≪戦略スタッフ研究フォーラム≫創立20周年記念例会 ~パネル

≪戦略スタッフ研究フォーラム≫
創立 20 周年記念例会 ~パネルディスカッション~
グローバル競争に直面する現在、
われわれの目標は『サバイバル』なのか『ビクトリー』なのか?
〜戦略スタッフ経験者が今、リーダーとして将来を見据え、そして自戒を込め、われわれに問う〜
【パネリスト】
岩井 睦雄(日本たばこ産業株式会社 専務執行役員 企画責任者)
古田 純(株式会社 明治 執行役員 広報部長)
高橋 郁夫(新日鐵住金株式会社 鋼管事業部 鋼管企画部部長)
尾形 宏明(株式会社 リクルートホールディングス 海外事業推進 専門役員)
森沢 徹(株式会社 野村総合研究所 経営コンサルティング部 上席コンサルタント)
【司会・モデレータ】
伊藤 武志(株式会社 価値共創 代表取締役)
(本稿は、2013年9月に開催した『第20期 戦略スタッフ研究フォーラム』例会での講演要旨を、加筆・修正したものです)
【この20年間に、戦略スタッフ研究
フォーラムが積み上げてきたもの】
役割をはたしてきたのか。私たちは、いまこそ制
約を打破し、ともに手を携えて、顧客のため、社
会のため、そして自分たちのために、意志を持
ち、行動しなければならない。
「戦スタ」は、この20年間、優れた人材を生み
実際、反省しているだけでは意味がない。今
出し、それらの人材は経営を実践し、成果を生み
回のパネルディスカッションでは、12年前に当
出してきた。そして戦スタを卒業してもなおこの
フォーラムに参加してきた私から見ても綺羅星の
素晴らしい人材のネットワークは生きている。こ
ように輝くリーダー5名をお招きできたことはう
の貢献について私たち戦スタにかかわるメンバー
れしいかぎりである。うち4人は戦略スタッフ経
は、65周年を迎えた企業研究会における研究交
験者であり、今、リーダーとして将来を描き意思
流のロールモデルであると自負し、誇りに思う。
を持ち行動している。1名は一流のコンサルタン
しかし我々には反省がある。欧米から輸入された
トである。彼らは自戒を込め、われわれに提言する。
手法を、疑うことなく経営に導入してはいなかっ
さらに、OBや現役の幹事からの阿吽の呼吸で
たか。経営企画部という組織は時代遅れで、神輿
のコメントもいただいた。では、意志をもち未来
に担がれる現場から浮き上がるトップをつくって
を拓くための対話を楽しんでいただきたい。
いただけだったのではなかったか。経営ビジョン
や中期経営計画は、顧客や従業員、投資家その他
ステークホルダーの心を打ち納得できる、イノ
ベーションの織り込まれたものだったか、作った
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■
研究協力委員 伊藤 武志
【パネルディスカッション】
途端に棚に上げるだけのものではなかったか。予
(伊藤)本日は、パネリストの皆様、どうもあり
算は、みなが心を合わせて達成したいコミットメ
がとうございます。本当にベストな皆様をお招き
ントになっていたか。トップとミドルの綱引きに
できて何よりです。私がここでこの仕事をしてい
終わり、時間だけを浪費するものではなかったか。
るのも、皆様方からさまざまな学びを頂いたから
実際、この20年間、日本の経済は成長してい
だと思っております。
ない。いったい我々は、本当に我々がはたすべき
これからディスカッションを進めていきます。
2014.3・4
皆様プロなので、いろいろな問いもお持ちだと思
ジュネーブに2年ほど行っており、6月に帰国し
いますし、今年の戦スタ各分科会での問題意識も
ました。その辺の個人的な経験を含めて、今日は
既に現役幹事の方からいただいて、パネリストの
お話しをさせていただき、対話させていただきた
皆様にご覧いただいております。ただそういった
いと思っております。
問題意識に個別にお答えいただくよりも、まず素
晴らしいパネリストの皆様からそれぞれ、今思う
(古田)株式会社明
こと、これからについて思うことを私たちと共有
治広報部の古田で
していただいた後で、自由な形で対話を進めてい
す。私のキャリアも
きたいと思っております。
三つに分けてみま
それでは、パネリストの皆様から自己紹介をし
し た。1981年 に 明
ていただきます。皆様から1枚ずつ個性ある資料
治製菓に入社し、第
を頂いております。岩井さんからどうぞお願いし
1期の書生時代は経
ます。
理・財務の時代と言
え ま す。 工 場 や 本
1.自己紹介
社、それからアメリ
カのグループ会社に
(岩井)JTの岩井
4年弱駐在して、そ
・1981年
明治製菓(株)入社
・【第1期】1981年〜 1994年
「経理・財務」時代 工場、本社、海外(米国)
・【第2期】1994年〜 2012年
です。「ハイライト」
こでも経理をやって
というブランドは皆
おりました。
様ご存じだと思いま
第2期は経営企画
す が、 私 は こ の ブ
時代です。本社やグ
ラ ン ド と 同 じ1960
ループ会社と、場所
年に生まれました。
は転々としておりま
・2011年4月 事業再編
五十数年生きながら
すけれどもこの時代
(明治HD・明治・
えているブランドと
・1960年大阪生 52歳
いう資産を使って、
・書生時代
グローバル展開をし
ているJT(日本た
・1983年 日本専売公社入社
人事課→MOF論研→経営企画
→銀行研修
・スタッフ時代
が 一 番 長 く て18年
「経営企画」 時代 本社、グループ会社、HD
・【第3期】2012年〜
「広報」 時代
事業会社(明治)
・2009年4月 経営統合
(明治製菓・明治乳業)
Meiji Seikaファルマ)
近くやっておりました。
私は入社以来30年以上、このように経理・財
務および経営企画のこの二つの仕事しかやってお
経営企画→食品事業→経営企画
りませんでした。いい加減に飽きたところで、め
年ほど勤めておりま
・マネジメント時代
でたく去年4月から広報という新しい仕事に就く
す。私は3年目くら
→JTインターナショナル
ことになり、大変喜んでいる次第です。明治の広
(ジュネーブ)→現職
報部ではメディア対応を始め食育支援活動やコー
ば こ ) に、 私 は30
いで経営企画に平社
経営企画→食品事業→企画責任者
員で行ったときにこの研究会に参加させていただ
ポレート関係のホームページ、あるいは工場見学
きました。今日来てらっしゃる方、他の方も含め
というような業務が担当です。
て、いろいろな経営企画のスタッフとしてどうあ
2009年 4 月 に 明 治 製 菓 と 明 治 乳 業 と が 経 営
るべきか、またその時々の経営課題とそれに対す
統合し、2年後の2011年に事業再編が行われ、
るソリューションをここで学ばせていただき、そ
ホールディングスの傘下に薬品事業会社、そして
ういったものを会社の中に取り入れていくことを
私がおります食品事業会社の明治という3社体制
ずっとやってまいりました。
となりました。この経営統合から事業再編のプロ
経歴的には、食品事業の立ち上げと、経営企画
セスでは関係者は非常に苦労をしたらしいです
部門が長く、今日のテーマのグローバル化に関し
が、私はその間、グループ会社に出向しており、
て申し上げると、JTインターナショナルとい
事業再編が終わったところで戻ってきたので、そ
う、たばこの海外部門のヘッドクオーターがある
の苦労が肌感覚では分かりません。
2014.3・4
■
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この戦略スタッフフォーラムにつきましては
タッフを7年ほどしていました。書や茶道の世界
第2期から7年間お世話になりました。ちょう
の言葉ですが、学んだことは「守破離」です。先
ど30代 後 半 か ら40代 に か け て、 一 番 知 力・ 体
生が付いてくれますので、その先生の教えを守
力・気力が充実したときに経営企画におり、この
り、そしてその先生の教えを自分なりに解釈して
フォーラムで他社の方々からいろいろなことを学
自分のものにする。これが破るです。そして、離
び、またいろいろな刺激を受け、それを会社に持
れて自立して、今度は後輩を育てるということです。
ち帰って企画し実行したということで、非常に私
92年から2000年までは本社のスタッフで、決
にとっても思い出深いものがあります。
算などをしていました。マネジメントに近いとこ
最近はこの知力・体力・気力がかなり低下して
ろで、役員がトップマネジメントと丁々発止な議
まいりまして、リタイア後はどうしようかという
論をしているのを目の当たりにするチャンスに恵
ことが大きな関心事です。今日はリタイア後のこ
まれました。時代はバブル崩壊後、当時は「失わ
とは置いといて、昔のように皆様と熱くディス
れた10年」と言われていた時代の真っただ中で
カッションしたいと思います。
す。多角化の整理などをするときに、なかなか決
めないトップマネジメントに、意を決して、「こ
(伊藤)幅広い議論ができそうでうれしいです。
れは後輩たちのために俺が言う」と言っていろい
古田さんの会社の菓子を生産している大阪工場に
ろと切り込んでいく役員たちを見て、ああ、これ
は、今年、合宿で伺わせていただく予定にしてお
が「逆命利君」かと。君の命に逆らいて、しかし
ります。
ながら君を利すという意味ですが、それを目の当
では高橋さん、お願いします。
たりにしました。こういう役員をたくさん雇って
いる会社の文化は、もうなくなってしまったから
(高橋)新日鐵住金
自慢しますが、いいなと思いました。
の 高 橋 で す。 写 真
最後がここ十数年ですけれど、このときに私は
を2枚用意しまし
このフォーラムにお世話になりました。古田さん
た。上の写真は仕事
と同じように、40歳代の前半から後半をここで
です。私が今やって
いろいろと皆さんに教えていただいたり、私ども
いる仕事はパイプを
のいろいろな経験をご披瀝させていただいたりし
作って、世界中のリ
ました。ちょうど事業企画や本社の経営計画など
グと呼ばれるガスや
をしていた時代です。このときに学んだのは「君
石油を掘ったりする
井戸にお届けして、
お客様に使っていた
だくというビジネス
の企画をしていま
す。下の写真はプラ
・入社1985年~ 1992年
守破離(工場スタッフ、経理)
・1992年~ 2000年 子愛財、取之有道」です。「君子財を愛す」。お金
もうけというのは悪いことではない。だから成長
逆命利君(本社スタッフ・
戦略を描いてビジネスを展開するのは良いことで
マネジャ、決算・IR)
すが、これをやるのに道があるということです。
・2000年~ 2013年
