これからのインターネットと IAjapanの役割

巻頭特別インタビュー
新理事長
矢野 薫
氏に聞く
これからのインターネットと
IAjapanの役割
平成 19 年度からインターネット協会の新理事長に
就任した NEC の代表取締役執行役員社長の矢野
薫氏に、インプレス R&D 代表取締役社長(インタ
ーネット協会新副理事長)の井芹昌信氏が今後の
インターネットと協会の役割について聞きました。
Q. Web2.0 という言葉が喧伝されていま
すが、インターネットの次世代サービス
として注目されているものはあります
か?
Web2.0というとブログやSNSなどが思
い浮かびますが、インターネットの世界が
あまりに大きくなり、現実社会と同じよう
になってしまったため、もう少しローカル
なコミュニティを作ろうという動きが出て
Q. まず、IT 業界の大企業を率いる立場か
め、残念ながら手出しできなかったとい
きたのだと思います。つまり、本質的な
らインターネットをどう捉えていらっし
うのが正直なところです。しかし、ネット
技術の変化というよりは、使い方の着眼
ゃるか教えてください。
ワークの作り方としては計画経済と市場
点が変わったということでしょう。企業で
経済のような違いがあります。インターネ
はエンタープライズ 2.0という言葉も出始
ットはまさに時代の要請にあっていたと
めていますが、それをどう使うかという
いうことでしょう。
開 発 や 開 拓 は まだ 進 んで いま せ ん 。
インターネットは、ルーツをたどれば、
最初は米国の軍事用として、その後学術
用になりましたが、少なくとも最近では個
インターネットは元々は軍というユーザ
Web2.0はまだコンシューマーのものです
人向けのネットワークですね。NEC は通
ーの身元がはっきりしたクローズドなネッ
ね。ビジネスとコンシューマーが連動して
信事業者のネットワークや大企業の情報
トワークで、大学などモラルの高い人が
動けば次の発展があるのではないかと思
システムを中心に事業を行っているので、
利用していたものでしたが、大衆に開放
っていますし、ビジネス側でもどのように
IT業界一般から見ればあまり関係がない
したことにより、そこには犯罪者も紛れ込
使えるかいろいろと試しています。
ように見えるかもしれません。しかし現
んできます。いろいろな意味で現実社会
実は必ずしもそうではなくて、我々は長
の縮図となったわけです。セキュリティ面
Q. インターネット協会でも「エンタープラ
い間、今でいうインターネット的なネットワ
での問題点がよく話題になりますが、イン
イズ 2.0 研究部会」を設置しますが、ど
のようなものだと捉えていますか?
ーク作りを心がけてきているので、違和
ターネットだから危険だというわけではな
感はありません。我々は80年代ごろから
く、一般社会と同じように、ある程度の危
インターネットに着目していたのですが、
険が含まれているのだと捉えるべきでし
そのルーツがアメリカの国防にあったた
ょう。
違っている部分もあるかもしれません
が、Web2.0 世代が開拓した技術や今後
IAjapan Review
1
巻頭特別インタビュー
Web2.0という時代を作っていく
推進役として活躍したと後世に
評価されるような活動をしていきたい
矢野 薫氏プロフィール
1944 年生まれ。東京大学工学部電子工
学科卒業後、1966 年に NEC(日本電気株
式会社)に入社。1998 年には NEC USA
の社長、2000 年には NEC ネットワークス
カンパニー副社長に就任。2002年の取締
役専務、2004年代表取締役副社長を経て、
2006年4月より現職。
言ってもいろいろありますから、十把一
心です。新たなことをはじめようとした時
絡にはできない。Web2.0 的なものを一
に、そのネットワークの中である組み合
番使いやすい分野というのを見つけるこ
わせがぱっと作られて、すぐに走り出す。
とがまず大事です。こういう使い方がわ
日本では、労働市場の流動性の問題など
かれば、次のアプリケーション開発につ
からそういうことがありません。その結果、
ながって、いろいろな非定型業務がエン
ある意味においての多様性に欠けていま
タープライズ2.0的な仕事のやり方に変わ
す。シリコンバレーモデルは必ずしもシリ
っていくでしょう。具体的には、マーケテ
コンバレーだけで行われているものでは
ィングツールに使えることはすでに明ら
ありませんし、日本だけが置き去りにされ
かですが、いわゆる「ワイガヤ」的な使い
るのはしのびない。そういう意味で、イ
方ができそうです。つまり、ワイワイガヤ
ンターネット協会がそういう場の 1 つにな
ガヤやみんなで議論しながら、新しいも
っているのではないでしょうか。インター
のを生み出すというようなものです。
ネットという共通の問題意識なり価値観が
基盤となり、その上で新しいものを作っ
出てくる技術を含めて、異なるジャンルの
Q. 講演でシュンペーターの「イノベーショ
ていくための組み合わせができるとよい
ものをうまくグルーピングして、いかに企
ンは新結合だ」
「組み合わせが新しい価
なと、私は期待しています。単なるインタ
業システムに利用していくかということだ
値を生み出す」という言葉を引用されて
ーネットの普及というフェーズを終えて、
と思います。従来とは異なるやり方でシ
いましたが、その意図を教えてください。
そのコミュニティの中から新しい方法論を
ステムを作っていくようになるでしょう。
生み出していくというイメージなのです。
たとえば、インターネットの最大アプリケ
いろいろな側面がありますが、私が特
ーションとしてはメールがありますが、メ
に言いたいのは多様性ということです。
Q. 最近は国際的に見ると日本のソフトウェ
ールはずいぶんと仕事のやり方を変えま
企業の本質は基本的には上意下達です。
アが相対的に弱くなっているという気
した。それと同じように、エンタープライ
しかし、そういう組織だけで新しいイノ
がしていますがいかがでしょうか?
