05 小児細菌感染症1(長井)

小児細菌感染症1 小児科学 長井健祐
1.髄膜炎(Meningitis)
A. 化膿性髄膜炎
(1)臨床症状
発熱、頭痛、嘔吐、易刺激性、哺乳力低下、痙攣、出血斑、意識レベルの低下など
(乳幼児では、非特異的症状が多い→“なんとなくおかしい”)
(2)診察所見
髄膜刺激症状:項部硬直
Kernig 徴 候 : 膝 を 伸 ば し た ま ま 、 下 肢 を 挙 上 さ せ る と 途 中 で 膝 を 屈 曲 さ せ る
Brudzinski徴候:頭部を前屈させると、股関節と膝関節を屈曲する
大泉門膨隆:頭蓋内圧亢進
(3)起炎菌
新生児:B 群レンサ球菌、大腸菌、リステリア菌、ブドウ球菌
1 か月〜1 歳未満:インフルエンザ菌、肺炎球菌
1 歳〜成人:肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌
脳室シャントや免疫低下者:ブドウ球菌、Gram 陰性桿菌
(4)髄液検査(表1)
髄液の性状:外観、細胞数、蛋白、糖
正常な髄液:無色透明、細胞数≤5/μl(単核球)、蛋白≤50-70mg/dl、
糖>40mg/dl(または、血糖の 1/2-1/3)
塗沫鏡検:遠心した沈渣をGram染色(塗沫鏡検)
Gram 陰性桿菌:インフルエンザ菌、大腸菌、その他の腸内細菌
Gram 陽性球菌:肺炎球菌、B 群レンサ球菌、ブドウ球菌
Gram 陰性球菌:髄膜炎菌
Gram 陽性桿菌:リステリア菌
抗原迅速診断法(ラテックス凝集反応)で以下の菌種を検出することができる。
H. influenzae、S. pneumoniae、N. meningitidis
GBS(B 群レンサ球菌:S. agalactiae)、E. coli
培養(血液、髄液)
*腰椎穿刺(lumber puncture)Jacoby 線(両側の腸骨稜上縁を結ぶ線)または L3 棘突
起直下で行う。脳圧亢進状態なので、できるだけ細めの腰椎穿刺針(ルンバール針)を
用い、最小限量の髄液を採取する。
(5)治療
抗菌薬(表2)
十分な髄液移行が期待でき、大量・長期投与に耐えうる安全性の高い薬剤を選択する。
殺菌性抗菌薬が望ましく、βラクタム薬が選択される事が多い。
合併症対策:脳浮腫に浸透圧性利尿剤の投与、
SIADH による電解質異常(低ナトリウム血症)の是正、硬膜下膿瘍、脳膿瘍での穿刺排
膿が必要。
(6)合併症
早期合併症
脳浮腫、Septic shock、DIC、低 Na 血症(SIADH*)
*SIADH の診断
低浸透圧をともなった低 Na 血症
脱水の徴候はない
尿浸透圧が血漿浸透圧よりも高い
尿中への Na の排出が食塩摂取量をこえて持続
腎機能、副腎機能とも正常。
後期合併症
硬膜下貯留液(水腫、膿瘍)、水頭症、聴力障害、神経学的後遺症
B.結核性髄膜炎
第1期(前駆期)発熱、機嫌不良など特異的神経所見がない
第2期(刺激期)嘔吐、痙攣などの神経刺激症状
第3期(麻痺期)昏睡、麻痺などの神経麻痺症状
診断:家族歴、接触歴、BCG 接種歴、ツ反のチェック
早期診断治療が重要!胸部 X 線写真のチェック(粟粒結核の合併)
第2期以降では、死亡または重篤な後遺症を生じる場合が多い。
治療:イソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、ピラジナミド(PZA)、ストレプトマイシン
(SM)の4薬剤を最初の2ヵ月併用し、それ以降は INH、RFP の2薬剤を 10 ヵ月間投与す
る事が勧められている。
C.真菌性髄膜炎
起炎菌として、クリプトコッカス Cryptococcus neoformans var neoformans (ハトの糞に汚
染された土壌から分離される)がもっとも多い。
症状:頭痛、嘔気、嘔吐、痙攣、髄膜刺激症状
眼底所見:うっ血乳頭、網膜白斑診断:髄液沈渣物の墨汁染色(インディアンインク法)、ラ
テックス凝集法による血清、髄液中の抗原検索治療:アンフォテリシン B+フルサイトシン
(5-FC)
D.ウイルス性髄膜炎
病原ウイルスとして、エンテロウイルス(Echo、Coxsackie、Mumps など)が主である。発熱や
頭痛、嘔吐などの髄膜刺激症状は、細菌性髄膜炎と同じだが、細菌性髄膜炎より重篤感に
乏しいのが一般的である。予後は良好な疾患であるが、エンテロウイルス 71 による髄膜炎
は、まれに脳幹脳炎を起こし、その場合は神経学的後遺症を残すことが多く、予後不良であ
る。
診断:髄液所見、髄液・血液のウイルス抗体価の上昇、髄液からのウイルス分離
治療:安静、頭痛、嘔吐などに対する対症療法
*鑑別診断
細菌性髄膜炎(ごく初期あるいは不完全治療時)、脳膿瘍、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎
でも同様の髄液所見を示す事があり、診断には注意を要する。
表1. 髄膜炎の髄液所見
疾患
化膿性髄膜炎
結核性髄膜炎
細胞数(/μl)
優位細胞
糖(mg/dl)
蛋白(mg/dl)
500-20,000
多核球
減少
100-700
25-500
単核球
減少
50-100
