1 目的 この実験の目的は、直流他励電動機の速度制御、直流分巻発電機の駆動を通じて、直流機の原理 や諸特性を知ることである。 2 原理 直流機の電機子に発生する誘導起電力 E は、式 E = Ka Φωm (1) によって与えられる。ここで Ka は電機子定数、Φ は磁極 1 極あたりの磁束、ωm は電機子の角速 度である。 直流電動機 直流電動機の場合、E と電機子に加わる電圧 Va 及び電機子電流 Ia 、電機子回路抵抗 Ra との 間には、関係式 Va = E + Ra Ia (2) が成り立つ。式 (1)、(2) より、電動機の回転速度 n = ω/2π は、 n= 1 Va − Ra Ia 2πKa Φ (3) となる。これより、直流電動機の回転速度を制御するには Φ、Va 、Ra を変化させればよいことが わかる。この実験では、Φ を変化させる界磁制御法と Va を変化させる電圧制御法を行う。 直流発電機 一方、直流発電機では Va = E − Ra Ia が成り立つ。これと式 (1) より、電機子の両端に誘起される電圧の大きさは Va = 2πKa Φn − Ra Ia (4) となる。 直流他励発電機では、磁束 Φ を発生させるための界磁電流を外部から供給する方式の直流発電 機で、電機子の状態によらず Φ を制御することができる。無負荷特性の測定では Ia = 0 であるか ら Va = 2πKa Φn となり、端子電圧は Φ に比例する。しかし、鉄心のヒステリシス特性により Φ は界磁電流 If に比例せずに If が増加すると磁束は飽和するようになり、また If が増加する場合 と減少する場合とでは Φ の値が異なる。さらに If = 0 でも鉄心の残留磁気によって電機子には誘 導起電力が生じる。 直流分巻発電機は、発電した電流の一部を界磁電流として使用する直流発電機で、そのために他 励方式のものとは異なる特性を示す。 1 3 方法 実験装置は、図 1 のような回路になっていた。 直流電動機の速度制御 1. 発電機を無負荷として I = Ifg = 0 となるようにして、電動機を始動した。 2. Ram を調整して Va を一定に保ちつつ、Rfm を加減することで Ifm を変化させながら、電動 機の回転速度 n を調べた。(実験 1) 3. (2) を、Ifm を減少させる場合と増加させる場合とについて行った。 4. Rf m を調整して Ifm を定格値に保ちつつ、Ram を加減して Va を定格の 50%から 100%ま で変化させながら、電動機の回転速度 n を調べた。(実験 2) 直流発電機の無負荷特性 1. 発電機を他励方式、無負荷として、電動機により定格速度で駆動した。 2. Rfg を減少させながら、Ifg と E を調べた。 3. 続けて Rfg を増加させながら、Ifg と E を調べた。 4. 発電機を分巻方式にして、同様の測定を行った。(実験 3) 5. 発電機を他励方式に戻し、駆動速度を 1600rpm にして同様の測定を行った。(実験 4) 直流発電機の外部特性 1. 発電機を分巻方式にして、定格速度で駆動した。 2. 発電機に予め負荷をかけた状態で、定格電流で定格電圧が出力されるように界磁抵抗を調整 した。 3. 負荷を開放した状態から徐々に負荷をかけながら、負荷電流 I と端子電圧 V を調べること を、負荷電流が定格の 125%になるまで行った。 4. 続けて徐々に負荷を減らしていきながら、I と V を調べた。(実験 5) 5. 無負荷端子電圧が定格の 80%となるように界磁抵抗を調整してから、(3)、(4) と同様の測定 を行った。(実験 6) 6. 発電機を他励方式に変えて、(1) から (5) と同様の測定を行った。(実験 7) 直流発電機の電機子抵抗の測定 1. 発電機を界磁を切った状態で定格速度で駆動した。 2. 負荷の大きさを変えて、出力電流 I と端子電圧 V を調べた。(実験 8) 2 4 使用器具 • 直流機実験装置 SS-1.2D 直流電動機: 定格 1.5kW、1800rpm、100V、19A、4 極 直流発電機: 定格 1kW、1800rpm、100V、10A、4 極 図 1: 実験装置 5 結果 実験 1 から実験 8 までの測定結果は、それぞれ表 1 から表 10 のようになった。表 7 の電機子電 流 Iag は、式 Iag = I + If g より求めた。 Ifm を減少させる場合 Ifm を増加させる場合 Ifm /A Ifm /A n /rpm n /rpm 1.45 1500 0.95 1800 1.40 1.30 1500 1500 1.02 1.10 1700 1680 1.18 1.10 1.00 1600 1630 1700 1.20 1.31 1.45 1600 1550 1500 0.96 0.91 1750 1800 1.46 1500 表 1: 実験 1 の結果 6 考察 実験 1(表 1) より図 2 のようなグラフが得られる。回転数が界磁電流にほぼ反比例して変化して いると思われる。