ズ 2.0も仕事のやり方を変えるものです。
ベーションを起こせるかどうかは非常に
コミュニティやグループといったキーワー
疑問ですよね。我々は企業の中に研究村
一つの時代が、発展段階の踊り場に来
ドを通して仕事のやり方を提案するので
のようなものを作って、たとえば大学や他
ているのかもしれません。たとえば会計
はないでしょうか。
の企業がそこに参加します。そこで皆が
ソフトのパッケージベンダーなど、いわゆ
1つのテーマに取り組むことによって多様
る大手の IT ベンダーではない企業の製
Q. 今まで定型業務の効率化を実現してき
性や新たな組み合わせから新しいイノベ
品が、中堅・小規模企業では圧倒的なシ
た企業 IT に Web2.0 を組み合わせるこ
ーションが生まれるということを提案して
ェアを持っているといった事例もあります
とで、企業内の非定型業務の効率化も
います。これをオープンイノベーションと
し、請負業務中心だったソフトハウスが
実現できるのではないでしょうか?
言っています。
システムインテグレーターになったりサー
これは、シリコンバレーモデルにどう対
ビスプロバイダーになったりと、業態を変
そうですね。ただし、どこまでできるの
抗するかということでもあります。シリコ
えてそれなりの中堅企業になっていると
かわからないし、そもそも非定型業務と
ンバレーモデルは、人的ネットワークが中
いうこともあります。多面的に展開してそ
2
IAjapan Review
新理事長矢野薫氏に聞く
れぞれに発展しているから、なんとなく
黎明期のころの新興企業的なエネルギー
Q. 今後の協会の役割と抱負をお聞かせく
ださい。
とは違っているという面があるのでしょう。
疎外感を持つ傾向があるようです。そうい
う人が日本国内でもっと活躍できるように
するにはどうしたらよいでしょうか?
また、携帯電話の分野では、国際的な
インターネットが Web2.0という新たな
デファクトとなるソフトウェアが出てきて
発展段階に来たことは間違いないでしょ
私は以前から、国内が変わらないと海
います。そういう意味では、エネルギー
う。インターネット協会が、今まで日本の
外で働く人を本当にサポートすることは
がパソコン中心から別なところにシフトし
インターネットを発展させる大きな原動力
できないと思っています。今でも、企業
ているような気がします。かつてオフコン
であったのと同じような意味で、これか
で海外駐在した人が日本に戻って活躍で
からパソコンへとシフトしたように、携帯
らは、後世にWeb2.0という時代を作って
きるようにはあまりなっていません。日本
電話にエネルギーが集まってきたのでは
いく推進役として活躍したと評価される
が変わって海外との差を縮めないと、日
ないでしょうか。
ような活動をしていきたいと思っていま
本人が海外で活躍するのも難しいです
私が特に期待しているのは、オープン
す。もともとインターネットは草の根的なも
し、日本でそういう人を採用して発展して
ソースソフトウェアです。日本人のクリエ
のですから、インターネット協会にも、経
いくのも難しい。しかし、インターネットは
イティビティを発揮するには、デファクトを
団連などとは違うメンバーが入っていて
時間と距離を克服できるのです。日本が
作るということもあるでしょうが、とりあえ
多様性があります。その強みを生かせる
明治時代に開国して 140 年ですが、その
ずもっとオープンソフトに力を入れたらよ
ように、協会として場を作っていきたい。
140年のうちに成し遂げられなかった第2
の開国を、インターネットが行うでしょう。
いのではないかと思います。腕を磨く努
こちらの方向に向かうのだ、というふう
力をしていれば、その中から新たなビジ
に先導するような組織でありたい。そし
その維新の志士のような人たちがインタ
ネスが生まれてくるのではないでしょうか。
て、先導していく個人や組織をきちんと
ーネット協会に集っているのではないか
評価して表彰するようにしていきたいで
と期待しているわけです。
Q. 今まで、日本では大企業の全体戦略が
す。たとえそれが一枚の表彰状でもよい
アンバランスで、なかなか評価が上が
ので、インターネット協会の表彰状をもら
らないという面がありました。
えることは大変な名誉である、と思っても
らえるようになりたいと考えています。
評価能力がないというのは、昔から日
本の弱点ですね。それで人材がどんどん
ありがとうございました。
IAjapan2.0 検討会報告と委員会の紹介に
ついてはp.18を参照のこと。
Q. 現状では、海外でがんばっている人が
海外に流出してしまった。しかし、昔は
海外に出ていかなければできなかったよ
うなことが、オープンソースのソフトウェ
アを作るのなら日本にいてもできるように
なりました。だから、インターネットを使っ
た在宅勤務といったことももちろんです
が、
「在日本ワールドクラス」というのがこ
れからの時代でしょう。日本人の才能あ
る人が、その才能を生かして世界で活躍
できる場というのができているでしょう。
日本で評価されなくても、世界で評価さ
れれば日本にも返ってきますよ。経済成
長途上の中国やロシアのプログラマーは
どんどん世界を目指していますが、日本は
豊かだからそのアグレッシブさがない。
もっと志を高く持とうということでしょう。
IAjapan Review
3
NEWS REPORT
NGNを包括する形で「ネットワークのネットワーク」は存在
インターネットから見たNGNの位置付け
東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授 江崎 浩
NGNとネットワークの相互接続性
ラフィックを管理制御することができない
主な原因として挙げられる。NGN/IMS
「ベストエフォート」のネットワークであり、
