研究員の視点 〔研究員の視点〕 イタリア高速鉄道の新サービス 運輸調査局 主任研究員 佐藤麗子 ※本記事は、 『交通新聞』に執筆したものを転載いたしました(図を除く) 最近、鉄道分野では世界的に高速鉄道に 典が開催された。折りしも 2011 年はイタ 注目が集まっているが、イタリアでは、国 リア統一 150 周年の節目の年だったことも 土の南北を縦貫するトリノ~サレルノ間 あり、11 月 28 日の式典には、ナポリター 1,000km( 東 海 道 新 幹 線 で は 東 京 ~ 新 山 口 が ノ大統領をはじめ、経済開発・インフラ・運 1,027km)の高速鉄道網が完成した 2009 年 輸大臣、イタリア統一 150 周年委員会の会 12 月以降、列車の増発や接続の改善などに 長、ローマのあるラツィオ州の州知事、さら よる高速鉄道サービス強化の取り組みがなさ にローマ市長も出席して盛大に新装開業を れてきた。その結果、ローマ~ミラノ間で航 祝った。 空との旅客シェアを逆転するなど、好調な成 同駅は高速鉄道の拠点駅として、在来線 績をあげている。完成から約 2 年が経過した、 ネットワークに接続するほか、市内交通に結 2011 年 12 月の冬のダイヤ改正に際しては、 節するハブ機能も持っており、地下鉄やバス 直前の 11 月から 12 月にかけて、新しいサー に乗り換えて市内各地の最終目的地まで行く ビスが相次いで導入された。 ことができるようになった。同時にこの駅開 そこで本稿では、イタリア鉄道(Ferrovie 発は、まちづくりと一体となって行われ、こ dello Stato Italiane、以下 FS)のプレスリリー れまで線路によって分断されていた 2 つの スから、 注目すべき 3 つの新サービスとして、 地区を橋上通路で結ぶことにより、両地区を 高速鉄道拠点駅の整備、座席クラスの新設、 連結する役割も果たすことになった。 駅ラウンジサービスの利用条件緩和について 紹介する。 FS では現在、主要都市において高速鉄道 の拠点駅を整備しており、今後はトリノ、ボ ローニャ、フィレンツェ、ナポリにおいて、 高速鉄道拠点駅の整備 新装開業が予定されている。 イタリアの高速鉄道は、アルタ・ヴェロチ タ(イタリア語で“高速”の意味)と呼ばれる高 座席クラスの新設 速専用線を走行する。2011 年 11 月、改装 2011 年 11 月、FS の最高経営責任者モ 工事が終了し、新たな高速鉄道拠点駅となっ レッティ氏は、高速鉄道車両「フレッチャロッ たローマのティブルティーナ駅(ローマ・テル サ(イタリア語で“赤い矢”の意味)」において、 ミニ駅から直線距離で 3km 弱)において開業式 新型車両を導入し、ヨーロッパ諸国で一般的 研究員の視点 な 1 等、2 等の座席種別を変更し、新たな り、Wi-Fi 接続を可能にしているほか、エネ 座席クラスを新設することを発表した。 ルギー効率を向上することで、消費エネルギ これは、 「すべての人のためのフレッチャ -を従来比 25%削減している。 ロッサ」というキャッチコピーのもと、座席 この座席クラスのサービスは現在 1 日 8 のクラス分けを細分化することで、利用目的 本であるが、今後は新しい座席クラスを適用 に合ったサービスを選択できるようにするこ する路線を順次拡大していく方針である。 とを意図したものである。 座席種別は 4 クラスで、1 列車 10 両編 駅ラウンジサービスの利用条件緩和 成 の う ち、 ス タ ン ダ ー ド が 4 両( 座 席 間 隔 駅でのラウンジサービスは、上級顧客への 106cm 座 席 幅 55.5cm) 、プレミアムが 2 両 サービスの一環としてこれまでも提供されて ( 座 席 間 隔 106cm 座 席 幅 55.5cm)、 ビ ジ ネ ス いたが、2011 年 12 月、より多くの人が利 が 3 両(座席間隔 106cm 座席幅 64cm)、エグ ゼ ク テ ィ ブ が 1 両( 座 席 間 隔 150cm 座 席 幅 用できるように利用条件を緩和した。 