卵巣癌の治療[PDF]

当院における卵巣がん治療指針
卵巣癌の疫学
患者数
長期生存率
毎年約8000人と推計
増加傾向にある
5年生存率:約30%
10年生存率:約10%
組織型
好発年齢
非常に多彩な組織型
40歳台後半より増加
50歳台が最も多い
危険因子
未婚・未妊娠・不妊など
卵巣癌・乳癌・子宮体癌・大腸癌
の家族歴に注意
卵巣癌の診断
症状
診断
無症状のことが多い
他科で発見されることも多い
(例)腹部膨満感、食欲不振
排尿障害、腹水
内診、超音波、腫瘍マーカー
MRI、CT(造影が望ましい)
腹水、胸水の細胞診
疑わしきは手術で確認
確定診断は手術標本の病理検査
手術の適応
• 腫瘍性か非腫瘍性かの鑑別
- 画像診断、月経周期に伴うサイズの変化などから
• 腫瘍性である場合→手術適応の検討
- 大きさ、増大傾向、各種画像検査、腫瘍マーカーを参考に
• 手術適応の場合は悪性と良性の鑑別を
- 術中迅速病理検査をすることが望まれる
(Ⅳ,B)
手術療法の目的
1.卵巣腫瘍の確定診断と良悪性診断を行う。
2.悪性腫瘍ならばその組織型と進行期の確定
(surgical staging)
3.病巣の完全摘出または最大限の腫瘍減量
(maximum debulking)
4.後療法のための情報を得ること。
(Ⅲ,B)
早期癌の診断
stagingの正確さを期するためだけではなく,
後療法を省略できる症例を抽出する観点からも,
系統的な腹腔内および後腹膜腔の検索を行う
ことが推奨される(staging laparotomy)
(Ⅱ,A)
進行癌の診断
基本術式ならびに staging laparotomyに加えて
腹腔内播種や転移病巣の可及的摘出を行うが,
完全摘出ができない場合でもできるだけ
小病巣(optimal disease)になるように努める
(debulking surgery)
(Ⅱ,A)
臨床診断
初回治療
病理学的診断(進行期)
術後化学療法
Grade1
経過観察
Ⅰa, b期
基本術式+staging laparotomy
ならびにprimary debulking surgery
Grade2, 3
明細胞癌
化学療法
(3~6コース)
Ⅰc期
optimal
卵巣癌
Stagingが不十分な手術が
行われた場合
Staging
laparotomy
Ⅱ~Ⅳ期
suboptimal
化学療法
(6コース)
Staging laparotomy未施行
CR
原発腫瘍の摘出が困難
または試験開腹術
化学療法
PR, (SD)
SD, PD
経過観察
IDS
化学療法
化学療法
または緩和医療
上皮性卵巣腫瘍Ⅰa,Ⅰb期
grade 1
→後療法なしとして経過観察を推奨
(Ⅱ,A)
grade 2,3または明細胞癌
→標準的化学療法としてパクリタキセルと
カルボプラチンの併用療法
(Ⅰ,A)
上皮性卵巣腫瘍Ⅰc期
標準的化学療法としてパクリタキセルと
カルボプラチンの併用療法
(Ⅰ,A)
腹腔内細胞診が陽性の場合[Ⅰc(1,2)],自然被膜破綻の[Ⅰc(a)]が認め
られる場合がⅠa,Ⅰb期より予後不良といわれる
手術操作による被膜破綻[Ⅰc(b)]は予後に影響するという見解と,影響し
ないとする見解があり,一定の結論は得られていない
上皮性卵巣腫瘍Ⅱ~Ⅳ期
Optimal (残存腫瘍径<1cm)
→標準的化学療法としてパクリタキセルと
カルボプラチンの併用療法
(Ⅰ,A)
Suboptimal (残存腫瘍径≧1cm)
→標準的化学療法としてパクリタキセルと
カルボプラチンの併用療法、その後効果判定で
治療方針を選択(次ページ)
(Ⅰ,A)
debulking surgeryによって最大残存腫瘍径が1cm未満にできた場合をoptimal,
それ以上の場合にはsuboptimalとする
Ⅱ~Ⅳ期 suboptimal
原発腫瘍摘出困難、試験開腹症例
CR,PR,(SD)
→interval debulking surgery(IDS)が
考慮される場合も
その後、再度化学療法
SD,PD
→化学療法(salvage chemotherapy)
緩和医療
化学療法の開始基準
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
主要臓器機能が保たれている
PS0~1
術後合併症から回復している
骨髄:白血球>4,000/mm3, 血小板>100,000/mm3
肝機能:T.Bil<2.0mg/dL, AST/ALT<100IU/L
腎機能:血清クレアチニン:正常値上限以下
重篤な合併症を有さない
特に腸閉塞、下痢、発熱など
化学療法
First line
Second line
漿液性腺癌
類内膜癌
