PTSD の精神療法:共通性はどこにあるのか? 【抄録】 30 年以上前から

PTSD の精神療法:共通性はどこにあるのか?
【抄録】
30 年以上前から,トラウマティック・ストレスの領域に関連した研究および臨床実践は著
しく発展を遂げてきた。基本的な知識の継続的な集積と並行して,心的外傷後ストレス障
害(PTSD)や関連した心理的問題を抱えた人々を治療するアプローチも発展してきた。現
在,エビデンスに基づく治療は複数存在している。それらは色々な面で相違点があるが,
共通する点も多い。こうした状況において,臨床家はどの治療プログラムを使うべきか,
あるいはとりわけどの部分が治療の成功に重要なのかと思い惑うことがあるだろう。本論
文では,トラウマ関連疾患について実証された精神療法を開発した 7 人のパイオニア治療
者に対して,3 部構成で文章を作成するように依頼した。すなわち,まず開発した治療法の
概要紹介,次に PTSD を治療するのに共通して重要な 3 つの鍵となる介入を明らかにし,
最後に重要な話題と将来に向けての研究の方向性について提案するという構成である。本
論では最後に共通性として抽出された点(心理教育,感情調節と対処スキル,イメージ曝
露,認知処理/認知再構成/意味を見出すこと,感情,記憶処理)をまとめ,将来の方向性と
して,基盤となる作用機序の理解や,異なる患者集団に対して治療をテーラーメードする
ことなどを挙げる。
【本文】
30 年以上前から,トラウマティック・ストレスの領域に関連した研究および臨床実践は
著しく発展を遂げてきた。基本的な知識の継続的な集積と並行して,心的外傷後ストレス
障害(PTSD)や関連した心理的問題を抱えた人々を治療するアプローチも発展してきた。
現在,エビデンスに基づく治療は複数存在している(Bisson, Roberts, Andrew, Cooper, &
Lewis, 2013; Bradley, Greene, Russ, Dutra, & Westen, 2005; Schnyder & Cloitre, 2015;
Watts et al., 2013)。各治療法は治療期間,セッション数,介入の数や多様性などを含む様々
な点で異なっている。ある治療プログラムは実生活場面(in vivo)での脅威刺激への曝露
に焦点を当てているが,別の治療プログラムでは脅威に関連した刺激への直面を必要とせ
ず,出来事への再評価に専念している。トラウマ記憶への「処理」に対する戦略も異なっ
ており,ある治療法では口頭での報告を通じて再整理を促すのに対し,別の治療法ではナ
ラティブの筆記を求め,あるいはまた別の治療法では言語化させることなくトラウマ体験
を持続的あるいは間欠的にイメージさせる。ある治療法は対処スキルを治療の最初に組み
込むが,他の治療法では治療の中盤に置き,そしてさらに別の治療法ではスキル構築につ
いて明快な注目を与えていない。ある治療法はトラウマをライフスパンの中に見出し,首
尾一貫した自叙伝的としてのナラティブをつくることを目的とするが,他の治療法ではも
っぱら単回性のトラウマを取り扱っている。ある治療法ではトラウマ記憶を他の,もっと
ポジティブなライフイベントと結び付けようとしているが,他の治療法ではそうはしてい
ない。
このような多様性があるので,臨床家はどの治療プログラムを使うべきか,あるいはと
りわけどの部分が治療の成功に重要なのかと思い惑うことがあるだろう。マイアミで開催
された国際トラウマティック・ストレス学会年次大会で,Schnyder, Cloitre 両博士は実証
的に支持された精神療法を開発したパイオニアによるパネルディスカッションを企画し,
意欲的な課題を,すなわち治療間の共通性を同定し議論することを提案した。議論の末最
終的には,トラウマ治療を成功させるために最も重要な 3 つの介入について各パネルメン
バーに尋ねることとなった。
本論文の目的はこの問いへの回答を届けることである。この論文では実証的に支持され
たトラウマ関連障害への精神療法を開発した 7 名のパイオニアが,苗字のアルファベット
順に,3 部構成の文章を作成するよう求められた。まず開発した治療法の概要紹介,次に
PTSD を治療するのに共通して重要な 3 つの鍵となる介入を明らかにすること,そして最
後に重要な話題と将来に向けての研究の方向性について提案するという構成である。ダー
ウィンの時代から広く知られているように,それぞれの領域に「細分主義者と非細分主義
者」がいる(Endersby, 2009)
。
「非細分主義者」とは,物事をゲシュタルト的視点でとらえ,
差異は特徴的な類似性ほど重要ではないと考える人のことである。対照的に,
「細分主義者」
とは,精細な定義をつくり,類似性よりも差異を強調する。精神療法の研究は主として後
者に重点を置いていたかもしれない。少なくとも治療の中に潜在的な「有効成分」を同定
し系統的に試みようとする実験的目標の遂行をするときにはそうであった(例えば成分分
析など)
。
そこで我々は,本論文の共著者たちにより心地よい考え方(訳注:細分主義のこと)を
捨て,
「全体像」をみる視点で PTSD の精神療法を検討し,その視点を包括的な分類に組み
入れることで重要な治療成分を明確にし,将来における重要な研究への適用について議論
するよう依頼した。各共著者の貢献は過去をみて批判することではなく,次のステップへ
向けての前進でなければならない。以下の文章は「視点」として招待されたものである。
本論文は同定された共通性が存在する限りの範囲で強調してまとめられ,将来への方向性
が示される。