は、現在の電話網(PSTN 網)
を構成して
NGN(Next Generation Network)およ
エンド・ツー・エンドに通信品質の確保と
いるSS7(Signaling System No.7)アーキ
びIMS(IP Multimedia Subsystem)
の導
提供ができないとされている。このような
テクチャー(アウトバンドシグナリングア
入戦略は、各国のキャリアごとにそれぞ
インターネットの問題を解決するために、
ーキテクチャー)を、IP 技術を用いて構
れ異なったものになっているが、IPパケッ
NGN では、
「Walled-Garden」
(塀で囲ま
築しようとしていると見ることもできる。
トを用いた情報転送基盤の統合化と効率
れた平和なネットワーク空間を意味する)
化を推進しており、最終的には、どこの国
と呼ばれる、キャリア/プロバイダーによ
でも固定電話網と移動体通信網との統合
ってユーザートラフィックが管理制御され
FMC(Fixed and Mobile Convergence)
たネットワークを構築するとされている。
従来のSIPとNGNのSIP
IETF において標準化された SIP は、
電話網においては、常にネットワーク
インターネットの上に仮想的な SIP シグナ
NGNの参照アーキテクチャーは、欧州
内の資源を利用することによって一定の
リングネットワークを構築するとともに、通
(※ 1)の
の 3GPP コンソーシアムが ETSI
通信品質を保証する
(品質保証型サービ
信を行うノード間でのマルチメディア通信
TISPAN(※ 2)に提案した IMS アーキテク
ス)。一方、インターネットにおいては、IP
のために必要な通信パラメーターの管理
チャーをもとにしており、そのアーキテク
パケットの転送品質に関する保証は行わ
調整を行う。すなわち、SIP を用いたイ
チャーモデルは、ATM 技術が推進され
ず、最大限の転送努力を行う
(ベストエフ
ンターネット的なIP電話のサービスでは、
(※ 3)あるいは AIN/TINA
ォート型サービス)。ここで注意が必要な
SIP サーバーはユーザーのランデブーポ
のは、ベストエフォート型サービスは、低
イントという性格が強く、DNSが提供する
網を構築するとされている。
た時の B-ISDN
(※4)の構造に非常に似ている。
NGN/IMS では、IETF において標準
品質の通信サービスと等価ではない点で
Name Resolution 機能と同等の、オープ
化されたSIPを基本シグナリングプロトコ
ある。ベストエフォート型のネットワーク
ンでグローバルスケールなサービスを提
ルとして利用するとされているが、NGN
においては、他のデータリンクやネットワ
供するというものである。
およびIMSに適用する際に数々の修正や
ークを用いるなど、あらゆる手段を使っ
拡張をすることになっている。そのため、
て、データの配送を試みる。その結果、
ては SIP を用いるが、キャリア規模での
拡張/修正版のSIPを適用したNGN/IMS
特に障害時や災害時などにおいて、品質
閉域マルチメディアサービス
(有線系では
網と、IETF で標準化された SIP をその
保証型サービスよりも、より信頼性の高い
IP電話サービス、無線系では非音声系デ
まま適用したネットワークとの間で相互接
通信サービスを提供できることを十分に
ータサービス)
を提供するもので、その結
続性が確保できるかは、きわめて不透明
認識すべきである。
果、そのネットワーク基盤のアーキテクチ
な状況にあると言わざるを得ない。
一方、NGN/IMS では、プロトコルとし
NGNの議論がはじまった背景には、IP
ャーは、現在のインターネットのアーキテ
電話のサービスがインターネット基盤上で
クチャーとは大きく異なるものとなる。こ
提供可能となり、電話のネットワークを用
の違いは、ローミングサービスの提供手
いて構築・発展してきたインターネットが、
法 に 表 れて い る。従 来 の S I P でも
NGN においては、インターネットは、プ
インターネットを用いて電話のサービスが
NGN/IMS の SIP でも、ユーザーのホー
ロバイダーがネットワーク上を流通するト
提供できるという構図に逆転したことが
ムネットワークが存在する。従来のSIPに
ベストエフォートのインターネット
4
IAjapan Review
NEWS REPORT
おいては、SIP サーバーは通信相手の IP
的なデータリンクを提供できれば、イン
キ テクチャー で あり、インターネットは
アドレスを通知するのみである。しかし、
ターネットにとっては、有効なデータリ
NGN を包含できる。すなわち、NGN を
IMS においては、通信相手の IP アドレス
ンクとして存在することになる。なお、
包含する形で、
「広義」のインターネット
の通知とともに、ユーザーが接続するア
この場合には、NGN網の中で用いられ
(=ネットワークのネットワーク)が存在す
クセスネットワークのアクセスポイント機
る IP アドレスはデータリンクアドレス
器にユーザーへの課金ポリシーや利用可
(MACアドレスや電話番号など)
と同様
能なサービスが通知され、サービスやト
の位置付けになる。
るととらえるべきだろうう。
電話システムにおいては、
「大枠では国
際的な技術標準が存在しているにもかか
ラフィックの制御が行われるとされてい
②NGNがIPレベルで他のネットワークと
る。現実的なシステム運用の観点から考
相互接続を行うのであれば、インター
張が適用される」ことが一般的だった。
わらず、各国ごとに技術仕様に変更や拡
えると、このように動作することは、マル
ネットの一部を構成するネットワークと
通信プロバイダーのビジネス領域は、国
チホップのネットワーク環境では実現が
