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第 7 章 低頻度大規模災害の評価

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第7章
低頻度大規模災害の評価
7.1 評価対象とする災害事象
確率的なリスク評価(平常時の事故や短周期地震動による被害の評価)では、リスクマトリックスを
用いて防災計画における想定災害の抽出を行った。一方、リスクマトリックスにおいて発生危険度は
極めて低い又は確率的評価ができないものの、影響度が大きいと評価される「低頻度大規模災害」に
ついては、これまで想定災害として取り上げられないことが多かった。しかしながら、東日本大震災
では、千葉県市原市で発生した LPG タンクの爆発火災のように、これまで想定していなかったよう
な大規模な災害が発生している。
このことを踏まえ、評価上の発生確率は極めて小さい又は確率的評価ができない災害であったとし
ても、発生したときの影響が甚大な災害については、発生確率には言及せずに影響評価を行い、周辺
住民の避難対策に資するものとする。
7.1.1 大規模災害の事例
(1) 危険物タンク
○防油堤外流出火災
昭和 39(1964)年の新潟地震では、スロッシングにより原油タンクの上部から溢流して着火し、隣接
するタンク群が炎上した。さらに、地震により防油堤が破損し、そこから火災が拡大して付近の民家
にも延焼した。
○海上流出
昭和 53(1978)年の宮城県沖地震では、地震動により、容量 20,000~30,000kL のタンク 3 基の側板
と底板の接合部付近で破断が発生した。これにより、合わせて約 70,000kL の油が流出し、このうち
数千 kL がガードベースンで閉止できず海上流出した。
○タンク全面・防油堤火災(ボイルオーバーによるもの)
ボイルオーバーは、火災熱によりタンク内で油の高温層が形成され、これがタンク底部の水に接触
して水が急激に沸騰し、巨大な炎を吹き上げると同時に油が噴出する現象である。このような災害は、
危険物タンクの防油堤内火災や全面火災が長時間継続して、油が熱せられた場合に起こり得る。
ボイルオーバーの事例は、世界で約 50 件が報告されている。過去最大の被害を与えた事例は、昭
和 57(1982)年ベネズエラにおいて起きたものである。丘の上にある C 重油タンクで、火災発生から 6
時間 15 分後にボイルオーバーが起き、あふれた重油が周囲約 3km に広がり、隣接するタンクに延焼
したi。
○津波による流出油の拡大
東日本大震災では、仙台地区の複数の事業所において、津波によりタンク付属配管が破損して流出
した油が防油堤内及び周辺道路まで拡大している。ii
i
ii
古積博他:ボイルオーバーの事例と最近の研究、消防研究所報告 No.117、pp.1―19、2014。
仙台市消防局警防部危険物保安課:東日本大震災におけるコンビナート地区の被害とその対応、Safety & Tomorrow、
No.142、p.50—58。
7-1
(2) 高圧ガスタンク
○ファイヤーボール(BLEVE によるもの)
BLEVE(Boiling Liquid Expanding Vapor Explosion)とは、沸点以上の温度で貯蔵している加圧液
化ガスの貯槽や容器が何らかの原因により破損し、大気圧まで減圧することにより急激に気化する爆
発的蒸発現象である。典型的には、火災時の熱により容器等が破損して BLEVE を引き起こす。BLEVE
の発生は内容物が可燃性のものに限らないが、可燃性の場合には着火してファイヤーボールと呼ばれ
る巨大な火球を形成することが多い。
BLEVE 現象が明らかになった最初の事故は、昭和 41(1966)年、フランスの製油所で発生した大規
模な LPG の爆発・火災事故である。この事故は、作業のために開けた球形タンクの底部のバルブが
閉まらなくなり、LPG が流出して道路に拡散した。道路を通りかかった乗用車により引火、爆発し、
