7月24日 - 乳癌基礎研究会

25 乳癌基礎研究会
第25回
会 期:2016年7月23日(土)〜7月24日(日)
会 場:市立奈良病院(奈良県奈良市)
プログラム・抄録集
当番世話人
今井 俊介(市立奈良病院)
ご挨拶
この度は奈良での「第 25 回乳癌基礎研究会」にご参加を賜り、誠にありがとうございま
す。
乳癌基礎研究会は 1990 年に初めて開始されましたが、その目的は日本の乳癌研究を国際
的に高めることでありました。我が国ではそれまで乳癌に関しては日本乳癌研究会(1992
年から日本乳癌学会)が毎年開催されていましたが、臨床、基礎研究者が一緒になった総
括的な学会ではありませんでした。「第 1 回乳癌基礎研究会」は奈良で開催され、その後、
国際乳癌研究学会開催年と東日本大震災による休会を除き、毎年一回、基礎研究者と臨床
家との貴重な研究情報交換の場として、途切れることもなく現在にまで至っており、今年
は第 25 回目という記念すべき節目の年を迎えたことは誠に感慨深いものがあります。
今回、発足時のメンバーでもある、大内憲明教授(東北大)及び螺良愛郎教授(関西医
大)にそれぞれ、特別講演をお願いいたしました。大内憲明教授は昨年マンモグラフィに
超音波を加える大規模ランダム化比較試験で、早期乳癌の発見率が約 1.5 倍高まるなどの
成果を世界で初めて報告されました。又、螺良愛郎教授は近年増加傾向にある乳癌を抑制
する種々の要因及びその機序解明について、病理学者の立場から述べていただけることに
なっています。
奈良は自然に恵まれ、特に東大寺、春日大社、法隆寺等の世界遺産を始め、多くの鹿に
出会える奈良公園を有する日本国発祥の国際観光文化都市であります。研究会終了後には
是非この古都を散策していただければ幸いです。
平成 28 年 7 月 23 日
第 25 回乳癌基礎研究会
世話人
市立奈良病院
今井俊介
1
第 25 回乳癌基礎研究会
(概要)
会期:平成 28 年 7 月 23 日(土)、24 日(日)
場所:市立奈良病院(会議室第 5,6)〒630-8305 奈良市東紀寺町一丁目 50-1
当番世話人:今井
俊介(市立奈良病院・常勤顧問)
(プログラム)
第 1 日目
7 月 23 日(土)
12:00~ 受付開始(会議室第 5,6 前)
13:00~ 開会挨拶
当番世話人
今井俊介
市立奈良病院
西尾博至管理者
13:10~ 研究討議
13:10~13:40
一般演題 1
座長:圦貴司(関西医科大学)
1. 初代マウス乳腺間質細胞の増殖および脂肪細胞分化能に及ぼすAMPK活性化因子および
ビタミンC誘導体の影響
茨城大学農学部
金澤卓弥
2. 母乳中CCL25は新生児の成長及び免疫機能の発達を促進する
静岡大学・学術院・農学専攻
茶山和敏
3. テネイシン C はマウス乳癌の原発巣成長を促進し、CXCL ケモカイン発現を変化させる
東京大学大学院農学生命科学研究科・獣医外科学
13:40~14:20
佐伯亘平
一般演題 2
座長:日下部守昭(東京大学)
4. 放射線被ばく後の妊娠・出産経験によるラット乳がんリスク変化とそのサブタイプの関
係
量子科学技術研究開発機構・放射線医学総合研究所
高畠
賢
5.多様な誘発方法でのラット乳がんを用いた免疫染色によるサブタイピング法の検討
量子科学技術研究開発機構・放射線医学総合研究所
西村由紀子
6. 遺伝子発現マイクロアレイによるラット乳がんの分類の試み
量子科学技術研究開発機構・放射線医学総合研究所
2
今岡達彦
7. 乳腺微小環境への影響を通した放射線誘発乳がん研究
広島大学原爆放射線医科学研究所分子発がん制御研究
14:20~15:00
飯塚大輔
一般演題 3
座長:柴田雅朗(大阪保健医療大学)
8. ヘッジホッグシグナル伝達阻害薬 GANT61 及び抗エストロゲン薬のホルモン感受性乳癌
細胞に対する抗腫瘍効果及び癌幹細胞制御作用
川崎医科大学
乳腺甲状腺外科
紅林淳一
9.ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤 GANT61 はトリプルネガティブ乳癌の癌幹細胞比率を
劇的に低下する
川崎医科大学
乳腺甲状腺外科
小池良和
10. Triple negative 乳癌における新規治療標的候補 CASP14 発現の臨床的意義
群馬大学大学院
病理診断学
半田正
11. トリプルネガティブ乳癌における乳酸代謝の新規標的としての可能性
東北大学医学系研究科
15:00~15:10
腫瘍外科
原田成美
コーヒーブレーク
15:10~16:10
特別講演 1
座長:今井俊介(市立奈良病院)
「乳癌基礎研究会が与えた挑戦:器官病理に基づく手術、ナノ・バイオ、J-START」
東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座腫瘍外科学
16:20~16:50
大内憲明
会長講演
座長:螺良愛郎(関西医科大学)
「私の蘭学事始」
市立奈良病院・常勤顧問
16:50~17:20
今井俊介
一般演題 4
座長:紅林淳一(川崎医科大学)
12. 高齢者進行・再発乳癌患者に対するエストロゲン療法の有効性
北福島医療センター
乳腺疾患センター
13. Trastuzumab 耐性へのホスホリパーゼ D(PLD)の影響
君島伊造
-乳がんモデル細胞を用いて
-
西脇市立西脇病院/昭和大学病院 乳腺外科
三輪教子
14. aromatase 阻 害 薬 耐 性 機 構 と し て の steroid sulfatase お よ び organic anion
transporter peptide の原発乳癌組織における検討
群馬大学医学部付属病院 乳腺・内分泌外科
3
樋口
徹
17:20~
17:40
アナウンスメント
病院前からバスで宿舎「平城」に移動
18:15~18:30
評議委員会(5 階
右京の間)
評議員の先生方はお集まりください。
19:30~21:30
懇親会(4 階
平城の間)
第2日目
8:15~
7 月 24 日(日)
バスで市立奈良病院会議室へ
8:30~9:00
一般演題 5
座長:螺良愛郎(関西医科大学)
15. マンゴスチン果皮成分のα-Mangostin に中鎖脂肪酸を付加した合成α-Mangostin ドデ
カン酸ジエステルのマウス乳癌転移の抑制作用
大阪保健医療大学大学院・解剖学病理組織学
柴田雅朗
16. S100A14・A16 は癌の浸潤・転移を促進し、乳癌の不良な予後と相関する
静岡がんセンター病理診断学
杉野
隆
17. 乳腺発癌を予防する海洋性キサントフィルの探索研究
関西医科大学
9:00~9:20
病理学第二講座
圦貴司
一般演題 6
座長:武田泰隆(結核予防会複十字病院)
18. 乳癌における造影超音波検査とパラメトリックイメージ
三重大学医学部付属病院
乳腺外科
野呂
綾
19. 乳房内再発時の再 SNB に SPECT-CT が有用であった 1 例
日本医科大学付属病院
9:20~9:50
乳腺外科
柳原恵子
一般演題 7
座長:堀口淳(群馬大学)
20. Eprobe を用いた乳癌における PIK3CA 変異検出系の構築
群馬大学医学部付属病院
乳腺・内分泌外科
尾林紗弥香
21. ER 陽性乳癌における HER family の mRNA とタンパクの発現状況に関する比較検討
群馬大学医学部付属病院
22.
18
乳腺・内分泌外科
黒住
献
F-FDG PET/CT の SUVmax 値からみた ER および HER2 の生物学的意義
(公財)結核予防会複十字病院・乳腺センター 乳腺科
9:50~10:20
一般演題 8
座長:杉野隆(静岡がんセンター)
4
武田泰隆
23. 半自動カウントソフトウエア Count
Cell を用いた乳癌症例に対する MIB1 Labeling
Rate 算出の実際と問題点-目視によるカウント結果との比較を含めて-
ブレストピア宮崎病院
乳腺外科
駒木幹正
24. 乳腺粘液癌 101 例の臨床病理学的特徴に関する検討
埼玉県立がんセンター乳腺外科
小松
恵
25. 当科における浸潤性小葉癌 61 例の検討
群馬大学医学部付属病院
乳腺・内分泌外科
時庭英彰
病理学第二講座
螺良愛郎
10:20~10:30 コーヒブレイク
特別講演 2
10:30~11:30
座長:小山徹也(群馬大学)
「乳腺の癌化と乳癌の制御-乳癌の基礎研究」
関西医科大学
11:40
閉会挨拶
堀口
淳(群馬大学)
12:00 奈良市内バスツアー(病院前)
(実施要綱)
1. 一般演題は発表 7 分、討論3分です。
2. 使用プロジェクターは一台です。USB か CD-R にてご持参下さい。
データーは Windows(PowerPoint10 以降)で、Mac の場合、アニメーションや動画の場合
は、動作保証がありませんので、PC の持参をお願いいたします。データーの受付は、2
階会場前です。
3. 参加費用は、宿泊代、懇親会費含めて 2 万円です。研究会のみの参加は 6000 円(研究会
会費 3000 円、参加費 3000 円)となり、研究会と懇親会のご参加は 12000 円となります。
当日受付にて現金でお支払下さい。
4. 宿泊会場:平城
〒630-8202 奈良市上川町 728
TEL/FAX:0742-23-5255 Home Page: http//www.heijo.co.jp
5. 不明な点は事務局までご連絡下さい。
〒630-8305 奈良市東紀寺町一丁目 50 番 1 号
市立奈良病院内
第 25 回乳癌基礎研究会事務局
今井俊介
TEL:0742-24-1252, FAX:0742-22-2478
E-mail:[email protected]
6. 研究会中の緊急連絡先
携帯電話
090-2111-5493 (事務局 今井俊介)
5
6
抄録集
特別講演
特別講演 1
乳癌基礎研究会が与えた挑戦:器官病理に基づく手術、ナノ・バイオ、J-START
演者:大内憲明
所属:東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座腫瘍外科学分野
乳癌基礎研究会は 1990 年に開始されたが、
その目的は日本の乳がん研究を国際的に高めることで
あった。1980 年代までの日本は、乳がんに係る医師・研究者はマイナーとされたが、国際的にみ
れ ば 乳癌 は が ん 研 究 の メ ジ ャ ー であ った 。 1987 年 に米 国 NIH から 帰 国 し て間 もな く 、
International Association for Breast Cancer Research (IABCR)事務局から日本での開催を打
診され、最初にご相談したのが、東大の松沢昭雄先生、奈良医大の今井俊介先生、関西医大の螺
良愛郎先生、理研の坂倉照好先生、京大の田中春高先生らであった。かくして 1994 年に第 20 回
IABCR を仙台市にて開催させて頂いたが、本研究会はその後も途絶えることなく、今回、記念す
べき第 25 回を迎えたことは誠に感慨深く、
常に中心的に活動されてきた今井先生に深甚なる謝意
を表したい。
発足時の中心的メンバーでありながら、最近は多忙な公務に追われ、研究会に中々参加できなか
ったことを残念に思っていたところ、今井代表からのご要望もあり、今回馳せ参じることとなっ
た。
講演では、この 25 年余を振り返りながら、己の研究活動の一端をご紹介し、今後の乳癌研究の方
向性について議論を深めたい。以下は、その要点である。
1) 乳癌の発生と進展に関する器官病理と乳房温存手術の開発
2) 免疫組織化学法(IHC)の開発:DAB IHC からナノ IHC・ナノ病理へ
3) 大規模ランダム化比較試験(J-START)
1)については、過去の本研究会でも報告しているが、病理学的基礎となった区域解剖学とその
後の臨床展開について述べる。
2)では、近年、分子標的薬(抗体薬)の発展により、標的蛋白質の発現量を高精度に診断し、
薬剤奏効性を的確に予測するニーズが高まっていることから、蛍光色素を高充填化したナノ粒子
を作製した。従来の非定量的な DAB 染色法を蛍光ナノ粒子に置換した、定量可能な【ナノ病理】
の技術開発を紹介する。
3)は、長らく日本では不可能とされてきた大規模ランダム化比較試験(RCT)「超音波検査による
乳がん検診の有効性を検証する比較試験」
について、研究の背景とリサーチデザイン作成の要点、
結果の概要と今後の展望について述べたい。
参考文献
1) Management of ductal carcinoma in situ with nipple discharge: intraductal spreading of carcinoma is
unfavorable pathologic factor for breast conserving surgery. Cancer 74(4): 1294-1302, 1994.