君子愛財、取之有道
(事業部/本社マネジャ、企画)
「道」というのは普通は「道徳」と訳されてしま
いますが、これは言葉の方程式みたいな部分が非
イベートで、「世界」
常に奥深く、「道」という言葉はいろいろなこと
という書は、この間
に置き換えられます。「人」であったり、「技術」
まで池袋の芸術劇場
であったり、あるいはもう少し違う「文化」で
で展覧会に出してい
あったり。「道」が何かということを考え続けて、
た私の作品です。11月からポーランドのある展
広くあるいは深くやるのが事業ではないかと思っ
覧会にこれを出すことになっていまして、持って
たりしています。今日はその「道」を皆様と議論
帰る費用がもったいないので、向こうで寄付して
したいと思います。
きます。
経歴は、85年に元の住友金属に入り工場のス
42
■
2014.3・4
(伊藤)
「君子愛財、取之有道」は住友の理念ですね。
(高橋)そうです。伊庭貞剛が好きだった言葉です。
どのコンサルタント
もそうですが産業調
(尾形)リクルート
査から入り、当初は
の尾形です。
半導体や自動車を
新卒で武田薬品に
やっていました。そ
入 り ま し て、2008
の後、会社の制度で
年からリクルートで
ビジネススクールに
働いています。私も
留学した後、90年代
キャリア時代は三つ
末からは「留学成果
にしていますが、他
刈取り時代」とあり
の方と非常に似て
いて、いわゆる典型
・1981年
武田薬品入社
・2008年
ますが、BSC、E
VA、ABC等。な
・1991年
早稲田大学理工学研究科修了
(半導体工学専攻)
・同年
株式会社 野村総合研究所入社
・下積み時代
リクルート入社
んだか3文字アル
タッフです。最初が
・修業時代
ファベットの「しり
・1994年 経理部で、その10年
ドイツ駐在(管理・ERP)
とり」みたいです
ぐらいの間の最後の
・スタッフ時代
が、 皆 さ ん が よ く
・1996年
4年半はドイツに駐
・現業
的なコーポレートス
在し、経済同友会代
経理部(資金・財務→予実管理)
経営企画・事業戦略
事業開発(武田→リクルート)
知っている経営管理
のツールを日本企業
自動車・エレキ業界の産業調査
結婚&留学
Harvard Business Schoolで
MBA修了
・留学成果刈取り
BSC、EVA、ABC、を活用した
経営管理コンサル
表幹事の長谷川さんの後任をしていました。その
に導入する仕事を追
後、20年前から経営企画に移り、いわゆる戦略
求しました。そんな
スタッフをしました。このころに第5期の戦スタ
仕事の中で知り合っ
にお世話になって、古田さん、岩井さん、最前列
たリコーの村上さん
に座っていらっしゃる重鎮の南さんなどと、よく
に確か1999年頃だっ
飲みにいった思い出があります。
たと思いますが「君
この経営企画時代は当初は、武田國男さんが
は頭でっかちだから、
2003年から社長になられたので、そのスタッフ
ちゃんと実務を勉強
として中期計画と構造改革を担当し、後半の方は
した方が良い」と言
長谷川さんの下で、医薬に集中していた時期です
われて、ここに引っ
「ダイバーシティ経営」
ので、医薬外事業売却の仕事を担当していまし
張っていただいたの
た。これがその後の布石で、次の10年は事業開
が本フォーラムとの
・グローバル化時代
発(business development)、いわゆるM&Aやア
出会いでした。
ライアンスを担当しています。最初は医薬外事業
その後「グループ
を売却し尽くして売るものがなくなったので、買
連結経営」とか、近年ではグローバリゼーション
収と医薬のライセンスをくっつけて事業開発をや
に伴う「本社機能の高度化」や「グローバル人材
れということでこの仕事に入ったのですが、やみ
育成」等、時流のテーマやソリューションを追求
つきになり、会社が変わっても同じ仕事をやって
してきました。その間、結婚したり、育児休業を
おります。
取ったりという形で、自分なりのキャリアを積ん
・1999年
長男誕生後3カ月間の育児休業
(NRI専門職第1号)
・連結経営時代
グループ経営革新、CSR経営、
ダイバーシティ経営、
ビジョナリー・エクセレンス経営
・2002年
長女・次男誕生後、3カ月間の
育児休業(第2号)
・2009年
BRI60周年記念
「グローバル商人道」
GHQの機能革新、
GA機能ベンチマーキング、RHQ
機能設計、グローバル人材育成
できたと思っています。ちなみに1999年の私の育
(森沢)NRIの森沢です。ワークの部分と下線
児休業取得はNRIで男性専門職で第一号でした。
を引いたライフを意識して分けました。自身の
2009年にはこの企業研究会の設立60周年の記
テーマのひとつであるワークライフバランスを常
念研究プロジェクトで「ダイバーシティ・マネジ
に意識してきたキャリアだからです。NRIにプ
メント」のテーマで当時の先進的な企業の人事部
ロパーで入り二十数年勤めております。最初は、
門の方々と共同研究をやらせてもらいました。こ
2014.3・4
■
43
の分野も自分の強い問題意識の対象です。
ご自由にお話しいただきたいと思います。
今日の私の位置付けとしてはこう考えていま
す。私は経営コンサルタントですので、多くの日
●重要なアセットとリソースが不足
本企業が共通に抱える構造的な問題点や、その中
(高橋)何が足りないのかについては、いろいろ
でも先進的な取り組みをしている企業事例には
な会社がいろいろなフェーズでグローバル展開の
日々の業務で多く接します。これら日本企業との
中途段階におられると思うので、一概に決めつけ
接点からのインサイトをパネル討議に提供するの
られないと思いますが、いくつか言えることはあ
が私の役割かと認識しています。
ります。たとえばアセット的に言うと、多分事業
さらに、我々のようなコーポレート周りのホワ
の規模と質の何かに欠けるところがある。それか
イトカラーの労働生産性やワークスタイルについ
ら、リソース的に言うと、多分人材と資金力と時
ても、自身のことも含めて「果たしてこれでいい
間のどこかに問題がある。
のだろうか?」と自問し続けています。このよう
事業の質というのは具体的に言うと、いわゆる
な観点からも、発言していきたいと考えています。
無形資産的な技術、品質、知財、デリバリー、コ
スト、工場経営力、パートナーなどです。これら
2.パネルディスカッション
は日本でも事業展開する上で必要なことですが、
グローバルでは特に政治を読む力、政治とのつな
(1)なぜグローバル・コンペティションに勝て
ないのか?
がり、国民性の活用をできるかが重要です。全体
で言うと、これらをうまく統合して戦略を組み立
てて遂行する能力が問われると思います。
(伊藤)皆様は戦略
ス タ ッ フ を10年 間、
うポイントかというと、結局組織というのは人で
20年 間 な さ っ て き
すから、人がいないというのは多分、みなの悩み
た歴史あるいは経験
だと思います。もともとグローバル展開は時間の
を豊富にお持ちです
かかる話で、展開していくうちに人が経験を積ん
ので、いろいろな話
でそういう人材が生まれてくるので、すぐにどう
をしていただきたい
にかなる問題ではないのです。だから、いない間
のですが、事前の打
にどうやって展開していくかといえば、プロを活
ち合わせで、どんな
テーマがいいかにつ
いてお話をさせてい
ただきました。今日
のディスカッション
44
■
組織能力という点で問題があるとしたらどうい
・1990年 ~ 1996年
銀行員時代 お客さま
・1996年 ~ 2008年
用することだと思います。アウトソースかヘッド
ハンティングかになると思いますが、必ずしも日
コンサルタント時代ものづくり
本の雇用条件にこだわらず、外付けでいろいろで
・2008年 ~ 2013年
きることを考えないといけない。その間に内部で
独立時代 うれしさ
人材を育成していく。10年単位の蓄積が必要です。
の題名は森沢さんに投げかけていただいたもので
また、ビジョンの立て方で何か問題があるので
す。経営管理、事業管理というより、事業そのも
はないか。何でもかんでも海外でやろうというの
のをどう持続的にするか、どう良い会社、よい事
は駄目で、強いものをより強くする発想で将来像
業をつくっていくかというテーマがやはり本質だ
を描くのが重要だと思います。そのためには積極
ろう。その中で、どうグローバル・コンペティ
的な事業統合、再編、たとえばある会社と事業を
ションに勝っていくのかが最も重要だということ
バーターするといったことも含めて、事業単位で
になり、「サバイバル」か「ビクトリー」かとい
強くしていくことが必要でしょう。日本はなかな
う問いをお出ししました。
か踏み切れないのですが、黒字の事業でも売る、
では、高橋さん、「なぜグローバルコンペに勝
赤字の事業でも買うぐらいのことが必要だと思い
てないのか?」。新日鐵住金は勝っているとおっ
ます。
しゃるかもしれませんが、どうなのでしょうか。
それを支える仕組みも大事です。内部的にそう
2014.3・4
いうことをしやすくするという意味では、これは
だと思っています。そういう形で3位ということ
尾形さんもおっしゃっていたのですが、持株会社
ではありますが、1位、2位がアメリカの企業と
制やカンパニー制です。外部については、日本で
イギリスの企業で、正直、なかなか追いつけない
は国内でまずキャッシュフローを上げて海外に投
感はあります。
じていくと考えると国内で利益が上がらないと駄
その要因としては、日本の企業は戦略的な思考
目ですが、過当競争過ぎています。やはりそうい
に弱みがあるのではないかということがありま
う意味では公正取引委員会がもう少しグローバル
す。何か明確な目標があって、それに対するソ
視点で考えてほしい。あるいは税制です。事業の
リューション、たとえば品質や価格を磨きこんで
売り買いをした途端に税金で全部持っていくのは
いくのは得意だと思いますが、どんな土俵をつ
やめてほしい。タックス・フリー・スピンオフの
くって、どんなことをしたら勝ちになるのかを自
ようなことが可能になるとよいと思います。ア
分でつくるところが弱い。自分たちのライバルな
メリカはこれで結構80年代コングロマリットを
どを見ていると、そこは非常に強い。要は、バ
ピュアプレイの事業に変えていきました。そこは
レーボールで日本が強くなったら、ネットの高さ
日本ができていないというハンディキャップの一
を上げてルールを変えてしまうといったことを何
つでもあると思っています。
となく意識してできる。しかし日本の企業は、与
えられたらそれでストイックに頑張るしかないと
(伊藤)高橋さんからおもしろいお話をいただき
