初、先進国が出 し合ってつくった基金による資金移転 の約 60%が HFC、HCFC という代替フロン技術 を途上国に移転するために使われていたのです。途上国では1人あたりの所得が上が っていくにつれ、まず各家庭に普及するのが冷蔵庫だと言われています。そのあとに 車などいろいろありますが、そのときに例え1台あたりではわずかな冷 媒であっても、 中国やインドの人口と他用途への影響を考えると、今後途上国での冷 蔵庫の急激な普 及が見込ま れるなかで、冷媒を環境負荷の小さい物質に変えていくということは、非 常に地球環境にとって大きな影響をもちます。 世界銀行の技術移転基準などを決める専門家のパネルがあります。ほとんど私たち の目には見えないところですが、グリーンピースがそこの委員に対して大量の資料と データを提供し、働きかけをした結果、世界銀行が今までは承認していなかった炭化 水素を使った冷蔵庫にも資金を出すという決定をしたことがあります。そうやって、 一見、遠回りに見えるやり方ですが、国際協定の交渉に影響を与えていくということ もやります。 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 7 旧東独の研究所とメーカーから生まれた炭化水素の冷蔵庫 グリーンフリーズのキャンペーンについてご説明します。まず、HF C が非常に高い 温室効果を持つことは 1989 年の国連のレポート、そしてみなさんがよ くお聞きになる IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の 1990 年のレポートで明確に表で示されて います。この頃から環境保護団体は HFC は強力な温室効果ガスである ということで、 HFC を CFC の代 替として選択することに反対していきます。しかし、90 年代初め各 メーカーはヨーロッパも、アメリカも、日本も他に代替がないとして 、代替フロンの 使用に踏み切りまし。 1990 年頃からグリーンピースでは代替フロン以外の技術、環境負荷の小さい代替を 日・米・欧の主要国で探しました。その中で出てきたのがこのドイツ 技術だったので す。炭化水素冷媒の技術を持っていたドルトムント市立衛生研究所(旧 東ドイツ)、そ して断熱材を代替フロンではなく炭化水素で発泡していた旧東ドイツ の大きなメーカ ーであった DKK シャルフェンシュタインという会社を見つけました。 1990 年初め、 この研究所と企業にグリーンピースがお金を出して、世界初めての完全ノンフロン冷 蔵庫をつくらないかという話を持ちかけます。DKK というのは、たま たま東西ドイツ の統合で閉鎖が決 まっていた会社でした。そこにグリーンピースが話を持ちかけまし た。DKK は生き残るために必死で試作機をつくりました。そして、グ リーンピースが 試作機を持ってドイツ全土をまわって、生産前の予約注文を呼びかけた結果、約7万 件の予約注文を獲得します。そして東西の統合後、DKK は民営化してフォロン社とい う会社になりました。 同じ頃、西ドイツのボッシュ・シーメンス、リプファーなどといっ た大メーカー7 社が代替フロンに転換していきます。そのあと、グリーンフリーズは 効率が悪い、危 険である、技術的に不可能であると、大手メーカーが合同で批判を家電販売店に送付 するということもありました。その直後ドイツ政府はグリーンフリーズの商業化のた めに 500 万マルクという大きなお金の支援を決めます。そして、当時 のドイツの環境 大臣テプファー(現在 UNEP 事務局長)が、グリーンフリーズはドイツ 市場において、 「環境面でのバランスにおいて、一番良い冷蔵庫である」という発言を します。そし て翌年2月、ケルンというところで毎年行われる家電の国際見本市で、フォロン社は グリーンフリーズを展示します。まだ小さく冷凍庫もないような冷蔵庫です。それに 対して今まであれだけ反対していた最大手のボッシュ・シーメンス社 が、突然、炭化 水素の冷蔵庫を出してきたのです。この後は急ピッチで商業化が進ん でいきます。 1992 年 12 月にコペンハーゲンで モントリオール議定書の会議があり、同じ会場に グリ ーンピースはグリーンフリーズを展示しました。テレビ朝日と TBS が取材をして、 二つのニュース番組で報道されました。そのときに日本のメーカーの方と通産省の方 がそこにいらして、メーカーの方がテレビのインタビューに答えて「まあ、日本のよ うな冷凍庫付きの2ドアの冷蔵庫は無理であろう」ということと、 「可燃性があるので 爆発する」などということをおっしゃいました。日本メーカーは大型冷蔵庫も無理だ ろうということをおっしゃっていたのですが、その後、ドイツのメーカーは2ドア、 大型冷蔵庫を次々と市場に出していきます。 1993 年4月に中国を含め、日本、チュニジア、インド、ブラジル、アルゼンチンな © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 8 ど各国で現地のグリーンピース支部はグリーンフリーズの展示会を行 いました。その 時は企業を批判するやり方ではなく、企業に是非、日本でもこの冷蔵 庫をつくってほ しいと働きかける方法をとりました。ドイツから3台の冷蔵庫を輸入 して、まだ冷凍 室が中に付いているワンドアでしたが、日本のメーカー向けに、質疑応答がきちんと できるようにドイツの技術者を呼んで、資料を用意しました。