Marylène Cloitre (STAIR Narrative Therapy 感情調整と対人関係調整スキルトレーニン
グナラティブセラピー)
感情調整と対人関係調整スキルトレーニングナラティブセラピー(以下 STAIR)はエビ
デンスに基づいた 2 部構成の精神療法で,感情調節と社会スキルについてのトレーニング
がトラウマナラティブ分析と組み合わされている。この治療法を開発するきっかけは単純
に臨床的観察と実践的な文献の両者に起因している。患者はしばしば人間関係の問題,そ
して感情面の混乱を主訴として治療に訪れる。こうした問題を指摘して治療の最初にスキ
ルトレーニングを導入することにより,治療に透明性を与え,患者の主訴と一致する治療
を提供することになる。このアプローチは患者独自の治療目標や価値や好みを反映させた
治療計画を立てることを強調している。驚くことではないが,ナラティブセラピーの前に
STAIR を行うことはケアの保持につながり,スキルトレーニングのないトラウマ曝露と比
較して,ソーシャルサポートを受けている自覚及び感情調節能力の改善において優勢であ
り,PTSD 症状の一層の減弱を認めた(Cloitre et al., 2010)。PTSD のためのトラウマに焦
点化した治療は米国退役軍人保健局において広く普及しており,治療終結した者について
は非常に効果的であることが示されている。しかしながら,いくつかの研究において一致
しているのは,10%未満の PTSD 退役軍人患者しか治療終結に至らないことである(Mott,
Hundt, Sansgiry, Mignogna, & Cully, 2014; Seal et al., 2010; Watts et al., 2014)
。治療へ
の理解度が低いことについては構造的な問題で一部説明できる可能性があるが,この治療
が患者のニーズに合致しているかどうか,そしてもっと患者の興味を引く治療を提供する
方法については,さらに検討の余地がある。
上記に挙げた治療は,多くの有効なトラウマ治療と同様に,いくつかの共通した特徴を
備えており,3 つの最も重要な要素は感情調節の改善,心的外傷体験の意味づけ,そして普
遍的であるが強力な心理教育である。感情調節が改善することの利点は,穏やかな気分に
なることによって目標に向かった行動に移りやすくなり,社会ネットワークとのつながり
をより成熟させることができることにある(Hassija & Cloitre, 2013)。トラウマに焦点化し
た治療法は感情調節を間接的にしか改善しないかもしれないが,もし感情調節を治療に組
み込み,直接的に感情調節能力を高めると(例えばスキルトレーニングによって),この領
域の変化はより大きくなる(Cloitre et al., 2010)。意味づけは典型的には自身と他者につい
てのトラウマによって作られた信念を再評価して適応的に変化させることであり,その結
果,自己評価を高め,社会参加を促進し,将来についての希望と楽観性をもたせることが
できる。心理教育はスキルトレーニングと意味づけを統合する役割がある。心理教育は,
トラウマは日常的なもので,及ぼす影響については十分認識されており,効果的な介入が
用意されているといった基本的な情報の伝達も担っている。トラウマの現実,心理的影響,
回復可能性の同定について承認してもらうことは,サポートされている感覚と希望を与え
る。サポートされている感覚と希望は回復および将来起こりうるトラウマを防ぐ要素とし
てよく知られている(Hassija & Cloitre, 2013)。
次の段階で重要なことは広範囲に及ぶ(Cloitre, 2015)。患者中心のケアは研究および臨床
サービスにおいて優先度が高い。専門家が患者とパートナーシップを組むのは,患者にと
って重要なアウトカムや日常生活に容易に導入できる治療戦略,そして,効果的かつ患者
の時間と快適性を尊重したサービスモデルを見定めるためである。反復した多発性のトラ
ウマ曝露による累積的影響に対して効果を示す治療介入の明確化と評価が必要であり,特
に回復可能性を損なう個人・環境に関する資源損失(Hobfoll, 2002)に注目する必要がある。
多くの人々が治療を求める段階にあってもトラウマティックなストレッサー(例えば人種
やコミュニティの暴力)にさらされ続けているという事実は,ソーシャルサポート,コミ
ュニティや家族の絆,そして自己効力感の自覚といった保護的,あるいは「レジリエンス」
要素を強めるようなモデルや戦略が重要であることを示している(Southwick,
Bonanno, Masten, Panter-Brick, & Yehuda, 2014)。ここに掲げたことはすべて,治療戦略
とモデル化の改革を支援することが重要であることを示している。行動の発現機序を同定
すること(例えば感情調節と認知の変化)は,治療戦略と介入の改革を続けるにあたり効
果的な治療の鍵となる要素を特徴づける助けになるだろう。
Anke Ehlers (Cognitive Therapy for PTSD
PTSD に対する認知療法)
PTSD に対する認知療法には 5 つの中核的な治療手順がある。第 1 に,治療者と患者は
協力して個人に特化したケースフォーミュレーションを行う。これは,Ehlers と Clark の
PTSD 認知モデル(Ehlers & Clark, 2000)の個人版であり,治療の枠組みを構成している。治
療手順は個々の必要性に応じて定式化される。第 2 に,トラウマ記憶の更新は 3 ステップ
からなる:(1)トラウマにおいて最もひどい瞬間の記憶と現在最も脅威となる意味づけにア