なっていると感じます。自分たちで今持っている
ました。ありがとうございました。事業の規模と
ものを次の時代にどんなふうに生かして、新しい
質、それからリソースとしては人材、資金力、時
ものを生み出していくか。そして、新しいものが
間ということですが、すべてを制約なく考えてい
良いものであれば、それをどう他の人に比べて良
らっしゃるところがとても高橋さんらしいです。
い土俵を使って良いものだとお客様に認めてもら
さらに2番目の「どう勝つのか?」という問いに
うかといった戦略的な発想をきっちりと持ってい
応えるお話もいただきました。
く。そのためには、もう少し自分たちも何とかし
では次に岩井さん、お話しいただけますでしょ
なくてはいけないということがあると思います。
うか。
また、それを実行するスピード感も圧倒的に負
けています。たとえば品質にこだわるのはすごく
●戦略的思考とスピード感が圧倒的に足りない
よいことですが、石橋をたたいて渡るような部分
(岩井)私たちはたばこ事業をやっています。た
や、やってから考えましょうといったことです。
ばこというのは割と成熟した事業で、もともと世
自動車などは作ってから安全性を考えましょうと
界的には寡占化が進んでいる事業ではあるのです
いうわけにはいかないので、産業によって違いは
が、その中で、大きな構造としては自由に競争し
あるとは思いますが、決めて、それを決めたら実
ているようなアメリカやヨーロッパと、ヨーロッ
行するスピード感ももっと付けていかなくてはい
パの中でもかつてはいわゆる専売制度という、日
けないと思っています。
本でもやっていたような、国が持っていたような
その戦略的な思考とスピードの根底にあるもの
会社がたくさんあり、それがだんだん自由化され
は、お客様だと思っています。一つだけ例を挙げ
てくる中で統合してきました。今私たち自身は全
ると、私がジュネーブにいる間に、スーダンとい
体で大きな会社は四つぐらいに収斂してきている
う国のビジネスをやっている人から買収をしまし
中の3番目です。2位に何とか追いつきたい。こ
た。すると、日本のR&Dの人も、それに対する
れは自分たちだけでオーガニックにやってきたわ
品質基準などを全部グローバルで決めなくてはい
けではなく、基本的にはM&Aを活用しました。
けないのですが、スーダンのお客様にとって満足
かなり規模的には大きなM&Aをしましたので、
のいく品質と価格とは何かというのは、実際に現
そのときの人材を含めたアセットをそのまま生か
地に行って感じないといけません。日本にいて考
してやってきたというのが私たちのやり方の特徴
えていると、信じられないような品質だったりす
2014.3・4
■
45
るわけです。今のスーダンのお客様にとっては、
この値段でこの品質だというパーセプションがあ
るので、それを見ずしてグローバルなスタンダー
ドを決めていると全く通用しない。
ただ、そうは言ってもブランドとして守らなけ
ればいけないものは守る。グローバルに守るべき
ものと、現地のお客様に合わせて何をどこまで
やっていくのか。そういうところが根底にあっ
て、そういうものを全部具体的にきちんと把握し
た上で、まさにどの土俵で何をやれば自分たちが
勝てるかと。勝てないのにスーダンにいてはいけ
ない。というようなことなのかと思っています。
まずは弱みだけ述べさせていただきました。
「日本人もまだまだ捨てたものではない」という
自信をもう一度みんなが持つべきではないかと思
います。
(伊藤)岩井さん、ありがとうございました。戦略
それから覚悟についてです。私がアメリカの田
的思考と実行のスピードはとても重要で、ルール
舎町に住んでいたときにも、チャイニーズレスト
づくりは高橋さんもおっしゃった政治的なことも
ランがありました。彼らはいろいろと政治的な問
含めてとても重要でしょうね。それからお客様と
題もあって母国から現地に移住しているわけで
お客様のニーズをきちんと見ていくことですね。
す。私がよく行っていた中華料理店の亭主も既に
お客様に近い会社というと、古田さんの明治で
5年か6年ぐらいアメリカにいるのですが、彼
すね。古田さんからぜひ「なぜグローバルコンペ
の英語を聞いたとき僕はとても感動しました。「I
に勝てないのか?」というテーマをお願いしたい
go to ・・・yesterday.」と言うわけです。要する
と思います。
に、現在形で過去のことを言っているわけです。
5年間たってもそういうコミュニケーションをし
●必要なのは、自信、覚悟、そして勇気
46
■
て堂々としている。アメリカでしっかり暮らして
(古田)先ほど紹介しましたように、私は経営企
いく覚悟がある。英語の体裁なんか全然構ってい
画が非常に長いのですが、残念ながらアカデミッ
ないわけです。それでも彼らは一生懸命生きて
クで論理的な話は不得意でして。今日も少し情緒
やっていきます。一方、日本の駐在というのは大
的な話になって恐縮ですが、お聞きいただければ
体3年から5年で帰れる。ちょっと都合が悪くな
と思います。
れば日本に戻ればいいかなという、結構甘い考え
私は日本企業がグローバルコンペに勝てない理
がある。また、お金が足りなくなったら本社にお
由は三つあると思っています。一つは自信、二つ
願いすればファイナンスをしてくれる。工場で何
目が覚悟、三つ目が勇気です。
かトラブルがあったら、日本から技術者を呼んで
私は日本企業、あるいは日本人は世界をぐるっ
手伝ってもらえる。そういった結構恵まれた環境
と見渡しても、かなり優秀だと思います。「失わ
なのです。これから世界で戦うにはローカルで徹
れた20年間」で、日本人は過度に萎縮し自信を
底的に頑張っていくような覚悟を持つべきではな
なくして、「GDPも中国にも抜かれてしまった」
いかと思うのです。
といった非常にネガティブなマインドになってし
最後に勇気ですが、ホットなニュースで言え
まったのではないかと思っています。海外に行っ
ば、先般、NOKIAが携帯事業をマイクロソフ
たときにしみじみ感じるのですが、たとえば工場
トに売却しました。日曜日でしたか、日経新聞に
の従業員は圧倒的に日本人の方が優れています。
よるとNOKIAの最初の事業は製紙業だったそ
これは教育水準も含めてですが、まじめであり、
うです。それが幾度か大変身して今の事業を営ん
勤勉であり、手先が器用であり、忠誠心もある。
でいる。先ほど高橋さんもおっしゃっていました
2014.3・4
が、やはり企業は変身していかないといけない。
次に、日本企業が全体に抱える問題として私自
捨てる勇気が必要だと言われましたが、捨てる勇
身が気になっているのは、戦略の議論や計画より
気がなければ、変身していく勇気が必要です。ど
も、実行、行動、これに尽きます。特にやり続け
うしても日本の企業は今の既存事業を大切にした
ること。行動が足りていないのが日本企業に共通
いと思う。それはそれで非常によいのですが、一
した問題です。具体的には、事業のオペレーショ
方で変身していく、捨てていく、あるいは新しい
ンをきっちり運営して改善することも大事ですが、
ものにチャレンジしていく勇気を持たないと、恐
企業として当然やるべきイノベーション、それか
らくすたれていくと思います。欧米企業は極めて
らM&Aやアライアンスを活用して事業を拡大し
その点がドライにできます。民族性の問題もあり
ていく事業開発、この二つが不足しています。
ますが、そうやって会社が生き残っていく。日本
グローバルで勝てそうな先進企業として例を出
はそこが不得意ですが変身していく勇気を持つ必
したいのが、トヨタとソフトバンクです。トヨタ
要があると思います。
は自前で開発をして、後発だったが全世界に打っ
て出て、最終的には1番を狙える地位まで来てい
(伊藤)自信と覚悟と勇気ということで、捨てる
ます。擦り合わせ型の産業で、日本企業の組織文
勇気。赤字事業でも買うし、黒字事業でも売ると
化が非常に強みを発揮しやすい産業だったとは思
いった話もありました。なかなか厳しい言葉に
いますが、優秀な方たちが自前でこつこつと研究
なってきましたが、尾形さんにもっと厳しい言葉
開発とイノベーションをやって世界を変えていっ
をお願いしたいと思います。
た、ある意味世界を日本にするというやり方で
す。これから成功するのではないかと思っている
●参戦する意志と行動が決定的に足りない
のがソフトバンクです。ソフトバンクは、孫さん
(尾形)私は武田薬品からリクルートという2つ
の強力なリーダーシップの下で、今まで自分が
の会社を経験した立場からお話しします。武田は
持っていなかったものを取り込んで、ケイパビリ
40年も海外展開をしてきてグローバル化はかな
ティを獲得し、次の基礎をつくっていく形で事業
り進んでいる方だと思いますが、最初に確認した
を大きく拡大させていく力、こういう行動が日本
いのは、覚悟というよりは目標や動機です。
企業をグローバルに競争で勝たせていくのだと
最初に確認したいのは、やはり参戦する意志が
思っています。それは戦略というよりは行動、実
あるかないか、強い動機、目標があるかないかだ
行に尽きます。
と思います。武田ではグローバル化は必然でした
が、リクルートは、長い間グローバル化を考える
(伊藤)尾形さん、ありがとうございました。目
余裕はありませんでした。1兆8000億の借金を
的や目標、動機があるかどうか、イノベーション
自力で返す過程では、どうしてもキャッシュフ
をつくる実行、行動ができるかどうかですね。次
ロー経営が必要で、投資せずに稼げるところで稼
にぜひ森沢さんから自由に語っていただいて、先
いできました。国内中心でずっとやってきて、私
に進みたいと思います。
が入ったころにようやく海外事業展開を始めたの
です。リクルートという会社は動機の強さが事業
の成功を生むという考え方です。非常に明確な目
●決められないトップとそれを支える仕組み
(森沢)日本企業が勝てない原因について私なり
標を個人と組織が持てているかを問います。それ
の仮説を紹介させていただきます。
ができていれば事業は成功するカルチャーです。
話の大前提として日本企業はグローバル市場に
非常に長い時間をかけて目的と目標の設定にこだ
打って出て、そこで勝つことをゴールとしている
わっていました。最初はアジアだけでしたが、最
ということです。決して、国内市場だけにしがみ
終的にはグローバル展開をすることに決めまし
ついて縮小均衡型の、一時は栄えたアジアの小国
た。最初にビジョンや目標設定をするのは大事だ
に甘んじるのではない、という前提で発言します。
と思っています。
私は日本企業が勝てない根本的原因の一つに
2014.3・4
■
47
は、企業のトップ(社長+経営陣)が「物事を決
(2)では、どう勝つのか?
