村道坂田線道路災害レポート

村道坂田線道路災害
−地すべり被災箇所を迂回した道路復旧−
1.概 要
位
置
路 線 名
位
沖縄県中城村字北上原地内
置
図
一級村道坂田線
被災年月日及 平成 18 年 6 月 8 日∼12 日
び異常気象名 梅雨前線豪雨
特
色
・梅雨前線の長雨後の集中豪雨により発生した
「安里地すべり」の頭部に位置していた村道
坂田線は崩壊した。
・従前線形での復旧は、地すべり対策及び当該
復旧に膨大な費用がかかることと、復旧後の
沿道利用に制限がでるため、県施工での他事
業と連携し地すべり箇所を最短に迂回した
村道復旧を計画した。
2.地域の概要
村道坂田線は、沖縄本島中東部の南側に位置する中城
村の南西部・琉球大学の北東約 2.7km に位置し、県道 29
号線と 35 号線を結ぶ中城村管理の道路(3 種 4 級、設計速
度 20km/hr)である(図-1)。
周辺には、世界遺産に登録、国から史跡指定された「中
城城址」があり、東西の絶景を見渡せる景勝地として観
光客が多い。
また、近年、海の見渡せる場所として住宅を求める人
も多くなり、ほぼ中央を尾根とする急峻な地形が発達す
る急傾斜地の際まで宅地需要が広がり、ウォ−キングや
散策をする人たちが多い。
3.被災の状況
(1) 被災状況
村道坂田線周辺の被災前の地形は、北東∼南東方向に
傾斜した丘陵が発達し、全体的には 13°∼15°の勾配、
部分的には 35°∼40°の斜面を形成し、ニッケイやアカ
ギ、雑木が繁茂していた。
地すべり発生に影響する先行降水量(平成 18 年 5 月 1
日∼6 月 9 日)は、533mm 累積し、地すべりが発生した 6
月 10 日からその頭部右翼側の二次すべり発生の 12 日夜
までに 141mm であった。
豪雨に伴って発生した安里地すべりは、滑動により村
道坂田線を 100m、県道 35 号線を 140m にわたって寸断し
長大な滑落崖(比高=20∼40m)を形成した。地すべりは、
6 月 10 日の午後 5 時には、幅 100∼250m、長さ 500m、移
動土量約 34 万 m3 にも達する規模で、一次すべりの右斜め
後方に二日遅れで発生したクサビ地形の二次すべりが一
次すべりの後部を押出しさらに、舌端部で流動化する形
中城村字北上原∼安里地内
(被災箇所)
安里地すべり
図-1 村道坂田線位置図
態として近年の沖縄の地すべり災害では特異な現象とな
った(写真-1)。
頭部から流動化した舌端部までの距離が約500mにも及
び、末端部土塊は民家付近へ押し寄せ、一時は 49 世帯、
174 人が緊急避難を余儀なくされた。
(2) 被災原因
本地区一帯は、沖縄本島中南部から宮古島にかけて広
範囲に分布する海成過圧密粘土の島尻層群泥岩の与那原
層を基盤としている。
島尻層泥岩は、構造的弱面を内在する不安定岩体であ
り、長雨や豪雨に伴う浸透水の泥岩への浸入により不連
続な構造的弱面(小断層群と層理面)がすべり面に転化
村道坂田線
安里地すべり
写真-1 地すべり全景及び復旧対策案
し、
「安里地すべり」へと発達したと推定される。
本地すべりの初動原因の特性として岩崩壊の「小断層
群」が注目される。
1) 小断層と基盤層理の構造規制
滑動直後の長大滑落崖には小断層の跡が多数顕在した。
このような構造的弱面が鏡肌面を呈し、その強度が基盤
の最小強度となる残留強度までに低下して地すべり滑動
に関与していると推定される。
滑動面に転化した小断層は、40∼65 ゚の急勾配をなして
条線状擦痕を呈している。その走向は、概ね N10∼50 ゚ E
で、SE 方向へ傾斜する。地すべり方向とは大概流れ盤構
造を成している。
また、10∼25゜の緩勾配の基盤層理面は、地すべり面
に転化し鏡肌面を呈している。
安里地すべりは、長大な滑落崖と緩やかなすべり面(イ
ス型)を成し、縦断形状には小断層面や層理面等の地質
構造的規制が明瞭である。また、これらの高角度の小断
層面と低角度の層理面は、地すべりの滑動方向・滑動形
態を強く規制したものと考えられる。
2) 地すべり拡大の傾向
冠頭部(長大滑落崖を含む)の地盤には、構造的弱面
(写真-2,3)が多く存在し、地すべりに起因した応力解
放により拡大・連続となる可能性がある。今後も小断層
に沿って岩崩壊が進行すること、また、崩積土∼すべり
