青 森 保 健 大 雑 誌 8(1),129-130,2007 〔論 説 〕 医療 制度改革 が もた らした現状 と課題 渡部 一 郎1) キ ー ワ ー ド:医 療 制 度 改 革 、 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 、 コ ス ト I.は じめ に 病 院 で の あ ら ゆ る疾 患 の 診 察 を避 け る よ う に な っ た。 わが 国 で は 国 民 皆 保 険 制 度 の恩 恵 に よ り誰 もが最 高 の 数 年 前 か ら行 わ れ た 卒 後 研 修 制 度 変 革 で は 、 医 師 の専 先 端 医 療 を享 受 で き、65歳 以 上 の 老 年 人 口 は2006年 に 門 性 ・局 在 を改 善 す る た め 大 学 医 局 で の卒 後 研 修 を抑 制 21%を 康 達成度 し、 大 学 外 の 地 域 医療 を義 務 付 け したが 、 逆 に専 門性 の ら高 齢 社 会 高 い 都 市 型 医 療 を め ざす 医 師 が 増 え、 現 時 点 で は、 医療 要 した 年 数 は 、 ス ウ ェ ー デ ンが84年 、 ドイ ッ の 混 乱 、特 に地 域 医療 で は一 部 崩壊 に近 い状 況 と な っ て 超 え 、 世 界 第1位 の 平 均 寿 命 、WHO健 指 数 を 示 し て い る。 高 齢 化 社 会(7%)か (14%)に が42年 で 達 した の に比 べ 、 わが 国 は僅 か24年 で 達 成 して い る。 い る。 ま た わ が 国 は 、 これ ら の優 れ た 医 療 を少 な い 医療 ス タ ッ フ と、 低 コス ト(GNP比 で は世 界21位/30先 進 図2.急性期 医療提供体 制の各国比較 OECD 国)で 提 供 して お り、世 界 の 範 と して 注 目 を集 め て い る (図1,2)。 Health Data 2005 一 方 将 来 の 少 子 化 ・高 齢 社 会 に対 応 し、2000 平 均在 院 日数 年 か らの介 護 保 険 制 度 、 回復 期 病 棟 、 国立 大 学 ・国 立 病 院 の法 人化 、DPCに (日) よ る包 括 医療 、 地 域 連 携 な ど矢 継 看護 職 員数 ぎ早 の 医療 制 度 改 正 が 進 め られ て お り、 医療 の 現 状 に 問 (/病床100) 題 点 や課 題 は多 い。 ア メリカ イギ リス フラン ス ドイツ 日本 医師 数 (/病床100) 図1.わ が 国 の 高 病 床数 (/病床100) 主要先進国の高齢者人口の割合 齢化率の推移 日本 イタリ ア ドイツ 高齢化率 (65歳 以 上 の 高 齢 者 人 口 の 割 合) ・21%(2006)世 界1 0 50 100 150 200 250 図2 急 性期医療提 供体制 の各 国比較 フランス英国 Ⅲ .現 状 と課 題:医 療費の抑 制 カナダ 医療 費 抑 制 政 策 が 次 々 と導 入 さ れ て い る。2000年 か ら 米国 高 齢化 社 会7%か ら高齢 社 会14%に 要 した年 数 始 ま った 介 護 保 険 は、 福 祉(措 ・日本24年! 置)と 医 療 費 の 削 減 に大 き く貢 献 す る 。 同 じ く2000年 に始 ま っ た 回 復 期 リハ ビ リ ・ ドイ ツ42年 テ ー シ ョ ン病 床 で は、 発 症 日か らの 入 院 適 応 制 限 と在 院 ・ ス ウ ェー デ ン84年 日数 制 限 を示 し、 薬 物 ・検 査 を包 括 払 い(リ ハ ビ リテ ー シ ョ ン を 除 く)と して これ ま で の 出 来 高 払 い を抑 制 した 。 図1 わ が 國 の 高 齢 化 率 の 推 移 2003年6月 Ⅱ .