められない」という事実があろうかと思っていま
す。暴言を意図している訳ではないので、補足し
(伊藤)森沢さん、ありがとうございました。パ
ます。決められない原因の半分は「能力」です。
ネリストの皆様に、問題意識、問題点、我々に不
そのポジションにつくまでのキャリアで、そもそ
足な点をお話しいただきました。森沢さんからは
も戦略的な意思決定をしてきた経験値が無いとい
トップの能力が不足している点、物事を決めない
うことです。現状のトップ登用はほぼ100%内部
文化、動機がどうか、覚悟が足りないのではない
昇格によるものですから、現状のトップは、同じ
かということ。もう少しお時間をいただきまし
ように決める経験をしたことがない上司・先輩に
て、これからの話に続けていきたいと思います。
より引き上げられ昇格してきたのです。これは循
どうでしょうか、岩井さん。ここからは自由に
環問題なのです。
お話ししていただいて結構です。パネリストの皆
もうひとつの原因は「社内の仕組み・慣行」で
様は、最初は経営管理などのお仕事をなさってき
す。トップが決断しなくて良い、日本独自のガラ
たけれど、今は、事業で勝たなければならないあ
パゴス制度・ルールが山のようにあります。稟
るいは勝ちたい、そして人としてどうあるべきか
議、根回し、合議、会議への当事者以外の陪席、
に話題が集中しているような気がします。そう
トップを取り巻く多くのコーポレートスタッフ。
いったことも含めて、これからについて岩井さん
これらスタッフの中でも、特に経営企画部門のス
からぜひお話をいただきたいと思います。
タッフは責任重大です。トップが決断するための
材料の編集・分析に徹していれば良いのですが、
●ロジック、そしてアートとパッション
トップに図るための代替案をいくつも策定し、あ
(岩井)先ほど私は戦略的思考とスピードと言っ
げくの果てにトップも「企画としてはどうなの
て、尾形さんは戦略的思考はあまりいらないと言
だ?」などと聞く。グローバル企業に経営企画部
われたのですが、私はやはり必要だと思っていま
門はありません。少なくとも日本の大企業に見ら
す。まさにどこに手を打つかが分かっていればや
れるような業務を生業とするコーポレートスタッ
り続ける、また先ほど言ったような動機があっ
フはいません。これについては機会があれば後で
て、世界一になるのか日本に留まるのかといっ
言及します。
た、まさにそこが戦略的思考の出発点だと思いま
これら「経験の欠乏からくる能力の無さ」と
す。それは単純にロジックで導かれるものだけで
「企業内では強いパワーをもった取り巻きスタッ
はなく、恐らくそれを超えたパッション、それか
フ」という2つの要素は、従来のやり方の延長線
ら戦略も想像しなくてはいけないし、サービスや
上で、純粋培養方式でグローバル展開をしても決
モノもイノベーションしなくてはいけない。ロ
して変えられません。これまでの慣行を続けると
ジックを超えたアートとパッションが全部そろっ
いう慣性モーメントと組織中枢部の現役スタッフ
て、ここに決めたというところをやり続けること
の利害が強烈に渦巻いているのです。
だと思います。
では何がブレークスルーか? それは純粋培養
恐らくその中で、特にトップマネジメントが
方式の断絶です。それを可能にするのは、非連続
大きな決断をしなければいけないとすれば、今、
的かつ劇的な変化です。M&AやPMIは、もち
そのロジック、アート、パッションの三つとも、
ろん事業上のメリットを追求することを主眼に行
もっともっと強化しなくてはいけないと思いま
う手法ですが、実はこれらの「日本企業の常識=
す。ロジックはきちんとやっているように見えて
グローバル企業の非常識」を、一気に打ち破るこ
まだまだできていない。自分の頭で考え抜くと
とをもうひとつの狙いとして行っても良いのでは
か、最近のはやりの言葉で言えばインテリジェン
ないかと考えています。
スのようなものです。単純にインフォメーション
があるとか、過去のケーススタディをやりました
ではなくて、今起こっているそれぞれのインフォ
48
■
2014.3・4
メーションをどうつないで、まさに次は何なのだ
だと思っていますので、まずはそれを手に入れま
ろう、あるいは自分たちはこれをやられたら一番
しょう。
嫌だというものをちゃんと防衛できるだけのもの
それから、戦略的思考ももちろん私も賛成で
を持っているかといった部分も発揮するような地
す。ただそれが非常に硬直的な中期計画、もう破
頭、頭のロジックを使う。それが一つです。
綻した社会主義的計画経済のような中期計画を
そうやってロジカルに考え、これはやるべきや
作って、それをローリングして最終年度は全然合
らないべきかが導かれますが、さらには、理屈を
わないという話ではなく、戦略は大事ですが実際
超えた意思、パッションと、あとはアートすなわ
に実現可能なオプションが限られている中で、ベ
ち創造力だと思います。その部分に関しても、先
ターなオプションとは何かを優先順位を付けて追
ほど森沢さんが言われたように、合議といったこ
求していくことが大事だと感じています。私はこ
とをもう少し超えて、それぞれの事業部門や、そ
れを戦略的機会主義と呼んでいます。
の分権化、責任を明確化していけば、そこの部分
それから、これを言うと戦略スタッフの皆様に
で発揮できていくと思います。私たちはたまたま
対して挑戦的になるのですが、私は先ほど森沢さ
買収した会社がワンセットでいろいろなものを
んが言われた意思決定をしないトップとかそうい
持っていましたので、海外のたばこ部門に関して
うことも含めて、日本特有の経営企画部という組
言えば、ジュネーブにあるヘッドクオーターがほ
織が非常に悪い影響を与えているのではないかと
とんど全て、少なくとも日常のオペレーション
思います。不要不急な課題や曖昧な方向性に関し
や、先ほど言ったような小さな買収、いろいろな
て経営者の時間を使わせて、もっと大事なイノ
地域を広げていくといったところに関しては、日
ベーションや、企業の再編、グローバルにどう
本の本社からの指示ではなく、結構自立的に動け
やっていくのかという意思決定を迫れない、迫ら
るような分権化がされています。だから動きやす
ない。そういう屋上屋レベルの議論に経営者を誘
いし、スピード感も出る。しかし、では次はどこ
導しているのではないか。そこが非常に気になっ
へ行くのと言うと、割とオペレーション組織です
ているところです。
ので、俺たちどこへ行くのか分からないけど、と
にかく早くやるぞみたいなところはあって、そこ
●経営企画部と中期経営計画は要らない
に関しては私たちはまだまだです。そういう面
(森沢)経営企画部不要論が大先輩から出たので、
で、先ほどは戦略的思考という言い方をしまし
このタイミングで飛び込みます。私も日本企業が
た。その際にはロジックとアートとパッションを
大胆に捨て去るもののひとつは経営企画部門だと
磨いていくことだと思っています。
考えています。知人でグループ子会社の社長に出
向されているある方が、ご自身で社長の立場に
(伊藤)ありがとうございます。アートとクラフ
なって、如何に自分自身が考えて活断をしなけれ
トとサイエンスと言ったのはミンツバーグでした
ばならないかを初めて痛感されたとおっしゃって
ね。昔から強調されていました。
いました。逆に言うと親会社での企画部門での仕
尾形さん、打ち返されましたが、いかがでしょ
事が、如何にトップの決断の機会を奪っていたか
うか。
ということだとも言われていました。本来トップ
自身がビジョンや経営戦略、中期経営計画の中核
●インテリジェンスと戦略的機会主義
(尾形)もちろん戦略的思考は大事だと思います。
部分は考え決断しなければならないのです。ス
タッフがすべきはその意思決定を支えるための調
もう少し具体的に言うと、インテリジェンスはと
査分析業務に限定されるべきです。
ても大事です。M&Aやアライアンスの仕事をす
飛び込みついでに、他にも捨てるべきいくつか
ると、市場参加者との直接コミュニケーション・
のものを列挙します。まず「3カ年」とか「5カ
議論の中で社内的な情報や議論よりもっと生きた
年」とか、日本人にしか分からない縁起の良い
情報を手に入れることができる。それが大きな差
数字の期間で固定された中期経営計画は不要で
2014.3・4
■
49
す。ビジネス環境と「今年は中計何年目だから」
ハンディキャップだと思います。
というものは一切関係ありません。さらに、経
少しエピソード的に言うと、昨年10月に新日
営のWILL(意志)がこもっていないダイバーシ
鐵住金という会社が誕生して、粗鋼生産量で世界
ティー方針やCSR経営方針等々。他社がやるか
2位になりましたが、そのことをオイルリグの
らそろそろ当社も的な、形だけ掲げられているモ
トップカンパニーであるシェル石油に、定例説明
ロモロのポリシーやスローガンは、市場競争に
をさせていただいたのです。そして、一通りプレ
も、オペレーションにも、従業員の意識やマイン
ゼンが終わった後に向こうから返ってきた言葉
ドセットにも実効的なインパクトはありません。
は、「So what ?」でした。世界2位の粗鋼生産
最後にもうひとつ。額縁に入れられて、高尚な
量が俺たちに何をしてくれるのだということで
位置づけに祀られているだけの「理念」も要りま
す。お客様を意識すると、ではどういうビジネス
せん。自社の創業の精神なり、基本理念なりが
にフォーカスした形でこれを強くしていくのかと
あったとして、それをグローバルな従業員に本当
いう視点が出てきます。そうでないと、大きく
に腹落ちするレベルまでコミュニケーションし、
なったからいいとなってしまいます。それは非常
日本人以外の従業員から見てその理念への理解と
に不幸で、一個一個弱い事業が積み重なって大き
共感が、実際のオペレーションの変革までもたら
くなっていても発展性はない。グローバル展開も
している企業は、日本企業の中にはほんの一握り
当然できないと思います。そういうところからま
しかいません。多くの日本企業は、その「理念」
ずやっていくことかなと、最近はよく考えています。
を経営のツールとして、特にグローバル規模で活
用しようとはしていません。
(伊藤)高橋さん、ありがとうございました。そ
理念に価値があるのであれば、それを取り出
れでは、古田さんにお伺いします。明治は海外比
し、現地人にMake Senseするように翻訳し、徹
率が高いわけではない、どちらかといえば国内型
底的にコミュニケーションし、従業員のモチベー
の会社だと思いますが、古田さんはペンシルバニ
ションなり業務品質改善なり能力向上に反映さ
アに赴任されていたこともありますし、そういっ
れる水準まで、やるならトコトンやるべきです。
たところもお詳しいと思います。よろしくお願い
少々熱くなってしまい、申し訳ありませんでした。
します。
(伊藤)森沢さん、盛り上げていただいてありが
とうございます。もう少し広げていただいても構
いません。高橋さん、自由にご発言ください。
●残すものと捨てるものを自ら仕分けする
(古田)当社は海外の売上比率は低いのですが、
事業拠点は結構ありまして、それがなかなか伸び
ていないという悩みがあります。今森沢さんたち
●事業にほれ込み事業を強くする
(高橋)グローバル展開をしていくときに、会社
50
■
が言われた経営企画不要論、中計不要論は、実は
私も賛成です。世界で経営企画という機能はあま
を強くするのか事業を強くするのかが重要です。
りなく、経営企画と言われてもアメリカ人もヨー
やはり事業を強くするという視点から始めてトッ
ロッパ人もよく分からない日本独特の組織です。
プラインという視点も出てくるし、森沢さんが
M&Aの専門組織はちゃんとあるのですけれど
おっしゃるようないらないものを捨てていく思考
も・・。これは恐らく日本の今までの歴史の中で
回路が生まれてきます。経営企画もそういうとこ
トップをサポートする、そういった機能が求めら
ろをサポートする形で入ってくれれば存在価値が
れてきて、それが各社みんな横にならえという形
あるのかもしれません。事業にほれ込んで、みん
でできたのだろうと思います。
なでどういう姿でやっていくのがいいのかを徹底
私は個人的には経営企画無用論ですが、経営企
的に追求することが大事だと思うのです。日本は
画が機能するのであれば残せばいい。つまり、残
まだコングロマリットの会社が結構あり、なかな
すものと捨てるものはきちっと取捨選択しないと
かピュアプレイにいけていない。それはかなりの
いけない、日本企業が一律に横並びでやるのでは
2014.3・4
なくて、各社がそれぞれ考えてやるべきことだと
いて何でモチベーションをかければ人が動くのか
思います。たとえば終身雇用は、以前、日本企業
は職種や産業、その時々の展開している国などに
の悪みたいなことが言われましたが、最近は、終
よって違うと思うので、多様な中でどういうポリ
身雇用があるからこそ企業へのロイヤリティがあ
シーでやるのかだと思います。
り、それが企業の長期的発展にも寄与するのだと
森沢さんが言われた中で、理念は絶対に必要だ
いう論調もあるわけです。やはり各社それぞれの
と思います。ソフトバンクみたいなところは創業
生い立ちや事業の内容、特性などを考えてやって
者がいるので、創業者イコール、言うことなすこ
いかないといけないと思います。たとえば先ほど
と全てが初めから理念でありDNAなので、明示
私は日本人の優秀な点を言いましたが、海外の企
する必要もなければ、その場で嫌なものは嫌、こ
業はjob descriptionが決まっていて、他人の仕事
れをやると言えばいいだけの話だと思います。し
には絶対手を出しません。他人の仕事に手を出す
かし、明治さんや私ども、鉄鋼もそうだと思うの
と、「私の領域を侵害した」みたいな形で怒られ
ですが、もう少し長くやっていて、創業者がいな
ます。そうすると、Aという機能とBという機能
くなっているけれどもDNAを残すには、それを
の隙間を埋める機能がないわけです。しかし、日
きっちり明示化する。格好良いスローガンをつく
本人はそこら辺が何となく曖昧なので、AとBと
ることが目的でもないし、やってもいないことを
いう機能の間をうまく誰かが埋めてくれるという
言えば言うほどきっと社員もしらけていくので、
ことがあり、シームレスで会社が運営できるとい
やれること、本当にやっていることを明示化す
うメリットもあるわけです。
る。そして、言った限りはその通りにやる。言っ
日本人には日本人の良さがあるけれども、この
ていることとやっていることが違うは一番効果が
ごろ自信がなくて、「グローバルスタンダードが
なくなってしまいます。そのDNA、この軸があ
やはり良い、日本のスタンダードは良くない」と
るから自分たちの価値、存在意義があるというと
いう極論になりがちです。しかし、日本の仕組み
ころのない企業は長く存続できないと思います。
の良いところ、あるいは自分の会社の良いところ
を客観的に見て、その中で残すもの、捨てるもの
(伊藤)岩井さん、ありがとうございました。い
をきちっと仕分けないといけないと思っています。
ままでのパネリストの方々のお話が会場の皆様に
どのように聞こえたか、これからお聴きするのが
(伊藤)古田さん、ありがとうございました。岩
楽しみです。事業やお客様を中心に考えて、人が
井さんが先日、日本の良さはチームにある、JT
覚悟を持って動くことが実現するといいなと、感
インターナショナルの現場で、個人主義ではなく
じています。
日本の文化を反映してうまくやっているという話
もされていました。教えていただけますでしょうか。
●多様性のなかでの経営とDNAとしての理念
(岩井)KPIやインセンティブをどういう単位
3.質疑応答
(伊藤)それでは、これからフロアの皆様から質
問や意見をいただきたいと思います。
で組むかは、国民性もあり日本の場合にはそうし
なくてもチームワークやチーム力がきっとあると
思うのですが、そうでない人たちに一定の目標を
(1)経営人財や事業に必要な人財をどう確保す
るのか?
