北岳バットレス 記:鈴木仁伸 日 程:2014 年 7 月 26 日~27 日 参 加 者 :L鈴木仁伸 明石秀太 石原 学 中道輝久 行動記録: 7 月 26 日 奈良田温泉 5:30-6:30 広河原~8:30 二俣~9:00 バットレス沢出合~ c沢出合~11:00dガリー大滝~dガリースラブ~12:15dガリールンゼ~ 横断バンド~12:50 第 4 尾根下部リッジ(5mクラック)~ 16:20 第 4 尾根テラス(ビバーク) 7 月 27 日 第 4 尾根テラス 5:30~6:25 ピラミッドフェース~6:45 白岩のフェースの頭 ~7:20 マッチ箱~マッチ箱のコル(懸垂)~7:50 枯木テラス手前 15m~ 8:20 城塞ハング下部~9:25 城塞ハング上部テラス~北岳稜線~10:40 北岳 山頂~11:30 北岳肩ノ小屋~13:00 二俣~14:25 広河原 ついにそのチャンスがきました。私が入会したころは岩登りをする人は加藤会 長しかいないため、ロープを本格的に使用する山行がありませんでした。ようや くロープを必要とする山行を行ったのは北鎌尾根でした。3 年前に 30 歳代の後 輩会員が、ロープワークを熟達するのを待ち、北鎌経験のない 4 人で北鎌尾根に 挑戦しました。今回もほぼその時のメンバーです。そのときのメンバー1 名が 26 歳の中道くんに代わりましたが、あこがれていたバットレスに今回も初挑戦の 4 名で臨むことになりました。 はたしてバットレス初挑戦の 4 名が、予定 2 日間 で登りきれるのか。撤退は絶対ありえないという気持ちで資料を研究しました。 1日で稜線まで突き上げ肩ノ小屋、または北岳山荘まで進む。それか第四尾根 取付点でビバークする。の 2 案しかなさそうでした。それしかないとなれば、こ の両方に備えての計画にすることにしました。 この日は記憶に残る日でした。芦安からの林道が崩落していたため、登山口は 奈良田か戸台となり、当然北岳を目指す登山者は奈良田に集中しました。私達が 奈良田に着いた午前 4 時 30 分前には、奈良田にある全ての駐車場が満車となっ ており、奈良田温泉より数百メートル下の路肩に駐車することになりました。 幾度か奈良田から入山したことがありますが、こんなことははじめてでした。 またこの日はとても暑く、ビバーク装備とはいいながら、登攀用具の多さから c沢出合まで行く間に、大汗をかいてしまいました。私が若者の歩くスピードに 付いていくのは、そろそろ限界の年齢になってきたように感じた日でした。 広河原を出発してからずっと北岳の上空は快晴でした。c沢出合まで雪渓の冷 気が気持ちよいらしく、アイゼンなしで若手 3 名は進みました。中道君はいつも にこにこして余裕たっぷり、楽しそうに歩いていました。私は笑顔も出ず、体力 の消耗を防ぐため、二俣から夏道を見つけて皆に並行して進みました。 ようやく辿りついたc沢出合で大休憩です。c沢の水量は多く、冷たくて美味 しかったです。dガリー大滝下までもう少しです。 ここからc沢とd沢の間の尾根を進みました。踏み跡は明瞭で、直線的にぐん ぐん高度を上げて行きます。ようやく灌木帯が終わりお花畑に出ました。一般登 山者がいないためミヤマハナシノブやグンナイフウロなど多くの花が咲いてい ました。大滝下には大きな雪渓が残っていましたが、問題なく辿りつくことがで きました。 私達が大滝下で休憩しているとき、下から1組のパーティが上がってきました。 私達はdガリー大滝が空いていたため、ためらわず大滝に取り付きました。 私と石原君で先行し、中道君と明石君が後発となりました。手足の短さが災い して私がもたもたしていると、後発の中道君は大滝左岸側のフェースを登って行 きます。私だったら滑ってしまうだろうフェースを、手足の長さ・体力ずば抜け ている中道君は少ない指掛りで上がってきました。 別パーティは、第五尾根支稜に取付いたようです。おかげで焦ることも無く、 自分たちのペースで楽しめます。2 ピッチ目は石原君、明石君がルンゼをリード し、横断バンドをコンテニュアスで通過しました。意外にこの横断バンドがガレ ていて、浮石が多く滑りやすいため慎重に通過しました。 第四尾根下部クラックのテラスで進むべきルートの再確認です。今日中に抜け 出てしまうためには、cガリーに向かい第四尾根取付に向かうか、第四尾根全て を満喫するのならクラックに取付くかです。 私は明日の天候悪化を懸念して、cガリーへ行く方向で皆の意見をまとめるつ もりでいましたが、若者 3 名は第四尾根全てを楽しみたい意見でした。これで本 日のビバーク決定!皆の持ち水量を確認し、節約すれば大丈夫と判断、また、明 日の下山時は天候気にせずと意見がまとまりました。 