(Zen)」車両

海外トピックス
風力発電の電気を一部使用して走行する電車(マルメ,スウェーデン)
イタリアにおける高速鉄道事業への新規参入
佐 藤 麗 子 調査研究センター主任研究員
の会長にはモンテゼーモロ氏,CEO にはシャロー
ネ氏が就任している。また,2008年1月には,フ
ランス国鉄(SNCF)が資本参加している。
はじめに
同社はイタリア国内で,快適な最新車両を導入し,
完璧かつ最高品質の高速鉄道サービスを提供するこ
EU においては本年1月から国際旅客輸送が市
とを目的としている。すでに2007年2月にイタリ
場開放され,認証を受けた輸送事業者は国際旅客
ア運輸省から鉄道事業免許を取得しており,2011年
輸送サービスに自由に参入できるようになった。
の運行開始までに,運転士120人,乗務員500人を
これを受けて,イタリアでは高速旅客鉄道を運行
含め,合計1 , 000人の従業員を採用する予定である。
(以下,
する新会社“Nuovo Trasporto Viaggiatori”
NTV)が,2011年9月の運行開始に向けて準備を
2 . 運行路線について
進めている。同社は高速鉄道部門への新規参入と
してヨーロッパ初の事例となるものであり,同時
NTV はすでに2008年1月,イタリアの鉄道イン
にイタリアにおいて,民間出資の会社として高速
フラ会社である RFI との間に,10年間の線路イ
鉄道事業を行う初の事例である。
ンフラ利用契約を結んでいる。NTV は,
そこで本稿では,NTV の新規参入計画について,
・トリノ∼ミラノ∼ボローニャ∼フィレンツェ
NTV のウェブサイト情報ならびに各種新聞記事を
∼ローマ∼ナポリ∼サレルノ
もとに紹介する。
・ヴェネツィア∼ボローニャ∼フィレンツェ∼
1. 高速鉄道新会社について
・ローマ∼バーリ
ローマ
の3路線を幹線とする,イタリアの主要都市間を
NTV は,イタリアの自動車メーカー「フェラー
運行する予定である。
リ」のモンテゼーモロ社長,ファッションブラン
運賃は,運行時間帯やサービス内容に応じて決
ド「トッズ」のヴァッレ社長,ナポリに拠点を置
定され,航空に類似したフレキシブルな運賃設定
くロジスティクス会社 Interporto Campano のプ
を予定している。
ンツォ社長,イタリアをはじめヨーロッパで貨物
輸送を行っている Rail Traction Company のマネ
3 . 運行車両について
ージングディレクター兼 CEO のシャローネ氏の
4人が出資して,2006年12月に設立された。同社
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10 . 6
NTV は2008年1月,アルストムに最新の高速
運輸調査局
AGV 型車両25編成を発注し,6億5 , 000万ユーロ
切れることはない。また,各座席にはタッチスク
で30年リース契約を結んだ。AGV はアルストムが
リーン方式の個人用ビデオを装備しており,高画
開発した最新型車両で,同社の第4世代高速列車
質のビデオ放送ならびにオーディオプログラムが,
にあたる。同型車両は2007年4月3日のテスト走行
それぞれ250時間分用意されている。
で,最高速度574 . 8 km/h の世界最速記録を出して
目新しいものとしては,「映画」車両の計画が
いる。NTV の運用列車は,最高速度360 km/h で
ある。この車両はエアバス A 380のファーストク
設計されているが,イタリア国内の高速鉄道路線
ラスで採用されているものと同様の雑音除去機能
の最高時速制限により,最高速度300 km/h で運行
を備え,両面スクリーンの採用により片側16席ず
することになる。なお同車両は,アルストムの現
つ,合計32人が映画を楽しめる。
行 TGV 車両(動力集中方式)とは異なり,動力分散
一方で静寂な車内環境を求める乗客に対しては,
方式を採用している。
「禅(Zen)」車両を準備する。この車両にはインタ
アルストムから NTV へは,すでにプロトタイ
ーネットもモニターもなく,携帯電話の使用も禁
プ車両が納入されており,NTV は2010年初頭
止されている。水のせせらぎ音や小鳥のさえずり
までのおよそ9カ月半に,5万5 , 000 km の走行テ
声の合間に環境音楽が流れ,心地よい空間が演出
ストを実施している。また今年の3月には,運行
されている。
予定路線のローマ∼ナポリ間の高速鉄道路線を
実際に利用した走行テストを開始し,最高速度
おわりに
300 km/h を達成している。今後は営業開始までに,
信号システムや安全面でのテストを繰り返すこと
イタリアにおいては2006年以降段階的に高速鉄
となる。
道網の開業が続いてきたが,2009年12月13日にト
リノ∼ミラノ∼ナポリ∼サレルノを結ぶ高速鉄道
4. 列車サービスについて
区間が全線開業したことにより,イタリア半島を
縦貫する全長約1 , 000 km の南北路線網が完成し
2008年11月に3万7 , 000人が参加したインター
た。この路線上ではすでにイタリア鉄道が高速列
ネット上の投票により,新型列車の愛称が「イタ
車を運行しており,2010年1月∼4月までの4カ
ロ(Italo)」と決定した。イタロは1編成11両(列車
月間で,高速鉄道の利用者数は600万人を超え,
長200 m)
,定員460人で,車両の外装はフェラー
新記録を達成している。同期間の乗客数は2009年
リカラーでもある赤が採用されている。内装に関
同期に比べて,ローマ∼ミラノ間では22%の増加,
しては,フォルクスワーゲンの「ゴルフ」やフィ
ミラノ∼ナポリ間では31%の増加となり,好調に
アットの「アルファロメオ」など,世界の数々の
推移している。
自動車のデザインを担当してきたイタリア人デザ
現在は国内高速鉄道を単独で運行しているイタ
イナー,ジウジアーロ氏が担当する。また,新型
リア鉄道であるが,NTV が同じ線路上を運行する
車両は車内居住性の向上にも力を入れており,従
ことにより,従来の航空や自動車との競争だけで
来型車両と比べて車内空間は20%増加し,また窓
なく,将来は鉄道会社どうしでの同一モード間の
面積も15%大きくなっている。
競争にさらされることになる。
さらに,利用者の異なるニーズに応えるために, 近年ダイナミックに変貌しているイタリアの高
車内設備に様々なバリエーションを持たせている。 速鉄道であるが,来年に迫った NTV の新規参入
各座席では高速インターネットサービスが利用で
が,競争によるサービス向上をもたらすのか,注
き,新技術の採用によりトンネル内でも接続が途
目されるところである。
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