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新潟県立新潟翠江高等学校
校長通信 No. 27 (H28、6.20)
萩野
俊哉(はぎの・しゅんや)
未知
未知
(谷川俊太郎)
谷川俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)
昨日までつづけてきたことを
今日もつづけ
詩人。豊多摩高校卒。1952年、第一詩集『二
今日つづけていることを
十億光年の孤独』で注目される。翌年『六十二
明日もつづける
のソネット』を刊行。詩誌「櫂」に参加。詩作
そのあたり前なことに
を中心にラジオドラマの執筆、戯曲、映画脚本
苦しみがないと言っては嘘になるが
等、幅広い活躍を続ける。詩集『日々の地図』
歓びがないといっても嘘になるだろう
で読売文学賞、翻訳『マザー・グースのうた』
1931年12月15日、東京に生まれる。
で日本翻訳文化賞を受賞。
冬のさ中に春の微風を感ずるのは
思い出であるとともに
ひとつの予感で
昇る朝陽と沈む夕日のはざまに
ひらひらと雲が生まれ
また消え失せるのを
何度見ても見飽きないのと同じように
私たちは退屈しながらも
驚きつづける
もしも嫉妬という感情があるのなら
愛もまた存在することを認めればいい
足に慣れた階段を上がり降りして
いくたびも扉をあけたてし
ごみを捨て
ときには朽ちかけた吊橋を渡って
私たちは未知の時間へと足を踏み込む
どんな夢も予言できぬ新しい痛みを負いつつ
私はこの詩が大好きです。日常の何気ない仕事(勉強)や作業の繰り返しの中で感じる
退屈さ、しかし、それはまた同時に未知への扉をひらくチャンスに満ち溢れている日々で
もある。その扉のノブに手をかけるか、かけないか。それは私たち自身がどれほど日常生
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活のルーティーンの中でさえも、物事をよく「見て」そして「決断」しているかを映し出
す動作でもあるのです。さらに、もし仮にその扉のノブに手をかけてあけようとしても、
もしかしたらその扉は固く閉じて私たちの侵入を拒むかもしれません。たとえそうであっ
ても、未知への扉をあけるべく一歩を踏み出すか、踏み出さないか。それは私たち自身が
決めることなのです。
皆さんにとって、未知の世界とはどのような世界でしょうか。明るい世界でしょうか。
それとも、暗い世界でしょうか。私はこの詩が好きです。なぜなら、この詩にはその底流
にある種の「明るさ」を秘めているからです。それは「希望」と言ってもよいでしょう。
この詩には次のような「明」と「暗」という対になる概念が繰り返し語られます。
「歓び」―「苦しみ」
、
「春」-「冬」
、
「朝陽」-「夕日」
、
「生まれ」-「消える」
、
「愛」-「嫉妬」
、
(階段を)
「上がり」-「降り」
ところが、不思議と「暗い」イメージに私たち読者が引きずられないのはなぜでしょうか。
それはきっと私たちの中には基本的に「明るい未来はきっと築ける、やって来る」という
「信念」のようなものがあるからなのではないでしょうか。しかし、同時にそれはまた、
放っておいて何の努力もなく漫然と日々を過ごしていて「明るい未来」など来るわけはな
いのだ、という「信念」でもあるのです。痛みを伴いつつ、しかし、勇気を持って「過去」
を乗り越えよう。そして、また新たな痛みを背負うことをいとわず、覚悟を持って未知へ
の扉を開けよう。
..
.そんな力強さのある、この詩が私は大好きです。
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