2) In vivo real-time tracking of single quantum dots conjugated with monoclonal anti-HER2 antibody in
tumors of mice. Cancer Res, 67 (3): 1138-1144, 2007
3) Predictive diagnosis of the risk of breast cancer recurrence after surgery by single-particle quantum
dot imaging. Scientific Reports, 5: 14322, DOI: 10.1038/srep14322, 2015.
4) Sensitivity and specificity of mammography and ultrasonography to screen for breast cancer in the
Japan strategic anti-cancer randomised trial (J-START): a randomised controlled trial. Lancet, 387:
341-348. 2016
7
8
特別講演 2
乳腺の癌化と乳癌の制御―乳癌の基礎研究
螺良愛郎
関西医科大学
病理学第二講座
Mammary gland carcinogenesis and breast cancer control—Basic
investigation of breast carcinoma
Airo Tsubura
Department of Pathology II, Kansai Medical University
乳腺は雌の哺乳類では乳汁を産生し仔を育生する授乳器官である。乳腺の数と
局在は種属により異なる。ヒトでは胸部に一対の乳腺を有するが、稀に異所性
乳腺が胎生期に存在する乳腺堤上にみられ、乳腺堤外にも迷入乳腺組織は分離
腫や奇形腫としてみることがある。乳腺組織が存在すればいずれの場所からも
乳 腺 腫 瘍 を 生 じ る 可 能 性 が あ る 。ヒ ト で は 乳 癌 の 頻 度 は 近 年 増 加 傾 向 に あ る が 、
社会環境因子として若年での満期産、生活環境因子として水産脂質とともに野
菜や果物に含まれる化学物質の摂取が乳癌リスクを下げることが知られている。
これら乳癌抑制因子の同定とその機序解明は乳癌の制御にとって必須である。
以上の諸点につき我々の観察を基に論じたい。
Mammary glands in female mammals produce milk to feed their offspring. The
number and position of mammary glands varies in different mammals. Humans
possess one pair of mammary glands in the thoracic region. Rarely, ectopic
breast tissue is found along the embryonic milk ridge, and aberrant breast
tissue can be found outside the mammary ridge as a choristoma or teratoma.
Mammary
glands,
located
throughout
the
body,
have
a
high
risk
of
transforming and developing into neoplasms. Although the frequency of
human mammary gland transformation and development into breast cancer is
increasing, there are social factors such as early full-term pregnancy and
environmental factors such as ingestion of marine oils and natural food
chemicals in vegetables and fruits that are protective against breast
cancer risk. The identification of protective factors and recognition of
tumor suppressive mechanisms are necessary for breast cancer control.
9
10
会長講演
私の蘭学事始
市立奈良病院
今井俊介
「蘭学事始」とは 1815 年、83 歳の杉田玄白が蘭学草創の当時を回想して記し、大槻玄沢
に送った手記である。 蘭方医学の発祥や青木昆陽等によるオランダ研究などを記述するが、
特に白眉はオランダ医学書「ターヘル・アナトミア」を翻訳する苦心談である。1771 年 3
月 4 日、前野良沢、杉田玄白らは小塚原の刑場で刑死者の腑分け(解剖)を見学し、「ターヘ
ル・アナトミア」のイラストが極めて精確なことに一同感銘して、オランダ医学のレベル
の高さに驚き翻訳を決意する内容である。
私が昭和 48 年に入局した奈良医大第二病理学教室(螺良義彦教授)では教授自らが何十
年にもかけて樹立した乳癌高発系マウスの DD/Tbr を用いての乳癌研究が中心であった。特
に昭和 40 年代に文部省(現文科省)
「がん特別研究」発足に伴う癌ウイルス研究班(MMTV)
の班長として、我が国において癌研究でも主導的役割を果たしている教室であった。しか
し、当時乳癌を引き起こすマウス乳癌ウイルス(MMTV)の検出には電子顕微鏡による観察
や、胎児マウスへの接種後乳癌の発生まで約 8 か月もの潜伏期間を有するバイオアッセイ
法しかなく、結果を得るまでには大いに時間がかかった訳である。昭和 50 年螺良教授が主
催された国際乳癌学会に出席したオランダ癌研究所のヒルガーズ博士の援助もあり、昭和
52 年オランダ政府奨学生としてオランダ癌研究所へ留学することになった。研究を始めて
早々、従来数ヶ月もかかっていた MMTV の検出が僅か一日で出来るという驚くべき技法に
は、大いにインパクトを受けた次第である。すでにオランダではマウス乳癌ウイルスの精
製がなされ、それに対する抗体精製がすでに行われていたのである。このことは私にとっ
て、大きなショックであり驚きではあったが、この新しい技術の習得により、その後の研
究は飛躍的な進展を遂げた次第である。本日は世話人としての立場で、講演時間を設けさ
せていただき、マウス乳癌ウイルス(MMTV)の感染経路を中心に、その全体像を総括する。
11
12
抄録集
一般演題
(1)
初代マウス乳腺間質細胞の増殖および脂肪細胞分化能に及ぼすAMPK活性化因子およ
びビタミンC誘導体の影響
演者:金澤卓弥 1
共同演者:藤又賢司 1 、梅田崇伸 1
所属: 1 茨城大学農学部
【目的】自家乳腺間質細胞を乳房再建に利用するためには、脂肪細胞分化能を維持
したまま増殖させる培養法の開発が必要である。本研究では、AMP活性化タンパク質
キナーゼ(AMPK)活性化因子およびビタミンC誘導体の細胞増殖への効果、ならびに因
子添加増殖培養後の脂肪細胞分化誘導性について検討した。【方法】 退役
C57BL/6NCrSlc雌マウスの乳腺から分離した初代乳腺間質細胞をまず、低密度で播い
てAMPK活性化因子またはビタミンC誘導体の細胞増殖に及ぼす効果を調べた。また、
細胞を高密度で播き、インスリン(Ins)、デキサメタゾン(Dex)およびインドメ
タシン(Ind)を添加した培養液を加えて培養し、オイルレッドO染色脂肪細胞の数
を計測した。
【結果および考察】AMPK活性化因子は濃度依存的に細胞増殖を抑制し、
ビタミンC誘導体は濃度依存的に細胞増殖を促進した。増殖培養した細胞をIns+Dex
+Ind添加培養液で培養したところ、増殖培養中のAMPK活性化因子またはビタミン誘
導体の有無にかかわらず同様に脂肪細胞分化が認められた。これらの結果から、AMPK
活性化因子は可逆的に乳腺間質脂肪前駆細胞の脂肪細胞分化を抑制すること、およ
びビタミンC誘導体との同時添加により脂肪細胞分化能を維持したまま細胞増殖を
誘導できることが示唆された。
13
(2)
母 乳 中 CCL25は 新 生 児 の 成 長 及 び 免 疫 機 能 の 発 達 を 促 進 す る
演 者 : 茶 山 和 敏 1,2
共 同 演 者 : ユ ウ シ ュ ウ ゲ ツ 2、 玉 城 梨 々 子 2、 彦 坂 英 佑 2、 田 村 圭 浩 3
所 属 : 静 岡 大 学 ・ 学 術 院 ・ 農 学 専 攻 1、 総 合 科 学 技 術 研 究 科 ・ 農 学 専 攻 2、 静 岡
済生会病院・産婦人科3
【目的】
母乳は、哺乳類の新生児の栄養供給源であるとともに、免疫機能が
未 熟 な 新 生 児 を 母 親 由 来 の IgA、IgG、ラ ク ト ア ル ブ ミ ン 、ラ ク ト フ ェ リ ン な ど
の 免 疫 タ ン パ ク 質 に よ っ て 保 護 し て い る 。最 近 、 サ イ ト カ イ ン 類 、ケ モ カ イ ン
類の微量免疫タンパク質が母乳中に含まれていることが判明しているが、それ
らの新生児の生理学的機能に対する役割はまったく検討されていない。
一 方 、 人 工 乳 (粉 ミ ル ク )に は 、 分 泌 型 IgA やケモカインなどの低分子量タンパク
が ほ と ん ど 含 ま れ て お ら ず 、 人工乳で哺 育 さ れ た 哺 乳 動 物 の 新 生 児 の 成 長 や 各
種臓器、免疫系組織などは、母乳哺育された新生児よりもその発達が遅くなる
ことが判明している。
多 く の ケ モ カ イ ン の う ち 、 CCL25 (Thymus-Expressed Chemokine ; TECK)は 胸 腺
および小腸で発現しており、胸腺での免疫細胞の分化や選別、腸管免疫などに
