医用放射線科学概論 B11R106H Topic 25 Role and Clinical Usefulness of Elastography in Small Breast Masses 微小乳腺腫におけるエラストグラフィーの臨床的有用性と役割 要旨:微小乳腺腫の識別における,エラストグラフィーのみ,超音波Bモードのみ及びエラストグラ フィーと超音波Bモードを併用した場合における診断の性能評価や比較をすること. 方法:278人の患者における,1cm以下の全315個の乳腺腫(良性267個悪性48個)にて,放射線科医学 会における乳腺画像報告データシステムと,エラストグラフィーによって得られた弾性得点 分類システムおよび歪み比によって2人の放射線研究者が超音波Bモード画像を回顧的に評価 した.カットオフ値に従って超音波Bモードとエラストグラフィーを併用した.超音波Bモー ドのみ,エラストグラフィーのみ,2つのモダリティーの併用した場合における診断能は,ROC 曲線を使用することで比較した. 結果:悪性腫瘤による平均弾性スコアは良性腫瘤の結果より著しく高かった.Az値は,超音波Bモー ドで0.616,弾性スコアで0.784,歪み比0.668,超音波Bモードと弾性スコアの併用で0.727, 超音波Bモードと弾性スコアと歪み比の併用で0.727であった.弾性スコアと超音波Bモードが 組み合わせられたとき,感度,特異性,陽性適中率,および陰性適中率は,それぞれ93.8%, 51.7%,25.9%,97.9%あった. 結論:弾性スコアのみの場合が最も良い診断能を示したが,超音波Bモードと弾性スコアの組み合わ せには、1cm以下の良性と悪性病変の区別をする予測値があるかもしれない。 【はじめに】 エラストグラフィーは,病変の弾力特性を想定する手法である.先行研究は,エラストグラフィ ーは悪性の乳腺腫の固体から良性を区別する可能性があると報告した.それは 65%から 100%の感度 と,32%から 98.5%の特異性を示し,従来の超音波 B モード検査と比較して,同様かそれより劣る診 断能を示した.ほとんどの研究が弾性スコアと歪み比の診断能を超音波 B モードと比較した研究で あり,超音波 B モードとエラストグラフィーを併用した場合の診断能の研究はあまり報告されてい ない.乳腺画像報告データシステムによると,腫瘤のサイズが微小である場合分析が難しく,また, 病変の特徴評価が正確に行われない.従って,我々は良性または悪性の微小な乳腺腫を区別のする 為にエラストグラフィーの診断能を評価した.また,我々はエラストグラフィーのみ,超音波 B モ ードのみ,および 2 つのモダリティーを併用した場合の診断能を比較した. 【資料と方法】 「患者」 この対症症例研究は,我々の施設内治験審査委員会によって承認された.本研究は超音波ガイド 下のコア生検のため,2009 年 3 月から 2009 年 10 月まで超音波 B モードとエラストグラフィーを受 けた 360 人の患者に行われた.406 個の 1cm 以下の乳腺腫含んでいた.82 人の患者のうち 91 個の腫 1/4 瘤が以下の理由のため分析から除かれた:エラストグラフィーのビデオファイルに無い腫瘤 83 個, 予後外科摘出術をしない異型乳管過形成 2 個,乳房切除部位1個,副乳部位1個,微小石灰化のみ 3 個,病理学的に立証された乳房内のリンパ節の1個.患者の平均年齢は 47 歳(23-81 歳)である.腫 瘤の平均サイズは直径 6.8mm である. 「病理解析」 超音波ガイド下の 14 ゲージコア生検(n=301)か,手術による摘出(n=14)によって 315 個の乳腺腫 の組織学的診断が確立された.コア生検で悪性と判断された症例が悪性(n=45)であるとし,手術に よる摘出の後に悪性であると立証された. コア生検で異型乳管過形成と診断された 14 症例において, 3 症例が摘出術の後に悪性腫瘍にアップグレードした. 315 個の微小乳腺腫では,267 個(84.8%)は良性で,48 個(15.2%)は悪性であった.48 人の患者の 乳癌組織学は,浸潤性乳管癌(n=31)と,非浸潤性乳管癌(n=12)と,浸潤性小葉癌(n=2)と,管状腺癌 (n=1)と,乳管内乳頭癌(n=1)と,リンパ腫(n=1)であった. 「画像収集と分析」 超音波 B モードとエラストグラフィーは,7.5MHz‐13MHz のリニア型探触子 EUP-L53 (日立メディ カル社)とデジタル超音波診断装置 EUB-8500(日立メディカル社)を使用した.超音波 B モードにおけ る乳腺腫の識別の後に,腫瘤に圧迫をかけエラストグラフィー画像を得た.歪み比は B モードとエ ラストグラフィー画像における全ての乳腺腫で測定された.