日本で はグリーンピー スというと過激な団体というイメージがあり、捕鯨問題などでもあま り評判の良くな い団体なので、私も、4日間展示会をして来て下さるのはうまくいって 10∼20 人だろ うと思っていたところ、4日間で 600 人近くの方が来て下さいました。そのほとんど の方が関連業界の方々でした。いろいろな分野のメーカーや企業でした。多くの来場 者が、ドイツの技術者に「ここはどうなんだ。あそこはどうなんだ」 と質問をして、 冷蔵庫をひっくり返して熱 心にご覧になっていました。ある大手の家電メーカーの技 術者は4日間通い続けたということです。技術者の技術に対する非常 に誠実な姿を垣 間見ることができました。しかし、11 月に日本の家電メーカーは残念 ながら代替フロ ンで冷蔵庫の展開を開始します。 1994 年4月、日本での展示会から1年後に突然、松下冷機が断熱材 の部分だけ、つ まりオゾン破壊物質をまだ使っている部分だけを炭化水素発泡という グリーンフリー ズが使っていた技術に替えた冷蔵庫を発表しました。その直後にシャ ープが真空断熱 という、やはり断熱発泡の部分だけを脱フロン化した冷蔵庫を発表しました。そして 欧州では、ドイツを中心に炭化水素が冷媒と発泡の冷蔵庫がだんだん主流になり始め ました。松下冷機というメーカーは世界の冷蔵庫のコンプレッサーの 約3分の1をつ くっていた会社で、ドイツにもシンガポ−ルの工場から炭化水素対応 のコンプレッサ ーを 94 年 9月から輸出開始しています。 フロンの用途としては、冷蔵庫はそれほど大きなものではありません。 「だったら意 味がないではないか」と思われるかもしれませんが、そうではなく、グリーンピース がやろうとしたのは、 「不可能だと言われていた分野が、企業の技術開 発の意志と政府 の政策の意志によってどれだけ可能になるのか」ということを示すた めのものでもあ ったのです。 途上国における冷蔵庫の技術選択がもつ他用途への影響の大きさもまた、重要な背 景の一つでした。1995 年にはスーパーマーケットの冷凍空調機器に関するキャンペー ンも開始して、イギリスを中心として「スーパーマーケットツアー」 もやりました。 大きなバスにスーパーマーケットの設備を入れてヨーロッ パ中をツアーしました。国 際協定の交渉会議が開かれる場に行って、バスの中に各国政府代表団に入っていただ いて、いかに脱代替フロンが可能であるかということをドイツやイギリスの技術者が 説明するというようなツアーです。何年か後にイギリスのセインズベリー (Sainsbury’s)という大きなスーパーマーケットチェーンが炭化水素冷媒を使ったス ーパーマーケットの店舗をつくり始めます。そして、中国の大手メーカーの QingDao がドイツメーカーとドイツ政府の協力によって炭化水素冷蔵庫の製造を開始します。 ただ、中国は現在代替フロンと炭化水素の両方の路線を取っています。 京都議定書の規制物質になった代替フロン © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 9 そして、1997 年9月には、グリーンフリーズの促進と、途上国が高 いパテントを払 わずに炭化水素技術を無料で使うことができる条件を整えていったと いうことで、国 連環境計画(UNEP)のオゾン層保護賞がグリーンピースに授与され ます。そして、 みなさんご存知の 1997 年 12 月に京都議定書の会議がありました。京都議定書交渉は、 最後は 72 時間程度不眠不休で行われたわけですが、最後まで残った問 題の一つがこれ です。代替フロンを京都議定書の対象物質として入れるかどうか。こ れはモントリオ ール議定書はオゾン破壊物質だけしか扱わないので、モントリオール 議定書に入れる ことができない物質なのです。もし京都議定書に入らなければ、おそらく半永久的に 二つの協定の狭間に落ちて、規制が大幅に遅れる可能性があったのです。これは最後 の瞬間に京都議定書に入りました。 京都議定書の対象物質になったということだけで、先ほど申し上げ た市場へのシグ ナルとなりました。京都議定書というのは6種類のガスの合計で各国 は 2008 年から 2012 年までに何%削減ということが決まっているのです。ですから、日本の ように 10 年後には HFC の排出量を2倍程度認めます。2倍にするくらいは仕方ないでしょうと いう政策を取っている国もあれば、デンマークのように 2006 年で HF C は使用を全廃 する国もあります。スイスも分野によって使用中止を決めています。 国によって対策 が違いますが、京都議定書にこのガスが入ったということだけで、市場 の一部は、 「こ のガスは将来規制される可能性がある」と判断する。つまり議定書の対象物質になっ たことは、環境破壊物質というラベルが貼られたことになるのです。そのような意味 でも市場へのシグナルとしての効果があったと思っています。このあ と、日本ではグ リーンピースは引き続きとくに松下冷機に向けて大規模な消費者キャ ンペーンを行い ました。そして、1999 年には1万人を越える人たちが、「もし、松下 冷機が炭化水素 冷蔵庫を 出したら買い ます」という署名をして下さいました。 2 001 年 11 月に松下冷機が「2002 年2月に出します」ということを発表しましたが、 その直前に東芝が「うちも出します」ということをおっしゃって、去年の1、 2月か ら今は松下 、東芝、日立、シャープ、サンヨー、三菱電機などほとんどの大手メーカ ーが炭化水素の冷媒と発泡を使った冷蔵庫を市場に出しています。松下の場合、今年 の末までには 90%以上の機種を炭化水素冷蔵庫に替えていくということです。