その火が漏洩したタンクに到達した。タンクの火災から BLEVE が起こり、同じタンクヤードにある
他の LPG が延焼したi。
平成 23(2011)年の東日本大震災では、千葉県市原市の LPG タンクで BLEVE が発生した。タンク
開放検査後にタンク内の空気を排出するために満水状態であった LPG タンクが、地震により倒壊し
て周辺の配管を破損した。この影響で、長時間にわたって LPG が漏洩し、火災に至った。火災発生
からおよそ 1 時間強で最初の BLEVE が発生し、その後別の LPG タンクが 5 回にわたり爆発し、火
災が拡大した。爆発時の飛散物により、隣接する事業所で火災が発生した。さらに、近隣の居住地区
で、飛散物や爆風により、窓ガラス、シャッター等の破損が発生したii。
○低温液化ガスタンクの損傷・破壊iii
低温液化ガスタンクが損傷・破壊に至った事故の事例として、昭和 19(1944)年にアメリカで発生し
た LNG タンクの破壊事故が挙げられる。この事故では、LNG タンクが脆性破壊により完全に崩壊し、
漏洩した LNG が蒸発して巨大な蒸気雲を形成し、これに着火して爆発に至った。このタンクの内槽
に用いられていた 3.5%ニッケル鋼は、LNG の沸点付近の温度でも脆性破壊が発生する可能性が高い
と推定されている。
現在の低温 LNG ガスタンクでは、安全性が確認された 9%ニッケル鋼が用いられており、こうした
事故は起こり得ないと考えられている。
○コークスガスホルダーの爆発火災iv
平成 15(2003)年、愛知県東海市にあるコークスガス(COG)ホルダー(容量 40,000kL)において爆発が
発生して全壊し、その影響で隣接する COG ホルダー及び高炉ガスホルダー(いずれも容量 100,000kL)
でも爆発が起きた。
はじめに爆発した COG ホルダーの内部にはピストンが設けられており、COG の量に応じて上下す
る構造となっている。このピストンには、バランスを保つために、ピストンの上側と下側の両方に円
周に沿っておもりが配置されている。
事故の原因は、ピストンの下側のおもりをつり下げているフレーム破断して、このおもりが落下し
てピストンが傾いて側壁との間に隙間が生じ、COG がガスホルダー上部に漏洩して空気と混合し、
小林光夫、田村昌三:フランス フェザンの LPG タンク爆発火災、失敗知識データベース、
http://www.sozogaku.com/fkd/hf/HC0300001.pdf
ii コスモ石油株式会社 千葉製油所液化石油ガス出荷装置及び貯槽設備火災・爆発事故調査報告書、2011。
iii 片山典彦:低温タンクの損傷、RUMPES、Vol.17、No.4、p.1-3、2003。
iv 厚生労働省:製鉄事業場における化学設備等の定期自主検査等の徹底について、基安発第 0716002 号、2004。
i
7-2
このガスに破断したフレームやピストン部材等が側壁に衝突して発生した火花により着火して爆発
に至ったと推定されている。
(3) プラント
○近年の大規模事故事例
平成 23(2011)年、山口県周南市にある第二塩化ビニルモノマー製造施設において、塩酸塔還流槽を
中心とする爆発火災が発生した。この事故では、爆発した設備が損壊し、爆風及び飛来物により周辺
プラントが一部損壊する被害が出たi。
平成 24(2012)年、山口県和木町にあるレゾルシンプラントで、2 回にわたって爆発火災が発生した。
この事故では、事業所内の設備が大きく損壊した他、事業所外で広範囲にわたって住宅のガラスの破
損等の被害が出たii。
平成 24(2012)年、兵庫県姫路市のアクリル酸製造施設内の中間タンクで爆発・火災が発生し、隣接
するアクリル酸タンク等の設備、建屋及び消防車両に延焼した。この事故では、中間タンクの高温内
容物が爆発時に飛散している。また、蒸気爆発後にファイヤーボールが発生した可能性もあるiii。
平成 26(2014)年、三重県四日市市で、水素精製設備に設置されていた水冷熱交換器を取り外して洗
