―― 実 施 例 ―― 集合住宅における ヒートポンプ給湯システムの更新事例 ㈱エネルギア・ライフ&アクセス エネルギー事業部 岩 田 法 隆 ・ 田 坂 博 満 ・ 日 下 雅 史 ■キーワード/セントラル給湯 完成時期 平成8年12月 1.はじめに 設備概要 給湯 ヒートポンプによるセントラル給湯 厨房 IHヒータ 今回の対象建物は,島根県益田市の益田駅に近く,平 成8年に新築された6階建て24戸の賃貸マンションで 3.設備更新の検討 ある。当時革新的な「ヒートポンプによるセントラル給 湯システム」が導入されており,ヒートポンプと貯湯槽 今回の更新において,オーナーから次のような条件が は屋上に設置され,循環給湯により各戸へ給湯されてい 出された。 る。各戸のパイプシャフトに給湯用量水器が設置され, A 更新工事費を抑えること 使用量に応じ給湯料金を徴収するしくみになっている。 B 更新時の給湯停止を一昼夜以内にすること また,トラブルによる給湯停止を防止するため,当社が C 故障による給湯停止リスクが低いシステムにすること 保守を受託し,定期点検に加え広島からの遠隔監視を行 この条件を満足するため各種システムを検討した結 っていた。 果,最終的に「家庭用エコキュート」7台を連結するこ 設置後12年を経過し,老朽化によるトラブルが多発 とにより,工事費の低減と故障時の給湯停止リスクを分 するようになり,交換部品の調達もままならぬ状況にな っていたため,オーナーへ設備更新を提案し,「家庭用 表−1 新旧システム能力比較 エコキュート連結システム」による更新が実現した。同 ヒートポンプ システムと若干の運転実績について紹介する。 2.建物概要 建物名称 某マンション 貯 湯 槽 新システム 旧システム 冷 媒 CO2 R134a,R22 加熱能力 6.0kW 40.3kW 消費電力 1.9kW 18.9kW 台 数 7台 1台 容 量 500Î 3,000Î 階 数 地上6階 槽 数 7槽 2槽 住 戸 数 3DK 貯湯温度 85℃ 60℃ 24戸 85℃ ミキシングバルブ 逆止弁 手動弁 手動弁 湯切れ防止弁 湯切れ防止弁 逆止弁 エア抜弁 真空破壊弁 60℃ 85℃ CO2HP 85℃ CO2HP 500L 500L 7台を 連結 P 55℃設定 ヒータ P 家庭用エコキュート 給湯専用機 循環 P 既存設備 減圧弁 減圧弁 量水器 M 量水器 M 手動弁 手動弁 量水器 減圧弁 給水 M M M M 各戸 図−1 給湯システム図 ― 47 ― ヒートポンプとその応用 2008. 9. No.76 ―― 実 施 例 ―― 散し,鉄骨基礎に乗せたユニットを工場製作することに 度低下が起こる。これを防止するため,給湯戻り より,1日で新旧ユニットを入れ替えるという計画をた 管へ温度コントロール付のヒータを設置した。 てた。 システム概要を図−1に示す。 新旧システムの能力比較を表−1に示す。 また,システム外観を写真−1に示す。 3−1 新システムの概要 4.施工概要 本システムの計画にあたり,次の点を考慮した。 A 4−1 工場製作 家庭用エコキュート並列による偏流防止対策 ・給水入口へ減圧弁を設置し,給水圧を約0.1Mpa マンション入居者の生活を考慮し,現地作業による給 とすることにより,各エコキュート減圧弁の抵抗 湯停止を極力なくすため,可能な限りユニット化した。 ユニットは運搬を考慮し2つに分け,一方にエコキュ をなくした。 ・各エコキュート出口へ湯切れ防止弁を設置し,湯切 れになったタンクをいったん切り離し,追い焚きに ート4台と電源盤,もう一方へエコキュート3台と循環 ポンプ・ヒータなどを配置した。 工場製作は配管保温を含め約1カ月を要した。 より一定量湯が貯まった後再供給する制御とした。 ・各エコキュート入口へ量水器を設置し,偏流有無 4−2 現地工事 を確認するとともに,必要により給水弁の開度を 調整する。 B 現地では,旧ユニットの撤去,新ユニットの吊り込 み・据付,配管・配線接続工事が必要であった。 当日は朝8時に給湯を停止し,夕方5時には湯の供給 階下給湯への負圧防止対策 ・空気抜き兼用の吸気弁および真空破壊弁計10個 を再開できた。 現地工事は,次のとおり計画以上に順調に進んだ。 を設置した。 