今どう なっているかというと、ドイツはほぼ 100%がグリーンフリーズです。世界の市場で は 15%、欧州の市場では 52%、中国の市場では 19%です。これが炭化水素の冷蔵庫 が占めている市場の占有率です。これは松下冷機からいただいた資料の数字です。 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 10 グリーンフリーズ・キャンペーン 専門家 パネル UNEP 欧州 市場 GF ドイツ 政府 MP 世界市場 KP 他分野 の脱フロン (日本メーカーetc) 世論 多国間基金 途上国 世界銀行 市場 脱 フ ロン 社 会 ? その他 の政府 重要な「世の中の流れ」をつくる NGO、市民、消費者、マスコミ 最後ですが、こういったグリーンフリーズのキャンペーンが及ぼした影響は欧州市 場、ドイツ政府、世論、基金、途上国市場、国連環境計画(モントリ オール議定書の 事務局)、専門家たち、その他の政府、そして国際協定にある程度の影 響を与えて、そ して二つの協定もお互いに影響を与 え合って、日本メーカーをはじめとする世界市場 に影響を与え、他の分野の脱フロンも進んでいます。先日、日本の大メーカーが世界 で初めて燃料電池を出しました。メーカーも長い間無理だと言っていたのですが、そ のカーエアコンに HFC ではなく二酸化炭素を冷媒とした技術が搭載さ れています。そ して、スーパーの冷凍、空調、建材の断熱発泡などいろいろな分野で脱 HFC、HCFC、 すなわち脱フロンが現在進んできています。 ただ、ここで気をつけなければいけないのは、今単純化して上記のような図を書き ましたが、もちろんグリーンピースのキャンペーンだけでこのようなことが起きたわ けではなく、もっともっと複雑な要素が絡み合っています。おそらく 一番大きな要素 というのは、メーカーと話をすると必ずおっしゃることですが、 「世の 中の流れで判断 しました」とおっしゃいます。その流れをつくったのは誰か。それは やはり市民、消 費者だったと私は思います。そしてもう一つがマスコミの力。こういったものが重な り合って、こういった一つの流れができ始めているのではないかと思います。 北山 ありがとうございました。後半はみなさんの意見も聞きながら、パネルディス カッションというかたちで進めたいと思います。最初に、今、松本さんの方からグリ ーンピースの脱フロンに向けてのいろいろな活動、取り組みがあり、それを通じて国 際協定をどのように NGO が中心になって動かしていくのか、というお話があったの © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 11 で、今のお話について質問があればまず質問を受けてから、後の討論 に入っていきた いと 思います。それでは今日のお話について質問、意見を出していただきたいと思い ます。 学生 お話の中で、 「 冷蔵庫のフロンというのは環境には非常に影響の 小さなものだか ら」という批判を受けて、 「それは不可能だ」と言われたことをやると いうことに意味 があるとおっしゃっていましたが 、冷蔵庫の フロンではなく他のもっと環境に大きな ものをやったほうがいいのではないかという議論は、グリーンピースのグリーンフリ ーズの運動の中でなかったのでしょうか。 松本 先ほど言いましたように、小さいと言っても途上国等でこれか ら急激に冷蔵庫 の台数が増えていく場合にはそれなりに大きな影響を与えるのですが、確かにカーエ アコンなどに入っているフロンの量、エアコンに入っているフロンの 量と比べると、 冷蔵庫の冷媒というのは 100gや、何十g程度です。ただ、断熱発泡 剤の方はその約 4倍使われているので、冷蔵庫全体としてはそれほど少なくはありま せん。 ご質問ですが、話し合いはもちろんありました。日本のメーカーからも、 「なぜ家電 ばかりいじめるのか。カーエアコンと比べるとほんのわずかではないか」ということ を言われたりもしました。グリーンピースの中で、特にアメリカから 「車そのものの 存在を是とするかどうか」というところで議論が出て、なかなかカー エアコンは難し かったということ、もう一つは冷蔵庫には技術的に可能性の高い代替 方法がすでにあ ったので、不可能ではなく可能なのだということを象徴的に示すのに、冷蔵庫は非常 に良い題材であったということと、ほとんどの家庭が持っているものであることと、 もう一つは消費者自身が市場で選択できるということです。まだいろいろな理由があ るのですが、そのようなことで冷蔵庫が選択されました。家電メーカーというのは非 常に消費者の選択行動に敏感です。消費者の選択が経営に直結していき ます。そして、 冷蔵庫だけでなく他の製品にまで企業イメージが関わってくるので、そのような意味 では消費者の選択がかなり直接的にメーカーの意思決定に影響を与えることができる など、さまざまな理由がありました。 学生 DDP のようなものから始まったのか、もっと他にあるのかもしれませんがあま り知識がなくてよくわかりませんが、薬や化学物質、夢の物質と言われたものが夢の ように悪いことをするという経験をわれわれはたくさんしているわけですが、事前審 査というのか、副作用の問題に関しても新製品が出る前に取り組まなければいけない 時期にすでに来ているかと思います。薬については若干わかりますが、そのような問 題については NGO も含めて誰がどのように取り組んでいるのでしょうか。 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 12 松本 私は不勉強で、ご質問にある活動に取り組む NGO の詳しい活 動はよく知りま せん。