浄中に、クロロシランポリマー類の加水分解生成物とみられる物質が爆発し、火災が発生した。この
爆発により、水冷熱交換器の蓋の飛翔、爆風による周辺設備の窓ガラスの破損等が起きた。さらに、
大気中に噴出した可燃性物質が燃焼してファイヤーボールを形成したiv。
7.1.2 評価対象とする災害事象
対象とする災害事象は、次のとおりとする。県内の石油コンビナート等特別防災区域には、特定事
業所に住宅、一般の事業所、都市高速道路等が近接している地区があることから、ここで挙げる災害
を想定した対策が必要であるといえる。
(1) 発生確率は低いが影響が甚大な災害
平常時の事故の評価及び短周期地震動による被害の評価において、発生危険度が D レベル又は E
レベルで影響度が I と評価された災害事象は、表 7.1.1 のとおりである。
これらの災害事象について、周辺住民の避難対策の観点から、平常時より影響が大きくなる場合を
対象に影響評価を行う。
i
東ソー株式会社 南陽事業所 第二塩化ビニルモノマー製造施設 爆発火災事故調査対策委員会 報告書、2012。
三井化学株式会社 岩国大竹工場 レゾルシン製造施設 事故調査委員会 報告書、2013。
iii 株式会社日本触媒 姫路製造所 アクリル酸製造施設 爆発・火災事故 調査報告書、2013。
iv 三菱マテリアル株式会社四日市工場 高純度多結晶シリコン製造施設 爆発火災事故調査報告書、2014。
ii
7-3
表 7.1.1 発生確率は低いが影響が甚大な災害
施設区分
危険物タンク
災害事象
防油堤内流出火災
高圧ガスタンク
毒性液体タンク
大量流出毒性ガス拡散
製造施設
(2) 発生確率を評価できないが影響が甚大な災害
発生確率を評価できないが影響が甚大な災害事象として、表 7.1.2 に挙げる事象を対象とする。こ
れらの災害について、影響評価を定量的に行う。
表 7.1.2 発生確率を評価できないが影響が甚大な災害
施設区分
災害事象
危険物タンク
防油堤内流出毒性ガス拡散
高圧ガスタンク
ファイヤーボール(BLEVE によるもの)
低温液化ガスタンクの大規模火災
副生ガスホルダーの爆発火災
毒性液体タンク
防液堤内流出毒性ガス拡散
(3) 発生確率、影響とも評価が困難な災害
発生確率、発生した場合の影響ともに評価が困難な災害事象として、表 7.1.3 に挙げる事象を対象
とする。これらの災害事象については、影響評価を定性的に行う。
表 7.1.3 発生確率、影響とも評価が困難な災害
施設区分
危険物タンク
災害事象
防油堤外流出火災
防油堤から海上への流出
ボイルオーバーによる大規模火災
製造施設
反応暴走等による爆発
7-4
7.2 危険物タンクの災害
7.2.1 防油堤内全面火災
(1) 想定災害
危険物タンクの防油堤内流出火災について、大破流出により防油堤の全面に流出油が拡大する場合
を想定して、影響の評価を行う。
タンク本体の大破流出は、腐食劣化や地震時の損傷、あるいはそれらの複合により引き起こされる
可能性があるが、現在ではタンク技術基準が強化されており、新基準に適合しているタンクではタン
ク本体からの大破流出の危険性は低いといえる。一方、阪神・淡路大震災においては、タンク径に対
して比較的高さの高い容量 1,000kL 未満のタンクが、地震に対して脆弱であることが明らかになり、
これを踏まえて容量 500~1,000kL の準特定タンクの技術基準が制定されている。
現在運用中の特定タンク(容量 1,000kL 以上)は全て新基準に適合している。準特定タンクについ
ては、平成 29(2017)年 3 月末までの適合期限が設けられている。
対象地域における、技術基準別の危険物タンクの数を表 7.2.1 に示す。一部の準特定タンクは旧基
準であり、大破流出の潜在的危険性が高いといえる。
表 7.2.1 技術基準別の危険物タンク基数
特定タンク
準特定タンク
新法
旧法
新基準
旧基準
特定外
タンク
福岡地区
9
43
27
4
0
83
北九州地区
4
73
16
7
2
102
白島地区
2
0
2
0
0
2
豊前地区