持たせるために、JTインターナショナルはいわ
ゆる欧米型の企業なのですが、個人の成果主義で
(質問:A)それでは、単刀直入に岩井さんにお
はなく全社の利益が還元されるようにあえてして
聞きしたいと思います。
います。そのことによって自分だけが良いという
先ほど経営者の問題が森沢さんから出ました
形にさせないやり方が、この10年ぐらいは結構
が、確かにそういう部分は日本の企業の場合には
うまくいっています。でも、どういう事業をして
大きいと思います。日本では専門経営者の市場は
2014.3・4
■
51
なかなか出てこないと思います。外資系などは結
ちらかのパターンが企業文化なりトップマネジメ
構移動します。電機業界であれば、日本IBMの
ント改革にはすごく効果があるのではと思いまし
出身者は結構いろいろなところで活躍しています
た。感想です。
が、当社の元経営者はどこかの外郭団体くらいに
しか行かない。そういうのは、そういう市場がで
(高橋)今のことに一言加えると、グローバル企
きた方がいいのか。それとも、日本の企業はいろ
業になりたいのであれば、やはりCEOはグロー
いろなシステムを改善していく必要があるにせ
バルで顔が利かないと駄目でしょう。あるいはグ
よ、下から上がっていき、きちっと自分の会社で
ローバルで力を発揮できるルートに非常に強いコ
頑張った方がいいのか。その辺はどうお考えですか。
ネクションを持っている人です。私たちのパート
ナーであるフランスのパイプの企業はエコール
(岩井)難しいですね。先ほどちょっと高橋さん
ド・パリの一軍が必ず順番にCEOに入ってき
が事業と企業、組織と分けていました。どこまで
て、事業をやっている人間はCOO止まり。で
事業をして、きっちりと把握した上で改革ができ
も、その組み合わせの中でグローバル展開がもの
るかという部分でいうと、それなりの事業の経験
すごいスピード感で、あとは日本企業がまねでき
が必要だと思います。ただ、グローバルな展開
ないような政治力も使いながらやっています。そ
や、事業としてもある程度多角化をしたときのC
れぐらいのしたたかさは必要だと思います。そう
EOが何をすべきかについては、少し性格が異な
いう意味で役割分担があっていいし、プロが来て
る気がします。全ての事業に知悉しているわけで
もいいと思います。
はないし、全てのリージョンの文化特性まで知っ
ているわけではないときに、そのCEOがどうい
(伊藤)今多くの皆様が思っている制約の範囲で
うことをやるべき人で、どれぐらいのことに、何
物事を考える必要はないのでしょう。工夫や苦労
に時間を費やすかといったことから逆算すると、
の中で高橋さんの答えのようなことが生まれたと
先ほど森沢さんがおっしゃっていたような、どう
思いますが、トップの企業もどこの企業もやはり
いうスタッフがつくべきかにも関わってきます。
きちんと回しているわけですから、トップの能力
また、その人がどこの出身かにも関わってきま
が低くても、もう少しそれを補完できるチームな
す。もともとの親会社の事業なのか、うちで言え
ら、やりようによってはできる。でもトップを甘
ばJTインターナショナルの社長がトータルのC
やかす必要はなさそうです。どうでしょうか。そ
EOになった方がいいのか、それとも外から来て
の話でも結構ですし、他の質問でも結構です。
できるのかに関わります。たとえばネスレなどを
見ていると事業の出身者が多いは多いですが、事
(2)理念、バリューは必要か?
業の出身者だから、日本の家業のように製品の一
個一個まで全部見なくてはいけないということは
(質問:B)先ほどの経営理念の議論がすごく面
彼らはしていない。そういう点が違いだと思います。
白かったのですが、森沢さんは経営理念はいらな
いとは言っていない。森沢さんが言ったのは、経
52
■
(A)尾形さんから経営企画部はいらないのでは
営理念にしろ何にしろ、分かるように伝えている
ないかと非常に本質をついたお話があってふと
かと言ったのです。これがすごく大事ではないか
思ったのは、ゴーンさんのように、同じ自動車で
と思います。
すがポーンと違う文化を持ってきて、ブレーンで
経営理念という言葉自体をどう英語に訳すか
社内のよく知っている人を使って改革をするとい
と い う と 結 構 難 し く て、corporate philosophy
う方法が一つ。もう一つは、社内の人がトップに
な ん て 表 現 し て い る け れ ど も、 海 外 の 企 業 で
行き、経営企画部はやめてしまって、外へ出るこ
corporate philosophyと い う 表 現 を 使 っ て い る
とに対して、本当にトップがやりたいことを絵に
と こ ろ は 多 く な い の で す。missionと い う の は
書く優秀な者を側用人として持ってくる。そのど
割と具体的にあるのです。逆に、日本の企業で
2014.3・4
missionはなかなか出てこない。だからDNAに
たリボン図に表されている顧客と向き合えている
しろ、われわれ企業は何に拠って立っているの
ことです。リボン図は二つの顧客を表していまし
か、何によって存在しているのかについて、日本
て、一つがjob seekerであったり消費者という個
企業がもう少しmissionというような考え方を明
人です。もう一方が企業、ビジネスです。われわ
確にして、われわれは社会に対して何をしている
れの事業は二つの顧客と向き合って、その真ん中
のだと。利益を稼ぐというのは結果としてある
で二つの顧客の満足を高める。顧客の「不」を解
が、社会に対して何をしているのだと。それをや
消するのが事業です。それが共有できるかどうか
はり世界の従業員、ある意味で仲間にどう伝えて
が、成功を決定する一番のファクターです。
いけるか。ここが、やはり日本企業の一つの弱点
で、これからやっていかなくてはいけないことだ
(森沢)先ほど高松さんがシンプルにTシャツに
と思います。
書けるような文言と言われましたが、外国の企
その中で、ドラッカーがこういう表現をしてい
業にはstrategic principleというものがあります。
ます。「missionというのはTシャツに書いてふさ
広く普及した概念ではないですが、短いステート
わしい表現でなければいけない」と。すごく印象
メントに当社のこだわりや独自の提供価値を凝縮
的な言葉です。会社の難しい経営理念をTシャツ
させ、それを行動指針や行動評価にまで連動させ
に書いて誰が喜ぶのだろう、分かるのだろう。グ
ようとするものです。有名な事例としてBain &
ローバル企業、確かに成功していると言われてい
Co.という米国のコンサルティング会社の「True
る企業は、割と平易な言葉でまさにそのあり方を
North」があります。つまり「羅針盤が常に北を
探っています。そういう面で言うと、これは尾形
指すように、Bainのコンサルタントは例えクライ
さんにお聞きしたいのですが、リクルートさんの
アントの意向と反しても、常に企業価値創造に対
リボンの図はとても分かりやすい、多分、グロー
して正しい解決策を提示する」ということです。
バルに通用する概念ではないかと思います。その
ことも含めて、今の問いかけに対してコメントい
ただければと思います。
(古田)旧明治製菓の時代の話ですが、非常に立
派な企業理念や行動指針を英訳して外人に見せる
と全然分からなかったのです。何を言いたいのか
(尾形)経営理念、価値観は、私も非常に大事だ
理解できないと言われました。それが今の高松さ
と思っています。M&Aをやっていて、三つの輪
んのお話であり、森沢さんのお話だと思います。
を書くのですが、一番上の輪が「共通の価値観」
mission、企業理念、strategic principleでもいい
です。私もこれが一番大事だと思っています。こ
のですが、われわれの会社がどういう方向に向
れが擦り合うかどうかで、やはりM&Aなりアラ
かっていくのか、どういう会社なのだというのを
イアンスの成否が決まります。
きちっと伝えていく、あるいは社内で共有化して
次 の 輪 が も う 少 し 小 さ い の で す が、「 シ ナ
いくのは非常に重要です。しかしそれが往々にし
ジー」、一緒になってメリットがあるのかです。
て言葉が長過ぎたりまた情緒的過ぎて何を言って
これは誰かの言った言葉で、「二つの『とく』」の
いるかよく分からないというわなに陥りやすい。
うち、道徳の「徳」を書くのが上の方の共通の価
ですから、非常にシンプルで誰が見ても分かる、
値観の方で、損得の「得」を書くのがこのグルー
あるいはきちっと価値観を共有できるような作り
プシナジーです。この二つがないとやる意味がない。
方をしていかないといけないと思います。弊社が
三つ目の丸はもう少し小さくていいのですが、
できているのかというとまだ不十分なので、反省
共通のルールや規範です。これがないとやはり成
も踏まえてお話をさせていただきました。
功できません。実際にリクルートの売り上げの2
割は今、買収した海外の会社なのですが、非常に
(高橋)グローバルに出ていくときには確かに、
うまくいっています。一緒になって良くなったこ
何を前面に押し出して理念とするかバリューとす
とが実感できることと、先ほど高松さんに言われ
るかは一回引き直した方がいいと思いますが、な
2014.3・4
■
53
るべく自然な、特に海外で日本人が評価されてい
ちと思うのですが、クリエイティブな解を見つけ
るものが良いでしょう。何だと思いますか、伊藤
る以外に、変身を加速するに際して、人が絡んだ
さん。
ときにどう処理するか、何かうまくやられていた
ら教えてください。
(伊藤)信頼でしょうか。
(伊藤)雇用が絡んでということですか。
(高橋)そうなんです。私たちもパイプを届ける
ビジネスをやっている中で痛切に感じるのは、日
(質問:C)組織単位や事業単位でどこかに出す
本人はうそをつかない。それから、技術も単にも
にしても、ぎりぎりの、やらざるを得ないという
のが良いというだけではなくて、トラブったとき
状況ではなくて、うまくやっていらっしゃったら。
にすぐ飛んできてやってくれる。だからおまえら
に任せるんだということなのです。だからこいつ
(伊藤)どうでしょう。捨てるご経験がある方。
らとやっていたら絶対大丈夫だというのがオイル
メジャーの評価なのです。
(尾形)8社ぐらい医薬外事業を売却した立場で
そこはやはり多分日本人というブランドなので
言いますと、当時は医薬への集中で、医薬外事業
す。そこをベースにして組み立てたものをアピー
は全部いらないと決めました。でも良かったの
ルすると、グローバルで通用しながら他のグロー
は、それぞれの業界でニッチですがかなり良いポ
バルカンパニーに対する差別性も構築できると思
ジションを取っていてまだ余裕があった時期なの
います。
で、非常に良い形で業界の雄の方といわゆる撤退
の一手段としての移行型のJVをつくり、数年間
(3)事業をどう伸ばし、どう手放すか?
