平面曲線特異点の実モース化のトロピカル幾何におけるアナロジー

平面曲線特異点の実モース化のトロピカル幾何におけるアナロジー
東北大学大学院理学研究科数学専攻 高橋卓大
Contents
1. イントロダクション
2. 平面トロピカル曲線
3. トーリック退化とトロピカル化
4. 特異点論からの準備
5. 主結果
参考文献
1
2
3
6
8
10
1. イントロダクション
トロピカル幾何学は, マックス・プラス代数と呼ばれる実数全体の集合 R に加法
として max, 乗法として + を与えた代数上の代数幾何学であり, 古典的な代数幾何
学との関係や類似について様々な研究がなされている.
本稿では, 講演者の修士論文 [12] において得られた実モース化と呼ばれる平面曲
線特異点の変形のトロピカル幾何学におけるアナロジーについて解説する. 実モー
ス化は平面曲線特異点のモース化であって変形した曲線の実部から消滅サイクルの
幾何的情報を得ることが出来る曲線の変形である. 論文では, 特異点の Newton 図形
と Kouchnirenko の公式を用いて, 与えられた特異点に対し, あるトロピカル曲線で
消滅サイクルと対応するものを構成した.
トロピカル幾何学と特異点の関連について歴史を述べておくと, Mikhalkin によっ
てトーリック曲面上の滑らかな複素曲線の場合 [9] と, 与えられた個数の A1 特異点
を持つ複素曲線の場合 [8] は, トロピカル曲線のあるクラスとの対応が構成されてお
り, 論文 [8] では, シンプレクティック幾何学の手法を用いてトーリック曲面上の A1
特異点を持つ代数曲線の数え上げ (enumeration) に応用している.
特異点論の観点から, A1 よりも更に複雑な特異点を持つ曲線との関係を考察した
いと考えるのは自然であるが, Shustin[11] は変形理論と特異点のトポロジーの理論
を用いて, A2 特異点を 1 つ持つ代数曲線の数え上げを実行している. 更に, Ganor[4]
によって Shustin と同様の方法で, 与えられた個数の A1 特異点と A2 特異点を 1 つも
つ複素有理曲線の数え上げが行われている.
トロピカル幾何学において, 特異曲線を扱う手法を紹介するため, 本稿では, A2
曲線とカスピダル・トロピカル曲線との対応を扱った Shustin[11] のトロピカル化
(tropicalization) と呼ばれる手法についても触れることとした.
1
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記号. 以下, 格子多面体とは, 格子点上に頂点を持つコンパクトな凸多面体とする.
コンパクトという条件を満たさないものを非コンパクト格子多面体という. 格子多
面体 ∆ ⊂ R2 から代数閉体 F 上のトーリック多様体と線形系が構成できることが知
られている. TorF (∆) を ∆ から得られるトーリック代数曲面とし, 付随する線形系
を ΛF (∆) で表す. F = C のときは特に Tor(∆) := TorC (∆), Λ(∆) := ΛC (∆) と表す.
2. 平面トロピカル曲線
(K, val) を C 上収束 Puiseux 級数体とその上の非アルキメデス付値 val : K∗ → R
とする. 以下では, K の不定元として t を用いる.
∆ ⊂ R2 を 2 次元の格子多面体とする. K 上多項式 F ∈ K[z, w] を
∑
F (z, w) :=
cij z i wj , cij ∈ K
(i,j)∈Supp(F )
と表示しておき, Conv(Supp(F )) = ∆ と仮定する. このとき R2 上の函数 tropF を
tropF (x, y) := max{val(cij ) + i · x + j · y ; (i, j) ∈ Supp(F )}
と定める. これを F から得られるトロピカル多項式と呼ぶ.
F から得られるトロピカル多項式は区分線形関数 tropF : R2 → R であるが, それ
が滑らかでない点の集合を VtropF で表す. これを F の定めるトロピカル曲線という.
F から得られる (K∗ )2 内の曲線を VF◦ := {p ∈ (K∗ )2 ; F (p) = 0} とし, Val : (K∗ )2 →
R2 を, (z, w) 7→ (val(z), val(w)) なる準同型とする.