2
4
0
0
0
6
地区名
計
注 1) 容量が 1,000kL 以上のタンクを特定タンク、500kL 以上 1,000kL 未満のタンクを準特定タンク、それ以外のタ
ンクを特定外タンクという。
注 2) 特定外タンクは、毒性危険物を貯蔵するタンクのみの基数である。
(2) 影響評価
評価方法は、平常時の防油堤内流出火災とほぼ同様とし、火災による放射熱の影響を評価する。な
お、確率的なリスク評価では、仕切堤で区切られた広大な防油堤の場合には、流出油が全面に広がる
ことは現実的に考えにくいとして、防油堤内流出火災を仕切堤の 2 倍の面積として想定したが、ここ
では仕切堤の有無にかかわらず、防油堤全面における火災を想定する。
影響の目安の値は、2.3kW/m2(概ね 90 秒で人体皮膚に 2 度の熱傷(熱により表皮がはがれて水ぶく
れを生じるとされる)を起こすとされる熱量)とする。
防油堤内全面火災による各地区における放射熱の影響距離(防油堤の中心からの距離)の分布を図
7.2.1 に示す。影響距離は、最大で半径 220m 程度となる。福岡地区及び北九州地区の一部の施設は
住居・一般事業所が近接しており、こうした地域に影響が及ぶ可能性がある。
なお、容量が小さいタンクで影響距離が大きくなるタンクがあるが、これは単体のタンクの容量に
対して防油堤面積が広いためである。しかし、こうしたタンク群においては、1 基のタンクのみの流
出で防油堤全面まで広がることは考えにくい。
7-5
250
影響距離(m)
200
150
100
50
0
0
5000
10000
福岡地区
15000
20000
25000
タンク容量(kL)
北九州地区
白島地区
30000
豊前地区
図 7.2.1 防油堤内全面火災による放射熱の影響距離
7-6
35000
40000
7.2.2 防油堤外流出火災
防油堤外への危険物の流出は、地震により防油堤が破損するなどして流出する場合や、複数タンク
の大破流出により防油堤を溢流する場合が考えられる。流出量は複数タンクの大破流出の場合が多く
なるが、その危険性は極めて低い。流出した危険物に着火して火災となった場合の放射熱の影響範囲
は流出面積に依存し、流出範囲の特定が難しいことから、定性的に評価する。
防油堤外に流出した場合、流出油防止堤が設置されている事業所ではこれにより流出拡大を防止で
き、住宅地等まで流出した危険物が拡大する可能性は低いと考えられるものの、大規模な地震となっ
た場合流出油防止堤が破損する可能性もある。本調査では流出油防止堤の設置状況の調査を行ってい
ないが、福岡地区及び北九州地区では、特定屋外タンクから住居・一般事業所までの距離は、最も近
接している地点で約 100~200m である。防油堤内全面火災(7.2.1 参照)による放射熱の影響範囲が敷
地外の近接する住居・一般事業所を含むことから、こうした地域まで流出範囲が拡大した場合には、
火災による放射熱の影響が及ぶ場合がある。
7.2.3 防油堤から海上への流出
防油堤からの海上流出については、海上流出に至るルートや流出量を特定することが困難であるた
め、定性的に評価する。
海上流出は、防油堤外への大量流出が発生し、流出油防止堤の破損箇所から海上流出に至る場合、
及び排水溝から海上流出に至る場合が考えられる。このうち、排水溝からの流出については、含油排
水の場合には排水処理設備により処理が行われるものの、雨水排水溝から流出した場合にはガードベ
ースンから海上に至る可能性がある。昭和 53(1978)年の宮城県沖地震の事例のように、港湾に通じる
排水口を直ちに閉止できないと海上流出に至ることから、こうした箇所から流出が拡大する可能性を
考慮して、防災対策を検討する必要がある。
7.2.4 ボイルオーバーによる大規模な火災
原油や重油等を貯蔵するタンクにおいて、タンク火災が長時間継続した場合にはボイルオーバーが
発生する可能性がある。ボイルオーバーが発生すると、熱せられた油の噴出、ファイヤーボールの生
成等により影響範囲が拡大する。ボイルオーバーによって油が噴出する範囲は一般的にタンク直径の