して NGN をとらえることになる。NGN
内が主力かあるいは国内に閉じている場
容易ではなく、直接相互接続(Back-to-
がネットワークを構成する適切で魅力
合が一般的で、国内市場に技術を最適化
Backと呼ばれる)の形態でないと良好な
的な「ネットワーク」技術であれば、多
する傾向にあった。しかし、通信インフ
運用が期待できない。実際、ITU-Tで議
くの(自律)ネットワークが NGN の技術
ラを利用して展開される産業活動や社会
論 されて い る N G N 網 の 相 互 接 続 は 、
を用いることになるだろう。この場合
活動は、もはやグローバルなシステムの
Back-to-Back での直接相互接続が参照
の NGN は、外部の「Walled Garden」
上に構築されており、さらに、製品はグロ
構造とされているようである。
なネットワークのみではなく、それ以外
ーバル市場を前提にその技術設計や生
のネットワークとの相互接続も行わな
産・流通が展開されなければならなくな
ければならない。
ってきている。したがって、NGNがインタ
インターネットから見たNGNの運用形態
③ゲートウェイ装置を介して、NGN 網が
ーネットにおいて広く利用されるために
インターネットアーキテクチャーの本質
インターネットと相互接続するモデルも
は、グローバルに共通な技術仕様をもと
は、
「選択肢」の提供と、
「ネットワークの
考えられる。企業網(あるいはトランジ
にしたシステムの研究開発と商品化、さら
ネットワーク」にある。インターネットから
ットを行わないサービスネットワーク)が
にネットワーク構築・運営が行われなけ
NGNを見た場合には、以下の3つの運用
インターネットに接続する形態と同様で
ればならないだろう。
形態が考えられる。
ある。企業網を構成するために、NGN
①インターネットでは、ノード間を接続す
が現在のIP技術やその他のデータリン
るために任意のリンクを利用できる。
ク技術よりも優れている場合に、企業網
リンクに関する選択肢が提供されてお
はNGNを選択することになるだろう。
り、その時点で最適と思われるものを
現時点では、
「どのような形態で NGN
選択して利用できる。黎明期は専用線、
が利用されるのか」は明確にはなってい
発展期ではダイヤルアップ回線、現在
ないと言わざるを得ない。
「ネットワーク
では DSL 回線や FTTH 回線などが利
の中立性」の観点から見れば、NGN は 1
用されている。すなわち、NGNが魅力
つの新しいネットワークの構成技術・アー
(※ 1)European Telecommunications
Standards Institute:欧州における通信関
係標準化機関
(※ 2)Telecoms & Internet converged
Services & Protocols for Advanced
Networks:ESTI のプロジェクトの1 つで、イ
ンターネット関連技術の確立を目的としている
(※ 3)Broadband Integrated Services Digital
Network:広帯域 ISDN
(※ 4)Advanced Intelligent Network:高度イン
テリジェントネットワーク
IAjapan Review
5
NEWS REPORT
開発者との共存共栄が成功の鍵
ネット企業のAPI公開戦略
エンジニア/技術系ライター 水野 貴明
近年、ウェブを通じてサービスを展開
なくても取得可能だ。しかしウェブページ
述べたように、これは「不可能」という意
する企業がAPIを公開するケースが増え
の配信は HTML で行われている。
味ではない。HTML上のデータは、ペー
ている。この現象は、その API を利用す
HTMLもブラウザーで読み込む「プログ
ジのデザインや構造が変わると、それを
る第三者の協力を得ることで、よりビジネ
ラムが理解するためのデータ形式」では
解析するプログラムもそれにあわせて書
スを拡大できるということに、多くの企業
あるが、HTMLはブラウザー上で成形し
き換えなければならないという問題はあ
が気付き始めたことを意味する。
て表示することを目的に構造化されたデ
るが、誰もが欲しがる有用なデータであ
API は Application Programming
ータであるため、自然言語を理解できな
ればあるほど、データが取得される可能
Interfaceの略で、アプリケーション
(サー
いプログラムは、そのデータの中身まで
性は高くなる。ならば、APIを公開し、配
ビス)の機能やデータを外部から利用す
は理解できない。つまり、ある商品情報
信元できちんと情報を配信したほうがよ
るための仕組みのことをいう。もともとは
のページを読み込んだとしても、どこに
いとも考えられるわけである。
ウェブに限った用語ではないが、ウェブ
書かれているのが価格で、どれが発売日
APIは、XMLなどの汎用的なデータ形式
なのか、といったことはわからないのだ。
にすることで、その API を利用したサー
を利用して、あるサービスの機能をほか
一方、API ではあらかじめそれぞれのデ
ビスを経由した第三者の、自サービスへ
のサービスから利用したり、データを取
ータにどんな意味があるのかという
「意味
のトラフィックが期待できるという点であ
もう1 つの理由は、情報を再利用可能
得したりできる仕組みだ。たとえばブロ
情報」をプログラムが理解しやすい形式
る。ウェブ上のサービスで、きちんと収益
グへの記事投稿を、そのサービスの投稿
で取得できるため、第三者が自分のサー
を上げる最も重要なポイントは、アクセス
ページを利用せず行ったり、あるサービ
ビスに組み込みやすいのである。
をいかに増加させるか、ということにある。
API公開の理由
開発者との共存共栄の仕組みを作り出す