クセスする(2)こうした意味づけを更新できる情報を同定する(トラウマにおける出来事の
経過からの情報,あるいは認知再構成による予測を試すことによっての情報)(3)新しい意
味づけと記憶における最もひどい瞬間の記憶とをつなげる。第 3 に,再体験のトリガーを
見分けるトレーニングでは,特異なトリガー(しばしばそれは繊細な感覚刺激による)に
系統的にスポットをあてて,現在(新しい安全な文脈における刺激)と当時(トラウマテ
ィックな状況における刺激)を区別することを学ぶ。第 4 に,助けにならない行動の減少
と認知処理では,思い返し(反芻),脅威に対する過覚醒,思考抑制,過剰な警戒(安全
行動)のような,助けにならない戦略を減らすよう患者が試す場所での行動実験が通常含
まれる(Ehring, Ehlers, & Glucksman, 2008)。第 5 に,人生を再生させる選択では,患者が
知覚するトラウマ後の永続的な変化に言及し,活動や社会的つながりを再生あるいは再構
築するよう計画されている。本治療では,例外的に治療導入部でトラウマ記憶がきっかけ
となって生じる覚醒度や苦痛を減らすための対処戦略を教える。これはルーチンの手順で
はなく,特定の状況や,患者の解離の程度が高い場合(グラウンディングテクニックを用
いると,患者が「今,ここ」にいるという意識を維持する助けになる),あるいは患者の
怒りの程度が高い場合のみに用いられる。
エビデンスに基づく PTSD への心理的治療の鍵となる共通要素は,変化を促進する機序
という観点から概念化されるのが最善だと私は思う。特定の治療テクニックは治療におい
て複数の機能をそなえることができる。例えば心理教育は,患者の意欲を高め,希望をつ
くりだし,症状への誤った解釈などの陰性の認識を指摘する助けとして用いることができ
る。同様に,異なるテクニックが,対象となるメカニズムを同じように変化させることも
ありうる(例えば,持続エクスポージャー療法あるいは認知再構成のどちらによっても問
題となる認識が変化する)。
第 1 の治療共通要素は,トラウマにより問題となった,自己と世界に関する意味づけ(認
識)を変化させることである。エビデンスに基づく治療法の中で,認識の変化が PTSD 症
状変化に関連しているというエビデンスは増えている(例: Kleim et al., 2013)。問題となる
意味づけについて新しい視点を持つ方法はいくつか考えられる。(1)トラウマについて考察
し,文脈を詳細にわたって検討する,(2)認知の再構成を行い行動実験において予測を確か
める,あるいは(3)古い意味づけと新しい意味づけを同時に思い浮かべる。
第 2 に,治療は心的外傷的出来事の記憶にアクセスし変化させる。曝露の程度や,焦点
をトラウマ記憶全体にあてるか,あるいは特定の瞬間にあてるかは大きく異なっている。
特に,再体験を引き起こす瞬間へのアクセスは重要である。というのもその瞬間は通常問
題となる意味づけとつながっており,トラウマについて単に話をするだけでは,例えば回
避やトラウマ記憶のまとまらなさがあるために,十分にアクセスすることが困難となりう
るからである。PTSD においては,こうした瞬間は事実とは逆であるにも関わらず脅威的な
意味づけとして保持されるようにみえることは興味深い。治療は事実を記憶に統合させて
いるようにみえる。
第 3 に,治療はトラウマと現在との区別を学習する手助けをしていて,それらはしばし
ば両者を同時に思い浮かべることによって行われる。これによりトラウマと人生の他の場
面とが区別され,トラウマ以外の人生について再び注意を向けることに焦点をあてる。患
者は,再体験のトリガーと強い感情は現在の文脈ではもはや危険ではないこと,あるいは
トラウマの間に知覚された自己についてのネガティブな見方がもはや人生全体においては
適用されないことを学ぶ。
反復性あるいは多発性のトラウマにおける累積的影響への理解を深めることと,どうす
れば治療の中で取り扱えるかを考えることが将来への挑戦となる。どうすれば併存疾患を
効果的に治療することができるか検討することも必要である。トラウマ後の慢性的 PTSD
の発症予測が進歩し,エビデンスに基づく治療が早期介入に役立つことの立証はなされて
きたが,PTSD が予防できるかどうかはまだ明らかとなっていない。軍隊や救急援助隊等の
ハイリスク群にとってこの問いは特に重要であるだろう。
Thomas Elbert, Maggie Schauer, and Frank Neunert (Narrative Exposure Therapy ナ
ラティブ曝露療法)
社会的に疎外されることから,逆境の生活における継続的な疲労と悲しみに対する感情
的負担まで,ストレッサーは直後の反応だけでなく,身体,心,行動における系統的な機
能を作り直すほどの長期的影響を残す。人生や人格を脅かす各々の新しいエピソードに遭
遇することは,空白のキャンバスに打ちつけられるのではなく,経験によって既に形作ら
れた個人によって処理される。このように,感情的に覚醒度を高める出来事の知覚は以前
に経験されたストレッサーの記憶に基づいて解釈され,分類される。外傷的となる体験を
重ねるごとに,外傷を体験した者は普遍的に,人生と人格への脅威的な知覚を増加させる。
個人にとっては,それぞれの刺激を包む文脈はゆるやかに消えていき(Elbert,
Schauer, & Neuner, 2015),こうした文脈を正しく方向づけていないと,どこに由来するの
かわからないままに脅威を体験したままになってしまう。これが PTSD 症状の手がかりで