のJV期間を経て売却する形にしたので、少し
クッションがありました。余裕のあるときに撤退
(伊藤)missionの話もございましたし、トップの
のためにJVを活用するのは良いやり方だと思い
話もありましたけれども、実行とかM&Aとか、
ました。
そういったところもお詳しい方々に、他にご質問
もう一つ、当時ある事業部を「良い子、悪い
はございますか。
子、普通の子」の3つに分けたのです。私がつら
いと思ったのは、悪い事業にされた人たちは、逃
54
■
(質問:C)捨てなくてはいけない、変身しなく
げ道がないので逆に一生懸命生き残ろうとあがき
てはいけないという議論があったと思います。将
ます。私はそのときにはむしろ良い事業と悪い事
来的にはどん詰まりだなと思っているものに対
業を一緒にして、悪い事業をみんなで捨てて良い
し、人単位ですとか組織単位で捨てなくてはいけ
事業の方に、事業内でシフトできる逃げ道を与え
ないかもしれないと思っていても、なかなか経済
た方が良かったのではないかと当時思いました。
合理性だけで判断できなくて、他にうまい活かし
捨てられる側になるのはみんなつらいので、そう
ようがあるのではないかと探ったり、捨てるにし
でない方がいいと思います。
てもより良い捨て方があるのではないかといった
日本企業は日本市場の中で生き延びようとして
悩みがあります。
どんどん多角化しましたが、シナジーがない事業
でも活かす、捨てるの二つはクリエイティブな
を一緒にして、家族として、共同体としていろい
ので、簡単にはそんなに良い解は見つからないか
ろな事業をやって食っていくことになってしまい
もしれなくて、結局最終的にやらざるを得ないか
ました。けれども、これからはそれでは勝てない
らやるといった感じで捨てる。そういう結論に陥
と思います。再編がなかなかできにくいなら、少
る、そういう終わり方、捨て方をしてしまうこと
し税制を変えて、大企業の事業を細かく分社化し
が多い気がします。
てしまう。そうして税額控除とか、税制のサポー
特に人が絡むと日本企業はそうなってしまいが
トが得られるように、社会全体でなったらいい。
2014.3・4
そうしたら、あとは自分たちの事業が強くなるた
人材は、経営人材候補として複数部門を計画的に
めに、あるいは足りないものを補うために、どこ
異動しながらスキルを磨き、昇格・登用されると
とくっついたらいいかをみんなが一生懸命考える。
いう仕組みになっているはずです。
そのことによって流動化する。個人が流動化しな
部門間ローテーションをやっている多くの日本
いのなら、事業単位で組織を流動化させるという
企業では「黒字部門が赤字部門を食わせてやって
考え方があってもいいと、今は思っています。
いる」という観念が染みついていたり、赤字部門
の人材が処遇面でも冷遇されていたりします。こ
(伊藤)尾形さん、ありがとうございます。全く
賛成です。
れはおかしいです。黒字、赤字の事業部門を持つ
か持たないかは、あくまでコーポレートの判断で
あって、部門で働く従業員の責任ではないので
(古田)私も経営企画時代にM&Aを結構やって
す。たとえ赤字部門でも赤字なりの良い成果(業
いまして、尾形さんほど派手ではありませんが、
績)はあるし、したがって処遇的にも黒字部門を
本体の事業や子会社をスピンアウトしたり、清算
上回るという状況はアリです。事業単位で出し入
したりという仕事もしておりました。
れを行うのであれば、部門別採用・部門別活用に
その時にしみじみ感じたのは、結局、今の質問
切り替える必要があります。
に対して正解はないということです。尾形さんの
お話にもありましたけれども、もうどうしようも
(伊藤)お三方ありがとうございました。とにか
なくなって、大赤字になって、売却するとか清算
く全事業を強くすれば問題がない。ドメインに
するというのは結構みんながつらい世界になると
入っていなければ強いうちに売るといったことを
思います。だからその手前でそういう判断をする
高橋さんもおっしゃっていましたね。高く売れ
ことが必要なのです。しかし、手前で判断する
る、そこにいる人も幸せに移れるので、とにかく
タイミングは、今のお話のようにやはり情が出
全部強くしましょう。
てきて、「まだ黒字が出ているからいいよね」と
か、「まだもうちょっと何とかすれば何とかなる
(4)M&Aをどうスピードアップするか?
んじゃないか」みたいな議論になりがちです。け
れども、やはりコア事業でないと決めたら、今の
(質問:D)貴重なお話をありがとうございまし
「良い子、悪い子」にように、ある程度まだ利益
た。スピードアップは一つ問題意識としてあり、
が出ているうちに見極めていかないと、本当に大
意思決定の仕方の違いもあると思いますが、そこ
赤字になって決断するとお互いに非常につらい思
はなかなかすぐには変われない部分だと思いま
いをしないといけない。これが私の経験です。私
す。特にM&Aのときなどにスピードアップをし
は、最終的にはどういう基準で判断したらいいか
ていくために、具体的に、こういうご経験でこう
という結論はでませんでした。
いうところが一つポイントになるというお話があ
ればぜひお伺いしたいと思います。
(森沢)私は、親会社が全社レベルで新卒を大量
一括採用し、数年ごとに部門間をぐるぐる異動す
(尾形)M&A絡みということであればいくつ
る日本従来のやり方も、このように事業単位での
かあります。やはりその業界をずっと見て、高
出し入れが必要な時代には、見直すべきと考え
いときもあれば安いときもあるので、ずっと研
ています。HOYAでは戦略本社の傘下の4カンパ
究 し 続 け て、 良 い 買 い ど き に 買 う の が 正 し い
ニー毎にあたかも別会社のように人材が採用、配
買い方だと思います。つまり、BD(Business
置、育成、処遇されています。部門間異動による
Development:事業開発)のプロはいつも研究し
人材の流用メリットよりも、市場別の人材プロ
ておき、そのタイミングで買う。この会社は買い
ファイル、報酬レベルの適用のメリットを意図的
たい会社だということと、その情報をずっとイン
に取っているのです。もちろん一定レベル以上の
テリジェンスで集めておく。そうすると速く意思
2014.3・4
■
55
決定ができます。
るようにM&Aをしてもなかなかうまくいかない
もう一つは事業オーナーです。その事業を買う
こともあります。「チャンピオンが誰であるか」
オーナーを決めて、その人に権限を与えないとい
が一つとても大切なことではないかと、今までの
けません。私は事業オーナーではありません。サ
M&Aなりプロジェクトをやって感じます。
ポートする方です。ただ、そのときに必ず私ども
を一緒にリードする人、オーナーがいて、その人
(伊藤)ありがとうございました。オーナーシッ
が本当によく考えて分かって意思決定して、それ
プがとても大切だということですね。そういう方
を経営会議なり取締役会にかけていく。その人は
を育てる、そういう候補を育てなくてはいけない
説得力があるので、通りやすい。日ごろの準備
というのもあるでしょう。
と、事業オーナーを強くすることがスピードアッ
プのコツだと思います。
(5)戦略スタッフはどうあるべきか?
(岩井)私もM&Aに関して、尾形さんととても
(質問:E)本日のお話の中で経営企画部はいら
似たことを言います。たとえば私どもは2段ロ
ないのではないかという話が出てきましたが、私
ケットで海外たばこ事業をやって大きくしまし
は実は経営企画部に異動して2カ月になるので、
た。RJRという会社を買い、その後にギャラ
そんなことを言われると明日からどうしようかと
ハーというイギリスの会社を買ったのですが、特
すごく困ってしまいます。経営企画部はいらなく
に2回目のときは、ギャラハー以外にもやはりい
ても構わないのですが、戦略スタッフは必要では
くつか候補がありました。どの会社がどういう地
ないかと思っております。こんな戦略スタッフが
域でどのようなブランドを持って何が強いか、ま
あるといいのにとかそういったところでコメント
たはケミストリー的にどちらの会社の方が統合す
をいただければと思います。
るときにバリューといったものが共有できるかど
56
■
うか、いわゆるトップレイヤーだけではなく、第
(森沢)私からはグローバル企業では、日本で一
2層くらいのバイスプレジデントクラスの人たち
般的に言われる経営企画部門の仕事はどうなって
の顔まで全部リストアップして、こういう人を残
いるかをお話しします。まず先ほども言った「中
さなくてはいけないといったことまで、かなり十
計策定およびローリング業務」というのは存在し
分に準備をする。あるいは、ここはこういうふう
ません。多くの企業で「計画」と呼ばれるもの
な形だったら買うチャンスがあるとか、上場会社
は、定量的なゴールが明示された中長期ビジョン
だと株価が不当に高くなっていくときには今は行
と単年度の事業戦略・予算の2本立てですので、
かないといったことを社内で何度も議論しまし
中期経営計画自体が存在しません。
た。そのたびに情報の蓄積をきっちりした上で
ビジョンや事業経過の企画立案業務は誰が担っ
やっていたので、そういう意味では行くときには
ているかというと、事業部門長自身がそれを行い
速いという形だったと思います。
ます。事業部門長の頭の中が経営企画室になって
それからもう一つは、それをやるときに、事業
いるのです。もちろん、事業部門長を支えるア
主体やコミットとはすこし異なるかもしれません
ナリストや調査スタッフを「Assistant to CEO
が、そのBDの人であっても、チャンピオンみた
(もしくはCOO、SVP、等)」あるいは「CE
いな人、こういう言い方をうちの会社ではするの
O Office」という肩書で置く場合はありますが、
ですが、絶対にそれをやりたい、やるべきだと
それはMBA出たてのバリバリ働く若者アナリス
思って組織の中で推進する人がいるプロジェク
トが少数、腕試し的な位置づけで雇われる形のみ
ト、それはM&Aだけではなくていろいろなプロ
です。あるいは昇格の登竜門として、時限的に事
ジェクトでもそうですが、チャンピオンがいるこ
業部門長の秘書として仕える、という形態です。
とはとても大切です。チャンピオンなしに「私買
また業績管理のような業務は欧米の企業では
う人、あなた事業する人」といった受け渡しをす
Finance部門の中のControllerグループが担いま
2014.3・4
す。財務業績を中心にしたPDCAプロセスは彼
是としないで変えていく心構えが常に必要だと思
らが主導します。しかしそれら財務業績の結果を
います。もう少し格好良く言えば「革新」とか
受けて事業面での決断を下すのは、やはり事業部
「イノベーション」とかいう言い方でもいいと思
門長自身です。
いますが、やはり現状からどのように会社を変え
日本のように何十人もの中核・中堅のスタッフ
ていくかを常に考えておかないと経営は成り立た
がトップに近い位置づけに組織化され、強い権
ないし、経営をサポートする戦略スタッフも存在
限をもち、中計とりまとめ、事業計画の進捗管
価値がないと思っています。
理、業績評価管理、経営会議事務局、事業部門へ
のあれこれの宿題出し等をしているような部門は
(尾形)昔、経営企画に悩んで、『ドイツ参謀本
ガラパゴス的に進化してしまった日本企業特有
部』という本などで軍の参謀本部はかなり研究し