スが提供する複雑な計算機能をほかから
利用する、といったものも含まれるが、最
近特に公開が目立つのが、そのサービス
が蓄積しているデータを、外部から取得
しかしこうした情報は、配信をしてい
APIは、ウェブ上で自らもサービスを作
できるAPIである。たとえばオンラインシ
る企業がコストをかけて収集しているも
る、開発者に向けたサービスである。そ
ョップが、販売している商品の名前や価
のだ。それにもかかわらず、多くのデー
して、現在のウェブビジネスにおいて、開
格、商品画像などを商品コードや検索キ
タ取得用のAPIは原則無償で公開されて
発者は重要なプレーヤーと言える。それ
ーワードを指定して、XML データとして
いる。その理由は何か。
は、サーバーを構築するためのソフトウ
取得できるようなものを指す。商品以外
1つ目の理由は、APIを公開しないこと
ェアの多くが無償で手に入り、また高速
にも、気象情報や検索エンジンの検索結
が、収集したデータを第三者に利用され
のインターネット回線が安価で利用できる
果、そのサービスのユーザーが書き込ん
るリスクを回避することにはならないため
ようになったおかげで、開発者がアイディ
だりアップロードしたりした文章や画像、
だ。これはすでに述べたが、それらのデ
ア 1 つで簡単にサービスを立ち上げられ
動画などの「情報そのもの」を配信する
ータが結局はウェブページにアクセスす
るようになったからだ。
APIも多い(表参照)
。
れば取得できる情報だからだ。HTMLで
ただし、サービスのための機器や回線
それらの情報は、基本的にはウェブサ
配信されたデータは、そこから機械的に
が安価で手に入るようになっても、まとま
イト上で配信されており、API を経由し
データを取得することが難しいが、上で
ったデータを自ら作り出すにはコストや
6
IAjapan Review
NEWS REPORT
商品情報
アマゾン、楽天
写真
Flickr
動画
YouTube、AmebaVision、フォト蔵
検索結果
Google、Yahoo!、テクノラティ
時間がかかってしまう。そこで「このデー
公開することで、その情報は開発者以外
タをお使いください」とデータを差し出す
にも利用の裾野を広げることとなる。ア
天気情報
livedoor、Yahoo!
ことで、そういった開発者との協力関係
マゾンがオンライン書店(もはや書店にと
ホテル情報
じゃらん
を築くことができ、できあがった無数のサ
どまらないが)
としてトップの地位にたっ
中古車
カーセンサーラボ
ービスを経由したアクセスが期待できる
ている理由の 1 つは、かなり早期に API
飲食店情報
ホットペッパー
のである。
での情報提供を始めたことで、ブログな
ネット企業が公開するAPIの例
実際、データ配信型の API は、そこか
どでの商品紹介リンクにおいても寡占状
ら自社のサイトやサービスへのリンクを生
態となっていることも大きい。そしてこの
のなかで使える「おもちゃ」である。同じ
み出させるものが多い。典型的な例がア
アマゾンの成功は、他社がAPIでのデー
ようなおもちゃがあった場合、より面白そ
マゾンなどで見られるアフィリエイトと連
タ配信を行う、大きなきっかけの1つとな
うなほうを選ぶのは当然のことだ。たと
動した仕組みで、開発者はアマゾンの
っている。
えば、配信するデータの中に、そのデー
API から得た情報を利用する際、アマゾ
つまり、API の公開は無償でデータを
タとは直接関係のない広告を混ぜて、そ
ンに対してリンクを張り、利用者をそちら
ばらまく行為ではなく、それによってより
こから収入を得よう、といった方法は、悪
へ誘導することで、開発者も利益を得ら
大きなリターンを得る、いわば「海老で鯛
い例の典型だと言える。無関係の広告と
れるようになっている。このように、リン
を釣る」ための海老なのである。
いう
「ノイズ」の入ったデータを、開発者
クを自サイトに向けて張ることでAPIを利
今後も、API でのデータ配信を行うサ
は使いたいと思わないからだ。しかし、
用したサイトやその開発者にとってもメリ
ービスはどんどん出てくることが予想され
だからといってそれは、無償でデータを
ットを生み出し、いわば共存共栄の仕組
る。これまでは、API でのデータ配信を
無制限、無条件に配信する、という意味
みを作り出しているのだ。
行うこと自体が優位性につながっていた
ではない。持っているものをリターンも
ケースもあったが、競合する複数のサー
考えずに提供してしまっては、ビジネスは
ビスが同種のデータのAPIでの配信を始
成り立たない。
API公開は「鯛を釣る」ための海老
めた場合には、そこでの競争も発生する
しかも、開発者がそれらの API を、自
分たちのサービスを利用する技術的な知
ことになる。
そこでどちらが勝者となるのかには、
重要なのは、開発者が満足し、使いた
くなる情報を配信し、しかもそこからリタ
ーンを得る方法を確立することだ。アフ
識のない人も利用できるような仕組みを
サービス自体の善し悪しなどの要因も絡
ィリエイトと連動する方法はすでに確立
作成することも多い。たとえば、ブログサ
んではくるが、APIのみに注目して言えば、
しているが、さらにうまい方法を見つけた
ービスの中には、アマゾンや楽天の商品
どれだけ開発者に受け入れられるかが重
者が、新しい勝者になると言えるだろう。
を簡単に貼り付けられるようにしている
要なキーポイントとなる。
ものも多くみられる。これらは裏側では
APIが利用されているが、利用者はそれ
たとえばグーグルのAdSenseは、ページ
の内容にマッチした広告を表示させるこ
開発者が使いたくなる情報を提供する
を意識することなく、自分のブログに商品
とで、
「ほかの広告は不快だが、AdSense
はそうでもない」という空気を生み出し、
