ドラグサクション 浚渫 シュンセツ 兼 ケン 油 アブラ 回収船 カイシュウセン

ドラグサクション浚渫兼油回収船「白山」
集油装置の高度化について
北原
厚生1 ・ 永野
1新潟港湾空港技術調査事務所
環境課
亮1 ・ 木村
(〒951-8011
尚志1
新潟市中央区入船町4丁目3778番地).
「白山」には、油回収効率を向上させる機能として充気式オイルフェンスを利用した集油装
置を搭載している.この集油装置は,搭載後10年以上が経過し,老朽化及び装置展張に時間を
要する等の課題が出ていた.本論文では,迅速な対応が求められる油流出事故現場で効率的に
油回収を行うため,各種実験結果を踏まえ開発した新型の集油装置について報告する.
キーワード ドラグサクション浚渫兼油回収船,集油装置,高度化
1. はじめに
2. 集油装置の課題及び改造設計の概要
ドラグサクション浚渫兼油回収船「白山」(写真-1)
は,国土交通省が保有する油回収機能を有した浚渫船の
1 隻である.「白山」は新潟港を基地港として運航し,
常時は信濃川河口に位置する新潟西港の航路浚渫を行い,
佐渡汽船,新日本海フェリー等が航行する生活航路を維
持している.又,タンカー等の油流出事故に対して日本
海および北海道沿岸の海域を担務地域として備えている.
(図-1)
「白山」には左舷船首側に投げ込み式油回収器 1 基と
両舷に舷側設置式油回収器 2 基の計 3 基の油回収器を備
えている.これらの油回収器を使用する際に効率よく油
を集めるために充気式オイルフェンスを使用した集油装
置を用いていた.しかし,集油装置は建造から 10 年以
上が経過しており,老朽化が著しいこと.また,集油ブ
ームを洋上に展張した際に,波や潮流等の大きな流体抵
抗を受けるため,油回収作業時に船の航行速度を上げら
れないこと等の課題を抱えていた.そこで,迅速な対応
が求められる油流出事故現場で効率的に油回収を行うた
め,新たに各種実験結果を踏まえて開発した集油装置に
ついて報告する.
舷側設置式油回収器は,その能力を発揮させるため集
油装置により集油幅を確保しているが,既設の充気式オ
イルフェンスを使用した集油装置は曳航時の波の抵抗が
大きい等の課題があった.そこで曳航時の抵抗を軽減す
るため,水ジェット方式の導入について検討を行った.
水ジェット方式の利点は,本船の航行時の抵抗が,小
さい点や動力源として浚渫用ジェットポンプが活用でき
るので,新たな動力源を必要としない点,及びブーム展
張等の稼働部分がないので故障箇所を減らし,メンテナ
ンスや操作が容易である点が挙げられる.
充気式オイルフェンス方式の利点は,投げ込み式油回
収器と舷側設置式油回収器とを兼用できることにあった
が,舷側設置式油回収器は水ジェット方式を採用するこ
とにより,集油幅が確保されるので,右舷側の充気式オ
イルフェンスは撤去し,また,左舷側の充気式オイルフ
ェンスは投げ込み式油回収器の集油(U字展張)専用とし
ている.
写真-1 ドラグサクション浚渫兼油回収船「白山」
図-1 3 船体制での油回収エリア
3. 効率的集油装置の構造検討
(1) 水ジェットによる集油理論
航行している船舶から進行方向に噴出されるジェット
流(対向噴流)は,ある距離xpだけ貫通したあと主流
(本船の航行逆方向)のエネルギーを吸収して流れ方向
を逆転する.ジェット流の状態を図-2に示した.
ジェット水の入水断面は,拡散し重力の影響により下方
に向けて曲り,且つ,上下楕円形に変形する.また,入
水角度方向に楕円形となるので,ジェット水列は連続し
た流れとなる.このジェット水流の連続が海面に泡絡線
(潮目線)を形成し,海面を流れる油を油回収器の方向
に誘導すると考えられる.
写真-2 油回収実海域再現水槽
図-2 対向噴流
(2) 水ジェット方式の模型実験
水ジェット方式の有効性を模型実験にて確認した.実
験を行った油回収実海域再現水槽を写真-2に,水ジェッ
トで形成される潮目線の様子を写真-3に示す.
実験は水ジェットの現象観察実験と充気式オイルフェ
ンスとの性能比較実験を行った.
a) 現象観察実験
最適な水ジェットの方向についての知見を得るため現
象観察実験を行った.その結果,回収器方向や真下方向
に水ジェットを向けるよりも進行方向に向けてやること
が最も良好な集油効果を示した.この現象から水ジェッ
トの着水点で形成される表層の潮目が充気式オイルフェ
ンスと同等の役目を果たすことがわかった.
b) 性能比較実験
現象観察実験で検討した結果に基づき性能比較実験を
行った.回収器の上に縦に取り付けた直立ノズル方式で
実験を行った.