C 循環給湯への温度低下対策 前日 旧ユニットの保温撤去等準備工事 ・当マンションは循環給湯しているが,深夜・昼間 8時∼ 給湯停止,配管・電源切り離し作業 に消費がない時間帯があり,この時給湯配管の温 10時∼ 旧システム吊り降ろし 11時∼ 新システム吊り込み・据付 13時∼ 配管・配線接続作業 15時∼ 水張り・試運転 17時∼ 給湯再開 5.運転状況 本システムは平成20年5月13日に設置し,その後順 調に運転している。設置後運転状況を確認するため,給 湯負荷とエコキュートの運転状況を計測したので,その 概要を述べる。 5−1 給湯負荷 当マンションの時刻別給湯負荷を図−2に示す。 6月9日(月曜日)の一例であるが,日給湯量は3,480 写真−1 システム外観 Îで,17∼22時に負荷が集中している。 5−2 給湯温度とエコキュート運転状況 給湯温度とエコキュート運転状況を図−3に示す。 ∏ 給湯温度 給湯温度は湯の消費がある時間帯はおおむね55℃ 以上を維持しており,消費がない時間帯はおおむね 48℃となっている。これは,湯の消費があればエコ キュートから約85℃の湯をミキシングバルブで約 60℃に調整して供給し,消費がなければ給湯循環配 管をヒータで48℃に維持するよう設定しており,ほ ぼ設定どおりの運転となっている。 給湯往温度と戻り温度の差は約1℃となっている。 写真−2 給湯システム吊り込み状況 ヒートポンプとその応用 2008.9.No.76 ― 48 ― ―― 実 施 例 ―― (Î/30min) π 給湯量 エコキュート等運転状況 700 電気の契約は「ファミリータイム」であり, 600 エコキュートの運転モードは「おまかせ3」 に設定している。このモードは前1週間の 500 湯消費量を学習して沸上げ温度を65∼ 400 90℃に自動設定し,深夜,設定温度で満 300 湯になるよう沸かし,昼間は残湯が50Î 以下になると100Îまで沸増し運転を行う。 200 6月9日の運転をみると,図−3に示す 100 22:30 21:00 19:30 18:00 16:30 15:00 13:30 12:00 10:30 9:00 7:30 6:00 4:30 3:00 1:30 転モードで発停していることが分かる。 0:00 0 ように,7台のエコキュートが各々この運 ∫ 消費電力 エコキュートと給湯配管保温用ヒータの 時 刻 時刻別消費電力を図−4に示す。エコキュ 図−2 給湯量実績 ートは深夜貯湯運転と夕方の沸増し運転が (℃) 80 1号機 2号機 3号機 主で,給湯配管保温用ヒータは湯の消費が 4号機 5号機 6号機 ない深夜と昼間に通電している。 7号機 給湯戻温度 給湯往温度 全体では単価の安いナイトタイムの消費 電力が49%であり,経済的な運転ができ 70 ている。 60 また,エコキュートのCOPは貯湯放熱を 50 含め約2.8,給湯配管の放熱を含む全体の 40 システムCOPは約2.1となっている。 30 20 6.おわりに 10 23:45 22:30 21:15 20:00 18:45 17:30 16:15 15:00 13:45 12:30 11:15 10:00 8:45 7:30 6:15 5:00 3:45 2:30 1:15 今回の更新は,家庭用エコキュートを複数 0:00 0 時 刻 た。 HP消費電力 ヒータ消費電力 (kWh/30min) ファミリータイム ナイトタイム 5.0 トラル給湯の利点を生かしつつ,故障による 給湯停止リスクを抑え,経済運転を実現でき 図−3 給湯温度とヒートポンプ運転状況 6.0 台連結することにより,当マンションのセン 集合住宅のオール電化を進めるうえで,何 ナイト タイム 4.0 回各戸の給湯子メータ検針時に外観点検を行 っている。 ファミリー タイム デイタイム 新システムでは,遠隔監視はせず,毎月1 らかの参考になれば幸いに思う。 最後に,今回の給湯設備更新にご理解とご 協力をいただいたマンションオーナーさまと 3.0 入居者の皆さまに,お礼申しあげます。 2.0 1.0 22:30 21:00 19:30 18:00 16:30 15:00 13:30 12:00 10:30 9:00 7:30 6:00 4:30 3:00 1:30 0:00 0.0 時 刻 図−4 消費電力実績 ― 49 ― ヒートポンプとその応用 2008. 9. No.76
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