5-1,000
単核球
正常
<100
<10
単核球
正常
正常
真菌性髄膜炎
無菌性髄膜炎
脳膿瘍
脳症
メニンギスムス
表 2. 化膿性髄膜炎の選択薬剤
起炎菌不明時
新生児
セフォタキシム+アンピシリン(アミカシン)
新生児期以降*
セフォタキシム/セフトリアキソン+アンピシリン(バンコマイシン)
ブドウ球菌
ペニシリン感性株
ペニシリン G
MRSA
バンコマイシン
B 群レンサ球菌
ペニシリン G/アンピシリン(+アミカシン)
肺炎球菌
ペニシリン感性株
ペニシリン G
ペニシリン耐性株
バンコマイシン、カルバペネム(パニペネム・ベタミプロン)
リステリア
アンピシリン(+アミカシン)
髄膜炎菌
ペニシリン G
インフルエンザ菌
セフォタキシム/セフトリアキソン(感性株であればアンピシリン)
大腸菌、
セフォタキシム/セフトリアキソン
クレブシエラ、プロテウス
セフォタキシム/セフトリアキソン(+アミカシン)
緑膿菌
セフタジジム+アミカシン
*本邦では、インフルエンザ菌、肺炎球菌の薬剤耐性が多いため、起炎菌不明時には、カルバペ
ネム系薬剤(パニペネム/ベタミプロン)+広域セフェム系薬(セフトリアキソンまたはセフォタキシ
ム)の併用で治療を開始する場合が多い。
2.尿路感染症(UTI: Urinary tract infection)
障害を受けた部位により、尿道炎、膀胱炎、腎盂腎炎に大別されるが、病変は尿路
全体に及びやすいため、一括して尿路感染症と称される。
(1)症状
新生児—哺乳力低下、体重増加不良(非特異的な全身症状)
乳幼児—発熱、嘔吐、不機嫌、下痢など。年長児—頻尿、発熱、腰痛など
(2)診断基準
尿路感染症を疑わせる臨床症状、尿中白血球が1視野に5個以上ある
場合、清潔採尿で連続2回以上、同一菌が 105以上の陽性の場合。
膀胱穿刺や導尿で採取の場合、102-3/ml以上。
無症候性細菌尿:無症状で、清潔採尿で連続3回以上同一菌が 105/ml
以上の陽性の場合。
(3)起炎菌(表1、2)
腸内細菌が多い
Gram 陰性桿菌(腸内細菌)大腸菌、プロテウス、クレブシエラなど、最近
では腸球菌の割合も多い。
尿路の基礎疾患を伴うような複雑性尿路感染症では、腸球菌や緑膿菌
が起炎菌になることが多い。
(4)尿路系の精査
基礎疾患—膀胱尿管逆流(VUR: vesico-ureteral reflex)や先天性の尿
路奇形を認める事がある。初発時より、積極的な画像診断(超音波検
査)を行い、これらの異常の発見につとめる。
急性期の治療が終了後 2〜4 週間後に排尿時膀胱尿道造影(VCG:
voiding cystourethrography)を行う。
(4)治療
下部尿路感染症で全身状態が良好な場合、広域経口セフェム薬の投
与。
新生児、乳幼児などで敗血症の合併を考慮する場合、上部尿路感染症
(腎盂腎炎)の場合は、広域セフェム薬やアミノ配糖体の非経口(静脈
内)投与。投与期間は、7から 10 日間。
薬剤感受性試験の結果をもとに、治療抗菌薬を検討する。
予防投薬:再発、反復感染、膀胱尿管逆流現象がある場合の感染予防
に適応となるが、大規模な RCT による明確なエビデンスはなく、経験的
に用いている(ST 合剤など)
表1 基礎疾患のない小児の尿路感染症の原因菌
Ladhani, S and Gransden, W. Arch. Dis. Child. 88: 444 - 445. 2003 より
1996-2000
Organism
E. coli
Enterococcus spp.
Proteus spp.
Klebsiella spp.
Pseudomonas spp.
Non-faecal streptococci
Enterobacter spp.
その他の Gram 陰性桿菌
Morganella morganii
Staphylococcus aureus
Other staphylococci
S. maltophilia
n=2815
1774
542
163
94
59
53
33
29
25
25
18
0
%
63.0
19.3
5.8
3.3
2.1
1.9
1.2
1.0
0.9
0.9
0.6
0.0
表2.基礎疾患のある小児の尿路感染症の原因菌
Ladhani, S and Gransden, W. Arch. Dis. Child. 88: 444 - 445. 2003 より
Organism
E. coli
Enterococcus spp.
Pseudomonas spp.
Klebsiella spp.
Enterobacter spp.
Proteus spp.
Other staphylococci
Staphylococcus aureus
Non-faecal streptococci
他の Gram 陰性桿菌
Morganella morganii
S. maltophilia
1996-2000
n=1314
530
266
142
100
50
49
48
38
37
28
17
9
%
40.3
20.2
10.8
7.6
3.8
3.7
3.7
2.9
2.8
2.1
1.3
0.7