10 倍程度とされているが、影響範囲の具体的な検討は困難であるため、定性的に評価する。
過去の事例によれば、ボイルオーバーが発生する油種は、原油、重油が圧倒的に多くi、これらを貯
蔵するタンクでは発生の可能性が高いと考えられる。
発生した場合の影響については、ボイルオーバーの燃焼実験では、周囲で一時的に受ける放射熱量
は、ボイルオーバーしないときと比べて 10 倍以上になる場合もあることが示されているii。
いずれの地区においても、原油や重油を取り扱う危険物タンクがあり、同時多発災害等、消防力が
不足する場合に、ボイルオーバーによる火災に至る可能性がある。
i
ii
古積博他:ボイルオーバーの事例と最近の研究、消防研究所報告 No.117、pp.1―19、2014。
古積博:石油タンクの火災性状の研究、東京大学学位論文、1996。
7-7
7.3 高圧ガスタンクの爆発火災
7.3.1 ファイヤーボールを伴う爆発火災
(1) 想定災害
高圧ガスタンクにおいて、爆発火災が発生した場合の影響を評価する。確率的なリスク評価では、
高圧ガスタンクの短時間全量流出爆発火災の影響について評価を省略したが、ここでは、周辺火災等
の影響により BLEVE 及びファイヤーボールが生じる場合を想定する。
BLEVE(Boiling Liquid Expanding Vapor Explosion)とは、沸点以上の温度で貯蔵している加圧液
化ガスの貯槽や容器が何らかの原因により破損し、大気圧まで減圧することにより急激に気化する爆
発的蒸発現象である。典型的には、火災時の熱により容器等が破損して BLEVE を引き起こす。BLEVE
の発生は内容物が可燃性のものに限らないが、可燃性の場合には着火してファイヤーボールと呼ばれ
る巨大な火球を形成することが多い。
東日本大震災での市原市の例の場合、球形 LPG 貯槽(地震当時は満水状態)が倒壊して周辺の配管を
破損し、直ちに漏洩停止することができず、長時間にわたって LPG が漏洩し、火災に至ったもので
ある。当時の対応では周辺タンクへの散水冷却を実施していたが、火災発生からおよそ 1 時間強で最
初の BLEVE が発生し、その後 5~10 分間隔で計 5 回の大規模爆発が発生している。
高圧ガスタンクの周辺で火災が発生し、漏洩停止できず火災が継続するような場合には BLEVE 発
生の危険性がある。特にタンクが近接して設置されているような場合は、十分な散水冷却が行えない
ことも予想され、注意が必要である。
(2) 影響評価
BLEVE 及びファイヤーボールの影響は、ファイヤーボールによる放射熱の他、蒸気雲爆発による
爆風圧やタンク破裂による飛散物が考えられるが、本調査では最も影響範囲が大きくなると考えられ
る、ファイヤーボールによる放射熱を評価する。
評価対象とするタンクは、可燃性の加圧された液化ガスタンクとする。評価方法は、参考資料 2 に
示すとおりである。
東日本大震災における市原市のガスタンク爆発事例では、球形 LPG タンク(当時の貯蔵量 600kL)
で直径約 300m のファイヤーボールを形成し、継続時間は 20 秒程度と推測される。そこで、影響の
目安の値は、ストールiの実験により、20 秒で人体皮膚に第 2 度の熱傷を起こすとされる熱量である
6.0kW/m2 とする。
ファイヤーボールによる放射熱の影響距離(タンク中心からの距離)の分布を図 7.3.1 に示す。影響が
及ぶ範囲は、最大で 2.5km 程度となる。
影響の大きさはファイヤーボールを形成する可燃性ガス量に依存し、爆発時に瞬間的に気化する可
燃性ガスの量は、物質の種類や貯蔵温度・圧力に依存する。例えば、プロパンは比較的気化する割合
が大きく危険性が高いといえる。
i
Stoll, A.M. and Chianta, M.A., Method and Rating System for Evaluation of Thermal Protection. Aerospace
Medicine, 40, 1969.