定理 2.1 (Kapranov[3]). Closure(Val(VF◦ )) = VtropF =: TF . 但し Closure(·) は R2 の
通常の位相による閉包をとるものとする.
(0; 0)
Figure 1. F = x + y + 1 の定めるトロピカル曲線
平面トロピカル曲線は R2 に埋め込まれた距離グラフの構造を持つ. 一般の場合で
も上と同様にトロピカル超曲面を定義することが出来て, それらは多面体複体の構
造を持つことが知られている (トロピカル幾何学の構造定理 [9]).
F から多面体 ∆ν (F ) を
∆ν (F ) := Conv{(i, j, −val(cij )) ∈ R2 × R; (i, j) ∈ Supp(F )}
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で定義する. さらに νF : ∆ → R を
∆ ∋ (i, j) 7→ min{x ∈ R; (i, j, x) ∈ ∆ν (F )}
と定める. これは連続な区分線形凸函数となる. 函数 νF から
(1) νF の線形領域の集合 ∆ = ∆1 ∪ · · · ∪ ∆N ,
(2) ∆1 , . . . , ∆N の交叉である 1 次元多面体 ∆i ∩ ∆j , (i ̸= j),
(3) ∆i たちが頂点に持つ格子点
が得られる. これらの集合を Sd(F ) で表し, F から得られる ∆ の細分という. さら
に (2), (3) をそれぞれ細分 Sd の辺, 頂点と呼ぶ. 以下, 細分を [11] に倣い
Sd(F ) : ∆ = ∆1 ∪ · · · ∪ ∆N
と表記する.
上で構成した Newton 多面体 ∆ の細分 Sd(F ) とトロピカル曲線 TF について, 次
の関係が成り立つ. 平面トロピカル曲線の場合を [6] から引用する. 一般のトロピカ
ル超曲面における証明は [8] にある.
定理 2.2 (Mikhalkin[8]). 細分 Sd は平面トロピカル曲線 T に組み合わせ的双対. す
なわち, 次を満たす対応が存在する.
• R2 \ T の成分は, 細分の頂点と 1 対 1 対応する.
• T の辺と直交する Sd の辺が一意に存在する.
• T の n 叉の頂点と Sd に属する n 個の側面を持つ部分多面体が 1 対 1 に対応
する.
3
0
TF
SdF
2
Figure 2. トロピカル曲線と双対細分
3. トーリック退化とトロピカル化
前節でトロピカル曲線を K 上の代数的トーラス上の曲線の付値写像による像の閉
包として定義した. この方法だけではトロピカル曲線から特異点の情報を取り出す
ことはできない.
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この節では, 特異点の情報をトロピカル曲線上に残すため, Shustin によって導入
されたトロピカル化と呼ばれる代数曲線の退化を紹介する.
3.1. トーリック退化. トーリック曲面 Tor(∆) の変形を次のように与える. νF を用
e )を
いて, 非コンパクト多面体 ∆(F
e ) := {(i, j, t) ∈ R2 × R; (i, j) ∈ ∆ ∩ Z2 , t ≥ νF (i, j)}
∆(F
と定める.
f F)
(
4
3
e ) を見やすく上下反対にしたもの.
Figure 3. ∆(F
e ) のコンパクトな面を ∆
e 1, . . . , ∆
e N とする. これらは射影 R2 × R → R2 によっ
∆(F
て Sd(F ) の対応する面に写ることに注意.
e ) から得られる 3 次元トーリック多様体を
多面体 ∆(F
e ))
YF := Tor(∆(F
と書く.
YF は, トーリック射 π : YF → C であって, この射の一般ファイバーが
π −1 (c) ≃ Tor(∆),
c ̸= 0
で, 中心ファイバーが
−1
π (0) =
N
∪
i=1
e i) ≃
Tor(∆
N
∪
Tor(∆i )
i=1
となる射を持つ. この射の中心ファイバー π −1 (0) を Tor(∆) のトーリック退化とい
う [10]. 因みに, トーリック退化という用語は [11] の中で用いられていないが, 同一
の手法を用いている.
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3.2. 曲面 Tor(∆) 上の曲線の変形. 以下, C ∈ ΛK (∆) を F で定義される孤立特異点
のみを持つ曲線とする. t 7→ tM とパラメータを変換することで, 各 cij (t) の指数は
整数値と仮定できる.