ある。ストレスへの累積的な曝露の影響を背景として Schauer, Neuner, and Elbert (2011)
によってナラティブ曝露療法(以下 NET)は開発された。NET は最も強い覚醒反応を伴う
体験に焦点をあてており,特に警告や解離反応に至る恐怖や無力感がそうした体験となっ
ている。さらに,NET ではトラウマ体験者は重要でポジティブな体験,例えば世話をして
くれた人,社会的成功や報酬の記憶を思い出すよう促される。こうした介入は認知的ネッ
トワークを調整し,トラウマ体験者の資質を育てる。
NET においての手順として,トラウマ体験者は時系列にライフストーリーを構築する。
共感的理解,積極的傾聴,調和,無条件肯定が,治療者の行動における鍵となる成分であ
る。トラウマティック・ストレス体験について,治療者は感覚的記憶,認知,感情,そし
て生理学的な反応について詳細を尋ねる。語りの間に,トラウマ体験者は「今,ここ」と
のつながりを維持し続けながら,同時に様々な感情反応のすべてを伴ったトラウマ体験を
追体験するよう促される。トラウマ体験者に,現在の気分や生理学的反応は記憶の再生に
よって起きることを思い起こさせ,治療者はこれらを自叙伝的文脈,つまり,どこで,い
つその出来事が起こったのか,に結びつける。治療者は支持的かつ指示的に語りを引き出
すことで回避に対抗し,トラウマのすべての隠された情報も回復させる。
治療の後でトラウマ体験者に渡される記録された証言としての自伝は,治療を最後まで
行う重要なインセンティブになり,ドロップアウトに影響する。NET の有効性については,
トラウマ関連の症候学,心理社会的機能,そして身体的健康の面での改善が認められてい
る(Stenmark, Catani, Neuner, Elbert, & Holen, 2013)。
このエビデンスは感情を伴った追体験を含む曝露が治療の成功と関連することを支持し
ている。曝露は,「あの時,あそこで」から「今,ここで」を切り離すことへの挑戦を求
める。更に,NET は人生の中で起こった非常にストレスフルな出来事の有機的な意味づけ
を行う。それぞれの認知作業―NET の中での意味づけ―は癒しの本質的な要素を提供する。
最後に,ポジティブな体験の処理はトラウマ体験者が持っているであろう資源を行使し,
治療の継続にインセンティブを与える。
最近のエビデンスでは,治療不成功における社会的承認,社会的地位,そして社会的感
情の役割が注目されている。それ故に,市民生活や軍隊の兵役における暴力行為は治療中
に処理されなければならない。特に,社会規範を乱すような加害行為については焦点をあ
てる必要がある。前戦闘員や犯罪の加害者が社会への再統合をおこなうプロセスに入る前
に,起こした犯罪,罪悪感,恥について触れられなければならない。NET では,ポジティ
ブな出来事とトラウマとなりうるネガティブな出来事が探索される。こうしたことは戦闘
体験によって起こることがあり,戦闘が単に嫌悪的な体験だけではなく,同時に勝利,娯
楽として攻撃することへの満足,そして戦闘による高揚(“コンバット・ハイ”)といっ
たポジティブな瞬間にもなる(Elbert, Weierstall, & Schauer, 2010)。われわれは,この版の
NET の普及可能性について調査し,犯罪行為とトラウマ症状の両方を同時に減少すること
を確認した(Crombach & Elbert, 2015)が,以前軍隊にいたグループを平和な社会に再統合さ
せるためには,さらなる研究が必要である(Hermenau, Hecker, Maedl, Schauer,&Elbert,
2013)。特に,ソーシャルサポートは PTSD と犯罪行動を予防し,陰性の社会交流は PTSD
と犯罪行動を引き起こす。それゆえに,トラウマ体験とともに戦闘中のポジティブな感情
について社会的承認と再認識が行われることが,将来の介入への鍵となりうるだろう。
Edna B. Foa (Prolonged Exposure Therapy 持続エクスポージャー療法)
持続エクスポージャー療法(以下 PE)は 4 つの要素からなっており,2 つが主要なもの
である。第 1 は,心痛を引き起こすために回避されていて,「コントロールの喪失」を導
くと多くの PTSD 患者が感じる,苦痛を与えるトラウマ記憶の再考と詳述(イメージ曝露)
である。イメージ曝露の後には 15-20 分の処理が行われる(イメージ曝露体験,体験の結
果として生じる知覚の変化,そしてその他の関連した感情や知覚に関する議論)。処理に
おける議論では恐怖と不安にのみでなく,恥,罪悪感,怒りなども焦点づけられる。要素
を分解した研究(Bryant et al., 2008)では,曝露後の処理を PE から除くとアウトカムの悪化
がみられ,処理部分が重要であることが示唆された。第 2 の主要な要素は,回避されてい
た安全なトラウマ関連の刺激への段階的な接近(現実曝露)である。要素を分解した複数
の研究では,両方の要素が PE の有効性に寄与していることを示している。教育と呼吸法の
寄与についてはまだわかっていない。
PE は感情処理療法(EPT; Foa & Kozak, 1986)をベースとしており,「世界は極端に危険
である」,「私は全く無能である」といった誤った認知が,個人のこうした認知の反証を
得ることを阻害するような回避を促進することで PTSD 症状の悪化と維持を仲介している,
と仮定して PTSD に適用された(Foa&Cahill, 2001)。PE では,陰性の認知への反証が,イ
