172nm 真空紫外線によるチタン表面の改質と MPC ポリマーのコーティング 岐阜大院工 坂井宏彰,神原信志 キーワード[表面改質,真空紫外線,MPC ポリマー,コーティング] 1. 緒言 2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマーは生体膜と同様の構造を持っ ており,優れた抗血栓性を有することから 1),インプラントや人工臓器,ステントなど様々な医療 デバイス表面にコーティングする技術が望まれている。しかし,医療デバイスによく用いられる材 料であるチタンの表面は,疎水性であるため,親水性の MPC ポリマーをコーティングすることは 容易ではない。 MPC ポリマーをチタン表面に強固にコーティングするためには,チタン表面と MPC ポリマーを 化学的に共有結合させることが必要である。そのためには疎水性であるチタン表面を親水性に改質 する必要がある。そこで,チタン表面にカルボキシル基(-COOH)または水酸基(-OH)のような 親水基を付与すれば表面は親水性になり,MPC ポリマーの側鎖を強固に結合できると考えられる。 チタン表面に水酸基を付与する方法としては,紫外線を照射する方法が文献で示されている 2)。 本研究では,生産性を考慮して反応時間を短くしたいことから,フォトンエネルギーが高い波長 172nm の真空紫外線を用いて,表面処理を行うことを試みた。また,改質後のチタン表面に MPC ポリマーをコーティングし,表面状態を観察・分析するとともに生体内でのコーティング耐性を調 べるために溶出試験を行った。 2. 実験方法 Fig.1 に示すエキシマランプ照射装置を使用して, φ=14 mm のチタンの表面に波長 172nm の真空 紫外線を大気雰囲気で照射した。ランプからチタン表面までの距 離は約 5.0 mm であり,ここでのフォトンエネルギーは 28 mWcm-2 であった。照射時間を 1 - 15 min に変化させ,表面改質後のチタ ン表面に蒸留水を滴下し,接触角の測定を行った。 次に,表面改質後のチタン表面に 50 μL の MPC ポリマー溶液を 滴下し均一化した後,乾燥し,コーティング膜を形成した。MPC ポリマー溶液は,MPC ポリマー粉末 (日油製 LIPIDURE-CM5206) をエタノールに溶解して作成した。ポリマー濃度は 1,2,3,5, 10,15 wt%に変化させた。また,乾燥温度を室温(約 25℃) ,30℃, 45℃,60℃に変化させ乾燥温度の影響も調べた。 さらに,コーティングを施したチタンを 30mL の蒸留水および 生理食塩水(0.9%w/v% NaCl 水溶液)に浸し,5 日間ゆっくりと Fig.1 A 172 nm excimer lamp for surface modification 撹拌し溶出試験を行った。コーティング表面は,原子間力顕微鏡 (AFM) ,低真空 SEM,XPS,顕微ラマン分光 法を用いて分析・評価した。 3. 結果および考察 3-1. 接触角変化 Fig.2 はチタン表面への真空紫外線照射時間 に対する水の接触角の変化を表した図である。 水の接触角は照射時間 3 min まで減少し,その 後はほぼ 0°で一定となった。これより,照射 時間 3 min 以上とすればチタン表面は十分に改 質されることがわかった。 Fig.2 Change in the contact angle by 172 nm VUV irradiation. 3-2. 溶出特性 Fig.3 は MPC ポリマー濃度に対する溶出率の変化 を乾燥温度をパラメータとして比較した図である。 コーティングに使用する MPC ポリマー濃度が 3% 以上になると溶出率は低くなり,変化は小さくなっ た。また,MPC ポリマー濃度が 3%以上では,室温 (約 25℃)で乾燥させた場合の溶出率が他と比較 してわずかではあるが低くなっている。これより, コーティングには MPC ポリマー濃度が 3%以上の 溶液を使用し,室温での乾燥が適していると考える。 3-3. 膜厚変化 Fig.4 は蒸留水を用いた溶出試験前後の MPC ポリ マー濃度に対する膜厚の変化を示した図である。膜 厚はコーティングに使用する MPC ポリマー濃度を 高くするにしたがって,ほぼ一定の割合で増加して いる。また,溶出試験後の膜厚については,溶出試 験前と比較して約 3μm 減少することがわかった。 Fig.3 Variaion in the leaching rate with the drying temperature of MPC polymer. 3-4. 顕微ラマン分光法による分析結果 Fig. 5,Fig.6 はそれぞれ,5%の MPC ポリマー溶 液をコーティングしたチタンについて,蒸留水によ Fig.4 Variaion in the film thickness with る溶出試験前後の表面を顕微ラマンを用いて分析 concentrations of MPC polymer. した結果である。 溶出試験前後のピークを比較すると,溶出後のピークは若干弱くなっているが,ピークの位置に変 化がない事から,溶出試験前後で表面の構造に変化はないと考えられる。 Fig.5 Raman spectrum before the leaching test Fig.6 Raman spectrum after the leaching test. 4. 結言 エキシマランプで波長 172nm 真空紫外線をチタン表面に 3min 以上照射することで,水の接触角 は大きく減少した。コーティング膜の溶出率は,MPC ポリマー濃度が 3%以上,かつ室温乾燥の時 抑制できた。溶出試験前後で膜厚は減少するが,膜表面の構造に変化はないことがわかった。 文献 1)K.Ishihara et al.;J.Biomed.Mater.Res.,24,1069-1077(1990) . 2)Kazuhito Hashimoto, Hiroshi Irie;表面科学, 25,252-259(2004) . Sakai Hiroaki,Kambara Shinji
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