深 く 関 与 し て い る こ と が 知 ら れ て い る 。 し か し な が ら 、 母 乳 中 の CCL25 の 存 在
についてはいまだ報告がない。
そ こ で 、 本 研 究 で は 、 母 乳 中 に 含 ま れ る CCL25 の 有 無 と 新 生 児 の 腸 管 発 達 や 免
疫機能への役割を解明することを目的として、マウスおよびヒト母乳中の
CCL25 含 有 量 を 分 析 す る と と も に 、 人 工 乳 に CCL25 を 添 加 し て マ ウ ス 新 生 児 の
人工哺育を行い、腸管や免疫器官の発達に対する影響を検討した。
【結果および考察】
本 研 究 に よ っ て 、 マ ウ ス お よ び ヒ ト 母 乳 中 に CCL25 が 存
在することを世界に先駆けて確認した。
CCL25 添 加 人 工 乳 を 用 い た マ ウ ス の 人 工 哺 育 実 験 で 、 CCL25 添 加 群 の 新 生 児 マ
ウ ス の 体 重 お よ び 哺 乳 量 は 、 投 与 3 日目以降から、コントロール群に比べて有 意
に 増 加 し た 。 ま た 、 投 与 期 間 終 了 後 の CCL25 添 加 群 の 脾臓及び胸 腺 の 重 量 は コ
ン ト ロ ー ル 群 に 対 し て 有 意 に 増 加 し 、小 腸 重 量 は 増 加 傾 向 を 示 し た 。CCL25 添加
群のパイエル板 は 、 個 々 の 大 き さ に は 差 が 見 ら れ な か っ た が 、 そ の 個 数 は コ ン
ト ロ ー ル 群 よ り も 多 い 傾 向 が み ら れ た 。 小 腸 絨 毛 内 の IgA 産 生 細 胞 数 を 比 較 し
た 結 果 、IgA 産 生 細 胞 数 は 、CCL25 添加群では多く見られたが、コントロール群で
はほとんど見 ら れ な か っ た 。
以 上 、母 乳 中 の CCL25 に よ っ て 、マ ウ ス 新 生 仔 の 成 長 お よ び 免 疫 器 官 や 免 疫 機
能の発達の促進が判明した。これらの結果は、母乳哺育の重要性を再認識させ
る と と も に 、 粉 ミ ル ク に CCL25 を 添 加 す る こ と で 、 新 生 児 や 未 熟 児 の 成 長 や 免
疫機能の発達をより高めることが可能であることを示唆している。一方で、
CCL25 は 乳 癌 の 発 症 や 悪 性 進 展 、 転 移 な ど に も 関 与 し て い る こ と が 判 明 し て お
り 、妊 娠・哺 育 中 の 母 親 の 乳 癌 発 症 と の 関 連 も 検 討 す る 必 要 が あ る と 思 わ れ る 。
14
(3)
テネイシン C はマウス乳癌の原発巣成長を促進し、CXCL ケモカイン発現を変化させる
演者:佐伯亘平1
共同演者:松本香織1、中井雄治 2、星野優 3、中川貴之1、吉岡正浩 3、西村亮平1、日下部
守昭 4
所属:1.東京大学大学院農学生命科学研究科・獣医外科学教室、2. 弘前大学・食料科学研
究所、3. 東京慈恵会医科大学・消化器内科、4. 東京大学大学院農学生命科学研究科・食の
安全研究センター
腫瘍関連細胞外マトリクス糖タンパクであるテネイシン C(TNC)は腫瘍成長において重要
な役割を果たす。しかしながら、TNC が腫瘍に影響を与える分子メカニズムは依然として
不明な点が多い。そこで、原発腫瘍内での TNC の役割を明らかにするために我々は新規 TNC
非産生マウス乳腺腫瘍細胞株を樹立した。また、この細胞株を野生型(WT)マウス及び TNC
ノックアウト(TNKO)マウスに移植した際の原発巣の成長及び遺伝子発現プロファイルを比
較した。
WT マウスにおける腫瘍体積は TNKO マウスに比較して有意に増大した。cDNA マイクロ
アレイ及び Biological term-enrichment analysis により 446 の発現変動遺伝子が発見され、な
かでも CXC ケモカインの発現に二群間で大きな差があることが判明した。定量的 PCR によ
るさらなる評価により、TNKO マウスへの移植腫瘍では、移植後 2 週間の時点において ELR
モチーフを持つ CXC ケモカイン(Cxcl 1-3)の発現が抑制される傾向にあり、また ELR モ
チーフを持たない CXC ケモカイン(Cxcl 9-11)の発現が亢進していることが確認された。こ
れらの結果により TNC がマウス乳腺腫瘍の原発巣成長を促進することが示され、また TNC
が腫瘍組織内で血管新生や腫瘍免疫にかかわるケモカイン産生に何らかの影響を与えてい
る可能性が示唆された。
15
(4)
放射線被ばく後の妊娠・出産経験によるラット乳がんリスク変化とそのサブタイプの関係
筆頭演者:高畠
賢 1,2
共同演者:臺野
和広 1、今岡
福士
政広 2、島田
達彦 1,2、小久保
年章 1、西村
由希子 1 西村
まゆみ 1、
義也 1,2
所属:1 量子科学技術研究開発機構・放射線医学総合研究所、2 首都大学東京大学院
【背景/目的】疫学研究から若い年齢での放射線被ばくは、その後の乳がんのリスクを増加
させることが明らかになっている。妊娠・出産経験は乳がんリスクを減少させることが知
られているが、若い年齢での放射線被ばく後の妊娠・出産経験による乳がんのリスク変化
は、明らかになっていない。我々はラット乳がんモデルを用いて、被ばくする時期の違い
によって妊娠・出産経験による乳がんのリスク変化が異なることを明らかにした。本研究
では、これらのリスク変化の違いと乳がんのサブタイプの関係について調べることを目的
とした。
【材料と方法】思春期前(3 週齢)または後(7 週齢)の Sprague-Dawley 雌ラットに放射線(4
Gy)を照射後、もしくは無処置のまま、妊娠、出産、授乳を経験させる群(以下、経産群)
と経験させない群(以下、未経産群)に分別し、乳腺腫瘍の発生を観察した。HE 染色標本の
観察により乳がんと診断された腫瘍に関して ER と PR の発現を免疫組織化学によって調べ
た。
【結果】ラット乳がんは、ER と PR ともに陽性の腫瘍が大部分をしめており、それらの割
合は 3 週齢被ばく群と 7 週齢被ばく群や放射線被ばく群と無処置群の間で違いはなかった。
一方、未経産群と経産群と比較すると、経産群で ER/PR 陽性の腫瘍の割合が有意に低下す
ることが明らかになった。この結果は、妊娠・出産経験が ER/PR 陽性腫瘍のリスクを低下
させることを示唆している。今後は増殖マーカーである Ki-67 の発現の違いや、妊娠・出
産経験による ER/PR 陽性と陰性の乳がんのリスク変化についても検討を行い、発表する予
定である。
(本研究の一部は科学研究費補助金(16K19876)の支援を受けました。)
16
(5)
多様な誘発方法でのラット乳がんを用いた免疫染色によるサブタイピング法の検討
筆頭演者:西村由希子¹
共同演者:今岡達彦¹、高畠賢¹、臺野和広¹、森岡孝満¹、西村まゆみ¹、横田拓実²、
太田原雅美¹、柿沼志津子¹、島田義也¹
所属:¹量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所 放射線影響研究部
²首都大学東京
【目的】
ラット乳がんはエストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)陽性のサブタイプ
がマウスより多いことから、ヒト乳がんのモデルとして多く用いられている。ラット乳が
んの誘発には、MNU、DMBA、PhIP などの化学物質がよく使われるが、放射線もラットに乳が
んを誘発する。過去の報告は、特定の誘発方法でできたがんにおいて ER、PR を評価したも
のが多く、多様な誘発方法での ER、PR 以外の指標を含めた乳がんのサブタイプの報告は少
ない。そこで本研究では多様な誘発方法で発生した乳がんのサブタイプについて、ER、PR
およびそれ以外の指標を含めてラット乳がんのサブタイプを調べることを目的とした。
【材料と方法】
γ 線あるいは重粒子線の照射、化学物質(MNU、PhIP)の投与、あるいは放射線と化学物質
の複合処置を行ったラット、もしくは標準飼料、高コーン油飼料、高ラード飼料下での飼
育、無処置のラットに発生した乳がんのうち 84 個を材料とした。ホルマリン固定後パラフ
ィン包埋切片を作製し、ER、PR、サイトケラチン 5(CK5)、p63、HER2、Ki67 の 6 抗体で免
疫染色を行い、発現の特徴によって分類した。
【結果】
評価対象とした腫瘍には ER、PR 陽性の腫瘍が多かった。CK5、p63 については基底細胞のみ
で陽性を示す腫瘍、基底細胞と内腔細胞(少数もしくは多数)で陽性を示す腫瘍、陰性を
示す腫瘍があった。また基底細胞の核の形態に多様性が見られた。HER2 陽性腫瘍には発現
の強弱があり、陰性の腫瘍もあった。Ki67 陽性細胞の多さには腫瘍によりばらつきが見ら
れた。現在定量的な画像解析を進めており、その結果の意義について議論したい。
本研究の一部は科学研究費補助金(23710074、26550036、15H02824)の支援を受けました。
放医研の重粒子線がん治療装置共同利用、動物実験アーカイブ J-SHARE プロジェクトの成
果を利用しました。
17
(6)
演題: 遺伝子発現マイクロアレイによるラット乳がんの分類の試み
筆頭演者: 今岡達彦
共同演者: 西村まゆみ、臺野和広、西村由希子、高畠賢、森岡孝満、柿沼志津子、島
田義也
所属: 量子科学技術研究開発機構・放射線医学総合研究所・放射線影響研究部
乳がんの遺伝子発現には多様性があり、遺伝子発現データを階層的クラスター解析
や PAM50 等のアルゴリズムを用いて分類することで、乳がんを数種類の intrinsic
subtype に分けることができる。これらのサブタイプは、予後、治療効果等の予測に
有用なばかりか、がんの起源細胞の違いを反映し発がん機序の解明に重要な手がかり
を与えるとも考えられている。ラット乳がんはヒト乳がんのモデルとしてよく研究に
