すべてはラグビー界の未来のために

2014.08.15
稲垣純一理事の月イチレギュラー対談
すべてはラグビー界の未来のために
Vol.2 ゲスト
大正製薬 上原 明 会長
-前編日本ラグビー協会の稲垣純一理事が、毎回ラグビーに造詣が深いゲストを迎えて、ラグビーの魅力やラ
グビー界の未来について語り合う対談企画。第 2 回のゲストは、日本代表オフィシャルスポンサーである
大正製薬の上原明会長。2019 年ラグビーワールドカップの成功のヒントがここに。
上原明●うえはらあきら
1941 年、東京都生まれ。1966 年、米国留学後、慶応義塾大学を
卒業し、日本電気株式会社入社。1977 年、大正製薬株式会社入
社。1982 年、代表取締役社長に就任。2012 年、代表取締役会長
に就任(現任)。慶應義塾大学時代は BYB ラグビーフットボールクラブ
に所属。2001 年よりラグビー日本代表のオフィシャルスポンサーとして活
動を開始。リポビタン D チャレンジカップは過去 13 年で 30 試合開催さ
れている。
稲垣純一●いながきじゅんいち
1955 年、東京都生まれ。1978 年慶應義塾大を卒業し、サントリーに入社。1980 年ラグビー部・サンゴリアス設立と同時に参
加、初代主将となる。 その後、慶應大ラグビー部コーチ、サンゴリアス副部長、ディレクターを経て、2002 年に GM に就任。
2007 年にトップリーグ COO に就任。現在は日本ラグビー協会理事を務める。
――まず、上原会長ご自身のラグビーへの思いを聞かせてください。
上原 私は小学校から高校まで成蹊学園に通っていまし
た。冬の体育の授業は、毎回ラグビーかマラソンのどちらか
の授業でした。中学校時代には、全校が丸一日授業を
やめてクラス対抗のラグビー大会が行われるなど、ラグビー
が非常に盛んな学校でした。大学は慶應義塾大学に進
んだのですが、同好会の BYB ラグビーフットボールクラブで
プレーしました。ポジションは昔からフォワード(FW)で、BYB
ではフロントローをやっていました。
ラグビーは、選手一人ひとりがそれぞれの役割を果たしながら、チーム一丸となって戦うところが素晴らし
いと思います。バックス(BK)がとどめのトライを取ったときでも、FW がいいタイミングでルーズスクラムからボー
ルを出してトライに結びついたことをチームメート全員が理解している。一人ひとりが自分の役割を果たす
ことの積み重ねが、チームの勝利に結びつくという一体感を経験できて非常に良かったと思います。
――昨年の「リポビタン D チャレンジカップ」では、日本代表がウェールズ代表を破り、ニュージーランド代表
オールブラックスには敗れたものの健闘しました。今年はイタリア代表を破って初白星を挙げました。現在
の日本代表をどうご覧になっていますか。
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上原 エディー・ジョーンズさんが日本代表のヘッドコーチになってから、日本のラグビーは変わりましたね。
それまでは体力に劣る日本が海外の強豪国と同じような戦い方をしていて、正直なところ工夫が足りな
いのではないかと思っていました。
でも、今は粘りが出ている。強くなかった時期は、フォローした選手が有効に働けていない印象だったけ
れども、今はボールを奪って何とかしようと懸命に働いている。だからプレーがしつこいし、本当に頑張って
いる印象を受けます。エディーさんの闘魂が選手たちに乗り移っているように感じますね。
それから、実際に勝っています。やはりラグビーは勝たないと面白くないですからね(笑)。
稲垣 おっしゃる通り、今はエディーの勝たなくちゃいけないのだという気持ちが選手たちに伝わっていると思
います。
選手たちも、朝 5 時半から 1 日に 4 回練習をしたり、30 分間スクラムを組みっ放しといった本当に厳し
い練習によくついていっている。選手たちは精神的にも肉体的にも疲れていますが、勝ちに飢えているから
結束が崩れない。それが 10 連勝という結果につながったと思います。今までのジャパンにない雰囲気です
し、非常にいい方向に行っていますね。
上原 試合の内容が良くなっていますね。昨年のウェールズ戦は結果だけではなくて、戦い方が非常に変
わった印象を受けました。
サッカーを見ても、短いパスやお互いのコンビネーションで攻撃するのが日本には向いていますが、ラグビ
ーでもボールをどう動かすのか、小柄な日本人にもできることがあるといった発想で戦略を立てる必要があ
ると、私はかねがね考えていたのです。
たとえばショートラインアウトは、日本が開発したのですよね?