7-8
3000
2500
影響距離(m)
2000
1500
1000
500
0
0
500
1000
1500
2000
2500
貯蔵量(t)
北九州地区
豊前地区
図 7.3.1 ファイヤーボールによる放射熱の影響距離
7-9
3000
3500
7.3.2 低温液化ガスタンクの全面火災
(1) 想定災害
北九州地区には LNG を貯蔵する低温液化ガスタンクがあり、当該タンクの大規模災害として、内
圧上昇等により屋根が破損した後着火してタンク火災に至る場合が考えられる。タンク内圧上昇の要
因としては、外部火災による熱の影響や LNG 受入時の層状化(ロールオーバー)が考えられる。
当該 LNG タンクは、高発泡設備や散水設備等の各種防災設備が設置されている、ロールオーバー
防止の対策が施されている、内圧上昇時の脱圧に関しては安全弁等により多重化されているなどの対
策がとられている。こうしたことから、内圧上昇により屋根破損に至る可能性についても小さいと考
えられるが、万一に備え、屋根が破損してタンク全面火災となった場合の影響を評価する。
注) ロールオーバー現象は、次のような現象であるi。
様々な産地から輸入される LNG はその組成が異なるため、二種類の密度の大きく異なった
LNG をタンクに受入れて貯蔵すると、LNG が上下二層に分離(層状化)する可能性がある。層状
化した状態で一定の時間が経過すると、BOG(Boil off Gas:自然気化したガス)発生により上層の
LNG 密度は徐々に高くなり、ある時刻になると、上層と下層の密度が一致する。二層の密度が
一致した時点で二層の境界が消滅して、上下が急激に反転して LNG が混合する。この現象をロ
ールオーバー現象という。
ロールオーバーが発生した場合、下層の LNG に蓄えられた熱エネルギーが急激に放出され、
短時間に大量の BOG が発生する。その結果、タンク内圧が急上昇し、場合によってはタンクが
破損するような極めて危険な状態となる。昭和 46(1971)年にイタリアのラ・スペティア LNG 基
地でロールオーバーが発生して、大量の BOG を大気放出した事例がある。
(2) 影響評価
評価方法は、以下のとおりである(危険物タンクのタンク全面火災の評価(第 3 章 3.3.2)と同じ)。
①火炎の想定
底面がタンク面積、高さが底面直径の 1.5 倍の火炎を想定する。
②影響の算定
火炎中央の高さにおいて、放射熱の影響が目安の値以上となる火炎中心からの距離(L)を影響範囲と
して算定する。
影響の目安の値は、2.3kW/m2(概ね 90 秒で人体皮膚に 2 度の熱傷(熱により表皮がはがれて水ぶく
れを生じるとされる)を起こす熱量)とする。
対象とする低温 LNG タンクは 8 基あるが、タンク形状は全て同じ仕様となっている。タンク全面
火災による放射熱の影響が及ぶ距離を算定すると 210m 程度となり、事業所内部にとどまる。
i
高橋公紀、神谷篤志:LNG 受入基地のためのロールオーバーシミュレーション、日揮技術ジャーナル、Vol.3、No.1、
p.1-6、2014。
7-10
7.3.3 副生ガスホルダーの爆発火災
(1) 想定災害
北九州地区には、副生ガス(コークスガス、転炉ガス、高炉ガス)を貯蔵するホルダーがある。これ
らのガスホルダーの内部で、ガスと空気が混合して着火・爆発することを想定する。
副生ガスホルダーの形式として、主に無水式、有水式がある。無水式ガスホルダーは、ホルダー内
部にピストンがあり、ガスの流出入に応じてピストンが上下する構造となっている。有水式ガスホル