フロンもいろいろな意味で夢の物質でした。化学的に安定して いたために、全 てのフロンではありませんが、対流圏では無害な物質でした。ただ、 それが逆に対流 圏で分解しないまま成層圏オゾンまで上がっていってしまって、そこでオゾンを壊す という非常に象徴的な物質です。石油もそうです。非常に運ぶのが便 利で、燃焼効率 も良く、すばらしい物質であったのが、曲がり角を曲がってみると、さ まざまな問題 を引き起こしていた。それが今おっしゃっていた特に化学物質につい て言えることだ と思います。特にヨーロッパでは予防原則が EU の政策の中でも確立しつつあります。 NGO の協力も得ながら EC(European Commission)や、EU 各国政府が予防原則にも とづいた制度づくりは力を入れていると認識しています。 北山 化学物質についても年間数千種が世界で新規の化学物質がつく られている。で すから、その安全性を確認するという体制が大事なのです。日本の場合は化学物質の 審査、規制法があり、あらかじめ爆発性や、一定の危険性のあるもの についてはチェ ックをかけて簡単に製造販売ができないようなシステムを取っていま す。しかし、そ の審査対象になるものはごく限られています。当初安全だと言われて いても、結果的 に危険な物質であったということが明らかになる。それに対してどのように対応する のか。今、松本先生のほうからお話があったようなヨーロッパの予防原則、事前配慮 原則がかなり浸透してきている。一つの対応というのは PRTR という ものです。今は そう危険ではないと思われているけれども、もしかすると 後になって危険性がわかる かもしれない。ですから、多くの化学物質についてどこでどのように生産されて、今 どこにどのようにあるのかということをあらかじめ把握しておこう、もし後で危険性 が明らかになれば即対応できるような体制を整えておこう、という取り組みが進んで いると思います。なかなか人間の知恵は限られたものですので、後に なっていかに無 知であったかということが明らかになるという繰り返しだと思います 。 学生 途上国への技術移転のことについてお聞きしたいのですが、途上国といっても アフリカから中国まで範囲は広いので、例えば中国程度の技術レベルを獲得している 国であれば技術移転もありうると思うのですが、まだそこまでの技術 レベルに達して いないような国にそれ以上の技術レベルの移転を要求してしまうとい うのは、そのギ ャップで今度は途上国側の「今まで先進国は排出してきたのに、なぜそれを今度は自 分たちが批判されなければいけないのだ」という怒りにつながってくるのではないか と思ったのですが、それについてはどのようにお考えですか。 松本 これもまた、たいへん重要なポイントです。短くお答えするのは非常に難しい のですが、当初、途上国は、先進国は贅沢のためにこれまでフロンの消費を増大しつ づけ、その結果オゾン層が壊されている。そして今になって発展途上にある途上国に © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 13 も同じようにフロンの生産・消費を減らせというのは公平ではないと 主張しました。 全く気候変動枠組条約の時と同じ議論がかつて行われたのです。今も おっしゃったと おりで、非常にハイテクの技術をその国の現状を考えずに途上国に単 に移転すればい いという考え方には問題があります。炭化水素冷媒の技術に関して言うと、非常にシ ンプルな技術で決してハイテクではないのです。効率などの点で昔と 比べ大きな進歩 があるのですが、途上国にも非常に簡単につくることができる技術で す。 グリーンピースがオゾン層保護賞を受賞したのも、途上国がすぐに 使えて、つくる ことができる技術を発掘し、普及したという功績なのです。先ほどおっしゃっていた 北と南の問題というのはまた別の問題があるので、今は技術についてだけお答えしま した。 小さな力でも行動することが重要 北山 このあとは、この講義を1年通じて、前期はいろいろな会社のトップの方に来 ていただいて、わが社はこのような取り組みを進めているという話を 中心に聞きまし た。後期はどのような話があったのか思い浮かべていただくと、企業 だけではなく、 環境保護団体や、地域の市民が環境保全のためにいろいろな取り組み を進めてきてい て、それでかなり勇気づけられるというお話もあったと思います。 他の社会問題もそうですが、環境問題というのはいろいろな人の話を聞いて知識が 増えて、それでおしまいという話ではありません。では自分は、いろ いろな社会の取 り組み(企業はこのような取り組みをしている、NGO はこのような取 り組みをしてい るという話)を聞いて、今度は環境保全していくということに自分が どのように関わ っていくのかということが大事だと思います。 そこで、みなさんから意見を聞きたいのですが、この講義を1年 通じ て聞いてきて、 では自分はどのようなことができそうなのか。自分としては今後この ようなことが大 事なのだ、このような方向で自分は活動していきたい、考えていきた い」というよう なことがあれば、是非 発言していただきたいと思います。あるいは「このようにやっ ていきたいということが積極的にはなかなか言えない。むしろそうやっていきたいの だけれども、他方でいろいろな悩みがある」。前回討論のときにも少し出ましたが、そ のような悩みも含めて意見をお聞きしたいと思います。