参考にする関心領域は,腫瘤の深度に かかわらず結合したエラストグラフィー画像の側部皮下脂肪組織に手動で描かれた.歪み比は超音 波スキャナによって自動的に計算された. 乳腺画像報告データシステムの判断カテゴリは B モード画像を評価した後に割り当てられた.エ ラストグラフィー画像は以下の弾性スコアに分類された:1=周囲正常乳腺と同様に病変全体が緑 (低エコー域全体に歪みが生じる)2=病変が緑と青のモザイク状(低エコー域の一部に歪みが生じな い)3=病変の辺縁が緑で中心が青(低エコー病変の中心以外の辺縁のみ歪みが生じる)4=周囲正常 乳腺は含めず病変全体が青(低エコー全体に歪みが生じない)5=低エコー域とその周辺まで青 (低 エコー域とその周辺まで歪みが生じない) 「統計分析」 良性と悪性の腫瘤において,統計的に重要な違いを特定するために,スチューデントの t 検定を 使用した.超音波 B モード,弾性スコア,歪み比,および超音波 B モードとエラストグラフィーを 組み合わせた,感度,特異性,陽性適中率(PPVs),および陰性適中率(NPVs)は,組織学的結果を使 用することで計算された.さらに,ROC 特性曲線の分析で,それぞれの技術の診断能を比較評価した。 統計的な分析は,SAS version 9.1.3 (SAS Institute Inc, Cary, NC)や,MedCalc version 10.1.6 (MedCalc Software, Mariakerke, Belgium)を使用した. 【結果】 「従来の超音波 B モード」 2/4 悪性の腫瘤の平均寸法は良性の腫瘤よりかなり大きかった. 乳腺画像報告データシステムに従った悪性の割合は, カテゴリ 3 が 2.66%と,カテゴリ 4a が 10.52% と,カテゴリ 4b が 29.62%と,カテゴリ 4c が 72.72%と,カテゴリ 5 が 100%であった.カテゴリ 3 と 4a 間でカットオフ値が使用されたとき,超音波 B モードは,感度 95.8%,特異性 27.3%,PPV19.2%, および NPV 97.3%であった.Az 値は 0.616(95%CI、0.560-0.670)であった. 「エラストグラフィー: 弾性スコアと特徴比」 平均弾性スコアは,悪性腫瘍の方が良性腫よりかなり高かった.弾性スコアに従った悪性の比率 は,スコア 1 が 2.40%,スコア 2 が 16.93%,スコア 3 が 15.21%,スコア 4 が 85.71%,スコア 5 が 84.61% であった.スコア 1 と 2 の間でカットオフ値が使用されたとき,エラストグラフィーは,感度 93.8%, 特異性 45.7%,2PPV3.7%,および NPV97.6%となった.スコア 3 と 4 の間でカットオフ値が使用された とき,エラストグラフィーは,感度 35.4%,特異性 98.9%,PPV85%および NPV89.5%であった. 良性腫と悪性腫瘍の間の歪み比の平均では著しい違いは見つけられなかった.歪み比のために, カットオフ値 2 が使用されたとき,エラストグラフィーは感度 68.8%,特異性 64.8%,PPV26%および NPV92%であった. Az 値は、スコア 3 と 4 の間のカットオフ値に 0.671 を使用し、弾性スコアのためにスコア 12 の間 のカットオフ値に 0.784 を、歪み比のために 0.668 を使用した. 超音波 B モードまたはエラストグラフィーのどちらか 1 つだけのモダリティーで実行された場合, 弾性スコア(0.784)に続いて歪み比(0.668)と超音波 B モード(0.616)の Az 値は最も高かった. 「超音波 B モードとエラストグラフィーの組み合わせ」 カテゴリ 1 から 3 の病変は良性として,カテゴリ 4 と 5 における病変が悪性として分類された. 歪み比が 2 未満であった場合は良性として, 2 以上であった場合は悪性として分類された. 「BS 組合せ」は超音波 B モードと弾性スコアを組み合わせた使用を示す. 本研究では,スコア 1 と 2 の間の弾性スコアのカットオフ値は高い NPV(97.6%)と低い PPV(23.7%) を示し,スコア 3 と 4 の間のカットオフ値は高い PPV(85%)と高い NPV(89.5%)を示した. 感度,特異性,PPV,および NPV は,それぞれ BS 組合せの場合 93.8%,51.7%,25.9%,97.9%であ り,超音波 B モードの場合 95.8%,27.3%,19.2%,97.3%であった.BR 組合せの場合はそれぞれ 97.9%, 21.4%,18.3%,98.3%であった.