メージ曝露,処理,そして現実曝露によって起きる。いくつかの研究がこの主張を支持し
ている(Foa, Tolin, Ehlers, Clark,&Orsillo, 1999; Kleim et al., 2013)。更に,陰性認知の減少
は PTSD 症状の減少に先んじて起こっており(Zalta et al., 2014),このことは陰性認知の減
少が,PE あるいは他の認知行動療法の間の PTSD 症状の減少の根底にあるメカニズムを構
成していることを示唆する。EPT は治療の成功に必要な 2 つの状態を仮定しており,両者
とも実証的に妥当性が確認されている:(1)トラウマ記憶の活性化(感情への関わり)(2)曝
露の間に有害である予測を反証するような情報の提示(つまり,ネガティブな期待に対す
る反証)。既に述べたように,多くの専門家が陰性認知の減少が PTSD 治療の有効なメカ
ニズムであるという見方を共有している。PE は,付加的に有効な治療メカニズムとして,
治療中にトラウマ記憶を活性化(感情への関わり)することを強調している。動物を用い
た研究のデータでは,活性化は治療メカニズムとなることを支持している。実際,恐怖の
活性化の欠如は,恐怖の消去を妨げるという結果がある(Gillihan & Foa, 2011)。
われわれはここからどこへいくのか?この論文ではっきり示されているように,同じよ
うな有効性をもついくつかのエビデンスに基づいた PTSD に対する治療法がある。しかし,
有効性についてはエビデンスの強さに違いがある。しかも,治療法ごとにどの治療要素が
活性化されてどれがそうでないのかということについての理解は異なっている。治療の有
効性における異なった要素の相対的な貢献と合理的治療については更なる研究が必要であ
る。この領域における重要な事柄のひとつは,感情調節を強める介入が PTSD を改善する
ことを目的とした治療に必要か(Minnen, Harned, Zoellner, & Mills, 2012)?ということであ
る。研究によれば感情調節はスキルトレーニングによって改善する(Cloitre, Cohen, Koenen,
& Han, 2002)。しかしながら,Cloitre らは,持続的な曝露そのものが感情調節を改善させ
ることを示唆したデータを発表している(Cloitre et al., 2010)。治療における作用機序として
の感情調節については更なる研究が必要である。PTSD の再教育において陰性認知の変化が
因果的影響を与えるかについても,自記式ではなく客観的指標を用いて,更に研究される
べきである。更に研究が必要なもう 1 つの分野としては,曝露療法の効果を高めるために
消去を促進することが可能な何かを用いて,治療の有効性と効率性を高めることである
(Hendriks, De Kleine, & Van Minnen, 2015)。最後に,そして最も重要なことは,世界中の
臨床現場にわれわれのエビデンスに基づいた治療を効果的に普及させて実行させる方法に
関する研究である。
Berthold P. R. Gersons (Brief Eclectic Psychotherapy for PTSD
PTSD に対する短期
折衷精神療法)
PTSD に対する短期折衷精神療法(BEPP)はエビデンスに基づく,効果的なトラウマ焦
点化治療の 1 つである(Gersons, Meewisse, & Nijdam, 2015; Nijdam, Gersons, Reitsma, De
Jongh, & Olff, 2012)。この治療では異なる起源の 5 つのモジュールをつなぎ合わせている。
治療は,パートナー,あるいは信頼できる人と一緒に心理教育を受けることで始まる。PTSD
症状と心的外傷的出来事とのつながりが説明され,理解される。そして,治療法が説明さ
れる。全 16 セッションのうち,次の 4-6 セッションではイメージ曝露が行われる。BEPP
では,イメージ曝露は非常にゆっくりであるが精細な過程であり,まずリラクセーション
練習で始まり,次に心的外傷的出来事の少し前の時期,出来事そのもの,そしてその後に
焦点を当てる。これはホットスポットの間の感情表出に焦点を当てており(Nijdam, Baas,
Olff, & Gersons, 2013),恐怖反応への馴れには焦点を当てていない。例えば,飛行機事故で
生還した場合,飛行機が揺れるところから始め,次に墜落,客室の崩壊,客室内での死,
穴を登ること,負傷したこと,そして安全な場所に到達することを目指す,などである。
その他のツールとして心的外傷的出来事とつながる記念品を用いること,そして怒りや悲
嘆の感情を表現するための進行中の手紙を書くことを用いる。最後の 9 つのセッションで
は心的外傷的出来事から与えられた意味づけと学びについて時間が割かれる(Gersons &
Schnyder, 2013)。治療は別れの儀式によって終わる。BEPP のプロトコールは 8 言語で用
意されており(オランダ語,英語,ドイツ語,ジョージア語,イタリア語,リトアニア語,
ポーランド語,スペイン語),子どものためのバージョンと,外傷性悲嘆のバージョンも
ある。
PTSD の治療の成功にとって鍵となる 3 つの要素を同定することができる。第 1 は,一
方的判断をせず,共感的な聴き手となって過去のひどい体験を聴くことができる治療者を
患者が信頼するということである。第 2 に,悲嘆,悲哀,怒りが織り交ざった感情を自由
に表現できるような安全な環境で,出来事に曝露されて追体験することが必ず助けとなる。