稲垣 大西(鐵之祐・元日本代表監督・元早稲田大学監督)先生が開発し
ました。
上原 大西先生だったのですか!
実は、商売をする上でも全体を平均値で見てはいけないのですよ。今我が
社には 900 人の営業マンがいるのですが、この一人ひとりの成績をつぶさに見て
いくと、上位の人間が業績目標を 150~200%達成しているのに対して、下位
の人間は半分も達成していない。これを、全体の業績が今期は前年比 100%
を超えたから大丈夫と判断すると間違えてしまいます。優秀な人間はどういう
考え方でどういう動き方をしているのか、苦戦している営業マンはどういう考え方をしているのかを個別に
見れば、個々のモチベーションの高さや行動の質の違い、情報量の多寡といった違いが見えてくる。つまり、
全体が伸び悩んだときに、平均値から問題点を探ろうとしても何もつかめない。何かいい手はないかと考
えるのではなく、具体的に個々の問題に還元して原因を探っていけば答えが見つかります。これはラグビー
でも同じだと思うのです。
今はビッグデータの時代ですから、たとえばラインアウトや BK の新しい動きを、個々の優秀な選手の映
像を集めて研究していく。海外の映像も分析すれば、そこから日本に適した方法論を見つけられるかもし
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れない。選手個人の経験をもとに学ぶのではなくて、世界の動向や戦法を蓄積した作戦部隊を組織す
るようなアプローチも必要ではないでしょうか。
稲垣 エディーは、もともと世界の最新情報を持っていますし、日本代表にも分析スタッフがいて、今おっ
しゃったような研究に取り組んでいます。
それから、エディーは日本が勝つためにどうすればいいかをすごく考えていて、監督に就任したときに「ラグ
ビーではなくて、世界で勝った指導者に会いたい」と言って、WBC で優勝した原辰徳監督や、なでしこジ
ャパンの佐々木則夫監督、女子バレーボールの眞鍋政義監督といった方々の話を聞きに行きました。
そのときみなさんが共通して言ったのが、「世界のコピーをするのではなく、日本らしいオリジナルの戦法を
考えて勝った」ということでした。エディー自身も、そこでオールブラックスのコピーではなく、ジャパンオリジナル
のラグビーを作ろうという確信を得たと思います。ただ、それをやるためにまずセットプレーを徹底的に整備し
なければならなかった。それがようやくできつつあるところです。
上原 ラグビーはボールを確保しないと次の展開がないですからね。
稲垣 はい。特にスクラムは、フランス人のマルク・ダルマゾというコーチがついて、この春は、サモア、カナダ、
アメリカといった自分たちより大きな相手を完全に粉砕して、スクラムに徹底的にこだわるイタリアにも押し
勝ちました。非常に精度が上がっています。
上原 フランスはスクラムが強いのですか?
稲垣 強いですね。でも、この前勝ったイタリアは、スクラムに関してはフランスよりも強い。ですから今は確
実に進化しています。
――エディーさんは、練習のときに選手に GPS をつけて個々の走った距離やランニングスピードを科学的
に測定する一方で、今春は大西先生が開発した「カンペイ」(ライン参加したフルバック(FB)に直接パスし、
相手防御ラインの裏へ出るサインプレー)も使っています。最先端の科学的アプローチと日本的なオリジナ
ルが非常にいい形でブレンドされていますね。
稲垣 エディーは大西先生にも興味を持って研究していますからね。
数年前にエディーから「今までの日本代表のベストゲームはなんだ?」と質問されたとき、私は即座に
1968 年にニュージーランドでジュニア・オールブラックスを 23―19 と破った試合だと答えたんです。私自身
は見ていないのですが、ショートラインアウトやカンペイのような、それまで世界で誰もやらなかった戦術を大
西先生が考案されて使った。それを伝えたら、自分もそういう新しいオリジナルを生み出そうと決意したよう
です。
上原 日本のラグビーが強くなって勝てばファンも沸くでしょうし、プロ
野球やサッカーに続く人気スポーツになっていくでしょう。昔、新婚
早々に妻を連れて国立競技場にラグビーを見に行ったことがありまし
たが、超満員でした。ずっと音楽学校に通ってきた妻は非常にビック
リしていました。あの沸き上がるような熱気。それから、ラグビー独特
の団結であるとか、One for All, All for One の精神。そういったものを
みんなに体験してもらって、エンジョイしてもらうことを、私自身一番望