使用されるが、ヒト乳がんと同様のサブタイプが存在するかどうかはわかっていない。
そこで、我々が様々な条件の放射線及び化学発がん実験で取得したラット乳腺の病変
及び正常組織の遺伝子発現マイクロアレイデータ(約 100 セット)と、intrinsic
subtype を割り当て済みのヒト乳がん及び正常組織の公共データベース上のデータ
(約
300 セット)を用いて、実験ごと及び生物種ごとのバイアスを除去した上で、ラット
乳がんの分類に用いることを試みた。その結果、ラット乳がんは階層的クラスター解
析により少なくとも3つのクラスターに分類された。クラスター間には発症週齢、腫
瘍サイズ等の違いが見られた。また PAM50 で用いられる遺伝子に注目し、intrinsic
subtype 割り当て済みのヒト乳がんの遺伝子発現を学習させた prediction analysis
of microarrays アルゴリズムにラット乳がんの intrinsic subtype を判定させたとこ
ろ、上記の3つのクラスター間で判定結果に偏りが認められた。これらの結果は、ラ
ット乳がんがヒト乳がんの intrinsic subtype と類似したサブタイプに分類できる可
能性を示唆している。
(本研究の一部は科学研究費補助金(23710074、26550036、15H02824、16K19876)の
支援を受けました。放医研の重粒子線がん治療装置共同利用、動物実験アーカイブ
J-SHARE プロジェクトの成果を利用しました。)
18
(7)
乳腺微小環境への影響を通した放射線誘発乳がん研究
演者: 飯塚大輔
1
共 同 演 者 : 笹 谷 め ぐ み 1、 神 谷 研 二
所属:
1
1
広島大学原爆放射線医科学研究所分子発がん制御研究分野
原爆被爆者の疫学調査において、乳腺は発がんリスクの高い臓器の一つとさ
れている。しかしながら、放射線誘発乳がん発生メカニズムについては不明な
点が多く残されている。乳腺への放射線影響については、これまで実験動物を
用 い た 研 究 が 実 施 さ れ て い る( Adams et al., Radiat Res. , 1984、Shimada et al.,
Radiat Res. , 1994)。 こ れ ら の 研 究 で は 被 ば く し た 個 体 か ら 得 ら れ る 乳 腺 細 胞
を同系統に移植し、乳管構造の再構築を評価することで被ばくの影響を観察し
ており、広義には乳腺幹細胞への放射線影響を評価していることになる。しか
しながら、これらの研究では高線量かつ短期での影響評価にとどまっており、
低線量かつ中長期にわたる影響は明らかとなっていない。我々はこれまでに低
線量被ばくによる乳腺幹細胞頻度の増加に系統差が存在することを見いだし、
昨年の本研究会で発表してきた。
乳腺組織は管腔細胞と筋上皮細胞の 2 種類の上皮細胞に加え、線維芽細胞、
脂肪細胞や免疫細胞などから構成される間質から成り立っている。これまでに
間質への放射線被ばくが乳がん発生に重要な役割を演じていることが明らかに
さ れ て い る ( Nguyen et al., Cancer Cell , 2011)。
本研究では放射線誘発乳がん発生メカニズムを理解するために、低線量放射
線による乳腺幹細胞への影響を、微小環境を通して明らかにすることを最終目
標としている。これまで得られている知見を紹介したい。
19
(8)
ヘッジホッグシグナル伝達阻害薬 GANT61 及び抗エストロゲン薬のホルモン感受性乳癌細
胞に対する抗腫瘍効果及び癌幹細胞制御作用
演者:紅林
淳一 1
共同演者:小池
良和 1、太田
所属:川崎医科大学
祐介 1、斎藤
亙 1、鹿股
直樹 2
1 乳腺甲状腺外科学、2 病理学2
【目的】
ホルモン感受性乳癌細胞では、エストロゲン (E2)は細胞増殖を促進するとともに癌幹細胞
(CSC)比率を増加させることが知られている。E2 による CSC 制御の作用機構に関して
は不明な点が多い。近年、E2 による non-canonical 経路を介したヘッジホッグ(Hh)シグナ
ル伝達の亢進が CSC の増加に寄与していることが報告されている。そこで我々は、
non-canonical Hh 経路を阻害する GANT61 を用い、ホルモン感受性乳癌細胞に与える影響
を検討した。
【材料と方法】
4 種類のエストロゲン受容体 (ER)陽性細胞株 (MCF-7, T-47D, KPL-1, KPL-3C)を用い
GANT61 の細胞増殖、細胞周期、アポトーシス、CSC 比率(CD44/CD24/EpCAM アッセ
イ、マンモスフェアアッセイ)、Gli1/2/3, sonic HH 発現に与える影響を検討した。さらに、
抗エスロトゲン薬 (4-OH-tamoxifen, fulvestrant)との併用効果に関しても検討した。
【結果】
GANT61 はすべての ER 陽性乳癌細胞株に対し、E2 で誘導された増殖促進効果を用量依存
性に抑制し(50%増殖阻止濃度は 10μM 程度)、G1-S ブロック及びアポトーシス誘導を示
した。GANT61 は E2 で誘導された Gli1/2、sonic HH の発現及び CSC 比率の増加を有意
に阻害した。抗エスロトゲン薬との併用では、4 細胞株中 2 細胞株において、有意の相加的
抗腫瘍効果を示した。
【考察】
GANT61 は、E2 による non-canonical 経路を介した Hh シグナル伝達を抑制し、CSC の
増加を阻止した。また、E2 で誘導された増殖促進効果を阻害する効果もあり、抗エスロト
ゲン薬との併用により相加的な抗腫瘍効果も期待できる。以上の結果から、GANT61 はホ
ルモン感受性乳癌細胞の治療薬として有望である。
20
(9)
ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤 GANT61 はトリプルネガティブ乳癌の癌幹細胞比率を劇
的に低下する
演者:小池
良和 1
共同演者:紅林
淳一 1、太田
所属:川崎医科大学
祐介 1、斎藤
亙 1、鹿股
直樹 2
1 乳腺甲状腺外科学、2 病理学2
【目的】
トリプルネガティブ乳癌(triple negative breast cancer, TNBC)に対して分子標的療法は
臨床応用されておらず、抗癌化学療法のみが適応となる。TNBC において、癌幹細胞(cancer
stem cells, CSC)の生存・増殖にかかわるヘッジホッグ(HH)シグナル伝達の亢進が報告
されている。抗癌治療薬として HH シグナル伝達阻害薬が近年数多く開発され、一部は臨
床応用されている。そこで我々は、治療に難渋する TNBC 細胞に対する non-canonical HH
シグナル伝達阻害薬 GANT61 の抗腫瘍効果並びに CSC に与える影響を検討した。
【材料と方法】
3 種類の TNBC 細胞株(basal B subtype の MDA-MB-157, MDA-MB-231 及び basal A
subtype の HCC1937)を用い GANT61 の細胞増殖、細胞周期、アポトーシス、CSC 比率
(ALDEFLUOR 法及びマンモスフェア法)に与える影響を検討した。さらに、GANT61
の HH シグナル伝達関連因子 Gli1/2 /3mRNA, sonic HH, FOXC1, SOX2 の発現に与える影
響も検討した。
【結果】
今回検討した TNBC 細胞株では、luminal subtype 乳癌細胞株に比べ、Gli2 及び FOXC1
の発現がきわめて高かった。GANT61 は 3 種類全ての TNBC 細胞株に対し、用量依存性に
細胞増殖を抑制した(50%増殖阻止濃度は 6.7~10.7μM)。その作用機構として、低濃度に
おける G1-S ブロックと高濃度におけるアポトーシス誘導が認められた。GANT61 は
ALDEFLUOR 法とマンモスフェア法の両アッセイ法において CSC 比率を劇的に減少させ
た(減少率は 90%前後)。GANT61 は、G1i 1/2/3, sonic HH, FOXC1 の mRNA 発現を抑制
しなかったが、癌幹細胞の self-renewal を制御する SOX2 の発現を低下した。現在、本剤
とパクリタキセルの併用効果に関しても検討中である。
【考察】
GANT61 は TNBC 細胞の G1-S ブロックとアポトーシスを誘導することにより細胞増殖を
強く抑制し、さらに、CSC 比率を劇的に低下させた。すなわち、GANT61 は、TNBC 細胞
において non-CSC よりも CSC に対し、より強い抗腫瘍活性を有すると考えられた。CSC
は、乳癌の転移及び放射線や治療薬に対する抵抗性に寄与することが知られており、CSC
に強い抗腫瘍活性を示す本剤は、TNBC の新規治療薬として有望である。
21
(10)
Triple negative 乳 癌 に お け る 新 規 治 療 標 的 候 補 CASP14 発 現 の 臨 床 的 意 義
演 者 : 半 田 正 1、
共 同 演 者 : 横 堀 武 彦 2、 川 端 麗 香 2、 片 山 彩 香 1、 小 松 恵 1、 山 根 有 人 2、 吉 山 伸
司 2、 堀 口 淳 3、 西 山 正 彦 2、 小 山 徹 也
所属:1 群馬大学大学院
3
群馬大学大学院
1
病理診断学、2 群馬大学大学院
病態腫瘍薬理学
臓器病態外科学
[背 景 ]
これまでに乳癌に対して治療標的を探索する研究が様々な方法で行われ臨床
応用もされているが、臨床的に悪性度が高いものが含まれ、有望な治療標的分
子 の な い Triple negative breast cancer (TNBC)に 対 し て は 新 規 の 治 療 ツ ー ル
の さ ら な る 研 究 が 求 め ら れ て い る 。 本 研 究 で は RNA sequencing を 用 い TNBC に
対する新規治療標的分子の同定を試みた。
[方 法 ]
TNBC (MDAMB468, HCC70, HCC1143)、 non-TNBC (MCF7, T-47D, BT474)細 胞 株