情報を張り、アフィリエイトによって収入
開発者にとって、利用可能な API はい
を得ることができる。これにより、APIを
わば、アプリケーション開発という
「遊び」
大成功を収めた。こうした新しい共存共
栄の道を発見することが大切なのだ。
IAjapan Review
7
NEWS REPORT
ネットワークビジネスの苗床としての機能を果たす
オーバーレイネットワークの役割と今後の動向
東京大学大学院情報学環 准教授 中尾 彰宏
近年、コンピュータリソースの仮想化技
州のFP7など、新世代ネットワークの研
アイディアをビジネスへ展開する上で、パ
術が身近な存在になりつつある。仮想的
究開発の機運が世界で高まる中、新世
イロットサービスを従来のような小規模な
なハードウェアを利用し、ある OS 上にま
代ネットワークの仕組みをインターネッ
研究室レベルの検証に留めず、実際にユ
ったく違うOS を稼働できる。インターネ
ト上に構築されたオーバーレイネットワ
ーザーを獲得しながら大規模な実証実験
ットの世界でも、従来のネットワーク上に
ークを用いて研究する動きが盛んにな
により成熟させ、その検証結果をアイディ
ってきたこと。
アの創成プロセスへと還元する「イノベ
仮想的に自由なネットワークを構築し、新
しいインターネットの仕組みやサービスを
②Skype、BitTorrent、Akamaiなどのま
研究する動きが盛んになってきた。この
ったく新しいデータの流れをオーバー
イノベーションを産業社会へシームレスに
仮想化技術は、仮想ネットワークが従来
レイネットワークで実現する分散アプリ
展開できる基盤技術としての意味を持
ーションサイクル」を生み出した。つまり、
のネットワーク上にオーバーレイする
(覆
ケーションが台頭し、従来のインターネ
つ。また、このような実証実験環境を共
い被さる)
ことから、
「オーバーレイネット
ットが行うデータ転送よりも、効率の良
有することで、新規ネットワークビジネス
ワーク技術」として、数年前から米国を中
い新世代のネットワークサービスが実
の参入のコストも低減する。このように、
証されたつつあること。
オーバーレイテストベッドは、サービスの
心に注目を浴びている。
90年代の商用化以降、我々の社会生活、
③上記の 2 つの動向のために、世界規模
特にビジネスにおいて必要不可欠なシス
で実証実験を可能にする広域オーバー
テムとなったインターネットは、最近では、
レイネットワークテストベッドが研究者
創出と早期展開の基盤技術として社会的
意義を持つ。
たとえば、ウェブコンテンツをユーザー
「Ossified」
(硬化)
したと言われる。つま
レベルで利用可能になってきたこと。
に近いネットワークエッジでキャッシュし
り、我々があまりにもインターネットに依存
特に、広域オーバーレイテストベッドの
て共有し、データ転送を効率化する分散
した結果、大きな改良と共に混乱を起こ
構築は、ビジネス社会にも意識改革をも
ウェブキャッシュなどの技術は、Akamai
すかもしれない新技術の導入が困難にな
たらし、最近では、広域のネットワークビ
などの企業が世界規模で展開を行ってい
った。そんな中、考案された技術がオー
ジネスの新しい苗床になると考えられて
る。最近のAkamaiのビジネスレポートを
バーレイネットワークである。オーバーレ
いる。米国で先陣を切ったPlanetLabは
見る限り、彼らのビジネスは成功したと
イネットワークを用いてサービスを実現で
代表的な例であるが、その規模の大きさ
言えるが、すべての新規ネットワークビジ
きれば、既存のネットワークは変更しない
やリソース共有の利便性からネットワーク
ネスがこのように大きな初期投資コスト
ため、インターネットを壊してしまう心配
サービスの実証実験に非常に有用なシス
のもとで必ずしも成功するとは限らない。
がない。
テムとして評価されている。
しかし、PlanetLabなどのオーバーレイテ
発展の理由
インターネット上の広域オーバーレイテ
ストベッドを利用すれば、パイロットサー
ストベッドは、
「企業の研究所や大学の研
ビスを世界規模で、短期間に、安価にで
究室のテストベッドと異なり、大規模でか
き、そしてユーザーを獲得しながら運用
このような利点で注目されたオーバー
つ地理的に分散している」
「一般ユーザ
することでビジネスの可能性を事前評価
レイネットワーク技術は、近年、次の 3 つ
ーがインターネットから実験的なネットワ
できる。ウェブキャッシュだけではなく、
の大きな理由により急速に発展している。
ークサービスにアクセス可能である」とい
前人未踏のネットワークビジネスを始める
①米国のプロジェクトGENI や FIND、欧
う2 つの利点を持つ。これらは、革新的
ための敷居が非常に低くなる。
8
IAjapan Review
NEWS REPORT
日本でも、すでに米国で PlanetLab の
能になり、OpenDHT プロジェクトは、分
ため、その 1 つの経路で障害が起こった
立ち上げに関わった筆者の所属する東京
散ハッシュ方式で名前解決のオープンデ
り、大量のデータを送信する際には、可
大学や NICT、大阪大学などが中心とな
ータベースを提供し、検索キーとデータ
用性が低下したり効率が悪くなる原因と
り、PlanetLabや各国のオーバーレイテス
のペアを 150 台近くのサーバー上に分散
なる。また、近年世間を騒がせている
トベッドプロジェクトと国際協力を進めて
して格納し、耐障害性を向上する。
DDoS アタックやウイルスの問題など多く
いる。それと同時に、分散システムだけ
現在 PlanetLab で研究されている 600
ではなく、新世代ネットワークの要素技術
以上のプロジェクトは、従来のインターネ
のセキュリティの問題が存在することはよ
く知られている。