いま, 十分小さい δ に対し,
D = {z ∈ C ; |z| ≤ δ}, D∗ = D \ {0}
と定める. t ∈ D∗ と考えることで曲線の族
C (t) ∈ Λ(∆)
を得る.
補題 3.1 ([11]). 被約な曲線 C ∈ ΛK (∆) の特異点の位相型の集合と, generic な曲線
C (t) ∈ Λ(∆) の特異点の位相型の集合は一致する. C ∈ ΛK (∆) が可約であることと
C (t) ∈ Λ(∆) が可約であることは同値.
補題 3.1 から, 複素曲線の equisingular な 1 径数変形 C −→ D∗ であって各ファイ
バーが π −1 (t) = C (t) となるものが得られる.
これを t = 0 に拡張するため t → 0 としたときの C (t) のある極限を次のように定
義する:凸函数 νF : ∆ → R と νF から得られる ∆ の細分 Sd(F ) を
Sd(F ) : ∆ = ∆1 ∪ · · · ∪ ∆N
とする.
F (z, w) =
∑ (
)
(0)
cij + O(t) tν(i,j) z i wj
(i,j)∈∆
(0)
cij
と表示すると,
∈ C は ∆1 , . . . , ∆N のうち少なくとも一つの多面体の上では零で
ない. ここで k = 1, . . . , N に対し複素多項式 Fk を
∑ (0)
Fk (z, w) =
cij z i wj
(i,j)∈∆k
で定める. この複素多項式 Fk は複素曲線 Ck ∈ Λ(∆k ) を定める.
定義 3.2 (Shustin). (SF , νF ; C1 , . . . , CN ) を C のトロピカル化 (tropicalization),
または脱量子化 (dequantization) という.
曲線 C ∈ ΛK (∆) は Y0 の近傍内の解析曲面であって, ファイバーが C (t) ⊂ Yt ≃
Tor(∆) で, C の閉包と Y0 は
N
∪
k=1
Ck ⊂
N
∪
Tor(∆k ) = Y0
k=1
に沿って交わる. 従って曲線 C のトロピカル化とは, 与えられた曲線をトーリック
退化に沿って退化させたものである.
C (t) の特異点は切断 s : D∗ → YF を定め, その極限 z := limt→0 s(t) は C (0) の特異
点となる. このとき点 z ∈ C (0) は「C (t) の特異点を生じる」という.
定義 3.3. 点 z ∈ C (t) が
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• z ̸∈ ∪i̸=j Tor(∆i ∩ ∆j ),
• C (t) の唯一つの特異点で, z と位相型が同じものを生じる,
これらを満たすとき, z を正則な特異点といい, そうでないとき非正則な特異点と
いう.
註 3.4. 非正則な特異点については, Shustin の導入した refinement と呼ばれる手法
によって, 更なる特異点の情報を得ることが出来る [11].
4. 特異点論からの準備
主定理の主張に必要な特異点論からの事実を二つ紹介する.
4.1. 特異点の Newton 図形. 正則関数 f : (Cn , 0) → (C, 0) を考える.
∑
定義 4.1. f の原点での Taylor 展開を f (z) = j∈Nn cj z j とする. 凸包
)
(∪
Conv
{j + Rn+ ; cj ̸= 0}
j
を原点における f の Newton 多面体 (Newton polyhedron) といい, Γ+ (f ) で表
す. Γ+ (f ) のコンパクトな面, または頂点の和集合のことを Newton 境界 (Newton
boundary) といい, Γ(f ) で表す. Γ− (f ) を原点による Γ(f ) の錐とする.
ここで Γ+ (f ) ∩ Γ− (f ) = Γ(f ) が成り立つことに注意. Γ(f ) の面 ∆ を一つとる. そ
の縮小関数 f∆ は
∑
f∆ (z) =
cj z j
j∈∆
で定義された.
定義 4.2. 任意の面 ∆ ⊂ Γ(f ) に対し, 方程式
∂f∆
∂f∆
= ··· =
=0
∂z1
∂zn
が (C∗ )n に解を持たないとき, f は Newton 非退化 (Newton non-degenerate) で
あるという. Γ(f ) が各座標軸と交わるとき, f はコンビニエント (convenient) であ
るという.