第 3 に,しかしながら,異なる言い方をすれば,人生がどのように危険にさらされて危険
であっても,人生を新たに楽しむことには価値があるということである。
われわれは PTSD への効果的治療について,まだ入り口にいると自覚することが望まし
い。検討すべきテーマの 1 つは,どの症状が治療後に完全に消失し,どの症状が残遺症状
として残るかということについてより良い視点を持つことである。治療後にも,新たな心
的外傷的出来事への脆弱性となる「口火」が残っているようにみえるのである(Gersons &
Olff, 2005)。オランダ警察の外来患者部門を対象とした最近の報告では,566 名の警察官の
うち 96%が,
BEPP 治療ののち PTSD 診断をもはや満たさなくなっていた(Smit et al., 2013)。
しかし,治療後にも 60%がいまだ集中力に関する問題を残していた。2 番目のテーマは,
PTSD に対するエビデンスに基づく治療法は同じ効果量である一方で,同じキーワードを共
有している場合でも,それぞれの治療法が良い結果を生むために特異的な別々のプロトコ
ールを用いる別の様式であるということである。PTSD を治療するための包括的な治療法を
開発して合理化することが求められている。それと同時に,第 3 のテーマとして挙げるの
は,年齢,文化,性別,そして体験等非常に異なる患者グループにおいて,異なるニーズ
があることを認識しなければならないことである。一例としては,PTSD の治療においては
恐怖を軽減させることに限定させずに,外傷性の悲嘆にもっと焦点をあてることである。
また,スキルトレーニングはわれわれの患者の治療における別のニーズを認識する一例に
なる。
Patricia A. Resick (Cognitive Processing Therapy 認知処理療法)
共通性に関する私の最初の考えとしては,PTSD に対する全てのエビデンスに基づく治療
が心理教育を含んでいて,心的外傷的出来事に焦点を当てて感情,認知,そして回避の変
化を起こそうとしている。私が最初に認知処理療法(以下 CPT)(Resick & Schnicke, 1992)
を開発した際,治療の鍵となる要素は教育,トラウマに関する誤った信念に対する認知療
法,そして感情表現を促すようなトラウマ陳述,そして治療者がトラウマの詳細について
理解する必要性だと考えた。しかしながら,私が筆記による陳述のあるなしで CPT を分解
した研究を行った際,描写的陳述はプロトロールに何も加えないばかりか,治療の進歩に
もならないことに気づいた。CPT の認知のみのバージョン(CPT-C)では,第 4 回目のセ
ッションでソクラテス的対話に焦点を当てることによって臨床的に意味のある改善を認め
た。陳述を伴う CPT では,症状改善は陳述が終了するまで先延ばしされた(Resick et al.,
2008)。その後,私自身の研究は CPT-C を用いて行われてきた。トラウマに関する議論は,
避けられた記憶への曝露を構成すると考える向きもあるだろう。しかしながら,何か起き
た理由について語ることと,詳細にわたり描写的にトラウマ記録を再体験することは異な
る。
その当時私は,現在中心療法(PCT)のような治療法は,全く心的外傷的出来事に焦点を当
てないが,PTSD に関する教育と現在の症状と問題の解決を行うという点で他の治療法に対
するコントロール条件となるのではないかと考えた。最近出版された PCT をコントロール
条件としたものを含む 5 試験のメタアナリシス(Frost, Laska, & Wampold, 2014) では PCT
と他のトラウマに焦点を当てた PTSD 治療との間には小効果量の差異があったが,PCT と
待機群の間では大効果量(0.74-1.27)の差異が認められた。PCT はまた,ドロップアウト率
がトラウマ焦点化治療よりも低かった。もちろん,ある患者は症状が改善して治療から脱
落し,別の者は改善を認めないために治療に留まったと考えることもできることから,ド
ロップアウトはそれほど重要ではないかもしれない(Szafranski, Smith, Gros, & Resick, in
preparation)。メタアナリシスでは PCT の持続的な効果については調査されていないが,与
えられた最初の結果から,われわれはトラウマ記憶について議論をせず,症状と現在の問
題について焦点を当てる際の変化が起きる機序について考えなければならない。
全ての治療に共通しているものの 1 つは,PTSD について,そして過去又は現在における
クライアントの問題を別の道筋から思考することについての教育である。クライエントの
前頭皮質に積極的に関わる(訳注:これは認知に関わるということの比喩)どんな介入も,
扁桃体とは逆の関係を持っているので(訳注:これは扁桃体が感情を司っているという考
えによる比喩),感情調節について教えて興奮を鎮めようとする。われわれは,治療の非
特異的効果についても過小評価すべきではない。私はプラセボ効果のことを意味している
のではなく,治療に訪れ,それぞれの日常から離れて時間をとり,費用を払い,問題につ
いて焦点を当て,共感的で能力のある治療者とそれらについて話し合い,行動計画を立て
て治療の場から去ることの真に現実的な効果について述べている。治療に関わるクライエ
ントは彼らのウェルビーイングに投資をしたのだ。エビデンスに基づくかどうかによらず,
ほとんどの治療者は恐らく PTSD のクライアントの機能をある程度は改善させている。こ
れが多くの治療者がエビデンスに基づく治療プロトコールを試そうとしない一因となって
