(4)共同化科目の授業研究 (4)共同化科目の授業研究 ア 「京の意匠」における展示の活用 京都工芸繊維大学 教授 並木 誠士 「京の意匠」では、京都でどのような意匠(デ したものや適応できなかったもの、そういったさ ザイン)が生み出され、また、時代の変化に応じ まざまな美術工芸品を見ることにより、伝統工芸 てそれがどのように変遷していったのかを、年度 が立ち向った「近代」について深く理解すること ごとに「やまと絵と日本の文様」 「室町時代にお ができる。 ける和漢の融合」「江戸時代の美術工芸」などの 2014 年度には秋の「京都学事始−近代京都と テーマを設けて講義している。2012 年度からは 三大学」展、冬の「まねる・まねぶ・まなぶ−複 「近代京都の美術工芸」というテーマを設定して、 製に見る教育と保存−」を活用して、さまざまな 美術工芸資料館の収蔵資料を活用した講義をおこ 美術工芸品類を見せながら、それが果たした役割 なっている。 を説明した。展示を見る前に教室で歴史的な背景 この講義では、明治時代の京都において、日本 や関連事項の説明をしておくことにより、学生は、 画や洋画、友禅染や西陣織といった染織、京焼と 実際に、伝統産業が近代化するためにどのような 呼ばれる陶芸、蒔絵や螺鈿を駆使した漆芸など伝 知識や技術が利用されたのかという点をリアルに 統的な美術工芸が、時代の「近代化」という流れ 実感することができたと思う。 にどのように対応していったかを、出来る限り実 2015 年度も 1 月 12 日から始まった「中澤岩 際の作品に即して考えることを目的としている。 太博士の美術工藝物語−東京・巴里・京都−」で 通常の講義の際も、美術工芸作品の画像を示し 展示された美術工芸品類を通して、化学者である つつ、その歴史的な位置と美術史的な特質につい 初代校長中澤岩太が伝統工芸界に果たした役割、 て講じているが、美術、デザイン分野における理 1900 年のパリ万国博覧会が近代京都に与えた影 解は「実物」を見ることにより、より深まるもの 響などを作品に即して講じた。 である。つまり、実物を通して講義内容をより具 大学ミュージアムの存在とその活用により、こ 体的に理解してもらうことが必要であり、また、 のような講義が可能になることを考えると、あら 美術工芸資料館の収蔵品は、そのことを可能にす ためて大学教育におけるミュージアムの重要性が る貴重な資料であると考えている。 理解できると思う。 美術工芸資料館の収蔵資料は、1902 年の京都 高等工芸学校(京都工芸繊維大学の前身校)の開 校以来、教材として使用されてきた美術工芸品や 教師の作品、生徒の課題作品や卒業制作からなっ ている。 これらの美術工芸品のなかには、ロートレック のポスターやティファニーのガラス器のように、 いまでは貴重な美術品として評価の高いものも多 いが、それだけではなく、新しい時代にふさわし い新しい意匠を創るための、教師や生徒たちの試 行錯誤の結果も含まれている。新しい時代に適応 42
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