式 (3) より、n は Φ に反比例しているが、Φ は界磁電流 Ifm によるので、回転 3 Va /V n /rpm Va /V n /rpm Va /V n /rpm 48 53 59 810 900 1000 70 78 80 1200 1350 1400 91 95 102 1600 1650 1750 65 1100 84 1480 表 2: 実験 2 の結果 Ifg を増加させる場合 Ifg を減少させる場合 Ifg /A Ifg /A E /V E /V 0.64 0.66 0.69 85 86 88 0.79 0.76 0.72 98 96 94 0.70 0.73 0.78 90 93 96 0.70 0.68 0.66 92 88 87 0.81 99 Ifg を増加させる場合 Ifg を減少させる場合 Ifg /A Ifg /A E /V E /V 0.16 23 0.87 98 0.29 0.40 0.50 37 50 62 0.84 0.80 0.77 97 95 92 0.64 0.72 0.79 77 85 92 0.70 0.67 0.62 87 83 79 0.85 0.90 96 100 0.55 0.47 72 62 0.33 0.25 0.20 45 35 30 0.18 0.16 26 24 表 3: 実験 3 の結果 (他励方式) 表 4: 実験 3 の結果 (自励方式) Ifg を増加させる場合 Ifg を減少させる場合 Ifg /A Ifg /A E /V E /V 0.66 0.70 74 77 1.01 0.97 99 97 0.75 0.82 0.86 81 86 89 0.91 0.86 0.82 95 92 89 0.90 0.95 1.01 92 95 98 0.76 0.70 0.66 85 80 76 1.07 102 表 5: 実験 4 の結果 (他励方式、回転数 1600rpm) 4 負荷を増やす場合 負荷を減らす場合 I /A I /A V /V V /V Iag /A V /V I /A Ifg /A 80 68 0.0 2.5 0.68 0.58 0.0 134 12.2 96 0.68 3.08 3.4 9.1 126 105 11.7 11.2 98 100 4.62 5.02 51 26 4.2 4.8 0.42 0.22 9.6 10.3 10.8 105 105 103 10.8 10.3 9.8 102 104 105 5.00 4.98 4.95 22 19 16 4.8 4.8 4.8 0.20 0.18 0.15 11.3 11.8 102 100 9.2 6.5 108 118 4.92 4.91 14 12 4.8 4.8 0.12 0.11 12.2 12.6 96 95 3.4 0.0 129 140 4.90 4.52 10 0 4.8 4.5 0.10 0.02 表 7: 実験 6 の結果 表 6: 実験 5 の結果 負荷を増やす場合 負荷を減らす場合 I /A I /A V /V V /V 0.0 125 11.7 98 3.3 6.2 9.0 118 110 105 11.2 10.6 10.1 99 100 101 9.5 10.1 103 102 9.6 9.1 102 104 10.5 11.1 11.7 100 99 98 6.2 3.2 0.0 110 118 125 12.3 96 Iag /A V /V 0.0 82 2.5 5.0 7.2 76 72 68 表 9: 実験 7 の結果 2 表 8: 実験 7 の結果 1 5 Iag /A V /V 3.0 6.0 0.3 4.8 8.8 7.5 8.8 7.0 4.5 2.9 表 10: 実験 8 の結果 数が界磁電流の関数であることは明らかで、芯材の透磁率を µ とすれば、Φ ∝ µIfm である。そこ で、この比例定数を A とおくと、式 (3) は n= 1 1 Va − Ra Ia 2πAKa µ Ifm (5) となり、Ifm の含まれた式になる。しかし鉄心の場合 µ は定数ではなく、これも Ifg によって変化 するので厳密には反比例していない。 実験 2(表 2) より図 3 のようなグラフが得られる。回転数は電機子電圧に比例しているように見 える。これも式 (5) を見れば、実際 n は Va に比例していることがわかる。 実験 3、4(表 3、4、5) より図 4 のような無負荷特性が得られる。回転数が同じ他励発電機と分 巻発電機とでは、特性に差異はあまり見られない。回転数を下げると端子電圧は下がるが、このこ とは式 (4) で説明される。 実験 5、6(表 6、7) より図 5 のような外部特性曲線が得られる。実験 5 で行ったような定格付近 での運転では分巻発電機は定電圧源に近い特性を示すが、実験 6 のような過負荷状態では負荷電 流は最大値をもち、それに近づくにつれ急速に端子電圧が降下する現象が起きている。これは負荷 電流が大きくなることで、電機子内部の電圧降下も大きくなる。本来ならば、界磁電流の増加によ る Φ の増加がさらに界磁電流を増加させる方向にはたらくというサイクルがあるが、電圧降下が 大きくなりそのサイクルを一旦妨げてしまうと、界磁電流の減少が Φ を通してさらなる界磁電流 の減少につながってしまう。その結果、発電機の端子電圧は降下し、負荷電流を小さくしても電圧 の低下を止められなくなってしまう。 実験 7(表 8、9) より図 6 のような外部特性曲線が得られる。他励発電機の場合は分巻発電機と 異なり界磁電流が一定に保たれるので、負荷が大きい状態でも実験 6 のような結果にはならず、電 圧源として良好な特性を示している。 