註 4.3. f の孤立特異点を考えている場合, 十分大きい N ∈ N に対して f と f + xN
の特異点の位相型は等しいからコンビニエントは常に仮定してよい.
f の原点における Milnor 数を µ(f ) であらわす. 一般の n 変数関数に対して, Milnor
数 µ(f ) が Γ− (f ) の各面の体積から得られることが知られている:
定理 4.4 (Kouchnirenko [7]). f が Newton 非退化かつコンビニエントであれば,
n
∑
µ(f ) =
(−1)k k!Vk
k=0
が成り立つ. ここで Vk は Γ− (F ) の k 次元面で原点と交わるものの体積の和である.
ただし V0 = 1 とする.
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4.2. 実モース化. ここでは実モース化と呼ばれる平面曲線特異点の“ 良い ”変形に
ついて概説する. [1] を参考とした.
f : (C2 , 0) → (C, 0) を多項式写像とし, Vf ⊂ C2 を f から定まる平面代数曲線とす
る. ここで,
(IS) f は 0 に孤立特異点を持つ.
(RB) f は 0 の近くで, f = f1 · · · fr(f ) と実係数の既約因子に分解できる.
を仮定する.
定義 4.5 (実モース化). Bε を f の孤立特異点 0 に関する Milnor 球とし, Dε をその
実部とする. 多項式の族 {fs (x, y)}s∈[0,1] で, 以下の条件を満たすものが存在すると仮
定する.
(1) f0 (x, y) = f (x, y).
(2) s > 0 について fs (x, y) はモース関数.
(3) 各 s ≥ 0 に対し, 曲線 Cs = {(x, y) ∈ C2 ; fs (x, y) = 0} は Bε の境界と横断的
に交わる.
(4) s > 0 に対し, Cs |R2 ∩ Dε の 2 重点の数 δs について
2δs = µ(f ) + r(f ) − 1
が成り立つ.
s ∈ (0, 1] に対し, 多項式 fs (x, y) を f の孤立特異点 0 ∈ Vf における実モース化 (real
morsification) といい, Cs を孤立特異点 0 における実変形 (real deformation) と
いう.
例 4.6. f (x, y) = x2 + y 3 とする. f の実モース化 fs は
fs (x, y) = x2 + sy + y 3 ,
0 < s << 1
で与えられる. これらの零点は図 4 のようになる.
real deformation
Figure 4. A2 特異点の実モース化の定める曲線
定理 4.7 (A’Campo, Gusein-Zade). f : (C2 , 0) → (C, 0) を複素多項式で条件 (IS),
(RB) を満たすとする. このとき 0 における f の実モース化 fs が存在する.
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命題 4.8. Cs |R2 ∩ Dε に対して
µ(f ) = ♯(double points) + ♯(bounded regions)
が成り立つ. 但し, ♯(double points) は 2 重点数 δs で, ♯(bounded regions) は Cs |R2 ∩
IntDε の補集合の有界領域の個数.
註 4.9. 命題 4.8 は, 主定理との比較のためにわざと弱い主張を書いている. 正しく
は, 消滅サイクルの向きを適当に定めることで, 実変形した曲線から特異点の Dynkin
グラフを得ることが出来る, という主張である [2], [5]. 例として f (x, y) = x4 + y 3
の場合の実モース化の実零点は図 5 のようになる. その Dynkin 図形を図 6 に示して
おく.
fs = 0
Figure 5. f (x, y) = x4 + y 3 の実変形
Figure 6. f (x, y) = x4 + y 3 の特異点の Dynkin 図形
5. 主結果
この節では, 最初に平面トロピカル曲線の部分距離グラフを部分多面体細分の部
分集合から構成し, 孤立特異点の実モース化のトロピカル類似を紹介する.
5.1. 部分多面体に対するトロピカル曲線. 多項式 F ∈ K[x, y] に対し ∆F ⊂ R2 を F
の Newton 多面体とし, 対応する ∆F の格子多面体細分を Sd(F ) : ∆F = ∆1 ∪· · ·∪∆N
とする. このとき, F から定まる平面トロピカル曲線 TF は細分 Sd(F ) に組み合わせ
的双対の関係にあった. 主定理のためにトロピカル曲線の組み合わせ的な制限を考
える.