現 状 と 課 題:医 療 の 細 分 化 ・専 門 科 病 院(そ に は 、DPCに よ る包 括 医 療 を 国公 私 立 大 学 の 後 一 般 病 院 に も)に 導 入 し、 入 院 日数 に よ る 医療 の 細 分 化 ・専 門化 は 、 難 病 の原 因 解 明 や 高 度 医 療 1日 当 た り医療 費 削 減 に よ り在 院 日数 を制 限 し、 医 療 報 の 発 展 に貢 献 した が 医 師不 足 の 原 因 とな っ た。 た と え ば 酬 改 訂 も継 続 的 に行 わ れ て お り、現 在 治 療 を受 け て い る 現 在 内 科 は、循 環 器 、呼 吸 器 、神 経 、消 化 器 、糖 尿 病 、内 分 利 用 者 に混 乱 を生 じて い る。 泌 、腎 、血 液 、 リ ウマ チ 科 な ど専 門 科 に分 割 され て い る 。 医 学 情 報 も簡 単 に入 手 で き る よ う に な り、 患 者 は複 数 の 専 門 医 を受 診 し む しろ不 便 を こ う む り、 ま た 医 師 も地 方 Ⅳ.展 望=リ 八 ビ リテ ー シ ョ ン 従 来 の 医 学 が 、 疾 病 の 診 断(検 査 や 放 射 線 機 器 な ど) 1)青 森県立保 健大学理 学療法学科 Department of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, 一129一 Aomori University of Health and Welfare と治 療(薬 物 ・手術)に よ り病 理 の 除去 をめ ざす の に対 し、 リハ ビ リ テ ー シ ョン は 、 障 害(機 な健 康 増 進 活 動 ・ 行 動 変 容 な ど 、臨 床 の 中 心 は 、医 師 か ら 、 コ メ デ ィ カ ル ス タ ッ フ や 地 域 活 動 へ 移 りつ つ あ る 。 能 障 害 や 日常 生 活 活 動 や社 会 参 加 の 制 約)の 評 価 と ア プ ロ ー チ(訓 練 や代 2003年 償)に 科 学 ・福 祉 工 学 」 が 設 定 さ れ 、 当 大 学 を 含 め 、 療 法 士 養 よ りQOLの 向 上 、 人権 の 回 復 を 目指 す 広 い概 念 で あ る。 厚 生 労 働 省(当 時 厚 生 省)令 で 、1996年8月 か か ら文 部 省 科 学 研 究 費 に 「リハ ビ リ テ ー シ ョ ン 成 ・研 究 が 盛 ん に な り 、 薬 物 ・検 査 ・手 術 な ど の 高 度 医 ら標 榜 科 と な っ て ち ょ う ど10年 と な る。 急 性 期 リハ(病 療 か ら 医 学 研 究 も シ フ ト し た 。 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン研 究 院)、 回 復 期 リハ(回 復 期 病 床)、 維 持 期 リハ(在 宅 ・施 で は 、 医 師 ・医 学 者 に そ れ ほ ど 多 い 研 究 実 績 は な く、 設:介 護 保 険)と Evidenced based medicine(EBM,EBR(rehabilitation)) 、 病 院 か ら地 域 社 会 、 医 師 か ら看 護 師 ・ 療 法 士 ・社 会 福 祉 士 ・介 護 士 へ と リハ ビ リテ ー シ ョ ンの に 示 さ れ る 新 し い 臨 床 研 究 手 法 も 、randomized 場 も シ フ ト して い る 。 studyを control 用 い れ ば 、 介 入 ・効 果 の 機 序 に 関 す る 実 験 や 基 礎 的 研 究 が 多 少 乏 し く て も評 価 は 極 め て 高 い(図5.ヒ Ⅴ .コ メ デ ィ カ ル 医 療 の 時 代 へ ッ プ プ ロ テ ク タ ー の 例)。 