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んでいます。ジャパンがそういうチャンスを生かして着々と強くなる過程で、「リポビタン D チャレンジカップ」が
貢献できれば、それは非常に嬉しいことだと思っています。
稲垣 ご支援頂いている立場としては、結果を残すことが一番だと考えています。
御社の社是「勝つことのみが善である」ではないですが、代表チームは絶対に勝たなければいけない。
善戦は許されないのです。そして、勝つことによっていろいろな効果が生まれてくる。そこが、負けても何か
残るものがある大学ラグビーとの大きな違いです。
今年の最初の合宿で日本代表の選手たちに「ラグビーでもっとムーブメントを起こそう。来年の RWC で
勝って渋谷の街に DJ ポリスを入れてもらおう。君たちにはそのぐらいの力があるのだ」と伝えました。その夢
をみんなで実現していくのが日本代表に課せられた課題であり、また、それを実現できる誇りを選手たち
に持って欲しい。日本代表が勝つことは、ラグビーファンだけではなくて、国民みんなに喜びを与えることに
つながるのではないかと、思っているのです。
上原 RWC2015 で勝利を勝ち取れば、まさに社会を動かせますし、大きなインパクトを与えることになる
でしょうね。
先ほど稲垣さんが言われた「商売は戦いなり。勝つことのみが善である」は我が社の創業の精神ですが、
それだけではなくて「紳商」という言葉もあります。これは紳士の商売人たれ、という意味です。紳士は嘘を
つかないし、弱い者いじめをしない。卑怯なこともしない。そして、絶えず世の中全体のことを考えながら商
売をする。社員にはそういうジェントルマンシップを持つことを求めています。そのためには、「正直・勤勉・熱
心」の原点に返って商売をしよう、と私は社内でも話しています。
そういう観点からすると、ラグビーは厳正なルールのなかでレフリーの裁定に従って正々堂々と戦うスポー
ツ。ルールのなかで戦って勝つことは、社会人としても大変に意義のあることです。日本は、先日のサッカ
ーW 杯のコートジボワール戦のあとでサポーターが観客席のゴミを拾って掃除したような国民性を持ってい
ます。そういう国民性や、紳士としての商売の在り方にも共通する要素をラグビーは持っていると思います。
もちろん、他のスポーツも持っているけれども、ラグビーにはトライをしたときに、その過程に携わった選手も
評価するような精神があります。これが、ラグビーの非常に優れた部分だと思います。
取材・構成●永田洋光 撮影●大崎聡
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Vol.2 ゲスト
大正製薬 上原 明 会長
-後編日本ラグビー協会の稲垣純一理事が、毎回ラグビーに造詣が深いゲス
トを迎えて、ラグビーの魅力やラグビー界の未来について語り合う対談企
画。第 2 回のゲストは、日本代表オフィシャルスポンサーである大正製薬
の上原明会長。2019 年ラグビーワールドカップの成功のヒントがここに。
――リポビタン D チャレンジが始まった 2002 年はジャパンラグビートップリーグの開幕前年にあたり、また日
本ラグビーがオープン化へと踏み出した時期にも重なります。中心になっていたのが、2006 年に亡くなった
当時の日本代表強化委員長・宿澤広朗さんでした。上原会長がリポビタン D チャレンジや日本代表の
スポンサードを決断されるにあたって、宿澤さんとはお話しされましたか。
上原 その話に僕は弱いのですよ(笑)。
早稲田大学の名選手として名高かった宿澤広朗さんが住友銀行(当時)のロ
ンドンに駐在しておられた時に、私が出張する機会がありそこでお目に掛かって
街をご案内いただいたことがありました。それ以来親しくさせていただきました。宿
澤さんが帰国されてからも、慶應 OB の龍野和久さんや堀越慈さんたちとご一
緒に何度か食事もしました。
その宿澤さんが、協会の強化委員長に就かれて堀越さんと一緒に会社にお
見えになりました。「日本代表を何とかしたいので応援して欲しい」というお話でし
た。私は「既にラグビーチームを持たれている会社がスポンサーになられた方がいいのではないでしょうか」と
申し上げたのですが、「代表のジャージに選手たちが普段戦っている会社の商品ロゴが入るのはあまり好
ましくない。ラグビーに理解があって、しかもチームを持っていない企業のご支援をいただきたい」と言われま
した。
我が社としても、努力と友情と勝利をリポビタン D の宣伝コンセプトとしていたので、共通するものがある
と感じ「お引き受けしましょう」とお答えしました。