いる。彼らはクライエントが改善したと信じているし,実際そうなのだろう。問題は,わ
れわれがこの非特異的効果および教育と比較して,より良好な治療ができるかということ
だ。これを解明するためには,われわれは中程度から小程度の効果量をもつだけの十分な
対象者数の試験を行い,一般的な治療と比較してよりよいアウトカムが得られるまで私た
ちの治療を改善させていかなければならない。
Francine Shapiro (EMDR Therapy EMDR 治療)
眼球運動による脱感作と再処理療法(以下 EMDR)治療は,包括的な 8 つの過程からな
るアプローチで,もともと記憶の役割と情報処理システムについて強調した,精神病理に
対する治療法である(Shapiro, 2001, 2014b)。この治療法では,人生の逆境体験において,
出来事の際に感じた感情,信念,身体感覚に関する処理されない記憶がエピソード記憶の
中に不適切に保管されていて,現在の非機能的な反応の基礎となっていると仮定される。
出来事の EMDR 処理によって,情報が訂正され,洞察が内部に起こる結果となり,適切な
感情に変化し,首尾一貫したナラティブの出現が認められるような意味のある記憶のネッ
トワークへの統一が促される。病理的な性質と,特異的に感情を変化させるテクニックの
教育は,セッション間あるいはセッション中にエンパワーメント感覚を保証するためにも
たらされる。クライアントは記憶の詳細を描写するよう求められず,むしろ出来事のイメ
ージ,現在保持している陰性の信念,身体感覚を妨げている場所について焦点を当てるよ
う求められる。処理はおおむね 30 秒程度の短期曝露で,連続的に両眼運動とセットで組み
合わされていて,覚醒度,陰性感情,イメージの鮮明性を有意に下げる(Lee & Cuijpers, 2013)。
クライアントは,一般的に生じる新しい思考,感情,感覚,記憶について「何が起こって
も,起こったままにする」よう説明を受ける。各々のセットの後,クライアントは何を思
い浮かべたか短く報告し,臨床家は標準的なプロトコールに沿って,次のセットに注意を
向けるよう求められる。処理手順では記憶が解決されるまで,感情,認知,身体反応につ
いての変化が促進されて,評価される。記憶の処理は一般的に 1-3 回のセッションで終了す
る。一般に,治療は過去の記憶の処理,現在のトリガーの処理,そして未来への挑戦から
なる。
3 つの要素が治療に不可欠である。(1)安定の保証と自己統制感を供給するだけの臨床経
験とテクニック,(2)記憶とトリガーの処理,(3)適切な社会関係のために必要なスキルを教
えること。治療が成功したクライエントは,彼らの反応を調節し,挑戦的な状況において
適応的な機能をみせる。児童期に複数回の虐待を受けたクライアントは更に広範囲な教育
を受けて,ポジティブな記憶ネットワークへのアクセスを増やすことが有益かもしれない
(Korn & Leeds, 2002; Shapiro, 2001)。治療関係における相互作用は,クライアントに価値
があり,無条件の尊重を受けるに値することを彼ら自身が見出す最初のきっかけを与える
かもしれない。臨床効果の継続は逆境体験の記憶と現在のトリガーの処理に起因している
(Shapiro, 2014b; Solomon & Shapiro, 2012)。個人の記憶への有効な治療は出来事との関連
を生み出すかもしれないが,現在の状況は,2 次性の条件づけ(訳注:一度条件づけられた
ものに,新たな刺激による学習を付け加えること)とそれに伴うプロセスによってアセス
メントされるべきである。包括的なアセスメントと将来に向けての統合されたスキルが不
可欠である。スキル獲得に必要な期間は,児童期に適切な社会化の体験を欠いている結果
の発達の問題を扱う必要があるかによって決まる。すべてのクライアントにとってのゴー
ルは,個人および関係性の両方において適応的に機能することである。
将来的には,「倫理観の傷つき(訳注:戦闘体験における殺戮など,戦闘中には倫理的
に正しいとされる考えが平和な場所では殺人として認められないなど,元来抱いていた倫
理観が崩れることを指す)」,および累積する逆境的なライフイベントといった問題を考
慮する必要がある。EMDR 治療の処理は罪責感や恥を受容に変化させ,「私は私のしなけ
ればならないことをする」(Russell & Figley, 2012)としばしば言語化されるようになる。用
いられる短期曝露は元々の記憶がレジリエンスの源として別の形で保管されるという再固
定化が起こることを仮定している(Shapiro, 2014b; Solomon & Shapiro, 2012)。臨床像の包
括的な評価は障害が引き続いている領域を同定するべきであり,処理により解決されるべ
き関連する逆境体験の記憶を同定するべきである(Shapiro, 2001, 2014b)。回答の出されて
いない問いは,幅広いトラウマに関連した状況への調査研究である。従来治りにくいと考
えられている状況に対するトラウマ記憶処理の有用性について更なる厳密な研究が必要で
ある。例として,慢性の幻肢痛(De Roos et al., 2010),常軌を逸した性的関心(Ricci, Clayton,
& Shapiro, 2006),
精神病症状(Van den Berg & Van den Gaag, 2012)が挙げられる。加えて,
トラウマが心理的,身体的,社会的に与える陰性の影響と,他の悪影響は明快に示されて
おり(Shapiro, 2014a),「成人の主な死因に対する複数の危険因子」(Felitti et al., 1998)であ