由 来 の RNA を 用 い て RNA sequencing を 行 い 、 Non-TNBC と 比 較 し て TNBC に 高 発
現 し て い る 171 遺 伝 子 を 同 定 し た 。 こ の 171 遺 伝 子 か ら 公 共 デ ー タ ベ ー ス を 利
用 し て 正 常 組 織 で 低 発 現 で あ る 10 遺 伝 子 を 抽 出 し 、 TNBC の 新 規 治 療 標 的 候 補
と し た 。さ ら に 10 遺 伝 子 か ら 乳 癌 で 過 剰 発 現 か つ 薬 剤 感 受 性 に 関 連 す る こ と が
報 告 さ れ て い る Caspase-14 (CASP14)に 注 目 し た 。 本 研 究 で は 乳 癌 248 症 例 で
の CASP14 発 現 を 免 疫 染 色 で 評 価 し 、そ の 発 現 と 病 理 学 的 因 子 、予 後 と の 関 係 を
検討した。
[結 果 ]
CASP14 は 主 に 癌 細 胞 質 、核 内 で 発 現 し 非 癌 乳 腺 組 織 、間 質 細 胞 で は 低 発 現 で
あ っ た 。ま た CASP14 高 発 現 群 (65/248)は TNBC 症 例 で 有 意 に 多 く RNA sequencing
の 結 果 を 検 証 す る こ と が で き た 。 CASP14 高 発 現 群 は 低 発 現 群 と 比 較 し て ER 陰
性 、 EGFR 高 発 現 、 Ki67 LI 高 値 症 例 が 有 意 に 多 く 、 癌 の 悪 性 度 と の 関 連 が 示 唆
さ れ た 。 CASP14 発 現 は 乳 癌 患 者 の 予 後 と は 有 意 な 関 連 は な か っ た 。
[結 語 ]
CASP14 は RNA sequencing と 免 疫 組 織 化 学 的 検 討 よ り TNBC に 高 発 現 し 、 癌 の
悪性度と関連することが示唆された。現在、治療標的としての可能性を検討す
る た め に 乳 癌 細 胞 株 で の CASP14 機 能 解 析 研 究 を 施 行 中 で あ る 。
22
(11)
トリプルネガティブ乳癌における乳酸代謝の新規標的としての可能性
演者:原田成美 1,2
共同演者:石田孝宣 1、鈴木昭彦 1、多田寛 1、渡部剛 1、宮下穣 1、濱中洋平 1、
佐藤章子 1、中川紗紀 1、大内憲明 1、Laura Kenny2
所属:東北大学 医学系研究科 腫瘍外科 1、Department of Surgery and Cancer,
Imperial College London, UK2
背景】多くのがん細胞は、解糖系を亢進し増殖に必要な ATP を産生している。18F-FDGPET/CT (FDG-PET) はこのがん細胞の糖代謝亢進メカニズムを利用した分子イメージング
であり、実際に生体内でのがん細胞代謝変化を証明している。しかし、全ての癌で FDG
の取り込みの亢進が見られるわけではなく、グルコース以外のエネルギー源(アミノ酸、
脂肪酸、乳酸)が使われている可能性があり、これらはがん細胞が糖代謝以外にも環境に
応じて代謝経路を変更し、増殖に有利な環境を作り出しているものと考えられる。なか
でも、解糖系の最終産物である乳酸は細胞内 pH の制御に関わり、腫瘍浸潤に有利に働く
酸性環境を作りだしている。またこの乳酸は、二次的なエネルギー源として用いられる
とされている。乳癌において、乳酸代謝が新規標的となる可能性について検討した。
方法】乳癌細胞株 4 種(MCF7, MDA-MB231, MDA-MB468,HCC38)を用いて、乳酸トランスポ
ーターである monocarboxylate transporters 1/4 (MCT1/MCT4)の発現を確認後に、シス
プラチン存在下で培養し細胞増殖曲線を求めた。さらに、FDG-PET を施行した原発乳癌
手術症例 82 例を対象とし、FGD の取り込み(SUVmax)と MCT1/4 の発現について検討した。
結果】MCT1 の発現を認めた細胞株は HCC38 のみであり、シスプラチンへの耐性を示して
いた。手術症例の検討では、MCT1 の発現が強く見られる群では SUVmax が低い傾向がみ
られた。SUVmax の cut off 値に 2 を用いた場合、2 以下の群で MCT1 の H-score が高い傾
向が見られた(p=0.0267)。
考察】糖代謝亢進の他に、乳酸代謝の亢進が新たな標的となる可能性が示唆された。
23
(12)
高齢者進行・再発乳癌患者に対するエストロゲン療法の有効性
演者:君島伊造、安田満彦
所属:北福島医療センター
乳腺疾患センター
はじめに:
高齢者の進行再発乳癌において高用量エストロゲン投与が有効であることが古くより報
告されていた。本邦では欧米での報告で使われた薬剤が一般には入手できず代替薬剤の適
正用量も不明なことから、使用しにくい状況であった。我々はわが国で入手できる合成エ
ストロゲン剤である ethinylestradiol(プロセキソール®)3 ㎎/日を標準用量として 10 年ほど
前から使用を開始し、2009 年に最初の著効例を経験した。特にここ 2 年ほどの間にアロマ
ターゼ阻害剤に不応になった閉経後進行再発乳癌の数例に使用する機会があったので具体
的な治療方法、治療成績について報告する。
エストロゲン療法の実際と成績:
エストロゲン療法を施行した症例は過去の著効例も含めて 6 例であるが、定期的な画像
経過観察は必ずしも揃っておらず主に腫瘍マーカーの推移で有効性を判定した。
Ethinylestradiol 6 錠(3 ㎎)/日内服を標準とした。
対象症例の年齢は 64 歳から 81 歳までで平均 73 歳、本療法前レジメン数は 4 から 11、
再発確認後本療法開始までの期間は、2.6 年から 16.7 年であった。腫瘍マーカーの著減 3
例は 78 歳、80 歳、81 歳と特に高齢であり、低下率を投与直前値と最低値の比率でみると、
それぞれ 6.5%、10.8%、10.5%であった。治療中重篤な副作用は見られなかった。
まとめ:
本療法は近年教科書的にはほとんど記載されなくなったが、2009 年 Ellis らがエストロ
ゲン高用量(30mg)と低用量(6mg)を比較し、有効性が同等で副作用は低用量で少ない事を報
告し、その後わが国でも岩瀬らが本療法の良好な成績を報告している。今回の我々の成績
でも多くの前治療が施行された高齢症例にしばしば著効がみられることから、血栓症等の
重篤な副作用に十分な留意しつつ用いれば、有用な治療選択肢の一つと考える。
24
(13)
Trastuzumab 耐性へのホスホリパーゼ D(PLD)の影響
-乳がんモデル細胞を用いて-
演者:三輪教子
所属:西脇市立西脇病院/昭和大学病院
乳腺外科
はじめに:trastuzumab は、HER2 陽性乳がんの補助療法薬として、また、pertuzumab およ
び抗癌剤と併用で進行・再発時の第一選択薬として頻用されているが、他の化学療法薬と
同様に耐性が生じる。trastuzumab の耐性機構としてはシグナル伝達のクロストーク、
shedding 等による p95 HER2 の出現、HER2 status の変化等が挙げられる。本報告では、
細胞分裂に重要なシグナル伝達酵素であるホスホリパーゼ D(PLD)の trastuzumab 耐性へ
の役割を乳がんモデル細胞を用いて解析した。
方法:MDA-MB-231 細胞(ER-PgR-HER2-)および MDA-MB-453 細胞(ER-PgR-HER2+)を 10%
FCS 含有 DMEM 培地で培養し、trastuzumab による増殖抑制をトリパンブルー色素排除試験
で調べるとともに、PLD 活性を定量した。
結果:1) trastuzumab は HER2 依存性に細胞増殖を抑制した。2)PLD 活性は、MDA-MB-231 細
胞で高く、MDA-MB-453 細胞では検出限界以下であった。3)MDA-MB-453 細胞に PLD を過剰発
現させると PLD 活性が増大して細胞増殖が促進され、trastuzumab の腫瘍抑制効果が減弱し
た。
考察:乳がん培養細胞の細胞増殖シグナル伝達系は、PLD を介するものと介さないものがあ
り、前者に依存して増殖する細胞には trastuzumab が奏効しにくいことが示唆された。
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(14)
aromatase 阻害薬耐性機構としての steroid sulfatase および organic anion transporter
peptide の原発乳癌組織における検討
演者:樋口 徹 1
共同演者:尾林紗弥香 1、黒住 献 1、矢島玲奈 1、時庭英彰 1、佐藤亜矢子 1、
藤井孝明 1、長岡りん 1、高他大輔 1、林 慎一 2、堀口 淳 2
所属:1 群馬大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科, 2 東北大学大学院 分子機能解析学分野
【背景】Aromatase 阻害薬(AI)は閉経後エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌に対する内分泌
治療の第一選択薬である。高い再発予防効果は複数の大規模臨床試験で科学的に証明されてい
る。しかしながら一定数の患者が再発を来たし、再発した乳癌は根治が極めて困難である。そ
れゆえ、ER 陽性乳癌患者における AI 耐性メカニズムの解明や再発リスクを評価するための新
たなバイオマーカーの検索、AI 耐性を克服する新たな治療薬の開発が急務とされている。
我々は以前から AI 耐性メカニズムに対する検討を進めており、耐性を模したヒト乳癌細胞株
を用いて複数の耐性メカニズムを報告してきた。それら耐性メカニズムのうち、硫酸エストロ