感度は BSR 組合せと BS 組合せとで同じであったが,BSR 組合せの特 異性は BS 組合せの場合よりわずかに低かった. Az 値は,超音波 B モードの場合 0.616,BS 組合せの場合 0.727,BR 組合せの場合 0.596、BSR 組合 せの場合 0.701 であった. BS 組合せは組み合わせた方法の中で最も良い診断能(Az=0.727)を示した. 【考察】 本研究は,触診出来ない 1cm 以下の乳腺腫をもつ患者の診断のためにエラストグラフィーの有用 性を率先して検討する.本研究により弾性スコアは悪性腫瘍と良性腫を区別することに役に立った. 歪み比の最も良いカットオフ値は 2 であった.しかし,歪み比は悪性腫瘍と良性腫を区別できず, 3/4 また診断能は弾性スコアのものより悪かった. 技術者の経験と症例が結果に影響を及ぼす可能性があることにより,超音波 B モードを超えたエ ラストグラフィーの優れた性能はまだ賛否両論である.また,組織学的亜類型と腫瘍の大きさがエ ラストグラフィーの性能に影響が出るという報告もあれば,腫瘍の大きさにかかわらずエラストグ ラフィーは,病変の特徴付けに役立つという報告もされている.本研究では,1cm 以下の腫瘤だけで 行われた超音波 B モードの感度と特異性はそれぞれ 27.3%と 95.8%であった.カットオフ値が 1 の場 合では,弾性スコアは感度 93.8%と特異性 45.7%を示した.そして,カットオフ値が 2 の場合では, 歪み比は感度 68.8%と特異性 64.8%を示した.先行研究の結果との比較では,超音波 B モードの低い 特異性と,感度および歪み比の特異性を除いて,本研究の結果は,先行研究の結果より匹敵してい るか,または優れていた.歪み比の低い感度と特異性と同様に,超音波 B モードの低い特異性が, 小さい病変故の結果であると思われた.しかし,弾性スコア場合では,特異性は 45.7%であった.そ れは,超音波 B モードの低い特異性に対する先行研究の結果より良かった. 先行研究では,経験豊富な放射線研究者が研究を行ったので,超音波 B モードとエラストグラフ ィーの組み合わせは,超音波 B モードのみと比較して重要な診断精度の向上を示さず,超音波 B モ ードのみの性能は非常に良かった.それほど経験豊富でない放射線研究者が診断しなければならな い場合や,微細な病変を診断する場合,エラストグラフィーは役に立つ可能性がある.超音波 B モ ードの性能が既に高いことにより,超音波 B モードのみの方がモダリティーを組み合わせた方法よ り望ましいという報告とは対称的に,超音波 B モードとエラストグラフィーの組み合わせが優れた 結果をもたらし,形態学的な特徴だけではなく,組織硬度も検出したと報告がされている.しかし, この研究は 2 つの技術を組み合わせた際の規則を示すことが出来なかった.本研究では,所定の病 態において, 率先してエラストグラフィーと超音波 B モードを組み合わせる方法について検討した. 本研究は 1cm 以下の腫瘤のみの症例であり,その結果,超音波 B モードの診断能は低かった.しか し,超音波 B モードと弾性スコアを組み合わせた診断能は向上した.この方法で,感度は超音波 B モードによって達せられた高いレベルに留まり,特異性は弾性スコアによって示されたレベルに向 上した. Az 値は 0.727 であった.しかし,超音波 B モード歪み比を組み合わせた診断能は超音波 B モードのみの性能より悪かった.さらに,超音波 B モード,弾性スコア,および特徴比を組み合わ せた診断能は超音波 B モードと弾性スコアの組み合わせの性能より悪かった. 我々の研究の欠点は以下の通りである.1:1cm 以下の腫瘤のみの結果の為,先行研究と十分に比 較出来ない.2:腫瘤が小型のため,より大きな腫瘤に普及させる事は困難である.3:観察者間や, 観察者間変動または画像収集の再現性を評価していない.全症例に一貫して最適の画質を決定する ことが難しく,乳房の乳頭と乳輪への病変のサイズや,密度,深さ,近接などの重複因子が挙げら れる.4:組織学的小群に従った違いは考えていない.5:病変の深さを算定していない. 【結論】 1cm 以下の乳腺腫の区別化において,エラストグラフィーは超音波 B モードより優れていた.弾性ス コアは,悪性腫瘍から良性腫を区別するために役に立ったが,歪み比は役に立たなかった.超音波 B モードと弾性スコアの組み合わせは,素晴らしい診断能を示し,1cm 以下の病変において良性と悪性 を区別するために有用かもしれない. 4/4
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