2003年 の健 康 増 進 法 に よ り、健 康 と医 療 の考 え 方 もシ フ トさせ た 。 ハ ーバ ー ド大 学 の 報 告 で は、 発 癌 要 因 と し て 生 活 習 慣 で あ る、 喫煙30%、 従 来 の 発 癌 要 因 、遺 伝5%、 とが 示 さ れ た(図3)。 食 事30%、 運 動5%が 環 境 化 学 物 質3%を 図5.転 、 倒 ・骨 折 予 防 ヒッププロテクタの有 用 性 凌 ぐこ 大 腿 骨 頚 部 骨 折(/1000cases/year) 転倒 骨折8例 は、すべて非装着時! 胃が ん は 、わ が 国 で最 も高 率 な癌 で あ った が 、減 塩 や 検 診 な どで 減 少 した(図4)。 僅 か10 protector群(247人) 対 照 群(418人) 図3.が ん の 原 因 1.タバ コ ≧20才 2.食 事 Lauritzen et al, Lancet 1993,341,11-1 蟹 医学的基礎 研究 より、実践 的な研 3.運 動 不 足 4.ア ル コ ー ル 図5 転 倒 ・骨 折 予 防 ヒ ップ プ ロテ ク タ の 有 用 性 5.遺 伝 6.環 境 汚 染 健 康 医 学 領 域 にお い て は、 看 護 師 ・療 法 士 ・工 学 士 ・ そ の他 栄 養 士 な どの コ メ デ ィ カル ス タ ッ フが そ れ ぞ れ の 立 場 で 細 か な評 価 や ア プ ロ ー チ(訓 練 ・シ ス テ ム の構築 な ど) 遺 伝(5%)や 環 境 性 発 癌 物 質(2%)よ り、喫 煙(30%)・ 食 事 (30%)・ 運 動(5%)の 生 活 習 慣(68%)が 発 癌 に影 響 す る で 各 専 門分 野 の 職 能 を発 揮 で き、 これ まで どの 国 もど の 図3 が ん の 原 因 研 究 者 も試 み て い な い研 究 が 残 され て い る。 青 森 県 は わ が 国 で 最 低 の 平 均 寿 命 で あ るが 、喫 煙 ・ 肥満 ・ 飲 酒 が 全 国1位 と報 告 さ れ て お り、我 々 に とっ て 最 も研 図4.男 女別悪性新 生物発生頻 度 究 活 動 しや す い 地 域 で あ る。 医 療 改 革 に よ る混 乱 と課 題 は多 い が 、逆 に 力 を発 揮 で き る と きで もあ る。 課 題 を ひ とつ ひ とつ 克服 して い こ う。 Ⅵ. 文 献 1)財 団 法 人 厚 生 統 計 協 会:国 の 指 標(臨 2)渡 ・胃がんは減少(が抗がん剤、手 術の進歩より検診、減塩の効果が示され る) 男性は肺がん、女性は結腸癌 ・ 民 衛=生 の 動 向2006,厚 生 時 増 刊)53(9),2006 部 一 郎:リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 医 療 の10年 、 第10日 バ イ オ フ ィ リ ア リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 学 会 予 稿 集(青 図4 男女別悪性新 生物発生頻 度 森)、p5-6,2006 3)渡 年 前 、 癌 や糖 尿 病 な どの 医 学 研 究 は 、 原 因 の 除 去(遺 伝 RAの 子)、 病 理 の 除 去(血 糖 低 下)が 4)渡 主で あ ったが、早 期発 見 、 さ らに は 生 活 習 慣 病 と して 食事 ・運 動 に よ る積 極 的 部 一 郎:RAの リハ ビ リ テ ー シ ョ ン の20年 リ ハ ビ リ研 究 会 誌20、 p1-5,2006 部 一 郎:日 本 のRAリ ナ ル40(6)、503-508,2006 130 、 日本 ハ の10年 、作 業 療 法 ジ ャー
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