註 5.1 (記法についての注意). トロピカル超曲面の構造定理から平面トロピカル曲線
は R2 内の距離グラフの構造を持つ. 以下では, トロピカル曲線の頂点 u, v に対し u と
v を結ぶトロピカル曲線の辺, すなわち端点を u, v とする R2 内の線分を [u, v] ⊂ R2
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で表すこととする. さらに, [u, v] の端点 v を除いた部分集合を [u, v) で表すことと
する.
定義 5.2. 細分 Sd(F ) : ∆ = ∆1 ∪ · · · ∪ ∆N に対応して, トロピカル曲線 TF の頂点
の集合を V = {v1 , . . . , vN } , 辺集合を E = {[u, v] ; u, v ∈ V } とする.
∪
Sd′ (F ) : ∆ = ∆k1 ∪ · · · ∪ ∆km を Sd(F ) の部分集合であって, その和集合 m
l=1 ∆kl
が連結とする. 但し凸であることは仮定しない. トロピカル曲線 TF の部分距離グラ
フ (V ′ , E ′ ) を次で定める.
• 頂点集合 V ′ ⊂ V は細分 Sd′ (F ) に対応して与える,
• 辺 [u, v] ∈ E に対し, 辺集合 E ′ を次で定める.
(1) u, v ∈ V ′ であれば, [u, v] ∈ E ′ . 辺が半直線ならば端点が V ′ に含まれる
とき E ′ に含まれる.
(2) u ∈ V ′ , v ∈ V \ V ′ であれば線分 [u, v] ⊂ R2 の中点を v ′ ∈ [u, v] として,
[u, v ′ ) ∈ E ′ .
このとき距離グラフ (V ′ , E ′ ) を「TF を Sd′ (F ) に制限した曲線」といい, TF |Sd′ (F ) で
表す. これはトロピカル曲線 TF の部分集合であって, 距離グラフである.
例 5.3. Newton 多面体 ∆ = Conv{(0, 0), (2, 0), (0, 2)} に対し, 細分 Sd を
∆0 = Conv{(0, 0), (1, 0), (0, 1), (1, 1)},
∆1 = Conv{(0, 1), (1, 1), (0, 2)},
∆2 = Conv{(1, 0), (2, 0), (1, 1)}
で定め, Sd に双対なトロピカル曲線を T とする. このとき, Sd の部分集合 Sd′ を
{∆0 } で定めると, Sd′ に制限された曲線 T |Sd′ は頂点として 4 叉の頂点 1 つのみ持
つ曲線となる.
5.2. 主定理. 以下に述べる主定理は, A’Campo, Gusein-Zade による実モース化にお
ける命題 4.8 のトロピカル類似となっている.
定理 5.4. Newton 非退化な孤立特異点を原点に持つコンビニエントな複素代数多項
式 f に対し, 多項式 F ∈ K[z, w] で, 次の条件を満たすものが存在する:
• Γ− (f ) ⊂ ∆F かつ F から得られる ∆F の細分 Sd(F ) が Γ− (f ) の細分 Sd′ (F )
を誘導する,
• F から得られるトロピカル曲線 TF を Sd′ (F ) に制限した曲線 TF |Sd′ (F ) が
µ(f ) = ♯(4-valent vertices) + ♯(bounded regions)
を満たす.
証明の概略. 詳細は [12] を参照. Γ− (f ) の細分で, 原点から面積 1 の正方形を最大個
含むようなものを構成する. そのような細分を与える凸函数を ν とする. F として,
Newton 多面体が Γ− (f ) の凸包で ν から得られるパッチワーク多項式をとる. する
と, 定理 4.4 と定理 2.2 から, 定理が得られる.
例 5.5. A2 特異点の実モース化と対応するトロピカル類似は図 7 のようになる. 図
の中の × は消滅サイクルの対応を表している.
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Figure 7. A2 特異点の実モース化とそのトロピカル類似
参考文献
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〒 980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6 番 3 号
E-mail address: [email protected]