ダーは、水槽にガス槽を浮かべ、ガスの流出入に応じてガス槽が上下する構造となっている。
7.1.1 で挙げたコークスガスホルダーの爆発火災は、無水式ガスホルダーで発生したものである。無
水式ガスホルダーについては、この事例のように、ホルダー内のピストンが傾き、側板との間から貯
蔵しているガスが上部に漏洩し、漏洩したガスと空気の混合気に着火・爆発することを想定する。
有水式ガスホルダーについては、東日本大震災において、ガイドローラー部の外れや支柱の変形が
あったものの、気密性は維持され、ガスの漏洩は発生しなかったi。有水式ガスホルダーについては、
構造上内部でガスと空気が混合することは起こりにくいと考え、評価対象から除外する。
(2) 影響評価
評価方法は、以下のとおりであるii。
①可燃性ガス量の想定
副生ガスホルダー内で爆発を生じ得るガスの最大量として、タンク内において、貯蔵しているガス
が当量で燃焼する場合を想定する。当量とは、貯蔵しているガスと空気とが完全燃焼するような混合
割合の物質量を表す。
②パラメータの設定
消防庁指針では、爆発による影響の解析手法として TNT 等価法が示され、ガスの種類に応じたパ
ラメータ(K 値)が示されている(参考資料 2)。ここで対象としている混合ガスについては、この K 値が
示されていないことから、実際のガスの取扱い状況を基に燃焼熱量を推定した。
影響の目安とする爆風圧の値は、2.1kPa(95%の確率で大きな被害はないとされ、家の天井が一部破
損する、窓ガラスの 10%が破壊されるとされる圧力)とする。副生ガスホルダー内部での爆発による
爆風圧の影響が及ぶ距離を算定すると、表 7.3.1 のようになる。いずれのガスホルダーについても、
影響範囲は事業所内部又は事業所付近の海上にとどまる。
表 7.3.1 副生ガスホルダーの爆発火災の影響距離
物質名
影響距離
コークス炉ガス
400m
高炉ガス
490m
転炉ガス
480m
i
総合資源エネルギー調査会 都市熱エネルギー部会 ガス安全小委員会 災害対策ワーキンググループ:東日本大震
災を踏まえた都市ガス供給の災害対策検討報告書、2012。
ii 可燃性ガス量及びパラメータの設定に当たっては、Det Norske Veritas 社の Phast6.7 によった。
7-11
7.4 製造施設における爆発火災
製造施設における、平常時の事故及び短周期地震動による事故の影響評価は、流出した可燃性ガス
が拡散し、空気との混合が進んだ後に着火した場合(蒸気雲爆発)を前提としたものである。
しかしながら、反応容器の温度・圧力管理の不具合や、重合反応等のプロセスにおける反応暴走に
より爆発が起こった場合、こうした評価よりも影響が大きくなることがある。
幸い東日本大震災では大きな事故は発生していないが、大規模地震時には電力会社からの送電停止
や周波数変動、非常用発電設備の停止等が長時間にわたり発生する可能性もあり、全電源喪失による
ユーティリティの停止も反応暴走の一因となるものと考えられる。
このような災害事象の発生危険性は個々のプラントのプロセスごとに異なり、こうしたことを考慮
した発生危険度や影響を評価することは困難である。そのため、各事業所において起こり得る災害の
評価と対策を考えることが必要となる。
7.5 毒性物質の大量流出による毒性ガス拡散
(1) 想定災害
毒性物質の大量流出による毒性ガス拡散を想定する。確率的評価(第 3 章、第 4 章)においては、毒