宿澤さんのお父様は高校の校長先生をやっておられ、その書棚に当社の初代会長・上原正吉の『商
売は戦い』という本を並べておられたそうです。本のサブタイトルには、「勝つことのみが善である」と記されて
おり、この言葉は宿澤さんの「生き方」にピッタリで気にいったので座右の銘にしていると仰っていただきまし
た。
この言葉には続きがあります。「商売は戦いであり、勝つことのみが善である」という、いわば商売における
戒めなのです。商売の戦いは毎日ゆっくりと続くので気がつかないことも多いが、確実に少しずつ勝ち負け
がついている。大きな川が表面には見えないが確実に海に向かって流れるごとくである。それに気がつかな
いまま毎日を安易に過ごしていると、思わぬ敗戦につながることになる。その結果、「勝者は栄耀栄華を
極め、敗者は陋巷(ろうこう)に斃死(へいし)す」、つまり負ければ貧民窟で野垂れ死にする。商売の勝
敗はそれほど厳しい結果がつくということです。
その商売の戦いに勝つには三つの条件があって、一番目は品質。つまり良く効く薬を作りなさい、と。二番
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目には経済的に有利な条件を提供すること。三番目がより良いサービスを提供することです。こういう条
件を満たす工夫をすれば、今度はライバルメーカーがさらなる努力をしてくる。
このように自由主義経済では、お互いに切磋琢磨することによって世の中が進歩していく。このような意
味合いから「勝つことのみが善である」ということになるわけです。
ラグビー日本代表も、テストマッチに勝つことで、単に自分たちのためだけではなく、新しい戦術を開発し
て世界の強豪に勝ったプライドと自信が社会全体に強いインパクトを与えてくれることになるでしょう。それ
が本当に大切だと思いますね。
稲垣 エディー・ジョーンズ自身がオーストラリアという国を背負って自国開催の RWC2003 を監督として戦
っていますし、南アフリカのテクニカルアドバイザーとしても RWC2007 の優勝を経験しています。だから、ナシ
ョナルチームはかくあるべし、という哲学を持っていて、それを今は選手たちに一所懸命伝えているところで
す。
2019 年に RWC が日本で開催されますが、ラグビーが持っている文化は、社会的にも非常に役に立つと
私は考えています。
だから、この大会をイベントとして成功させると同時に、そのあとの日本社会にもラグビーの文化を伝えて
いきたい。そのための RWC だというのが、個人的な思いです。
上原 おっしゃる通りです。森喜朗日本ラグビー協会会長をはじめ、国会議員の方々も、みなさんラグビ
ーに非常に熱心ですよね。おそらく、今、稲垣さんが言われたことを強く認識しておられるのでしょう。
稲垣 ラグビーが社会貢献につながることを示すのが RWC だと思っています。
上原 そうあって欲しいですね。
ただ、野球やサッカーをみていると、企業スポーツから地域密着型のスポーツへと
いう流れがあります。アルビレックス新潟や、北海道日本ハムファイターズ、東北楽
天ゴールデンイーグルスがいい例ですね。もちろん、最初は企業名を冠につける形
でもかまわないのですが、ファン層の広がりとともに、バランスの取れた形で地域密
着型に徐々に移行できればいい。裾野を広げる意味でも、地域でチームをしっか
り応援するような風土を作ることが必要ですからね。
稲垣 トップリーグは企業スポーツとしては非常に高いポジションにあるのですが、人気の源泉となっている
かと言うと、そろそろ曲がり角にきているのかもしれません。
現在、ラグビー界以外の方にも入っていただいて、トップリーグ再生化プロジェクトを進めています。そこで
ご意見を頂戴して、今後のトップリーグはどうあるべきかを打ち出そうと考えているのですが、地域性は大き
なポイントになるでしょうね。私たちも、今のままでいいと思っているわけではなく、そこは何とか変革しなけ
ればと考えています。
――先ほど会長が、商売に勝つための三条件として、品質と経済性、サービスという三つの条件をお話
しされました。ラグビー界は現在、ジャパンを筆頭に品質は上がっていますが、あとのふたつはどうでしょうか
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稲垣 個人的にはラグビーそのものの品質は非常に良くなっていると思います。トップリーグのレベルも、以
前に比べて上がっています。ただ、それが世の中にきちんと伝えられていないのではないか、という危惧はあ
りますね。経済性やサービスの面では確かに不足しているところがありますが、それは、私たちがラグビーの