の研究開発および実証実験まで視野に入
ットが提供するデータ転送とは異なり、キ
今後、オーバーレイネットワークで可能
れた広域オーバーレイテストベッドCORE
ャッシュを利用したり複数経路を利用し
になるサービスは、このようなインターネ
の研究開発に取り組んでいる。
実用化されているプロジェクト
たりして、データ転送の高度化を実現す
ットの問題を解決することが期待されて
るものが多くあり、中には有用性が実証
いる。BitTorrent や Skype のように、オ
され、すでにビジネス化の話が進んでい
ーバーレイで実装されたネットワークサー
るものもある。
ビスがそのまま実用化される場合もあ
現在、各国の研究者が PlanetLab のよ
る。また、オーバーレイを用いて、新世代
うなオーバーレイテストベッドを用いて研
今後オーバーレイネットワークが実現する
のネットワークの仕組みを提案しその有
究し、インターネット上のユーザーが実際
サービス・技術
用性と安全性をデモンストレートした上
に利用しているネットワークサービスがす
で、インターネットを根本から変えていく
現在のインターネットは多くの問題が指
(Clean-Slate)アプローチもある。近未来
OpenProxy を利用して、Akamai のよう
摘されている。たとえば、可用性(いざイ
のインターネットにおけるオーバーレイネ
な CDN のアカデミック版を展開し、ウェ
ンターネットにアクセスしようとしたとき
ットワークの役割は、インターネットのリデ
ブのアクセスを効率化する CDN の研究
に、使える状態にある確率)の問題であ
ザイン、特に、データ転送の仕組みを見
に利用する。2003年6月からインターネッ
る。インターネット上におけるデータの通
直し、より安全で、高い可用性を持ち、デ
ト上のユーザーにサービスを開始し、開
信経路の可用性は98〜99%、ウェブサー
ィペンダブルで、効率の良いネットワーク
でに存在する。CoDeeN プロジェクトは、
始して 2 か月で 1日100 万リクエストを超
バーへのアクセスの可用性は 93 〜 99 %
はどうあるべきかを再考する機会を与え
え、現在も1 ノード 1日当たり数百万リク
と言われている。これは一見高い数字だ
ること、そして、新しいデータ転送法を利
エストに対するサービスを行っている。
が、他のディペンダブル基盤と比較すると、
用したネットワークビジネスの苗床として
CoBlitzプロジェクトは、大容量のファイル
電話の可用性は 99.999 %となっており、
の機能を果たすことである。オーバーレ
を 小 さな 単 位 に 区 切 って 、分 散 し た
真のディペンダブルサービスには至って
イネットワークを活用し、一つ一つのネッ
Proxy にキャッシュしながら複数経路で
いない。また、現在のインターネットには、
トワークサービスや仕組みを創出する研
ダウンロードを行うシステムを構築し、大
同じ場所にデータを届けるために複数の
究の積み重ねが、安全にそして安心して
容量ファイルの高速転送を可能にする。
まったく違う経路が存在するにもかかわ
使える真にディペンダブルな新世代ネット
CoBlitz を利用すれば、BitTorrent に比
らず、そのうちの1つの経路しか使用する
ワークの世界を拓いていくであろう。
べて 5 割以上のダウンロード高速化が可
ことができないという制約がある。この
IAjapan Review
9
NEWS REPORT
新スポンサードサーチへの移行で市場はさらに拡大
検索連動型広告の現状と今後の動向
株式会社ルグラン 代表取締役社長 泉 浩人
2007 年 1 月にアウンコンサルティングが
ある。したがって、日本の SEM(サーチエ
果測定→測定結果に基づく最適化のため
発表した推計によると、2006 年の検索連
ンジンマーケティング)における最大の関
の戦略立案→実施」というサイクルを継続
動型広告市場は、前年比56%と引き続き
心事は、ヤフーでの上位掲載を果たすた
的に実施することが肝要である。そこで
高い成長を記録した。コンテンツ連動型
めにオーバーチュアでの競争入札に勝つ
は、深夜まで広告管理を請け負うマンパ
広告と合わせた市場規模は誕生からわず
ことであったと言っても過言ではない。
ワーではなく、高い分析・提案能力を持
か4年で1,000億円を超えた(表参照)
。
これは電話帳広告市場(1,154 億円、
だが、新スポンサードサーチによって
そうした状況は大きく変わる。端的に言
つ代理店に評価が集まる。
また、あらかじめ合意した獲得コスト
2007 年 2 月電通調べ)にほぼ匹敵する規
えば、検索連動型広告を順位ではなく、
や費用対効果が実現できた場合に、代理
模であり、ラジオ広告(1,744 億円、同上)
費用対効果に基づいて管理する時代が始
店が成功報酬を受け取るという料金体系
も射程圏内に入ってきた。ちなみに電話
まろうとしている。つまり、広告主はクリ
も一般化している。この結果、総勢 40 〜
帳広告の誕生は今から76年前であること
ック単価を上げ下げして掲載順位をコン
50人程度の新興代理店が、検索連動型広
を考えると、検索連動型広告市場の驚異
トロールすることができなくなるため、支
告の扱いで一気に英国市場の首位に躍
的な成長スピードを改めて実感できよう。
払っているクリック単価が適正な水準に
り出るといった「下克上」も起きている。
あるかどうかは、かけたコストに見合う
日本の広告代理店も、今後は高度なコ
新スポンサードサーチで変わる日本の
効果が上がっているかどうかで判断する
ンサルティング能力を備えたスタッフの採
SEM
ほかなくなるのである。
用・育成や体制の整備が急務となろう。
広告代理店ビジネスの変容
伸び悩むコンテンツ連動型広告
米国に続き、日本でも 2007 年 4 月中旬
