※マテリアルライフ学会第 23 回研究発表会(2012 年 7 月 5 日・6 日)予稿集からの再録である。 ASAP-TOF MS 分析法によるプラスチック材料加熱脱離成分の分析 群馬産業技術センター ○徳田敬二、和田智史、宮下喜好 【緒言】 近年、質量分析のイオン化法として登場した大気圧固体分析プローブ(ASAP:Atmospheric Solids Analysis Probe)は、揮発性や半揮発性の有機化合物類を、加熱窒素ガス(最大 500℃)を使用して気化 させた後、コロナ放電によりイオン化させ質量分析装置に導入する仕組みとなっている。 フラグメントが発生しにくいソフトなイオン化であるため、分子そのものの質量情報を精密に測定す ることが可能である。従来のイオン化法にはない ASAP の利点は、ガラスキャピラリの先端に付着させ ることができればそのままイオン化部に導入できるなど、サンプルの調製が容易であることである。さ らに、飛行時間型質量分析(TOF MS:Time-of-flight Mass Spectrometry)を用いれば精密質量測定による 質量分離が可能であるためクロマトグラフィーによる分離を必要とせず短時間で分析が可能である。 ASAP によるイオン化の概要を図1に示す。 今回、ASAP-TOF MS 法による加熱脱離成分分析をポリスチレン(PS)樹脂の劣化解析へ応用するこ とを検討した。市販 PS 樹脂材料は、ベースとなるポリマー材料や改質材料の他に、酸化防止剤、光安 定剤、難燃剤、帯電防止剤などの性能や機能調整のために各種添加剤が添加されており、成形性を向上 させるために滑剤が添加される場合もある。しかしながら市販樹脂材料の場合、グレード毎の詳細は開 示されない場合が多いので、 劣化解析の際には、 改質剤や添加剤の確認も解析作業の一環となっている。 ASAP-TOF MS 法でこれら改質剤や添加剤の確認およびポリマー材料の分解物を短時間で分析すること が出来れば PS 樹脂の劣化解析に役立つことが期待される。そこで、本研究では、ASAP-TOF MS 法を用 いた PS 樹脂材料のいくつかの分析実験を行ったので報告する。 【実験】 装置は、Waters 社製の飛行時間型質量分析装置 LCT Premier XE (財団法人JKA補助事業により導入) ASAP を用い、試料導入は ASAP 法により、加熱窒素ガス を 100 ℃から 500 ℃まで昇温して行った。 測定モー ドはポジティブモード、質量の校正にはギ酸ナトリ 加熱窒素ガス ウム溶液(2-プロパノール / 水(90 / 10)9 mL+10 % ギ酸水溶液 0.5 mL+0.1 M NaOH 水溶液 0.5 mL)を MS検出器へ ガラス製キャピラリ + + + ++ 用いた。元素組成推定は、データ解析ソフトウェア コロナ放電 MassLynx(Waters 社製)により行った。 PS 樹脂の熱劣化の挙動を調べるために、分子量測 図 1.ASAP によるイオン化の概要 定用 PS 標準物質(重量平均分子量 860K)の未加熱 品及び 250 ℃で 2 時間加熱したものを測定試料とした。 測定試料10 mg をテトラヒドロフラン(THF) 1 ml に溶解し、この溶液をガラスキャピラリの先端に付着させ THF を蒸発させた後、装置イオン化部に導入 した。 Keiji TOKUDA, Satoshi WADA, Kiyoshi MIYASHITA - 89 - ※マテリアルライフ学会第 23 回研究発表会(2012 年 7 月 5 日・6 日)予稿集からの再録である。 【結果】 分子量測定用 PS 標準(分子量 860K)の(a) 未加熱品と(b) 空気中 250℃で 2 h 加熱した試料(加熱品) より得られた ASAP-TOF MS スペクトルを図 2 に示す。(a)未加熱品には、質量電荷比(m/z)= 220.1858 の質量スペクトルが明瞭に検出され、組成推定の結果、酸化防止剤のジブチルヒドロキシトルエン (C15H24O)であることがわかった。また、(b) 加熱品からは、m/z = 225.0970, 329.1549, 433.2233, 537.2811, 641.3423, 745.4064, 849.4754, 953.5406, 1057.6036 等 の質量スペクトルが明瞭に検出され、組成推定の結 果、 PS の酸化分解物である[ (C8H8)n O + H]+ (n = 2 - 19)であることが解った。また、PS の非酸化分解物 である[ (C8H8)n + H]+ の存在も確認することができた。 このように、ASAP 法はイオン化可能な物質の幅が広く、ASAP-TOF MS 法により、PS 樹脂材料中に 微量に含まれる酸化防止剤や各種分解生成物の部分的同定分析が可能であることが確認出来た。 m/z 図2 分子量測定用 PS 標準(分子量 860K)の(a) 未加熱品と(b) 空気中 250℃で 2 h 加熱した試料(加熱品)より 得られた ASAP-TOF MS スペクトル - 90 -
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