未分化癌
移行上皮癌
悪性Brenner
粘液性腺癌
TC
DC
DC
TC
明細胞癌
TC
CPTP
胚細胞腫
BEP
卵巣癌に対するNACの位置づけ
術前化学療法(NAC)を行うことにより,
interval debulking surgery(IDS)または
secondary debulking surgery(SDS)施行時に
腫瘍摘出率が向上し,無増悪生存期間(PFS)
の延長およびQOLは改善するが,長期生存率
の改善については意見が分かれている
(Ⅲ,C)
卵巣癌に対するNACの位置づけ
施行する基準
• Ⅱb期以上と推定される場合
• 腹水細胞診で癌細胞陽性の場合
終了基準
• 腫瘍マーカーの正常化+1コース
妊孕性温存を希望する症例
基本術式に含まれる手技
→片側付属器摘出術・大網切除術
Staging laparotomyに含まれる手技
→腹腔細胞診,対側卵巣の生検,腹腔内各所の
生検,後腹膜リンパ節(骨盤・傍大動脈)郭清
または生検
(Ⅲ,C)
妊孕性温存を希望する症例
(1)妊孕性温存手術が考慮される患者背景
a. 患者本人が挙児を強く望んでいる
b. 患者および家族が疾患を深く理解している
c. 妊孕性温存手術は標準的な治療法ではなく、
慎重にその適応を検討する必要があることに関し
十分なインフォームドコンセントが得られている
d. 厳重かつ長期的フォローアップが可能である
妊孕性温存を希望する症例
(2)妊孕性温存手術を行うことのできる
臨床病理学的な必要条件
Ⅰa期+高分化型or境界悪性腫瘍=必要条件
(ただし明細胞腺癌は除く)
Ⅰc期は,一定のコンセンサスは得られていないが,術中被膜破綻に
よるⅠc期〔Ⅰc(b)〕の予後はⅠa期と差がないという報告もある
また,中分化型に対しても一定のコンセンサスは得られていない
再発卵巣癌の治療
前化学療法
再発までの期間
治療
6か月以上
初回と同一or類似の化学療法
臨床試験
その他
6か月未満
Salvage chemotherapy
臨床試験
その他
緩和治療
有り
卵巣癌再発
無し
標準化学療法に準じる
初回治療後のフォローアップ
治療後
~2年
1ヶ月毎
~3年
2ヶ月毎
~5年
3~4ヶ月ごと
5年以降
6~12か月毎
診察・検査項目
診察、検査項目
時期
問診、全身所見、内診・直腸診
毎回
腫瘍マーカー(CA125など)
毎回
経腟または経腹超音波
毎回
胸腹部CTまたはMRI
6~12か月毎
FDG-PET
適宜
(Ⅲ,C)
緩和医療
QOL向上のための緩和医療には以下のものが含まれる
①疼痛緩和
②外科治療
③化学療法
④放射線療法
⑤精神症状に対するカウンセリング
癌性疼痛に対しては、WHOのステップラダー
(3段階除痛ラダー)に基づいたコントロールが推奨される
以下参考資料
卵巣癌死亡者数
卵巣腫瘍の組織発生と
腫瘍マーカーの選択
コア蛋白関連抗原
CA125,CA602
母核糖鎖関連抗原
CA546,CA72─4,STN
基幹糖鎖関連抗原
CA19─9,SLX
胎児性蛋白
CEA
その他
GAT
胚細胞腫瘍
AFP,hCG,SCC,LDH
性索間質性腫瘍
estrogen,androgen,inhibinA
手術療法に関する用語の定義
基本術式
両側付属器摘出術・子宮摘出術・大網切除術
staging laparotomy
進行期の確定に必要な手技を含む手術
exploratory laparotomy
(試験開腹術)
原発腫瘍の摘出が困難で生検と最小限の進行期確認にと
どめる手術
debulking(cytoreductive)surgery
(腫瘍減量手術)
病巣の完全摘出または可及的に最大限の腫瘍減量に必要
な手技を含む手術
primary debulking(cytoreductive)
surgery(PDS, PCS)
初回治療として病巣の完全摘出または可及的に最大限の
腫瘍減量を行う手術
interval debulking(cytoreductive)
surgery(IDS, ICS)
初回手術後の残存腫瘍に対し,一連の初回化学療法中に
病巣の完全摘出または可及的に最大限の腫瘍減量を行う
手術
secondary debulking(cytoreductive)
surgery(SDS, SCS)
初回化学療法終了後に認められる残存,あるいは再発腫瘍
に対して病巣の完全摘出または可及的に最大限の腫瘍減
量を行う手術
second look operation(SLO)
初回手術後の臨床的寛解例に対する化学療法の効果判定
を目的として行われる手術
その際発見された再発腫瘍を切除するものはSLO/SDSと
表現
境界悪性腫瘍(上皮性)の治療
胚細胞腫瘍の治療