2012.11.No.19 石綿関連肺癌の 1 手術例 現病歴及び入院経過: 70 歳代の 女性.5 年前に横隔膜上の胸膜プラーク (図 1,矢印)を指摘され,兵庫医科大学中皮腫センターにて経過を観 察されていた. 3 年前から胸部 CT 上に認めていた左 S6 の異常影が 1 年 余り前から徐々に増大変形し(図 2,矢印) ,FDG-PET でも同部位の異常 集積(SUVmax 5.62)を認めた(図 3,矢印).腫瘍マーカーの値に異常は 扁平上皮細胞 なく,石綿の曝露歴や居住歴に特記すべきものはない.喫煙歴 20 本/ 日×50 年. 図 図 1 合同カンファレンス:臨床経過と各種画像検査 3 年前の 1 月 同年 9 月 翌年 2 月 から臨床的には径 12mm の早期肺癌(cT1aN0M0 stage IA) であり,全麻による鏡視下の生検と 迅速診断及び良悪判明後の術式決定が妥当と結 論された.これを患者に説明したところ,同意 図 2 を得たので,2011 年の春,手術を実施した. 図 図 33 ☆ 図4 s 図5 手術及び経過:胸壁には多数のプラーク(図 4,☆印)を認めた. 腫瘤の迅速診断にて悪性の確診を得たので,予定通り胸腔鏡下左 下葉切除術+上縦隔リンパ節 Sampling を実施した.術後は順調に 経過し,10 日目に退院した.補助療法なしに経過を観察していた が,本年春,縦隔にリンパ節の腫張を認め,同時に腫瘍マーカー (シフラ 4.6,SCC 抗原 3.3)も上昇した.生検で再発を確診し, 化学療法を施行するも秋に永眠した. 病理組織学的検査(図5):悪性の扁平上皮細胞が気管支や動脈を 取り囲むように増殖し,それらの内腔が狭小化している.リンパ 節#11,#7,#9に転移を認めず,pT1aN0M0と診断した.尚,切除肺 の乾燥肺1gから15644本の石綿小体(図5,矢印)が観察された. 考察:本例では石綿に対する明瞭な職業歴や居住歴はなく,組織 学的な線維化像も認めていないが,プラークと石綿小体の存在 (5000本/1g以上)から石綿健康被害と認定された1).肺癌発生 の危険性は石綿肺で5倍,喫煙で10倍,両者を合併すれば50倍に なる,という報告もある2).術後病期が1期であっても約1∼2割の症例は5年以内に再発する. 石綿曝露との関係は不明であるが3),本例は残念ながらそのような1例となった.従来,石綿関 連肺癌とは石綿曝露に因って生じた線維化巣に発生すると考えられてきたが,これを伴わない 肺癌も報告されている.組織型では腺癌が最も多いが,扁平上皮癌の報告もあり一定しない. もう一つの救済制度,労災認定については別の機会に譲る.1)玄馬顕一ほか, 職業性石綿曝 露の臨床,肺癌,2009; 49: 58,2)Hammond. EC. Ann N Y Acad Sci, 1979; 330: 473,3)西 英行ほ か,アスベスト関連肺癌の検討,肺癌,2009;49:167
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