実験 8(表 10) より図 7 のようなグラフが得られた。このグラフの傾きから電機子回路抵抗 Ra を 求めることができる。最小 2 乗法を用いて直線を引くとその傾きは 1.4458 なので、Ra はおよそ 1.5Ω である。また、切片は-3.857 であり、これは鉄心の残留磁気による誘導起電力によるもので、 その大きさはおよそ 3.9V であることがわかる。 6 2000 1600 1800 1400 1200 1000 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 0.2 0 図 2: 界磁制御法による速度制御の結果 2000 1000 1500 500 0 60 80 100 40 20 0 図 3: 電圧制御法による速度制御の結果 7 120 140 2 2 4 6 8 8 10 図 5: 直流分巻発電機の外部特性 12 0.6 0.4 140 0.2 0 0 120 100 80 60 40 20 0 0.8 1 図 4: 直流発電機の無負荷特性 120 100 80 60 40 20 0 14 140 120 100 80 60 40 20 0 4 6 8 10 12 14 2 0 図 6: 直流他励発電機の外部特性 10 8 6 4 2 0 -2 -4 4 6 2 0 図 7: 直流発電機の電機子回路抵抗 9 8 10 問題 1 直流機において、次の関係式が成り立つ。 E = Ka Φωm = 2πKa Φ Va = E + Ra Ia N p N = zΦ 60 a 60 この 2 式より、回転数 N は次の式で表される。 N= 60E 60 Va − Ra Ia = 2πKa Φ 2πKa Φ ここで Ra ¿ Ram とすると、Ra + Ram ' Ram だから、 Va − Ra Ia = V − (Ra + Ram )Ia ' V − Ram Ia = Va である。よって、 N' 60 Va 2πKa Φ となる。ここで、磁束 Φ は磁束密度と面積の積であり、磁束密度は磁界と透磁率 µ の積である。 そして磁界は電流 Ifm に比例するから、結局 Φ は µ と Ifm の積に比例する。この比例定数を A とおくと、 Φ = AµIfm であるから、 N' 60 1 Va 2πAKa µ Ifm となり、N と Ifm の関係が得られる。この式から N は Ifm に反比例していることがわかる。ただ し、Ifm が大きくなって鉄心中の磁束が飽和する領域では µ が小さくなるので、グラフは図 8 の ようになる。 問題 2 問題 1 で導き出した関係式 N' 60 1 Va 2πAKa µ Ifm より、N は Va に比例していることがわかる。よって、If m をパラメータとして N と Va の関係 をグラフにすると、図 9 のようになる。 10 図 8: 問題 1 図 9: 問題 2 11 問題 3 電機子巻線と界磁巻線との相互インダクタンスを M とすると、 M if = Z Φ 2πa であるから、 Φ= 2πaM pM if = if Z Ka である。これを式 E = Ka Φωm に代入すると、 E pM if ωm Ka N 2πpM if 60 = Ka = となる。この式から考えられる誘導機電力を大きくする方法は、 • 極対数 p を増やす • 相互インダクタンス M を増やす • 回転数 N を増やす • 界磁電流 Ifg を増やす である。このうち、相互インダクタンス M を増やすためには、巻線の巻数を増やす、芯材に透磁 率の高い鉄心を用いて、なおかつ磁束の通る場所をできるだけ鉄で埋める、などの方法がある。 問題 4 Ifg は磁界 H に、E は磁束密度 B に比例するので、無負荷特性の曲線は芯材の B-H 曲 線を表している。 すなわち、 E = 2πpM N Ifg 60 であり、一見 E は Ifg に比例するように見えるが、相互インダクタンス M は鉄心の透磁率 µ に 比例するので、Ifg が大きくなり鉄心を通る磁束が増えると、磁束は飽和し µ は小さくなる。よっ てそれにともなって E も飽和する。 また、鉄心のヒステリシス特性によって無負荷特性は Ifg が増加するときと減少するときとで は、通る経路が異なる。さらに Ifg = 0 でも、鉄心の残留磁気により誘導起電力が生じる。 問題 5 まず、電機子回路抵抗による電圧降下で、Ra Ia だけ端子電圧は下がる。これは熱となっ て消費される損失であり、いわゆる銅損である。これにより、端子電圧は出力電流に比例して直線 的に減少する。 それに加えて電機子反作用による電圧降下が発生する。これは Ia が大きくなると、それによっ て電機子のコイルに発生する磁界が界磁を打ち消す作用を持つために、誘導起電力が減少してしま うという現象である。 そして分巻発電機では界磁電流は端子電圧でまかなわれているので、これらの作用による端子電 圧の減少がさらなる誘導起電力の減少を引き起こすことになる。そのため、分巻発電機を過負荷状 態で運転すると、実験 6 のように急激に出力が落ちてしまう。逆に端子電圧を上昇させることがで きれば、界磁電流が増加し、さらに誘導起電力は増加する。 12
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