佛教大学総合研究所共同研究 研究計画書 テーマ:「法然仏教の多角的研究」 <研究目的・研究 研究目的・研究計画 目的・研究計画> 計画> この研究は、佛教大学の建学精神である、仏教思想としての法然思想について、文 献研究の基礎の上に立ち、歴史的、文化的、社会的観点を総合した多角的なアプロー チを通じて、事実として現世に出現した法然の人物像と、法然仏教の宗教性・画期性 を明らかにし、広く一般社会に発信することを目的とする。 ① 学術的背景 佛教大学は、浄土宗僧侶の養成を目的とした学問所が原点である。それゆえ本学の 学部構想はすべて、仏教に基づく有為な人材の養成が基盤である。また浄土宗開祖法 然の思想の解明を離れて本学の社会的存在意義を語ることはできない。 法然思想は世界に発信すべき内容を具えている。例えば法然出家の動機となった父 の遺言は、仇討が常識であった時代において、それを断念して出家せよという、怨み の連鎖からの決別であった。今日の世界情勢を鑑みれば、正に怨みの連鎖決別への導 きこそ速やかに実現せねばならない。 しかし法然の思想研究がなされ、普及しているかといえば、甚だ心許ない。原因の 一つは、法然思想書『選択集』において、廬山寺所蔵の草稿と言われる写本、當麻寺 奥院所蔵の元久元年写本、鹿ケ谷法然院所蔵の延応元年版本という、現存最古の写本 版本が存在するにも関わらず、いわゆる法然真筆ではない上に、それら三本の文字の 出入りが著しく、いずれを以って正しく法然の『選択集』完本とすべきか決定できず、 さらにそれらを校訂しても定本確定が困難な状況である。そういう状況を省みないで 研究されてきたために、注釈書や研究書が多く存在しても、いわゆる砂上の楼閣とい う現況は否めない。この視点から、廬山寺本『選択集』の全容を解明しようと試みら れているが、『選択集』定本確定にまでは至っておらず、その作業が必要であろう。 そのまた社会的認知度においても親鸞・日蓮・空海といった日本仏教の祖師に比べて 劣っている現状にある。 つまり法然の自筆文献の稀少性が問題となる。法然自筆の文献と確定できれば、そ れが法然思想と判定できるわけであるが、それが望めない以上、現存する写本版本や、 弟子の伝承の中から原本たる法然文献の比定、定本の確定、そして確固たる法然思想 にたどり着くことが必要である。現在までの浄土宗学は、近年そうなりつつあるが、 未だ十分とは言えず、散逸する法然関係文献(写本版本)の蒐集とその解読作業が急 務なのである。 ②何をどこまで明らかにするのか 法然思想を歴史的、文化的、社会的な側面を含めて多面的、総合的に実像を解明す るとともに、その成果を一般社会へ発信し、もってその重要性を周知せしめることは、 法然研究の主要な一翼を担うべき本学の使命として極めて重要である。この視座にお いて、本研究では、以下の三部門に分けて研究を進める。 第一部門 『選択集』『和語燈録』を中心とする法然、および周辺宗教者の教 義解明 第二部門 浄土宗二祖聖光、三祖良忠等、浄土宗の思想的伝統の研究 第三部門 浄土宗における、伝法の研究 この三部門を中心テーマとして文系の研究方法の基礎である、文献研究を踏まえ、各 分担者が三部門の研究を達成するために、その関連する重要文献の解読・翻訳作業を7 班設置し、それぞれ研究員を配置して作業を進めたい。 1 法然文献班 2 『逆修説法』班 3 『摧邪輪』班 4 門下班 5 『往生要集鈔』関係班 6 中国関係班 7 伝宗伝戒班 これらの班はそれぞれ、関係文献の蒐集、画像データの保存、解読・翻訳作業、注 釈を付し、法然思想解明の礎とする。また、それぞれ班の作業を進めながら、三部門 の研究テーマに沿って、多角的に研究を進めていくこととなる。 ③独創的な点 これら作業班の手掛ける文献はすべて、今までに紹介されていない文献、諸本対照 本や訓読、現代語訳がなされていない文献、あるいは、蒐集さえなされていない文献 もある。その点で独創的である。また、従来、浄土宗学や法然教学は、『浄土宗全書』 や『昭和新修法然上人全集』というような、その時代における研究成果といえる活字 の全集本によってなされてきたが、高い画素数によるデジタル画像で、貴重な文献で も、限りなく原典に近い形で文献が参照できるようになってきた。そういう状況の中、 研究成果の見直しや、活字によらない、すなわち原典か、もしくはそれに近い文献に よっての解読作業が可能になってきた。これによる新たな法然仏教の研究が、これま でにない独創性を持つといえる。 ④期待される成果の結果と意義 なすべき課題は山積しているが、これらの研究が進められる結果、法然の正確な思 想に限りなく近づき、念仏による衆生救済の実像が解明されることとなろう。もちろ ん、これらの作業は、そのすべてを解明する途上であり、解読・現代語訳すべき文献 は無限にあるといわねばならない。それらすべての解明に、果敢に立ち向かうための 端緒とも言うべき作業であり、この研究が進められれば、その方法論の構築と手法が、 今後の研究者への道標ともなることは大変意義深い。
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