まず石原君そして私が、カムを使わずクラックに取付きますが登りきれません。 3 人目の明石くんがカムをセットして無事通過しました。自分たちの技量を確認 しながらの登攀のため、時間はかかりますが楽しみながら上を目指しました。 5 ピッチ目、カンテを登るか右の灌木帯を進むかルートを探り、石原君が灌木 帯にルートをとり、中道君はカンテ+リッジの難しいルートをあえて選択しまし た。一部ハング気味で立ち位置が難しい所でしたが突破できました。明石君と私 もそれに続きました。 6 ピッチ目のデコボコフェースも中道君のリードで取付点テラスに出ました。 既に時間は午後 4 時 20 分になっていました。5~6 メートルのクラックを目の前 にし、この広いテラスでビバークすることにしました。周囲に転落防止用にロー プを巡らし、思い思いにツエルトを出しました。 そこに下から 1 パーティが 上がってきました。普段フリークライミングをしているという 60 歳代の 2 名に 30 歳代のガイド 1 名の計 3 名でした。テラスを分け合い 7 名でのビバークとな りました。 明石君・中道君は寝袋の上にツエ ルトをカバーのように巻き付けて寝 ました。この寝方が保温には良いよ うでした。私と石原君はテント仕立 てで中に入りましたが、風のため保 温効果が少なく、寒さで何度も起き ることとなりました。真正面の鳳凰 三山は次第に漆黒に消えていきまし た。夜半に満天の星を見ました。 <取付でのビバーク> 明朝の晴れが約束されているようで、朝が待ち遠しく感じました。 4 時起床。朝はオレンジ色の地平線から始まりました。次第に周囲はモルゲン ロートに染まり温かささえ感じてきました。 ガイドパーティに先に行ってもらい、 今日も自分たちの力量を確認しながら 上を目指しました。今日は、石原君と明 石君、私と中道君が組みました。下部岸 壁でジャミングに慣れてきたため、出だ しからスムースです。核心と思っていた クラックも全員が手足を上手に決めて いきました。 2 ピッチ目をピラミッドフェース下 テラスまで、3 ピッチ目をピラミッドフ ェースを右に回り、爽快な白いスラブと 高度感あるリッジを行きました。 4 ピッチ目はスラブ状垂壁から始ま りましたが右上の隠れガバを取ると <ピラミッドフェースとクラック> 容易に突破できました。その後はマッチ箱への有名なナイフリッジを進み、青空 の下快適で気持ち良い登りです。楽しむ気持ちが出てきたところで、もうマッチ 箱に辿りついてしまいました。 5 ピッチ目、ここから懸垂約 10 メートル、着地点を見極めて懸垂しました。 時間節約のためロープ 1 本で 4 人とも懸垂しました。皆、表情が柔らかく楽しん でいるようでした。中道君、Vサインを出してポーズを取っています。 6 ピッチ目、先行した明石君がルンゼを進 み、枯れ木テラスまで行きましたがビレイポ イントとしては芳しくないと判断し、枯れ木 テラス 15 メートル下できりました。 資料の写真で何度も見てきた城塞が目の 前に見えてため息が出ました。残るのは 2 ピ ッチのみ。崩落した個所がいまいち理解出来 ていませんでしたが、はたしてどうなってい るのでしょうか。 7 ピッチ目、先行した明石君の姿勢がおも しろく見えます。枯れ木テラスまで直上し、 そこから左にトラバースしていますが、こち らにお尻を向けて左にカニ歩きをしています。 <マッチ箱> おかしな格好です。長い時間を待って自分の番がきました。 崩落で切れ落ちた場所で驚いたのは、トラバースするリッジがナイフのように 尖っているし、リッジの斜度が 45 度以上ありました。掴むのはこのナイフの先、 もげたら墜落です。これは恐怖心を抱きました。 8 ピッチ目、いよいよ最終ピッチの城塞です。ここも勇気ある明石君がトップ で行きました。カムを使ったA0 で攀じる。途中のチムニーでは体を片壁に押し 当てながら体を上げていきます。流石です。岩の技術では、私よりはるか上をい くと改めて思いました。 明石君に確保してもらい全員が城塞上のテラスに出ました。まだ天気は良く、 富士山も鳳凰三山も青空の下にあり、爽快感この上ありません。皆が今回のバッ トレス挑戦を満足して終えられました。 後ろには、素晴らしいお花畑と北岳の稜線が見えています。休憩後、記念写真 を撮り、お花畑の中を進み稜線を目指しました。しばらくすると次第に雲が湧き、 周囲の景色はあっという間に無くなりました。頂上直下で今回 2 つ目の目的であ る絶滅危惧種『タカネマンテマ』を観賞しました。北岳山頂に着くと、私達のう れし涙かポツンポツンと雨が降ってきました。
© Copyright 2024 Paperzz