のものです。私も米系のあるコンサルティング・
ました。当時、ナポレオンの後にドイツが参謀本
ファームと提携して日本企業を一緒に支援してい
部をつくり始めたのです。最初に常設の参謀本部
ますが、あらゆる意思決定の場面に登場する経営
をつくったときに、特に軍が大規模化していたの
企画部門をCorporate Planning Deptと訳しても
で、平時に戦闘計画を決める必要性があった。た
「What are they?」と聞かれてしまいます。
だ、今の大企業がそれをやっていていいのか、束
ねていていいのかは非常に疑問です。先ほど高橋
(伊藤)だんだんと終わりに近づいてきておりま
さんが言われたように、私は会社単位というより
すが、戦略スタッフのあり方はそれぞれの方にお
は事業を強くするという観点から考えた方がい
聞きしたいと思います。
い、そこで事業戦略が必要だったら、それは事業
戦略的な部門、これが経営企画だったらその人が
(高橋)経営者の考えていることをきちんと理解
やればいいと思います。
して共有化できるとおそらく良い戦略スタッフに
それともう一つ、参謀本部の大事な役割とし
なれます。それから、今、森沢さんがおっしゃっ
て、Reisenとドイツ語で言うのですが、平時に戦
たように、あるレベルのスキルがいろいろな分野
場になる地域の情報収集、インテリジェンスを集
において必要なのだろうと思います。それについ
めておくことが大事。そしてスタッフと現場の
ては皆さん意見があると思いますが。良い戦略ス
ローテーション、最後に帷幄上奏権です。戦時中
タッフになりたいという意志と、良い戦略スタッ
に日本でも問題になった参謀本部は、元帥である
フを育成したいと考えている経営陣が合致すると
天皇であったり皇帝に直接意見を上奏できる権限
すごく良い仕組みが出来上がります。先ほど経営
ですが、それを持つ戦略スタッフはあってもいい
企画はいらないという話がありましたが、私はや
と思うものの、それはもっと事業に密着してやる
りようだと思います。良い関係がきっと生まれて
べきだと今は思っています。いろいろな事業を束
くると思います。だからまずは自分の方から経営
ねている経営のレベルだけだと、どうしても会議
が考えていることは何なのか、今ここで議論した
体の設定であったり、議事録を書いたり、計画の
内容を一つでも二つでも実践していきながら自分
集計だったり、CFOコントローラーの仕事だっ
を磨いていくことが大事ではないでしょうか。
たり、そういう役目が多くなりすぎる気がしま
す。もっと事業に密着し、イノベーションや、そ
(古田)戦略スタッフという定義が難しいのです
の事業を拡大させる戦略を、プロジェクト単位で
が、広義に解釈すれば経営者をサポートしていく
もいいですから、そこに直接入ってやれる。そう
という役割でしょう。経営とは環境にどのように
いうスタッフだったらいいと思います。
即応していくか、対応していくか、変化していく
かだと思います。そういった意味で、戦略スタッ
(岩井)ジュネーブのJTインターナショナルに
フには先ほど私が申し上げたように、変えてい
コーポレートストラテジーという部署があり、5
く、変わっていくモチベーション、つまり現状を
~6人ぐらいの組織なのですが、やっていたこと
2014.3・4
■
57
は2つです。全体の年度のプランニングプロセス
悟として、自分の個としての意見をきっちりと持
をスタッフとして管理することと、もう一つはコ
つ。そして、常に人にそれを提示してみて、そこ
ンペティティブインテリジェンスのようなものを
からまた新たに得られるものを得ていくことがで
ためて、それをトップに対して定期的に報告す
きれば素晴らしいのではないかと思っています。
る、そういう部分が主な仕事です。日本に帰って
くると、そこに会議体の運営などが加わりますが
(森沢)本日は少々過激な発言が多かった気も
が、そういうことはジュネーブではセクレタリー
しますが、経営コンサルタントの立場からハッ
というリーガルの人が大体やります。リーガルの
キリとした物言いを心掛けたつもりです。物事
人がセクレタリーとして議事録を書き、KPIや
を決め切れないトップそしてそれらを支える戦
業績管理はファイナンスの方の人間がやるという
略 ス タ ッ フ に、 あ え て「 ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ
形で、かなり限定された本当の意味でスタッフ機
(Accountability)」というキーワードを最後に捧
能です。そこの人間は割と外から採ってきます。
げたいと思います。アカウンタビリティを「説明
逆に、社内でなかなかその人が売れなかったりす
責任」と訳すのは完全な誤訳です。企業不祥事会
るので苦労していたのですが、ある一定のコーポ
見や政治家答弁のシーンで「あの件の背景はこう
レートストラテジーの機能は最低限あると思うも
で、そういう経緯を辿って、ああいう判断があっ
のの日本の組織はそれが少し過大に期待されてい
て、だからこうなっちゃった」みたいにツラツラ
るし、それが定型業務になってしまうのが問題だ
と事後解説している人が、自分でアカウンタビリ
と思っています。
ティを発揮していると勘違いしている姿を目にし
ただ、なくてもいいが、ある限りは存在価値を
ます。違います。アカウンタビリティの正しい訳
見いだしたいのが人間の性だと思うので、そうい
は「成果責任」です。本日の議論に関連させて言
う面で私は、今このときのことは事業がきっちり
いかえるならば「チャンピオンとして、『個』と
やってくれるので、やはり明日のことを考えて提
しての強い意志を持ち、与えられた責任権限を最
示できる、それが戦略スタッフが存在する一番の
大限行使した前提の、究極的な成果責任」という
意義だと思います。これは本当に心構えのような
ことです。日本企業はこのアウンタビリティを欠
話かもしれませんが、自分がまさに社長になり代
いており、これは何度も言いましたが循環問題で
わるといった意識や、自分、個というものを大切
す。ですので、トップがアカウンタビリティを発
にしなくてはいけないと思うのです。私は経営企
揮してくれるのを待つのではなく、我々戦略ス
画にいるとき、社内の打合せで時々「経営企画さ
タッフが自らの意志(WILL)を強く持ってチャ
んが決めてくれれば」のようなことを言われるの
ンピオンとして今日から行動することが必要です。
で、「企画が決めろというのなら、すぐにこの事
業は止めましょう」というような話をあえてぶつ
4.おわりに
けてみましたが、「経営企画さん」とか「人事さ
ん」はいないのです。岩井という個人がいるかど
58
■
(伊藤)ありがとうございました。経営企画、事
うか。その個人がその立場なり、そこでの役割を
業企画出身者にもかかわらず経営企画を否定し、
きっちりと果たすということは、その場で果たす
そして事業を強くするということ、個を強くする
だけではなく、未来に向かって自分自身が、もし
ということに終始した、そういった会になりまし
部長だったら、今この会社の事業部長なり社長と
た。けれども私はそれが本質だと思っております。
してその事業を任されたら何をすべきかというこ
今日は、パネリストの皆様も、ご自分たちが
とを自分自身に問い、考えて、情報収集して、あ
スタッフだったときのことを十分に反省されて、
る一定のシナリオを組み立てて、それを提示して
「事業を大事にし育てることがなによりも重要だ」
みる。もちろんそれを食うか食わないかは今の
というお答えをいただいたと思っております。
トップですが、先ほど古田さんがおっしゃった覚
不十分な司会でございましたが、パネリストの
悟みたいなものが、スタッフはスタッフなりの覚
皆様、会場の皆様、本当にありがとうございまし
2014.3・4
た。では最後に、パネリストの皆様に拍手を差し
上げたいと思います。ありがとうございました
(拍手)。
パネル終了後に、高橋さまから振り返りのコメ
ントをいただきました。
【パネルに応えて、
OB・現幹事からのコメント】
●熱い思いと経営者意識を持ち実践しつづける
(三菱ガス化学 青木 康根 現幹事)
フォーラム参加者の皆さんと行う活発な議論は
●複数企業によるチームでの海外展開と価値創造
非常に有意義です。各社の実際の中計策定プロセ
(高橋)今回のパネルは、既に何らかの形で海外
スや種々の経営管理手法が役に立つのはもちろん
現地進出に踏み出している企業には、いろいろ頷
のこと、最も刺激になるのは、参加している皆さ
けることは多かったでしょう。しかし、まだ、そ
んの熱心な取り組み姿勢と熱い想いです。書籍や
の段階に達していない企業で、実は海外に出てい
セミナーで語られる経営理論や数々の分析手法に
けばすばらしい成長の種を有している企業、こう
頼るのではなく、自身がどう考えるのか、具体的
いった企業にはピンと来ないかも知れません。
にはどんな活動を行うかを問います。そのお陰も
これから、私たちが意識しなければならないの
あり、
「実際にどう戦うのか」
「どう勝ち残るのか」
は、海外でのポテンシャルを持つ企業と、既に海
を、経営者の視点で考え、いかに実行力を伴った
外進出を果たした企業が何らかの連携を取りなが
プランを提示し、どうそれらを実践するかを意識
ら、チームとしての海外展開を果たし、共同で価
するようになりました。
値創造に取り組むということかも知れません。
今回のディスカッションでは、かつて戦略ス
一般的に言うと、既に外国のメガ企業が牛耳っ
タッフだった皆様が、実際に経営層や部門長の立
ている領域へ日本企業が単独規模で挑んでも勝て
場になりどう考えているのか、どんな思いで取り
るケースはそう多くはないでしょう。他方、そう
組んでいるかをお聞きできました。皆さんが、当
いうメガ企業が目を付けていない領域に上述のよ
時の熱い思いをもったまま、経営の場で実践され
うな形で日本企業がチームとして連携して進出す
ていることに驚かされます。また「戦略的思考」
ることにより、単独進出よりもスムーズに勝てる
「想像力」「スピード感」などを意識しつつ、その
可能性が出てくると思います。
根っこにある「意思」「パッション」「覚悟」が大
海外へ行くと、日本人会という日本企業関係者
切だと改めて気付きました。
の集まりがあって助け合ったりしていますが、こ
この気付きを、自社の経営層や各階層の方々と
れを日本企業全体として体系的に行っていくイ
の対話を通じて、具体的な活動に落とし込むとと
メージです。経団連銘柄が十分な価値成長を果た
もに、新しい価値の創造につなげていきます。
していない中、経済団体ももう少しそのような
チーム展開を意識しても良いのではないかと考え
ます。
●想いを持って経営者・お客様・現場を常に意識
(NTTデータ 土屋 茂樹 現幹事)
そのような企業連合型展開は独禁法が障害とな
スタッフに限りませんが、新しい仕事につくと
る場合もあるというご指摘もあるかも知れません
まずは見様見真似でやってみて、ある程度の経験
が、有能な国際的ファームを雇えば、解決の道は
を踏んでやっと勘所がつかめ、大体こんなものか
提示してくれるでしょう。さらに言えば、海外の
と分かったつもりになりがちです。けれども今回
企業群はそういう面ではギリギリの線を追求しな
の議論のように、「経営企画部があったり中期経
がら、チャンスをモノにしています。決してキレ
営計画を作ったりするのは日本だけです」なんて
