楕円のビリヤード

楕円のビリヤード
友田勝久
2014/06/27
楕円形のビリヤード台があるとき,そこで打った球はどのような軌跡を描くだろうか?
よく知られているように,2点 F , F'を焦点とする楕円上の任意の点 P において,2直線 PF , PF'と
点 P における接線のなす角は等しい。このことから,焦点に置いた球は,どの方向に打っても,もうひ
とつの焦点に向かう。
P
F
F'
F'
F
では,焦点以外の点に配置した球を,焦点を通らないように打った場合,どのような軌跡を描くだろ
うか。
初期条件によって軌跡は異なるが,包絡線として,もとの楕円と焦点を共有する楕円もしくは双曲線
が得られる。
R
F'
F
F'
P
F
P
R
R
R
F'
F
F'
F
P
P
つまり,焦点を通らない球は,もとの楕円と焦点を共有するひとつの2次曲線に接するように転がって
いく。
以下では,楕円と双曲線は,焦点を共有するものとする。
T
(命題1)
「双曲線上の2点 M,N における接線が,楕円の周上で
F'
交わるとき,この交点を T とすれば,2直線 TM,TN が
F
N
M
点 T における楕円の接線となす角は等しい。」
これには上図以外にもいくつかの場合が想定できるが,い
T
ずれの場合においても,楕円や双曲線の接線の性質から,
命題1と次の命題2は同値である。
F'
(命題2)
F
N
M
∠FTM = ∠F'TN
(命題2の証明)
2点 M,N は,点 F,F'を焦点とする双曲線上にあるから,
MF'MF  NF  NF'
T
が成り立つ。よって,
MF' NF'  MF  NF
であるから,補助定理2より,四辺形 FMF'N はひとつの円に傍
F'
接する。
F
N
M
また,双曲線の接線の性質より,直線 MT , NT はそれぞれ ∠
FMF',∠FNF'を二等分するから,点 T は傍接円の中心である。
ここで,図のように接点を P , Q , R , S と定めると,
FTM  PTM  PTF
 1 (PTR  PTQ)
2
1
 QTR
2
同様にして, F' TN  1 QTR
2
であるから, FTM  F' TN
(証明終)
T
P
S
F'
R
N
F
Q
M
Ⅰ.(円に外接する四辺形の性質)
(補助定理Ⅰ)
四辺形 ABCD がひとつの円に外接するための必要十分条件は,向かい合った2組の辺の長さの和が等
しいことである。すなわち,
AB  CD  BC  DA
(i)
( ii )
A
A
S
S
P
D
P
O
O
B
Q
R
R
D
C
Q
C
B
Ⅱ.(円に傍接する四辺形の性質)
(補助定理Ⅱ)
四辺形 ABCD がひとつの円に傍接するための必要十分条件は,隣り合った2組の辺の長さの和が等し
いことである。すなわち,
AB  BC  CD  DA
(i)
もしくは, BC  CD  DA  AB
A
C
A
S
Q
B
P
( ii )
D
D
B
R
O
上左図では, AB  BC  (AP  BP)  (BQ  CQ)
 AP  CQ
 AS  CR
 (AD  DS)  (DR  DC)
 AD  DC
C
Q
R
P
O
S
Ⅲ.(楕円の接線の性質)
T
楕円上の点 P における接線 ST をひくと,
Q
P
R
F1PS  F2 PT
S
が成り立つ。
(点 F1 , F2 は焦点)
<証
明>
F2
F1
接線上の(点 P と異なる)任意の点を Q,線分 QF2 が
楕円と交わる点を R とすると,
QF1  QF2 = QF1  QR  RF2 > RF1  RF2 = PF1  PF2
これは,「点 Q が接線 ST 上を動くとき,2点 F1 , F2 からの距離の和 QF1  QF2 を最小にする点は,接
点 P である」ことを示している。このことから, F1PS  F2 PT は成り立つ。
Ⅳ.(双曲線の接線の性質)
P
双曲線上の点 P における接線 PT をひくと,
Q R
∠F1PT = ∠F2PT
が成り立つ。
(点 F1 , F2 は焦点)
<証
F1
F2
明>
T
接線上の(点 P と異なる)任意の点を Q,半直線 F2Q
が双曲線 と交わる点を R とすると,
QF2  QF1 = RF2  RQ  QF1 = RF2  ( RQ QF1) < RF2  RF1 = PF2 PF1
これは,「点 Q が直線 ST 上を動くとき,2点 F1 , F2 からの距離の差 QF2  QF1 を最大にする点は,
接点 P である」ことを示している。このことから,∠F1PT = ∠F2PT は成り立つ。
補足(距離の差 QF2  QF1 を最大にする点)
F1 '
直線 l に関する点 F1 の対称点を F1' とすると,
QF2  QF1 = QF2  QF1' ≦ F2F1'
より,点 Q が直線 F2F1'と直線 l の交点(図の点 P)に
P
Q
F1
F2
あるとき,QF2 QF1 は最大になる。
l