あるいは印象 に残った NGO、 市民のいろいろな取り組み、話を聞いたということについて触れて、 「 あの話はなかな かおもしろかった」というようなところからでもいいと思います。感 動した話もあっ たと思います。 学生 私は今回の授業をずっと取ってきたことによって、環境に対する意識が非常に 自分の中で敏感になりました。小さなことでも家の中で、例えば寝ている間のコンセ ントは抜いてみたり、電気のスイッチをこまめに消したり、シャワーの水を普段より 止めるようにしたりして、小さなことから自分で気になってやるようになって、その ようなことを家族の前でもしゃべるようになりました。時には親から「敏感すぎて怖 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 14 くなったね」と言われるのですが、しかしそのくらいの意識が普通な のではないかと 思います。みんながそのくらい敏感にならなければ、意識が一段上に は全体として上 がっていかないと思います。ですから、一人ひとりでもいいので身近 なことでもやっ て続けていけば、小さい力だから影響もないし止めようというのではなく、ぶつぶつ 言っている間にも自分は何か貢献している。「行動すること」が大事だと思いました。 北山 なかなか大学の講義で「自分の考え方や行動が変わる」という講義はあまりな いと思うのですが、そのような影響が与えられたとすれば成功だったのではないかと 思います。他にはどうでしょう。 学生 私は環境のことを考えていて、生活のスタイルなどで環境に負 荷をかけない生 活をしていくというのが、一人ひとりができる一番基本的なことだと思います。では、 自分の生活を振り返ってみたときに、例えば買い物のときに袋をもら わないなどとい うことから意識してやっていったのです。ビニールの包装などが いやで、自分では必 要ないのに商品として売っている時点で過剰に包装されているもので、その商品がほ しくなった場合に買わざるを得なくて結局ゴミを出してしまうということが多くあり ます。これは、買う方で包装の少ない方を選ぶということも大事なのですが、やはり 企業のほうで必要のないものは減らしていく努力をしてほしいと思い ました。 北山 生活者、消費者としては、商品の中身がほしいわけで、外の入れものはほしい わけではない。ですから、そのような全体的な見直しが必要だという意見でした。最 近では、家電製品でも余計な機能がたくさん付いてそのぶん値段が高くなってしまっ ているというものもありますが、消費者としては「何を自分が一番求 めているのか」 というところに視点を置いて、余計なものは「これは余計なのだ」と いう声を上げて いくということも、身の回りから確認して声を上げていくということも、大事なので はないかと思います。 学生 1年間この講義を聞いてきて、企業と個人、NGO、NPO の働き かけというのが すばらしいと感じたのですが、それに反して日本の政府、特に環境省の力の弱さ、特 にヨーロッパに対して働きかけがまだまだ弱いのではないかと思いました。それで、 もし政府の方に要望があるとすると、 「これからこのように変わってほしい」というこ とがありましたら伺いたいと思います。 北山 先ほどのグリーンフリーズのドイツ政府の動きを見ても、日本の政府の動きは 鈍いのではないかという印象を受けたと思いますが、果たしてそうかということも含 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 15 めてどうでしょうか。三橋先生の方から、今の点についてどうでしょうか。 すすんで問題提起をしていこう 三橋 1年間やってきて最後の講義になるのですが、みなさんの感想 や問題指摘を毎 回丹念に拝見させていただきました。その中には相当鋭い問題点の指 摘があり、感心 することが多かったのですが、同時に全体として知識として学んでい るという感じが 強く、わりと問題の細部にわたっ た質問が多 くありました。自分の生き方や、将来の 地球と寄付講座との関係などについてどう思うか、というような点についての問題点 が少なかったのではないかと感じました。 今のご質問でもそれを感じるのですが、企業に「このようなことを すべきである」、 「包装の少ないようなものを、企業はわれわれに提供してくれなければ いけない」、 「政 府がもっと積極的にリーダーシップを取らなければいけない」という ようなことを、 いろいろと指摘することは大切ですが、それ以上に「自分はこうする」という、例え ば先ほどの包装の件で言えば、ものを買った現場で「なぜ包装が多い のか」という議 論をしていますでしょうか。結局、企業がもっと過剰包装を止めてく れればいい、政 府がもっとリーダーシップを取ってというかたちで、やや自分の生き 方と距離をおい て問題を議論しているのではないかいうところが気になります。 「自分はとにかくできる範囲でこのようなことをやる」、「このような問題点につい て質問してみよう」というような問題提起がほしいので す。ヨーロッパの場合で言え ば、地域住民の意識が非常に高い。そのような地域住民の意識を反映 して地方自治体 が手を組む。それを政府がバックアップするというようなかたちを取 ります。 脱フロンについても、政府がまず言い出すというよりも、グリーンピースを中心と した市民運動の中でそのような流れをつくってきて、それを政府がサポートするとい うような政策決定のメカニズムが、これからは必要だと思います。 