イな方法ばかりをやっているわけではありませ
聞くとやはり衝撃的です。そこまで本質的でなく
ん。その方法に比べれば、本当に正当で、日本の
ても、フォーラム参加企業の課題をメンバーと共
厳しいコンプライアンスの範囲で実行できる戦略
有し議論すると、なるほどそういう課題があって
展開の方法だと思います。
これらの対策をしているのかと気づかされます。
2014.3・4
■
59
各社がとった打ち手はそのまま自社に採用できま
検討していない。センシティブで、かつ労働法や
せんし、そうすべきでもありませんが、なぜそう
労働慣行等が深く関わってくる「ヒト」の課題は
いう結論に至ったかはても参考になり、仕事に活
聖域と見なされ、経営企画部は踏み込むことを躊
きていきます。
躇する。人事部は「ヒト」に関することを全て管
一方で、スタッフ経験後に違うポジションに異
掌したいが、戦略に関係してくると経営企画部の
動する時にも大きな気づきがあります。私自身、
領域だとして敢えて手を延ばさない。「ヒト」が
スタッフ経験後にグループ会社に出向して事業責
両部門の間で宙ぶらりんになってはいないか。
任を持つことになった時、責任の大きさに愕然と
事業会社の経営企画部と人事部、経営コンサル
しました。自分がうまく舵取りしないと社員の雇
タントを経験して、強く感じてきたことです。
用が脅かされる。社員の人生を背負うといったら
スタッフのミッションが、経営者の意思を真に
大げさかもしれませんが、戦略方針を資料にまと
理解し、職掌や職責に縛られずに自社に適した実
めて経営会議に付議すれば終わりではまったくあ
現方法を考え実現に導くことだとすれば、企画ス
りません。事業責任を持つ立場に立つと、若干の
タッフが戦略を議論する過程で「ヒト」の視点が
無理を承知であれをやろうこれをやろうと考えま
加わってくるのは、至極当然です。
すが、スタッフからはそれは難しいという応えが
本フォーラムは、スタッフの本来のあり方を気
返ってくる。そこでハッとします。ああこれがま
づかせてくれる場です。また、自然にこのよう
さに自分が経営企画部時代に経営陣に対して取っ
な方向に進んでいくのは、本フォーラムのメン
ていた態度なのだなと。
バー・OB・OGが、真の「スタッフ」であるこ
言われたことをやらされるのと、自分がすべき
とに対する強いコミットメントがあるからに他な
と思ってやるのには、天と地ほどの差がありま
らないと思います。
す。やはり今回の議論にも登場した「想いを持っ
ているか」が大きな差になります。「相手の立場
●顧客に日本発のどんな価値を提供するのか
に立って考える」はよく聞く言葉ですが、想いを
(東洋インキSCホールディングス 吉澤 靖 もって目線をあげ、「経営者ならどう考えるか」
「お客様ならどう考えるか」「現場ならどう考える
か」を常に意識することが大切です。
幹事OB)
今回のディスカッションを拝聴した半月後にフ
ランスの事業会社に赴任しました。赴任後3カ月
が経ち、改めて討議内容を読み返すと、大きく頷
●ヒトの視点から経営を考える
(BBL 佐藤 美和 現研究協力委員)
■
場特性は異なりますが、巨大なグローバル競合企
異業種勉強会は、ともすれば他社事例の収集に
業があり、各国でその国のニーズに応えている現
参加者の関心が傾きがちですが、このフォーラム
地の競合企業もある中で、「日本発の企業として、
では「グローバル経営」、「経営管理プロセス」、
どういった顧客にどのような価値をどう提供でき
「成長戦略」を主軸に、メンバー全員で、企業は
るのか?」という当たり前のこと、すなわち戦略
いかにあるべきか、そのためにスタッフは何をす
を突き詰めることの大切さを痛感します。「日本
べきかを真剣に考えています。
で売れているからこちらでも」は通用しません。
本フォーラムに参加して10年経ちますが、議
欧州の企業は「いかに競争を避けるか?」という
論の主軸となるテーマは、初めて参加したときか
視点を重視している気がします。よく言われるこ
らそれほど変化はしていません。しかし、近年
とですが、日本企業が競合同士で似た戦略を持
は、これらのテーマを「ヒト」の視点からも検討
ち、事業活動の頑張り度合いで勝負していること
するようになりました。
を改めて感じます。
事業の成功の鍵を握るのは「ヒト」であること
経営企画部門に6年在籍し、「経営者の立場で
については、誰もが認識しています。にもかかわ
考えること」を大切にして仕事をしてきました。
らず、「ヒト」の課題を戦略と結び付けて充分に
60
けることが多いことに気づきます。業界により市
2014.3・4
「悩み共有の精神」の下で戦スタでも多くのこと
を学ばせていただきました。そして実際に海外の
つ「生かされる」という道もあるように思いま
事業会社の経営に携わる身になると、前述の「戦
す。進出先のそれぞれの地域にさまざまな形で大
略の大切さ」と共に「やりたいことは沢山ある
きく貢献し、その地域の人々にとって無くてはな
が、なかなか思い通りにはできない」という悩
らない企業になれば、自ずと生かされるのではな
み、「人が大切」ということを日々実感します。
いでしょうか?
その上で、スタッフの役割を考えると「経営者
のやりたいことに磨きをかけ、関係者の巻き込み
も含めその実行を助け、推し進めること」である
と思います。
●ビジョン・戦略づくりとマネジメントを支援
(リコー/三愛 村上 清治 現幹事)
リコーに入社し、事業部門のスタッフや経営企
画、マーケティングスタッフ、子会社の社長と
●異なる国々の人々に貢献する不可欠な存在に
(JTB総合研究所 高松 正人 現幹事)
色々な経験をしてきましたが、あるきっかけで自
分の役割をリコーが「変革し続ける事」を引っ
最近、世界経済フォーラムなどの国際会議に出
張っていくことと決めました。今回のディスカッ
席する機会が何度かありました。会議では、世界
ションを拝見し、改めて変革をリードするTOP
に名だたる企業の経営者たちが、これからの世界
の役割やそれをサポートする戦略スタッフの役割
をよりよいものにするために、産業界はあるいは
を考えてみました。
個人としてどのように貢献できるか、何をすべき
TOPの役割は、ビジョン・戦略を考える(作
かを真剣に討議しています。日本からの参加者も
る)ことと実行を担保するためにマネジメントす
少なくありませんが、世界のリーダーたちとの議
ることです。ビジョン・戦略を考えるためには
論に積極的にかかわり、自分の考えを堂々と述べ
当然、自社の歴史・強み・経営環境の変化を認
る日本企業のトップはきわめて少数です。日本の
識し、常に自社の課題を把握する必要があるし、
経営者は、自分の会社の事業と業績のことで精
「やりたいこと」ではなく、将来の「ありたい姿」
いっぱいで、社会への貢献のことを考える余裕が
=ビジョンを明確に描かなければならない。そし
ないのでしょうか。
てそのビジョン実現のためのシナリオ(道標)と
ドラッカーは著書『実践する経営者―成果をあ
しての戦略をしっかり描く。その意味で必要なの
げる知恵と行動』で、企業買収を成功させる5つ
は中期計画ではなく「ビジョン・戦略」であり、
の原則の最初に「買収する側が買収される側に何
積上げ型・スタッフ策定型の中期計画に意味はない。
を貢献できるかを考えること」を挙げています。
戦略スタッフの役割は中期計画をまとめるので
今回のディスカッションで取り上げられたグ
はなく、ビジョン・戦略を考えるTOPのサポー
ローバル経営とM&Aに共通するのは、異なる
トのために自社の強みや経営環境の変化を定量・
国、異なる企業文化の人々にどのように「貢献」
定性で報告し、TOPの考えたビジョン・戦略を
できるかが、成否を分けることです。
ドキュメントに適切に分かりやすくまとめること
グローバルに事業を展開する企業は、進出先の
です。
国の人々の「この企業は、私たちにどんな価値を
もう一つの「実行を担保するためにマネジメン
もたらしてくれるのだろう」という問いに、こと
トする」では、その事業に適したマネジメントサ
ば(理念・哲学)と行動(事業)で明確に答える
イクルで財務や施策・KPIを確認し、重要なの
ことが求められます。たとえその国への進出の
は今後どういうアクションを取るかを決めること
きっかけが、より安い労働力を求めた生産拠点の
です。スタッフの役割はここでは非常に重要で、
移転であったとしても、その国から見れば、人々
TOP(社長や事業部門長)がマネジメントしや
に新たな雇用の場を提供し、より高いスキルを身
すいマネジメントシステムを作ることです。分か
に着ける機会を与え、その結果、地域の人々の生
りやすいシンプルな帳票をつくり、各担当者がセ
活の向上に貢献することが期待されているのです。
ルフマネジメントできるよう方針管理を徹底し、
「サバイバル」か「ビクトリー」か、もうひと
モチベーションを高める評価システムを作るな
2014.3・4
■
61
ど、すべきことは多々あります。
このように大きな意義があることは確かだが、
当フォーラムではずっとこういう議論をしてき
いま振り返ると、本フォーラムで話し合う内容は
ましたが、会社の変革をリードし、将来を描き、
20年前の第一期と現在とでほとんど変わらない
実行をしっかり担保できる戦略スタッフが多く輩
ことに気付く。確かに20年前にはグローバル化
出されてきたと思います。今後もこの会を通して
という観点はさほど大きくなかったが、それは外
切磋琢磨していきたいと思います。
部環境への対応面でのテーマ変化であり、「事業
責任者をサポートするスタッフの本質的な質の
【結びに代えて:その時々の正解に近
づくには、各自が考え抜くのみ】
向上」すなわち「こんなスタッフ集団が“Best
Team”である」という普遍的解答は得られて
いない。というより企業・業種を超えた“Best
Team”なるものは元々ありえない。個々の企業
本フォーラムの第1期から参加している者とし
や組織が目指す方向性(ビジョン)や顧客に提供
て、一言所見を述べたい。
する価値、そして自社が保有する資源・組織風
「戦略スタッフとはどうあるべきか?」「どのよ
土は異なるため、具体的な戦略は各社個別であ
うに事業部門長または経営者をサポートしていく
り、スタッフに望まれる役割や資質も企業ごとに
べきか?」という大きなテーマから、中期計画策
異なって当然である。その意味で、戦略スタッフ
定方法、経営管理や予算管理、そしてROE経
が自社に適合する戦略を立案する、すなわちその
営、キャッシュフロー経営、BSC(バランス・
時々での正解に近づくには、各自が考え抜くしか
スコアカード)等の具体的な経営手法について、
ない。服に合わせて身体を変えることはできない。
20年間企業・業種の枠を超えて議論してきた。
当たり前の結論になるが強調したいのは、異業
この場は、企業内で同じ組織文化や制約条件を共
種交流の意味がないのではなく、他社のやり方を
有する者同士だけでは得られない、多くの気づき
そっくり真似することは無意味である。しかし異
や新しい問題意識を提示してもらえる大変貴重な
なる経験をもつ人々との交流は必ず、正解を導く
場となってきた。さらには、知己を得たことによ
ためのヒントを与えてくれる。
り個別に一層深い交流が可能となったことも、本
フォーラムの大きな意義である。
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2014.3・4
株式会社国際社会経済研究所 南 稔