回収性能は回収器のみの場合を 100%として,それぞ
れの方式と比較した.
① 回収器+充気式オイルフェンス : 139%
② 回収器+直立ノズル
: 153%
直立ノズル方式の概要図を図-3 に示す.
写真-3 水ジェットで形成される潮目線
図-3 直立ノズル方式
(3) 「白山」の水ジェット装置
「白山」水ジェット装置の模式図を図-4 に示す.
図-4 「白山」水ジェット装置の模式図
主流に対するジェット噴射の傾斜角(θs)は,集油ジ
ェット潮目線の傾斜角である.
ジェットの海面着水時の形状は,横方向傾斜,高さ方
向傾斜及び重力による上下に分散等の影響をうけて楕円
形となる.楕円形の長軸及び短軸長さは,ジェット吐出
口の形状,飛距離,口径等により異なる.
主流に対するジェット噴射の傾斜角(θs)のジェット
の押力:Rは,
Rx = Lxcosθs+Lysinθs
(1)
Ry = Lxsinθs-Lycosθs
(2)
θs:ジェット水列潮目線傾斜角
θs 及び集油幅については図-5の「白山」のジェット
水列集油幅に示す.また,ジェットは1列に噴射される
ので,複数ジェット間の間隔はなくなる.一方,後のジ
ェットが前のジェットの影響範囲に届かないと潮目線の
連続性が途切れ,ジェット間から回収油の漏れを生ずる
ことがある.
a) 水ジェット配列の検討
水ジェット配列は集油幅,水ジェット着水点の間隔,
航行速度等を考慮して計画されている.集油幅が狭すぎ
ると,回収効率が上がらず,広すぎると水ジェット着水
点の間隔が広がり,潮目線の連続性が途切れ,回収油の
漏れが生じてしまう.また,航行速度が速すぎると形成
される潮目線が崩れ,連続性が途切れてしまう.以上を
踏まえた水ジェット配列性能実験結果から白山の性能に
合わせた最も効率的な配列を導出した.前記述のθs は
図-5に示されるとおり,
Tanθs = 3.8/8.2 = 0.463 θs=24.85°となる.
4. 充気式オイルフェンスの小型化
充気式オイルフェンスの外観を写真-4,写真-5に示す.
投げ込み式油回収器では,充気式オイルフェンスは
必須であるため,投げ込み式油回収器の設置してある左
舷は,充気式オイルフェンスの撤去は行わない.このた
め,左舷側の充気式オイルフェンスは撤去せず曳航時の
抵抗を低減すべく,大きさを見直し小型化を図ることと
した.
左舷充気式オイルフェンスは変更せず.充気式オイ
ルフェンスを小型で短くすることによりU 字型展張時の
展張時間を短縮し,作業性の向上を図る.航行時の抵抗
の軽減は充気式オイルフェンスのスカート丈を短くする
ことにより対応する.
充気式オイルフェンスはU 字展張時に空気圧により直
線方向に伸びようとするので,ナックルポイントが設け
られて作意的に曲げられている.
写真-4 充気式オイルフェンス巻取時
写真-5 充気式オイルフェンス展張時
図-5 「白山」ジェット水列集油幅
充気式オイルフェンスの主要寸法は図-5及び表-1に示
すとおりとする.
充気式オイルフェンスのU 字型展張は,充気式オイル
フェンスの真直ぐに伸びる力及び油回収器の大きさによ
り設計される.充気式オイルフェンスを短くすることは,
流れに対する傾斜角の増大につながるが,集油性能的に
は,改造前と比較してそれほど変動がないことを確認し
ている.
今回の改造により,浮体の直径の縮小及びスカート
の短縮化が図られ,航行時の抵抗の減少,操作時間の短
縮等が確保された.
5. あとがき
集油装置を水ジェット方式にすることにより,曳航時
の抵抗の低減,操作性及びメンテナンス性の向上,回収
器の操作時間の短縮が図られた.更に,左舷充気式オイ
ルフェンスを小型化することにより,曳航時の抵抗の低
減,操作時間の短縮が可能となった.
現在は「白山」に本装置を搭載し,定期的な油回収訓
練を行い油流出事故等の緊急時対応に備えている.
今後,実際の油流出事故現場での油回収作業に取り組
みながら,より効率的な装置の開発につなげていきたい.
図-5 充気式オイルフェンス断面寸法
写真-6 「白山」新集油装置搭載
表-1 充気式オイルフェンス寸法
長 さ
旧
32 [m]
新
26 [m]
直 径
スカート
フェザーネット
800 [mm]
950 [mm]
400 [mm]
600 [mm]
650 [mm]
400 [mm]
参考文献
1) 機械工学便覧 日本機械学会編