ると示されるほどである。これらの所見はメンタルヘルス分野での治療に対する偏見をな
くす最良の方法を探すための将来の研究の必要性と世界中での有効な介入プログラムの利
用増加の必要性を浮き彫りにしている。
結論
トラウマ体験者に対する現在使用可能な実証的な精神療法には多くの共通点がある。寄
稿者により同定された共通性は以下のようになる。
1) 心理教育では,心的外傷後反応の性質と経過の情報が提示され,トラウマのリマインダ
ーに対処する方法が同定され,苦痛をマネージメントする方法を話し合う。トラウマに焦
点化された精神療法では,介入を手助けし,患者の協力を最大限に利用し,再発を防ぐ目
的で心理教育が用いられる。
2)感情調節と対処スキルは多くの治療アプローチについて用いられている。暗示的に用い
られることもあれば,明示的な治療要素として用いられることもある。
3) イメージ曝露は PE と NET で積極的に強調して使われている。しかし,患者のトラウ
マ体験記憶の何らかの形での曝露は,事実上,トラウマ関連疾患へのすべてのエビデンス
に基づく精神療法で用いられている。
4) 認知処理,認知再構成,または/あるいは
意味づけも,PTSD に対する実証的に支持
された心理的治療のほぼ全てで見出すことができる。しかしながら,最も重要な治療成分
である認知的なアプローチは,一部の治療では曝露後や曝露中に統合の一部として概念化
されている。
5) 感情は全ての精神療法で標的とされている。いくつかの治療では大部分が患者のトラウ
マや恐怖回路を取り扱うが,他では罪悪感,恥,怒り,または悲嘆,悲哀といった感情に
より焦点を当てるか,あるいは同等に焦点を当てている。
6) 記憶処理もトラウマ関連疾患の治療に重要な役割を果たしている。専門用語としてどの
ような単語が使われているかによらず,記憶機能の再構成と首尾一貫したトラウマナラテ
ィブは全てのトラウマに焦点化した治療の中心的治療目標となっている。
研究の将来的な方向性においては,われわれの多くが心的外傷後の残遺症状と新しい心
的外傷的出来事に対する脆弱性を留意点として挙げている。
基本的な作用機序のさらなる理解は必要である。系統的な研究は最も有効的な治療要素
の同定の手助けとなり,治療がより強力で円滑になる可能性がある。加えて,機序を研究
することは見落とされていた過程や機序をみつけ,治療のアウトカムに有意に影響を与え
る手助けにもなる。研究課題の候補となりうるものに,認知や認知過程(新旧記憶の識別
能力を増すこと等),感情調節(自己を鎮静化させ,苦痛をやわらげ,葛藤や相反する感
情の存在を認識して受け入れること等)の変化がある。考慮すべき新規の機序としては,
感情,認知,行動での「社会的な」役割,例えばアタッチメントや社会的絆のプロセス,
共感,思いやり(治療同盟)そして逆の体験としての社会的隔たりや社会的拒否(仲間外
れにされる),関連した経験としての倫理観の傷つきが考えられる。
異なる患者層の要求に合わせた治療の開発も年齢,性別,文化,併存疾患,体験したト
ラウマの種類といった要素により行われることを推奨する。トラウマ体験については,例
えば,慢性多発性のトラウマに関する神経生物学的そして心理社会的な影響への理解,特
に発達の様々な段階に注目すること,そして,暴力の加害行為体験と倫理的立ち位置の一
貫性(例:倫理観の負傷)が挙げられる。
われわれは,一次予防からトラウマ後の社会復帰に至るまでの トラウマケアの連続性に
ついてもっと幅広く考える必要があるという認識を持っている。これにはハイリスク群(例
えば軍隊や救援隊員)に対する介入計画の作成によってレジリエンスを強化すること,ま
たトラウマ体験者が日常生活に復帰するために社会承認を得るためのプログラムなどが含
まれる。われわれのうちのある治療者は介入を要約・短縮することに将来の方向性を定め,
また別の治療者は社会的文脈を治療における不可欠な部分とみなす(例:システムへの介
入)ような,もっと長く多面的な治療を将来の方向であると主張するだろう。社会的,政
治的歴史がトラウマと回復のプロセスの一部であることはほぼ一致した見解であると思わ
れるが,精神療法の構造をつくる意義(例:われわれは個人・家族・コミュニティのいず
れを治療するのか?),そしてそれらが歴史と文化ごとにどのように異なるかという点に
ついてはまだ知られておらず,注目に値する。
最後に警鐘を鳴らす。われわれはみな違う国の出身で,われわれの患者も人種,文化,
そして個人史において非常に異なっている(Schnyder, 2013)。われわれは診断されていない
患者を治療するわけで,われわれが話す際には,同じ言語や同じ用語であっても,臨床現
場(例:陰性認知,感情への関わり),介入,患者反応の性質において未確認のギャップ
やミスマッチがあるだろう。文化や文脈に特異的な価値によって決定される,詳細な内容,
介入の供給,患者の反応,あるいは彼らが伝えなければならない物語に関して,われわれ
は重大な差異をみつけられないかもしれない。
これらの制約があることを心に留めて,ここで要約した治療は―それぞれが違った点に
焦点を当てているが―全てが効果的で,臨床家に対し,患者の利益になるような実証的に
支持された種々の治療選択肢を供給している。われわれは,PTSD 治療に重要だとして本論
文で同定された共通要素が将来の発展につながり,臨床家が彼らの患者に対し,行いうる
最良のトラウマに焦点化された精神療法を供給しようという継続的な試みの支援につなが
ることを望んでいる。
(日本語訳 大江 美佐里)