ン(E1S)をエストロンに変換する steroid sulfatase(STS)と細胞膜上に存在する E1S の輸
送体である organic anion transporter peptides(OATP)に依存した耐性メカニズムを報告
し、さらに ER 陽性原発乳癌組織から抽出された total RNA を用いて、STS および OATP の mRNA
の発現量と臨床病理学的因子との関連についても以前報告した。本検討においてはさらに ER
の標的遺伝子であるプロゲステロン受容体(PR)の mRNA の発現量にも注目することにより、
ER 活性も考慮して STS および OATP と臨床病理学的因子との関連性を改めて検討した。【方法】
当院にて手術を受けた ER 陽性乳癌患者 43 名の組織から total RNA を抽出し、real-time PCR
法を用いて STS および耐性株において発現亢進または減少した OATP の 5 つのサブタイプ(1A2,
1B1, 3A1, 4A1, 5A1), PR の発現量を定量し、それぞれの相関および臨床病理学的因子との
関連性を統計学的に検討した。【結果】STS と 5 つのサブタイプの OATP mRNA は統計学的有意
またほぼ有意に相関した。そのなかで、3A1 は STS と極めて強く相関した。 これらと PR と
は関連性はなかった。臨床病理学的因子との関連の検討においては、STS mRNA 発現は核グレ
ードおよびリンパ節転移の有無と逆相関した。また STS 、3A1 mRNA の発現量は閉経後乳癌患
者群において有意に高かった。【考察】本検討においては ER の活性と STS に関連性は見出せ
なかった。また AI 耐性株において発現が減少した OATP3A1 が、原発組織においては STS と極
めて強く相関したことから、STS や OATP は原発組織においては耐性株とは異なる役割を持つ
可能性が示唆された。その一方で、閉経後乳癌組織において STS の発現が亢進していることか
ら、閉経というエストロゲン枯渇状況に対して、STS によりエストロゲン産生を亢進させるこ
とでエストロゲンを供給するというメカニズムが乳癌組織に存在する可能性が示唆された。こ
の結果については今回提示した AI 耐性メカニズムが現実に存在することを支持し得ると考え
られた。
26
27
(16)
S100A14・ A16 は 癌 の 浸 潤 ・ 転 移 を 促 進 し 、 乳 癌 の 不 良 な 予 後 と 相 関 す る
演者:杉野
隆
共同演者:田中
1
瑞 子 2、 宍 戸
奈美子
3
所属:1 静岡がんセンター病理診断科、2 福島医大基礎病理
我 々 は マ ウ ス 乳 癌 細 胞 (MCH66)か ら 高 ・ 低 転 移 細 胞 を 分 離 し 、 発 現 遺 伝 子 を 網
羅的に解析・比較することにより、癌転移に関わる分子の探索を行っている。
抽 出 さ れ た 複 数 の 候 補 遺 伝 子 の 中 で 、 S100A14 遺 伝 子 の ノ ッ ク ダ ウ ン に よ り 高
転 移 細 胞 の 肺 転 移 が 減 少 し た こ と か ら 、 S100A14 は 転 移 を 促 進 す る 分 子 で あ る
こ と が 確 認 さ れ た 。 MCH66 に 加 え 、 ヒ ト 乳 癌 細 胞 株 (MCF7, SK-BR-3)を 用 い た
in vitro 実 験 で は 、 S100A14 タ ン パ ク は S100A16 と と も に 細 胞 の 側 方 ま た は 基
底 側 の 細 胞 膜 下 に 局 在 し 、 cortical actin と Ca 非 依 存 性 に 結 合 す る こ と が 示
さ れ た 。 ま た 、 siRNA を 用 い た 実 験 で は 両 タ ン パ ク が 細 胞 の 運 動 や 浸 潤 を 促 進
す る 機 能 を 持 つ こ と が 明 ら か と な っ た 。 乳 癌 症 例 167 例 の 免 疫 染 色 に よ る 臨 床
病 理 学 的 解 析 で は 、 S100A14・ A16 タ ン パ ク が 細 胞 膜 に 強 く 発 現 す る 症 例 は 10
年 生 存 率 が OS, DFS と も に 有 意 に 低 く 、 乳 癌 の 不 良 な 予 後 に 関 わ る と 考 え ら れ
た 。 ま た 、 両 タ ン パ ク の 高 発 現 は 若 年 齢 (60 歳 未 満 )、 ER 陰 性 、 HER2 陽 性 と 有
意な相関を示した。
S100A14 は Ca 結 合 タ ン パ ク S100 フ ァ ミ リ ー の 一 員 で あ り 、種 々 の 癌 の 予 後 に
関 わ る 分 子 と し て 最 近 注 目 さ れ て い る 。S100A14・A16 は 癌 の 予 後 予 測 や 治 療 の
ターゲットとなり得る分子と考えられる。
28
(17)
乳腺発癌を予防する海洋性キサントフィルの探索研究
演者:圦
貴司
1
共 同 演 者 : 榎 本 祐 子 1 、 木 下 勇 一 1、 義 澤 克 彦 1、 結 城 美 智 子 1、 吉 岡 正 浩 2、
螺良愛郎
1
所属:1 関西医科大学
病理学第二講座、2 東京大学大学院
食の安全研究センター
農学生命科学研究科
先端技術開発研究室
【背 景 】 疫 学 的 に 乳 癌 罹 患 率 は 欧 米 で 高 く 、ア ジ ア 諸 国 、と り わ け タ イ に お け る 罹
患 率 は 本 邦 の お よ そ 2/3 と 低 い 。食 生 活 は 癌 の 発 生 に 深 く 関 わ っ て お り 、ア ス タ キ
サ ン チ ン( As)や カ ン タ キ サ ン チ ン( Cx)と い っ た 海 洋 性 キ サ ン ト フ ィ ル を 含 む 海
産 資 源 を 多 く 摂 取 す る タ イ の 伝 統 的 食 文 化 が 、乳 癌 罹 患 率 の 減 少 に 関 係 し て い る こ
とが推察される。
【研 究 の 目 的 】 N-methyl-N-nitorosourea( MNU)誘 発 ラ ッ ト 乳 腺 発 癌 モ デ ル を 用 い
て 、乳 癌 の 予 防 に 効 果 的 と 推 察 さ れ る 2 種 の 海 洋 性 キ サ ン ト フ ィ ル( As、Cx)摂 取
による乳癌予防効果を検証する。
【方 法 】 3 週 齢 雌 Sprague-Dawley ラ ッ ト に 0, 0.04, 0.4%の As ま た は Cx を 配 合 し
た 飼 料 を 5 週 間 与 え た 。一 部 の ラ ッ ト は 7 週 齢 時 に 乳 腺 脂 肪 織 を 摘 出 す る と と も に 、
As ま た は Cx 摂 取 に よ る 全 身 変 化 を 観 察 し た 。残 り の ラ ッ ト に は 6 週 齢 時 に 60mg/kg
MNU を 腹 腔 内 投 与 し 、 20 週 齢 ( MNU 投 与 14 週 後 ) ま で 乳 癌 の 発 生 率 を 各 群 で 比 較
した。
【結 果 】 7 週 齢 時 、 ラ ッ ト の 乳 腺 や 肝 の 湿 重 量 に 各 群 差 を 認 め ず 、 組 織 学 的 変 化 も
み な か っ た 。 MNU 投 与 14 週 後 、 最 大 径 が 1cm 以 上 の 乳 癌 発 生 率 お よ び 1 個 体 あ た
り の 乳 癌 発 生 個 数 は 基 礎 食 群 ( 0% As) で そ れ ぞ れ 91.7%・ 3.3±0.4 個 で あ っ た の
に 対 し 、 0.4% As 食 群 で は 41.7%・ 1.8±0.3 個 と 乳 癌 の 発 生 が 有 意 に 低 下 し た 。 た
だ し 、 Cx に は 乳 癌 抑 制 効 果 は み な か っ た 。
【研 究 の 展 望 】 As は 脂 肪 織 に お け る ア デ ィ ポ サ イ ト カ イ ン の 産 生 を 調 節 す る こ と
に よ り 、動 脈 硬 化 や 耐 糖 能 障 害 を 改 善 さ せ る は た ら き を 有 す る こ と が 臨 床 試 験 で 示
さ れ て い る 。 As 摂 取 に よ る 乳 癌 予 防 効 果 と 乳 腺 脂 肪 織 に お け る ア デ ィ ポ サ イ ト カ
インの発現変動との関連についても併せて報告する。
29
(18)
乳癌における造影超音波検査とパラメトリックイメージ
演者:野呂綾
1)
共 同 演 者:中 村 卓
塚祐司
2 ) 、平 井 都 始 子 3 ) 、芳 賀 真 代 4 ) 、小 林 豊 樹 5 ) 、林 昭 伸 6 ) 、小
6)、 中 井 登 紀 子 7)、 小 椋 透 8)、 小 川 朋 子 1)
所属:三 重 大 学 医 学 部 附 属 病 院 1)乳 腺 外 科
6)病 理 部
8)臨 床 研 究 開
発センター名張市立病院
2)乳 腺 外 科 、奈 良 県 立 医 科 大 学 附 属 病 院
3)中 央 内 視 鏡 ・ 放 射 線 部
4)放 射 線 科 5)乳 腺 外 科
7)病 理 部
【背景】
乳 腺 領 域 に お け る 造 影 超 音 波 検 査 (以 下 CEUS)は 、 腫 瘍 血 管 を 視 覚 化
し、腫瘍の広がり診断に利用できるが、画像が単一色であるため、背
景乳腺と腫瘍の進展範囲とを正確に区別するのが難しい。パラメトリ
ックイメージは、造影された時間に対応して色分けされるため、早期
から造影される腫瘍範囲が明瞭に描出され、画像の評価が簡単になる
と思われる。乳癌におけるパラメトリックイメージの視認性と、病理
との相関について、多施設で前向きに検討した。
【対象と方法】
乳 癌 の 手 術 を 行 っ た 患 者 66 例 に つ い て CEUS を 行 っ た 。 既 存 の 評 価 方 法 で
あるリアルタイム画像、積算画像と、パラメトリックイメージを作成し、見
やすさの順位を付け、視認性について比較した。また、画像上で測定された
腫瘍の最大径を、手術標本の最大径と比較した。
【結果】