そのような点で言うと、他人事ではなく自分の問題として、疑問に 思ったことを自 分たちの日常生活の場で問題提起してみるということ、そのような経 験や感想が、み なさんが毎回出してくれる感想文やレポートの中でもっと見られれば、この講座を1 年間やった効果があったのではないかと思っていたのですが、やや距離があるのでは ないかと思いました。 環境省が国民の環境意識を調査します。そうすると、今や9割程度 の人が「自分は 環 境に興味を持っている」と答えます。しかし、そのような意識を背景とした行動は どうか。買 い物の行動、あるいは環境問題に対して「自分はこのようなことをやって いる」というような実行性の問題になると非常に低いのです。ヨーロッパなどは、こ の意識と行動の乖離が少ないのです。そのようなこととも、やや関連しているのでは ないかという感じも持ちます。やはり自分の問題なのです。 「 政府がこうすべきである、 企業がこうすべきではないか」と言うことは簡単ですが、その前に自分で問題提起を どんどんしてみるということが、地球環境問題を考えていく原点ではないかと考えま す。 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 16 北山 結果的に企業のありよう、政府の政策立案の強力さ、機能は大 事だ。しかし、 それを動かしていくのは一人ひとりがどのような意識を持つのかとい うところにかか っているということだと思います。ドイツでも、一人ひとりが自分の持っている冷蔵 庫、買おうとしている冷蔵庫に代替フロンが使われていて、それが環 境を悪化させる とわかれば、 「自分はそのようなことはしたくない。したくな いので代替品をメーカー はつくってほしい」という要求が高まったところで政府も動くし、企業も動く。ある いはそこに着目して NGO が取り組みを進めるということだと思います。 学生 知識ではなく実行として何をやっているかということですが、 高校生のときに 環境問題に興味を持ち始め、NGO 団体に足を運んで具体的に何をやっ ているのかを見 てきました。基本的にはゴミ拾いなどけっこう小規模なことで、民間 レベルで大規模 な地球環境問題には影響を及ぼさないのではないかと思っていたのですが、母も環境 問題に興 味を持っていて、最近、有害化学物質について訴えているレイチェル・カー ソンの本に影響を受けています。その映画を市内で上映したのですが 、そうしたらか なり反響があり市内の新聞でも取り上げられて、民間の中にも有害物 質の意識が芽生 えたので、私も知識を正確に知ると同時に、周囲に知らせるということも大切だと感 じました。 今度は質問です。オゾン層破壊とは別なのですが、環境問題の一つ として水質汚染 についての質問です。私はある発展途上国に行ったことがあるのです が、水質問題の ひどさに驚きを持 ちました。また、技術レベルでも水質問題を改良するようなものは、 現段階ではないと思いますし、これはどのように解決していくのかということを強く 思いました。今もしグリーンピースなどで、発展途上国の水質問題について何か活動 をしているのであればお聞かせ下さい。また、グリーンピースではな くても何かの研 究で水質問題について解決のめど、 「考えている、研究している」とい う教授がいまし たら、教えて下さい。 北山 日本は川や海がかなりきれいになりました。先進国では共通して、1970 年代に 比べれば空もきれいになったという話です。しかし途上国など工業化 をどんどん進め ている国を見てみると、大気汚染もひどいし、水質汚染もけっこうひ どいというよう な 状況があります。これをどうすればいいのか、国際環境 NGO はどのように取り組 んでいるのか、というところに関心があるということですが、情報等があればご提供 下さい。 松本 ライン川など先進国で環境 NGO が水質汚染に取り組んだ例はいくつもあるの ですが、途上国では(私も先日インドに行ってそのひどさを痛感したのです)、環境 NGO よりもむしろ開発 NGO と言われる人たちが取り組んでいるのではないかと思い © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 17 ます。三橋先生ご存知であれば教えて下さい。 三橋 ここに平野さんがいますので、 「世界水会議」が一つのいろいろな問題提起をし てくれるのではないかと思いますので説明して下さい。 平野 B-LIFE21 の事務局をやっている財団法人地球・人間環境フォーラムの平野と申 します。今、三橋先生がおっしゃったのは、 「世界水フォーラム」という大きな会議が 3月に大阪、京都、滋賀であります。今までの講師のお 話にもあったと思いますが、 21 世紀の最大の資源問題が水問題で、「淡水のきれいな飲み水をどう やって確保する か」ということが、地球上のたいへんな課題です。そのようなテーマ が、この水フォ ーラムでは国際社会がこぞって集って、論じられます。 今のご質問ですと、もう少し身近で水問題に取り組んでいるケースがないかという ことですが、今回この講義に はご出席いただけなかったのですが、墨田区で、雨水を 利用して都市の洪水も防ぐし、都市に必要な防火用水にも利用するという活動をして いる行政の方、住民の方がいらっしゃいます。雨水を利用する取り組みのノウハウが かなりの発展途上国で受け入れられているという事例がありますので、その辺を是非 研究していただければと思います。 北山 日本でも国際的な環境に関わるような会議、シンポジウム等があちこちで開か れるようになっていますので、そのようなところに参加していくことも、市民、個人 の行動として大事だと思います 。