駅ラウンジ「フレッチャクラブ」は、ローマ、 69cm) となっている( 東北新幹線 E5 系は、普 ミラノなどの主要駅に設置されており、こ 通車が座席間隔 104cm 座席幅 44cm、グランクラ れまでは FS のハウスカードである「フレッ スが座席間隔 130cm 座席幅 52cm)。車内には チャカード」のゴールドカードまたはプラチ 合計 64 台のモニターが設置されており、イ ナカードの保持者、ならびにフレッチャロッ ンフォメーションやエンターテインメントを サのエグゼクティブクラスまたは個室利用の 放映する。ここで参考までにフレッチャロッ 乗車券購入者しか利用することができなかっ サと日本の東北新幹線の運賃・料金額を類 た。 似クラスで比較すると、ローマ~ミラノ間 これに加えて新しい利用条件では、6 ヶ (515km)のスタンダードは 108 ユーロ、エ 月間有効の 10 回回数券を 200 ユーロで購 グゼクティブは 200 ユーロであり、東京~ 入した人、または半年間 300 ユーロあるい 盛岡間(535km)の通常期の普通車指定席は は 1 年間 500 ユーロの定期契約を結んだ人 13,840 円、 グ ラ ン ク ラ ス は 22,330 円 で もラウンジサービスを利用できるようになっ ある。 た。定期契約を選択した場合、期間中無制限 静かな車内環境を求める旅客に配慮して、 ビジネスクラスの一部には、携帯電話の使用 にラウンジサービスを利用することができ る。 やおしゃべりを禁止したサイレンスエリアを ラウンジでは Wi-Fi が無料で利用できるほ 設けている。また、エグゼクティブクラスで か、設置されている各種の新聞を閲覧できる。 は、32 型モニターを設置したミーティング またセルフサービスのコーヒーや飲み物、ス ルームを利用して、車内会議を開くこともで ナックが提供され、利用者は旅行前に駅でリ きるようになっている。 ラックスして時間を過ごすことができる。 新型車両は車内スペースを 30%拡充し、 大きな荷物を持って乗車する外国からの旅客 にも対応している。また新技術の採用によ 注目される利用動向 以上、高速鉄道を中心に FS の新たなサー 研究員の視点 ビス施策を紹介したが、同社が高速鉄道事業 に停車する列車を 1 日 13 往復運行する予 を重視する理由としては、今後想定される事 定である。 NTV では 2011 年 12 月に新車両を報道 業者間競争がある。 こ れ は EU の 運 輸 政 策 の 一 環 で あ る、 陣に公開しており、通常の座席のほか大型ス 2010 年 か ら の EU 域 内 の 国 際 旅 客 輸 送 クリーンで映画を楽しめるシネマ車両の導 サービスへの参入自由化に伴い、イタリア 入、また、高品質食材にこだわる「イータ で は 民 間 出 資 の 新 し い 株 式 会 社“Nuovo リー」とのパートナー契約による車内食の提 Trasporto Viaggiatori(NTV)”が、早けれ 供といった、特色あるサービスを行うという。 ば今年 3 月にも高速鉄道事業に新規参入す 今回紹介した FS の新サービスは、従来の ることになっている。つまり NTV は FS と 航空だけでなく、予想される NTV との競争 まったく同じ線路上で高速列車を運行し、た も見据えたものと考えられる。ヨーロッパが とえば首都ローマとイタリア第二の都市ミ 債務危機で揺れるなか、このような新しい施 ラノを結ぶ区間では、ノンストップ列車を 1 策が利用者にどのように評価されるか、輸送 日 3 往復、途中ボローニャとフィレンツェ 事業者にとっても関心が高いといえよう。 地図 図 イタリア高速鉄道路線図 ミラノ トリノ ボローニャ 高速鉄道区間 フィレンツェ ローマ ナポリ サレルノ (出典) http://www.rfi.it/cms/v/index.jsp?vgnextoid=e4ae8c3e13e0a110VgnVCM10000080a3e90aRC RD に加筆
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