残積土∼緩んだ破砕岩からなる滑落崖斜面の表層部にお
いては、浸食・土砂化に起因して残積土・岩塊の崩壊が
誘発されつつ、本地すべりの拡大を引き起こすことが予
想される。
4. 復旧工事の概要
(1) 復旧工法の選定
災害復旧の原則は現況復旧であることから、現道線形 3
案と迂回路1案を検討に抽出した。
現道線形案は橋梁案、
親杭パネル案、軽量盛土案の 3 案で、迂回路案 1 案の計 4
写真-2 長大滑落崖に顕在する小断層面
写真-3 滑落崖下方で確認した層理面状況
案を比較検討した。その結果、工事費の縮減(経済性)
と工期の短縮・地すべり対策との協調(施工性)
、復旧後
の沿道の土地利用(地域性)を図る迂回路案が選定され
た。
(2) 工法選定のポイント
坂田線の復旧は、斜面全体の地すべり対策を他事業で
行うこととしたので、対策区分や対策工法の連携を図る
必要があった。地すべり対策においては、地すべり発生
後の全体的なすべりやすべり層の緩み状況等から将来の
安定や施工性を勘案し、従前村道沿いの宅地から奥に対
策法肩が計画された。この場合の線形は、現道案で地す
べり頭部の急滑落崖内に、迂回路案は法背後尾根地にあ
たる。一方、迂回路他案は地すべり箇所に隣接する健全
家屋の後方に迂回し廉価となる線形において、大規模土
工と長大な復旧延長を要し 4 案より劣位になった。以下
に地すべり対策を含め有利な 4 案について検討したポイ
ントを記す。
【A 案:橋梁案】 現道復旧を基本とし道路荷重を橋台・
橋脚の深礎杭により地すべりへ負担させない構造となる
復旧案。
【B 案:親杭パネル案】 現道復旧を基本として、親杭と
アンカー工法の組み合わせにより、自立式擁壁を築造し
道路荷重を地すべりへ負担させない構造となる。
。擁壁面
は工場製品のパネルであるため施工が早い復旧案。
【C 案:軽量盛土案】 現道復旧を基本として道路荷重は、
軽量盛土材を使用し地すべりへの負担を抑える復旧案。
【D 案:迂回路案】 現道の迂回を基本として、道路を盛
土の小さい箇所に迂回させて道路荷重は地すべりへ負担
させるが、
、道路構造物の規模を比較的小さく工事費用が
最も安価となる復旧案。
以上 4 案について比較検討した結果を表−1 に示す。
3)選定工法計画の概要
比較検討より経済性、施工性また地すべり対策との協
調性が優位で将来の維持管理が容易なため低廉になる沿
道利用が便利な第 D 案迂回路案を選定し災害査定を受け
た結果、下記の復旧工事概要で採択された。
復旧延長
L=247.4 m
復旧幅員
B=7.0 m
もたれ式擁壁工 法長 L=3.5∼8.9 m
A=338 m2
2
間知積みブロック L=41.3 m A=183 m
プレキャスト L 型擁壁 L=146.0 m 平均 H=2.7 m A=390 m2
排水工
L=400 m
路盤工
A=1370 m2
ガ−ドレ−ル工 L=280 m
査定決定額
184,315 千円
査定図面は図-2 に示す。
5.おわりに
本地域の滑落崖に近接した家屋が立地しており、今な
お 7 世帯 19 人の避難生活を余儀なくされている。
過去の地すべり実績から安里地すべり本体は、再移動
する可能性が低いと考えられるが、長大滑落崖を含む冠
頭部においては、表層すべりや崩壊などの継続により、
基岩内の応力解放が起こりつつ、降雨に伴って構造的弱
面が連続・拡大し、そのせん断強度が低下することによ
り斜面崩壊はいまだに進行している。そのため、緊急な
対策施工が期待されている。
復旧対策は、その時期を見越して建て、それが活かせ
る応急対策工事の必要があった。
今後、災関地すべり対策と連携を取りながら、査定後
の地すべり被害を最小にとどめ、建設費縮減と安全施工、
工期の短縮を図って効率的な事業促進に努めていきたい。
参考文献
・宜保清一, 佐々木慶三,周亜明,中村真也;2006(平成 18)年 6
月 10 日沖縄県中城村で発生した北上原地すべりの調査報告,
日本地すべり学会誌,Vol.43,No.2,pp.44-47
・陳伝勝,宜保清一,佐々木慶三,中村真也,沖原正紘;沖縄,島尻
層群泥岩分布地域の地すべり類型区分について,第 19 回沖縄地
盤工学研究発表会,pp.41-44
安里地すべり
村道坂田線災害復旧事業
他事業
図-2 村道坂田線標準断面図
表-1 村道坂田線災害復旧比較表