日 本で会議をやってもあまり人が集まらないという ことになると、市民レベルで「いったい、日本というのは環境問題を どう考えている のか」ということにもなりかねないと思います。 松本 途上国の水問題に関しては、それぞれの国の NGO がいい活動をやっている例 がたくさんあると思います。むしろ国際 NGO や先進国の NGO は、先 進国の前例のデ ータを送ったり、ノウハウや技術 を移転するといったその国の NGO の支援という形 をとることが多いのではないでしょうか。東南アジアやインドなどの発展途上国の NGO は、環境分野において実に活発です。 北山 最初の趣旨に戻して、講義を聴いてきて、 「自分はこのようなことをこの講義か ら学んだ。それでこのように行動していく、取り組んでいく」というようなことがも しあれば、発言してほしいと思います。 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 18 学生 この講義ではないのですが、他の授業で生態学という授業があ り、そこで生ゴ ミを堆肥化する運動をしていらっしゃる先生がいて、私も自分が出す 生ゴミだけは、 部屋の中でできる方法があるので自分で堆肥化し て、畑で野菜をつくったりしていま す。そのようなことを広げていければいいと思っています。 悩みもあります。そのようなこと をしながらも、私はバイクが好きなのです。バイ クは多量の二酸化炭素を出します。しかし、それが電気バイクになっても私は乗らな いと思います。そのような矛盾が悩みです。 北山 矛盾しているのが人間なので仕様がないと思いますが、一方で 環境保全が大事 だという意識を持ちながら、しかしやはり物質文明の豊かさになれた ところもありま すし、そのような中で欲求、欲望が次々に開発されてきて、それも内 部に持っている のが人間ですので、簡単に環境保護が大事だからといってそちらの方 向に進むわけに もいかない。やはり経済の活動なり、社会のさまざまな活動を環境保全とをどのよう に調和させてい くのかという、大きな枠の中で問題を考えていかなければいけないと 思います。個々の取り組み、個人の生活をどのように環境保全型に意識的に取り組む のかということは大事ですが、やはり経済全体との関わりで考えていくということも 大事だと思うのです。藁谷先生、その辺でご示唆をいただければと思いますのでよろ しくお願いします。 藁谷 経済全体との関わりというこことですが、私は今までできるだ け経済学との関 係でいろいろ発言をしようとやってきて、あるいは限界について話をしてきたのです が、今日、松本さんの話を聞いてよかったと思います。学生のみなさんが自分たちの 取り組みについて考え、そしてそれが一体どのような社会 運動として社会を変える、 あるいはわれわれの生活を変える、そのときの NGO の役割について 今日はお話いた だいたわけです。NGO が企業を立ち直らせ、そうしたキャンペーンを 通じて消費者の 行動を変える。われわれの生活そのものを変え、あるいはもっと大きく言うと社会を 変える。そうした動きについて今日お話をいただきました。 今日の話で、予約注文を呼びかけ、キャンペーンをし、約7万件の 注文を集めたと いうことですが、この数字に注目 してこの意味を考えたいと思います。 私はちょうどこの時期にベルリンにいました。今日はケルンの見本 市の話をされま したが、私はライプチヒの見本市に行きました。その当時、私は旧東独の経済、企業 はどのように立ち直っていくのかということに関心を持ってベルリンにいたのです。 ライプチヒの見本市というのは、旧東ドイツの外に対して自分たちの技術の優秀さを 示す最も大切な見本市でした。ですから、旧東ドイツにおいては、社会主義統一党 (SED)の元党首ホーネッカー氏がじきじきに来て、まず開始を宣言して始まるとい うようなものだったのです。 1989 年に壁が崩れて、1992 年のこの時期というのは非常に東側が混乱していた時期 で、ライプチヒの見本市もようやくまた再開にこぎつけた。しかし、実際にそこに行 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 19 ってみると、つぶれそうな会社がさえない製品を並べている。西側の 製品に比べてさ えない製品が並べられていたのですが、その中に DKK の冷蔵庫も隅 のほうにあり、 非常に注目を集めていました。しかし、見るからにさえないのです。 つまり、われわ れが見ている冷蔵庫というのは2ドア、3ドアが当たり前なので、そのような目で見 るとどうしてもさえない。しかし、さえないけれども、その技術が今 までわれわれが 抱えている問題を大きく変える、あるいは今までのものと取って代わ るものであると いうことは知っていました。ただ、 「本当にこの会社はこれで大丈夫な のか」というの が正直な印象でした。環境団体が後押しているのですが、NGO がそのように積極的に 関わっていることについては知りませんでした。ところが、そのようなときに7万件 の予約で注文を集めた。これはその当時の状況にすると、 「 東ドイツの製 品はさえない、 だめなもの、遅れているもの」と思っている中で、7万件の予約を集 めた。しかもそ れぞれ家には冷蔵庫が入っているのです。それをこれに買い換えよう 。それも東の製 品に買い換えよう。これはやはり一つは、NGO の役割としてキャンペ ーンなどで消費 者の行動を変えるということもありますが、もう一つはやはり、消費者の環境に対す る意識があり、これが7万件という本当に短い、非常に混乱した時間 の中で予約注文 を集めたということで、われわれはそこに消費者の意識の問題として の高さを見るわ けです。