見 や す さ の 平 均 順 位 は 、パ ラ メ ト リ ッ ク イ メ ー ジ が 1.44、リ ア ル タ イ ム 画
像 が 2.52、 積 算 画 像 が 2.04 と 、 パ ラ メ ト リ ッ ク イ メ ー ジ が 最 も 見 や す い 評
価 と な り 、有 意 に 視 認 性 に 優 れ て い た 。手 術 標 本 と の 腫 瘍 径 の 相 関 は r=0.664
と 比 較 的 良 い 相 関 を 認 め た が 、径 の 差 は 平 均 0.690cm で 、overestimate の 傾
向を認めた。
【考察】
パラメトリックイメージは有意に視認性に優れており、手術標本の腫瘍径とも
良 い 相 関 を 認 め た 。overestimate と な る 傾 向 に つ い て 、そ の 原 因 と 今 後 の 改 善
策について考察する。
30
(19)
乳 房 内 再 発 時 の 再 SNB に SPECT-CT が 有 用 で あ っ た 1 例
演者:柳原恵子
共同演者:鈴木えりか、中井麻木、栗田智子、淺川英輝、二宮淳、武井寛幸
所属:日本医科大学付属病院
乳腺外科
<はじめに>
乳 房 温 存 術 後 の 乳 房 内 再 発 に 対 す る セ ン チ ネ ル リ ン パ 節 生 検 ( SNB) は 、 初 回
手 術 時 腋 窩 リ ン パ 節 郭 清 な し の 場 合 に は 、 再 SNB を 考 慮 し て も よ い と さ れ て
いる。
今 回 、 再 SNB の 同 定 に SPECT-CT ( single photon emission computed
tomography
CT) が 有 用 で あ っ た 1 例 を 経 験 し た の で 報 告 す る 。
<症例>
63 歳 の 女 性 。6 年 前 に 左 乳 癌 に 対 し て 乳 頭 乳 輪 温 存 乳 房 切 除 + SNB 術 と 乳 房 再
建 術 を 施 行 。 T2N0M0 ス テ ー ジ Ⅱ A で 、 ER 陽 性 、 PgR 陽 性 、 HER2 陰 性 、 術
後療法は内分泌療法(アナストロゾール内服)を行った。左乳輪近傍に腫瘤を
自 覚 し 精 査 に て 乳 房 内 再 発 と 診 断 。 乳 頭 乳 輪 切 除 な ら び に 再 SNB 予 定 と な っ
た。腋窩にはリンパ節腫大を認めず、手術前日にフチン酸テクネシウムを乳輪
部 皮 内 に 注 入 、 リ ン フ ォ シ ン チ グ ラ フ ィ と SPECT-CT を 施 行 し た 。 腋 窩 に SN
は 認 め ず 、SPECT-CT で 胸 筋 間 に 2 か 所 の 集 積 を 認 め た た め US を 施 行 、2mm
大 の リ ン パ 節 2 個 が 術 前 に 確 認 さ れ た 。 手 術 時 に 胸 筋 間 か ら SN を 摘 出 、 2 個
中 1 個に転移陽性であった。
<まとめ>
再 SNB 時 に 、腋 窩 以 外 の 領 域 に SN が 同 定 さ れ る 割 合 は 高 く 、リ ン フ ォ シ ン
チグラフィが有用であると報告されている。ただし、リンフォシンチグラフィ
は 平 面 的 で あ り 、詳 細 な 部 位 の 判 断 は 困 難 で あ る 。SPECT-CT は 脳 梗 塞 な ど の
脳 疾 患 に 多 用 さ れ て い る が 、 当 院 で は SN の 同 定 に も 利 用 し 、 詳 細 な 位 置 情 報
を 術 前 に 確 認 し て い る 。 初 回 手 術 時 は 多 く は 腋 窩 に SN が 同 定 さ れ る が 、 今 回
の よ う に 腋 窩 以 外 に 同 定 さ れ る 可 能 性 が 高 い 再 SNB 時 に は 、 SPECT-CT が 特
に有用であると考えられた。
31
(20)
Eprobe を用いた乳癌における PIK3CA 変異検出系の構築
演者:尾林紗弥香 1
共同演者:高他大輔 1、長岡りん 1、佐藤亜矢子 1、藤井孝明 1、時庭英彰 1、矢島玲奈 1
樋口 徹 1、黒住 献 1、尾林 海 2、清水公裕 2、臼井健悟 4、小山徹也 3、堀口 淳 1
所属:1 群馬大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科
2
群馬大学医学部附属病院 呼吸器外科、3 群馬大学医学部附属病院 病理診断科
4
理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター
【はじめに】全乳癌のうち 7〜45%に PIK3CA の変異があると言われている。しかし、PIK3CA
変異の意義や予後に与える影響についてはまだ明らかになっていない。近年、PI3K/mTOR
パスウェイに関連した薬剤の開発が進んでおり、今後 PIK3CA 変異解析が重要になってくる
ことが予想される。従来の Sanger 法は時間がかかる一方感度が低く、次世代シーケンサー
(NGS)は高感度ではあるが解析に専門的な知識が必要とされるため、より簡便・迅速・高
感度な解析方法の開発が求められている。Eprobe は本邦で開発された新規蛍光プローブで、
リアルタイム PCR 装置での定量検出と、増幅産物の融解曲線解析が 1 本のプローブで可能
である。【目的】我々は Eprobe PCR 法を用いた PIK3CA E542K 変異検出系を構築し、乳癌
検体において変異検出を行い、その有用性を検討した。【対象と方法】当科で 2014 年 7
月から 2015 年 4 月に手術を施行した原発性乳癌 94 例の凍結保存検体から DNA を抽出し、
PIK3CA E542K 変異を Eprobe PCR 法で検討した。【結果】原発性乳癌 94 例中、Eprobe PCR
法で検出された PIK3CA E542K 変異は 3 例(3.2%)であった。PIK3CA E542K 変異を認めた 3
例は全て ER 陽性 HER2 陰性の Luminal A-like subtype であった。【考察】Eprobe PCR 法を
用いて、乳癌における PIK3CA E542K 変異を検出し得た。Sanger 法や NGS と比較して、簡
便で迅速な検出法と考えられる。PIK3CA 変異の hot spot は他に codon545 と codon1047 が
あり、その 2 ヶ所についての変異検出系も現在開発中である。
32
(21)
ER 陽性乳癌における HER family の mRNA とタンパクの発現状況に関する比較検討
演者:黒住 献 1, 2
共同演者: 山口ゆり 3, 黒住昌史 4, 松本広志 2, 小山徹也 5, 堀口 淳 1
所属:1 群馬大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科, 2 埼玉県立がんセンター 乳腺外科,3
埼玉県立がんセンター 臨床腫瘍研究所, 4 埼玉県立がんセンター 病理診断科
5 群馬大学大学院 病理診断学
【目的】HER family (EGFR,HER2,HER3,HER4) は乳癌において腫瘍増殖に関わる重要な
因子考えられており,ER の発現状況とも関連性があるといわれている.今回,我々は ER 陽
性乳癌において HER family の mRNA とタンパクの発現状況の一致性に関する比較検討を行
った.
【対象と方法】1998 年から 2000 年に手術を施行した ER 陽性乳癌のうち手術検体の凍結標
本が保管されていた 34 例を対象とした.検体から凍結切片を作製し,浸潤巣での HER family
(EGFR,HER2,HER3,HER4)タンパクの発現状況を免疫組織化学的に評価した.免疫染色は
発現強度により 0 から 3+に分類し,HER2 と HER3 は 2+以上を,EGFR と HER4 は 1+以上を高
発現とした.また,同検体の浸潤部をレーザーマイクロダイセクション法で採取し,リア
ルタイム PCR 法を行い,β アクチンの発現度との比較で HER family の mRNA (cDNA) 発現
の ΔCT 値を測定した. HER family のタンパク発現強度と mRNA 発現の ΔCT 値の比較につ
いては Mann-Whitney U test を用いて統計学的検討を行った.さらに,HER family のそれ
ぞれの mRNA 発現状況の比較については Spearman’s rank correlation test を用いて統計
学的検討を行った.
【結果】タンパクの発現状況は,EGFR:高発現は 1 例(2.9 %),低発現は 33 例(97.1 %),
HER2:高発現は 5 例(14.7 %),低発現は 29 例(85.3 %),HER3:高発現は 4 例(11.8 %),
低発現は 30 例(88.2 %),HER4:高発現は 10 例(29.4 %),低発現は 24 例(70.6 %)で
あった.mRNA 発現の ΔCT 値の中央値は,EGFR:6.17
(2.18~9.73),HER2:-0.70
(-3.61~4.16),
HER3:0.43(-1.60~3.42),HER4:2.26(-1.11~6.28)であった.HER2,HER3,HER4 にお
いて mRNA 発現とタンパク発現は有意な相関関係を認めた (HER2:p=0.009,HER3:p=0.035,
HER4:p=0.020) .また,EGFR の mRNA 発現と HER2 および HER3 の mRNA 発現は有意な相関関
係にあることが分かった(EGFR vs. HER2: p= 0.002, EGFR vs. HER3: p= 0.039 ).HER2
の mRNA 発現と HER3 の mRNA 発現にも有意な相関関係を認めた(p=0.035).
【考察】ER 陽性乳癌において HER2,HER3,HER4 の mRNA とタンパクの発現は有意に相関す
ることが明らかになったことにより,heterogeneity の多い ER 陽性乳癌において HER family
の発現をさらに詳細に定量化し機能評価できる可能性が示唆された.