性物質を取り扱う施設からの流出事象について、流出口の面積を一律 0.1cm2 とした場合又は防油堤・
防液堤の一部に流出する場合を想定した。ここでは、これよりも流出量が大きくなる場合を想定する。
評価対象とする物質は以下のとおりである(括弧内の数値は影響評価の目安の値を表し、30 分以内
に脱出しないと元の健康状態に回復しない濃度とされる)。
・アクリロニトリル : 85ppm
・アンモニア
:300ppm
: 10ppm
・フッ化水素
: 30ppm
・塩素
毒性物質の危険性は各物質の特性により異なり、各々の事業所においては物質の特性に応じた対策
がとられている。流出した場合の一般的な対応としては、まず緊急遮断による流出停止を行い、液体
で流出した場合には流出範囲の拡大防止を行う。アンモニア等水に吸収されやすい物質については散
水を行い、また吸引設備が備えられている場合には吸引し、除害設備で処理することになる。
このような応急対応が成功すれば大規模な毒性ガス拡散には至らないが、万一流出停止及び漏洩の
局所化に失敗した場合には、長時間にわたって毒性ガスが拡散する危険性がある。
(2) 影響評価
影響評価として、次の場合を算定する。
●危険物タンク及び毒性液体タンクについては、防油堤又は防液堤全面に内容物が流出する場合。
●毒性ガスタンク及びプラントについては、配管断面積の 1/100 の面積(ただし、下限を 0.75cm2、
上限を 12.56cm2 とする)の流出口から内容物が長時間流出する場合。
なお、ガス拡散の影響範囲は、流出発生時の風向や風速、大気の状態等の気象条件に左右され、大
きく変化する可能性もあることから、注意が必要である。
毒性物質(アンモニア、塩素、アクリロニトリル、フッ化水素)を取り扱う施設は、北九州地区及び
豊前地区にある。これらの毒性物質が大量に流出し、蒸発・拡散した場合の影響距離を算定すると、
7-12
図 7.5.1 のようになる。物質別の最大の影響距離は、アクリロニトリル約 480m、アンモニア約 1.3km、
塩素、約 3.0km、フッ化水素約 3.6km となる。施設によっては、広範囲にわたって住居・一般事業所
に影響が及ぶおそれがある。
4,000
3,500
影響距離(m)
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
0
0.5
1
アクリロニトリル
1.5 アンモニア
2
2.5塩素
3
3.5
フッ化水素
4
図 7.5.1 毒性物質の長時間流出による毒性ガス拡散の影響距離
なお、毒性物質を取り扱う施設においては、以下のような防災設備や防災対策があることから、実
際に上記のような災害が起こる可能性は極めて低いと考えられる。
●毒性物質を取り扱う施設には、いずれも散水設備が備えられており、蒸発の抑制や漏洩した物質
の吸着等を行い、拡散を防止する。
●アクリロニトリルは、漏洩した場合、直ちには蒸発しないことから、漏洩した液を回収する措置
がとられる。
●アンモニアタンクには、散水設備の他に防液堤が備えられており、漏洩したアンモニアや水に吸
着させたアンモニアを外部に排出しないようにしている。
●塩素タンクは、屋内に設置されており、外部に拡散する可能性は屋外に設置されているタンクと
比較して低い。
●フッ化水素タンクにおいては、散水設備、吸引設備、防液堤が備えられている他、外部への拡散
を防止するために配管接続部分にカーテンを設けるなどの対策がとられている。
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