からオーバーチュアの「新スポンサードサ
ーチ」
(開発時のコードネームはパナマ)へ
こうした変化は、特に欧米に比べ、広
今後、検索連動型広告市場の伸び率は
の移行作業がはじまっているが、最大の
告効果の測定や数値評価に無頓着であ
徐々に鈍化する一方で、コンテンツ連動
ポイントは、広告掲載順位の決定ルール
った多くの日本の広告主に大きな意識変
型広告が SEM 市場成長の牽引力になる
が変わるという点である。今後は、クリッ
革を迫るものである。それと同時に、広
と見られている。確かに、検索連動型広
ク単価だけではなく、クリック率など複数
告代理店の役割にも大きな変化をもたら
告においては、検索の回数を超えて広告
の要素で決まる広告の「品質」
も掲載順位
す可能性がある。
を掲出することはできない。また、検索さ
新スポンサードサーチ後の世界におけ
れるすべての語句が広告の対象となるわ
る広告代理店の将来像を予測するには、
けではない。それに対し、コンテンツ連
告では、従来掲載順位の決定に、広告の
日本と同様に代理店のプレゼンスが高く、
動型広告では、ブログやSNSあるいは動
品質を重視する方式が採用されていた。
掲載順位の指定ができないアドワーズが
画配信サイトなどのコンテンツに関連した
の決定に大きな影響を与えるようになる。
周知の通り、グーグルのアドワーズ広
だが、日本の検索市場では、ヤフーがグー
主流となっている英国の SEM 事情が参
広告を配信できる。つまり、オーバーチ
グルを大きく引き離して50%以上のシェア
考になる。掲載順位の指定ができないア
ュアやグーグルなどの事業者にとっては、
を有しており、そのヤフーに検索連動型広
ドワーズにおいて、広告主を満足・納得
広告を掲載する「場所」や「機会」がほぼ
告を配信しているのがオーバーチュアで
させる広告効果を上げるためには、
「効
無限に存在することを意味する。
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IAjapan Review
NEWS REPORT
2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
検索連動型広告
598
888
1,177
1,428
1,640
1,890
コンテンツ連動型広告
80
159
338
548
811
1,092
モバイル検索連動型広告
5
21
46
96
141
189
26.8%
31.9%
36.0%
39.5%
42.6%
対インターネット広告費割合(%) 22.1%
(億円)
P4P広告市場規模とインターネット広告費に占める割合の推移
ところが、前出アウンコンサルティング
(億円)
1,200
の予測を仔細に見てみると、コンテンツ
連動型広告市場は、当初想定されたほど
2006年予測
2007年予測
1,000
には伸びていないことがわかる。たとえ
ば2007年の市場規模について、昨年の予
800
測では 556 億円とされていたが、今年は
338億円と実に40%も下方修正されてい
600
る
(図参照)
。
これには主に 2 つの原因が考えられ
400
る。第 1 に、オーバーチュアが提供する
「コンテンツマッチ」の配信ネットワークの
200
問題である。オーバーチュアでは、サー
ビス開始当初より、コンテンツ連動型広
告の配信先をMSNやミクシィなどの提携
サイトに限定している。このため、ブログ
0
2005年
2006年
2007年
下方修正されたコンテンツ連動型市場規模予測
2008年
2009年
2010年
出所 アウンコンサルティング
や個人サイトなどに広告を配信するグー
グルのアドセンスに比べて、オーバーチ
ュアの広告主に販売できるトラフィックの
錯誤はまだまだ続きそうである。
もある。特に Yahoo!ケータイにおけるモ
数は圧倒的に少なくなっている。
第 2 は、トラフィックの質に関する問題
モバイルSEMの「夜明け前」
バイル検索連動型広告の掲載について
は、ヤフーの新たな収益源として近い将
だ。グーグルが提供する「アドセンス」は
多くのブログやサイト運営者の新たな収
り、今後、事態が急速に進展する可能性
昨年はグーグルが auと提携する一方、
来実現する可能性は高いだろう。
益源として急速に普及している。だが、
ソフトバンク/ヤフー陣営はボーダフォン
また、携帯キャリアごとにキーワードに
一方で広告収入を狙ってコンテンツを寄
を買収し、PC 検索エンジンが相次いで
特別な識別子を含めることが必要という
せ集めただけのサイトや、広告のクリック
モバイル検索に本格進出を果たした。と
オーバーチュアの技術的なハードルにつ
誘引を主目的としたサイトなども増えてい
はいえ、モバイルSEMについては、検索
いても、ヤフーの技術とリソースによる解
る。グーグルでは、広告配信先に対する
ユーザーの動向や、検索キーワードに関
決が期待される。そうなれば、現在は広
審査を強化することで、広告主を満足さ
するデータの蓄積が不十分であり、さら
告代理店経由に限られているオーバーチ
せるトラフィックの質の確保に乗り出して
に重要なこととして、効果測定に関する
ュアのモバイル検索連動型広告の利用
いるが、一方で、ブログ運営者からは審
技術標準が未確立であるため、本格的な
が、グーグル同様、一般の広告主にも広
査の基準がわかりにくいといった不満の
普及はこれからという状況である。
く開放され、モバイル検索連動型広告市
声も上がっている。トラフィックの質を確
だが、先日発表された、ヤフーによる
保しながら配信先を拡大するための試行
オーバーチュア日本法人の子会社化によ
場の拡大が加速することは間違いない。
IAjapan Review
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