33
(22)
18
F-FDG PET/CT の SUVmax 値からみた ER および HER2 の生物学的意義についての検討
演者:武田泰隆1
共同演者:生魚史子1、小柳尚子1、2、井上博矢2
所属:1
(公財)結核予防会複十字病院・乳腺センター乳腺科、2同放射線診療部放射線科
【はじめに】乳癌の治療は、以前はステージによる進行度に応じておこなわれてきたが、
近年はバイオマーカーなど乳癌の生物学的特性を考慮するようになってきた。病理学的に、
形態学的検索あるいは免疫染色などからその生物学的特性を検索することで治療方針を決
定している。しかし、生体内での実際の癌の振る舞いは、組織固定した生体外での検索結
果とは異なることが予想される。そういった意味で、生体内での癌の挙動を反映した「機
能画像」の重要性が高まっている。乳癌細胞において、バイオマーカーの一つである ER や
HER2 が、細胞の増殖についての影響を検索する目的で、機能画像の一つである
18
F-FDG
PET/CT(以下 PET)を用いて SUVmax(Standardized Uptake Value:投与後 1 時間)値との
相関について retrospective に検討した。
【対象と方法】我々の施設で、平成 23 年 1 月から平成 27 年 12 月まで手術を施行した乳癌
483 症例のうち、術前検査として PET を行いデータが得られた NAC 症例を除く 349 例を対象
とした。ER・PgR・HER2・Subtype・組織型・Ki-67・nuclear grade(NG)・ly・v・t・n・
stage の各因子と SUVmax との相関を Mann-Whitney U および Kruskal-Wallis 検定で検討し
た。また、予後(DFS:disease-free survival)との関連は Kaplan-Meier 法によった。
【結果】SUVmax の部分容積効果(PVE)を考慮して、T1c と T2 に分けて検討した。T1c・T2
とも HER2 の方が ER より、SUVmax 値とより強い相関がみられた。その他の因子では、Ki-67
と NG で強い相関がみられた。一方、Kaplan-Meier 法の logrank 検定による DFS では、ER
では有意差がみられたものの HER2 では有意な相関はみられなかった。
【考察】18F-FDG はグルコースの類似体であり、グルコースと同様に糖代謝が亢進している
細胞に集積し、リン酸化した状態で細胞内に留まる性質を持つ。そのため原則として糖代
謝の亢進した癌細胞に集積する。つまり、SUVmax は癌細胞の増殖能を反映していると考え
られる。癌の悪性度は増殖能と転移能に分けられるが、HER2 が ER より SUVmax とより強い
相関を示したことは、HER2 が ER よりも増殖能と関連していると考えられる。また Ki-67 と
NG に つ い て は こ れ ら の 因 子 そ の も の が 増 殖 能 を 反 映 し て い る た め と 考 え ら れ た 。
Kaplan-Meier 法で、HER2 で予後に有意差がみられなかったのは、Herceptin 投与による影
響と考えられた。
34
(23)
半自動カウントソフトウエア Count
Cell を用いた乳癌症例に対する MIB1 Labeling Rate
算出の実際と問題点-目視によるカウント結果との比較を含めて-
演者:駒木幹正 1,2
共同演者:林透 2,船ヶ山まゆみ 1,斎藤智和 1,玉田修吾 1,前田資雄 1,柏葉匡寛 1,中原
浩 3,本田教子 2,阿部勝則 1
所属:ブレストピア宮崎病院
1
乳腺外科, 2 病理部, 3 放射線科
【背景】乳癌術後の補助療法の適応は様々な臨床病理学的因子や患者背景を基に選択され
る。内分泌療法や分子標的治療は腫瘍細胞の標的レセプターの発現状況に負うところが大
きいが、有害事象が必発する化学療法の選択は功罪を充分に勘案して選択する。最近では
リンパ節転移個数が3個程度以下の場合、標的レセプター発現状況の他に、腫瘍細胞にお
ける Ki-67 抗原の発現状況を参考にすることが一般的である。しかし、Ki-67 抗原の発現
は腫瘍部位による heterogeneity が高いという問題点の他、その発現状況のカウントは病
理医にとって時間的負担が大きい。そこで、カウント作業の負担軽減を目的として MIB1
Labeling Rate(以下;Rate)を半自動的にカウントでき、画像上で目視による調整が可能
な分析ソフト Count
Cell(Ki-67 antigen Semi Auto Counter: SeikoTec Co., LTD)(以
下;CC)を用いて、病理医が目視で算出した結果と対比分析し検討した。【対象と方法】対
象の標本は、標本固定等の時間や管理が均一に行われている、術前の確定診断時に得られ
る 穿刺 組織標 本検 体を用 いた 。使用 した 抗体は Monoclonal Mouse Anti-Human Ki-67
Antigen, Clone MIB-1(DAKO)で染色等は自動染色装置を用いた。病理医の目視による判定
は、標本内の癌巣の面積的量により hot spot 2 ないし 5 視野を選択、対物 20 もしくは 40
倍視野でカウントし Rate を算出した。Rate が推定で 50%以上の場合と 10%未満の場合はカ
ウントせず、その旨、報告書に記載した。CC による判定は、同一標本から hot spot を 4
視野選択し、対物 40 倍視野で撮影後、JPEG 画像を得て、CC によるカウント画像を確認し、
不適切なカウントの状況を調整修正し、Rate を算出した。【結果】①病理医による判定と
CC を利用した判定結果は良く相関し、相関係数 0.8880 であった。②病理医が 50%以上と判
定したものは CC を利用したカウントで 46.7~91.2%であった。また、病理医が 10%未満と
判定したものは CC を利用したカウントでは平均 9.2%±5.1%であった。③CC の自動カウン
トには特徴的な不適切カウントがみられ、これを是正する方策が必要である。④間質細胞
が腫瘍巣内に密に介在する症例では間質細胞の Ki-67 抗原陽性のため病理医による判定も
【まとめ】Count
CC による判定も難度が高いと言える。
Cell を利用した MIB1 Labeling Rate
の半自動的判定は、その特性を理解した上で利用すれば、時間的節約が可能で目視による
結果とよく相関し有用と思われる。
35
(24)
乳腺粘液癌 101 例の臨床病理学的特徴に関する検討
演者:小松
恵 1) 2)
共同演者:黒住 献 4),片山彩香 2),半田正 2),松本
小山
所属:1)
広志 1),黒住
昌史 3),堀口
淳 4),
徹也 2)
埼玉県立がんセンター乳腺外科,2)群馬大学大学院病理診断学,3)埼玉県立がんセ
ンター病理診断科,4)群馬大学臓器病態外科
【はじめに】粘液癌は特殊型に分類され、比較的予後良好な組織型と考えられている。今
回、粘液癌 101 例について詳細な検討を行ったので報告する。
【対象と方法】2002 年から 2014 年の 13 年間に当院で手術を施行した粘液癌 131 例のうち、
臨床病理学的検討が可能な 101 例を対象とした(中央観察期間 65 か月)。対象症例におけ
る亜型(pure
type もしくは mixed
type)、ER、PgR、HER2 の発現状況に基づく subtype、
腫瘍径(pT)、リンパ節転移の有無(pN)、脈管侵襲の有無(LVI)と予後との関係を検討した。
【結果】手術時年齢の中央値は 56 歳(33~91 歳)だった。ER は陽性が 98 例(97%)、HER2
は陰性が 90 例(89.1%)で、subtype 別発生頻度では、Luminal
A like(ER 陽性かつ
PgR 陽性、PgR の cut off 値=20%)が 74 例(73%)だった。亜型に関しては、pure type
が 78 例(77%)、mixed type が 23 例(23%)
、脈管侵襲は陽性が 25 例(25%)、陰性が
76 例(75%)だった。局所再発を 3 例、遠隔転移を 5 例に認めたが死亡例はなかった。全
症例における 5 年無再発率は 91.5%だった。各因子別生存率の検討では、ER、PgR、HER2
の発現状況は有意な予後因子とならなったが、mixed
type は pure
type に比べ有意に予
後不良だった(HR:4.79、p=0.029)。また、脈管侵襲陽性も陰性に比べ有意に予後不良
だった(HR:4.46、p=0.035)。
【考察】粘液癌の 5 年無再発率は 91.5%であり予後は良好だったが、mixed
type や脈管
侵襲陽性では予後が有意に不良であり、術後補助治療の対象になる可能性がある。
36
(25)
当科における浸潤性小葉癌 61 例の検討
演者:時庭英彰
共同演者:高他大輔、長岡りん、藤井孝明、佐藤亜矢子、矢島玲奈、樋口徹、
尾林紗弥香、黒住献、小山徹也*、堀口淳
所属:群馬大学医学部附属病院
乳腺・内分泌外科、群馬大学大学院
病理診断学*
背景・対象:浸潤性小葉癌(ILC)は乳癌全体の 3~4%程度を占め,多発あるいは両側発生頻
度が高く,瀰漫性浸潤性に増殖することや,消化管や腹膜などへの特異な転移形式を有す
ることが知られている.今回我々は当科で 2003 年から 2013 年までに浸潤性小葉癌と診断
され,手術を施行された 61 例を対象とし,その臨床的病理学的特徴につき検討した.
結果:観察期間の中央値は 52 か月(11-140 か月)で,年齢の中央値は 58 歳(39-85 歳)であっ
た.浸潤径の平均は 3.3 ㎝であり,リンパ節転移は 18 例に認めた. リンパ管侵襲は 22 例,
静脈侵襲は 6 例に認めた.また,浸潤性乳管癌に準じて核異型度を計測したところ,NG1
に相当するものが 43 例(70.5%)と多く認められた.ER 陽性症例は 60 例,PgR 陽性は 47
例に認めた.HER2 陽性症例は 4 症例であった.再発は 7 例に認め,手術から再発までの
期間は 15-93 か月(中央値 39 か月)であった.また死亡は 5 例に認め,原病死 2 例,他病死
3 例であった.再発と関連する臨床病理学的因子は腫瘍径(p=0.04),リンパ節転移の有無
(p=0.009),リンパ管侵襲(p=0.03),静脈侵襲(p=0.001)であった.
考察:浸潤性小葉癌も浸潤性乳管癌同様,腫瘍径やリンパ節転移,脈管侵襲が予後因子で
あることが示唆された.しかしながら発見された時点で浸潤径がすでに大きく,局所進行
乳癌と考えられる症例が多く含まれていた.引き続き症例を蓄積し,生物学的特徴や治療
について検討していくことが必要と考えられた.
37
協賛を頂いた企業一覧(五十音順)
寄付
米田薬品工業株式会社
広告
アストラゼネカ株式会社
オリエンタル酵母工業株式会社
金秀バイオ株式会社
株式会社ケーエーシ―
全薬工業株式会社
第一三共株式会社
中外製薬株式会社
38
MEMO