価値を上手く伝えられていないからではないか。その努力が不足しているのが、現状だと思っています。
上原 トップリーグの品質は確かに上がっていますが、大学や高校の広がりは、まだ足りないのではないで
すか。
稲垣 日本代表でも、6 月 21 日のイタリア戦は地上波放送がありませんでした。広がりという点で不足し
ていることは否めません。同時期に行われたサッカーW 杯の日本戦が 50%近い視聴率を上げたことに比
べると、私たちがラグビーのブランド性をきちんと伝えられていないのではないかと自覚しています。それを打
破しなければいけないですね。
もちろん日本代表やトップリーグだけではなく、大学や高校でもラグビーの魅力を伝える努力をしないと
いけないと思っています。
――これから日本は強化のためにいろいろな国と試合を組むことになりますが、会長ご自身が「この国との
テストマッチをぜひ観てみたい」と思うような相手はございますか。
上原 僕が今まで見た試合のなかで一番印象に残っているのが、20 代後半の頃に見た、秩父宮でのイ
ングランドとの試合。確か山口良治さんがフランカー(FL)で出ていた試合です。
――1971 年にイングランドに 3―6 と惜敗した試合ですね。
上原 負けたのでしたっけ? てっきり 6―6 の引き分けだと思っていたのですけど(笑)。あの試合は観客が
スタンドから溢れて、僕もインゴールの後ろに座って観た記憶があります。非常に印象に残っています。やっ
ぱりいい勝負は興奮するものです。
だから、ああいった伝統国との試合は観てみたい。特に、イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイル
ランドといった国々との対戦をもっと増やして欲しいですね。
1980 年代に確か日本代表が遠征してウェールズとテストマッチを戦いましたよね?
――1983 年のウェールズ戦(24―29)ですね。
上原 当時の新日鐵釜石のバックローの千田(美智仁)選手がスクラ
ムから挙げたトライは今でも覚えています。あの試合は、日本がどんど
んオープン攻撃を仕掛けて、最後はウェールズを追い詰めたのですよ
ね。ペナルティを得た時でもボールをオープンに回し続けてトライを取り
にいったので、観客がスタンディングオベーションで日本のオープンラグ
ビーを応援していたのが印象的でした。単に試合に勝つだけではなく
トライを取りにいくあのような試合がラグビー競技の本質であり、またあ
のような試合を観たいですね。
フォワード(FW)がセットプレーでボールを確保して、バックス(BK)が新しい戦術で勝負をして欲しい。
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日本人は体力勝負では勝てないから、大西先生がやられたように、相手から離れたところでどう勝負す
るか。そういう工夫がもっとあってもいいように思います。相手の背後にゴロパントを転がすことがあってもい
いし、スタンドオフ(SO)やセンター(CTB)の新しい動きに両ウイング(WTB)やフルバック(FB)を絡めるような形
もいい。勝つためのそんな工夫をお願いしたいですね。
稲垣 具体的に何が、とは明かせませんが(笑)、会長がおっしゃられたようなことはエディーも考えて、いろ
いろ工夫していると思います。リクエストもありますし。
上原 そういう新しいアイディアを考えて実行してきたから、日本は実力をつけて強くなってきたわけで、7
人制でも代表になった藤田(慶和)君や福岡(堅樹)君を使って、いろいろ工夫してもらいたいですね。7 人
制に関しても、BK 同士の間隔が広いから工夫をこらす価値はありますよ。
稲垣 はい。日本のオリジナルなラグビーを完成させるということですね。
上原 それから大学ラグビーも、これだけ交通機関が発達しているのだから、トップリーグのように全国規
模でリーグ戦を行ってもらいたいですね。もちろん、それぞれの大学には伝統があるし、OB の方も含めて
難しい部分があるのは理解していますが、その方が裾野も広がり、これからのラグビーの発展に大きく貢献
できると思います。
稲垣 学生は、地域に分かれているので、その分試合数が少ないのですよ。現状はリーグ戦で 7 試合で
すから。それは学生にとっても可哀想な部分があります。ただ、おっしゃるように難しい部分があるのも確か
です(笑)。
上原 RWC 日本開催が、ラグビー界全体を動かすいいきっかけになるかもしれませんね。
取材・構成●永田洋光
撮影●大崎聡
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