「草地整備事業におけるライムケーキの活用」 斉藤井出建設株式会社 高畑 雅光 井原工業株式会社 高岡 達 はじめに 十勝地方では、畑作と酪農を主体とした農業が展開されており、畑作においては、輪作 体系の維持より甜菜の作付けが毎年 26,000ha となっております。 甜菜の収穫は10月中旬より開始され、十勝管内の各製糖工場へ搬入された後 3 月下旬 までの期間において砂糖として生産されます。 上士幌町における道営草地整備改良事業では、地域資源を活用した循環農業の推進と事 業費のコスト削減を目的として、平成 22 年より土壌改良資材である炭化カルシウムの代わ りに製糖工場で発生するライムケーキを使用しております。 平成 23 年度は地元受益者の協力もあり、整備面積 320ha 全量をライムケーキによる土壌 改良を実施しており、草地整備改良事業の事業費ベースで 30,000 千円程度のコスト削減額 となっており、今後の草地基盤整備事業においてもライムケーキの活用が期待されるとこ ろであります。 1.ライムケーキとは きせっかい 甜菜製糖工場にて砂糖を精製する工程で使用される生石灰であり、液状化された生石灰 の使用後は粉末状(固液分離)の状態で排出され、アルカリ成分が30%程度残存してい ることから、その大半が土壌改良材として農地に還元されております。 2.ライムケーキ処理の課題 全道の甜菜製糖工場より副産物として発生するライムケーキの年間発生量は、20 万トン 程度で、そのうち農地還元が 10 万トン、産業廃棄物としての埋立処分が 10 万トンとなっ ており、次のような課題がある。 ① 廃棄物の減量化と再資源化による発生量の抑制・・・環境保全対策 ② ライムケーキの最終処分(埋立)に多大な費用を要する 3.上士幌町内における利用状況 上士幌町の一般畑及び飼料畑では、製糖工場と JA との連携によりライムケーキの農地還 元を毎年 600ha 程度実施しております。 還元された農地では、土壌の硬化や生育不良などの障害は発生していなく、ライムケー キの農地還元に対する農業者の認知度は高まっている状況である。 マニアスプレッタ-での散布状況 スカベンジャーでの散布状況 4.道営草地整備改良事業での利用について 十勝総合振興局北部耕地出張所では、地域資源の循環活用と持続的農業展開を柱に、平 成 22 年度より上士幌町内で実施されている草地整備改良事業の 2 地区を関係受益者の了解 のもとモデルケースとしてライムケーキの活用を行っております。 ライムケーキの活用における利点は、事業コストの削減が主であるが、土壌改良材散布 作業の効率化や使用済肥料袋の廃棄物発生抑制効果も期待されます。 <ライムケーキの活用における効果> ●公共事業費コスト削減 ●地域資源の循環活用 ●廃棄物発生量の抑制 ●土改材積込作業の効率化(工事工程の短縮) ●持続的農業の展開(国内資材の活用) 5.ライムケーキの使用量の計算 草地整備改良時に使用する土壌改良資材(酸度矯正)との比較計算を行う ★石灰質資材 炭化カルシウム(粉状 ★ライムケーキ (粉状 アルカリ成分 53% 20kg/ポリ袋詰) アルカリ成分 30%程度 水分率 30%) ※ 各製糖工場では、特殊肥料生産者届出済み <計算例> 条件 現況pH 5.6 土壌の種類 黒色火山灰土 土性 壌土 腐植含有 富む 酸性矯正用炭山石灰施用量 ・石灰質資材の投入量 ・ライムケーキの投入量 3.04t/ha(作土 10cm 当たり)アレニウス氏表より 3.04t/ha×1.5(15cm 換算)=4.56t/ha アルカリ換算 割増率 53%÷30%=1.767 倍 1.2(十勝農業試験場試験~施用効果報告書より) 3.04/ha×1.5(15cm 換算)×1.767×1.2=9.67t/ha 資材価格の比較 ・石灰質資材 ・ライムケーキ 15,600 円/t×4.56t/ha= 71,136 円/ha 289 円/t×9.67t/ha= 2,794 円/ha(石灰より-68,342 円/ha) コスト削減額の試算(事業費ベース) 資材価格の差額に諸経費を加算し試算(施工費は加味しない) -68,342 円×1.5(経費)=-102,513 円/ha の事業費削減が見込める。 102,513 円/ha÷500,000 円/ha(起伏修正 1 平均工事費)=0.205≒20%の削減率 平成 23 年度の草地整備面積(上士幌西地区・上士幌東地区)320ha 320ha(全面積ライムケーキの使用)×-102,000 円/ha=-32,640,000 円 平成 23 年度は、32,000 千円程度のコスト削減 6.施工現場での課題と対応 ライムケーキの散布作業にあたっては、平成 22 年度当初はライムソアを使用する工事計 画としていたが、施工者・監督員・製糖工場の三者による試験散布を実施した結果、ライ ムソアでの均一散布は困難と判断され、散布機種の検討や散布機械の改良を行い、設計で はマニアスプレッタ(有機質資材等散布機)による散布作業を実施している。 散布時の問題点としては、散布機械の特長より広範囲の拡散散布作業を行っているが、 強風時には隣接圃場への飛散も懸念されることから、散布機械の改良を重ね現在に至って いる。 現地搬入ライムケーキ サンプル確認容器設置 散布状況(均一散布困難) ホッパー内で硬化 サンプル採取 ノズル閉塞 7.散布機械の改良について ライムケーキの散布にあたっては、散布現場における状況の確認を行い、発注者と検討 を重ね、散布機械の改良を行った。 散布機改良事例① マニュアスプレッタ散布ローターリー部へのゴム板の取付~井原工業(株) 期待される効果 ・ライムケーキ拡散の防止 ・強風時にも散布作業が可能 ・拡散防止より均一散布が可能となり作業性の向上が得られた 散布機改良事例② スカベンジャー散布ノズル部の油圧調整板の設置~斉藤井出建設(株) 期待される効果 ・ライムケーキ拡散の防止 ・強風時にも散布作業が可能 ・拡散防止より均一散布が可能となり作業性の向上が得られた ・作業時間が ha 当たり 1 時間程度の短縮 8.散布状況及び草地整備状況 散布~スカベンジャー 散布~マニアスプレッタ ライムケーキ散布圃場の発芽状況 おわりに 昨今の社会情勢より、公共工事の効果的な整備とコストの削減、さらには資源のリサイ クルが必要とされる情勢であります。今回の取り組みであるライムケーキの活用は、資源 の循環より今後も継続して取り組む課題でもあります。 地域資源の循環形成により、持続的な農業の展開が実現し、耕畜農家の連携と製糖業及 び関係機関の積極的な取り組みがあってこそ資源リサイクルが可能となることも確かです。 私たち建設工事に携わる一員としては、今後も創意と工夫を重ね、作業効率の向上と高 品質な施工管理を目指し積極的な取り組みを行い、地域に喜ばれ、地域の目指す現場の施 工を行っていきます。
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