私が何度も繰り返して強調してきたことですが、われわれの 経済の仕組みの 基本、これはいろいろな不都合がある。しかし、その基本を支えるものとしてコモン センス(共感)、あるいは共感の原理というものがあり、そうしたものでわれわれはど のように環境についての共感の原理というもの、つまり反するものを排除するような 共感の原理をつくっていくのかということを何回も議論しましたが、つまりそうした 共感、消費者が持っている環境意識の高さについて改めて感じました し、われわれは そうした高さをどのようなかたちでこれから形成していくのかということを今日は改 めて考えました。 北山 この中に、ノンフロンの冷蔵庫を買おうと思った人はいますで しょうか。私は 買おうと思って買いましたが、高いのです。同じ会社の、同じ性能、同じ型でいうと 5万円程度高いのです。環境にいいものが高いというのはおかしいと思います。自分 は環境にいいことをしようと思っているのに、それが高くつくという のはおかしいと 思うのでみんなで「おかしい」と言いましょうという気がします。一 人ひとりがそう やって声を上げていくという中で、共感というものが形成されていく のだろう。それ によって経済が動いていくのだろうと思います。時間がきましたので三橋先生、松本 先生、一言あればお願いしたいのですがどうでしょうか。 三橋 非常に身近なお話をしたいと思います。私は大学に行くときに総武線に乗って います。総武線に三菱電機の「霧ヶ峰」という省エネエアコンの宣伝文が書いてあり ました。昨年(2002 年)12 月初めに「エアコンは電気代が高いから付けっ放しはだめ なんて昔の話ね」というコピーでした。藤原紀香のにこやかな顔が載っていました。 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 20 それを見て非常に腹が立ちました。 みなさんはどう考えるでしょうか。省エネエアコンを開発したので 、電気のつけっ 放しをしてもかまわない、つまり電気のつけっ放しを奨励しているわ けです。そこで 私は同社の社長に手紙を書き、速達で投函しました。 「 三菱電機は省エネエアコンの『霧 ヶ峰』を開発したのは立派だけれども、この広告は電気のつけっ放し を煽るもので三 菱電機という会社のイメージを損なうのではないか」という内容です 。そうしました ら、翌日、宣伝部長が私のところに電話をしてきて、 「ご指摘のとおり ですので、早速 変えます」ということでした。電車の中には約 6,400 枚が貼ってあります。それを変 えるのに3∼4日かかるのでご了承下さいということで、翌週、私が総武線に乗りま したら、もう変わっていました。そのコピーは「エアコンは電気代が高 い・・・54%(本 社調べ)という矛盾を霧ヶ峰は解消します」というような意味のコピ ーでした。そこ で私は、自分の大学のウエブページで出している環境コラムで、 「この ようなことで三 菱電機の対応は非常に早く、社長からもすぐに速達で私のところに手 紙がきました。 それで実際にそのコピーを変えました。ということで、評価はできるけれども、大学 の教師としてそのコピーを採点するとすればとても A はあげられませ ん。C がやっと です」とい うことを書きました。それを見たのでしょうか、今年(2003 年)1月初め に大学に行くときに総武線に乗ると、またコピーが変わっていました。 「霧ヶ峰は今年 も、来年も、再来年も、エアコン全身で省エネのことを考えます」というような内容 になっていました。それで私は、次の環境コラムの中で、今度は A をあげてもいいと 書きました。 そのようなことで、時代は変わってきたという感じがします。大き な会社のトップ がすぐに反応してくるというようなことも、今回初めてやってみてわ かりました。も ちろん反応の鈍い企業もあると思います。そのようなことで、是非みなさんも日常生 活の場で「これはおかしい」ということがあれば直接抗議をしたり、手紙を書いたり ということをやってみて下さい。無視されることも多いと思いますが 、昔よりも反応 する企業が増えています。世の中どんどん変わっています。そういっ た市民レベルで の行動が企業や行政を変えていくわけで、その逆ではないということ をこの1年間の 講義を通して考えていただければありがたいと思います。 松本 地球環境問題に取り組むときに、 「これこそ地球環境問題へ の取組なのだ」とい うものは決してありません。私がみなさんに一点だけ強調したいのは、各々が現場を 持っていただきたいということです。これは私の尊敬する先生方からいつも言われる ことなのです。現場というのは決して熱帯林などのような現場だけを指すのではなく、 先ほどおっしゃった生ゴミの堆肥化でも、本質的な問題解決には何が必要なのかとい うことを常に見据えながら自分なりの現場を持つ。そうすると、地球温暖化問題をや っている人も、地域の水問題をやっている人も、おそらく同じ環境問題の構造が見え てくると思います。是非そのことを言っておきたいと思いました。 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 21 北山 時間がきましたので、これで終わりたいと思いま す。1年間の授業にいろいろ とご指導いただき、三橋先生ありがとうございました。 © B-LIFE21 2003 早稲田大学寄附講座 22
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